カバー

イジり好きの先輩は、イジり返されるのにとても弱い

大学に入学した幸太郎は新歓ラッシュの洗礼を受けていた。かろうじて抜け出した先で、背がちっこくて驚異の胸囲、幼い印象だけど凛とした表情、矛盾する要素を奇跡のバランスで体現した美しい先輩・美咲と出会う。美咲の強引なサークル勧誘を受け、もっとお近づきになりたいと思った幸太郎は入会を決意する。その後、新歓飲み会で酔った美咲を介抱しているうちに距離が縮まり、想いを確かめあったふたりは交際をすることとなった。見ている方が恥ずかしくなる、ふたりのキャンパスラブコメディ・開幕!

甘々イチャラブの過剰摂取にご注意を!

  • 著者:高橋徹
  • イラスト:蔓木鋼音
  • 本体価格:1,200円+税
  • ISBN:978-4-8155-6513-8
  • 発売日:2019/8/30

  • [店舗特典]
  • ●とらのあな様:SS付きポストカード
  • ●メロンブックス様:SS付きポストカード
  • ※とらのあな様・メロンブックス様の特典SSの内容はそれぞれ別種のものになります。
  • ※それぞれの特典は店舗様にて無くなり次第終了となります。
  • ※電子書籍版には上記全ての特典は含まれません。
口絵

タイトルをクリックで展開

 幸太郎こうたろうは呆然としていた。

「アメフト部でーす! 新歓で焼肉やりまーす!」

「軽音サークルはどうですかー! ゆるいですよー!」

「テニス! 大学生といったらテニスでしょう!」

 視界を埋め尽くすビラ、ビラ、ビラ。

 瞳をギラつかせた大学生の山、山、山。

 そして巨大な塊になって全身を叩く声、声、声。

(こ、こんなにすごいのか、大学のサークルの勧誘って……!?)

 新入生オリエンテーションを終えて会場の外へ出るなり、鬼のような新歓ラッシュに巻き込まれた。まるで台風の中にぴょんと突っ込んだかのような感覚だ。

(動揺してるのは……俺だけじゃないか)

 ひとつの行事を終えて緊張がほどけた矢先の、人為的な暴風雨。新入生が戸惑わないわけがなかった。通り道はひとつだけ確保されていて、道の両脇をがっちりと固めた大学の先輩たちが、威勢の良い掛け声とともにビラを配っている。きっと先輩たちのこの場で出している声が、一年間の中で一番大きな声なんだろうなと思った。

(うおっ!?)

 両手をフォークリフトのように前に出しているだけで、その上に次々と勧誘のビラが置かれていく。前を見ると、十メートルほど先をよろよろと歩いている男子の両手には山になるほどビラが積まれていた。かわいそうに……と思ったが笑えない。彼はほんの数十秒後の自分だ。

(あんな状態でコケたら大恥だよな……どうしたら……あ、そうだ)

 道の真ん中を歩いていると、両サイドからビラを渡されるようだ。幸太郎はさりげなく片側に寄り、手の上に積まれるビラの数を抑えた。

 見上げれば桜の花びらが艶やかに宙を舞っている。少し視線を下げれば、ありとあらゆる色合いのビラが地面に散乱している。上は桜吹雪、下はビラ吹雪といったところか。踏みそうになったビラには『ホットヨガサークル』と書かれていた。普通のヨガではないの……と首をかしげながら、新歓の暴風雨を何とか切り抜ける。

「ふう……」

 ようやく勧誘の列が途絶えたところでひと息つく。片側に寄って歩いたとはいえ、うずたかく積まれたビラはもはや数えきれない。幸太郎の住む学生宿舎は講堂から五百メートルほどの距離にある。歩いてもさほど時間はかからないが、さすがにこのビラを丸々持って帰ることはできない。

 どこかにいったん置ける場所は……と視界の下半分が塞がった状態で辺りを見渡す。ビラの整理ついでに、今のうちに興味が湧くサークルを選んでおきたいと思った。

 きょろきょろと視線を巡らせていると──。

「やあ、新入生。探し物か?」

 澄んだ綺麗な声が聞こえた。いつまでも聞いていたくなるような心地の良い声だが、そもそも自分に話しかけたのかどうかもわからない。ビラの山を抱えたままで辺りを見渡すが周りには誰もいない。

そうか、自分に話しかけたのか……と思ったところで、肝心の声の主が見当たらないことに気付く。

「新入生。君に聞いてるんだよ。探し物か?」

「んん……?」

 話すだけで人を惹きつけるような魅力的な声。けれどやはり、肝心の声の主は見つからない。

 美しい声で語りかけながらも、決して姿を見せない。それってまるで──。

「妖精……?」

「んなわけあるか!」

 威勢の良いツッコミとともに、細い腕がにょきっと目の前に伸びてきて、ビラ山の一番上にベシッと新たなビラが置かれた。驚いた幸太郎の目に『社会福祉研究会』の文字が飛び込んでくる。

「まったく……みんなして人を妖精だのホビットだのコロポックルだのと言いやがって……」

(後半は言ってない……)

 とことこと数歩下がって、ようやく澄んだ声の主を認識することができた。

 中学生。あるいは小学生では、と思うほどのちっこい背丈。そしてその背丈からは想像もつかないほど整った、涼やかで凛とした顔立ち。目はパッチリしていてちょっと猫っぽい。髪の毛は明るい茶に染められていて前髪は長く、小さなおさげがふたつ結わえられている。

 髪色はよく見れば絶妙な濃淡がついていて、春の陽光を受けて柔らかなグラデーションを描いている。ここ数日でも特に暖かい日であるためか、ノースリーブのブラウスとロングスカートという、お嬢様のような可愛らしい格好だ。

(う……わぁ……大学って、こんなに綺麗な人がいるのか……! ていうかビラを渡されたってことは先輩!?)

 驚きつつも、目の前にいる小さな女性から目が離せない。

 あらゆる音が遠ざかり、全神経を注いで彼女を見つめているような感覚。

挿絵1

 彼女を中心とした一枚絵を見ているような気持ち。

 惚れた。

 幸太郎の頭が、心が、いまだかつて味わったことのない力でぶん殴られた。

 背のちっこさとはアンバランスな整った容姿。

 ブラウスをぽよんと押し上げる柔らかそうな胸のラインは、思わず凝視してしまいそうになるほどの凶器。

 十八年の短い人生でも可愛い人はたくさん見たけれど、顔が綺麗で雰囲気は可愛いという、両方の武器を備えた女性は初めてお目にかかった。鬼に金棒というか、鬼と鬼というか。いずれにせよとんでもなく魅力的だ。

「ん……? 君、さっきからどうしたんだ? ボーッとして」

「え!? あ、いえ、なんでもないです、すいません……!」

 幸太郎を気遣った先輩がずいと近寄る。背が小さいため幸太郎を見上げると、自然と上目遣いになる。愛くるしい彼女の魅力がさらに跳ね上がり、身体が一気に熱くなった。

 幸太郎が赤くなった顔を見られないように、ビラの山を持ったままぬるりと半回転すると、背中越しにけらけらと笑う声が聞こえた。

「君、面白いな。良かったらちょっと話を……の前に、まずはどっかに座るか」

「そ、そうしてもらえると助かります……」

 ビラの山を抱えた幸太郎に、彼女は苦笑を浮かべた。浮かべる表情がとても豊かで、それでいて全部可愛い。

 もしかしたら怪しいサークルの勧誘かもしれない……これが美人局というやつか……などと訝しんだりもしたが、『社会福祉研究会』というサークル名からして安全ではと判断した。

 それに何より──。

「ほれ、じゃ、あそこのベンチに行こう」

「は、はい!」

 この先輩ともっと話してみたい……! という欲求が、その他諸々の懸念をたやすく振り払った。

 桜の木の下に置かれたベンチに並んで座る。ビラの山をふたりの間に置くと、よくこれだけの量を持っていられたなと思うほどの山だった。

「うへぇ……今年もすげえ量だなぁ」

 先輩がビラの山を上からぺしぺしと叩き、苦笑する。足をぷらぷらさせる様子が愛らしい。

「毎年こんなに配られるんですか?」

「そうだな、アタシのときもすごかったけど、女子には多少配慮してるのかこんなにもらわなかったな。明らかに男しかいなさそうなサークルはアタシの前にビラを出して『おっとごめんよ!』とか言って引っ込めてたし」

「なるほど……」

 体格から考えて、彼女では持てる量に限界があるだろう。他の女性以上に配慮されたんだろうな、と思えた。

「今、なんか失礼なこと考えてなかったか?」

「そそそそんなことないですよ!?」

 凛とした顔に仄暗い影が見える。バカにするつもりなど毛頭ないが、それでも慌てた。

「せ、先輩はどうしてここで勧誘してたんですか?」

「ああ、あんな祭りみたいな場所にいてもなかなかビラは渡せないからな……って誰が『ちっちゃいから埋もれちゃいますもんねーwww』だって!?」

「言ってないですよ!?」

 小さいことがコンプレックスらしい。以後気を付けよう。

 一応、この辺り一帯も勧誘を許可されてるからな……と、先輩が辺りをちょいちょいと指差す。見ると、先輩と同じように新入生をピンポイントで狙う男女が何名かいた。お仕事、お疲れ様です。

「そういや、まだ名乗ってなかったな。アタシは美咲みさき日比谷美咲ひびやみさきってんだ」

「美咲先輩……」

 名前まで素敵だ……などと歯の浮くような台詞が浮かんだが、紛れもない本音だった。

「学部では苗字か名前で呼ばれることが多いかな。社福……あ、社会福祉研究会のことな。そっちでは色んなあだ名で……って誰がフェアリーペンギンだって!?」

「情緒不安定なんですか!?」

 自分から地雷を踏みに行くスタイルらしい。

 このテンションはちょっと苦手かも……? と一瞬思ったが、よく見れば「まったく……」と可愛らしくぷりぷりとしているだけで、言葉の割にさほど怒っていないようだ。サークルでもイジられているのかな……と想像がつくような可愛らしい仕草。見目麗しくも愛嬌の塊といった感じだ。

「そんで、君の名前は?」

 一瞬、大ヒットした映画のタイトルが頭を過った。

「ええと……加賀谷幸太郎かがやこうたろうって言います」

「ふむ、長いな」

「ええ!?」

 いきなり理不尽なだめ出しを受けた。ショックを受けていると、彼女──美咲は、「ああ、ごめんごめん」と困ったような笑みを浮かべてひらひらと手を振った。

「君の名前を否定してるわけじゃないんだ。そんなの親御さんに失礼にもほどがあるからな」

「そ、そうですか……」

「ただ、呼ぶにはちょっと長いなーって。だって五文字だぞ?」

「特に意味は変わってないですよね!?」

 幸太郎の悲痛なツッコミを受け流し、美咲が腕を組んで「むむむ……」と可愛らしく唸る。やがて幸太郎を見上げると、にぱっ、と満面の笑みを浮かべた。

「コータロ」

 最後の長音符を省いた、どこか幼く聞こえる響きで名前を呼ばれた。涼やかで凛とした顔立ち、それに対してずっと子どもっぽいちっこさ。そして澄んだ声とちょっと幼い呼び方。ベクトルの違う魅力が矢継ぎ早に幸太郎の頭をぶん殴る。綺麗だし可愛いしやっぱり綺麗だし可愛い。なんだ、なんなんだこの素敵すぎる生き物は。

 ぽけーっと見惚れていると、美咲がひょいと顔を寄せてきた。上目遣いで気遣わしげに見つめてくる。

「コータロ? どうした?」

「うおぇあっ!?」

 美咲の顔がずいと近付き、今まで上げたことのない悲鳴を上げて仰け反った。鼻腔にふわりと残る、香水なのかシャンプーなのかもわからない甘やかな香り。同じ人間なのか、はなはだ疑わしく思えるほど良い匂い。

「……やっぱり妖精?」

「だからなんでそうなる!」

 ぺしっ、と優しく頭をはたかれた。そして直後にいたわるように頭をくしくしと撫でてくれる。思わぬスキンシップに心臓が激しく脈打ち、手汗がどばっと噴き出した。

「コータロは変な声を出すなぁ」

「いや、あんな声出したの初めてです……」

「あだ名はやっぱり『奇声獣』にするか?」

「ぜったいイヤですよそんなの!?」

 美咲がけらけらと笑う。自分よりもずっとちっこい先輩が、お腹を抱えて足をぱたぱたさせている。小さなおさげも一緒に揺れた。そしてお腹を抱えることで豊かな胸が強調されてしまい、思わずガン見しそうになって慌てて顔を逸らす。

「はー、コータロは面白いな。じゃあ、入会ということで!」

「ステップを何個も省略しないくださいよ!? まだ見学にも行ってないのに!」

 慌ててツッコむと、美咲が片眉を上げて「ほほう?」と笑った。昔の洋画の俳優のような仕草だ。

「社福に興味があるのか?」

「え? あー、いや、まあ、その……」

 正確に言えば、あなたに興味があります! などと初対面の人に言えるはずもない。はずもないので──。

「……はい。ちょっとだけ」

 この場では、こう答える以外に方法はなかった。この大学はそこそこ規模が大きい方で、一学年で二千人は超えている。ここで別れてしまえば、次はいつこんなふうに話せるかわかったものではない。

「おー、ホントか! いいね~コータロ!」

 意図を知る由もない美咲がからからと笑い、幸太郎の肩をぺしぺしと叩く。ビラの山が間にある上にリーチが長くないため、腕をにょーんと伸ばしているのも可愛らしい。やっぱりこの人ともっと話したいな、と思った。

「よし、じゃあさっそく……」

 上機嫌になった美咲が、鼻唄を口ずさみながら小さなバッグの中を漁る。やっぱり綺麗な声だな……とぽけーっとしているうちに、目の前にずいとスマホの画面を突き付けられた。

「猫、可愛いですね」

「そうだろ、アタシの実家の猫で……って間違えた!」

 スマホのロック画面に映っていたのは、リビングの日なたで気持ち良さそうにころんと寝転がる二匹の猫だった。美咲が自分で自分にツッコみ、わたわたとスマホをいじる。パタパタと慌てるさまに頬がゆるむ。

「ほら、連絡先!」

 トークアプリの友達追加の画面を見せてきた。

「え……い、いいんですか?」

「そりゃあ、今後の新歓のスケジュールを余すことなくすべて知らせるためには必要だろ?」

「完全なる事務用!」

「なんだ、アタシと電話でもしたいのか?」

「うぇっ!?」

 スマホの画面をフリフリと揺らしながら、美咲がにやりといたずらっぽい笑みを浮かべる。一気に顔が熱くなった。

「はい! したいです!」

「うぇっ!?」

 テンションが暴走してつい本音を口走ってしまうと、今度は美咲の顔が真っ赤になった。明るい茶髪から覗く小さな耳まで真っ赤になり、視線がピンボールのように泳ぐ。自分以上に動揺している先輩を見て、ふっと緊張がほどけた。

「え、ええと、その、あーっと、今のは、本気か? 本気なのか?」

「じゃあ俺がQRコードを出しますね」

「聞けよ人の話を!」

 ぺしっと叩かれた。そのあとはやはり撫でてくれる。このツッコミはやみつきになりそうだ。

「……すみません、調子に乗ってました」

「お、おう、結局ホントなのかウソなのかわからん謝り方をするなぁ……ま、まあいいけど……」

 美咲が薄い唇をもにょもにょとさせる。この話題は死ぬほど恥ずかしいのだが、『ウソです!』というウソもつきたくない。何とか曖昧にしてしまいたかった。

 美咲は決まりの悪そうな顔をしつつも、幸太郎のQRコードを読み取った。

「まず最初の新歓なんだが、さっそく今日やるんだよ。来るよな? コータロっていっつもひとりで行動してるタイプだし。ヒマだろ?」

「決めつけ方がひどいですよ!? ……当たってますけど!」

 オリエンテーションで仲良くなったクラスメイトは何人かいるが、サークル選びはひとりでしようと思っていた。ぴたりと当てられてちょっと悔しい。

 美咲がぴょんと立ち上がり、後ろ手を組んでくるりと振り返る。映画のワンシーンを切り取ったような光景に思わず息を呑んだ。

「そんじゃ、楽しみにしてるからな! あとですぐ、場所と時間、身代金の金額を送るから!」

「最後のはなんですか!?」

 美咲は幸太郎のツッコミにけらけらと笑い、ひらひらと手を振って去って行った。なんだかどっと疲れた気もするが、それ以上に楽しかった。大学ってすごいな、あんな人がいるんだな……と感動した。

       ×  ×  ×

 昼は自転車で大学近辺の飲食店を探した。あの先輩におすすめの店を聞いておけば良かったな……と思いつつさまよっていると、二十年以上はやっていそうな定食屋さんを見つけた。

 からあげ定食を頼んだところ量も味も大満足で、おまけに安かった。いかにも学生向けといったお店だ。

 満腹になったお腹をさすりながら店を出たところで、スマホに通知がきた。

 送り主は『日比谷美咲先輩』。音速でアプリを開く。

『おっす。昼ご飯はもう食べたか?』

(あいさつからもうすでに可愛い……)

 高校の頃に同級生の女子と連絡を取り合ったことはあったけど、こんなふうに先輩とやりとりしたことなんてなかったな……と、ちょっと食べ過ぎたお腹をさすりながら思わず感慨に耽ってしまう。

『はい、がっつり食べました』

『からあげ定食、美味いよな』

 高速で周囲を見回した。初対面であの調子だったので、監視でもされてるのか……!? と疑ってしまう。

『ナゼ ワカッタ ノ デスカ』

『文字で片言になると気持ち悪いな……』

『引かないでください、泣きそうです』

『(猫がけらけらと笑うスタンプ)』

 笑われた。しかしスタンプが可愛い。

『この辺で昼に開いてる店ってそんなに多くないからなー。それでがっつりっていうとあの店かーってすぐにわかるわけだよ』

『すごいですね』

『もっと敬っていいぞ?』

 腰に手をついてふふんとふんぞり返っている美咲の姿が浮かんだ。

『それでは今から業務連絡です』

『急に切り替わった……』

『今日の十八時に人文学部棟のB棟前に集合な!』

『ええと……目印はありますか?』

『目の前にパン屋がある。すっごい美味しい』

 付け足された一言もいちいち和む。

『あ、だいたい目星が付きました』

『よし。わかんなかったらいつでも連絡してくれな。ちゃんとブロックしとくから』

『なんで会った初日に絶縁されるんですか!?』

 スマホの向こうで美咲がけらけらと笑っている気がした。

『ほんじゃ、また夜に』

『はい!』

 最後は猫のスタンプの応酬で終わった。

「……電話したかった……」

 てっきり二、三回のラリーで終わると思っていたのに、いつの間にかずいぶんと長くなっていた。しかも楽しい。それにきっと、電話だったらもっと楽しかったし、直接会ったらもっともっと楽しかった。

