カバー

『親しき仲にもエッチあり』

いつも4人で集まって遊び、ダブルデートも当たり前なトモと夏凜・寛治と涼子のカップル2組は親友同士でもある。
ありふれた日常が続いたある日、ムードメーカーの寛治が突飛なことを言い出した。
「俺はお前らとのスワッピングを申し出る!」
自分の彼女である涼子との関係に新たな刺激を求める寛治は、安心安全な関係性の親友同士で恋人交換がしたいとのこと。
トモの彼女の夏凛は拒絶するも、経験を積んで大人になれと寛治に諭され、悩みつつも了承をする。当の涼子はスワッピングを通して更にみんなと仲良くなれると乗り気で、トモはみんなを止められず流されてしまう……。
各々の思惑と身体が絡み合った男女4人の行き着く先は――!?

4人の友情は愛を超えるか?
親友同士の恋人交換×青春スクランブル!

  • 著者:懺悔
  • イラスト:Suruga
  • 本体価格:1,200円+税
  • ISBN:978-4-8155-6516-9
  • 発売日:2023/3/30

  • [店舗特典]
  • ●メロンブックス様:SS付きポストカード
  • ※メロンブックス様の特典SSの内容はそれぞれ別種のものになります。
  • ※それぞれの特典は店舗様にて無くなり次第終了となります。
  • ※電子書籍版には上記全ての特典は含まれません。
  • 電子書籍版限定の特典もございます。

タイトルをクリックで展開

 僕の恋人がよく口にする言葉がある。

「早く大人になりたい」

 彼女の容姿は贔屓目抜きに見ても洗練された可憐さを持ち合わせている。生まれつき明るめの色の長い髪が風になびくさまは、まるでシャンプーの広告を思わせた。性格は確かに少し嫉妬深いところがあるが、それ以外は同年代の女子と比べて幼いというわけでもない。

 きっとそれは彼女の向上心の強さなのだろう。僕は彼女のそういうところを尊敬している。だから彼女に告白された時、ほとんど考える事もなくその申し出を受け入れた。

 つまり付き合いだした当初に僕が彼女に抱いていた気持ちは恋愛感情とは少し異なっていた事になる。

 しかし尊敬は敬愛に。そして敬愛はすぐに愛情へと移り変わっていった。今では僕が彼女の横顔をなにげなく追う事が多い。

 桐乃夏凛。

 それが僕の恋人の名前である。

 名は体を表すというが、どちらかといえば彼女に似合う季節は冬だと勝手に思っている。厳しい寒さの中、降り積もる雪などなんのそのと力強く咲き誇る花。

「単に冷たくて素っ気ないからそう思うだけじゃねーの?」

 中学からの友人、中垣寛治はそう指摘する。

「夏凛がそんな態度を見せるのは幼馴染の寛治に対してだけだよ」

 僕はそう反論する。

 確かに夏凛は常よりもやや人付き合いはドライな気がする。しかしそれはよく知らない間柄での話であって、仲が深まれば深まる程に彼女の情の深さに気づかされる。なにより彼女の手の平が温かい事は、僕がこの世界で誰よりも知っているのだ。

 彼女が僕のどこを好きになってくれたのかは実のところ謎に包まれている。例えば寛治は平均的な身長である僕よりも一回り大きく、運動も得意で、性格も気持ちの良い日本晴れのような男だ。当然異性同性問わずに人気がある。そういう人間がモテるのはわかる。だから僕は一度夏凛に尋ねてみた事があった。

「寛治とは幼稚園から一緒なんだよね?」

「そうね」

「そんな長い間一緒にいて、彼に男としての魅力を感じた事は無いの?」

 今思うとデリカシーの無い問いだったと反省している。

 ともかく夏凛は端正な目鼻立ちを苦虫を噛み潰したような表情で濁して舌を出した。

「うげっ。冗談でもやめてよね。気色が悪いったらない」

 夏凛は続けて言う。

「あいつったら幼稚園の砂場で遊んでるあたしの背中に毛虫を入れたのよ?もうそれ以来あいつの顔を見ると苛立ちしか湧かないんだから」

「夏凛が寛治について語るエピソードは他も似たようなものですね」

「ふふ。あの二人らしいじゃない」

 お淑やかに笑うのは西原涼子先輩。

 寛治と恋人関係にある、僕らとは一つ学年が上の先輩である。

 大人っ『ぽい』だとか大人『びた』とかいう言葉が陳腐になるほど、その成熟された容姿や懐の深い物腰は一学年以上の差を感じさせられる本物の『大人』だ。

 黒いボブヘアーに、包容力のありそうな目尻がやや垂れた大きな瞳。いかにも気が強そうな夏凛とはまた違った独特の目力を持っている。

 ただの推測だけれど、夏凛の「早く大人になりたい」という口癖は彼女が涼子先輩に憧れているからではないか、と考えている。

「なんであんな素敵な人が寛治なんかと……」

 夏凛はよく不思議そうにそんな事を言うからだ。

「ああ見えて可愛いところあるのよ。ね?トモ君」

 夏凛が訝しんでいると、涼子先輩はそうやって僕に理解を求めてくる。

 彼女の上目遣いはどこか妖艶で、まるで魔女のようにミステリアスだ。そんな雰囲気に気圧されて僕は無難な返答しかできない。

「そうかもしれませんね」

「ま、夏凛ちゃんはトモ君以外の男の子なんて眼中にないんだろうけど」

「そ……それは……当たり前じゃないですか……」

 夏凛は顎を引くと頬を赤らめてモニョモニョと小さな声で言った。

 その様子を見て寛治が腹を抱えて笑う。

「だーはっはっは。あの夏凛が恥じらってやがる!お前も乙女だったんだな!あぁん?」

 夏凛は黙って寛治の太ももの裏に膝蹴りを喰らわせる。

「なにすんだこのアマ!今度は背中にムカデ入れたるぞ」

 夏凛はその言葉を無視して、ツンと明後日の方向を向いている。

「まぁまぁ」

「はい。どーどー」

 僕と涼子先輩はもはや阿吽の呼吸で犬猿の仲の二人の間に割って入る。

 この二人は普段からこうなのだ。かといって本気で仲が悪いわけでもない。兄妹のように育ってきた二人なので互いに遠慮が無いだけなのだ。

 僕らの学校帰りは大体いつもこんな感じである。

 なんとなくグループ交際のような体になっているのは、僕と夏凛がくっつくのを寛治と涼子先輩が陰ながら応援していてくれた影響だけではない。

 僕らはこの四人組がとても居心地がいいと感じていたんだ。

 皆でワイワイとオレンジ色が照らす道を歩いていく。

 僕はこのままもう少しだけ子どものままでいたかった。

 でも心と身体は勝手に成長して、新しい事にも興味を抱いて挑戦をしたがる。

 その結果、大きな怪我をしても僕らは何度でも立ち上がるだろう。

「なぁ。トモは将来何になりたいんだ?」

 寛治が何の脈絡も無く聞く。

「トモはね、植物学の学者さんになりたいんだから」

 僕が答える前に夏凛が我が事のように胸を張って答えた。

「お前には聞いてねえよ」

「あんたみたいな頭の中まで筋肉な男とは違うのよ」

「いいんだよ。俺はその辺涼子とバランス取ってんだから」

 寛治は体育教師への道を目指し、涼子先輩は医学部に進む事が決まっている。

「あんたね、ちゃんと涼子先輩って言いなさいよ!なんかむかつくのよ!」

「もう三年も付き合ってんだからタメ語でいいだろが!」

 二人は一通り言い合うと、寛治は夏凛に問うた。

「大体お前はどうすんだよ。俺らの中で進路が決まってないのお前だけだろ」

「あたしは……」

 そう言って黙り込んでしまう。

 大人になりたい。

 そうは言わなかった。

 彼女が自分の未来に願望を持ちつつも、明確なビジョンを持てていないのは僕も感じていた。そんな夏凛の手助けをしたいと思っていても、僕には何もできない。それが恋人として歯痒い。

「ほらトモ。お前からもなんとか言ってやれよ」

「まだ焦るような時期でも無いよ。ゆっくりと考えればいいさ」

 僕がそう言うと、夏凛は安心したように僕の制服の袖を掴んだ。

 その後、僕達は各々のカップルに別れて帰途についた。

 短い階段で丘を登ったところにある小さな公園。そこが僕と夏凛の憩いの場所だ。寛治達にも秘密のスポットで、二人きりになりたい時はいつもここに来る。遠くに見える海岸線に西日が沈んでいく様子はまるで溶けた飴のようだった。

 街を一望できる景観はなんとも爽快なのだが、同時に自分がとても小さい存在のようにも思えてくる。

 お前はまだ何者でもないんだぞ。

 街からそう言われているような気がするのだ。

 足元から吹き上がった緩い初夏の風が夏凛の髪を掻き上げる。彼女はそれを片手で抑えながら、どことなく遠い場所を見つめながら言う。

「あたしね、トモとここに来ると安心するんだ」

「どうして?」

「一人だと少し怖いの。『お前は誰だ?』って街に聞かれているみたいで」

「……そっか」

 僕も一緒の事を考えていたよ、なんて陳腐なセリフは口にはしなかった。ただ照れ臭かっただけかもしれない。

 その代わりに手を繋ぐ。

 すると夏凛が安心したように言う。

「こうしてると胸を張って言い返せるの。この人の恋人だよって」

 僕が黙って聞いていると、夏凛は気恥ずかしそうな笑みを浮かべて僕に向き直る。

「でもそれじゃあトモに依存してるだけみたいになっちゃうね。ちゃんと自分自身の事を言えないと駄目だよね」

「だから早く大人になりたい?」

「…………そうかもね。大人になったら『何か』に成れてる気がするから」

 そう口にする夏凛の手は温かかった。

 僕にできるのは彼女の中に灯る火を守ることだけだ。

 僕は魔女のように夏凛にカボチャの馬車とガラスの靴を用意する事はできない。

 きっと僕らが大人になる為には、転んで怪我をしたり、崖を飛び越えようとして落ちたり、そんな経験が必要なのだろう。

 その時、僕は彼女の手をこうして握っているべきなのだろうか。

 それとも立ち上がる時だけ手を貸すべきなのだろうか。

 そんな事もわからないまま、陽が沈んでいく。

 頼りない街灯が照らす二人きりの公園で、僕らは何度かキスをした。

 唇を重ねる度にくすぐったそうに綻ぶ夏凛はとても愛らしくて、この場で抱きしめたくなる。そんな情念を我慢して、家に帰ろうと提案する。もう辺りはすっかり暗くなっていた。

 夏凛は公園を後にする時に少し後ろ髪を引かれるような表情でもう一度街を見下ろしていた。

「モデルなんてやればいいのにね」

 涼子先輩が唐突にそう言う。

「なにがですか?」

「夏凛ちゃん」

「確かに街を一緒に歩いてるとよくスカウトされますね」

「でしょ?すごく似合ってると思うな」

「本人はそういう勧誘される度にすごく嫌がってますけどね。やる気はゼロみたいですよ」

「えー、勿体ない。あんなスラっとしてて。すごく羨ましいなぁ」

 そんな会話を交わしながら僕達は部屋に戻る。

 僕の手には涼子先輩が淹れてくれたコーヒーを乗せたお盆。涼子先輩はお茶菓子を持っていた。

 週末の昼下がり。僕達は涼子先輩の家に集まって試験前の勉強に勤しんでいる。涼子先輩の両親は仕事でほとんど海外にいるので、涼子先輩は実質一人暮らしのようなものだった。彼女のしっかりした一面はそうした日常生活からも培われてきたのだろう。

