カバー

雌雄を決するタイマンの瞬間とき
一撃絶頂 戦友ックス!!

義勇の為に拳を振るっていた俺は、ある日絶体絶命のピンチに陥ってしまう。そこに現れたのは俺と同じく正義感を持つ白雪百合だった。可憐な見た目からは想像も出来ない強さで不良を蹴散らし、俺と共に窮地を脱する。それから俺達はコンビを組み、街からゴロツキを駆逐していった。それは荒っぽくも痛快な日々だった。しかし青春はいつか終わってしまう。お嬢様である百合には許嫁がいた。百合はその許嫁を無自覚には好ましく思いつつも、まだ俺との青春を謳歌していたいと言うように、彼を突き放す態度を取る。いつまでも子供のままではいられない。そんな戦友の背中を押す為に俺が取った手段とは――。

どの巻から読んでも大丈夫!
『トモハメ』シリーズ書き下ろし第3弾!!

  • 著者:懺悔
  • イラスト:ポチョムキン
  • 本体価格:1,200円+税
  • ISBN:978-4-8155-6512-1
  • 発売日:2019/5/30

  • [店舗特典]
  • ●ご協力書店様:書店共通SSペーパー
  • ●とらのあな様:SS付きポストカード
  • ●メロンブックス様:SS付きポストカード
  • ※ご協力書店様共通ペーパーの配布書店様の詳細につきましてはお問い合わせください。
  • ※とらのあな様・メロンブックス様の特典SSの内容はそれぞれ別種のものになります。
  • ※それぞれの特典は店舗様にて無くなり次第終了となります。
  • ※電子書籍版には上記全ての特典は含まれません。
口絵

タイトルをクリックで展開

 犬飼京助いぬかいきょうすけという自分の名を俺はどうとも思っちゃいないが、他人にはよく指摘される事がある。

『お前が飼っているのは犬ではなく鬼だ』と。

 気心が知れた知人、俺を噂でしか知らないような他人、または直接拳を交えた人間。皆が俺に向ける眼差しに畏怖を込めてそう言う。

 その言葉は俺の風貌のみを評しているわけではない。

 今でこそ『鬼飼いの京助』などという異名で、近隣の不良や半端なチンピラ集団に恐れられてはいるが、何も俺は好き好んで暴れる荒くれ者というわけではない。

 そもそも俺は不良ですらない。

 飲酒喫煙は興味が無いし、傘泥棒に万引き、学校の窓ガラスを割ったりバイクを盗んだ事も無い。

 その他強盗強姦、国家転覆罪など、あらゆる重犯罪にも抵触した事が無い。

 立ちションも小学校の頃に卒業したし、信号だって律儀に守る。自転車の二人乗りは唯一の友と呼べる存在とたまにするから、俺が持つ反社会性といえばそれくらいである。

 いや、傍から見れば、俺は今まさに傷害罪やら決闘罪やらを犯している罪人なのであろう。

 飛び交う怒号。飛び散る血飛沫。

 肉と骨がぶつかり、鈍い衝撃音と共に大の男が次々と背中から倒れていく。

 言い訳のしようもない大乱闘である。

 しかし俺『達』にとって、これは正当防衛なんだと主張したい。

 遡って思い返せば、あれは小学校三年生の時だった。

 猫じゃらしを振りながら無邪気に帰宅していると、三人組の中学生にカツアゲされている同級生の姿が目に入ったのだ。小学生の小遣いから考えると百円にも満たない被害額だろうし、中学生にしても金銭目当てではなく暇つぶしの悪戯だったのだろう。

 しかし、義憤に駆られた俺はそいつらに向かって突進した。

 俺は当時から体格が良かったし運動神経も抜群だった。走ったり泳いだりすれば、その記録に目を丸くした大人達が色んな方面から勧誘に来た。しかしどうしてもスポーツには関心が持てなかった。

 タックルとも呼べないただの体当たりだったが、それを食らった小太りの中学生は身体を宙に浮かし、地響きを鳴らして落下した後起き上がる事は無かった。

 残りの中学生は暫く呆気に取られていたが、それでも一人が俺の胸倉を掴んだ。

 俺がその手首を握り返すと彼は脂汗を浮かべて膝をついた。最後の一人が殴り掛かってきたが、俺はそれを鼻面の正面から受け止めた。鈍い音がしたが、俺の首は微動だにしなかった。

 鼻血を流しながらそいつをじっと見つめていると、そいつは顔を引き攣らせて逃げ出し、手首を掴んでいた奴も必死に俺の手を振り払って彼方へと疾走していった。

 俺の人生に分水嶺があったとすればそこだったに違いない。

 それからは、名も知らない隣のクラスの生徒が小遣いを巻き上げられたとか何とか聞くと、俺は率先して駆けつけた。当時の俺は文字通りガキだったので、そんな立場が正義のヒーローのように感じられた。助けを求められると、意気揚々と揉め事に顔を突っ込んだ。

 とはいえ、いきなり暴力で対抗しては不良と同じになってしまう。ひとまず話し合いで解決しようとするが、イキがった中学生や高校生が、小学生からの和平交渉などまともに取り合うわけが無い。

 そんなわけで、それからというもの、俺の拳は小悪党どもの血で濡れ続ける事になった。

 断言しておくが、何の咎も無い一般人に危害を加えた事は無い。

 人を殴る事自体、好きではなかった。それでも、同級生を守る為、悪を成敗する為に己の拳を振るった。

 中学生になると、もう俺の名は独り歩きしていた。

 この街で悪名を轟かせる最も手っ取り早い方法は、俺の首を取る事だとまことしやかに囁かれた。

 その頃にはすっかり定着していた『鬼飼いの京助』の首を、チンピラ達の誰もが欲しがった。

 そんなある日、あまりに多勢に無勢な状況に追い込まれた時があった。

 とある真夜中にあまり親しくないクラスメイトから電話が掛かってきて、話があると廃工場に呼び出された。バレバレの罠だったが俺は臆する事なく出向き、案の定暴走族に出迎えられた。

 大抵は十人くらいなので余裕をかましていたが、この時は他県の系列グループからも協力を要請していたようで、普段の三倍から五倍くらいの人数が俺をぞろぞろと取り囲み、一斉に殴り掛かってきた。

 いつもの喧嘩通り、十人までなら余裕だった。しかしその倍まで倒した頃には何度か釘バットを頭に喰らい、流石に視界が霞み始めていた。

 俺は敗北からのリンチを覚悟した。良くて半殺し。死ななければラッキーだと思った。それでも、こんな境遇になったきっかけである、かつて同級生を助ける為にタックルをした自分に後悔はなかった。

 今では唯一の友と呼べる存在と初めて出会ったのは、血だらけになりつつもそんな走馬灯を見ていた時だった。

 廃工場は屋根もボロボロで、所々空いた穴から差し込んでいた満月の光が、いつの間にかその場に足を踏み入れていたソイツを照らしていた。

「塾の帰りにドンチキうるさいと思って寄ってみたら。なんだテメーラ。たった一人に寄ってたかって気に入らねーな。気に入らねーぞオイ」

 その剣呑な声の主は、サイズが大きめのカーディガンっぽいパーカーを羽織っていた。濃紺のスカートはその裾に隠れて殆ど見えないが、誰もが知るお嬢様学校の制服だ。

 長い黒髪はしんなりふんわりとしており、育ちの良さを一目で伝える。目鼻立ちも平均以上に整っているが、どちらかといえば幼く愛らしい印象を受けた。

 しかし目つきだけが、そこまでつり目というわけではないが生意気そうというか負けん気の強さを表していた。球形の棒付きキャンディを舐めながら、その瞳でジッと俺達を観察している。