「……夕方まで何してようかな……」

 美咲と会えるのがあまりにも楽しみで、何も手につかないような気がした。

「あ、おーい! コータロ! こっちこっち!」

 いかにもお手製といった木の看板を持った美咲が、嬉しそうに手を振った。ちっこい身体がぴょんぴょんと飛び跳ね、ふたつに結わえたおさげと一緒に凶器とも言える豊乳がぷるぷると揺れる。数時間ぶりに会う先輩は、遠目に見ただけでもうすでに可愛かった。

 幸太郎は表情筋が溶け落ちそうになるのを必死でこらえ、にこりと会釈をして美咲に歩み寄る。学内のパン屋が目印と聞いたことで、さほど苦労することなくたどり着くことができた。

「早いな。まだ二十分前だぞ?」

「え、ええ……まあ……」

 一刻も早く美咲の顔が見たかったから、などとは口が裂けても言えなかった。

「やる気満々だな!」

 見上げてくる美咲がにぱっと笑う。下心しかない状況でこんな笑顔を浮かべられると、罪悪感にも似た感情で胃がキリキリと痛む気がした。

 気を紛らわすためにちらりと看板を見ると、大きく『社会福祉研究会』と書かれた大判用紙が貼り付けられていた。視線に気付いた美咲が、口をすぼめて「お?」とキュートな声を漏らす。

「これ、気になるか? これはサークルの持ち物でな、新歓のとき以外は年中倉庫に眠ってるんだ」

「後半の情報は聞いても悲しくなるだけですね……」

 看板にちょっと同情した。せめて今のうちにたくさん日の光を浴びてほしい。もう夕方だけど。

「アタシがひっとらえたのはコータロだけだからなー。他のサークル員が何人ひっとらえてくるのか……」

 美咲が看板の取っ手を肩にとんと乗せて呟く。なんだか逃げている犯人みたいな扱いだ。

「新歓って、受ける側は気楽ですけど勧誘する側は大変ですよね? 今日見てるだけでも思いました」

「そうそう、そうなんだよ」

 いやー、アタシも初めて勧誘する側になるわけだけど……と、美咲が何やら金曜夜のOLのような雰囲気で語り出す。

「新歓って、いざやる側になると、『あー、この子はうちに興味がないんだな』とか、『食事をたかりに来てるだけなんだな』なんて気付いちゃうことも多くて。それがけっこう辛くてな……」

「なるほど……って、あれ? 社福の新歓ってそんなに早い段階から始めてたんですか?」

 美咲の言い方からすると、まるで数週間は新歓をやっていたかのように思える。

「ああ、本格的なのは今日が初めてだぞ。今のは完全なる空想だな」

「ヤバい人ですよそれ!」

 なまじそれっぽい妄想なだけに妙な生々しさがあった。

「まあ、楽しいこともいっぱいあるだろうしな。……コータロにも会えたし」

「え……」

「アタシよりもイジられやすそうな生贄が見つかったっていう意味でな」

「最低じゃないですか!?」

 仮に自分が加入しても、結局ふたりともイジられるだけなのでは……とは言わないでおいた。

「お? 他のやつらも来たみたいだな。おーい!」

 美咲が元気よく手を振る。看板も一緒に盛大に揺れて、角が当たりそうになるのを慌てて避けた。

       ×  ×  ×

(新歓って、こんな感じなんだ……)

 大学の講義室の最前列に座りながら、幸太郎はそわそわとしていた。

 今日の新歓は通常のミーティングをやって見せたあとに食事会をするとのことで、幸太郎を含め五人の新入生が並んで座っていた。幸太郎たちを取り囲むようにして先輩たちが座る。なんだか緊張するなぁ……と思って後ろをちらりと見ると、目が合った美咲がにひっと笑って手を小さく振った。同じ新入生や先輩たちの中にも綺麗な人や可愛い人はいるのに、もはや美咲にしか目が行かないことに自分で驚く。

「新入生の皆さん、こんばんは。新歓イベントの担当をしています、二年の椎名しいなめぐみです」

 ショートヘアーのすらりと背の高い女性が軽やかにあいさつをする。さりげない着こなしや立ち振る舞いまで何もかもが大人っぽく、これが大学生か……! と瞠目した。ちなみに美咲は別枠だ。一目惚れ枠。

「今日なんですが──」

 めぐみの隣に立っていた、もう一人の新歓イベント担当の男性が説明を始める。ミーティングでは主に活動報告と今後の活動の話し合いが行なわれるとのことだった。

 社会福祉研究会。略して社福の活動は主に四つで、児童養護施設、障害者福祉施設、高齢者福祉施設、学校ボランティアのグループに分かれているとのことだった。今回は新入生への紹介も兼ねているため、いつもより丁寧に活動報告を行なうことになった。

 サークル全体では百人弱の大所帯らしく、その中で各グループに分かれて活動をしているようだ。プロジェクターを使ったり、レジュメを配ったり、あるいはホームページのサークル員限定ページで活動中に撮影した写真や動画を見せたり……と、わかりやすい報告が次々と行なわれていく。

「えーと、じゃあ次は学校ボランティアの……ホビットグループ、お願いします」

「誰がホビットだって!?」

 司会をしていた男性がにやりと笑って美咲に視線を向けると、まるで緊張をほぐすかのような笑いが起こった。

 美咲は両手を机について立ち上がったものの、表情は怒っていない。すっかりお決まりになった流れらしい。仲が良いんだな……と、この講義室に満たされている空気感が少し羨ましくなった。

 美咲を含め五名の男女が教壇に立つ。美咲が真ん中でレジュメを持って立っているが、背丈だけで見ればひとりだけ子どもが混じっているように見えてしまう。

「えー、アタシたちは現在、大学付近の付属中学にボランティアに行ってます。パッとイメージしづらいと思いますが、今やってるのは学習支援なので、とりあえず中学生の勉強の手伝いをしていると思ってください」

 先生に聞きづらいことも、アタシたちになら相談できる……ってことはけっこうあるみたいなので。そう言って美咲が凛とした顔ににこりと優しい笑みを浮かべると、隣の新入生の女子がポワンとした表情を浮かべた。わかるわかる、めちゃくちゃ素敵だよね……と心の中で頷く。

 美咲のグループは口頭での説明のみだったが、聞き取りやすい澄んだ声ですらすらと説明されると、初めて聞く話題にも関わらず簡単に頭に入ってきた。先輩は頭がいいんだな……と、漠然とした憧れを抱いた。

「以上です。何か質問はありますか?」

 美咲が教室を見回す。質問して少しでも印象を良くしたいのに、美咲の説明がわかりやすすぎたために聞きたいことがまるで思い浮かばない。

 何を聞いたらいいんだ……と悩んでいると、「はーい!」と元気良く手を上げる人がいた。

「はい、そこの人」

「同じ中学生と間違われたりはしませんでしたか?」

「あー、そうそう。教頭先生に『なんで君だけ私服なんだい?』って言われたり……するか!」

 慣れた様子のノリツッコミに教室が沸く。他の新入生は笑いながらも、美咲の切り返しの速さに驚いていた。

 そのあとも美咲は「制服で混じってみたら?」などといった質問をされ、席に戻るなり質問をしてきた先輩たちをレジュメではたいていた。みんな楽しそうだ。

(だけど……)

 美咲はたしかに背が小さいが、顔はびっくりするほど大人びているし、話し方も落ち着いている。中学生に混じったら体格では溶け込めても、ちょっとでも接したらすぐにわかるんじゃないか、と思った。

 ミーティングが終わると、ファミレスで食事会が開かれた。

 新入生五人と先輩十五人の大所帯で、テーブルが四つに分かれることになった。美咲も当然のように一緒に来たので、『同じテーブルに……!』と願っていると──。

「ほれ、コータロ。こっち座れよ」

「先輩……!」

 やたらと男らしい口調で美咲が同じテーブルに案内してくれた。テーブルには美咲を含めて先輩が四人という状況だったが、美咲が上手く仲介してくれたおかげで緊張せずに楽しむことができた。

 ここでも美咲のちっこさはイジられていたが、みんな節度を弁えていた。他の先輩のこともイジっていたので、美咲だけが……ということではないらしい。なんだか愛があるなぁと思った。

(……でも、やっぱり……)

 見れば見るほど、先輩は純粋に綺麗で可愛いな、と思う。そして胸が大きい。無敵じゃないか……と終始見惚れていた。気が付くと、向かいの席で楽しそうに笑うちっこい先輩に目が釘付けになってしまう。

 バレないようにちらちらと見ながら、一時間ほどたっぷりと話し込んだ。

       ×  ×  ×

 宿舎に帰ったものの、いまいち落ち着かなかったため散歩することにした。日中に比べてまだ夜は肌寒い。パーカーを羽織って正解だったな……と思いながら学生街をぽてぽてと歩いていると、スマホの通知音が鳴った。

「え……っ」

 連絡主は美咲だった。

 それ自体は良い。最も望んでいる相手だ。大歓迎としか言いようがない。けれど──。

(で、電話……!?)

 トークアプリの通話機能を使って電話してきていた。動揺するあまりスマホを落としそうになりながらも、すーはーと何度も深呼吸をして落ち着かせる。だめだ、まったく落ち着かない。

 十数秒前までの平静状態を完全に忘れたまま電話に出る。

「ははははい! 加賀谷ですがなにか!?」

『ぶっ!?』

 早口でまくし立てた言葉は、惚れた女性に対する応対としては零点だった。むしろマイナスだ。

 けほっ、けほっ……と、スマホの向こうで咳き込む声が聞こえる。やはり声だけでも聞き惚れてしまう。

『いたずら半分で電話したらこれか……コータロは面白いなー、ほんと』

 呼吸を整えた美咲がけらけらと笑う。食事会も楽しかったが、やはりこうしてふたりで話すのが一番だ。

『今、大丈夫か?』

「大丈夫です。散歩中なので」

『そっか。……あれ? うしろ……』

「え!?」

 慌てて振り返る。幸太郎はちょうど街灯のない暗い路地にいた。何とも思っていなかったのに、急に怖くなる。

「ちょ、ちょっと、やめてくださいよ……! めちゃくちゃ怖くなっちゃったじゃないですか!」

『はっはっは、わるいわるい。お詫びにその場所の怪談を教えてやろう』

「いや、俺が今どこにいるか知らないですよね!?」

『そうか、そりゃそうだな。じゃあコータロの住んでる宿舎の怪談から話すか。いっぱいあるぞー』

「やめてー!」

『まあ、アタシは怖いの苦手だからぜったい話さないけどな』

「なんですかその自爆行為は!?」

『ちなみに今、怖い話の話題を出した時点でちょっと怖くなってる』

「……あれ? 先輩、うしろ……」

『やめろー!』

 お互い本当にちょっとビビりながらも、心から楽しそうに笑う。

『コータロ。新歓、どうだった?』

 温かい声で尋ねられて、これが本題だなと思った。

「楽しかったです。先輩がイジられてるときも、なんか愛があるなーって」

『うぐ……まあな、楽しいところだよ。過剰に言ってくるヤツはいないから、そこはすごいと思う。それで、今日はパワハラを受けたりはしなかったか?』

「え? 大丈夫ですよ?」

『セクハラは?』

「大丈夫ですって!」

『そうか、アルハラか……』

「ファミレスでワインとか飲みましたっけ!?」

 美咲がけらけらと笑う。いいように遊ばれている気もするが、その感覚がたまらなく心地が良い。

『ああそうだ、次の新歓は明後日で、アタシん家でやるん「行きます!」早いなおい!?』

 とんでもない俺得イベントに、思わず食い気味で答えてしまった。

(これはさすがに引かれたよな……?)

 声を上ずらせたことを後悔していると、美咲は楽しげにくすくすと笑った。

『コータロは面白いなーほんと。……なんならフライングで、今からアタシん家に来るか?』

「えぇぇっ!?」

『冗談だよ、ばーか。じゃ、また連絡するから。おやすみ』

「あ……っ」

 返事をする間もなく電話を切られてしまった。余韻をかき消すように、夜道を通る車のハイビームが視界をまばゆく照らす。

「……『ばーか』が可愛すぎる……」

 ホーム画面に戻ったスマホを見つめながら呟く。美咲の声で紡ぐ、砂糖の衣で包んだかのような罵りの言葉。自分にM気質があるとは思わないが、今みたいな罵りなら何度でも受けたいなと思った。

 なんだか変な性癖に目覚めた気が……と、ちょっと焦った。

 二日後の夜、幸太郎は抜群に緊張していた。

 初めて入る、女性の先輩の部屋。それに何より一目惚れした人の部屋。緊張しないワケがなかった。

 新歓の呑み会をするために学内で集合し、五分ほど前に美咲の部屋に着いたばかりだった。今日は自分を含め新入生の男女が四人、先輩は七人いる。十一人も入れるほど広い上にきちんと片づいていることに驚いていた。

「二時間くらいで切り上げるけど、明日用事がある人は先に帰ってもいいからなー。それじゃ、かんぱーい!」

『かんぱーい!』

 乾杯の音頭を取ったのは美咲だった。紙コップを手にした面々が元気良く声を上げる。

「前の冬くらいから乾杯の音頭を取る役回りになっちゃってなー……」

 美咲がごく自然に隣に座ったことに驚き、まるで罰ゲームで電流を流されたかのように飛び上がってしまった。

「は、はいぃ!? あ、そ、そうなんですね!」

「ぶっ!? おいおい、ほんとにどうしたんだよ?」

 盛大に慌てる幸太郎に美咲がけらけらと楽しそうに笑う。安心する笑みに和みつつも、緊張で身体に力が入る。

 ふたりはベッドを背にして並んで座っていた。油断すれば二の腕同士が触れてしまいそうな距離。こんな柔らかそうな先輩に触れたら、たぶん頭が爆発してしまうだろう。

 美咲の今日の服装はフリルの付いた半袖の白ワンピース。お嬢様のように見える格好は涼やかな顔立ちの美咲に強烈に似合っている。

(な、なんか、すごく良い匂いがする……!)

 今もふわりと鼻腔を刺激する良い匂いは、部屋の匂いなのか、ベッドの匂いなのか、あるいは美咲自身の匂いなのか……まったく判別がつかない。花畑に迷い込んだのかと思うほど、全方位から良い匂いがする。

「せ、先輩の家、すごく広いし綺麗ですね」

 自分から話題を切り出さないと、きっと美咲にからかわれる。いや、それも悪くないけど……などと混乱しながら、かろうじて無難な話題を絞り出した。

「まあ、呑み会をするとなったらそれなりに気合も入れるわな」

 美咲がちょっと照れたような笑みを浮かべていると、新歓担当のめぐみがにんまりと笑いかけてきた。

「だよねー、いつもはもうちょっと散らかってるもんね?」

「なんで言うんだよ!?」

 美咲のツッコミにめぐみが楽しそうに笑う。いかにも付き合いが深そうなやりとりだ。

「あ、君が幸太郎くん? わたし、めぐみって言うの。君のことは美咲から聞いてるよ、よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」

 めぐみは自己紹介を終えると別の会話の輪に加わった。美咲はめぐみを目で追いつつぽつりと呟く。

「めぐみは同期なんだけど、アタシと正反対なんだよな……。背が高いし、彼氏がいるし、背が高いし……背が高いし……」

「ほとんど身長のことばっかりですけど……」

「でもまあ、不思議とウマが合うんだよな」

 美咲がにひっと浮かべた笑みに、幸太郎は思わず目を奪われた。

 十一人の会話の輪は流動的で、人によっては場所をこまめに移動している。幸太郎も美咲もあちこちの話題に参加するものの、隣同士なのは変わることがなかった。

「それじゃ、ここら辺であらためて新入生に自己紹介をしてもらおうかな」

 めぐみの仕切りにより、新入生が順々に立ってあいさつをしていく。幸太郎の出番は最後だった。

「ええと……加賀谷幸太郎です」

「あ、美咲が連れてきた子か」

「そうそう、アタシ唯一の収穫だよ」

「可愛いね~」

「えっと、あの、続けていいですか……?」

 先輩たちが次々と話を展開して、自己紹介をしている幸太郎本人が置いてけぼりになる。幸太郎の言葉に先輩たちは優しく笑って続きを促してくれた。

「ええと、学部は人文学部で……」

「え!? なに、コータロ、アタシの後輩かよ!」

「え、そうなんですか!?」

 美咲がなぜか挙手してはしゃぐ。ふたつのおさげと豊かな胸が元気に揺れた。思わず一緒にはしゃぎそうになるのを辛うじてこらえる。それに視線が美咲の顔より下に逸れないようにするのも必死でこらえた。

 自分の自己紹介だけなかなか進まないなぁ……と苦笑する。人によっては趣味の話をしていたりもしたが、幸太郎の趣味はラノベ、漫画、ソーシャルゲームなのでこの場では話が膨らみそうにない。

 名前と学部を言えば充分かなーと思っていると、美咲が「はい、質問!」と言って元気良く手を上げた。

「あ、はい。どうぞ」

「このサークルに入る気はありますか? 入るよな? よし、入った!」

「なんですかその勧誘三段活用は!?」

 部屋の中がどっと沸いた。よかった、ウケた……と安心する。美咲もけらけらと楽しげに笑っていた。

「ええと、その……」

 笑いが収まったあと、幸太郎は困ったような笑みを浮かべながらぽりぽりと頬をかく。

「新歓に来たのは二回目なんですけど、すごく温かい雰囲気のサークルなんだな、と思ってまして……」

 話しながら、自分の思考を整理していく。ちらりと隣を見やると、美咲が優しげな笑みを浮かべていた。

「何というか、その……入ってみようかな、と思ってます。本当に」

 美咲が猫のような目を見開き、ひまわりのような笑みを咲かせた。先輩の魅力的な笑みに見惚れると同時にふたたび場が沸く。美咲の同期であるめぐみが、ずいと身を寄せてきた。

「幸太郎くん。今年の入会第一号だよ! ようこそ社福へ!」

「あ、ありがとうございます」

「このサークルではあだ名を付けることが多いんだけど、今まであだ名はあった? サークル内のあだ名は色々あってね、ホビットとか、フェアリーペンギンとか、コロポックルとか、座敷童とか……」

「それぜんぶアタシじゃねえか! いや、最後のは初耳だぞ!?」

 美咲のツッコミにまた笑いが起きる。

「ええと、あだ名はそれらしいものはあまり……。幸太郎、って呼ばれてました」

「そっか……じゃあ、あだ名は後日ということで」

「コータロ、どうする? 命名式でもやるか?」

「社福ってそんな厳かな儀式があるんですか?」

「そんなもんねえよ? 何言ってんだ?」

「自分から言っておきながら崖から突き落とすスタイル!」

 場が次々と沸く。どうやら、美咲とのやりとりが皆さんにハマったらしい。めぐみに至ってはお腹を抱えて涙目になっている。他の新入生も笑ってくれたようで何よりだった。

 一通り自己紹介が終わると、のんびりとした空気に戻った。

「あれ? 先輩……お酒呑めるんですか?」

 美咲は紙コップにチューハイを注いでいた。ワクワクしたような、少し緊張したような、複雑な表情だ。

「ああ、数日前に誕生日だったんでな。アタシもめでたく成人したから、こうしてお酒を呑めるわけよ」

「美咲、なにかっこつけてんの~? 誕生日に初めて呑んだとき、梅酒一口で『む、むりむり! アタシにはまだ早い!』ってギブアップしたくせにー」

「なんで言っちゃうんだよそれを!?」

 どうやらアルコールに弱いらしい。ツッコみながらじゃれつくさまが、ふたりの仲の良さを物語っていた。

「ったく……見てろよ……アタシだってなぁ……」

 ぶつぶつと言いながらも美咲はチューハイに口をつけない。紙コップを握ってぷるぷるしている。コップがふやけてしまいそうだ。

「あの、先輩……あまりフリにしか思えないような台詞は……」

「あぁん!?」

 筋金入りのヤンキーのような表情で睨まれた。しかし顔をしかめていても愛くるしさしか感じない。

「ナメるなよコータロ! 百円ショップ巡りが休日の日課のくせに!」

「変な設定作らないでくださいよ!? ていうか百円ショップ関係者に失礼ですからねそれ!?」

 幸太郎のツッコミを聞き流した美咲が、コップをぐいと傾けて細い喉をこくりと鳴らした。

       ×  ×  ×

 一口呑んで昏倒して……などといったトラブルはなかった。しかし──。

「おぉ~い、コータロぉ~? 呑んでるかぁ~?」

「はい、オレンジジュースですけど……」

(うっとうしい……でも可愛い……)

 それなりに酔っていた。

 美咲はチューハイをくぴくぴと呑んでは、「ぷはー! なんだ、お酒っていってもこんらもんか!」とはしゃいでいる。周りの目が、先輩どころか新入生まで生温かい。酔いどれハムスターといったところだろうか。

 美咲が呑んでいるチューハイの度数は三パーセントだ。飲酒をしたことのない幸太郎でも、これは大したことがないとわかる。それでも美咲は機嫌良くほろ酔いになっている。威勢の良いことを言いつつも、ちょっと呂律が回っていないのがまた可愛い。

「は~、なんかすっげぇ楽しいな~……」

 美咲は暑くなったのか、笑いながら白ワンピースのボタンをひとつ外した。周りからはさほど変化はないように見えるだろうが、座高が低い美咲を斜め上から見る幸太郎には、柔らかそうな深い谷間が思いきり見えてしまった。初めて見る女性の生々しい姿に、首がもげるのではというほどの速さで顔を逸らした。

(見えた、見えた、見えた……!)