 ともかくこの立派な家は、僕らの溜まり場としてよく使われているのだ。

 涼子先輩が僕の先を歩き、階段を上っていく。

「ごめんね手伝ってもらって」

「いえ。お邪魔してますしこれくらいの事当たり前ですから」

 僕はそう言いながらそれとなく視線を少し横に逸らしながら彼女の後を追う。

 目の前には形の良い、それでいて肉感豊かな桃尻が微かに左右に揺れていた。タイトなスカートを穿いているものだから、その真ん丸さが非常に煽情的である。

 僕はついついその臀部に魅了されそうになるが、恋人がいるという矜持によって自制心を保ってなるべく視界に入れないようにしている。

 こうして僕らが集まって勉強をすると、大体余裕ができるのが僕と涼子先輩になる。まぁ涼子先輩は一つ年上であるし、医学部志望なので当然といえば当然だ。僕も学校の勉強はできる方なので、僕と涼子先輩で夏凛と寛治に教えるのがいつもの流れになっている。

 夏凛と寛治がテキスト片手にうんうんと頭を悩ませている間に、僕と涼子先輩でお茶を用意するのも慣例となっていた。

 その度に階段で涼子先輩の蠱惑的な後ろ姿を見せつけられるのは僕にとっては一つの精神修行のようなものだ。

 見てはいけない。見たとしても欲情してはいけない。

 僕は夏凛の彼氏なのだ。

「捗ってる?」

 室内の二人に問いながら涼子先輩は自分の部屋に入る。僕はその後に続いた。

 中では相変わらず穏やかとはいえない空気が漂っていた。

「この単語の意味、なんだったかな~……あ~わかんね」

 寛治が頭を掻きむしりながらブツブツと独り言を言う。

「うるさいから静かにして」

 夏凛は寛治の方に見向きもせずに冷淡に言い放った。

「嫌なら出てけよ」

「あんたの部屋じゃないでしょ」

 寛治が口を尖らすとおちゃらけた口調で煽る。

「俺の彼女の部屋です~。お前よりかは立場は上です~」

「なにその理屈。意味わかんない」

 涼子先輩と僕はいつもの事だと、もう仲裁もせずにテーブルの上にコーヒーと茶菓子を置いた。

「ちょっと休憩しようか」

 涼子先輩がそう言いながら腰を下ろす。

 僕らはテーブルを中心に車座で座った。

 涼子先輩の部屋は非常に彼女の内面を表していた。無駄なものは一切置いておらず、それでいて決して殺風景ではなくお洒落なインテリアや小さな観葉植物が彩っている。そしてなにより、良い匂いがした。

 夏凛も一時期この部屋の真似をしてみたそうだが、どうにも調和が取れずに諦めてしまったらしい。自分にはまだ早い。そう肩を竦める彼女の笑顔は不思議なものでどこか清々しさも感じた。

「はぁ……」

 その夏凛がため息を吐きながらチョコの包装紙を解く。

「そんなに疲れた?」

 僕がそう尋ねると彼女は首を横に振った。

「あたしだけ皆と違ってちゃんと進路を決めてないからさ、何のために勉強してるんだろうって思うとなんだか徒労感がすごいんだよね」

 早く大人になりたい。でも何かになりたいわけでもない。

 ありふれた思春期の悩み。

 寛治が口を挟む。

「モデルでもやっとけ。おじさんとおばさんに感謝しろよ。見てくれだけはそこそこいい感じに産んでくれたんだから」

「『でも』だなんて。そんな生易しい世界なわけないでしょ。あたしなんて……」

 夏凛はどちらかといえば気の強い女性なのに、どういうわけか自己評価が低いような気がする。そのアンバランスさが僕の保護欲を掻き立てる。

「夏凛ならきっとどんな場所でもやっていけるよ」

「本当にそう思ってる?」

 夏凛が僕の目をじっと覗き込む。

 僕はその宝石のような瞳を真正面から受け止めながら頷いた。

「……だったらいいけど」

 夏凛は微かに頬を染めると、テーブルの下で僕の指にそっと自分の指を重ねた。

 その行為はテーブルに隠れて彼らには見えなかったはずなのに、こういう時の寛治はどういうわけか目敏い。

「人の彼女の家でイチャついてんじゃねーよ」

 ニヤニヤしながらそう言った。

 夏凛はむしろ反抗するように僕の手を強く手の平で握る。

 涼子先輩は穏やかに微笑みながらコーヒーに口をつける。

「こーら寛治君。二人を茶化さないの」

「へいへい」

「手なら私が後で握ってあげるから。ね?」

「そりゃどうも」

 軽い調子でそう返しながらも、寛治からは照れ臭さが隠しきれていなかった。それを見逃さない幼馴染の夏凛ではない。

「なに恥ずかしがってんの。気持ち悪っ」

「あ~ん?誰が恥ずかしがってるって?」

 寛治は涼子先輩の肩に手を置くと、自らの方に引き寄せて身体を密着させた。それは明らかに夏凛の挑発に対して見せつける行為だった。

 寛治の頬は微かではあるが確かに紅潮している。対して涼子先輩は特に動じた様子もなく可笑しそうに微笑んでいるだけだ。

「んなっ!」

 突然の寛治の蛮行に夏凛は舌を巻く。

 そして横目で僕をちらりと見上げると、すすすっと肩を寄せてきた。寛治への対抗心による行為である事は言うまでも無い。それでも僕は寛治に感謝する。

 夏凛は耳まで真っ赤だった。

 普段から人前でスキンシップをするようなタイプではないし、付き合って一年にも満たない。その上僕らはどちらも初めての男女交際だったのだ。

 勢いでやってしまった事とはいえ、夏凛にとってはかなり大胆で勇気の要る行動だったのだろう。

 僕の肘に当たっている夏凛のスレンダーな肢体からは想像もできない豊かな乳房から、ドキドキと緊張の鼓動が伝え聞こえてくる。

「無理しなくていいんだぜ」

 どちらかといえば優勢な寛治がニヤニヤしながら言う。

「別に無理なんかしてないし。普段通りだし」

 どちらも(特に夏凛が)意地っ張りなのでお互いに譲らない。

「そっちは俺らと違って付き合いも短いんだからさぁ」

「はあ?れ、恋愛に時間の長さとか関係無いし!」

 こんな風に二人が仲良く口喧嘩するのを、僕と涼子先輩が温かく見守る。それが日常であった。

「お前らはまだまだ子どもなんだよ」

「なっ……」

 夏凛がなにかしら反論しようとすると、寛治が涼子先輩のおでこに軽くキスをした。

 夏凛も負けじと目を閉じて唇を突き出してきたが、全身がぷるぷると震えている。顔が真っ赤で無理をしているのが一目瞭然だ。

「いや頑張って対抗しなくていいから」

 そんな彼女の額をそっと押し戻して、頭頂部を軽く撫でる。

 やはり夏凛は少し悔しそうだった。薄くも血色の良い唇を真一文字に結って、僕をジト目で見上げている。

 そんな僕らを見て、涼子先輩が愛しいものを見るようにクスクスと笑っていた。

「トモ君と夏凛ちゃんは本当可愛いね」

「涼子の方が可愛いよ」

 寛治が今度は涼子先輩の頬にキスをしようとする。

「わかったわかった」

 涼子先輩は柔和な笑顔のまま、寛治の肩を押し返す。

 寛治はどこかラテン系というか、情熱的な愛情表現を恥ずかしげもなく露わにする。それを涼子先輩が大和撫子らしく優しく諫めるのが二人のいつものやり取りである。

 僕と夏凛はそんな二人に触発される事も少なくない。僕達は恋愛経験も少ないので、無意識の内に身近な手本を参考にしている節はある。

 涼子先輩がニコニコしながら口を開いた。

「テストが一段落したら四人で遊びにいこうね」

 僕らは頻繁にダブルデートをする。下手をするとそれぞれのカップル単独でデートをするよりも回数が多いかもしれない。

 最初こそはデートに不慣れな僕と夏凛の手解きに寛治達が協力してくれていただけにすぎなかったのだが、今では単純に一緒にいて楽しいからという理由で遊ぶ。

 誰かが一人でも欠けたらピースが埋まらない。そんな四人組になっている。

 もちろん恋人同士なのだから、二人きりになりたいという時もある。なので普通のデートだってちゃんと欠かしてはいない。

 でもやはり僕と夏凛二人だけだとまだ少しぎこちない部分がある。会話が途切れて気まずくなったりする。そんな時どうしたらいいか寛治に聞いたら、そんな沈黙すら楽しむものだと教えてもらった。その領域にはまだまだ僕らは達していないようだ。

 そんな僕らでも、一年弱も一緒にいたらするべき事はしている。

 初めてのキス。

 そしてその先も……。

 どちらも衝撃的で、記憶に新しい。

 夏凛は僕の価値観を大きく変えてくれた。

 僕はそんな夏凛に強く感謝の念を抱いており、今まで恋愛に疎かった僕は一時期成績を落とす程すっかり彼女に魅了されていた。

 幸運な事に夏凛も僕の事を好いてくれている。

 好きな人が自分の事を好きでいてくれる。

 たったそれだけの事が奇跡のように思える毎日だった。

 寛治が自分の事を誇らしげに言う。

「今でこそ人の彼女の家でイチャつく位に成長したけど、本当に夏凛は奥手で大変だったんだからな。どれだけ押しても全然トモに告白しねーんだから」

 そんな寛治に夏凛は舌を出す。

「うるさい!別にあんたの手なんて借りてないから!あたしが相談してたのは涼子先輩だし」

 二人が言い合う平和な一幕をオカズにコーヒーを啜る。幸せである。

 そんな折、ふと涼子先輩に視線が向く。僕は不自然さを覚えた。

 何だか妙に顔が赤い。

 先程寛治に肩を抱かれたからか?

 いや、その程度で赤面するような人ではない。余裕という概念が服を着て歩いているような人だ。

「涼子先輩。熱でもあるんですか?」

「ん?いや別にそんな事ないよ」

 涼子先輩はそう言うと僕に言葉を返した。

「トモ君こそ少し顔が赤いよ?」

 え?僕も?