 この場にあまりにも似つかわしくない彼女の登場に、場の空気が停止する。

 腹を空かせた猛獣の中に突如として咲いた百合の花。そんな彼女が、腕を組むとふてぶてしく言葉を続ける。

「一応聞いといてやんよ。どっちが悪モンだ。それとも両方クソ野郎か?」

 普段ならばその中肉中背で可憐な容姿はナンパの対象だっただろう。だがタイミングが悪かった。

 リンチめいた喧嘩はまさに宴もたけなわといった惨状である。彼女の男勝りで粗暴な口調は、彼らの性欲ではなく闘争心を煽り立てた。

「っぞぉっ! おらぁっ!」

 彼女の一番近くに居た大柄で金髪の男が吠えた。ただ虚勢を張っているだけの普通の女子なら、それだけで膝を震わせて涙目になるだろう。

 しかし彼女はちらりとソイツを一瞥しただけで全く動じる様子は無い。学校指定よりも短く折ったスカートから覗く肉付きの良い生足も、悠々と肩幅で開いたままだ。

 彼女は俺の方に視線を向ける。何度も釘バットで殴打され、血塗れとなった俺の顔を目にしても眉一つ動かさない。

 彼女は無言で俺に問い掛けていた。何故流血してまで拳を振るうのかと。

 俺は片膝をつき、息を荒らげながらも、その視線を正面から殴り返すように睨みつけた。

「おいミニスカ……とっとと失せろ」

 俺の言葉に彼女は肩を竦め、なんとも落ち着き払った様子で憮然と言い放つ。

「満身創痍に見えっけど? このままこいつらにボコられてーの? さてはその類の変態かオイ?」 

 俺は無理矢理身体を起こした。一見したら立つのがやっとの窮状だろう。

 気迫だけで支えられた俺の立ち姿にチンピラ達は気圧されるように後ずさった。その表情からは、まるで動き出した不動明王の像を前にしたかのような恐怖が読み取れる。

 そんな中、彼女だけが一歩も退かずに俺の修羅めいた眼光を真正面から受け止める。

「俺の拳はな……誰かを守る為にあんだよ……」

 少しでも気を抜くと膝から崩れ落ちそうだが、俺は彼女に見せつけるように拳をきつく握って突き出した。

「……だからもっかい言うぞ。巻き込まれない内にとっとと失せろ」

 もはや俺個人の敗北は避けられない。しかし彼女が逃げ切る時間や隙くらいは残り僅かの体力を振り絞って作り出す。オーラのように湯気立つ、そんな気概は彼女に伝わったようだ。

 彼女はにやりと片方の口端を歪めたかと思うと、棒付きキャンディをガリガリと噛み砕いた。残った棒をティッシュに包んでポケットにしまうと、すたすたと俺に向かって歩を進める。

「引っ込んでろやオラァッ!」

 彼女が動いた事で、様子を窺っていた金髪の男が彼女の肩を突き飛ばそうと手を伸ばして走り寄った。

 その次の瞬間、男の大柄な体躯が宙を舞っていた。脳天と爪先が天地逆となり、駆けて来た勢いそのままに彼女の背後へと吹き飛んでいった。まるで手品のようだった。

 彼女はそのまま悠々とした足取りで俺に向かってきた。

 仲間がやられて周りの男達は唖然としている。そんな中、リーダー格の一人が彼女の前に立ち塞がり、血が滴る釘バットを振りかざし、静かに凄んだ。

「お嬢ちゃん。あんま調子に乗っ……」

 言葉は途中で遮られ、リーダー格の男はその場に膝から崩れ落ちた。その直前に、彼女の膝が容赦無く男の股間に突き刺さったのが見えていた。

 それを契機に、男が左右から二人同時に彼女に殴り掛かった。彼女がそれをひらりと舞う花びらのように躱すと、二人はやはり前のめりに倒れて起き上がる事は無かった。

 男の一人はパンチを繰り出したが、彼女にいなされて人中を突かれたのを確認出来た。もう一人は俺の目でも何をされたのか捉え切れなかった。

 数秒の間に場の空気が一変する。暴走族達のどこか弛緩していた意識がピリピリと強張った。

 こんな状況で驚くべき胆力を見せてはいたが、ここに来て彼女の更なる特異性をようやく周囲が認識する。

 この女は優雅な花などではない。一匹の獣や修羅の類だと認識する。

 そうこうする内に彼女は俺の前に立ち、再び口端を歪めた。獰猛な肉食動物が恍惚に身悶えするような笑みだった。

「まだやれんのか?」

 彼女は涼しげにそう尋ねながらも、俺が向けたように拳を突き出した。

「……どこに目ぇつけてんだ。どう見ても余裕だろうが」

 ふらつきながらもその拳に俺の拳を突き合わせた。

 その瞬間、背中にバチンっと雷が落ちたような錯覚に陥った。

 彼女とは初めて会ったが、歴戦の戦友のような妙な信頼感が胸中に湧き起こったのだ。

 彼女はニッと口の端で笑うと、「任せたかんな」とだけ言い、初対面の俺に躊躇無く背中を預けた。

 俺も同様に背中合わせに立ち、「お前の方こそ下手こくなよ」と返すと、背後から彼女の鼻で笑う音が聞こえた。

 互いに名も知らない初めて出会った男女が死地で背中を預け合う事に、俺達は何の不安も抱かなかった。それどころか負ける気が失せた。つい先程までリンチを覚悟していた俺の身体が、嘘のように力が漲った。

 一目惚れというものがある。

 俺も健全な男子として何度か経験がある。ただのオカルトではなく、遺伝子が強烈に惹かれ合う化学反応とも聞く。それと似た感覚だった。

 とはいえ抱く感情は恋愛のそれとは完全に非なるものだ。

 惚れた女とは向かい合って愛を囁き合いたいが、彼女と触れ合うのは互いの背中だけで良い。

 背中で語り合う。それも愛や恋ではなく、義勇をだ。

 名も知らぬ彼女の背中はやけに熱かった。彼女の血が、魂が、俺と交わっていくのを感じる。それが俺の錯覚ではない事を、彼女の言葉が証明した。

「なんか変な感じ」

 そう前置きして、すぐに言葉を続けた。

「アンタの背中になら、アタシの心臓も預けられる」

 全身の細胞が武者震いした。

「……おう。俺のも任せたからな」

 彼女は軽やかに笑い、「じゃあ死なば諸共って事でよろしく」と、心底楽しそうに言った。

 彼女との共闘はまさに鬼に金棒だった。死角を失った俺達に敵は居ない。

 俺が彼女の背中を守り、彼女も俺の背中を守る。それだけで絶望的に思えた多勢が見る見ると減っていった。尽きかけていた俺の気力体力も嘘のように漲り、振るう拳は相手を普段よりも天高くまで吹き飛ばした。