 自分にだけ見える角度で、かろうじて、ほんのわずかに見えた美咲の女性としての生々しい一面。赤らんだ顔と柔らかそうな谷間が脳裏に焼き付いて離れない。

「コータロ、どうした~? さっきからだまり込んで~」

「え、あ、ちょ、冷たいですって!」

 上機嫌に笑う美咲が頬にチューハイの缶をぐいぐいと押し付けてくる。ちょっと腹が立ったが、その冷たさで冷静になることができた。美咲は幸太郎の動揺に気付くことなく、楽しそうに幸太郎のひざをてしてしと叩いてくる。突然のスキンシップに鼓動が高鳴った。

「美咲、さっきから幸太郎くんにべったりじゃん。そんなにお気に入りなの~?」

 めぐみが楽しげに小声で尋ねてくる。一気に顔が熱くなったが、美咲はにひっと笑って幸太郎の頭を撫でた。

「ああ、良いツッコミしてくれるだろ? からかい甲斐があるんだよ」

「ちょ、先輩……っ?」

 くしくしと撫でられ続ける。めぐみは美咲のカラッとした言葉に、納得が行くような行かないような顔をした。

「まあ、美咲が楽しいならいっか……美咲のこと、よろしくね? 幸太郎くん」

「え!? あ、はい! 任せてください!」

 敬礼をしそうな勢いで幸太郎が頷くと、めぐみがくすくすと笑う。

「あはは、そんなに気合入れなくていいって。あまりお酒を呑みすぎないように見張ってくれればいいから」

「は、はい!」

 めぐみが手を振って場を離れた。本来ならめぐみや他の先輩が受け持ちそうな役割。もしかしたら、幸太郎と引き続きふたりきりで話すことができるようにしてくれたのかもしれない。そう都合良く解釈することにした。

 ちらりと隣の輪を見ると、新入生と上級生が混じり合ったグループができていた。

「美咲先輩、すっごく可愛いですよね」

 女性の新入生の言葉に、先輩たちが男女ともに頷く。

「そうなんだよ、そうなんだよ!」

「ほんと和むんだよね~。講義で疲れてても、ミーティングに来て美咲に会ってわしゃわしゃ~ってするとすぐ元気になっちゃうの」

「え! 美咲先輩にそんなこと……や、やってみたいです……」

「おう、やっちゃえやっちゃえ! たぶんなんだかんだで受け入れてくれるぞ」

 美咲は自分の話をされていることに気付いたのか、「む?」と薄い唇を尖らせた。しかしそれ以上は何もせず、また幸太郎に向き直ってにこにこと笑う。なんだこの現世の癒しを凝縮したかのようなハムスター先輩は。

(先輩、慕われてるなぁ)

 でもなんだか……と、ちょっとした違和感を持つ。

 先輩たちは美咲のことをとにかく可愛いと言っている。けれどそれは女性としての魅力というよりは、マスコットとしての可愛さといった認識のようだ。

 それだけ美咲が慕われているという証拠でもあるのだが、一目惚れした幸太郎としてはやはり違和感が拭えない。可愛くて綺麗で、ちっこくて胸が大きい先輩。

(鬼のようにモテてもまったくおかしくないのに……)

 思考を巡らせながら、結局自分は『美咲に決まった相手はいるのか』というところが気になってしかたないのだと気付く。わかりやすすぎる欲求に自分で呆れる。呆れてなお、美咲の周りの人はもっと違う魅力に気付いてほしいと思った。まるでどこかの都道府県の観光大使にでもなったかのような気分だ。

(今なら彼氏がいるか聞けるか? うーん、でもなぁ……)

 超がつく奥手で、今まで女性に告白したことさえない。さらりと聞けばいけそうなものだが、どうにも聞くことができない自分が情けなくてしかたがない。

「ったく、みんな子ども扱いしやがって……」

 うんうんと唸っていると、美咲がくぴくぴとチューハイを呑みながらぼやいた。同じことを考えていたらしい。

 何か先輩に話を……と考えていると──不意に、美咲の首筋が見えた。色っぽく赤らんだ素肌。半袖の白ワンピースという服装で脚を横に流している姿勢も相まって、まじまじと見つめてしまうほど強烈に魅力的な光景。

 思わず、ごくりと喉が鳴った。

 さほど大きくない音だったけれど、美咲にははっきりと聞こえていたようだ。幸太郎が顔を逸らすよりも早く、のほほんとしていた美咲がハッと振り向く。視線が合って固まると、美咲がじっと見つめてきた。

「……コータロ? 今、目がケダモノみたいだったぞ?」

「え!?」

 真顔のまま告げられた言葉に、胸がギュッと締めつけられる。幸太郎自身、初めての経験だった。女を見るギラついた男の目を自分がしていたことに、驚くと同時に強烈な自己嫌悪に苛まれる。

「ご、ごめんなさい……!」

 女性にこんな目を向けてしまえば確実に引かれてしまうだろう。惚れた先輩に何てことを……! と思っていると、美咲は真顔のままで幸太郎を見つめてきた。

「……コータロは、アタシのこと子どもだなって思わないのか?」

「……へ?」

 思わぬ質問に間抜けな声を漏らしてしまう。周りはそれぞれの会話に夢中で、誰もふたりを見ていなかった。

 よくわからない。よくわからないが、これは自分の誠意を伝えるチャンス。

 そう思い、コップをテーブルに置いて必死に思考を巡らせる。

「えっと、先輩は、その……たしかに背は小さいですけどいてっ!」

 美咲に手の甲をつねられた。さらに、むぅ……と唸って睨んでくる。怖くないどころか、このまま何時間でも睨んでいてほしい。

「でも……子ども、とは思わないです」

 幸太郎が続けた言葉に美咲が目を見開く。それから目をぱちくりとさせ、長い前髪をちょいちょいとかき分け、まるで幸太郎の本音を決して見逃すまいとするかのようにじっと見つめてくる。

 心臓がバクバクと高鳴るのを感じながら、幸太郎は言葉を続ける。

「子どもとは思わないというか……むしろ、先輩はすごく大人びた顔をしてますし、すごく綺麗だし、それに色っぽ……ああ、いや、最後のはなんでもないです、手をつねらないでください!」

 ふたたび手の甲を美咲がつねってきたが、その顔にはにやりといたずらっぽい笑みが浮かんでいた。

「へ~。コータロはアタシのこと、そんなふうに思ってんだ?」

「は、はい……まぎれもない本音です」

 ぽつりと呟くと、美咲の小さな手が幸太郎の手の甲をいたわるようにすりすりと撫でた。

「……この、スケベヤロウ」

「ええ!?」

 まさかの呼び方に驚く。詳しく聞きたかったが、美咲はけらけらと笑うばかりで取り合ってくれない。

(怒ってはない……よな……?)

 美咲の言う『ケダモノみたいな目』をした時点でもうお終いかと思ったが、美咲は気にしていないどころか先ほどまでよりも上機嫌になっている。ホッとひと息をついた。

 チューハイを呑むペースが上がっているような……? とハラハラしながらも、のんびりとした時間が続いた。

       ×  ×  ×

「うははは、そんでな、そんでな……おお~い? 聞いてるのかコータロ?」

「はいはい、聞いてますよ。先輩は小学五年生までは背の順で一番後ろだったんですよね?」

「そうそう、それからどんどん前にスライドしてってなぁ……って、何言わせてんだこら~……」

 呑み会の後半、美咲はベロベロに酔っていた。

 他の新入生はいったん呑み会を区切ったところでみんな帰ったのだが、幸太郎は留まった。周りの先輩は「美咲に絡まれてかわいそう」「美咲の面倒を見てくれている」などと思っているのかもしれないが、幸太郎からすれば美咲の無防備な可愛らしいところを見られるのだから僥倖でしかなく、帰れと言われても残るつもりだった。

「うはは~、お酒って意外と大したことらいな~。な? コータロ」

「……そうですね」

 酔いどれハムスターが可愛くてしょうがない。美咲はたしかに酔っているが、具合を悪くするほどではない。赤ら顔で上機嫌、なおかつ呂律が回らない。先ほどから先輩たちが美咲を見てはあまりの愛嬌に悶絶している。

「ほら、先輩。たまには水を飲んでください」

「あぁ~ん? チューハイだって立派な水分だろ~?」

「バカなこと言ってないで、ほら」

 水の入ったコップを赤ら顔にぐいぐいと寄せると、美咲がホケッとした顔で小さな口をぱっくりと開いた。

「え」

「はやふ~」

 い、いいのか……!? と周りを見ると、ちょうど視線が合っためぐみがにっこり笑いながら親指を立てた。いいらしい。美咲はなぜか目を閉じている。まつ毛が長い。いや、そうじゃなくて。谷間が見える。いや、だからそうじゃなくて。混乱している。非常にまずい。

「じゃ、じゃあ、いきますよ……」

「ほ~い」

 おそるおそるコップを寄せ、薄い唇にぴとりとつける。

「んっ……」

 コップがひんやりとしていたのか、美咲が悩ましげに眉をひそめた。ぞくっとするような色っぽい仕草。周りに聞こえないように小さく喉を鳴らす。

 震える指で慎重に、慎重にコップを傾ける。

「んっ……んっ、んっく、んふぅぅ……っ」

 悩ましい吐息に目まいがしそうになる。よし、いったんコップを離して……と思った途端、美咲がうっすらと目を開け、視線が絡み合った。とろんとした瞳に見惚れ、緊張でコップを持つ手が震える。

「ふあ……っ?」

 数滴の水がボタンの開いたワンピースの内側に落ち、深い谷間に吸い込まれてしまった。

「ご、ごめんなさい!」

「気にすんなって~。アタシこそごめんな」

 美咲がさして気にするでもなく、にへっと力の抜けた笑みを浮かべてティッシュで拭き取る。美咲の谷間は正面からはほとんど見えないが、幸太郎からははっきりと見える。とんでもない光景を目の当たりにしてしまった。

「い、いえ……俺こそ、すいません」

 謝る言葉にまるで心がこもらない、というよりは心を込める余裕がない。

「幸太郎くん、ほんとに懐かれてるねー」

 ふたたびチューハイをくぴくぴと呑む美咲を呆れて見ていると、めぐみがそっと話しかけてきた。

「え? そ、そうですかね……?」

「そうだよ。美咲とは初めて新歓に来たときから一緒だけど、男の人にこんなに気を許すとこ、見たことなかったもの。なになに、どんな口説き方したの?」

「へ!? い、いや、そんなことしてないですよ!?」

 思い当たるとすれば、美咲とはすごく気が合って、あとは美咲が女性として魅力的であることを本音のままに告げたことだろうか。……思い返すと立派な口説き文句かもしれない。変な汗が手に滲む。

「ふふ、どうなんだかね。ま、どっちにしろ美咲は幸太郎くんに任せとけば安心みたいだから、よろしくね」

「わ、わかりました」

 めぐみがふたたび場を離れる。ひと息ついていると、ふと視線を感じた。ちらりと横を見ると、美咲がチューハイをくぴくぴ呑みながら幸太郎をじーっと見つめている。

「コータロは、彼女はいるのか?」

「へっ!?」

 自分から聞きたいと思っていた質問をされ、心臓が直接ぶん殴られたかのように激しく高鳴る。美咲の瞳はどこか真剣みを帯びていて、呂律もいつの間にか戻っている。

「い、いないですよ。というか、いたことないですし……」

「ふ~ん? ま、そうだろうな」

「ひどくないですか!?」

 悲痛さの入り混じったツッコミをすると、美咲がけらけらと笑う。なんだかとても嬉しそうだ。

「あ、あの、先輩は……」

「ん~?」

「か、彼氏、とか、い、いるんですか?」

 自分の心音がはっきりと聞こえるほどの緊張。勇気を振り絞った幸太郎とは対照的に、美咲は目をぱちくりとさせ、それからにやりと不敵な笑みを浮かべた。

「ん~……? へ~……?」

「な、なんですか……」

 美咲はとんでもなく楽しそうだ。チューハイを呑み、にんまりと笑い、またくぴくぴと呑む。

「どっちだと思う?」

 そっと顔を寄せ、小悪魔めいた笑みを浮かべる。ほんのちょっとだけ腹立たしく思うも、それ以上に、昏倒してしまいそうなほどの強烈な魅力にやられてしまった。

「え、ええっと……うおっ!?」

 美咲が二の腕にそっと触れてくる。可愛らしい仕草からは想像もつかない、蠱惑的な手つき。しかし動揺しているうちにするりと離れてしまった。弄ばれてる……! と思いながらも、このやりとりが楽しくてしかたがない。

「……いねえよ。てか、いたことねえし」

「え……っ」

 美咲がぽつりと呟き、拗ねたようにチューハイを傾ける。

「ほ、ほんとですか?」

「チューハイがなくなったなー」

「はいどうぞ。で、ほんとですか?」

「……ほんとだよ、ばーかばーか」

 酒気を帯びた美咲の顔がさらにぽっと赤らむ。ぽしょりと丸っこい声で罵ったかと思うと、幸太郎の脇腹にぴしぴしと貫手をしてきた。ちょっと痛いしくすぐったいが、照れ隠しが可愛すぎて表情筋が溶け落ちそうだ。

「あ、そうだコータロ。実家の猫コレクションを見せてやろう!」

 美咲がにかっと笑い、「ええと、スマホはバッグの中だっけな……」と呟いてキョロキョロと探す。

 お、あったあった、と美咲がバッグに手を伸ばし、幸太郎に尻を向ける形でよつんばいになった。

(う……っ!?)

 口にしていたウーロン茶を噴き出しそうになる。白のワンピース越しに、お尻がこれでもかと強調されていた。

(お、大きい……っ!)

 ちっこい背丈からは想像のつかない、安産型の大きな丸尻。その上ワンピースの生地が薄いのか、うっすらとショーツのラインが浮き出てしまっている。

 慌てて顔を逸らした。見ていた時間は一秒にも満たなかったが、先ほどの谷間と大きなお尻が脳内をぐるぐると駆け巡り、なかなか頭から離れない。

「よし、準備ができたぞ……って、んん? どうした?」

「い、いえ、なんでもないです」

「なんかエッチなこと考えてたらブッ飛ばすぞ?」

「うぇっ!? そ、そんな、ことは、ぜんぜんいてててて!」

 問答無用で太ももをつねられた。冤罪でもないため反論できない。

「よし、アタシんちの猫たちをとくと見るがいいぞ、スケベ太郎!」

「そのあだ名はほんと勘弁してください……」

 によによと笑いつつも、美咲はスマホの画面を見せようと身を寄せてきた。スケベとイジりつつも気を許してくれていることに安心する。うなじ、胸、尻と注意すべきところが多すぎるな……とため息をついた。

       ×  ×  ×

 一度は呂律が戻った美咲だったが、幸太郎が実家の猫のことを褒めそやすと上機嫌になり、ふたたびチューハイをくぴくぴと呑みはじめてしまった。呂律がどんどん回らなくなり、周りの先輩も心配し始める。

「先輩、さすがにそれ以上はぁ……っ!?」

 ここは心を鬼にして酒を取り上げようと声をかけると、美咲の細い腕が幸太郎の腕にするりと絡みついた。

 柔らかすぎる感触が腕に当たり、髪の毛が逆立つような衝撃が全身を駆け抜ける。周りの先輩たちも「うおおお!?」と沸いた。

「はっはー! コータロ、かおがまっかじゃらいか~」

「ちょ、先輩!? 何やっ……て……」

 美咲は二の腕に抱きついたまま、気持ち良さそうにすぅすぅと寝息を立て始めてしまった。自由すぎる。猫のように丸まる美咲を見て、めぐみが困ったように笑う。

「そろそろお開きにしよっか。美咲の介抱を誰かにしてほしいんだけど……わたしは明日の朝からバイトなんだよね……。誰かお願いできる人、いない?」

 めぐみが周りの先輩たちに尋ねるも、みんなことごとく用事があって残れそうにない。

(ん?)

 先輩、大丈夫かなぁ……と心配していると、いつのまにかめぐみたちがじーっと幸太郎を見ていた。

「へ?」

 間抜けな声を漏らしつつも、先輩たちが自分に何を求めているかはすぐにわかった。

 わかったが、さすがにそれは……と思っていると。

「幸太郎くん、君は社福に入ってくれるつもりなんだよね?」

 めぐみがわざとらしく咳払いをして、神妙な顔で尋ねてきた。

「へ? あ、……はい。そのつもりです」

「それなら、先輩の無茶ぶりに応えたり、集団活動に支障をきたしたりするような問題も起こさないと誓えるね?」

「前半だけすごく理不尽なんですけど!?」

「ごめんね幸太郎くん……でも、君なら大丈夫だと思うの」

 無茶ぶりから一転して、めぐみがパンと手を合わせて切実な表情でお願いしてくる。

「い、いや、でも、さすがにまずくないですか!?」

「大丈夫だよ、適当なところで帰ってくれていいから。帰り道はわかる?」

「は、はい、それは大丈夫ですけど……」

 めぐみが「君ならできる!」とでも言うような、やたらと爽やかな笑みを浮かべて親指を立てる。

(え、なんでこんなに信頼されてるの?)