 そういえば少し心拍数が高いような気がする。手汗が滲んでいた。頭もぼうっとする。風邪だろうか。

 気が付けば寛治と夏凛の言い合いも白熱している。それもいつもとは違う熱を帯びていた。

「お前がトモと付き合えたのは俺のおかげ!」

「違う!あんたの意見なんて参考にしてなかった!」

 寛治はやけにご機嫌な様子だし、夏凛は妙にヒステリックで目に涙まで浮かべている。

 なんだか皆の様子がそれぞれ少しずつおかしい。

 僕も思考回路が上手く回らなくなってきた。

 そんな中、たまたま手に持っていたチョコ菓子の包装紙に目をやる。

『※アルコール入り』

 え。

 僕はチョコが入っていた箱を隅々まで目を通す。すると一つの事実が浮かび上がる。

「先輩。これウィスキーボンボンです。しかも度数高めです」

「……え。嘘」

 僕と先輩は横を見る。

「それにしてもこのチョコ美味しいな」

 寛治がそう言いながらぽいぽいとチョコを口の中に放り込んでいく。

「あたしだって~、一生懸命さ~」

 夏凛に至っては泣き上戸になりながらパクパクと頬張っていた。

「あちゃー」

 涼子先輩はそう言うと、僕に向かってウィンクしながら舌をちょっと出した。

「ごめん。親から貰ったの、海外のお土産だったみたい。ちゃんと見てなかった」

 涼子先輩からそんな茶目っ気たっぷりの謝罪をされたら、怒れるものも怒れなくなる。とてもチャーミングだった。

 視線を寛治と夏凛に戻すと二人はすっかりと出来上がっていた。

「だからお前たちは駄目なんだよ」

「はー!?あんたに説教される覚えは無いんですけどー!」

 その口ぶりの粗さは、まるで場末の酒場で口喧嘩している社会人である。

 まぁもともと普段からこんな感じとはいえばこんな感じだが、やはり酩酊による影響は感じさせた。

 というか二人ともお酒弱すぎだろう……。確かにウィスキーボンボンにしては強い部類のアルコール度数ではあるが。

 寛治が拳を振るって熱弁する。

「恋人ってのはな、いついかなる時もアグレッシブにお互いの熱を冷まさないようなチャレンジの精神を忘れちゃならねーんだ」

「そんなもの無くてもあたしとトモはラブラブだし!」

 二人ともムシャムシャとチョコを食べながら喧嘩めいた議論を続ける。

「いーや。お前のところはまだまだ子どもだよ。お子ちゃまの付き合いだ」

「そんな事ないし!大人の男女交際してるし!」

「どうせセックスもおままごとみたいに慎ましく抱き合って終わりだろ」

 ブチッ、と何かが切れた音が夏凛のこめかみから聞こえた。

 そして数個のチョコを豪快に口へと放り込むと、酔いに任せて声を響かせる。

「トモのエッチはそんな弱々しくないもん!」

 週末の昼下がり。陽光は麗らかだった。

 すっかり泥酔の夏凛は抗議の意味を込めて机をばんばんと叩き、机の下から足を伸ばして寛治を繰り返し蹴っていた。

「あたしの事はいいけどね、トモの事を馬鹿にしたら許さないんだから!」

「俺はなぁ、トモじゃなくてお前の方を心配してんだよ」

 寛治に至っては呂律が怪しくなっている。

「あ、あたしの何が心配なのよ……」

 寛治はビシっと夏凛の顔を指さした。

「ずばり、お前は精神年齢が低いんだよ!」

「うっ」

 コンプレックスを直撃されて夏凛は胸を押さえた。

「トモに告白するまで……いや、告白してからも俺達におんぶに抱っこ」

「ううっ」

「涼子に憧れてるのも自分が幼いって事を自覚しての裏返しだろ」

「うううっ」

 よくわからないが夏凛が劣勢らしい。

 そんな夏凛が駄々をこねるように声を張り上げる。

「じゃ、じゃああんたはどんな大人の恋愛してるのよ」

 寛治はふふんと鼻を鳴らした。

「そりゃあもちろん色々考えてるさ」

「何を考えてるってのよ!」

 夏凛は口調こそ喧嘩腰だが興味津々だ。

「いいか?俺達はもう三年以上も付き合ってるんだぞ。その中には倦怠期と呼ばれるような時期だってあった。そんな時に俺は閃いた。結局実行はしなかったけどな」

「なにそれ……」

 寛治はサムズアップして答える。

「ずばりスワッピングだ!」

 隣で涼子先輩が懐かしそうに頷いている。

「そういえばそんな話をした事もあるわね~」

 夏凛は僕の肘を突いて小声で聞いてくる。

「……ねぇ。スワッピングってなに?」

「えっと……だから」

 僕が返答に窮していると、寛治が代わりに答えた。

「スワップは交換だろ?つまり二組のカップルのパートナーをそれぞれ交換してセックスしちまうってわけだ」

 夏凛が酔いに加えて赤面する。

「そ、そんなの不健全よ!不健全!意味わかんないし!」

 フォローするように涼子先輩が口を挟む。

「倦怠期の頃に二人で話し合ったらそういうアイデアが出たってだけで、結局してないわよ」

 酔っているとはいえ夏凛には刺激が強すぎる話だったのか、理解が追い付いていないようだった。そんな彼女を置いてけぼりにして寛治が勢いよく立ち上がって拳を握る。

「あの時は相手がいなかった。でも今は最高の条件を持った相手がいる。一緒にいて楽しくて、信頼ができて、秘密を共有できる親友達が!」

 僕は思わず尋ねる。

「もしかして僕達の事を言ってる?」

「他に誰がいる?トモよ!いや親友よ!」

「ちょちょちょちょちょちょっ!ちょっと待ちなさいよ!」

 思わず夏凛も身を乗り出す。

「それってつまり……えっと、その……トモと涼子先輩がして……あたしとあんたがするって事?」

「然り!」

 寛治は腕を組んでふんぞり返った。

「絶対やだ!」

「俺だって嫌だわ!たとえ親友が相手でも涼子とセックスするなんて」

「はぁ?なにそれ。矛盾してるじゃん」

「しかし大人になる為には、時には茨の道を進むような挑戦が必要なんだよ」

 その言葉に夏凛は息を呑む。普段から『大人』という言葉に執着する夏凛は何か思うところがあったようだ。

 寛治はさらに畳みかける。

「ぶっちゃけ俺はお前じゃ勃たん!」

「……興奮されてもキモイんだけど。なんかムカつくわね」

「しかし!痛みを伴わずに成長した男がいただろうか。いやいない!」

「へー。あたしとのセックスはあんたにとって『痛み』なわけだ……」

 夏凛は怒りのあまりに口端をひくつかせていた。

 寛治の足取りはもはや酔拳のようにふらついている。

「よって!俺はここにお前らとのスワッピングを申し出る!」

「いえーい。ぱちぱちぱちぱち」

 ずいぶん大人しく見守っていたなと思っていたが、涼子先輩もだいぶ酔っているらしい。雄弁に語る寛治を楽しそうに囃し立てていた。先輩……酔うと結構悪ノリしちゃうんですね。

「ちょっとちょっと。先輩は止めてくださいよ。僕一人じゃ収拾つきませんよ」

「ん~?」

 慌てる僕の制止にも、何が何だかよくわかっていない様子で首を傾げている。駄目だ。この部屋で理性を失っていないのは僕だけだ。

 寛治の暴走は止まらない。

「へいへい。まさかビビってるのか。あの夏凛さんがよぉ」

 夏凛を挑発し続けている。

「ビビってるとかそういう話じゃないでしょ!」

 夏凛もそれに乗っかってしまっている。

 寛治と夏凛はまるで睨み合う不良のように対峙して接近している。少なくとも寛治も夏凛も手を出すような人間ではないからそこだけは安心して見ていられる。しかし放置もできずに、僕は夏凛を後ろから軽く抱き着くように羽交い絞めにする。