「ははっ。すっげーなオマエ」

 掛け値無い称賛を投げかける彼女は彼女で、音も無く目の前に死屍累々を築き上げていく。

 気が付けば立っているのは俺達だけだった。流石にどちらも息も絶え絶えで、真夜中の冷たい空気などお構い無しに汗塗れだった。

 俺達は背中を預け合ったまま腰を下ろし、激しく肩を上下させながらも口にする。

「……犬飼京助だ」

「……白雪百合しらゆきゆり

 満月が照らす中、俺達は初めてお互いの名前を知った。

 綺麗な名前だと素直に思った。だがそんな事を言われて喜ぶようなタマじゃなさそうだとも思い、胸の中に押し留めておいた。

「……おい。中々やるじゃねーか。塾よりかは楽しめたぜ」

 そう言うと彼女の背中が愉快そうに揺れた。

 その背中はあまりにも細かったが、自分の拳よりも頼りになる存在に初めて出会えたのだ。

 やがて俺の『鬼飼いの京助』という異名には、二つの意味が備わる事になる。

 一つは俺の内に潜む鬼。

 そしてもう一つは、愛らしい顔立ちをした、お嬢様学校のスカートをギリギリまで短くした相棒の事を指すようになった。

 そして数年が経ち、今に至るわけだが、やってる事は当時と何も変わらない。

 頭上から振り下ろされるチェーンを必要最低限の動きで避けながら、百合は涼しげに言う。

「なぁ京助。知ってた? 最近アタシって『修羅百合姫』って通り名つけられたみたいなんだけど」

「なんか昔の漫画に似たようなタイトルがあったような……」

「良いんだよ二番煎じでも。ちょっとカッコ可愛くね? 修羅だぜ修羅」

 彼女の表情は見えないが、愉快そうな笑みを浮かべているのが手に取るようにわかる。手に取るというか、密着した背中から伝わる。

「でも俺の通り名から考えると、俺が百合を飼ってるみたいだな」

「それな。でもまぁセンス良いから許す」

「……お前って若干厨二病入ってるよな」

「あぁ? なんか言ったか?」

「なんでもねーよ」

 背中越しに呑気な会話を交わしながらも、俺達を取り巻く音はどれもが鈍く痛々しい。

 拳が顔面を殴打する音。投げ飛ばされた身体が地面に落下する音。どれもが肉を裂き、骨を軋ませている。

 更には相手の怒声。または呻き。その数は優に十を超える。

 もう今では使われなくなった埠頭に差し込む夕日は海面に反射して、俺達の青春を彩るように祝福してくれていた。

 喧嘩中の俺と百合は先程のようにふと日常会話を交わすくらいで、威嚇の遠吠えを上げたりはしない。

 俺は頭に角材を一発喰らったくらいじゃ呻き声も上げない。百合に至ってはそもそも俺の知る限り、誰かの攻撃をまともに喰らったところを見た事が無い。

 そんな淡々と喧嘩をする俺達だが、一つだけ外見に特徴があった。

 俺達はいつも嗤っていた。声は上げずに、口角だけを吊り上げていた。それが余計に俺達を鬼のように見せ、相手を恐怖で震え上げさせていた。

 しかし俺は喧嘩中に百合のその顔を見ても、楽しそうだなとしか思わなかった。

 彼女は四方八方から襲いくる男の拳打を舞い踊るように捌き、正確且つ迅速に急所だけを捉え、時にはいなすように投げ飛ばす。思わず見惚れてしまうほどに感心する。

 俺は、そんな百合の背中を守る壁となる。

 一歩も動かず、鈍器だろうが刃物だろうが受け止める。完成され切った俺の身長は百八十台も半ばを超え、ボクサーのように洗練されつつも凝縮した筋肉を纏っている。その上骨は折れず曲がらずを体現し、バイクで轢かれた時もヒビすら入らなかった。

 そして返す拳は大の男を中空に打ち上げる。俺のアッパーカットは、文字通り人を空に舞い上げ、それを見る度に百合はまるで自分の事のように自慢げに口端を持ち上げた。

 今日の相手は特に悪質なチンピラ集団で、計画的な車の窃盗から、噂によるとクスリの密売にまで手を出しているような悪党だった。

 と言ってもやはり俺達から喧嘩を売ったわけではない。この街で顔をデカくする為に『鬼飼いの京助』と、『修羅百合姫』の首を欲しがる奴は後を絶たない。だから度々こうやって呼び出されているのである。

 とはいえ俺達も相手をしなければ良いだけの話ではある。しかしそこはお互い厨二病に冒されている部分もあるのだろう。裏舞台で大義の為に力を振るう自分達に、熱狂を抱いていなかったと言えば嘘になる。

「こんなもんか。今日は下の下だな。数も二十人くらい。凶器は角材だけ。格闘技経験のある奴も無し。この街で未だにアタシらの事、こんな低く見てる奴ら居るんだな」

 立ち上がってくる奴が居なくなると、百合は両手をパンパンと叩きながら途端に興味を無くしたように真顔になる。そしてポケットからキャンディを出すと、「ん」と俺に毎回差し出す。

「要らねっつってんだろ」

 百合は駄菓子を拒否する俺の姿が何だかおかしいらしく、喧嘩の後はいつもこのやり取りをする。

「美味しいのに。お薦めはグレープフルーツな。イチゴはやめとけ。ちょっと甘すぎる」

「食べねえっつうの」

 俺のツッコミに「あはは」と愛らしい笑い声を上げながら、キャンディを舐める。その笑顔は鬼と恐れられる事は無いだろう。普通にティーン雑誌の表紙を飾っていそうな、可憐な女学生のあどけない笑顔だった。白いニットパーカーに返り血が点在していなければの話だが。

「これからどうする?」

「俺は腹減ったから牛丼食って帰る」

「あ、じゃあアタシも」

「オマエんとこは校則で買い食い禁止だろ」

「喧嘩も禁止だっつうの」

 そう言われて思い出す。俺にとっては、百合とこうやって暴れているのがあまりに日常的過ぎて常識を失念していた。

 百合がケラケラと笑いながら俺の背中をバンバン叩いていると、剣呑な声が遠くから聞こえてくる。

「あ、こっちに居たぞ!」

 どうやら増援のようだ。

「どうする?」

 キャンディを舐めながら、緊張感の欠片も無く俺の顔色を窺う。

「腹減ったから今日はもう帰ろうぜ」

「さんせー」

 埠頭の端っこで大人数に追い掛け回され、消波ブロックの上を器用に飛び移る。

 夕焼けを映す海面にチンピラが次々落ちていくのを尻目に笑いながら、俺達は青春を謳歌していた。

「は?。食った食った。学校のダチとはああいうところ行けねーから新鮮だわ」

 牛丼特盛を平らげた百合は、俺の部屋のベッドの上で胡坐をかいて満足そうな笑みを浮かべる。

 百合が県内屈指のエスカレーター式お嬢様学校でどんな生活を送っているのかは、出会った当初から不思議に思っていた。しかしこれが案外普通に過ごしているらしい。

 そのギリギリまで折ったスカートと口調を先生に注意されるくらいで、その他は特に問題らしい問題を起こさず、信じられない事に成績も割りと優秀との事だ。

 実際喋っていても口調が粗暴なだけで、付け焼き刃ではない教養を感じる事が多い。以前、迷っている外国人観光客を見かけると、自ら寄って行って流暢な英語で案内をしているところを見た事がある。

 同級生の友達もそれなりに居て、俺と一緒に過ごさない放課後や休日は、カフェやカラオケなど、普通の女の子らしい事を楽しんでいるようだった。

 当初俺が懸念していたのは、そういう時に百合がチンピラに狙われる可能性だった。だがすぐにそれは杞憂だと思い知った。

 どれだけ鬼のように強かろうが、女だけを狙うというのは、それだけで面子が潰れるダサい行為らしい。それに加えそんな学校に通うお嬢様達なのだから、当然親がどういう立場の人間なのかは推して知るべきだろう。迂闊に手を出そうものなら俺の拳よりも余程怖いもので潰される。

「ていうか帰れよ」

「まぁまぁ。たまには良いじゃんかさ。祝勝会の二次会っつうの?」

 そう言って屈託無く笑う百合の下着は丸見えだ。そりゃそれだけ短いスカートで、無造作に胡坐をかいていたらそうなる。しかも家柄は良いので、毎回値の張りそうな下着ばかり穿いている。今日は黒のレースである。

 とはいえ今更百合の下着が見えているかどうかなど、少なくとも俺と二人の時には指摘する事ではない。最初の頃は流石に注意していたが、今ではもう面倒なだけである。

 以前、何故そんなスカートを短くするのか聞いたら、「かっけーだろ?」と返ってきた。大昔の不良は制服の裾を詰めていたと聞くが、彼女のファッションセンスというか価値観はそれに通じているのだろうか。

 そんな百合も外ではここまで開けっぴろげではなく、それなりに気にしている。風が吹いたらスカートを押さえるし、階段を上がる時は鞄で隠す。倒れたチンピラが覗いていたら、「見てんじゃねーよ」と冷徹に踵を踏み下ろす。

 話を聞くと百合は幼稚園の頃からお嬢様学校通いで、男の友達が出来た事が無いそうだ。なので彼女にとって大概の男は畑に生えたジャガイモやニンジンとそう大差無い存在らしい。

 そんな中で出来た初めての男友達。と言って良いのかわからない関係だが、とにかく背中を預け合うほど信頼出来る俺に対しては、下着が見えている事など歯牙にも掛けない。

「どうせまた許嫁が遊びに来てんだろ?」

 俺の問い掛けに、百合はそっぽを向いて大袈裟に肩を竦めた。

「正解」

「じゃあやっぱり帰れよ」

 そう返すと、百合はやはり演技掛かった仰々しいため息をついて項垂れた。

「勘弁しろよ。知ってんだろ? 苦手なんだよああいうノリの奴」

「ああ見えて男気ある奴なんだけどなぁ」

 俺は何度か百合の家に招待されている。一般的な一軒家ではなく城みたいな豪邸だ。

 その生活ぶりも県内有数のお嬢様学校に通うくらいであるから、御多分に洩れず世間一般とはかけ離れていた。だから許嫁などというおとぎ話に出てくるような存在が居る事を聞いた時は納得せざるを得なかったし、当然その相手も大企業のご令息である。