 見回すと、周りの先輩も男女問わずうんうんと頷いている。もしかしなくても、早く帰りたいだけじゃ……? と思った。美咲の状況もさほど深刻ではないし、本当に忙しいのかもしれない。

「うーん……わかりました。三十分か一時間くらい先輩の様子を見ておけば大丈夫ですよね?」

「そうだね、それくらいで問題ないと思う。何かあったときのために連絡先を交換しておこうか」

 めぐみと連絡先を交換すると、先輩たちが手早く片づけを始めた。幸太郎は美咲に抱きつかれたままで動くことができなかった。

 片づけを終えると、先輩たちが「ごめんね」「よろしく」と口々にあいさつして部屋を出ていく。

「幸太郎くん」

 最後に出て行こうとしためぐみが足を止め、幸太郎の前にひざをついた。

「はい、なんでしょう?」

「幸太郎くんはさ、美咲のことが好きなの?」

「うぇっ!?」

 思わぬ質問に変な声を上げてしまう。美咲がぴくりとして「んん……?」と可愛らしく眉根を寄せたが、幸い起きることはなかった。

「な、何をそんな、急に……」

「ふふ、見てたらわかるよ」

 めぐみが囁き、艶然と微笑む。美咲とはまた違った大人の笑みにドキリとする。

「美咲、君のことすっごく気に入ってるみたいだよ。最初に出会った日から、美咲ったら君のことばっかり話してるんだから」

「え、ええ!? そ、そうなんですか……?」

 想像さえしていなかった吉報に声が上ずる。

 めぐみは「そうそう、そうなの」と楽しげに笑い、美咲を穏やかな目で見つめる。

「他の人は、幸太郎くんが美咲に手を出したりなんかしないって思ってるかもしれないけど……さっき言ったでしょ? 『集団活動に支障をきたすような問題』は起こさないようにって。でもそれって、ふたりが同意の上だったら何も問題ないと思わない?」

「え、えっと、つまり、何が言いたいんですか……?」

 めぐみは美咲の髪を優しく撫でると、幸太郎をじっと見つめて薄く微笑んだ。

「この子が嫌がらなかったら、幸太郎くんがしたいこと、していいと思うの」

「…………っ」

 あまりにもあけすけな言葉に目を見開いてしまう。

 あ、言っとくけどね……と、めぐみが人差し指をぴっと立てる。

「本人から聞いたかもしれないけど、美咲は今まで彼氏ができたこともないし、わたしも友人をほいほいとやばいことに巻き込むようなことはしたくないからね? わたしは美咲のことが大好きだから。幸太郎くんは信用できると思ったからこんな話をしてるの」

 めぐみは、「これでもけっこうドキドキしてるんだから」と自分の胸を押さえて苦笑する。

「美咲、奥手だから。幸太郎くんが何もしなければ、たぶん何も起こらないよ。でももし、何かしたくなって、それで美咲が嫌がってないなって思ったら……そのときは、その……あとで事細かに報告をお願いします」

「最後のはなんですか!?」

 めぐみが「冗談だよ、冗談」と手をひらひらと振って笑う。どこまで本気なのかいまいちわからず、さっきから心臓が言うことを聞いてくれない。

「ま、もし上手くいったら報告はしてほしいかな。美咲からでも、幸太郎くんからでもいいから」

 めぐみは言うだけ言って立ち上がり、バッグを持ってすたすたと歩いていく。

「じゃあ、おやすみ。ご武運を祈る!」

「ええ……? お、おやすみなさい……」

 戸惑う幸太郎に微笑みかけ、めぐみは帰ってしまった。

 あれだけ騒々しかった部屋がしんと静まり返り、美咲がすぅすぅと気持ち良さそうに立てる寝息だけが聞こえる。可愛い寝顔だな……と思ったところで慌てて首を振った。

「お、俺は何を……」

 考えてるんだとは思ったものの、本来踏むべきブレーキをめぐみが壊してしまったため、幸太郎は本当にどうしたらいいかわからなくなっていた。

 美咲に何もしたくないわけはない。もしも想いが通じ合えるならば、やってみたいことはいくらでもある。

 けれどそれは、あくまで美咲の気持ちをきちんと知ってからの話だ。

「……まずは様子を見ないとな」

 美咲の顔はまだ赤らんでいる。きちんと介抱しよう……と思いつつ、髪をそっと撫でた。

「ん……っ」

 美咲が悩ましい吐息を漏らし、気持ち良さそうに薄い唇をむにゃむにゃと動かす。

(だめだ、死ぬほど可愛い)

 介抱だけして帰ることなどできるのだろうか……と、心底不安に思った。

       ×  ×  ×

 美咲は幸太郎の腕にキュッと抱きつき、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。柔らかな感覚にじりじりと理性を炙られながらも、幸太郎は空いた左手でスマホをいじり、何とか平静を保とうとしていた。

(SNSは……今はちょっとまずいかも)

 タイムラインには色っぽい女性のイラストがよく流れてくる。今この状況で見てしまうと、終盤に差し掛かったジェンガのようにかろうじて保っている理性の壁が、いとも簡単に崩れ落ちてしまう気がした。

「んん……っ? あれ、コータロ? 何してんだ?」

「あ、先輩。起きたんですね」

 呂律は戻っているが、酔いは残ったままのようでなんだか寝ぼけている。目をくしくしとこする仕草に悶絶した。

 他の人が全員いなくなって片づけも済んでいるのだが、美咲はぽけーっとしていて周りの変化に気付いていない。幸太郎の腕に抱きついたままなので、本当に寝ぼけているんだろうなと思う。

「う~ん……トイレ……」

「あ、はい、行ってらっしゃい……」

 そういうことはあまり言わないほうが……とは思ったが、ツッコんでもまともな返事はなさそうだ。美咲は幸太郎の肩をつかんで立ち上がると、くしくしと頭を撫でてきた。気持ちは良いがなぜ撫でられたのだろう。

「アタシは~、トイレに! 行くはぶっ!?」

「先輩!?」

 歩き始めて二歩目で派手につまずいた。何か落ちていたかと思ったが特に見当たらない。ただ足がもつれただけなのだろう。幸いにも、こけた先にクッションがあったので美咲の顔は守られていた。

(うわ……っ!?)

 美咲が倒れて顔を突っ伏したことで、豊満な尻がこれでもかと言わんばかりに強調されてしまっていた。ワンピースの内側に見えるショーツのライン。色までわかりそうだな……と考えたところで、慌てて首を振った。

「大丈夫ですか?」

「う~ん……いつもすまんねえ」

「それは言わない約束ですよ」

 美咲が小さく「ぷふっ」と噴き出した。

「やるではないか……」

「何のキャラですか……」

 どこぞの王様のような口調で頭を撫でてくる。優しい手つきが心地良い。

 今度は転ばずにトイレに向かったので、今のうちに心を鎮めようと猫動画を見ることにした。

       ×  ×  ×

 猫じゃらしではしゃぐ三匹の子猫に和んでいると、美咲が戻ってきた。

「た~だいま~」

「おかえりなさい」

 美咲はふたりきりでいることに疑問を抱かないのか、幾分酒気が薄れた顔に笑みを浮かべたまま幸太郎の脇に歩み寄り──あぐらをかいた幸太郎の太ももに寝そべった。

「うぇっ!?」

「はっは~、ちょっと硬いけど、なかなか良いじゃないか~」

 いわゆるひざ枕の体勢。美咲は上機嫌に笑うと、驚く幸太郎に構うことなくふたたび眠ってしまった。

「マジか……」

 なおさら身動きが取れなくなり途方に暮れる。まあ、さっきみたいに胸も当たってないだけ耐えられるか……と思った瞬間、美咲がころんと寝返りを打った。

「う~ん……」

 美咲の目と鼻の先に、自分の股間がある。さっきよりはまだマシ、という考えはあまりにも甘かった。

「ちょ、ちょっと、先輩……っ」

「う~ん……? ……んー、んふふ~……っ」

 幸太郎の声を聞いているのか、それとも楽しい夢でも見ているのか、美咲はふにゃりと柔らかな笑みを浮かべるばかりだ。死ぬほど可愛いが、今その笑顔を見ると余計にまずいことになる。

 先輩たちが換気したことで酒臭さは抜けて、美咲の部屋の良い匂いだけが香っていた。それに加えて美咲の髪からも甘やかな匂いがする。身体が正直に反応して、むくむく、とジーンズの内側が張り詰めてきた。

「んん~……?」

 幸太郎がびくりとしたことで、美咲は目を閉じたまま眉をひそめた。とりあえず上を向いてくれ……! と願ったが、美咲は何を思ったのか身をよじり、さらに股間に顔を寄せた。

「ちょ……っ」

 止めることもできないまま、美咲の鼻が今にも膨らんだ股間に触れそうになる。

 まずは手で先輩を押し戻そうかと考えていると──細い指が股間の膨らみに触れた。

「うぁ……っ」

 心臓が甘く跳ねる。物心ついてからは自分しか触れたことのない場所に、一目惚れした先輩が触れている。優しい感触とかすかで焦れったい快感が脳を焼き焦がす。

「んん……っ」

「く……ぁ……っ」

 美咲は目を閉じたまま、股間をふにふにと触り続ける。止めなければと思いつつも止められない。迷いに迷っているうちに美咲のもう片方の手が伸びてきた。

「う……ぁ……せ、先輩、だめですって……っ」

 ふに、くにくに、ふに、ふに。

「んふ~……?」

 美咲は夢の中で何かを触っているのか、肉幹の硬度が増すにつれてどんどん手つきが熱心になっていく。ジーンズ越しとはいえ、惚れた女性に両手でまさぐられてはたまらない。

 今まで経験したことのない興奮が脳を焦がし、下腹部がみちみちと張り詰めていく。

(これ以上は本当にまずい…!)

 美咲を押し倒しかねないほどの興奮に危機感を覚えていると──。

「う~ん……」

 美咲がふたたびあお向けに寝転んだ。助かった、と心の底から安堵する。

 いったんトイレに行こうと、美咲の上半身を支えてするりと抜け出し、クッションを枕にして寝かせる。美咲は目を閉じたまま、「なんだなんだ~?」と眠りながらも楽しそうに呟いて幸太郎のすねをぺちぺちと叩いた。

 耐えきったことにホッとしつつも、先輩を起こさないようにそーっとリビングを出た。

       ×  ×  ×

 洗面所の手拭きタオルはふかふかで、手を拭くとふわりと良い香りがした。

「ん~……なんか暑いな~……」

 リビングから美咲の声が漏れ聞こえた。

(お酒を呑んで熱くなったのかな)

 もう一度窓を開けて換気するか……と思いながらリビングに戻ると──。

 美咲は白のワンピースを脱いでいた。

 下着姿。

 可愛らしいフリルのついたピンクのブラとショーツ。

「え」

 幸太郎の思考が固まる。目の前の女体に目が釘付けになる。

 幸太郎から見て横向きの美咲の身体は、ぽよんと柔らかそうな豊乳のラインがとても美しく、お尻は小さな身体からは想像がつかないくらいむっちりと大きく、フリルのついたショーツがちょっとキツそうに見えた。

 初めて見る女性の下着姿は、綺麗で、可愛くて、色っぽくて、生々しかった。呼吸のしかたを忘れた。

「ん?」

 美咲は幸太郎を見て、こてんと首をかしげる。まるで『なんでここにいるの?』とでもいうように。

『……………………』

 見つめ合うこと一秒、二秒、三秒。

 ふたつの喉が爆ぜた。

「ぬわぁぁぁぁぁぁ!?」

「ごごごごめんなさいぃぃぃ!? すぐに出まぐはっ!?」

 それぞれに悲鳴を上げ、高速で振り返った幸太郎は閉まったリビングのドアにおでこを強打した。

「コココココータロ、帰ったんじゃなかったのか!? ていうか大丈夫か!? 撫でるか!? 『痛いの痛いのとんでけー』とか言うか!?」

「なんでそんな子どもだましのおまじないを試そうとするんですか!? でもご心配ありがとうございます! ていうか先輩、その格好、その格好……! は、はい、毛布です!」

「なんだよその気の利きようは!?」

 お互いが心配し合いながら、幸太郎はきつく目を閉じ、美咲は受け取った毛布を身体に巻いてうずくまる。

「せせせせ先輩!? なんでそんな格好に!?」

「だだだだだって、目が覚めたらコータロがいなかったから! 帰ったんだなー、ダルいなー、暑いなーって!」

「帰るときはちゃんとあいさつしますよ! 何も言わず先輩を置いて帰るわけないじゃないですか!」

「この状況下でもコータロの好感度が爆上がりしてるんだが!? ほんとごめん! ごめん!」

挿絵2

 こういうとき、漫画では「何見てんのよ!」と顔を真っ赤にした女子にぶん殴られたり、物を投げつけられた

りしていたような。顔を真っ赤にしているところは同じだが、なぜか美咲に謝らせてしまった。

「俺こそすいません!」

「そそそそうだぞ! あんな舐めるように見つめやがって!」

「舐めるように!?」

 自分の視線は思ったよりも獣じみているらしい。これからは注意しようと心に誓った。

 はぁ、はぁ、はぁぁ……とゆっくりお互いの呼吸が落ち着いていく。

「コータロ、こっち来いよ。目ぇ開けていいから」

 背中を向けて瞑っていた目を開き、おそるおそる振り返る。そこには毛布にくるまった美咲が顔だけ出してちょいちょいと手招きしていた。言われた通り、大人しく隣に座る。

「コータロ、もう一回聞くけど……見たんだな?」

「え、えっと、はい、ばっちりいててて!?」

「はっきり言わんでいい!」

 二の腕をつねられた。美咲は顔を真っ赤にして怒っている。ぷんぷん、という擬音が似合いそうな怒り方が可愛くてしょうがない。

 幸太郎の二の腕を解放すると、美咲はぷいと顔を逸らした。

「……どうせ、あれだろ? 『ぷっ、ちまっこい身体ですねwww』とか思ったんだろ?」

「先輩の中で俺はどんなゲス野郎になってるんですか!?」

 幸太郎の返しに、美咲が拗ねた表情を一転させてぷっと噴き出す。それから、じぃっ……と幸太郎を見つめ、にやりとワルい笑みを浮かべた。

(なんか嫌な予感がする!)

 美咲はまだ酔いが残っているのか、あるいはまだ恥ずかしいのか、頬が紅潮している。けれどそれ以上に、幸太郎をからかいたくてしょうがないという顔をしていた。

「じゃあ、どう思ったんだ? ほれほれ、言ってみろよ」

「え、ちょ、先輩……っ!?」

 美咲が毛布にくるまったまま、ずいと近寄ってくる。幸太郎の両脚の間にするりと入り込み、正面から向かい合う。しっとりと潤んだ瞳で幸太郎を見つめ、毛布をはだけさせて肩口を覗かせた。驚くほど白い肩に目が離せない。

「ん~? どうしたんだ~? ほれほれ、言ってみろよ~」

「い、いや、その、先輩、それは……っ!」

 美咲が顔を真っ赤にしながらも、徐々に毛布をはだけさせていく。二の腕が覗き、美しい鎖骨、柔らかそうな乳房の深い谷間まで。美咲の中では、幸太郎をからかいたい欲求が羞恥心を上回っているらしい。

「え、ええっと、その、い、言います! 言いますから……っ!」

 紅潮した先輩の顔が目の前まで迫ってきた段階で、ようやく覚悟を決める。美咲はわかりやすいくらいに瞳を光らせてワクワクしていた。

「その、先輩の下着姿は、すごく色っぽくて、綺麗で、でも可愛くもあって……あと、ええっと、胸もお尻もすごく大きくていててっ!?」

「途中までは良かったのに! なんだ最後のは!?」

「いたたたた手の甲をつねらないで! お尻も素敵ですよ! 俺、すごくグッときましたし!」

「そういうことを臆面もなく言うんじゃない! このケダモノが!」

「先輩は俺に何を望んでるんですか!?」

 ひとしきり騒いで落ち着くと、美咲は顔の近さはそのままに「ふーん……」と呟いた。

「そんなふうに見るんだなぁ……コータロは」

「他の人はそんなふうに見ないんですか?」

「男に見られたことなんてないからなぁ……あ、でも、去年の夏合宿は海だったから……」

「え!? 先輩、水着を着たんですか!?」

「食いつきすぎだバカ……着たけど、パーカーを羽織ってたからな。男どもはアタシの水着を見てねえよ」

 まあ、見たところで興味を持つかはなはだ疑問だけどなぁ……と自虐的に苦笑する。

「そんな……みんな見惚れるに決まってますよ。先輩、めちゃくちゃ綺麗ですし」

「……なんだコータロ、急にタラシみたいになってねえか?」

「……正直な感想を口にしたんで、ちょっと口がゆるんでるかもですね」

「このスケベヤロウ」

「なんでですか!?」

 他愛のないやりとりにくすくすと笑い合う。

「なあ、コータロ」

「え? せ、先輩……?」

 美咲がひざ立ちになり、幸太郎の肩に両手を乗せる。顔が近いというよりは唇が近い。甘い匂いが鼻腔を浸す。自分の名を呼ぶ澄んだ声が耳朶に染み渡る。

「コータロは……アタシのこと、どう思ってる?」

 美咲の猫っぽい目がしっとりと潤む。この表情をずっと見ていたいと思った。

「えっと……好き、です。一目惚れでした」

「ふぁ……っ」

 驚くほどあっさりと出た、生まれて初めての告白の言葉。美咲が目を見開き、口をぱくぱくとさせて変な声を出す。あまりにも可愛らしい慌てように、幸太郎はかえって冷静になった。

「そ、そうか、へー、そうなのか、ま、まあな、そうなるわな……」

 何が『そうなるわな』なのか全然わかんないですけど、というツッコミは飲み込んだ。 

 言葉を交わしながら、ふたりの顔が近付く。示し合わせたようにふたりが顔を傾ける。

「先輩は、俺のことどう思ってるんですか?」

「へぁ? ア、アタシはその……まだ、正直よくわかんないんだ。ご、ごめんな、はっきりしなくて……」

 ちょっと申し訳なさそうに言いながら、細い腕をするりと幸太郎の首に回す。幸太郎も美咲の首に腕を回す。唇が触れていないのが不思議なくらいの近さ。

「で、でもな? コータロと一緒にいるとすっごく楽しいんだ。何時間でも、もしかしたら何日でも、一緒にいたくなるような……そんな感じがするんだ。これじゃあ、その、だめ……か?」

 不安げで、すがるような上目遣い。くらりと目まいがした。

「ぜんぜんだめじゃないです。少なくとも、こういうことをするのは嫌じゃないんですね?」

「ん、ぜんぜん嫌じゃないぞ。ドキドキしすぎて心臓がやばいけどな」

 くすりと笑みを交わす。澄んだ目がうっすらと細められた。

「ん……っ」

 唇が、自然に、とてもスムーズに重なる。あむ、あむとついばみ、互いの気持ちを確かめ合うようなウブで穏やかな口づけ。

(ああ、なんだこれ……すごく幸せだ)

 今までの人生でだって、楽しい、幸せだと思ったことはたくさんあったのに。それらをすべて押しのけて、今この瞬間が一番幸せだと思えた。

「……ぷはっ。どうだ、ファーストキスの感想は」

 唇を離した美咲が、とろんと蕩けた瞳で見つめ、笑みを浮かべる。愛おしくてしかたがない。

「えっと……すごく柔らかくて、気持ち良くて……あとちょっと、お酒臭いです」

「最後のはいらんだろ!」

「うわっ!」

 美咲がはしゃぎながらツッコみ、幸太郎の肩を押さえて押し倒す。むふふ……と怪しい笑いを浮かべ、上から覆いかぶさってきた。信じられないくらいに柔らかな身体が心地良くのしかかってくる。

「んむ……んっ、ちゅっ、ちゅぴっ、ふぅっ、んふぅぅ……っ」

(うわ、うわ、うわ……っ!)