「お前はいつも困ったらそうやってトモに助けてもらうんだな」

「違う!あたしは自立した人間に……っ!」

 その時、僕の脳裏にあの公園で聞いた夏凛の言葉がフラッシュバックする。きっと夏凛も同じだったのだろう。彼女は言葉を途中で呑み込んだ。

『こうしてると胸を張って言い返せるの。この人の恋人だよって』

『でもそれじゃあトモに依存してるだけみたいになっちゃうね。ちゃんと自分自身の事を言えないと駄目だよね』

 夏凛の頭に浮かんでいるのは僕の恋人というアイデンティティと、確たる将来像も無い自分。

 それを恥じるように顎を引いた。

 その隙に寛治が続ける。

「俺はお前の知らない大人のセックスを知ってる。お前を大人にしてやれる」

 その言葉は僕の頭に銃弾を撃ち込んだ。

 大人にしてやれる。

 僕は夏凛にそう胸を張って言ってあげる事ができない。

 きっと夏凛も大きな衝撃を受けているだろう。下唇を噛んで、両手を握っている。

「……あ、あんたにそんな心配される覚えは無いわよ!」

「それくらいの刺激が無いとお前も成長しないだろ」

「それが余計なお世話だって言ってんの!ていうかそれっぽい屁理屈並べて、あんたがそういう事したいだけでしょ!うちらを巻き込まないでよ!」

「あのなぁ、お前だってわかってるだろ?このままボケーっと歳を重ねれば大人になれるのか?違うだろ?何かの壁をぶち壊して前に進むしかないんだよ」

「なんでその壁が恋人の交換なのよ!馬鹿!アホ!マヌケ面!」

「これは俺だけの意見じゃない。涼子だって同意見なんだぞ」

「えっ……涼子先輩が?」

 その名を出されると途端に夏凛の声のトーンが下がる。

 夏凛と共に視線を涼子先輩に向けると、朗らかな微笑みを浮かべていた。

「私としては別に絶対にそういう事をしたいってわけじゃないんだけれど。寛治君の言う事も一理あるかな、って説得されちゃった感じかな」

 涼子先輩は夏凛にとって大人の象徴である。

 その象徴が、スワッピングが大人への階段を上る一つの方法である事を認めてしまっている。その事実は夏凛の頭を揺らがせただろう。

 涼子先輩は続ける。

「でもほら。やっぱり相手が問題だなってなって、その話は凍結されてたの。でもよくよく考えると夏凛ちゃん達が相手なら理想かなとは思った。灯台下暗し」

「……で、でも、だからって……」

 夏凛はそれでも抵抗を続ける。

「やっぱり幼馴染だから考え方も似てるのかな。寛治君も大人って概念にコンプレックスがあるみたいなの。恋人の私が年上だからっていうのもあるのかな」

「そうだ!俺はガキだ!」

 口を挟む寛治を夏凛が睨む。

「知ってるわよ!あんたは黙ってなさい!」

 そんな二人のやり取りを涼子先輩は愉快そうに見守る。

「ふふ。まぁとにかく、寛治君も大人になりたいんだって。その心意気自体は応援しないとなって。スワッピングに賛成かどうかは別にしてね」

 そこで不意に涼子先輩と僕の目が合う。

「それに、トモ君相手だったら嫌悪感は無いけどね」

 そんな事を言う。

 涼子先輩の話を聞いて夏凛は黙り込んだ。

 幼馴染の寛治も自分と同じような悩みを抱え、そして正しいかどうかは別にしても積極的に成長の道を探ろうとしている。それに引き替え自分は漫然とした日々を送っていた。

 僕の恋人の横顔には、そんな葛藤が鮮明に浮かんでいた。

 僕はどうだろうか。今の自分のままで、彼女と共に成長できる恋人たる資格はあるのだろうか。

 寛治は諭すように言う。

「夏凛。よく考えろ。互いを踏み台にして高め合うんだ。それは俺達だけの話じゃない。トモだって大きく成長できるチャンスなんだ」

「……どういう意味よ」

「お前が理想として憧れている女は誰だ?涼子だろう?その涼子と一線交える事でトモも大きく成長する」

 何を言ってるんだ。僕もいよいよ本格的にアルコールが回ってきたのか頭がクラクラする。

「…………」

 夏凛は黙って聞いていた。

「トモが成長すれば、それはお前の成長にも繋がる。刺激し合える恋人になれる!そうだろ?」

「そうなの?」

 夏凛が振り返って僕に尋ねる。

「いや、どうだろう」

「ちっ、勢いで押し切れなかったか。流石だな、トモ」

 寛治は残念そうに舌打ちした。

 そんな彼の脛を夏凛が無言で軽く蹴る。

「でも俺は本気でそう思ってるぜ」

 その言葉が嘘ではないのは僕も夏凛も理解している。寛治は直情的で短絡的ではあるが、少なくとも友人に嘘をつくような人間ではない。

 僕は一つ大きく息を吐いて、皆に問う。

「あのさ、まず確認したいんだけど、皆自分が酔ってるって自覚ある?さっき食べてたチョコ、結構強めのアルコール入ってたんだけど」

 まず寛治が答える。

「ああやっぱりか。なんか身体が熱いと思ってた」

 次に涼子先輩が元気良く片手を上げる。

「はーい。わかってまーす」

 最後に夏凛だけが訝しそうに独り言ちた。

「え、嘘……。そういえば頭がいつもよりカッカしやすいかも」

 僕はそんな彼らを諫める為に口を開く。

「話の正当性はともかく、そんな状態で話し合うような事じゃないと思うな」

 寛治がすぐさま反応した。

「いや、こんな馬鹿げた事は素面じゃできん。酔ってるなら丁度いい。勢いに任せてパパっと済ませちまおうぜ」

「そんなババ抜きをやるわけじゃないんだから。それと涼子先輩」

「なに?」

「先輩は本当にそれでいいと思ってるんですか?寛治が夏凛とセックスして、先輩は僕とセックスするんですよ?」

「うーん…………」

 涼子先輩は顎に人差し指を添えてしばし天井を見つめると、視線を僕に戻した。

「私はね、寛治君とは別の意味で面白いかなって考えてるよ」

「どういう意味ですか?」

「私ね、この四人組が大好きなんだ。だからぐちゃぐちゃってかき混ぜちゃったら、もっと仲良くなれるんじゃないかって思うの」

「その為ならセックスのパートナーを交換してもいいと?」

「正直な話、私は身体の繋がりってそこまで大事じゃないと思ってるから。恋愛は心でするものじゃない?」

「それはそうかもしれませんが……」

 かといって肌の触れ合いもやはり恋愛の醍醐味だと思うのだが、涼子先輩に気圧される形で僕は口を噤んだ。

「……恋愛は心……身体は別……」

 夏凛が涼子先輩の言葉を呟くように反芻していた。

 そして目を伏せていた夏凛が僕に向き直り、口を開く。

「ねぇトモ。あたしわかんなくなってきちゃったよ」

 迷う必要は無いんだ。

 きっと僕が君を大人にしてあげる。

 そう力強く宣言できる根拠が僕の中には無かった。

 夏凛は戸惑いながらも期待している。

 自分を高みに連れて行ってくれる何かを。

 あの丘の公園よりも、もっともっと高い場所へ。

 その後どういうやり取りがあったのかはよくわからない。誰も何の説明をせずに、それでもなんとなく雰囲気に流されるように僕らは非日常への扉を開いた。

 大体は酒の所為だ。そう自分に言い聞かせながら、僕も歩みを進める。目的地もわからずに。

「ほら、トモ君。こっちおいで」

 涼子先輩が僕の腕を引っ張って部屋を出る。

 どうもいつの間にか、夏凛と寛治が涼子先輩の部屋でして、僕と涼子先輩がリビングでする流れになったらしい。

 廊下に出て扉を閉める前に、夏凛の後ろ姿を見た。彼女は必死に振り向かないようにしていた。少しでも僕と目が合うと、覚悟が揺らいでしまう。彼女の背中がそう語っていた。

 それでも我慢できないといった様子で彼女は僕に語り掛けてくる。

「トモ……あたし、きっと大人になるから。涼子先輩と同じくらい大人になって、トモの隣を歩ける立派な女性になるから」

 その口調はやはり呂律がちょっと怪しかったが、彼女の心の底からの言葉である事に疑いの余地は無かった。

 その言葉を受けて、涼子先輩が僕に耳打ちする。

「じゃあ私は、そんな夏凛ちゃんに負けないくらいトモ君を大人にしてあげないとね」

 そして部屋の扉を半開きにしたまま廊下を歩いていく。涼子先輩の足取りは僕とは対照的に軽かった。

 廊下を進んで階段を降りるとそこはもうリビングだ。軽く二十畳以上はあるだろうか、広々とした空間に、ベッドとしても使用できそうな幅の広いソファがくの字で置かれている。

 僕は不思議と緊張していなかった。ただでさえ感情が顔に出づらい気質なので、無表情でカーテンを締めている涼子先輩の背中を眺める。

「さっきも言ったけどさ」

「はい」

「あの二人は似てるんだよ。まるで兄妹みたい。何かの儀礼を通過すれば大人になれるとどこか本気で思ってる」

「違うんですか?」

「トモ君はわかってるんでしょ?」

 涼子先輩はカーテンを締めきると僕へと振り返る。両手を後ろに回してカーテンを握っているので、身体の前面が非常に開放的だ。タイトなブラウスとスカートは、彼女の身体のラインをよく表していた。遮光されてちょっと薄暗くなったくらいではその豊満な胸の膨らみや、くびれた腰から丸まった腰の曲線が見えなくなるわけではない。むしろより妖艶に映った。

 僕は涼子先輩のそういった一面を普段からなるべく意識しないようにしていた。

「……わかりません」

 だから流されてしまった。

「トモ君は頭がいいからわかってるはずだよ」

 涼子先輩はカーテンから手を離すと、スカートのホックを外した。嘘のようにするりとスカートが床に滑り落ちる。

 タイツを召した美脚がなんだかとてもエロティックに見えた。僕の知っている唯一の家族以外の女体といえば夏凛のもので、彼女の脚はとても細くて長い。脚を閉じても股間の下に隙間ができてしまう。しかし涼子先輩の太ももはむっちりとした肉感を纏っており、僕の喉は急に乾きを覚えて生唾を飲みこんだ。

「なんだか恥ずかしいね。トモ君にこんなところ見られるなんて」

 なんて普段通りに涼しげな表情と声色でそんなを言う。

「本当に恥ずかしがってます?」

 タイツの奥には大人びた刺繍の入った白いショーツが見え隠れしている。僕はなるべくそちらではなく涼子先輩の顔を見るように努めた。

「恥ずかしいよ。トモ君がチラチラ見てくるから」

 僕をからかうような微笑みを見せる。

「す、すみません……」

 僕は顔を真っ赤にして顔を横に向けた。

「でも良かった。興味を持ってもらえたようで。仏頂面で何の視線も感じなかったらどうしようかと思った。ふふ」

「……健康的な男子ですから」

「でも夏凛ちゃん以外には関心無いでしょ?」

「それは先輩だって同じでしょ。寛治以外に色目を使うんですか?」

「あはは。無いね」

「……そんな僕らがセックスしてもいいものか、いまだに判断がつきかねます」

「流石は私達四天王で最強の常識人だね」

「茶化さないでくださいよ」

 僕は苦笑いを浮かべる。涼子先輩があまりにも普段通りに自然体だから。

「さっきも言った通り、その辺は私の価値観がちょっと一般的じゃないのかな。セックスってそこまで大した事なのかなって思っちゃう」

「大した事です」

「まぁまぁ。ね。こっち来て」

 僕はいつまでも半裸の先輩を放っておいて棒立ちでいるわけにもいかず、先輩に誘われるがままに彼女の前に立つ。その一歩一歩の振動で心臓が震えた。

 身長は夏凛と同じくらいだろうか。平均よりもやや高いくらい。ただ鼻腔をくすぐる芳香は全く違うものだった。同じ甘さでも夏凛が白桃とするなら涼子先輩は乳製品のような匂いがする。

 今まで匂いの違いなんて気にした事もなかったが、先輩のミルクティーを連想させる匂いに頭がうっとりとさせられる。

 先輩は両手で僕の手を取ってじっと見つめた。

「寛治君よりも優しい手だね」

「あいつの方が大きいでしょ。バスケやサッカーのキーパーも得意だし」

「うん。それに彼の方がゴツゴツしてるね」

 つまり寛治の手の方が男らしいというわけだ。

 そしてその手が今、夏凛の身体をまさぐっているかもしれない。

 そう考えると僕の足の裏は途端に床を踏みしめている感覚が無くなって、なんとも頼りない居心地に陥ってしまう。

「寛治君と夏凛ちゃんが気になる?」

 そんな僕の胸中を見透かしたように優しい笑みを浮かべる。

「涼子先輩は気にならないんですか」

「めちゃくちゃ気にしてる」

「そんな風に見えませんよ」

「本当だよ。だって私、寛治君と夏凛ちゃんにはもっと仲良くしてほしいから。でもやっぱり前言は撤回しようかな」

「というと?」

「セックスは大した事だね。ちょっと……ううん、だいぶ胸がざわつく」

「先輩も常識人で良かったです」

「まぁでも……始めちゃったものは仕方ないし、こっちはこっちで頑張ろっか」

 頑張る。

 その表現がしっくりきて僕は笑ってしまう。

 現実感は皆無のままだが、このまま僕は涼子先輩と、親友の彼女とセックスをするらしい。それも自分の恋人が親友とセックスをしている一つ屋根の下で。

 それを自然と楽しめるような度量なんか無い。頑張らないといけないのだ。

 かといって自分から積極的にペースを握ろうという気にはならなかった。それは罪悪感にしてもそうだし、単純に年上の女性を相手にしてどうすればいいのかわからなかったのだ。