 俺が初めて百合の家を訪問した時は、彼女たっての希望で父親に会わされ、「面白い奴に出会えた。京助とは一生の親友だから」と嬉しそうに紹介された。百合の親父さんはどこぞの会社の社長で、見た目は極道のようだったが中身は柔和で物わかりの良い人だった。

 彼は一目で俺の腕っぷしや、ただの暴れん坊でない事を見抜いた。じゃじゃ馬娘の信頼を得ている事が、何よりの信用手形だったのだろう。

 親父さんにそっと頭を下げられ、「娘を守ってやってくれ」と頼まれた。

 理由を聞くと、百合は昔から正義感が強かったらしい。

 巻き込まれた結果として何となく喧嘩に明け暮れるようになっていた俺とは違い、彼女は自ら積極的にトラブルに突っ込んでいっていたらしい。

 それが校内だけで済めばまだ、ただのお転婆で済んだ。相手は女子しか居ないし、お嬢様ばかりでは暴力事件も起こるまい。

 しかし百合は校外でも、やれ列の割り込みだの、老人に優先席を譲れだの、明らかにガラの悪そうな男相手にも平然と注意した。彼女にとって男は恐怖の対象でも何でもなく、畑に生えている野菜なのだから。

 娘の安全を危惧した親父さんは、彼女に護身術を身に付けさせようと一流のパーソナルトレーナーを付けまくった。

 そして百合には天賦の才があった。ありすぎてしまった。

 腕力こそ平均の女子並みだが、反射神経、動体視力、俊敏性、判断力、そして何より、男の暴力を前にしても全く物怖じしない胆力が備わっていた。

 格闘センスが頭の天辺から爪先までぎっしり詰まった百合は、乾いたスポンジに水を垂らすが如く、瞬く間に武の真髄をその身に吸収していった。

 今では彼女に教えるトレーナーを探すのに苦労する有様で、先日はロシアから呼び寄せた退役したばかりの元軍人すらも、軍隊格闘術で組み伏せてしまったという。

 百合曰く、「中々手強かったぜ」とまるでゲームのボスキャラを倒したかのように、その事を楽しそうに教えてくれた。

 親父さんは百合を溺愛していたが、分別のある人だった。なので鎖をつけるようなやり方で保護はしたくなかったそうだ。

 そこで白羽の矢が立ったのが俺だった。要は用心棒代わりというわけだ。同い年の友達なら、百合にとってもストレス無く一緒に居られるだろうと考えたそうだ。

 放っておくと一人でトラブルに突っ込んでいくのなら、せめて屈強な友人が傍に居てほしい。しかしそんな親父さんの目論見は、すぐに間違いだったと判明する。

 何故なら俺自体が喧嘩を呼び寄せる元凶だからだ。

 チンピラは名を上げようと、街灯に誘われる虫のように俺に襲い掛かってくる。俺と百合はそんな奴らをそれこそ羽虫を払うように蹴散らしていった。

 百合は水を得た魚のように、その環境を喜んだ。これ以上無いほど人生を謳歌している様子の娘に、親父さんは胃を痛め続けた。度々百合に苦言を呈していたが、ついに何も言わなくなり諦観するようになってしまった。

 俺と百合のコンビは出会った時から呼吸がピッタシで、俺が百合のか細い背中を、百合が俺の広い背中を、お互い絶対安全な領域だと全幅の信頼を寄せて戦った。時には手強い相手と対峙して、危ない時もあった。それでも俺達は勝ち、背中合わせで座り込んで勝利の余韻を共有して笑った。

 それまでは喧嘩自体を楽しいなんて思った事は無かったし、今だって人を殴る事自体が好きなわけではない。それは百合も同じだろう。

 しかし百合と喧嘩に明け暮れた日々は間違いなく青春だった。

 ある夜も薄氷の勝利の後、二人並んで大の字で寝転びながら星空を仰いでいると、百合が「なんかこれって青春っぽいよな」と息を切らしながらも微笑んだ。

「こんな物騒な青春あるかよ」と俺は返し、百合も「そりゃそうだ」と声を上げて笑った。

 そのまま二人で星を見上げていると、ふと百合が呟いた。

「でもアタシ達以上の友情なんてそうそうないって」

「友情なのかね。これが」

 百合はくつくつと笑うと、「でも少なくともアタシは京助に血と肉を預けられるぜ?」と言った。

「あと魂もな」

 俺がそう返しながら拳を差し出すと、百合は心底嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべて、自身の小さな拳を突き合わせた。

 だが俺達がそんな充足した日々を送り続ける事で、親父さんの胃の粘膜は限界を迎えていた。俺も百合も、それに対しては申し訳ないという気持ちはあった。

 そこで話は戻るが許嫁である。

「ほんっとに面倒くせーんだよ。ていうかなんだよ許嫁とか。アタシに人権はねーのか」

 百合は胡坐をかいた膝に肘をついて頬杖をつくと、心底億劫そうにそう言った。

「でもオマエを放っておいたら恋愛とかしないだろ」

「あぁ? それはいくら何でも舐めすぎだろ。アタシだって男に惚れた事の一度や二度……」

 そこで百合は何かに気付いて口を閉ざした。代わりに俺がツッコミを入れる。

「ねーだろが。オマエが男に向けてきたのは乙女の眼差しじゃなくて拳や蹴りだけだ」

 百合は腕を組むと、暫く黙って目を瞑っていた。やがて顔を上げると立てた人差し指をくるくると回しながら言う。

「……ほら。京助の腕っぷしには惚れ込んでるからさ」

「それ恋愛とは真逆の感情だからな」

「でもさ、京助のアッパーカットでチンピラの顎が砕ける音とか背中越しに聞いててドキドキするしさ。これはもう満場一致で乙女って事で良くない?」

「そんな血生臭い乙女が居てたまるか」

 俺の指摘に百合が深いため息をついた。

「……まぁアタシもさ、ガキじゃねえんだからいつかはパパっと結婚して、パパっとガキ産んで、孫の顔見せて親孝行してやりたいとは思ってんだって」

「じゃあ良いじゃねえか」

 百合は頬杖をついたまま顔を背けると、更に深いため息をついた。

「やっぱ今は京助と馬鹿やるのが楽しいってのが一番だし」

 その気持ち自体は俺も同じなので黙ってしまう。なんだかんだで百合と一緒に居るのが一番楽しい。

「つうか男と何話せば良いのかわかんねーし」

「俺とはいつも喋ってんだろ」

「だって京助は男っていう以前に相棒じゃん」

「あといつも大勢の男に話し掛けられてるだろ。『ゴラァッ!』とか『ぶっ殺すぞ!』って」

 百合が腹を抱えて笑う。

「あいつらとコミュニケーション取れた事なんて一回もねーよ。てか日本語話せっつーの」

 ひとしきり笑うと百合はニヤニヤしながら問う。

「つうかさ、同級生とかにも思うんだけどさ、付き合ったりして何が楽しいわけ? マジで」

「オマエも男とド突き合ったりはしてるだろ」

 俺の下らない言葉遊びを、百合は鼻で笑った。

「そうじゃなくてさ、マジでデートとかクッソつまんなさそうじゃん。それなら京助とこうやって駄弁ってた方が絶対楽しいだろうし」

「彼氏どころか恋愛した事すら無いお子様だからな」

 俺は演技掛かった冷笑で返すと、百合が枕を投げつけてきた。

「うっせーな。そんなもん何が楽しいんだ。アホらしい」

 百合は黙っていれば相当に可愛い。無言で駅前に立っていれば、途端にナンパ男に周りを囲まれる。

 しかし恋愛や男に対して無関心すぎるのだ。

 ちなみに俺は今こそフリーだが、上背もあるし見てくれも悪くはない上に、この街最強の男という肩書きもあってか女に不自由した事は無い。経験もそれなりに豊富だったりする。

 勿論百合もそれを知っているし、その時々で応援したり祝福はしてくれる。あと百合がこっそり「この女はやめとけ」と忠告してくれた女は、実際に二股してたり裏がある性悪だったりなので、百合は恋愛に興味が無いだけで人間性に対する嗅覚自体は鋭かった。