 美咲が毛布でふたりの身体を包み、ふたたび唇を重ねてきた。しかも今度は幸太郎の唇の合わせ目を舌でなぞってくる。そっと口を開いた途端に、小さな舌がするりと入り込んできた。

「はぁっ、んっ、ちゅぷっ、れるっ、んっ、んっ、んふぅぅ……へぁぁ……コータ、ロ……っ」

 長い前髪を耳に掛けながら、下着姿の身体をめいっぱいすり寄せて甘えてくる。いつまでも聞いていたくなる澄んだ声が、同じ女性なのかと疑ってしまうほど甘ったるく蕩けている。

(先輩……可愛すぎるだろ……っ!?)

 たまらず美咲の背中を抱きしめる。猫を抱っこしたときのような華奢な感触。柔らかな女体が色っぽくくねる。

「んふぅぅ……ちゅぴっ、あっ、やぁっ、んっ、んふぅぅ……ふっ、ふぅぅぅ……っ」

 背中をすりすりとさすり、小さな舌を啜ると、美咲がきつく目をつぶってぷるぷると震えた。痛かったかな、と心配したものの、嫌がっているようには見えない。

「へぁぁ……こ、こら、コータロ……さわりかた、あんっ、や、やらしい……あっ、あんっ、んふぅぅ……れるっ、はぷっ、んふぅぅ……っ」

 先輩、感じてくれてる……!

 幸太郎の指や舌が美咲を刺激するたびに、小さくて柔らかな肢体が悩ましくよじられ、頭蓋に直接響くとろみを帯びた嬌声を漏らす。全身をじりじりと炙られるような興奮が満ちていく。

「んふぅぅ……ふぁ? え、これ……っ」

 ショーツをぐいぐいと持ち上げる感触に気付いたのか、美咲は目を見開いて股間を凝視する。

「あー、その、はい、……先輩、可愛いし色っぽすぎるしで、こうなっちゃいました」

 ジーンズ越しでもはっきりとわかる、凶悪なまでの勃起。美咲が戸惑いを浮かべながらも、くいくいと腰を揺すって膨らみを刺激する。幸太郎が「うっ……」と呻くと、にんまりと笑みを浮かべた。

「コータロ、苦しいか?」

「そう……ですね。パンツに入れっぱなしなのは、正直しんどいです」

「それなら……ベッドで続き、してみるか?」

 幸太郎の胸に顔をうずめ、いたずらめいた上目遣いで見つめてくる。せいいっぱい先輩らしくリードしようととしてくれているのが、どうしようもないほど嬉しくて愛おしい。

「……はい、ぜひお願いします」

 このあと、可憐な美咲がいったいどれほどの艶っぽい表情を見せてくれるのか……いまだかつて経験したことのない大きな期待に、胸が躍った。

 美咲がベッドの掛け布団をめくると、それだけで女性特有の甘い匂いがふわりと舞った。ベッドのちょっとしたシワから垣間見える生活感にごくりと喉が鳴る。

「ほれ、コータロ。こっちこいよ」

 ぺたりと女の子座りをして、ぽんぽんとベッドを叩く仕草が可愛らしい。

 ベッドに上がると、美咲がずりずりとすり寄り、ジーンズ越しに膨らみを撫でてきた。

「……すごいな……」

「うっく、せ、先輩……っ?」

 美咲は幸太郎が息を荒らげて戸惑うさまを嬉しそうに見つめると、そっと唇を重ねてくる。

「ちゅっ、れる、はぷっ……んふふ、コータロ、ひくひくしてる……ちゅっ、ちゅぴっ……可愛いなー、もう」

 お酒の匂いがふたりの唾液にかき混ぜられ、とろり、とろりと押し流されていく。唇を重ねながら股間をまさぐられる快感。行為そのものは穏やかだが、幸太郎の血液は激烈な勢いで下腹部に流れ込んでいく。

「……先輩、脱いでいいですか」

「ん。いいけど……その前に訂正してもらいたいことがある」

「へ?」

「先輩、とだけ呼ぶのは味気ないな」

「……『日比谷さん』とかですかね?」

「なんだその微妙な距離感は……。名前で呼んでくれよ、ほら」

 ほのかに顔を赤らめながら、両手で『こいこい』と手招きしてくる。可愛いけどちょっと腹が立つ。

「ぐぅ……っ。み、美咲先輩……で、いいですか?」

「……良しとしよう」

 美咲が顔を逸らして震えている。耳まで真っ赤になっていた。意外と効いたらしい。

「じゃあ、脱ぎますね。美咲先輩」

「順応速すぎだろ……腹立つなぁもう……」

 拗ねた口調で呟く美咲に悶えながら、上着とTシャツを脱ぐ。

「ふわ……っ」

 美咲が小さな口をほわっと開け、どことなく幼い表情で惚けた。

「運動部にいたわけじゃないんで細いですけどね」

「いや、そんなことないぞ……なんていうか、ごつごつしてる……」

 照れながらも全力で見つめてくる。はしゃぐ子どものようだが、言ったら怒るのでやめておいた。

「それじゃ、下も脱ぎますね」

「お、おう。どんことい!」

 顔を真っ赤にしたハムスター先輩に苦笑しながら、幸太郎はジーンズを脱ぐ。ボクサーパンツは今まで見たことがないほどに張り詰めていた。

「はわわわわわ……もこってしてる……もこってしてる……っ!」

 エッチなことに興味津々なヘンタイさん、といった感じ。

 驚きで目を見開いた美咲が可愛らしくてしかたがない。脱ぐことに恥ずかしさはなかった。美咲の愛らしい反応を見ることができるのが何より楽しい。

 それじゃあ最後に……と呟き、パンツを脱ぐ。

「ほわぁっ!?」

 ぶるん、と現われた肉槍が下腹をびたんと叩く。天を衝くように反り返った肉幹。美咲は両手で顔を覆い、指のすき間から肉茎を凝視している。ベタだなぁ……と苦笑した。

「お、おっきくないか? 男の人ってみんなこうなのか……?」

 ひざ立ちになった幸太郎の男性器を、美咲が顔から手を外してじーっと見つめる。

「うーん、あんまりわからないですけど……平均よりは大きいみたいです」

「測ったことがあるのか?」

「……中学三年生のときに」

「定規で?」

「……定規で」

 急に恥ずかしくなった。美咲は幸太郎の赤面に気付かず、熱心に見つめている。

「うわ……っ!?」

 美咲が両手を伸ばし、肉幹をすりすりと撫でてきた。温かな指がつっ、つつっ、と這い回る。

「すごいな……カタくて、太い……それに長い……っ」

 いたわるような優しい手つきにかえって快感が増し、鈴口からどぷっとカウパー液が溢れ出た。

「ひゃっ……? これは何? 大丈夫なのか?」

「我慢汁ってやつです……。気持ち良かったり、興奮したりすると出るんです……っ」

「へ、へえ……そうなのか……」

 美咲が指の腹で鈴口をぴとぴとと撫で、細指に先走り汁をまとわせる。そのまま竿に透明な液体を塗りたくっていき、「おお、なんかエッチだな……」と呟いた。

「……んっ、すごい匂いがするな」

 美咲がすんすんと鼻を鳴らす。

「嫌ですか?」

 尋ねると、美咲は眉をくにゃりと曲げ、こてんと首をかしげる。

「ん、独特な匂いだけど……嫌じゃないぞ。というか、なんかクセになりそう……」

 さらりとすごいことを呟き、すんすんと鼻を鳴らし続ける。

「美咲先輩……エロすぎますよ」

「ふぁ……っ?」

 耳をくすぐると、美咲は顔を上げて震えた。幸太郎をじっと見つめながら、薄い唇をひくひくとわななかせる。ピンクの可愛らしい下着に包まれた身体をよじらせながら、力強く勃起した肉槍を撫でさすってくる。

「美咲先輩は感じやすいんですね」

「あっ、ふぁぁ……っ、そ、そうなのか? でもなんか、自分でするよりも……あ」

「……今、すごいことを言おうとしてましたよね?」

「ぅあっ、なんでもないっ、ひゃんっ、なんっ、で、も……やぁぁっ、耳ばっかさわるなぁ……っ」

 美咲が泣きそうな表情で艶っぽく喘いだ。

(美咲先輩って、ひょっとしなくてもMなんじゃ……)

 生身の女性経験がなくとも、今まで漫画や動画、ゲーム等々で様々な女性を見てきた。過去のデータから考えると、美咲はM……それも、ドMに思える。

「あっ、あんっ、……な、なあ、コータロ……」

「なんですか?」

「コータロは……こんなにおっきくて、ふとくて、カタいのを……アタシの中に、挿れたいのか……?」

 上目遣いで、まるで内緒話をするようなひそひそ声で囁かれた強烈な言葉。頭がぶん殴られたような衝撃を受ける。押し倒せとがなりたてる本能を必死で抑え込んだ。

「……そうですよ。挿れたいです。それも、すごく」

「…………っ、そ、そう、か……っ」

 美咲が目を見開き、瞳を泳がせ、どこか不安げに、それでいてどこか嬉しそうな、複雑な表情を浮かべる。言葉を交わす間も幸太郎は美咲の耳をまさぐり、美咲は肉幹をさすっていた。

「……だから、その準備をしましょう。美咲先輩、寝転がってくれますか?」

「う、うん……わかった」

 こくこくと頷く美咲の仕草は、まるで小動物のようで庇護欲をそそった。

 美咲はふたつのおさげをほどき、ころんと寝転がる。ゆるく波打った明るい茶髪が枕にふわりと広がった。

「コータロ? どうしたんだ?」

「いや、その……すごく綺麗だなーって」

「……そんなに凶暴なもんを見せつけながら、ピュアなこと言うなっての」

 思わぬカウンターに悶絶するが、美咲は美咲で赤くなった顔を横に向けている。ふくよかな胸の上で手を重ね、太ももをもじもじとこすり合わせる仕草がたまらない。

「それじゃあ、いきますよ」

「お、おう。どんとこい……」

 言葉と声音がまるでかみ合っていないさまに愛おしさを覚えつつ、美咲の太ももに跨る。美咲がぴくりと震え、ちらりと幸太郎を見上げ、また顔を逸らした。髪をそっと撫でると、猫っぽい目が気持ち良さそうに細められる。髪の毛はツヤツヤで、信じられないほど柔らかな手触り。

「美咲先輩、すごく可愛いです」

「ひゃっ……ふわ……あう、そ、そう、か……? はぅぅぅ……っ」

 一目惚れした先輩を真摯な目で見つめながら、髪をくしくしと撫で、徐々に耳へとすべらせていく。

「あっ……? ふわっ、やぁんっ、ふふっ、くすぐったいぞ……あっ、うんんっ、あっ、あっ……」

 ゆっくりと身をよじる美咲の声が徐々に蕩けていく。慎重に、慎重に……と自分に言い聞かせる。手の震えがバレやしないかと心配でしかたがない。

 体育祭のリレーのスタート前よりも、大学受験よりも、今この瞬間の方が緊張していた。動画や漫画とは違う、初めて触れる生身の異性の身体。いざこうして目の前にすると、どうすれば良いかわからなくなってしまう。

 けれど、それは美咲も同じこと。さっきだって、口づけしたときや肉竿に手を触れたときの彼女は震えていた。お互い、怖いくらい緊張しているのだ。

「んっ、はぁぁ……コ、コータロ、いいのか……? 胸とか、その、アソコとか、触らなくて……?」

 できるだけ慎重に、美咲の緊張をほぐすように……と意識していると、美咲が幸太郎の心情を見透かしたように気を遣ってくれた。嬉しくなって、緊張の糸がほわりとゆるむ。

「……先輩の身体をじっくり味わいたいんです」

 緊張をほぐすためにと直接的な表現を避けた結果、なんだか変態みたいになってしまった。美咲がくすりと笑い、温かな目で見つめてくる。

「……コータロは優しいな。ヘンタイみたいだけど」

「後半はいらないです……」

「事実だからしょうがないだろ? あんっ……」

 ちょっと凹みながらも美咲の身体をゆっくりと撫でる。肉感的な肢体の強張りがほぐれ、柔らかくなっていく。

「あっ、ふわぁっ、はぁうぅっ、んんん……っ」

 小さな耳、すべすべの頬、ぷるぷるの唇、細い首、綺麗に浮き出た鎖骨……と指をすべらせていく。腋をまさぐると、美咲が薄い唇をキュッと引き結んだ。くすぐったいのか感じているのか、いまいち判別がつかない。

 このあとはどうしようか……と迷っていると、美咲がうっとりと紅潮した顔で見つめてきた。

「コ、コータロぉ……もう、触っていいからぁ……っ。なんか、ジンジンするんだよぉ……っ」

「……っ、……わかりました」

 美咲が自分の乳房と幸太郎を交互に見つめ、懇願するように囁く。理性をたやすく溶かすような糖度たっぷりの声。普段の理知的な声も好きだが、だからこそ今の蕩けた声とのギャップにくらくらしてしまう。

 そろりと指を伸ばし、ブラの上から柔らかな膨らみに触れた。

「ふわぁぁ……っ? あっ、ぅあっ、あはぁぁ……っ」

 ほんの少し指を沈めただけで、極上の柔らかさだと一発でわかる心地良さ。美咲の反応も格段に跳ね上がり、内ももをきゅっとすり合わせて瑞々しい肢体をびくびくと震わせている。

「美咲先輩、痛くないですか?」

「ん、大丈夫……もっと好きなようにしていいから……あっ、あはぁぁ……っ」

 十本の指でブラの上をさわさわとまさぐると、美咲の表情から理性が溶け落ちていく。幸太郎の指を食い入るように見つめ、顔の横でシーツを掴み、唇を引き結んでは開くのを繰り返す。

「コ、コータロ……おつゆ、いっぱい出てるぞ……? 興奮してんのか……?」

「美咲先輩が本当に可愛くて色っぽいから、こうなっちゃうんです」

 美咲のぷにぷにしたお腹にぽたぽたとカウパー液が滴る。幸太郎の返事に薄い唇をもにょもにょとさせた美咲が、我慢汁にそっと触れた。お腹と指の間に引く透明で卑猥な糸に、美咲の細喉がこくりと鳴る。

「美咲先輩、すごく柔らかいです……」

「あっ、あんっ、いちいちっ、言わなくてっ、あっ、ふぁっ、はぁっ、んくぅぅぅ……っ!」

 ブラからはみ出た柔らかな乳肉に触れると、美咲の嬌声がいっそう糖度を帯びた。信じられないほど柔らかいのに、指を離せばぽよんと戻ってくる。極上の感触に身体中が愉悦で包まれる。

「あっ、んんっ、コータロっ、いいっ、それっ、すっごく、好きっ、かもっ……あっ、んくぅぅ……っ」

 美咲が幸太郎の手に自分の手を重ね、口を半開きにして熱っぽく見つめてくる。小さな手に力がこもった。もっと強くしてもいいのか……? と思い、開いた手にぐっと力を込める。

「あふぁぁぁっ!? はぁっ、あっ、あっ、ふあぁぁぁ……っ!」

「美咲先輩、痛くないですか? 大丈夫ですか?」

「んくぅぅ……コ、コータロ、それっ、心配してるヤツのさわりかたじゃっ、はぁうぅ……ないだろ……っ!?」

 ブラからはみ出した乳肉を波打たせながら尋ねると、美咲が艶めかしく身をよじらせながら抗議してきた。

「コータロのスケベ、ドスケベぇ……あっ、はぁぁぁ……あっ、あっ、あっあっあっあっ……」

 半開きの口からかすかによだれを垂らしながら、美咲が小さな手で凶悪に勃起した肉幹を掴んだ。後輩のねちっこい愛撫をたしなめるかのようにすりすり、すりすりと竿を撫で、すべすべの手のひらで亀頭を撫で回す。幸太郎が腰をがくがくと揺らすと、美咲が紅潮した顔ににひっと笑みを浮かべた。

「なんだ、コータロもっ、あんっ、感じっ、んんっ……やすいんじゃないか……あっ、はぁぁぁ……っ」

 蠱惑的に微笑みながらも色っぽく喘ぐ美咲にぞくぞくが止まらない。美咲は勃起肉をまさぐりながら、腰をくいくいと跳ね上げてきた。まるで肉幹に女性器をこすりつけようとするかのような艶めかしい動き。

「下も触っていいですか? いや……触りますね」

「へぁ……ふあぁぁっ!?」

 美咲の内ももを掴んで両脚をかぱりと開くと、ふにゃりと脱力していた美咲が可愛らしい悲鳴を上げた。

「やっ、やめっ……やだぁ……っ!」

 美咲の制止を気にもせずに下腹部にぐっと顔を寄せて凝視する。可愛らしいフリルのついたピンクのショーツのクロッチには大きな染みが広がり、淫猥な縦の筋が浮き上がっていた。