 そんな中、涼子先輩の方から動く。

「ねぇ、折角だし触ってみて」

 涼子先輩が握った僕の手を股間へと導いたのだ。

 折角だし、という言い方がなんだかいかにも涼子先輩らしいな、なんて悠長に僕は考えながら彼女の陰部を触った。

「どう?夏凛ちゃんと違う?」

「……そうですね。そもそも夏凛はタイツを穿かないですから」

 初めて触るタイツの触り心地はサラサラとしていて、これが大人なのかと密かに感動していた。

「他には?」

 涼子先輩が珍しく恥ずかしそうに聞く。そこには微かな不安すら混じっていた。

「他は……一緒です。温かくて、柔らかいです」

 本当はもう一つ夏凛と全然違うなと思った箇所があったが黙っていた。

 それは腰つきである。

 涼子先輩も夏凛に負けじと痩せている方だが、骨盤がしっかりしている。丈夫な赤ちゃんを沢山産めそうなその腰回りは、何だか僕を欲情させた。

 寛治はこんな腰と肌を合わせているのか。そんな事を考える。独占したいと思わないのだろうか。そうとも考えた。

「なに考えてるの?」

 涼子先輩が上目遣いで尋ねてくる。

「そういえば寛治は昔から独占欲に乏しい男だったな、と」

 飲食店に行っても何でもシェアしたがるのだ。

『俺のこれ美味しいから食べてみろよ』

『お前のそれ一口頂戴』

 涼子先輩も身に覚えがあるそうで、くすくすと笑う。

「だからといって恋人までシェアさせるなって話だよね」

「全くです」

 そう言いながら先輩の股間をくにくにと触り続けている。

「……あんまりそこばかり触られるのは恥ずかしいかも」

 涼子先輩が頬を赤らめてくすぐったそうに笑う。

「すいません」

 僕は慌てて手を引っ込める。

 すると涼子先輩はブラウスのボタンを上から一つずつ外していった。焦らずに、ゆっくり、淡々と。

「トモ君はいつも通りすごい冷静だね」

「そんなわけないでしょう。心臓バクバクですよ」

 ボタンを外し終わった涼子先輩が僕の胸に手の平を当てる。

「あ、本当だ。ドキドキしてる。でもあたしのがドキドキしてるよ」

「本当ですか?」

 涼子先輩は僕を茶化すようにニッと笑う。

「触って確かめてみなよ」

 ボタンは全部外れていた。

 ショーツとお揃いの大人びた白いブラジャーが押さえつけている乳房は、はちきれんばかりの豊かさで僕を圧倒させる。

 夏凛は夏凛で細身に似合わぬ美巨乳なのだが、涼子先輩のそれはもう気圧される程に大きい。僕は無意識に喉を鳴らしていた。

「あれ、もしかして焦らしてる?」

「そんな高等テクニックは使えません」

「じゃあほら、遠慮なく」

「親しき仲にも礼儀ありと言いますか……」

 先輩は笑顔のまま再び僕の手を取ると、それを胸に押し当てようとする。

 僕は人形のように無抵抗で従った。

 どんどんと指先が魅惑の谷間に迫る。

 ぷよん。

 指がついに乳肉に到達した。その際の感触はアルコールなどよりも余程僕の頭をぐるぐると酩酊させる。

 その柔らかさは、僕がいかに未熟で世界の事を何も知らない若者なのだと痛感させるものだった。

 胸の触り心地などどれも大して変わらないと僕は思っていた。所詮はただの脂肪の塊だとタカを括っていたのだ。しかし夏凛と涼子先輩の胸は大きな差異があった。

 夏凛のそれをプリンのような弾力の塊とすると、先輩のはスライムのような柔らかさだ。

 肌の触り心地も違う。夏凛はすべすべしていたが、先輩はしっとりとしていてさらにモチモチしている。触ると指の腹が吸い付くようなもち肌だ。

「どう?どう?」

 涼子先輩があまりに無邪気な様子で聞いてくる。センシティブな事をしているという雰囲気が薄れ、僕も思わず答えてしまう。

「とても……素敵です」

「なにそれ」

 涼子先輩がおかしそうに笑った。

 しかし本当に僕は感動すら覚えていたのだ。おっぱい一つでも一人一人にこうも個体差が出るものなのか。そして先輩のそれはまず間違いなく極上にランクづけされるものであった。

「夏凛ちゃんのと比べてどう?」

「……勘弁してくださいよ」

「トモ君は大きい方が好き?」

「そういえば寛治は巨乳派でしたね」

「あ、誤魔化した」

 涼子先輩はくすくす笑いながら、何事も無かったかのようにブラジャーのホックを外す。あまりに自然にさらりと外すので、僕は思わず目を疑った。

 ブラウスを着たままなので全体像は見えないが、夏凛のお椀型とはまた違った釣鐘型の乳房はとにかく圧巻の一言だった。

 そして僕の目を惹き付けるのはそのド迫力のボリュームだけではない。

 とても綺麗な乳輪。夏凛のそれはくっきり桜色だが、涼子先輩は色素が薄い。乳輪と肌の境目が曖昧になっている。

「変じゃないかな?」

 僕は慌てて首を横に振った。

 涼子先輩が楽しそうに笑う。

「珍しい。トモ君のそんな焦った姿」

「そりゃあ平常心じゃいられませんよ」

「後で寛治君に自慢しよ。あのトモ君を驚かせたよって」

 そう言うと彼女は再び僕の胸に手の平を当てた。

「さっきよりドキドキしてる」

 僕はいつの間にか喉がカラカラで上手く返事ができなかった。

「私もさっきよりドキドキしてるけど」

 そして涼子先輩は僕をからかうように言う。

「確かめてみる?」

「しかしそれは……生のおっぱいを触るという事になりませんか」

「生のおっぱい触ってみるって聞いてるんだけど?」

 僕は膝が笑っているのを誤魔化すので精一杯だった。涼子先輩の身体がいちいちエロくて惹き込まれてしまっているのも確かだが、なによりも僕を困惑させるのは親友のカノジョの身体を触っているという禁断の行為による背徳感だった。

「……本当に触りますよ」

「どうぞ?」

 涼子先輩はニヤニヤしながら胸を張った。

「……僕だって健康的な男子なんですからね」

「結構結構」

 覚悟を決めねばならない。目の前に最高の据え膳がある。

 しかしそれ以上に僕は罪の意識を覚える。

 誰にって?

 もちろん夏凛にだ。

 しかしそんな苦悩を吹き飛ばすような一言が涼子先輩の口から紡がれる。

「今頃寛治君も、夏凛ちゃんのおっぱい揉みしだいてるだろうし」

 頭の中で何かがぷつんと切れそうになった。

 寛治の僕より男らしい大きくてゴツゴツした手が、夏凛の美巨乳を鷲掴みにしている。そんな事を考えると背中が痒くなって仕方がなかった。

 僕の心拍数はいよいよ最高潮に達していた。まるで初めての合戦でもみくちゃにされている若武者だ。

 もうどうとでもなれと僕は先輩の胸部に手を伸ばす。

「やんっ」

 僕は右手で左胸を正面から鷲掴みするように、その大きな乳房を触った。

 夏凛の胸はギリギリ手の平に収まらないが、涼子先輩のそれはもう勝負にすらならない。圧倒的な質量だった。

 そして手の平全体に伝わる柔らかさはまさに母性の包容力。

 むにゅりと指が沈み込んでいく。

 どこまでも。どこまでも。

 底が見えない乳肉による海。

 どれだけ荒っぽく揉みしだいても受け止めてくれそうな慈しみの塊。

「ね?ドキドキしてるでしょ?」

「わ、わかりません……」

 モチモチした柔肉が厚すぎて心音が聴き取れない。

「ていうかトモ君って、そういう触り方するんだ」

「へ、変でしたか?」

「ううん。でもちょっと驚いた。なんていうか、野性的?」

「すいませんっ、痛かったですか?」

 僕が慌てて手を離そうとすると、涼子先輩が両手で優しく包み込むように引き留める。

「ううん。痛くないよ」

 そして仄かに頬を赤らめながらも、いつも通りの気さくな笑みを浮かべて言葉を続けた。

「トモ君の好きなように触って良し」

 僕の右手はすっかり先輩のもち肌による爆乳の虜になっていた。理性では夏凛に悪いから早く離さないといけないと思いつつ、身体は意識と乖離して胸に指を立て続けている。

「ほら、もう片方も空いてるけど?」

 そう言うと先輩はブラウスの襟をちらりと浮かせて、右胸の方を見せつけてくる。

 僕は花に誘われる蝶のようにフラフラと左手も右胸に伸ばした。

 こちらの方は正面からの鷲掴みではなく、下から持ち上げるように揉む。

 ずしりと重い。重すぎる。大きめなメロンくらいは余裕である。

 少し揺らすと手の中でぷるんぷるんと派手に揺れた。

 視覚でも触覚でも僕を魅了する。

 そして僕を興奮させるのは胸だけではない。

「んっ……」

 先程まで余裕綽々だった先輩が、目を瞑って悩ましげな吐息を漏らしたのだ。

 両手に幸せの感触。

 耳に届くのは普段の頼りになるハスキーボイスとはかけ離れた、弱々しい乙女の囁き。

 僕はいよいよ本格的に頭が眩んできた、

 一体何をしているんだ。相手は寛治のカノジョだぞ。

 でも僕のカノジョも寛治と今頃こんな事をしているのか。

 そう思うと涼子先輩のふくよかな胸を揉みしだく手つきに力がこもる。

 むにゅむにゅと餅をこねるように無心で揉む。

 気がついたら僕は夢中になっていた。

 涼子先輩がくつくつと笑う。

「トモ君も立派な男の子だったんだね。安心した」

「なんで先輩が安心するんですか」

「その調子で夏凛ちゃんの前でも狼になってるんだなぁって。ほら、夏凛ちゃんってああ見えても好きな人の前では奥手でしょ?トモ君の方からがっつくくらいが丁度いいのよ」

 その言葉はなんともすんなりと僕の臓腑に滑り落ちていって、心に安定をもたらせてくれた。

 涼子先輩はこのスワッピングについて、二つの動機を表明していた。

『寛治に説得されたから』

 そしてもう一つ。

『皆でもっと仲良くなれると思ったから』

 最初は荒唐無稽な理由だと思った。しかしこうして涼子先輩が僕をより近くで観察すると、夏凛との仲のアドバイスが可能になるのだろう。

 涼子先輩には下心や他意は無く、スワッピングを経て僕ら四人の一体感を深めたいという願いが本当にあるのかもしれない。

 手が止まっていた僕に、先輩が部活のコーチのように声を掛けた。

「ほら、積極的。積極的」

 僕の意識が少し変化する。性的な行為をしているというよりかは、なにかしらのトレーニングかカウンセリングを受けているような感覚が芽生えた。

 涼子先輩に促されるまま、僕は右手で胸をこねくり回しながら左手を再び股間へと伸ばした。

 二度目に触った先輩の陰部は、ショーツとタイツ越しでもはっきりわかるくらいにぐっしょりと濡れていた。

 涼子先輩と目が合うと、彼女は気恥ずかしそうに笑みを浮かべて小首を傾げる。

 いつも僕達を静かに見守ってくれている大人びた涼子先輩が、僕の前戯で濡れている。その事実は僕の心拍数をさらに加速させた。

 僕は胸を揉む右手で乳首を掴み、左手は中指の腹で衣服の奥に潜む陰唇をなぞるように前後に動かした。

 くちゅ、くちゅ、くちゅ、と控えめながらも粘り気を伴った摩擦音が聞こえる。

「んっ、あっ……あぁ……」

 涼子先輩は僕の肩に手を置いて、蕩けるような声を上げた。

 うっとりしたような目で僕を見上げる。

「……すごく上手ね」

「自分ではよくわかりませんが……」

「夏凛ちゃんも言ってるよ。エッチの時、トモ君がすごく優しいって」

「……そんな事まで話してるんですね」

「あら、男子組はそういう事話さないの?」

「案外ありませんね。初めての時に、寛治がコンドームを分けてくれたくらいです」

「あはは。寛治君ったらお節介なんだから」

 涼子先輩は嬉しそうにそう言う。

 そして会話がひとしきり終わると、リビングに再び淫靡な摩擦音が響き渡る。

 くちゅ、くちゅ。

「んっ……ふぅ……」

 タイツから漏れ出る粘液がさらに量を増し、指を離すと糸を引く程になっていた。

「やばい、ね……」

 涼子先輩の照れ笑いは益々弱々しく、そして可憐になっている。

 彼女は僕の肩に額を軽く預けると、自嘲するように言った。

「あーあ。寛治君以外で濡れちゃうとか。浮気だ。尻軽だ」

 どこか冗談交じりのその言葉は、隠しきれない罪の意識が感じ取れた。

「ただの生理現象ですよ」

「フォローありがと」

 そう言うと先輩は右手をそっと僕の股間に添える。

 言うまでも無く僕は勃起していた。衣服に押さえつけられて痛いくらいだった。

「これもただの生理現象?」

「もちろんです」

 僕らは笑い合うしかないかった。

 なんだか不思議なやり取りだった。すごくドキドキしているのに、日常の延長でしかないような空気で会話をしている。

 涼子先輩がそのまま服の上から股間を手の平で擦ってくる。

「うっ……」

 その快感に僕は思わず腰を引いた。

 他人に触られる異質な刺激に見舞われる。それが他人の恋人であればなおさらだ。

「なんだか……」

 頭がビリビリと痺れる中、僕は何とか口を開いた。

「ん?」

 涼子先輩は肩に額を乗せたまま聞き返す。

「こうして服の上から触られるのは初めてなので、すごく変な感じがします。じれったいというか」

「夏凛ちゃんはこう触らないの?」

「僕達は、その……いつもお互い全裸になってから始めるので」

「なんだか二人っぽいね。真面目というか」

「ただぎこちないだけですよ。他にやり方を知らないだけなんで」

「夏凛ちゃんと初めてしたのは三か月前くらいだっけ?」

 女子同士の情報網はそんなところまで網羅していたらしい。

「まぁ、そうですね」

「じゃあ経験不足なのは仕方ないよ」

 涼子先輩はさばさばした口調で言葉を続ける。

「私達で練習しちゃえばいいのよ。ほらほら。続けて続けて」

 僕が動き出す前に涼子先輩が先手を取る。

 ファスナーを下げると、なんとそこに白魚のような指を差し入れて勃起した男性器を取り出したのだ。あまりにも手際が良く、抵抗の言葉を口に出す暇も無かった。きっと寛治とする時も同じ事をよくするのだろう。