 だからこそ、俺の前ではこんな無防備に下着も晒せるのだろう。俺が彼女に対して、邪な気持ちは一切抱いていない事を理解しているからだ。

「とにかく今日はもう帰れよ。いつまでも俺の家で愚痴ってても仕方ねえだろ」

 俺の口調に微かな焦燥感が混じっているのを感じ取った百合は、にやりと口端を歪めた。

「何だよ? また女のとこにでも行くのか?」

 喧嘩の後は身体と心が火照って仕方が無いので、彼女やセフレが居れば抱きに行く。百合は俺のそんな事情はわかっているし、俺も隠したりはしていない。

 百合もそうだが、俺達は好き好んで人を殴打しているわけではない。ただそれでも、火をつけられた闘争心を鎮めるというのは厄介な事だ。

「今そういう女は居ねーよ。知ってるだろ」

「じゃあどうすんの? 一人でシコんの?」

 百合は粗暴でガサツではあるが、あまり下ネタを言う方ではない。喧嘩を終えた直後特有の高揚感でテンションが高いのもあるのだろうが、本当に帰るのが億劫なのだろう。その言動から、少しでも俺と下らない時間を過ごしたいという意図が読み取れた。

「そうだよ。だから帰れ」

 それでも俺は帰らせようとする。百合の親父さんや許嫁を慮ってもいるし、何より俺自身さっさと昂ぶりを処理したいというのがあった。それほどに殴り殴られという行為は心身に熱を籠らせる。

「良いじゃん。シコれば」

 百合はからかっているわけでもなく、平然とした様子で言う。恥じらいも感じない。これは百合に品性が欠けているのではなく、俺への距離感が無さすぎるだけなのだ。俺の前以外ではこんな事口にしないだろう。

 それがわかっているので俺も真顔で対応する。

「良いか? 男にとってオナニーはな、基本的には一人でのんびり楽しみたいものなんだ。風呂やトイレと一緒だ」

 百合は呆れたように、それでも涼しげに言う。

「なんだ基本って。応用があんのか」

「それもある。だが俺は基本を尊ぶ。だから一人でしたい。わかったな? 帰れ」

「これ、オカズにしていいけど?」

 どうでも良さそうな表情で、胡坐をかいた両脚をより粗雑に左右に開いた。すらりと伸びつつもムチムチとした肉付きの太股と、黒いレースのショーツが更に露わになる。

「要らんお世話だ」

「あっ、そ」

 百合と同様に、俺も彼女を異性として意識などしていない。友達というよりかは、傭兵同士のような絆を有する仲である。そんな彼女が性欲の対象になるわけがない。

 しかしそれはあくまで平時の話だ。

 百合は、俺が交際したり肉体関係を持ったりした女性の誰よりも色香を身に纏い、容姿は前述のナンパの例の通りに見目麗しい。

 以前にも昂った時につい魔が差して何度かオカズに使用してしまった事がある。その後、罪悪感とも言えない気持ち悪さが残ったのは、やはり百合に対してはただの友人ではない、ある意味家族以上の絆で繋がっている所為だろうか。

 百合は下着の露出など気にする様子も無いまま、背筋を伸ばして天井を仰ぐと億劫そうに言う。

「あーあ。アタシもいつか退屈な男と結婚して、退屈な人生送るのかな?」

「それが退屈かどうかなんてわからねーだろ」

「なぁ。恋愛ってそんな燃える? 喧嘩よりも?」

 百合は恋愛に関しては興味は無いのだろうが、好奇心はあるようで尋ねてくる。

「比べるもんじゃないな。まぁ殴り合うよりかはキスでもしてた方が気持ち良いだろ」

「あんなん唇合わせてるだけじゃん。何が良いのかわからんわ」

「処女が偉そうに」

 俺の言葉に百合は一瞬ムっとむくれたが、一転して笑みを浮かべた。以心伝心である盟友だからこそ直感でわかる。これは碌でもない事を考えた時の笑顔だ。

「そこまで言うならちょっとアタシにキスの良さ教えてみなよ」

「馬鹿か?」

 思った以上に碌でもない事だった。

「でもさ?、このままだと多分アタシって、マジでその許嫁と結婚する事になると思うんだよね」

 百合は俺のツッコミにくつくつと笑い、そのまま言葉を続ける。

「どうせ好きな男なんて出来ないだろうし、散々好き勝手やらせてもらってきた親に恩返ししてーなって思ってるわけ。何よりソイツは京助が認めてる男だしさ」

 そう。何を隠そう百合の許嫁は俺の旧知の人間でもあった。どういう奇縁か、俺がこんな青春を歩むきっかけにもなった、カツアゲから助けた同級生である。

 そして戦友の許嫁に値すると、そう評価する確かな根拠も有る。

 例のカツアゲの話には続きがあった。事が終わったと気を抜いていると、逃げた奴らがすぐさま戻ってきて、俺の背中をバットで不意打ちしてきたのだ。それを身を呈して守ったのが件の許嫁だった。