「うわ……これ、濡れてるんですよね? それになんだかやらしい匂いがする……」

 すんすんと鼻を鳴らすと、濃厚な甘酸っぱい匂いが鼻腔を浸した。

「う~!? う~、うぅぅぅ……っ! やめろやめろやめろぉ……っ!」

 両手で幸太郎の髪をぐしゃぐしゃとかき回してくる。泣きじゃくるような声の割にさほど力はこもっていない。

 ぐっしょりと濡れたクロッチに指を押し込むと、美咲のおとがいが跳ね上がった。

「んくぅぅっ!? あっ、うぁっ、やっ、そこっ、だめっ、なんでっ、こんっ、なっ、はぁうぅぅぅ……っ!」

 これまでの愛撫でよほど高まっていたのか、美咲の反応は尋常でないほどに激しい。どこか動物的な匂いも感じさせる喘ぎ方に、嗜虐心が次々と湧き出してくる。

 指の腹で卑猥な縦筋をなぞり、爪でかりかりとひっかく。

「あぁぁぁっ、だっ、だめっ、コータロ、コータロぉ……ひぃんっ! ひっ、ひぅぅぅぅっ!」

 美咲の腰が壊れたように上下動を繰り返し、ショーツの染みがじわじわと広がっていく。

 牝の匂いはさらにいやらしく香り、幸太郎の肉茎は今にもはちきれんばかりに勃起していた。

 爪で軽くひっかく場所を徐々に上にずらしていくと、美咲の反応がひときわ激しくなる場所があった。

「ぅはぁうぅぅっ!? だめ、そこ、クリ、クリだからぁっ、さわるなっ、さわんないでっ、おねがい、おねがいだからぁ……っ!」

 美咲がいやいやと首を振る。どこまでも嗜虐心を煽る反応。しかも本人の自覚がないことが恐ろしい。

「美咲先輩、クリ、感じるんですね?」

「ひぃっ、ひぃんっ……うん、すっごく、感じる……」

「じゃあ、いっぱい触りますね」

「ひぁぁんっ!? だめ、だめだめだめだめ……あふぁぁっ! はぁぁぁぁっ!」

 美咲の嬌声に獣性が混じっても、クリトリスの上を容赦なく、執拗にひっかく。少しずつ圧を強め、美咲の反応が最も高まる強さを探る。

「美咲先輩、顔、隠さないでちゃんと見せてください」

「やだぁぁ……っ」

「見せてください」

「……あぅぅぅぅ……っ」

 小さな手をどけると、美咲は顔を真っ赤にして泣きじゃくっていた。庇護欲がそそられるのに、もっともっといじめたくなる。

「脚も開いたままですからね。続き、いきますよ」

「ひぃんっ、ひぐっ、んくぅぅぅ……っ!」

 美咲が顔の横のシーツを掴み、まるで感電したかのように身体をびくびくと跳ねさせる。目尻に涙を溜めながら幸太郎を見つめ、目が合うと反応がよりいっそう高まる。

(なんだろう、すごく楽しい……)

 自分がこんなにSだとは思わなかった。美咲を見ていると、自然と口が、指が勝手に動く感覚。美咲が感じてくれているのが嬉しい。泣きじゃくりながらもねだるように下腹部を押し付けてくる仕草が愛おしい。

 もっともっとめちゃくちゃにしたくなる。

「あっ、あっ、あっ、あっ、だめ、だめ、もう、もう……っ」

「もう、なんですか?」

「イっ……イクっ、イっちゃうからぁ……っ」

「いいですよ、イってください」

「あっ、やっ、あっ、あっ、はずかっ、しぃっ、あっ、やんっ、こするなっ、ひっかかないでっ、腰っ、止まんなっ、あっあっあっあっあっ……んはぁぁぁぁっ!!」

 汗ばんだ肢体が限界を迎えた。ばね仕掛けのように跳ね上がった腰が、がくがくと激しく痙攣する。目の前でピンクのショーツにじゅわりと染みが広がった。まるでおねしょをしたかのような大量の愛液。

 重力を思い出したかのように腰がくたりと落ちると、美咲は呼吸を荒らげながら可愛らしく睨んできた。

「はっ、はひっ、はっ、はぁぁぁ……コ、コータロの、ばかぁ……っ」

 美咲が泣き声で囁き、両腕を伸ばしてくる。応えるように上から覆いかぶさって唇を重ねると、美咲は肉幹をまさぐりながら小さな舌を絡めてきた。

「んちゅっ、れるっ、はぷっ、ばかぁっ、んふぅぅ……へんたいぃ……れる……っ」

 熱い吐息と、咎めているのか甘えているのかわからない囁き声が心地良い。

「……嫌でしたか?」

 唇を離して確認する。気持ち良くなってくれていたのは間違いないが、だからといって美咲が不快な思いをしていないとは限らない。幸太郎の質問に美咲は目をぱちくりとさせ、拗ねた顔をぷいと逸らした。

「……その聞き方はずるいぞ」

「わかりました。じゃあ引き続き、美咲先輩がいっぱい気持ち良くなるように頑張りますね」

「……その『頑張る』っていうのは、今みたいに意地悪な責め方をするってことか?」

「今みたいなのも含まれる、って意味です。美咲先輩が感じる顔をもっとたくさん見たいので、その目標が達成できるならなんでもしますよ」

「……コータロ、一気に成長しすぎだろ……男ってこういうもんなのか……?」

 美咲が「むぅ……」と頬を膨らませる。小動物みたいな仕草は死ぬほど可愛らしいけれど、会話している間も肉幹をさわさわとまさぐるのはちょっとエッチすぎると思います。

「美咲先輩、脱いでもらっていいですか?」

 美咲は小さく頷くと、「にしても、ほんとにおっきいな……」と呟き、なぜか両頬をぷくぷくと膨らませながら、まるで讃えるかのように勃起した肉茎をすりすりと撫でた。

 美咲が女の子座りになり、背中に両手を回す。カチッ、という音とともに、汗でしっとりと湿ったピンクのブラがはらりと落ちた。

 目の前の光景に幸太郎は目を見開き、身体がぶるりと震えてしまう。

「あ、あんまり見んなよ……っ」

 美咲は顔を真っ赤にしながらも、手は胸の上に重ねてきちんと見せてくれていた。

 小さな背丈からは想像もつかないほど大きくて柔らかそうな乳房。美咲が身じろぎするたびにふよんと揺れるが、瑞々しい乳肉は垂れることなく形を保っている。

 乳輪と乳頭は綺麗な薄桜色でどちらも大きく、絶頂の余韻が残っているのかぷっくりと膨らんでいた。

「本当に綺麗です。本当に……っ」

 幸太郎がからかうつもりなど一切なしに褒めてくるのがよほどむずがゆいのか、照れながら身をよじって小声で唸る仕草が可愛らしい。

「下も脱ぐぞ……どうせ、がっつり見るんだろ?」

「はい、もちろん」

「……はぁ、可愛い後輩だと思ってたら、とんでもないケダモノだった……」

「嫌ですか?」

「うんにゃ、ぜんぜん」

 美咲が即答した自分にハッとして、乳房を晒したとき以上に顔を赤くする。抱きしめて押し倒したくなった。

 ほ、ほら、どいたどいた……と照れ隠しをするようにしっしっと手を振り、ベッドの上に立ち上がってショーツをずり下ろす。ぴったりと閉じた脚に見える繁みにごくりと喉を鳴らした。

「うぅ……」

 幸太郎のことをちらちらと見ながら泣きそうな声で唸り、ゆっくりとショーツを下ろしていく。太ももからひざ頭を通り、足首から引き抜いた。ふたたびあお向けになり、そっと脚を開く。

 喉から出かかった感嘆の言葉が、濃密な牝の匂いに鼻腔を貫かれて遮られた。

「ちょ、ちょっと、コータロ、ほんとに見すぎだぞ……っ?」

 美咲の声が震える。しかし幸太郎は惚れた先輩の声にさえ反応できないでいた。

 ぷっくりと膨らんだ肉厚の陰唇はぴったりと閉じている。ウブな女性器の内側から溢れた愛液が、ふっさりと生えた陰毛をねっとりと浸していた。

「さ、さっきイったからこうなってるんであって、普段はこんなエッチなことになってないからな……?」

 言い訳さえも可愛らしい。

「美咲先輩、何ていうか……ありがとうございまいてっ」

 頭をぺしんと優しくはたかれた。そのあとは忘れずにすりすりと撫でてくれる。

「……ほら、どうぞ」

 美咲がふたたび顔の横のシーツを握る。自分にすべてを委ねてくれているのが嬉しくてたまらない。

「わかりました」

 こくりと頷き、美咲に跨る。ぷるんと揺れる乳肉を下から掬うように揉むと、少し強張っていた美咲の表情が一気に蕩けた。

「ふぁぁぁっ……あっ、あんっ、んっ、んふぅぅ……あっ、あっ、あはぁぁ……っ」

 十本の指で慎重に柔肉をなぞり、ふよふよと波打たせる。

「んっ……くぅ……はぅっ、ぅうっ、んふぅぅぅ……っ」

 どの愛撫でも美咲は甘ったるい声を漏らし、身をよじりながらうっとりと見つめてくる。もっともっとと促すように、猫っぽい瞳が劣情でじっとりと濡れている。

「自分でするときもこんな感じなんですか?」

「んっ……いや、ある程度気持ち良くはなるんだけど、こんなに感じたことはないな……」

「なんか、嬉しいです」

「……コータロのドヘンタイ」

「あれ?」

 可愛らしく罵られた。目を合わせ、くすりと微笑み合う。

 ふたたび乳房に指を這わせると、美咲は背すじをくんと反らしてか細く震えた。

「あっ、あんっ、あぅ……コータロのさわりかた、気持ち良すぎて……なんかもう、何されても感じてる……」

「じゃあ、ここを触ったらもっと感じますか?」

「ふあぁぁっ!?」

 ぷっくりと膨らんだ乳頭をそっとつまむと、美咲の嬌声が一段甲高くなった。

「ひっ、んくぅ……そっ、そこ、好き、すご……あっ、はぁぁぁ……っ」

 美咲の猫撫で声が耳朶に入り込み、脳まで浸す。指の腹でしゅるしゅるとしごくと、美咲は腰を悩ましくくねらせ、かくかくと卑猥に揺らした。

「あっ、うぁっ、コ、コータロ、コータロ……っ」

「美咲先輩……本当に可愛いです」

「くひぃんっ!?」

 乳頭にちゅっと吸い付くと、美咲がとっさに幸太郎を抱きしめた。

「ひんっ、ひぃん……あっ、やぁぁ……舌ぁっ、ぐりぐり、するなぁ……っ! あっ、はぁぁぁ……っ」

 幸太郎の頭と背中をさすりながら腰をくねらせ、雄々しく反り返った肉槍の裏スジに陰毛をこすりつける。

 淫靡な仕草にぞくぞくしながら、乳頭を舌でぐりぐりと押し込んだ。愛液で玉袋が濡れる感触がたまらない。

「コータロ……コータロ……っ。こっちも、ねえ、こっちもぉ……っ」

「……っ。……わかりました」

 美咲が泣きじゃくりながら腰を振り、切実なおねだりをしてくる。加速度的に色っぽく、そして被虐的になっていく先輩に見惚れ、もっともっと新しい面を見たくなる。

 上体を起こすと、美咲の内ももを掴んで両脚をぱっくりと開いた。

「ひゃあぁぁっ!?」

 可愛らしい悲鳴とは対照的な、ぐっしょりと濡れたいやらしい女性器にごくりと喉を鳴らす。むわっと香る大人の牝の匂いにくらりとした。

 生々しい肉芽は皮をかむっていた。どのように触れるのが適切なのかわからないので、いつかネットで見聞きした知識を手繰り寄せる。肉豆の左右に置いた指をそっとずらしてみると、ぷりん、と鮮やかな淡紅色をしたクリトリスが顔を出した。意外なほどに大きな肉真珠。

「くひぃぃんっ!?」

 そっと撫でると、わずか数ミリの指の動きからは考えられないほどの反応を美咲が見せる。たっぷり潤んだ粘膜がさらにぐっしょりと濡れる。美咲の愛液はどこかクセのある匂いだが、嗅げば嗅ぐほどに夢中になっていく。背筋に走るぞくぞくが止まらない。

 そっ、そそっ、と筆を這わせるかのように、指の腹でクリトリスをこする。

「んくぅぅ……はぁうぅぅ……っ! あっ、あっ、これっ、良いっ、すっごい、気持ち良い……っ!」

 美咲の整った顔から徐々に理性が薄れていく。不安を抱きながらも、幸太郎の指先に全神経を集中させ、全身を焼く快楽に身を委ねているような表情。

「イキそうだったらいつでもイってくださいね」

 憧れの先輩が自分を信じてくれていることが嬉しくてたまらない。優しく囁くと、美咲がこくこくと愛らしく頷く。

「んっ、わかっ、たぁ……あっ、やぁっ、だめっ、これっ、イクっ、すぐイクっ、イっちゃうっ、コータロ、コータロぉ……イク、イク、イクイクイクイク……はぁうぅぅぅっ!!」

 美咲の細喉が爆ぜる。幸太郎の頭をとっさに掴み、すべすべのお腹を跳ね上げて絶頂に達した。内ももがビクビクと引き攣り、シーツに大量の愛液が染み渡る。

「……ここ、指なら入りますか?」

「はっ、へぁ……っ? あっ、ぅあうぅぅ……っ!?」

 美咲がへろへろになっていることは百も承知だが、もっと淫らに喘ぐさまを見たいという欲求が勝った。手のひらを上にして右手中指を膣口にあてがうと、たっぷりと潤んだ膣肉は幸太郎の指をたやすく咥え込んだ。

「んくぅぅ……っ!? はっ、ひぁっ、コータロの指、入ってぇ……っ! あっ、あぁぁ……っ」

「美咲先輩、痛かったらすぐ言ってください。……すごい、キュウキュウって締まってくる……」

「言うなバカぁ……っ。あっ、やっ、指ぃっ、ごつごつしてるぅっ、奥っ、までっ、んはぁぁぁ……っ」

 淫靡な悶え方をじっと見つめながら中指を挿入していくと、いつの間にか根元まで入っていた。初めてとは思えないほどスムーズな指の挿入。

「美咲先輩、痛くないですか? 動かしても平気ですか?」

「あんっ、んっく、ふんん……っ! う、うごかしながら言うなぁ……っ。だっ、だい、じょうぶ……だからぁ……っ。ゆっくりっ、ひんっ、うご、かして……あっ、あっ、あっ、あはぁぁ……っ」

 指の腹でくにくにと膣内のヒダをなぞるごとに、美咲の腰が妖しくうねる。凛とした顔がだらしなくゆるみ、口は力なく半開きになっていた。

「うぅぅ……うぅぅぅ……っ。なんだよ、なんなんだよこれぇ……っ。もう、いつでもイっちゃいそうだぞぉ……ふぁぁんっ!? あっ、あっ、それっ、すごっ……んくぅぅっ!」

 右手中指を根元から曲げて膣肉をぐいぐいと押し込むと、美咲の白いお腹が波打った。

「これ、気持ち良いんですね? じゃあ、クリと一緒に……」

「ひぃぃんっ!? んっく、だめっ、一緒はだめっ、ほんと、ほんとにっ、おかしくなるからぁっ、おかしっ、おかしくなるぅ……っ!」

 美咲は白皙に珠のような汗を浮かべながら、まるで極寒の地に放り込まれたかのようにカチカチと歯を鳴らす。怖いくらいの感じようだ。

「美咲先輩、イキそうなんですね? いいですよ、思いきりイってください……っ!」

 悪寒にも似た興奮の波が全身を駆け抜ける。決して乱暴にしないように気を付けながら、柔らかくほぐれた膣肉とぷっくりと膨らんだクリトリスをいじめる。まるで水を吸ったスポンジを押し潰したかのように愛液が溢れ出し、美咲の綺麗な顔が涙でくしゃくしゃに歪む。

「うん、イク、イク、思いっきりイっちゃう……っ! あっ、あっ、あっあっあっあっ……ぅあぁぁっ!? はぅぅっ、んはぁぁぁぁ!!」

 見えない手に弾かれたように美咲のおとがいが跳ね上がり、むっちりとした太ももが幸太郎の右手を挟み込んだ。膣内は右手中指を押し潰さんばかりにきつく締めつけ、幸太郎の手首まで垂れるほど大量の愛液を噴き出す。加えて、ぶしゅ、ぢょろろろろ……っと、まるで失禁したかのような激しい潮吹き。

「ひぐぅぅっ!? だめっ、今イって、イってるからぁ……っ! 指動かすな、吸い付くなぁ……っ!」

 愛おしさと同時に蹂躙欲求も湧き上がり、いまだに収縮を続ける膣肉を愛撫しながら張り詰めた乳頭に吸い付いた。空いている乳頭は左手でにちりとつまみ、強すぎるくらいの刺激を三点同時に与える。美咲は幸太郎の頭を抱きしめ、切羽詰まった嬌声を漏らし、ひたすら痙攣を繰り返した。

「はぁ、はっ、はぁ、はぁぁぁ……っ」

 絶頂しながらも数分に渡って愛撫され続け、幸太郎が指と舌を離す頃には、美咲はぐったりと脱力していた。

「……コータロ、お前、ドSだな」

「そういう美咲先輩はドMですよね」

「……需要と供給の一致、ってやつか」

「……そうかもしれませんね」

 力の抜けきった先輩を抱き起こし、あぐらをかいた自身の股ぐらへ向かい合わせに座らせる。すると美咲は、幸太郎の背中に脚を巻きつけて密着してきた。

「んっ、んむふぅ……ちゅるっ、れるっ、はぷっ、……この、ドスケベ、鬼畜、ドヘンタイ……あっ、んぁっ、ふぁぁ……っ」

 美咲が唾液をまとった舌を絡ませながら、猫撫で声で罵ってくる。肉幹を両手ですりすりとさすり、待てと命令された大型犬のようにだらだらと溢れたカウパー液を、竿の根元まで塗りたくっていく。お返しに乳頭をくりくりとつまむと、猫っぽい目がとろんと甘く蕩けた。

「……コータロのこれ、もう爆発寸前って感じだな」

「……そうですね。あ、『これ』じゃなくて、もっとはっきり言ってもらえますか?」

「……なんで?」

「そのほうが興奮します」

「……正直すぎるだろ……」

 咎めるように幸太郎の鼻を唇であむあむと咥えてきた。可愛すぎて気絶しそう。

「……コータロのおちんちん、もうがちがちだぞ? ……って、なんでまたおっきくなるんだよぉ……っ」

「不可抗力ですよ……」

 めいっぱい照れながら可愛らしく淫語を口にされて、興奮しないわけがなかった。

「美咲先輩。挿れていいですか?」

「ん。どんとこい」

 近所のコンビニに買い物に行くかのような軽いやりとり。美咲は頬をほんのりと朱に染めて微笑むと、顔を上げて唇を重ねてきた。

       ×  ×  ×

 いざ挿入、となった段階で幸太郎がハッとした。

「美咲先輩、すみません。俺、ゴム持ってないです……」

 女性経験どころか告白したことさえないヘタレだったので、そんな気の利いた用意などしていなかった。オリエンテーションの日に一目惚れした先輩とわずか数日でこんな関係になるなどと予想できるわけもないよな……と心の内で情けなく言い訳をする。