 僕は勃起した性器を見られた所為で耳まで真っ赤になった。何しろ勇猛に反り返って血管まで浮き上がらせている。はしたないにも程がある。

「恥ずかしい?」

 涼子先輩が問う。

「当たり前です。夏凛に見られるのだってまだ慣れてないのに」

「ふふ。そうだよね」

 僕は今にも震えそうな声で涼子先輩に尋ねる。

「……いつか夏凛に見せるのも慣れるもんなんでしょうか」

 先輩の返答はあっさりとしたものだった。

「慣れる慣れる。寛治君も最初は恥ずかしがってたけど今では自分から脱いでどうだこれと言わんばかりに見せつけてくるもの」

「そこまでいくと恥じらいが無さ過ぎる気もしますが……」

「でしょ?だから『雰囲気大切にしろ』って指で弾いてやるの」

 それともう一つ。僕は気になっていた事を聞いた。

「……あの、もうついでなんで聞くんですが……」

「なになに?」

「僕のって、変じゃないでしょうか?その、形とか大きさとか。夏凛も僕が初めてだったので、お互いの性器が普通なのかどうなのかわからなくて」

「私も別に詳しいわけじゃないからなぁ……。でもまぁこんなもんなんじゃないの?寛治君のと大差無いように見えるけど」

 そう言うと涼子先輩はむき出しになった僕の男性器をスマートに手で包み込んだ。

 背筋に電流が走る。乳房の表面と同じくしっとりとした感触。思わずそれだけで射精してしまうのではないかと危機感を覚える。

「包皮も剥けてるし、清潔な感じだし。うん。いいんじゃない?強いて言うなら寛治君より反り返ってるかも。あとは寛治君の方がちょっと長くて太いかな?」

 平然とそんな事を言う。

「……ありがとうございます」

 なぜかわからないがお礼を言う僕。

「あはは。なんのお礼?」

 当然のツッコミである。

「品評、のですかね」

「でもやっぱり恥ずかしそうだね。ヒクヒクしてる」

「まぁ……はい」

「よし。可愛い後輩にだけ恥ずかしい思いはさせられないね。私のも見ていいよ」

 なんてあっさりと言うものだから僕もつられて間の抜けた返事をしてしまう。

「はぁ。そういうものですか」

「脱いでるところを見たい?それとも脱がしたい?」

「そ、そんなのわかりませんよ」

「エッチ中に優柔不断はNGだよ。それじゃあ脱がす練習しよっか」

 当たり前の話だがすっかりと主導権を握られてしまっている。僕は流されるままに練習生となった。

「……じゃあ脱がしますね」

「うむ。苦しゅうない」

 僕はショーツの両端に親指を掛ける。

「お、タイツごと一気に脱がす派なんだ?」

「え、おかしいですか?」

「ううん。別に。意外と大胆だなって思っただけ」

「一度に全部脱がした方が合理的だなって思っただけです」

「トモ君っぽい理由だね」

 そんな会話を交わしつつ、僕はショーツをタイツと一緒に下げていった。なるべく涼子先輩の股間は意識せずに、ゆっくりと、それでいて一気に膝下まで下げる。

「……こんな感じでどうでしょうか?」

「うん。いいんじゃない。って何がいいのかよくわかんないけど。あはは」

 涼子先輩はそう言いながら、中途半端に脱げていたショーツとタイツを自ら脱ぎ捨てた。最後まで僕が脱がすつもりだったので、涼子先輩のその行動はイレギュラーだった。なので中腰だった僕は不意を突かれる形で涼子先輩の股間を目の前で観察してしまう事となる。

 彼女の陰部は全く毛が生えてなかった。ツルツルで、綺麗な割れ目が前方からでもくっきりと見えた。

 あまりの衝撃で僕が静止していると涼子先輩が笑いながら股間を両手で隠す。

「そんなじっと見られたら流石に恥ずかしいんだけど」

「す、すみません。不測の事態があったもので」

「なにそれ」

「あの、その……毛が……」

「ああ。私ってもともとほとんど陰毛が生えてないのよ。それでちょろっとだけ生えてるのも格好悪いから剃ってるの」

「そ、そうですか」

「初めてだった?パイパンのおまんこ見るの」

 あの大人びた涼子先輩の口から、『パイパン』と『おまんこ』という語句が出たのが僕の頭を揺さぶる。アッパーカットを喰らったような衝撃だ。

「……はい」

「じゃあ、じっくり見てもいいよ」

 涼子先輩はまるで新しいネイルを見せるかのように両手をどけて、無毛の恥丘を僕に開放してくれた。

 剃り跡も無い、剥き玉子のような肌。そして一本筋の通った割れ目。ちょこんと可愛らしい桜色のクリトリス。そのすべてが僕の視線を誘惑する。

 陰毛が一切生えていない性器は無垢の象徴となりがちだが、先輩のそれは成熟した妖艶さを放っていた。その中でも気になったのは、小豆程度のクリトリス。もちろん夏凛のものも目にした事はある。

 しかし僕達がする時は絶対電気を消すし、なにより夏凛には人並み(がどの程度かはわからないが)に陰毛が生えているのでちゃんと目にした事が無かった。

「クリトリスに興味津々って感じだね」

 涼子先輩がニヤニヤしながら言う。

 僕は声も出せずに、ただ小さく頷いた。

「触っていいよ」

 おどけた調子で涼子先輩がそう言う。

 僕はふらふらと熱病に冒されたように彼女の股間に指を伸ばす。

 くちゅ。

 指が触れた瞬間に水音が鳴る。ぬるぬるしている。そしてなにより温い。

「んっ……」

 涼子先輩が目と口を閉じて、ビクっと肩を震わせる。

「……いいよ。そのまま好きに弄って」

 僕は言われたままに、涼子先輩の愛液に濡れたクリトリスを指の腹で擦る。

「あっ、んっ……ん」

 涼子先輩が感じている。その表情はいつものサッパリとした性格の彼女からは想像もできない程に潤んだ乙女なものだった。

 しかし涼子先輩はすぐさま笑顔を作り、僕に立ち上がるよう促す。

「やられっぱなしは性に合わないわね」

 そう言って僕のズボンのベルトを外し、そしてズボンとボクサーパンツを脱がした。

 僕はそうされている間、次に何をされるかをわかっていた。その期待で男根が痛む程に勃起する。

「ビキビキって音が聞こえてきそう」

 涼子先輩がくすくすと笑う。

「……すいません」

「別に謝らなくていいよ。男の子男の子」

 あやすようにそう言うと彼女はその綺麗な手で僕の男性器をそっと触れるように包み込む。僕の鈴口からは我慢汁がすでに分泌されていて、それを見られるのがとても恥ずかしかった。

「じゃあ触り合いっこしよっか」

 涼子先輩のその言葉を合図に、僕らは互いの性器を刺激し合い始めた。

 僕はクリトリスを指の腹で撫で、涼子先輩はシコシコと男根を扱く。

 互いの手がくちゅくちゅと淫らな音を立てる。

「寛治君と夏凛ちゃんも今頃、こうやって仲良く触り合いっこしてるかな?」

「……あんまり想像しづらいですね。こんな穏やかじゃなくて、ギャーギャー言い合いながら乱暴に触り合いしてそうな気がします」

「ふふ。同感」

 不思議と嫉妬は無かった。僕が涼子先輩とすでにこうしているからなのか。それとも寛治への信頼なのか。

 不思議なもので、僕ら四人がパートナーを交換してこうやって肌や性器を触り合うのはごく自然な事のように思えたのだ。

 それは罪悪感の相殺からくる感情なのか、それとも単純に絆の深さによるものなのかは判断がつかない。

 ともかく僕は先輩のクリトリスを優しく弄り回す。

「あっん……はぁっ、あっ、あっ」

 息遣いが浅くなる涼子先輩に僕は尋常ではない興奮を覚えた。

「や、すご……おちんちん、まだ硬くなってるじゃない」

「先輩がそういう声出すの、想像もしてなかったので」

「ふふ。エロかった?」

「はい」

 涼子先輩も負けじと男根を扱く。しっとりとした手の平と指の腹が、優しく男性器を擦り上げた。そこに我慢汁が加わり、僕の背筋を駆け上る電流でもう立っているだけで限界な程だった。

 シコシコ。

 クチュクチュ。

 僕らはそれぞれの手とそれぞれの性器でいやらしい音を奏でる。

 カーテンが閉め切られたリビングは、真昼間なのでそこまで薄暗くもない。

 丁寧な生活をしているであろう涼子先輩の心地良い匂いの中で僕は至福の快楽を味わっていた。

 そんな折、涼子先輩が顔を上げる。

 じっと僕の目を見つめてきた。釣り目がちな夏凛とは真逆の目尻の垂れた大きな瞳。年下の男なぞ赤子の手を捻るように魅了する宝石。

「ついでにキスもしちゃおっか?流石にそれはまずいかな」

「ちゃんとルール決めてませんでしたね」

「でも……」

 言い淀む涼子先輩に、僕が言葉を付け加える。

「やっぱりキスは無しじゃないですか」

「だよね」

 いくら遊びの延長のような性行為とはいえ、超えてはいけない一線はある。

「じゃあ舌だけでしよっか」

 舌だけを触れ合わせる。僕の乱れた思考回路が一生懸命にそれはキスではないのかと議論を交わす。結果として僕はそれを受け入れた。

「唇は触れ合わせちゃ駄目だよ」

 そう言いながら涼子先輩が舌を差し出してくる。ピンク色の舌。

 僕は涼子先輩の忠告を守るように、慎重に舌先だけを接触させるように舌を伸ばした。

 チョン、と触れ合う。

 温かい。ヌルヌルしている。そして独特の柔らかさと弾力。

 くにゅくにゅとナメクジの交尾みたいに舌先だけで突き合ったり、絡ませ合ったりする。

挿絵1

 そしてそのまま性器も擦り合う。

 なんてエッチなんだ。僕の浅い異性経験が台風に放り込まれたように粉々になっていった。

「……これって、本当にキスじゃないんですよね?」

「私的には違うと思うけどトモ君的にはどう?」

「……判断が難しいところです」

「でも気持ち良くない?」

「それは異論ありません」

 会話の際には、僕と涼子先輩の舌先には唾液の糸が橋のように掛かっていた。それがなおさら官能的に感じられた。官能的すぎて逆に確かにキスとは別の何かだなと思わされる。

 再び舌だけを絡め合う。

 唇だけは絶対に絶対に触れ合わせないように。

 頭の中では嫉妬でこちらを睨んでいる夏凛の顔が浮かんでいたが、あまりに涼子先輩の舌が心地良い為に何もかもがドロドロに溶けていく。

 当然その興奮に従って我慢汁も止め処なく分泌され、涼子先輩の細い指を粘液だらけにする。

 涼子先輩の愛液も内腿を伝って床まで垂れていた。

 ポタ、ポタ、とフローリングの床を僕らの体液の雫が濡らしていく。その中には唾液も混じっていた。

 レロレロと舌先だけの交接を続ける。

 僕は右手で涼子先輩のクリトリスを摘まみながら、左手で胸を鷲掴みにしていた。

 互いの吐息が直接鼻に掛かる距離で僕らは目を細めて見つめ合う。

 そこには情念も無く、恋慕も無い。

 しかし確かな友愛が確立されていた。

 舌を伝って涼子先輩の唾液が口内に入ってくる。まるで果糖のように甘い。それを飲み干してもいいものか悩んでいると、先に涼子先輩の喉が何かを嚥下した。僕はその後を追うように彼女の唾液を飲み干す。