「実際骨のある奴だよ。ただカツアゲされてビビってただけじゃない。何より最初に俺の背中を守ってくれたわけだからな。ある意味俺の初代相棒ってわけだ」

 幸い大きな怪我は無かったし、カツアゲ野郎は勿論その直後に俺が十倍返しで撃退した。

 昔を懐かしむ俺の話に、百合は不機嫌そうに顔をしかめる。

「アタシがアイツを許嫁ってイマイチ認められないのは、その話の所為でもあるんだけど」

「なんでだよ。男気を表す良い話だろうが」

「……京助の相棒枠はアタシだけだろうが」

 百合は不機嫌そうな表情でそっぽを向くと唇を尖らせた。その呟きには明らかに嫉妬が混じっている。

「オマエな……自分の許嫁にそんな事でヤキモチ妬くなよ」

「うっせー! 京助の背中守れんのはアタシだけなんだよ!」

 百合が照れ隠しで再びクッションを投げつけてくる。

 理由はどうあれ、彼女なりに自分の将来や親孝行など色々と真剣に考えてはいるようだ。

 そんな色々を吹き飛ばすように、百合は豪快に胡坐をかき直しながら両腕を組んだ。そして清々しいまでに男前な口調で言う。

「とにかく、アタシが背中を預けられる男は京助だけだ。だから初めてのキスに相応しい。どうよこの完璧な論理は」

「論理の意味を辞書で引いてこい」

 下らない会話にお互い鼻を鳴らす。百合もそんな事を本気で考えているわけではない。

 しかし最近俺達は肌で感じ取っている空気がある。きちんと二人で言葉を交わしたわけではないが、確信めいた予感を感じている。

 青春の終焉。

 いつまでも馬鹿ばかりやってられない。いつかは大人にならないといけない。

 いつの頃からか、俺達に喧嘩を売ってくる奴らも激減してきた。そう遠くない内にゼロになるだろう。

 俺がため息をつきながら、頭をぼりぼりと掻いていると、百合が愉快そうにケラケラと笑った。

「おいおい。あの『鬼飼いの京助』ともあろう者がアタシにキスするくらいでビビってんだけど。こいつぁ自慢話になるな」

「オマエは反射的に手が出てきそうで怖い」

「京助相手だったら大丈夫だっての」

 百合は無垢で無邪気な笑顔で、「他の男だったら唇と舌を噛みちぎっちまうだろうけど」と楽しそうに言った。

 俺はやれやれと頭を振りながら、ベッドの上で胡坐をかいたままの百合の前に腰を掛けた。百合は照れた様子も無くニヤリとしている。

 こんな時にまで俺達の以心伝心は揺らがない。

 いつまでも二人で青春にしがみついていたい。だからこんな馬鹿な事に興じる。

「なんつうか、オマエとキスとか罰ゲームっぽいよな」

 実際あまりに滑稽な行為に思えた。百合もそう思っているだろう。だからこそ意味のある無意味な遊び。

 百合は俺の太股をパシンと叩くと、ニヤニヤしながら言った。

「アタシ結構可愛くない? 役得だろ?」

「見た目だけならな」

 俺が顔を近づけると、百合はやはりニヤついたまま言う。

「ワガママ言うな。天は二物も与えねーんだよ」

「自分で言うな」

 唇が触れ合う直前だというのに、普段通りの雰囲気で笑い合った。喧嘩中や、喧嘩後と同じように。

 百合の吐息はお気に入りのグレープフルーツのキャンディの匂いがした。

「マジで俺の唇噛みちぎるんじゃねーぞ。修羅百合姫さんよ」

「ヘタクソだったら保証は出来ねーよ?」

 互いに軽口を叩きながら、ゆっくり瞼を閉じていった。俺もそうだが、百合も全くドキドキしていないのがわかった。部屋はいつもの空気で包まれていた。

 そんな中、ちゅう、と唇が触れ合った。

 今まで気にした事は無かったが、百合からはキャンディ以外の甘い匂いがした。

 そして、柔らかかった。

 思えば百合とはいつも背中を触れ合わせているが、それ以外の接触は立ち上がる時に引っ張り上げる手を握るくらいだった。

 顔を離すと、やはりニヤついたままの百合の顔が目と鼻の先にあった。

「……やっぱ大した事じゃねえな」

 彼女はそう言うと今度は自ら素早く唇を寄せ、ちゅっ、と俺の唇を啄んだ。その際に少し勢いが余って、お互いの前歯がぶつかる。

「どこ狙ってんだヘタクソ」

 俺の言葉に、百合はくすくす笑いながら、名誉挽回とばかりに、ちゅっ、ちゅっ、と今度は良い塩梅で連続にキスをしてきた。

 そして得意気に、「どうよ?」と言いながら、更にちゅっちゅと唇を押し付けてくる。

「つうか京助の唇、結構柔らかくて笑える」

「多分誰が相手でもそんな変わんねーよ」

「そんなもん? アタシはどう? 京助の歴代のオンナの中で」

 正直今までで、百合の唇が一番柔らかくて心地が良いと思ったが、相棒にそんな事を口にするのは何となく憚られた。

「普通じゃね」

「普通かよ」

 そんな会話を交わしながらも、俺達はちゅっちゅと唇を重ね続けた。

 俺だって好きな女とキスをする時はそれなりに緊張する。それが全く無い為、ただただ唇によるスキンシップに集中出来た。家族よりも信頼出来る人間と、肩肘を張らずに、何の情念も介さず唇を押し付け合う行為は単純に心地良い。

 俺達はいつの間にか、両手を握り合っていた。

「結構気持ち良いじゃん。キス」

「こんなの子供のキスだろ」

 百合のその言葉に、俺は自然と見下すような言葉を漏らしてしまった。

 それに応戦するよう、百合は俺を挑発するように言った。

「へ?。じゃあやってみせなよ。大人のキスってやつをさ」

 処女の癖に上から目線な事に若干イラついた俺は、顔を寄せて唇を奪うと、そのまま舌を差し入れた。

 その瞬間、百合は「んっ」と吐息を漏らし、瞼がぎゅっと閉じられた。

 反射的に逃げようとする百合の舌を吸い取るように巻き付けると、くちゅくちゅと水音が鳴る。

 あれほど喧嘩の技術に卓越した百合も、口腔を攻められた事の無いオボコなので、完全に俺が主導権を握る。

 やりたい放題に舌を舐め、時には唇で甘噛みする。

「……やぁ」

 百合は聞いた事も無い弱々しい声を上げると、顔を背けるように唇の結合を解いた。

「……エロいんだよ馬鹿」

 不服そうな目つきで言った。

「やっぱお子様にはまだ早かったか?」

 俺の挑発に、「上等だよ」と不敵な笑みを浮かべると、百合の方から唇をくっつけてきた。舌をなめくじの交尾めいた巻き付け方をさせて、くちゅくちゅと淫らな音を鳴らす。

 俺達はどちらからともなく、握り合った両手の指を絡め合った。どんな男でも瞬きする間にKOしていく百合の手がこんなに小さく、指が細い事に改めて驚いた。

 涎が微かに互いの口元から漏れるほどに、ぴちゃぴちゃと激しく舌を絡め合う。

 百合は初心者なりに俺に主導権を握らせまいと必死に頑張っていたが、俺は百合が攻勢に出ようとする度に彼女の歯茎の裏に舌を伸ばし舐めて牽制する。

 深いキスをしながら百合は薄目で俺を睨み、『そんなの卑怯だろ!』と視線で訴えてきたが、そんな事は知ったこっちゃない。

 俺は舌を引っ込め、唇を横に滑らせたり、百合の上下の唇をそれぞれ甘噛みしたりする。百合はもうどうしていいかわからずに、このもどかしい快楽を甘受していた。

 そんな中、唐突に舌を差し入れると、「んっ」と肩に力が入り、甘い吐息を漏らした。

 普段はどんな屈強な男でも楽々と地にはいつくばらせる百合を、舌と唇だけで蹂躙する。

 百合の背骨がくったりと溶けていくのが手に取るようにわかった。

 胡坐をかいた太股はもじもじと揺れ、丸見えの黒いショーツは明らかに湿っていた。

 くちゅくちゅ、くちゅくちゅ。

 百合の方から、切なそうにぎゅっと指を絡め直して握ってくる。その手の平はじっとりと汗ばんでいた。

 瞳はとろんとした熱を帯び、息遣いが徐々に浅くなっていく。

 舌の結合を解き、唇が触れ合った状態で小声で尋ねる。

「どうよ?」

「……めっちゃ頭ぼーってなる」

 若干うっとりした瞳で、好奇心を満たした猫のような笑みを浮かべる。露骨に艶やかというほどではないが、妖艶な色香を漂わせている。こんな百合は見た事が無い。

 互いに熱くなり始めた手の平を離すと、百合はその手を俺の肩に置いた。

「折角だからさ、処女も貰っておいてくんね?」

 そして弁当のおかずをねだるような軽々しい笑顔でとんでもない事をさらりと言った。しかしその軽さは照れ隠しの意味も込められていたように思う。

「なんだ折角って」

 いくら恋愛に無頓着な百合でも、ファーストキスや処女を捧げる事に対して、全く何の感慨も無いわけではないだろう。それでも彼女はそれらを捧げる男として、俺が相応しいと思っているのだ。

 そこに恋慕の念など全く介在しないのにである。

 いや、だからこそ、と言うべきなのだろう。

 共に青春を駆け抜けた俺達の、言うなれば卒業式のような儀式。

「京助はアタシにとって青春そのものだからさ。一緒に暴れてきた戦友と思い出を共有したいみたいな?」

 百合の口からも、やはり俺の考えと同じ言葉が出る。

 俺と百合の数年間は掛け値無しの一蓮托生だった。

 どちらかが倒れればもう一方は絶体絶命となる。それでも俺達は一度たりとも心配して振り返る事はしなかった。信頼関係という言葉で表現するには軽すぎるほどに、俺達は死なば諸共の仲だったのだ。

 今更お互いが特別な存在だと表明し合ったところで、一喜一憂したりはしない。言葉ではなく互いの背中で十分に語り合ってきたからだ。

 だからこそこうして改めて伝えられると、その気持ちが嬉しいというよりかは応えてやりたい、と思う。

「やり方知ってんのか?」

 あからさまに小馬鹿にすように尋ねながら顔を寄せる。

 ちゅっ、と百合は唇で迎えると、皮肉めいた口調と笑みで返した。

「男が馬鹿みたいに腰振って、女が馬鹿みたいにアンアン喘ぐんだろ?」

 俺も笑みを返す。

「それだけわかってたら上等だ」

 もう一度深く唇を押し付ける。舌を差し込むと百合は何の抵抗も無く唇を開いて、自らの舌を差し出した。まだ拙いとはいえ百合の方からも舌を巻き付かせる。にゅるにゅるとした舌同士の摩擦で、クチュクチュと俺達らしくない音を奏でる。

「ん……ふぅ……はぅ……んっ」

 深いキスを続けていると、俺の肩に置いていた百合の両手の指がククっと曲がった。

 百合は必死に俺の舌責めを受け止めながら、息を浅くしていた。

「はぁ……はぁ……んっ……ふぁ……」

 俺を見つめる瞳が切なそうに揺れ、瞼が下りて薄目になる。

「オマエでもそんな雌っぽい目つきするんだな」

「……してねーよ……そんな目」

 互いの混ざり合った唾液が舌同士に糸を引く。百合は不貞腐れたような表情で俺から視線を逸らすが、お構い無しに顔を近づけると、ぎゅっと瞼を閉じて指を立てて俺の肩を掴んできた。