 対して美咲は、目をぱちくりとさせると、

「ん~……ま、いいだろ」

 あまりにもあっさりと、とんでもないことを言った。

「え!? だ、大丈夫なんですか!?」

「心配すんな、元々生理が大変でピルを飲んでるんだよ。……それに、こんだけ大きくしといておあずけはしんどいだろ?」

「うっ……」

 憧れの先輩が亀頭の裏側をつんつんとつつき、にひっと微笑む。爽やかな笑顔なのにやっていることがいやらしい。そのギャップにまたくらくらしてしまう。

「……ありがとうございます」

「ん。……でもあれだ、せめて外に出すんだぞ? ぜったいな? ぜったいだぞ?」

「なんですかその『押すなよ』みたいなフリは……」

 くすくすと笑い合いながら、互いの胸や性器をさわさわとまさぐり合う。会話をしている間も肉幹は硬度を保ったままで、美咲も劣情で目の下をねっとりと朱く染め上げていた。

 早く貫きたいし、貫かれたい。男女の欲望が透けて見えるやりとりに、じりじりと興奮が高まっていく。

「それじゃ、いきますね」

 美咲がそっと脚を開き、内ももに手を添え、いやらしい匂いを漂わせる女性器を割り開く。幸太郎がひざ立ちになって肉槍に手を添え、女性器ににじり寄る。

「ふわっ……ほんとにおっきいな。こんなに太いのがアタシの中に入るのか、ほんとに?」

 小陰唇にぴとりと突き付けられたたくましい肉槍の感触に、美咲が汗ばんだ肢体をぶるりと震わせる。

「入りますよ。というか、入れます。入れて、美咲先輩にもっとめちゃくちゃに乱れてもらいますから」

「…………っ」

 美咲の腰がひくりと揺れ、小さな膣口が歓迎するかのように鈴口へちゅっと吸い付いた。

 ふたりの喉が同時に鳴る。

 美咲と目が合う。不安と期待を宿した綺麗な瞳が揺れ、初めての男を受け入れようとこくりと頷いた。

「いきます……っ」

「んぁ……はっ、はぁぁぁぁ……っ」

 ゆっくりと腰を押し進めると、朱く膨らんだ亀頭が膣口につぷりと呑み込まれた。

(あつ……っ。それに、すごくキツい……っ)

 信じられないほどの熱をまとった膣肉がぎちぎちと締めつけてくる。今まで体験したことのない快感を伴う圧迫感が、入り込んだ亀頭へ容赦なく襲いかかる。

「美咲先輩、大丈夫ですか?」

「んっく、ふっ、んんっ……だ、大丈夫、だぞ……でも、ゆっくり入れてくれるとありがたいかも……」

「わかりました」

 美咲が気遣ってウソをついてもわかるように、じっとりと汗の滲んだ顔をしっかり見つめながら腰を進める。

「んはぁうぅぅぅ……っ」

 ずぶ、ずぶ、ずぶぶ……っと肉槍が埋まっていくにつれ、美咲の表情から余裕が消えていく。めいっぱい勃起した男性器がキツくキツく食い締められる。

「ふわっ……? あっ、あんっ……」

 少しでもリラックスしてもらえるようにと柔乳に手を添えると、美咲の強張った声にほんのりと糖度が混じった。ゆっくりと肉槍を侵入させながら、柔らかな乳肉をふにふにと触り、膨らんだ乳頭を丁寧に撫でさする。

「はっ、はぁぁっ、コータロ、コータロぉ……っ」

 美咲が幸太郎の手を握り、整った眉を切なげにくにゃりと曲げた。庇護欲をそそる表情。可愛らしい顔いっぱいに滲んだ不安を少しでも和らげたい。乳房をまさぐり、髪を撫で、耳をくすぐり、唇を重ね、舌を絡める。

 しばらくすると美咲の表情が和らぎ、膣肉が柔らかくほぐれてきた。肉槍の挿入がスムーズになっていく。

「はぁぁ……っ、コータロのおちんちん、あつくて、かたくて、ふとくて、おっきぃ……っ」

「……っ」

 猫撫で声で囁かれ、肉槍がぎちぎちと張り詰める。美咲がリラックスしてくれているのが嬉しい。わずかに腰を進めるごとに漏れるふやけた嬌声を聞きながら、たっぷり数分かけて肉茎の根元まで埋め込んだ。

「美咲先輩、根元まで入りましたよ」

「ほ、ほんとか? コータロのおちんちん、ぜんぶ入ったのか……?」

 どこか幼げな声音なのに、さらりと卑猥な単語を口にするようになっているのがたまらない。

「しばらく動かさないほうがいいですか?」

「ん……そのほうがいいかも。んっ!」

 美咲が両手を幸太郎に向けて広げてくる。どうやらくっつきたいということらしい。

 可愛すぎるだろう……と思いながら覆いかぶさって抱きしめると、柔らかな乳房がふにゃりとひしゃげた。

「ふふ……っ」

「どうしたんですか?」

「んー? なんか幸せだなーって。……なんでおっきくなったんだ、バカ」

「うぐ……っ?」

 脳が蕩ける言葉に反射的に肉幹が膨らむ。すると叱るように根元をきゅっと締めつけられた。エロいにもほどがあるたしなめ方だ。

「ちょっと感覚がわかったかも。ほれ、ほれ。こうか、こうか?」

「うっ、うわっ、ちょっ、美咲先輩っ、それ、やば……っ」

 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、肉槍の根元、真ん中、切っ先を順に締めつけてくる。きゅむ、きゅっ、きゅむっ。心地良い締めつけに肉槍がひくつき、先走り汁がぶびゅっ、びゅるるっと噴き出してしまう。

「美咲先輩、けっこう余裕ありますね。よく見たら血も出てないですし」

「んー、そうかも。みんながみんな出るってわけじゃないみたいだしなー。……コータロにたっぷり気持ち良くしてもらったから、ばっちりほぐれたのかもな。……って、だから、なんですぐぴくぴくするんだよぉ……」

「不可抗力ですって……」

 無意識に次々と男心をくすぐる言葉によって、肉槍はどんどん硬さと太さを増していく。

「コータロ、もう動いていいよ。……ふたりで、気持ち良くなろ?」

「……はい」

 慈母のような柔らかい笑みにくらりとくる。唇を重ねると、頭をぽんぽんと撫でながら舌を絡めてくれた。

「んふぅぅ……っ? んっ、んふぅっ、うぁっ、あんっ、んふぅぅ……っ」

 身体を密着させたまま、ゆっくりと腰を揺すり始める。肉槍を引き抜こうとすれば名残を惜しむように心地良く食い締め、挿入すれば奥へ奥へと引きずり込むように収縮する。腰を止めている間に美咲の膣内が肉茎に馴染んだのか、抜いても差しても気持ち良くてしかたがない。

「んふぁっ、はっ、はぁぁ……っ。コータロ、気持ち良いか?」

「んっ、くぁっ……はい。すごく気持ち良いです。美咲先輩は?」

「ん、アタシも……はぁぁっ、……すーっごい気持ち良い」

 薄い唇を耳にぴったりとくっつけて囁き、ねろりと舌を這わせてくる。

「やんっ……おっきくなったぁ……」

「美咲先輩……いいんですか? そんなエロい挑発をしたら、めちゃくちゃにしちゃいますよ?」

「お~? やんのか~? やれるものならやってみふぁぁぁっ!?」

 ずんっ! と力強く突き入れると、美咲が金魚のように口をぱくぱくとさせた。婀娜やかな身体がぶるぶると痙攣し、幸太郎の背中を抱きしめる手に痛いくらい力がこもる。

「せっかく挑発していただいたので、めちゃくちゃにしてあげますね」

「あ、やっぱタンマ。けっこうやばいかも……ひぐぅぅっ!?」

 上体を起こし、小さな腰に手を添えてぐっと持ち上げる。快感から逃れる術を封じた状態で、がつんがつんと力強い抽送を始めた。

「んくぅぅっ! ひっ、はぐぅ……っ! あっ、かはっ、やっ、やめっ、おねがいっ、これ、だめぇ……っ!」

「痛いですか? 痛かったらごめんなさい、すぐにやめます」

「ちっ、ちがっ、ちがくてぇ……っ」

「痛くないなら気持ち良いんですね? じゃあ続けます」

「そ、そんな……ひぃぃんっ!?」

 美咲の両手がふわふわと宙を泳ぐ中、ずんずんと腰を突き入れる。美咲が痛がっていないことは聞かなくてもよくわかっていた。膣肉は初めて挿入したときの強張りが消え、代わりに柔らかくほぐれて愛おしむように肉幹を包み込んでいたからだ。それでも美咲が慌てるさまが見たくて、ついいじめてしまう。

 ずちゅっ、ぢゅっ、にゅぐっ、にゅこっ。

「あっ、かはっ、んくぅぅ……はぅぅぅっ!」

 美咲の声から正気が薄れ、獣性が入り混じる。結合部が白く泡立ち、艶めかしい肢体が絶えず痙攣する。

「あっ、やぁっ……イク、イク、イク……んはぁうぅっ!」

 美咲の両脚がビンとV字に伸び、大量の愛液が溢れ出る。おとがいが跳ね上がり、白い喉が覗いた。

「美咲先輩、イったんですね。すごくエロいです……っ」

「あっ、かはっ、はひっ、とめっ、とめてぇ……っ」

 半開きになった口から小さな舌がだらしなく伸びる。美咲は全身脱力状態にありながらも膣ヒダを強烈に収縮させ、腰をくいくいとこすりつけてきた。

「ぐぅ……っ、やめてほしいのか、続けてほしいのか、どっちなんですか……っ!」

 もし美咲の体力が底をつきそうであれば、いくら気持ち良くなってくれていてもすぐにやめようと思っていた。けれど、今の美咲は言動と挙動がまるで噛み合っていない。結合の快感に震えながら混乱する。

「やらぁ……っ、とめ、とめてぇ……っ」

 美咲が円を描くように腰をくねらせることで、挿入するたびに違う角度から締めつけられる。これまで何とかこらえていた射精衝動がむくむくと込み上げてきた。

「くぁ……っ、美咲先輩、もう、出る、出ますよ……っ!」

「へぁぁ……っ? コータロ、出すのか? 中、だめ、だぞぉ……? ぜったいにぃ……っ」

「うぐっ……!?」

 美咲が掠れ声で囁きながら、両脚を幸太郎の腰に巻き付けた。決して逃がさぬとでも言いたげな体勢になった上で、ぷっくりと膨れた恥丘を遠慮なくぐりぐりとこすりつけてくる。

「み、美咲先輩!? まずいですって! このままじゃ中に……っ!」

「ふぁぁぁ……そうだぞぉ……中は、だめだぞぉ……っ?」

 可愛らしくふやけた笑みを浮かべ、幸太郎の手をすりすりと撫でながら腰を振るさまにぞくぞくする。

「この……っ!」

 被虐的なのに、蠱惑的。女性としてあまりにも濃密な魅力が詰まった美咲をどうにかしたくて、上から覆いかぶさってきつく抱きしめた。一撃一撃に力を込め、破城槌のように突き入れる。

「あっ……かはっ……!? あぇっ、へぁっ、コータロ、これ、しゅご……はっ、はぁぁぁ……っ」

 幸太郎の太い腕できつくきつく抱きしめられ、美咲が恍惚の笑みを浮かべる。半開きになった口から溢れたよだれがあごを伝う。本来ならみっともないと思うはずの光景が、愛おしくて、色っぽくてしかたがない。

「コータロ……コータロぉ……っ。おちんちん、すっごい膨らんでるぞ? 出すときはぁ……ひゃんと、外に出すんらぞぉ……っ?」

 脱力しきった声音で楽しげに囁きながら、細い四肢できゅっと抱きしめてくる。だからどっちなんですかとツッコむ余裕もない。今はもう、後先考えずに美咲の中に注ぐことしか考えられない。

「美咲先輩、もう、出るっ、いいですか、思いきり出しますよ……っ」

 汗だくの肌をこすり合わせながら囁く。もはや限界寸前だ。

「へぁぁ……んっ、あはぁぁ……いいよ、らひて、らひてぇ……っ」

 美咲が恍惚に蕩けきった笑みを浮かべ、薄い唇を重ねてくる。身体の隅から隅まで密着し、これ以上ないほどの幸福感に身を焼かれながら子宮口に亀頭を押し付ける。その瞬間、今まで経験したことのない強烈な射精の予感がして、濃厚な精液が狭い尿道を我先にと駆け上がってきた。

 いったいどれほど出るのかと恐怖するほどの感覚。めいっぱい美咲に唇を押し付け、ぎゅっと眉をひそめた。

「ぐぅぅぅぅ……っ!!」

「んきゅぅぅぅぅ……っ!?」

 どぶっ、ごびゅっ、びゅぶりゅっ、ごぶどびゅるるる……っ。

 まるで巨人に腰を掴まれて揺すられるかのような衝撃が下腹部に走り、美咲の子宮におびただしい量の精子が注がれる。脈動するたびに自分の魂まで削られていくような感覚。

 あまりの快感に腰を引いてしまいそうになるが、美咲が両手両足に力を込めてきつくきつく抱きしめてくることでそれも叶わない。

 膣肉が嬉しそうに収縮し、肉幹を美味しそうに頬張る。ぐねぐねと蠕動して竿の根元から先端まで搾り上げる。

「……ぷはっ! はっ、あはぁぁ……コータロの精子、すごっ、あついぃ……はぁぁぁ……っ」

「うぐぅ……っ、美咲先輩、あ、あんまり動かないで……っ」

 射精が終わりかけたタイミングで恥骨をぐりぐりとこすりつけてくる。くいくいと求愛するような腰の上下動で肉幹が搾られ、尿道に残っているわずかな精液も残すことなく、びゅるっ、ぶびゅるっと噴き出す。

「んふふふ……さんざんイカされたからな。お返しだ」

 汗だくの顔でいたずらっぽく微笑まれ、心臓が心地良く跳ねた。

挿絵3

 射精が終わっても、キスをしながら見つめ合い、キスをやめて見つめ合い、またキスをしながら見つめ合った。

 肌と肌を重ねる経験は互いに初めてだというのに、まるで長年こうしてきたかのようなしっくりした感覚。

(美咲先輩と、ずっとこうしていたい)

 蕩けた笑みを浮かべてゆるく腰を振るちっこい先輩に悶絶しながら、幸太郎もお返しにゆるゆると腰を振った。

       ×  ×  ×

「そろそろ抜きますよ」

「え、もう?」

「……けっこう、時間経ってますよ」

 枕元の時計を見やって苦笑する。日付はとうに変わっていた。元々呑み会をやっていて、さらにそのあと美咲の介抱をしてから行為が始まったからだ。

 いつもなら眠くてしかたがない時間だというのに、美咲と過ごす時間があまりにも濃密で充実していたため、目が冴え渡っている。美咲があお向けのまま、くいっとあごを上げて時計を見た。可愛らしい仕草。

「時計の文字が逆に見える」

「そりゃそうでしょう」

 白い喉をすりすりと撫でると、「ひゃんっ?」と上ずった悲鳴が漏れた。

「コータロは隙あらば愛でようとするよな。このヘンタイ」

「美咲先輩が可愛いからです」

「……タラシヘンタイ」

「からしレンコンみたいな肩書きを付けないでください」

 美咲が噴き出すも、あお向けなので自分につばが落ちてきて「ぷわぁっ!?」と変な悲鳴を漏らした。何気ない仕草もいちいち和む。モーション付きのスタンプにしたいくらいだ。

 ティッシュで美咲の顔を拭き、ついでにもう一度キスをして、肉槍をゆっくりと引き抜く。ぬぽんっ……という卑猥な感触にごくりと喉を鳴らした。

「うーわっ……なんか、すっごいエロいな」

 上体を起こした美咲が、ぱっくりと開いたままの膣口を見てポッと顔を赤らめる。汗が滲んでおでこに貼り付いた長い前髪が、ふたりで及んだ行為を生々しく実感させた。

「ふわ……っ」

 ふたりで美咲の膣口に見惚れていると、たっぷりの精液と愛液の混ざり合った液体が溢れ出てきた。会陰を伝い、シーツに染みを作る。

「……ふつう、さ」

 美咲が腰をひくひくさせながら、照れたような上目遣いを向けてくる。

「初体験って、もっと痛かったり、苦労したりするもんなのかなーって思ってたんだけど……」

「俺もそう思ってました」

 幸太郎が頷くと、美咲が頬を赤くして幸太郎の手を取り、すりすりと撫でた。

「でも……アタシはその、びっくりするくらい気持ち良かった。アタシってこんな声出るんだーってビックリしちゃったし」

「……俺も、気持ち良かったです。美咲先輩が乱れるところ、すごくエッチはぶっ!?」

 両頬を手のひらでぱちんと挟まれて間抜けな顔になる。喋らせまいとしているのだろうが、柔らかな乳肉をそっと撫でて先輩の手の力がゆるんだところで即座に続きの言葉を発した。

「すごくエッチで素敵でした」

「……ドヘンタイ、鬼畜大魔王」

 すごい称号をいただいた。

「……コータロがなー、まさかあんなドSだとはなー」

「需要と供給が一致してるならいいじゃないですか。これからも美咲先輩の気持ち良いところを探っていきますので、よろしくお願いします」

「急に研究者気質を出してくるなよ……」

 割と真面目にツッコまれた。

 美咲がちらりと肉幹を見る。精液と愛液がまとわりついた男性器が、今も力強く反り返っている。

「コータロの……お、おちんちん、まだ、おっきいままだぞ?」

 行為の最中と比べると恥ずかしいのか、照れながら淫語を囁くのがたまらない。人差し指で肉竿をつんつんとつつかれ、「うっ、うっく」と変な声が漏れた。

「コータロは……まだ、した「したいです」食い気味だなおい!?」

 目を輝かせる幸太郎に、美咲は「う~……」と可愛らしく唸り、顔を逸らし、流し目をそっと送った。

 肉幹をそっと握り、ぽそりと呟く。

「アタシも、その……まだ、したい」

 憧れの先輩の直球極まる言葉に、細指に包まれた肉槍がびくんと跳ねた。

「美咲先輩……っ!」

「ひゃぅ……っ」

 両手首を掴んで押し倒すと、美咲の内ももを自分のひざで割り開いて膣口に肉槍をあてがう。

「ま、待って、この体勢、エッチすぎないかぁぁぁ……っ!?」

 有無を言わさず挿入し、愛液と精液で潤んだ膣内を肉槍でかき混ぜる。直前までの挿入感と比較しても、締めつけが増しているように感じた。

「美咲先輩、押さえつけられたほうが興奮するんですか?」

「い、いちいち口にするなぁ……んくぅぅ……っ!」

 美咲がきゅっと眉をひそめる仕草がたまらなく色っぽい。

(もう一回しても……満足できるかな?)