 食道とその先の胃が温かく感じる。

 かつて夏凛とこんな官能的に唾液交換をした事があっただろうか。

 自分達がまだまだ未成熟だった事を痛感する。

 それにしてもこれは本当にキスではないのだろうか。しつこいぐらいに自問自答するが答えは出ない。ただこのまま続けると、いずれ涼子先輩の唇が欲しくなる事は自明の理だった。

 涼子先輩の少し厚めの唇はゼラチンの塊のように、見るからにぷるぷるしていた。

 このままこの舌キスを続行するのは危険。

 そう感じた僕は顔を離す。さっきよりも濃く唾液の糸が舌先同士で引く。その光景だけで男根がビクンと跳ねた。

 涼子先輩はどうして止めたのだろうかと視線で訴えかけてくる。

 僕はそれを誤魔化す為に少し前傾姿勢になると、両手を彼女の肩に置いてそのままするするとブラウスを脱がしていく。

 これで涼子先輩は一糸まとわぬ姿となった。

 夏凛のようなモデルめいた細身ではないが、まるで彫像のように均整の取れた肢体。起伏に富んで、丸みを帯びた雌としての完成された体型。

 僕は改めて目を奪われた。そこにはもちろん性的興奮も覚えたが、それを超える神々しい美をも感じられたのだ。

 そして僕は前傾姿勢のまま、涼子先輩の乳首へと口を寄せていく。まるで恒星に引き寄せられる惑星のように。

 はむ、と乳首を口に含む。

「んっ」

 涼子先輩が可愛げで溢れた声を漏らす。

 舌で乳頭を舐め上げた。

「やっ、あっ」

 さらに円を描くようにこねくりまわす。

「はぁっ……あんっ」

 そしてチュウ、と音を立てて吸う。

「あぁ、だめっ……」

 僕の舌遣いは決して技巧に優れたものではないだろう。それでも涼子先輩は僕の舌が乳頭に触れる度に、肩をびくびくと震わせていた。

 涼子先輩の乳首はとても甘美で、このままずっと吸っていたいという願望を脳裏によぎらす。しかしそれ以上に僕を誘惑させる部位があった。

 そう、割れ目がくっきりと見えている陰部である。

 抗えない磁力に引かれるように、僕は膝を床について頭の位置を下げていく。その際に彼女の胸の谷間や腹部に口づけをしていく。その行為は前戯というよりかは完璧な美に対する敬意だった。しかしそれも綺麗に縦に割れたヘソまで。そこで僕の口づけが止まる。

 ここで問題が発生した。というか思い出した。僕にはクンニをした経験が無い。

「……どうしたの?」

 不安で動きが一瞬停止していた僕に、涼子先輩が声を掛ける。

 僕は正直に答える事にした。この期に及んで嘘をついても仕方が無い。

「……あの、クンニした事なくて。しかも立ってる女性を」

「え、そうなの?駄目だよ。ちゃんと夏凛ちゃんの隅から隅まで愛してやんないと」

 上から頭頂部を冗談っぽくポコスカ叩かれる。

「……はい。至極ごもっともです。いつもした方がいいのかなと思いつつも、いざその時になると恥ずかしくて言い出せなくて」

「なるほど。じゃあちゃんと次はトモ君の方から優しくリードしてあげなよ?」

「わかりました」

「ん。よろしい。じゃあクンニも私で練習しちゃいなさい」

「一体どうすれば」

 僕は涼子先輩の割れ目を目の前にして聞く。彼女は僕が喋る度にくすぐったそうに腰をくねらせていた。きっと僕の吐息がクリトリスに当たっているのだろう。小豆程度のクリトリスはもう包皮が剥けてビンビンになるほど勃起していた。

「ん~、といっても人によってツボは違うからね。やっぱり手堅いのはクリトリスを舐める事かな。愛情表現として大陰唇を舐めるのも有りだと思う。それも優しくね」

「わかりました」

「さっきさ、乳首舐めてたじゃない?基本はあんな感じでいいわよ」

 涼子先輩はまるで保健の授業のように教えてくれる。

 僕は言われた通り、乳首を舐めるような感じで目の前のクリトリスを舐める。まずは下から上へと下の腹全体を使って舐め上げた。

「あんっ」

 涼子先輩が腰を引かして甲高い声を上げた。

 遠ざかった腰を引き寄せる為に、両手で涼子先輩の臀部を軽く握る。そこでも僕は夏凛との違いにびっくりする。夏凛のヒップはツンと上を向いた可愛らしくも引き締まった感じなのだが、涼子先輩はまさしく桃尻と呼ぶべきたっぷりとした肉付きをしていた。しっかりした骨盤といい、こういうのを安産型というのだなと感心する。

 とにかく乳肉とはまた違う柔らかさと弾力を誇る尻肉を鷲掴みにして引き寄せると、今度は舌の先端でクリトリスをぐりぐりと突く。

「あっ、あぁっ」

 僕の頭を掴んだ涼子先輩の両手に力が入り、僕の髪の毛をくしゃくしゃにする。とても感じているようなのでぐりぐりを続ける。

「あっ、いぃ……いっ、いっ……それ、駄目……」

 涼子先輩の声がより愛らしく、そしてか細くなっていく。

 僕はここで変化球として、無毛の割れ目に舌を這わせる。

 正面から舐められる範囲を終えると、僕は先輩に声を掛けた。

「もうちょっと脚を開いてもらっていいですか」

「……ん、うん……」

 先程まで淡々と僕をレクチャーしていた声はどこかか弱い。

 脚を開いてもらうと、両手の親指を大陰唇の外側に添えて割れ目を開かせた。

 すると桃色の花弁が咲く。

 まさに目と鼻の先なので、尿道や膣口までもがはっきりと見える。すべてが綺麗な桃色だった。

「そこまでされてガン見されると……流石に恥ずかしいかも」

「すみません。夏凛はここまで見せてくれないので。つい……」

「今度頭下げて誠心誠意お願いしてみなよ。好きな人の身体は隅から隅まで見たいよね」

「はい」

 涼子先輩の美に見蕩れながらも今度はちゃんと夏凛の、自慢の恋人の性器を見せてもらおうと心に誓ってクンニに戻る。

 ビンビンに勃起してコリコリしたクリトリス。それを円を描くように舐める。

「やあっ、あっあっ、はぁっん……」

 しばらくクリトリスを放置したのが奏功したのか感度が上がっている。

「トモ君……上手だよ」

 息遣いを浅くしながらそう言ってくれる。

 涼子先輩の言葉や蕩けていく息遣いが僕に自信を与えてくれた。色んな事を試してみようという気概に溢れる。今度はクリトリスにキスをする。ちゅ、ちゅ、ちゅ。

「あっ、あっ、あっ」

 その度に涼子先輩はビクビクと震えた。

 今度はクリトリスを口に含んで吸う。

「んんんっ…………っくぅ……」

 涼子先輩の声が苦しそうになり、僕の頭を掴む手が強張る。

 すると涼子先輩が慌てた様子でぽんぽんと僕の肩を叩いた。

「攻守交替!攻守交替!」

 涼子先輩は僕の手を引っ張って立ち上がらせる。

 そして入れ違うように彼女が腰を下ろして膝立ちになった。

 僕の槍めいた男性器が涼子先輩の目の前にある。

「ほら、こんな目の前で見られると恥ずかしいでしょ?」

 涼子先輩はからかうような笑みで僕を見上げる。その頬は紅潮していた。

「そりゃ……まぁ」

 僕は顔を逸らして誤魔化したが、本当は両手で股間を隠したいくらい恥ずかしかった。そんな僕の内情をくすぐるように涼子先輩は声を出して僕の男性器をじっと見つめる。

「じーーー」

「勘弁してくださいよ」

「勘弁してあげない」

 そう言うと、涼子先輩は不意打ちっぽく僕の亀頭にキスをした。

「わわっ……」

 思わず腰を引きそうになったが、先程の意趣返しと言わんばかりに涼子先輩の両手で臀部を掴まれてしまう。

 彼女が屈んだ時に何をされるかを予測すべきだったのだが、生憎と僕の頭は常に真っ白のまま行為に及んでいる。

「こら。逃げちゃ駄目でしょ」

「すすす、すいません……つい」

 涼子先輩のゼリーみたいなぷるぷるの唇が亀頭に触れた。それだけでもう天国に昇りかけた。

「これからもっと気持ちいい事するんだから」

 そう言いながら彼女は僕を見上げつつ、舌先で鈴口を舐める。

「ぐっ、ううぅ、うっ」

 脳天に落雷めいた衝撃。

「あはっ。おちんちんバッキバキだよ。すごくビクンビクンって震えてるし。もしかしてトモ君ってフェラチオ大好き?」

「…………です」

「え?」

「……された事、無いです」

「……あら~……マジで?」

「そういう話は夏凛とはしないんですね」

「流石に生々しすぎるからね」

 今にも精液が漏れ出しそうな緊迫した事態だが、なんとなく間の抜けた空気が流れる。

 涼子先輩が気を取り直す風に口を開いた。

「じゃ、じゃあさ、じゃあさ、トモ君が一足先に大人の階段上っちゃおう。体験したら夏凛ちゃんに教えてあげられる事とか見つかるかもしれないし」

「そ、そうですね」

 本当にそれでいいのかと自問自答する。

 しかし僕の男性器はもう涼子先輩にフェラチオされる事を期待して青筋まで浮かべている。やっぱり結構です、などと言えるような状態ではなかった。

 涼子先輩は耳に掛かった髪の毛を掻き上げつつ、僕の顔を覗き込みながら言う。

「ここは嫌だとかそういうのあったら遠慮なく言ってね」

 そして舌を大きく出して、舌の腹で我慢汁を舐め取るように裏筋を舐めた。

「うっ」

 それだけでビクンと男性器が跳ね上がる。

「あはは。暴れん坊さんだね」

 涼子先輩はそのまま唇を突き出して、肉棒の裏側にキスしていく。

 ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。

 その度に男性器がビクビクと揺れ、僕は射精欲に堪える為に歯を食いしばった。

 彼女の口が睾丸まで達する。

 これから何をされるか予想もつかなかった。

 すると涼子先輩は舌を伸ばして睾丸を優しく撫でる。未知の感覚に僕の肩が強張った。そして痛みを与えない絶妙な力加減の舌の腹で睾丸を持ち上げたのだ。

 睾丸を女性の舌に乗せられている。それだけでもアンモラルな蜜が頭の中で溶けだしそうなのに、涼子先輩はさらに、睾丸を咥えたのだった。

 生温かい感触に包まれる。僕は無意識に口を半開きにして天を仰いでいた。

 涼子先輩の口腔内で睾丸を転がされる。その度に怒張した男性器がビクンビクンと暴れた。その先端からは涎を垂らすように我慢汁が垂れている。

 寛治の奴はいつもこんな至福を味わっているのかと親友に羨望を覚えた。

 ん?