「や……京助……」

 上唇を甘噛みすると漏れた、その吐息混じりの声はくすぐったいほどに愛らしかった。

 自然と舌が交接すると、堪らないといった様子で百合の両腕が俺の首に回った。

 ちゅくちゅく。ちゅくちゅく。

「んんっ……はぁ……あぁ……」

 百合の腰がもどかしそうに揺れると、慌てて俺の胸板を押して離れた。そして若干熱を帯びた瞳で俺を睨みながら手の甲で口元を拭う。

「……やべー……頭溶けそうになった」

 頬を紅潮させながらも、その声色は普段の負けん気の強さが残っている。

「キスも中々良いもんだろ?」

 俺は立ち上がり、ジーンズのベルトを外していく。

 百合がジトっとした目で見上げ、髪を手で梳きながら唇を尖らせた。その際に見えた耳もほんのり赤い。

「つうかエロすぎね? くっつけ方とか、音とか」

「最後ビビって逃げたもんな」

「ビビってねーし! なんかちょっと……あれこれやばくね? ってなっただけだし!」

 百合は虚勢を張るように声を上げた。しかし俺を押しのけて逃げてしまった自覚はあるようで、悔しそうにそっぽを向く。

 そのまま数秒黙っていると、負け惜しみで言ったという雰囲気ではなく、純粋な感想を口にする。

「……まぁ思ったよりかは気持ち良かったけど、同級生が言ってたみたいな心臓破裂しそうなドキドキって感じはしなかったな。ふわぁって溶けそうにはなったけど」

「そりゃ相手が俺だからだろ。好きな男とやってみろ。心臓バクバクだぞ」

「京助でもそうなるの?」

「おお。好きな女相手だともう頭から湯気出そうになる」

 俺のその言葉に、百合は興味深そうな笑みを浮かべた。

「マジかよ。そんな京助見てみてー。最強無敵の京助でもそんな可愛い一面あんだな」

 普段通りに戻った百合の声音で、キスによって漂いかけていた桃色の空気が嘘のように霧散する。

「つうかアタシ相手でも湯気の一つくらい出せよ。唯一無二の相棒とキスしてんだからよ」

 答えがわかり切っているのに、露骨に茶化すような視線と笑みを俺に向ける。

「オマエ相手だと湯気どころかサーって血の気が引くわ。何やってんだ俺はって感じで」

 百合が手を叩いて爆笑する。

「ひっでーなオイ。こちとら花も恥じらう乙女だっつーの」

「そんな豪快に胡坐かいてパンツ見せびらかしながら大笑いする乙女がいるか」

 百合は何よりも、俺とのキスでそういう感情を持たなかった事を嬉しそうにしていた。

 お互い性的に高揚せず、悪戯でもしているかのようにキスというスキンシップに興じられた事で、俺達の友情を改めて強く認識出来たのが誇らしくもあった。

 俺がジーンズを脱いで再びベッドに腰を下ろすと、百合は無邪気な笑顔でおどけるように両手と唇を差し出してきた。

「んっ」

 その手を真正面から指を絡めて握り、まるで喧嘩の後に拳を突き合わせるくらいの軽い気持ちで唇を押し付け合う。

 ちゅっ、ちゅっ、と鳴った音は間違いなく友情の証だった。

 百合はそれに気を良くしたのか、にやりと笑うと、やはり冗談っぽくキス顔をして再び唇を啄んできた。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。

「なんかさ、アタシらがキスするのって全然特別な事してるって感じしねーよな」

 百合はニヤついたまま、言葉の端々で俺に唇を押し付けてくる。

「そりゃあもっと濃厚な事してたからな」

「マジでそれ」

 拳を振るいながら預け続けていた背中は、ある意味何よりも俺達の魂を熱く繋いでいた。特別な関係だからこそ、今更特別なスキンシップも何も無いのだ。

 百合は指を絡めて握った両手をぎゅっと握ると、不敵な笑みを浮かべた。

「今度はアタシから攻めるから」

 そう言って百合の方から舌を絡めてくる。

 くちゅくちゅ。くちゅくちゅ。

 俺はゲームを楽しむように百合の舌を迎撃する。

「はぅっ……んっ……くっ……やっ、ん…………ぷはぁ……くっそ……返り討ちかよ」

 喧嘩では敵無しの百合が、キスでは到底俺に敵わない事を楽しんでいる。相手が俺というのが重要らしく、百合は表面上は悔しそうにしつつも、満足げに顔を綻ばせる。

「流石京助」

「……前から思ってたけどさ、オマエって尋常じゃないくらい負けず嫌いなのに、相手が俺だと結構あっさり負けを認めるよな」

「そりゃあ京助は自慢の相棒だからな。アタシの誇りっつーの?」

 百合は何の照れも無く鼻を鳴らしてふんぞり返る。その言葉通り、百合は俺の事を何よりも誇りに思っている。そして俺もそんな百合を誇りに思っている。

「でも勘違いすんなよ? 負けっぱなしで良いと思ってるわけじゃねーからな」

 百合はそう言うと、宣戦布告と言わんばかりに小気味良くキスをしてきた。

「その内ぜってーアタシのキスでメロメロにさせてやっから」

 リベンジを誓う笑顔は爽快そのものだ。その声色や表情だけで判断するなら、キスについて話しているなどとは誰も思うまい。

「やれるもんならやってみろよ。その前に俺の巨根を見て気絶すんじゃねーぞ」

 俺も不敵な笑みを返しながら、ボクサーパンツに手を掛ける。

「するかバーカ。しょぼかったら笑ってやっから、さっさとちんこ見せてみろ」

 百合は余裕の笑みを浮かべていた。しかし当然ながら彼女が目にした事がある男性器など、精々父親のものくらいだろう。それも幼少の頃の記憶のはずだ。

 喧嘩の後の高揚と、いくら肉欲が伴わないとはいえキスを繰り返した事により、男根はビキビキと筋肉を軋ませ、血管が浮き上がり、怒髪天を衝いていた。

 赤子の腕ほどはありそうな大きさの肉塊。凶器と言って差し支えない質感とフォルムの肉槍に、百合は真顔になって絶句した。信じられないといった様子でそれに見入ってすらいた。

 明らかに驚愕で言葉を失っていたが、百合は口端を歪めて笑った。

「……へっ。流石は鬼飼いの京助。まさに鬼に金棒ってわけか」

 その瞳の奥には、相棒の力強さに対する称賛が爛々と輝いていた。そしてそれが自分に向けられている事への畏怖と対抗心も窺える。

「今からこれ、オマエん中にぶち込むから。覚悟しとけよ。俺のは並じゃねーぞ」

 そう言って、胡坐をかいて曝け出したままのショーツに右手を差し入れる。百合はビクっと肩を震わせたが、俺を睨んだままそれ以上の身じろぎはしない。

「上等だよ。真正面から受け止めてやるっての」

 百合の陰部はぐっしょり濡れていた。手触りからわかる陰毛の薄さとぷりんとした陰唇は、どれも彼女の無垢を主張しているようだった。

「素直に怖いって言えば優しくしてやったのによ」

 そう言いながら、ショーツの中で彼女の陰部をさすり、くちゅくちゅと音を鳴らした。

「んっ……くっ」

 彼女は微かに顎を引きながらも俺を睨み続け、両手で俺の左手を掴むとそれを自分の胸に押し付けた。身体が萎縮していない事を証明する為だ。

「他の誰でもねー京助の一撃だろ? むしろ燃えるね」

 上着越しに手の平へと伝わる心音は、確かに極度の緊張や不安は見られなかった。むしろある種の興奮が伝わってくる。勿論、それは性的な高揚ではない。

 俺と百合の間では言葉で交わす事も無く、ひっそりと沈殿していた想いがある。

 俺も百合も互いを最強で最高の相棒と信じて疑わなかった。

 だからこそ、時折湧く疑問。

 俺と百合、どっちが強い?