 先ほどの中出しだって、普段自慰をするときの倍はあるのではと思うほどの量を出していた。それにも関わらず力強く勃起しているうえに、もう数回は出せるのではという確かな予感があった。

(美咲先輩に無理はさせたくないから、そのつど聞くようにしよう)

「はぁっ、んっく、あんっ、はっ、はぁぁぁ……コータロ……うんん……っ」

 手首を押さえつけられて悩ましげに喘ぐ美咲をじっと見つめ、感じてくれる場所を探りながらゆっくりと腰を振り続けた。

       ×  ×  ×

 行為を続けているうちに、気が付けば朝を迎えていた。

(結局四回も……)

 己の精力と体力に驚く。中学生のときに一日三回自慰で抜いたことはあったが、そのときよりも回数も精液の量も多い。美咲と交わることにいったいどれほど興奮していたのだと、我ながら呆れてしまう。

 美咲とは正常位を四回繰り返した。お互い飽きるのではと思ったが、美咲がどんどん蕩けていくさまに昂ぶるばかりだった。腰を掴んで突きまくり、ぴったりと密着して突きまくり、何度も何度も美咲の中に注いだ。

「美咲先輩、今日は予定はありますか? 俺はないので、できればこのままいったん寝たいんですけど……」

 隣でぴったりとくっついている美咲に尋ねる。頭をくしくしと撫でると、明るい茶髪が汗でしっとりと湿っていた。ぽよんと柔らかな乳房が重力に従い、ふにゃりとひしゃげているさまがなんとも艶めかしい。

「ん、アタシもないぞ。そうするか。…………」

「……どうしました?」

 美咲は何やら難しい顔をして歯切れの悪い返事をするが、幸太郎の問いかけにハッとして猫のような目を見開いた。限界まで眠気がきているが、美咲が浮かべた表情の理由を今しっかり聞くべきだと思った。

「……コータロは、その、ほんとに、良かったのか?」

「え? 気持ち良かったってことですか? そりゃもう最高でしたよ」

「……そういうことじゃ、なくて」

 頬をむにむにとつままれる。顔を真っ赤にして逸らす仕草に悶絶した。

「……ほんとに、アタシでいいのか?」

「どういうことですか?」

「だ、だって……コータロは入学してまだ一週間くらいだろ? ……こう言うと、アタシが新入生をそっこーで食べたようにしか聞こえないな……」

「……否定はできないですね」

 胸板にとすとすと頭突きをされた。ダメージを受けながらも、美咲の汗ばんだ綺麗なおでこに見惚れる。

「まだ大学生活がどんなふうになるかもぜんぜんわかんないだろ? いっぱい楽しみもあると思うんだ。たとえば引きこもりが趣味で、ネットショッピングの宅配のお姉さんと話すのが唯一の生きがいになったりとか……」

「たとえが生々しいですよ!?」

 冗談を言いつつも、美咲は本当に心配そうに、眉をくにゃりと曲げる。

「コータロだって、まだまだ遊びたいだろ……?」

 優しい気遣いをめいっぱいに込めた言葉に、幸太郎は。

「……なんかその言い方、まるで結婚するみたいですね」

「んなっ」

 美咲の顔が一瞬で茹だる。自分で言っておきながら幸太郎も茹だった。

 いや、ばっ、そういうことじゃなくてっ、そのっ……と唸りながら胸板に頭突きをしてくる。とすとす、どむどむ。可愛いけれどちょっと痛い。自分よりも慌てている先輩を見て少し冷静になり、そっと笑みを向ける。

「何の問題もないです。一目惚れした人とこういう関係になれて、まあ本当にビックリしてますけど……それ以上に嬉しいし、幸せです」

 美咲の顔がふたたび茹だる。金魚のように口をパクパクとさせている。アーモンドを差し出したら薄い唇でぱくりと咥え込みそう。

「……一晩経ちましたけど、美咲先輩は俺のこと、どう思ってますか?」

「……っ!? ……っ!」

 リンゴのように赤くなった先輩がさらに慌てる。目を盛大に泳がせたものの、幸太郎が優しくも真剣な目つきをしていることに気付き、胸板にそっと顔をうずめ、上目遣いで見つめてきた。

「……その、一緒にいると楽しいし、エ、エッチしてるときもすっごい安心するし、気持ち良いし、もっともっと一緒にいたいかも……と、思いました」

 なぜ敬語……と思いつつも、つっかえつっかえに言葉を紡ぐ先輩が愛おしくてしかたがない。

「……つまり、要約すると?」

「……コータロのこと、好き」

 真っ直ぐすぎる言葉にがつんと頭をぶん殴られ、脳内にふわりふわりと花が咲く。

 昨晩の彼女を思い起こしても、今の言葉と表情はとびきり魅力的だった。

「……ちょっと、幸せすぎてどうにかなりそうです」

「コータロは幸せすぎるとおっきくなるのか?」

「これは生理現象です……」

 照れ隠しなのか、勃起した肉幹をすりすりと撫でてくる。いたずらっぽい笑みを浮かべる頬が朱い。

「……美咲先輩。俺と付き合ってもらえますか?」

「……はい……っ」

 しおしおと小さな身体を縮め、幸太郎の胸板に顔をうずめてくる。両手を胸の前できゅっと握りしめる仕草に庇護欲が込み上げる。

「美咲先輩はさっき『まだまだ遊びたいだろ』って言いましたけど……ふたりでたくさん遊べばいいじゃないですか。美咲先輩だってまだ二年生なんですし。色々してみましょうよ」

「……コータロが言うと卑猥な意味にしか聞こえないな」

「卑猥な意味も多分に含みます」

 肉幹をきゅっと掴まれた。薄い唇がもにょもにょと動いている。

「コータロ。今の会話で眠気がふっとんだ」

「奇遇ですね、俺もです」

 くすくすと笑い合う。耳に触れると、美咲が悩ましげに身をよじらせた。

「ふぁ……っ、んっ、んっく、やぁん……んふふ……っ」

 小さな耳の縁をなぞり、中に指をすべり込ませる。美咲は表情をとろんと蕩けさせながら、楽しそうにはしゃいだ。細指が肉幹にしゅるしゅると絡みつき、もどかしい快感が流れ込んでくる。

「コータロのこれ、ほんとおっきいよな……」

 美咲が横を向いたまま、両手で肉茎をさする。猫っぽい目にはじっとりとした劣情と好奇心がありありと浮かんでいた。

「く……ぁ……っ、……美咲先輩、『これ』よりも良い呼び方があったと思います」

「……スケベ」

 美咲が拗ねたように囁きながらも、肉幹を愛おしげに撫で続ける。先走り汁がこぷりと溢れ、「やぁん……っ」と蕩けるような猫撫で声が漏れた。

「……コータロの、お、おちんちん……すっごい硬くておっきい。わっ、わわっ、ビクッてしたぁ……っ」

 美咲がうっとりとしながらもはしゃぎ、肉幹をキュッと掴む。羞恥のタガが外れ、秒針が動くたびにエッチになっていくような、そんな感覚にぞくぞくする。

「美咲先輩。これを……舐めてほしいです」

 美咲の手に自分の手を重ね、肉幹をギュッと握らせる。

「ふぁ……っ?」

 美咲の細喉が鳴る。首まで真っ赤にして、顔を逸らし、ちらりと流し目を送ってくる。じっと待っていると、やがて正面に向き直って上目遣いで見つめてきた。

「コータロ……アタシに、このおっきなおちんちん、舐めてほしいのか?」

「……っ、はい、たっぷり舐めてほしいです」

 美咲が目を見開く。ふたたび逡巡するが、眼の下がねっとりと赤らんでいて、答えは聞かなくともわかった。

「……わかった。初めてだから、どうしたら気持ち良いか言ってくれよ?」

「わかりました。……ありがとうございます」

 もう一度唇と身体を重ねる。興奮が高まっているのか、美咲の肌が先ほどよりも熱くなっている気がした。

 幸太郎があお向けになって脚を開く。美咲がその間にちょこんと女の子座りになり、目の前で隆々といきり立つ肉幹にこくりと細喉を鳴らした。

「ち、近くで見ると……コータロのおちんちん、ほんとにおっきいな。まがまがしいっていうか……」

 言葉だけ聞けば怯えているように思えるが、美咲はじりじりと肉槍に顔を近付けていく。反り返った肉幹の裏スジに上気した顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らす。

「あ……美咲先輩、匂い、大丈夫ですか? あれだけしたから……」

 ふと思い出す。たっぷり交わったあと、ふたりはまだシャワーを浴びていない。けれど美咲は、幸太郎の不安を包み込むように柔らかな笑みを浮かべた。

「ん……大丈夫だぞ。……こっちのほうが興奮するし」

 思わぬ返しに唖然とすると、先輩はぷるぷると可愛らしく首を振った。頬にほんのりと朱が刷かれている。

「なんでもない。……アタシ、あんま知識はないぞ? 大丈夫か?」

「大丈夫です。まずは先っぽを舐めてもらえると……」

「こ、こうか? ……んんっ……ちゅっ、ちゅぴ……っ」

 美咲が長い前髪をそっとかき上げ、小さな舌をちろりと出す。鈴口にぷっくりと浮かんだカウパー液の珠を舐められると、挿入とはまた違う、今まで経験したことのない快感が下腹部に走った。

「うぁ……っ」

「だ、大丈夫かコータロ?」

「だ、大丈夫です……気持ち良いです。そのままで……」

「こ、こうか……? ちゅっ、ちゅぴっ……」

(うわ、うわわ……っ、美咲先輩が、俺のを……っ!)

 長いまつ毛を戸惑い混じりに揺らしながら、美咲が朱い膨らみにちろちろと舌を這わせていく。

「んふぅぅ……なんか、変な味がするな。しょっぱいし」

「うっ、くぁっ……美咲先輩、無理はしないでくださいね」

「ん、大丈夫……ってかこれ、けっこー好きかも」

 ぞくりとする言葉を囁き、こくりと細喉を鳴らす。ふたりの体液が美咲の喉奥に消えたと気付き、四肢の末端にまで甘い愉悦が走った。

「ちゅっ、ちゅぴっ、うんんっ……コータロのおつゆ、ぜんぜん止まんないぞ? コータロこそ大丈夫か? ちゅっ、ちゅるっ、はぷっ、んふぅぅ……っ」

「うっ……? あっ、ぅあっ、ちょ、そんな、吸わないで……っ」

 美咲の表情には徐々に余裕が浮かんできて、対照的に幸太郎の表情が切実なものになっていく。美咲はころんとうつ伏せになると、幸太郎の肉幹の根元を両手で押さえて鈴口に吸い付いた。細い指が陰毛をしゃりしゃりとこする。綺麗な顔と血管の浮いた肉槍が並ぶ、異様とも言える光景。

「んっ、ちゅぴっ、……このおつゆって、気持ち良いから出るんだよな? ちゅるっ、れるっ、はぷっ……」

「くっ、ぅあっ、そ、そうです……っ」

「んふふふ……。てことは、コータロは今、気持ち良くてしょうがないわけだ」

 美咲が猫っぽい目をにんまりと、三日月のように細める。くつろぐように足をぱたぱたとさせながら、まるで毎日の日課をこなすように平然と鈴口に薄い唇を吸い付け、透明な我慢汁をちゅるちゅると吸い込んでいく。

「あれ、出なくなった? んっ、んっ、んっ……」

「ぅあ……っ!?」

 美咲が小さな舌を固めて鈴口をコツコツと小突く。まるでカッコウのような仕草。尿道に鋭い快感がびりびりと走り、青スジの浮いた肉幹がびくりと跳ねて新たなカウパー液が湧き出す。

「んふふふ~。コータロ、かーわいい。けっこー楽しいな、これ」

 引き続き足をパタパタさせながら、鼻唄でも歌いそうなほど上機嫌に笑みを浮かべる仕草が強烈に魅力的だ。

「あ、あの、美咲先輩……もっと奥まで……っ」

「へぁ? ……うん」

 幸太郎の言葉に、美咲の態度が変わる。少なからず戸惑いが見えた。うつ伏せのままでは呑み込みづらいと思ったのか、女の子座りに戻る。竿の根元を押さえると、前髪をかき上げて肉竿に顔を寄せた。

「んむっ……んふぅぅ……っ」

「う……おぉぉぉ……っ」

 薄い唇が亀頭の先端ににゅむりと貼り付き、そのままゆっくりと呑み込んでいく。小さな口がぷっくりと膨ら

んだ男性器に満たされていく。

「んっ、ふぅっ、んふぅぅ……っ」

 亀頭をすっぽりと咥え込んだ美咲が鼻息を荒らげ、陰毛が揺れる。薄い唇がにゅむにゅむと動き、溢れた唾液が竿を伝ってふたりの性液を洗い流し、陰毛を浸す。

「うぁ……っ、み、美咲先輩、そこっ、くびれのところ……もっと……うぁぁ……っ」

「んふぅぅっ……んっ、ちゅむっ、れるっ……」

 美咲の薄い唇がカリ首を柔らかく締めつけ、小さな舌を這わせる。

(うわ、美咲先輩の顔、めちゃくちゃエロい……っ)

挿絵4

 美咲が頬をすぼめ、内頬を亀頭にこすりつけている。美麗な顔が淫猥に歪むさまに思わず見惚れてしまう。

「……ぷはっ。コータロ、気持ち良いのか? おつゆ、ダラダラだぞ?」

 鈴口をちろちろと舐め、上目遣いで見つめながら尋ねてくる。幸太郎の返事を聞く前に鈴口に吸い付き、肉竿の根元をこすこすと優しくしごく。

「えっと、うわ……っ!?」

 気持ち良いですと答えようとしたところで、待ちきれないとでも言わんばかりに亀頭を呑み込まれた。今度は顔をゆっくりと傾けながら亀頭を呑み込み、一度顔を引き、逆側に傾けながら呑み込んでくる。どこまでが知識で、どこまでが本能に赴くままの行動なのかがわからない。

「美咲先輩……めちゃくちゃ、本当に、気持ち良いです……っ」

 震える声で告げると、美咲が上目遣いで幸太郎を見つめ「んふー」と嬉しそうに鼻息を鳴らした。

「うぁっ、あっ、あっ、美咲っ、先輩っ、ぅあぁぁ……っ」

 美咲の唇が亀頭を呑み込んでは口外に出すのを一定のリズムで繰り返す。竿の根元をしごき、玉袋をふにふにと触ってくる。癒される上に気持ちの良い、極上の愛撫。身体から徐々に力が抜け、くったりとしていく。

「んふぅぅ……コータロ、袋がキュッてなったぞ? イキそうなのか?」

「は、はい、もう、出そうです……このまま……」

「ん、わかった。いっぱい出してくれ……」

 嬉しそうに、本当に嬉しそうにそう呟き、美咲がふたたび顔を沈める。唾液と先走りでぬらついた唇をすべらせ、ときおり鈴口を舌先でいたずらっぽく突いてくる。心地良い快感の波に、精巣から白濁が引きずり出される。

「美咲先輩……もうっ、出ます、出る、出る……っ!」

 とっさに上体を起こし、美咲の頭を掴んだ。美咲が驚いて目を見開く中、狭い尿道を駆け上がる精子の感触に歯を食いしばる。

「ぐぅぅぅ……っ!!」

「んふぅぅっ!? んっく、んぐっ、ごぶっ、んふぁぁぁぁ……っ」

 美咲の小さな口内で亀頭が爆ぜ、どぶっ、どぶどぶっと濃厚な精子が噴き出す。数時間前まで四度に及んだ射精を忘れたかのような量と濃さ。美咲はとっさに顔を引こうとしたが、幸太郎に頭を押さえられているためそれも叶わない。目をしばたたかせ、ぼうっと細め、肉感的な身体を震わせてひたすら精液を受け止めた。

「はぁ、はぁ、はぁ……ご、ごめんなさい……っ」

 恋人の口に欲望を吐き出すことだけを考えてしまっていた。慌てて手を離すと、美咲はのろのろと肉槍から口を離す。薄い唇と亀頭との間に精液と唾液の混じった卑猥な糸が伸び、ぷつんと切れてシーツに落ちた。

「んふぁぁ……」

 美咲があーんと口を開けると、どろどろの精液が舌の上に乗っていた。

「うわ……俺、出しすぎですね……ごめんなさい、今ティッシュを……」

 ティッシュに手を伸ばそうとすると、美咲に肉幹をキュッと握られ「ふおっ!?」と変な声が出た。止めるなら他の動作にしてほしかった。

「ふぁいおーう」

 親指を立て、綺麗な眉をくにゃりと曲げながら口を閉じる。口の中がもご、もご、と動いたかと思うと、ひと息に精液を呑み込んだ。ごくりと濃厚な音を鳴らすと目を見開き、ぶるりと震える。

「うん、変な味!」

 ちょっと涙目だ。

「む、無理に呑まなくても……」

 呑んでくれた嬉しさももちろんあったが、それ以上に美咲が心配だった。多くの女性が精飲などできないしやろうとも思わないと聞いたことがある。しかし美咲は初めてにも関わらず、精子を呑み込んでくれた。

「なーに、我慢汁だっけ? あれと比べるとクセが強いけど、何とかなるぞ」

 ていうか、その……と呟き、肉槍をそっとさする。ぞくっとするほど艶めいた上目遣いを向けてきた。

「たぶんだけど……何回か呑んでたら、やみつきになる、かも」

 肉槍をゆるゆるとしごき、潤んだ目で見つめてくる。

「コータロの身体から出てきたんだなーって思うと、その……呑めること自体、すっごい嬉しいし」

 意識的なのか無意識的なのか、とんでもないことを囁いて、にへっと力の抜けた笑みを浮かべる。庇護欲と情欲の混じった愛おしさが胸の内に湧き出す。

 起き上がってあぐらをかき、美咲と向かい合う。

「美咲先輩……好きです」

「……うん、アタシもコータロのこと、好き」

 唇を寄せると、フェラチオの直後だからか美咲がとっさに顔を引いた。構うものかと小さな頭を抱き寄せ、唇を重ねる。ちろちろと舌を絡め、口内でちゅぷちゅぷと卑猥な水音を立てる。唇を離し、汗で濡れてしっとりとした髪をくしくしと撫でる。美咲が縁側で日向ぼっこをする猫のように目を細めた。

「美咲先輩、汗かくともっと良い匂いがしますね」

「だまれへんたいー」

「思いのほか辛辣な返し!」

 言葉の割に声音は楽しそうで、ちゅっ、ちゅっとついばむような口づけをしながら肉幹をこすってくる。

「美咲先輩……」

「ん、なんだ? おー、どうしたどうした」

 抱きしめて押し倒すと、美咲が楽しそうに抱きしめ返し、背中を撫でてくれた。

「美咲先輩、本当に好きです。めちゃくちゃ好きです」

「……直球すぎるだろ……反則だぞ」

 でも、まあ、なんだ、その……と、幸太郎の背中をすりすりと撫でながら、しどろもどろに言葉を紡ぐ。

「えーっと……その……これから、よろしくな?」

 美咲がにひっとはにかむ。ひまわりが咲いたような笑みは、生まれてから今まで見てきた笑顔の中で一番素敵だった。

「……はい、よろしくお願いします」

 微笑みを交わし、唇を重ねる。

「はー、まずは寝るかー。いや、さすがに汗がやばいな……先にシャワーかな。コータロ、先に浴びてこいよ」

「お、男前……。一緒に入るのはどうですか?」

「……それはまた今度な。ぜったいエロいことするだろ」

「しますね」

「…………」

「むぉぉぉぉ」

 むにむにと頬をつままれた。顔を真っ赤にした先輩はとんでもなく可愛かった。

続きは書籍でお楽しみください!