 待てよ。

 ここで僕は一つの疑念を抱く。

 寛治が普段からこのような幸福なる技巧を甘受しているのなら、それを今まさに夏凛に教え込んでいたとしても不思議ではない。特に夏凛は大人になる為の向上心や好奇心が強い。

 僕の脳裏に、寛治の前に跪き、睾丸を舐める夏凛の姿が浮かんだ。

 ドクン、と激しい鼓動が胸を叩く。

 言うまでもなく激しい嫉妬。

 しかし不思議と嫌悪感は無い。

 僕達四人はいつも一緒だった。帰り道も、デートも。その上セックスだって共にしている。

 だから恋人が親友の睾丸を舐める事くらいは許容範囲な気がしてきた。

 そんな事を考えている間に、涼子先輩は僕の睾丸から口を離していた。

 にしし、と笑いながらすっかり筋肉の塊となって反り返った男性器を指で突く。

「バッキバキだね」

「……すごく気持ち良かったので」

「今からもっと気持ち良くしてあげるね」

 涼子先輩は普段通りの気さくな笑顔でそう言ったかと思えば、両手を僕の太ももに添えた。

 彼女の吐息が亀頭に当たる。

 僕の男性器は涼子先輩に咥えられる事を期待してはち切れんばかりに膨張していた。それを誤魔化す為に僕は話を振る。

「……寛治にもいつもこうしているんですか」

「……うん」

 微かにはにかむ涼子先輩は恥じらう乙女のようだった。

「あいつは幸せ者ですね」

「絶対夏凛ちゃんにもやらせてるよ。寛治君はタマ舐めされるの好きだから」

 先程の僕の想像がさらに現実味を増す。

 そんな僕を見上げて涼子先輩が笑った。

「嫉妬しちゃう?」

「そりゃ、まぁ……」

「大丈夫。ヤキモチなんてしていられる暇なんて無いくらい、トモ君のおちんちんを私のフェラチオで気持ち良くしてあげるから」

 涼子先輩の口からフェラチオという単語が出るだけで、もう僕の日常が音を立てて崩れ去っていくのであった。しかし瓦礫の外には新しい日常が広がっているように思える。

「……お手柔らかに」

「オッケー。それじゃ、いっただっきまーす」

 涼子先輩は一息に亀頭を呑み込むと、そのまま奥まで唇を滑らせていった。

 親友の恋人の口の中は温かった。

「うわっ……」

 思わず情けない声が出る。

 肉竿に密着するぷるぷるの唇。

 柔らかい舌も絡んでくる。

 様々な快楽の情報が一度に押し寄せてきて、僕はもうわけがわからなくなる。ただのコーヒーじゃなくて砂糖とミルクもたっぷり使い甘く複雑に絡んだ味わいのような快感。

 涼子先輩は根本辺りまで咥えたまま、僕を見上げて問う。

「ひもひいい?」

 僕は無言で何度も頷いた。

 涼子先輩はそれを確かめると、ゆっくりと首を前後させる。

 ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ。

 手を使わずにしている所為か、涼子先輩の熱を男性器のみ感知していた。

「き、気持ち良すぎる……」

 僕は思わず両手を握りしめていた。

 そのうわ言のような独り言を聞いて涼子先輩がいったん口を離す。そしてやはり僕を見上げたまま言う。その口調はいつもの頼れるお姉さんといった清涼感だった。

「私の口でもっと気持ち良くなろうね」

 そう言うや否や、唇を尖らせて亀頭にキスをした。ちゅ、ちゅ、ちゅ。鈴口にすぼめた口を当てると、ちゅううう、と我慢汁を吸う。僕の全身に電流が走る。

 そして再び咥えると、僕の両太ももに手を添えて首を前後させる。今度は先程より少し速度が上がり、それに伴い水音が淫靡なものに変化していた。

 ちゅっぱ、ちゅっぱ、ちゅっぱ、ちゅっぱ。

「ああ……いい……」

 握りしめた拳が震える。

 涼子先輩は両手を添えていた僕の太ももを強めに掴むと、さらに速度を上げる。

 じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ。

 頭はもう沸騰寸前。何も考えられない。

 涼子先輩の頬が凹み、その分唇を突き出していた。

 男性器が溶ける……本気でそんな心配さえ頭に湧く。

「先輩……先輩……!」

 もう男性器は射精欲で破裂しそうになっていた。

 それを察しているのか、涼子先輩は一度口を離すと至って何でもない風に言う。いつもの優しい涼子先輩だった。

「初めてのフェラチオ。どこに射精したい?」

「ええ……」

 そんな事を考える余力などあろうはずもない。

「じゃあ折角だし、お口にしよっか」

「……え、いいんですか?」

「嫌?お口に精子出すの」

 もう僕は息も絶え絶えだった。

「嫌では……ないですけれど……」

「じゃ、私のお口をおまんこだと思っていっぱいピュッピュしちゃおうね」

 涼子先輩は可憐にウィンクしてみせる。とてもこの淫靡な空間には似つかわしくない爽やかさだった。

「は、はいぃ……」

 我ながら情けない声を出す。いつもは対等な間柄だが、今この瞬間だけは捕食者とただの餌である。

「あーーー……ん」

 涼子先輩が大きく口を開けて男性器を咥える。

 再び僕を包み込む優しい温もり。意識が弛緩しつつも、脳裏に火花が散る。射精が近い。

 涼子先輩のフェラチオは、最初はゆっくり、そして徐々に速度を上げていく。

 艶々の唇が唾液を塗りたくるように陰茎を擦り、時折カリでめくれる。

 じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ。

「うぅ、すごい……」

 僕をうならすのは唇の摩擦だけではない。巻き付いてくる舌。頬を凹ますほどの吸引。媚薬のように男根を滾らせる唾液。

 そのすべてがあまりに気持ち良すぎる。

 過剰なまでの快楽は僕の頭を白く染めていく。

 僕は思わず涼子先輩の手を握る。彼女も僕の手を握り返してくれた。僕より小さいはずのその手はなんとも頼り甲斐があり、安心感を与えてくれる。

「……先輩……出ちゃいます……」

「ひいよ」

 僕の男性器のさらなる膨張と共に、先輩のフェラチオの勢いも最高潮に達する。

 じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ。

 涼子先輩の本気のフェラチオ。

 僕はもう射精の事しか考えられない。頭の中まで性器になったかのようだ。

「ああっ、イクっ!」

 一際強く涼子先輩の手を握る。彼女もそれを握り返してくれた。

 下腹部から燃え滾るような何かが尿道を駆け上がっていく。

 本当にこのまま射精していいのだろうか。そんな疑念が一瞬浮かんだが、濁流のような快楽に押し流される。

「あああっ!」

 びゅるっ、びゅるっ、びゅるるるる!

 涼子先輩に根本まで咥えられて、彼女の喉元目掛けて射精する。

 人生で一番というくらいの勢いと量、そして濃い精液が放たれたのではないかと感じた。それでも涼子先輩はえずく事もなくすべてを口で受けとめてくれる。

 射精がひとしきり落ち着くと、僕は夏凛の事を考えた。

 罪の意識だとかそういう感情ではなく、単純に、恋人との楽しい思い出が頭の中で浮かぶ。

 僕は夏凛が好きだ。

 涼子先輩の温もりで至福の絶頂を味わいながらも、恋人への愛情が改めて鮮明になった。いや、涼子先輩の温もりがあるからこそ、そう思えたのかもしれない。

 その涼子先輩が僕を見上げたまま顔を離す。

「あーん」

 そして僕に見せつけるように口を開いた。

 歯並びの良い白い歯。桃色の口腔内に舌。そして泡立つ大量の精液。

 そして口を閉じると次の瞬間、涼子先輩の喉がごくんと鳴る。

 驚く暇すらなかった。

 涼子先輩はニコニコしながら僕を見つめる。

「あーん」

 今度は舌をぺろりと出して口を開ける。

 その中にはもう白濁液は微塵も無かった。

「ご馳走様」

「お、お粗末様、でした」

 何と返せばいいのかわからずにたじたじになる。

「すっごく粘っこくて苦かったよ。トモ君の精子」

 相も変わらず気さくな調子でそんな事を言う。

 そしてさらには半勃ちの陰茎を咥えると、頬を凹ませる。

 じゅるるるるるるるる。

「うぅっ」

 音を立てて尿道に残っていた精液を吸われる。その心地良さは射精と比べても遜色ない。

 涼子先輩は咥えたまま喉をごくりと鳴らして嚥下していく。そして一瞬だけ顔を離すと悪戯っぽく囁いた。

「もう一回、おちんちん勃起させてあげる」

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、と丁寧に亀頭にキスをすると、ゆっくり咥えてフェラチオを再開する。それは前戯として快楽を与えるというよりは、まるで労うような優しいしゃぶり方だった。

 ねっとり、まったりと唇を滑らせ、舌を這わせる。時々動きを止めたかと思うと、ちゅうちゅうと音を立てて吸う。

 僕の男性器はあっという間に再び元気を取り戻す。

「あはは。寛治君より早いかも。やるじゃん」

 その言葉に僕は誇っていいのかどうかわからず苦笑いを浮かべた。

「ねぇ。私だけが全裸なの、いい加減恥ずかしいんだけど?」

 そう口にする涼子先輩は少しも恥ずかしそうではなく、むしろ堂々としていた。

「あ、すいません」

「脱がしてあげるね。はいバンザーイ」

 僕は素直に両手を上げる。その様子に先輩はくすくすと笑った。

「トモ君は素直で可愛いね」

 そう言いながら僕の服を脱がす。涼子先輩は確かに年上だけれど、単なる年功序列ではなくなんとなく彼女の声には従ってしまう魔力がある。ともかくこれで二人とも全裸だ。

 互いへの愛撫もひとしきり行い、どちらの性器も臨戦態勢に入っている。

 つまりはこの次のフェーズはセックスという事になる。

 誰と誰が?

 僕と涼子先輩。

 全く現実味がない。

 そんな僕の心情を察してか、涼子先輩は驚きの提案をしてくる。

「ちょっと上の様子見てこない?寛治君と夏凛ちゃんが仲良くやってるかどうか」

 僕もその様子に興味が無いわけではなかった。いや、正直に言うと興味津々で気が気でなかった。ただでさえ複雑な嫉妬を抱えているのに、直接に彼らの行為を目にしてしまったら立ち直れるかわからない。

 涼子先輩が、答えに窮している僕の手を取って引っ張っていく。

「ね?あっちがどうなってるかちょっと覗きに行ってみようよ」

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