「これを奥まで突っ込まれた後で、そんな悠長な口きいてられると思うなよ」

 まさに鬼の角を模したような男根。鋼のような硬度で吠えるようにそそり立っている。

 しかしそれを前にしても、百合は一歩も退かない。

「そっちこそ、その自慢の逸物、途中で少しでもフニャフニャにしてみろよ。その瞬間食いちぎってやっから」

 俺達は獰猛な笑みを浮かべていた。互いに燃えに燃えていた。

 キスのような遊戯ではない。今から行うのは疑いようもない闘争。文字通り雌雄を決する時。

「どっちがつえーのかハッキリさせようぜ」

 俺達の声がハモった。

「キャンキャン鳴かせてやるよ」

「その前に暴発すんなよ」

 俺達が殴り合う理由など無い。だからセックスを疑似的な殴り合いに見立てている。

 処女の身で鬼の角を前にしても、百合の不敵な笑みが陰る事は無い。

 百合に握らされていた胸をそのまま強く鷲掴みにする。

 実は百合の胸のでかさに驚いていた。Fカップ以上は確実だろう。

 明らかに細身だが、身体のラインが出にくい上着を常に着ていたし、何よりそんな目で彼女を見た事が無かったのでわからなかった。

 太股の付け根辺りなんかは、前々から下着を曝け出すのを見ているから、かなり肉付きがよくてムチムチしているのは知っている。そこだけを見て、改めて全体を見ると出るところが出ているのは納得出来た。

 そのまま左手で胸を揉みしだきながら、右手の指の背でショーツの中を軽く撫でる。

「んっ……や……」

 百合は瞼を半分閉じると、俺に押し倒される形で背中をやや後ろに倒した。

 俺が顔を近づけると、瞼を完全に閉じ、口づけから舌を絡めていく。

 くちゅくちゅという音が、上下の口から漏れる。

「んんっ……ふぅ……んっく」

 百合の口から、若干糖分が混じった吐息が漏れ出す。彼女の右手が、俺の二の腕を情感たっぷりに掴んだ。それはやめてほしそうな、その逆のようなニュアンスだった。

 指の背にコリコリとしたものが当たる。その度に百合もビクビクと震えていた。

 口が離れると、俺と百合の舌に唾液の橋が架かる。

「オマエ、めっちゃクリ勃起するのな」

「テメーのちんぽほどじゃねーんだよ」

 百合は上目遣いに睨んだまま、右手で俺の男根を勢いに任せて掴んだ。眉間に皺を寄せたまま下唇をきゅっと結い、一瞬だけ女の顔になった。そして俺から視線を逸らすと、吐き捨てるように言う。

「……んだよこの熱さ。こんなん火傷するだろうが。馬鹿じゃねーの。つうか硬すぎだろ。マジで筋肉の塊じゃねーか」

「怖いんならやめとくか?」

 挑発ではなく友人の気遣いとして俺が尋ねると、百合は頬を紅潮させながら俺を見据えた。

「普段から京助に抱く感情と同じだっての。背中と一緒に命も預けられる信頼感と……」

 ごくりと彼女の喉が鳴り、その雄々しさを確かめるように男根を握り直すと、やはり不敵に笑う。

「……一回そんな男とガチでヤリあいてぇ。ってずっと思ってた」

「俺もだよ。百合と一晩中でもヤリあって、俺のが強いって認めさせたかった」

 勿論、実際に殴り合う理由は無い。だからセックスで白黒をつける。

 百合が仰向けに寝たままスカートとショーツを脱ぐ。その間に俺がコンドームを装着する。

 勃起し切った男根に張り付くコンドームは、膨張し切って元の色がわからないほど透明になっていた。

 互いに下半身だけ脱いだ状態で、百合の膝を両手で左右に開く。すると彼女が自嘲するように笑った。

「変な格好だよな。これってさ」

 彼女の陰唇はやはり無垢そのものだった。色素の沈着皆無のぷっくりした唇が閉じ切っている。しかし十分に湿り気を帯びていた。

 普通ならもう挿入に十分な濡れ具合だと判断したが、泣く子も黙る『修羅百合姫』とはいえ相手は処女である。

「もう少し前戯してやろーか?」

「余計な心配してねーで遠慮無くぶち込んでこいよ。それともアタシを舐めてんのか?」

 改めて男も女も関係無く、大した奴だなと、百合に一人の人間として敬意を抱いた。

 俺も笑みを返して、腰をゆっくりと進めた。

 男の硬さや太さなど何も知らないぷっくりした陰唇が、肉槍の切先でむにゅりと左右に押し広げられ、無防備に侵入を許していく。

「……んっ」

 先端がやや突き刺さった事で、百合の眉間に皺が寄り、そして唇が真一文字に結われた。しかし視線は俺をしっかり睨むように見つめている。

 強張った膣の密度を感じながらも、亀頭をにゅるりと挿入する。

「……んんっ」

 眉間の皺がより深くなり、口元は険しく閉じられ、負けん気の強い瞳は半目になった。

「力入ってんぞ? やっぱビビってんじゃねーのか?」

「……言ったろうが。少しでもちんぽが腑抜けたら食いちぎってやるつもりなんだよ。無駄口叩いてねーでさっさと突っ込めや」

 この期に及んで強がる百合に、俺はくつくつと笑いながら腰を進めた。

 するとすぐに、『ぷち』と何かが破れた音が聞こえたような気がした。

 半分ほど挿入すると一旦腰を止める。

 百合は両目をぎゅっと閉じて、両手は後ろ手でシーツをきつく握っていた。

 視線を結合部に落とすと、少量ではあるが破瓜の血が未挿入の竿部分にうっすら線を描くように滲んでいた。

 俺が止まった事を不思議に思ったのか、百合がゆっくりと薄目を開ける。口元は閉じたままだから、鼻でふぅふぅと浅い息遣いをしている。

 俺は少しでも彼女の強張りを解そうと、冗談めいた口調で仰々しく言う。

「『修羅百合姫』の処女、確かに貰い受けたぞ」

 百合は黙ったまま、小さくこくりと頷く。

「……痛いか?」

 俺の問いに、彼女は無理くり笑みを浮かべた。

「……流石京助だなって感じ。喧嘩もセックスも気合入ってるわ」

 そう笑う百合の額に汗が浮かんでいた。

「なんなら一旦抜くぞ? 自慢じゃねーが俺のは相当デカイ方だからな」

「……だろうな。その辺歩いてるしょうもない男が皆こんな鬼みてーなちんぽぶら下げてるわけねーし。アタシが認めた京助ぐれーだろ。こんなデカチン」

「普通なら処女相手にいきなり最後までなんて無茶やらん」

 俺のごくごく当たり前の配慮に、百合はわざとらしく大きなため息をついた。

「普通なら、だろ?」

「あぁ。そんでオマエは普通の女じゃない。最強の相棒だ」

 普段俺が百合に持ち上げられるとくすぐったいくらいに嬉しく思う。それを今、百合の方が味わっている。

「だろ? だからきっちり最後まで、京助のちんぽで貫いてくれよ」

 その言葉に、俺は改めて百合との出会いに奇跡を感じた。

 イイ女と恋愛するような高揚感なんかまるで無い。キスをしようが性器を挿入しようが心臓は凪いだままだ。お互いの誕生日だって精々駄菓子を贈り合うくらいで、高価なプレゼントなんか考えた事も無い。

 しかしそれでも恋愛と同じくらい、いやそれ以上の強固な感情を百合に抱いていた。

 百合の存在を尊いとまで感じさせた。

 俺はその日初めて知った。突き抜けた友情は男根を怒張させる。

 自らの中で更に硬度と体積を増すそれに気付いた百合は、額に脂汗を流しながらも痛快そうに笑みを浮かべた。

「……いいねぇ、その調子で来いよ。アタシの処女まんこ奪ったちんぽなんだからさ、バッキバキのガッチガチじゃないとこっちもきまりが悪いってもんだろ」

 俺は後ろ手にシーツを掴んでいた百合の両手を取り、頭の横へ押さえ付けるように握った。

「悪かったな。今更オマエを普通の女扱いしちまいそうになってた。俺がどうかしてた」

 百合は殊更頬を緩ませると、「来いよ。京助の全部、しっかり受け止めてやっから」と握り返してきた。

 ぐうっ、と腰を押し付ける。

 男を知らない膣壁が、ミチミチと音を立てて巨根に押し広げられていく。

「んんっ……くぅっ、ぐ」

 百合は歯を食いしばり、苦悶の表情を浮かべながらも、絶対に俺から視線を外さなかった。

 互いの陰毛が絡み合うほど下腹部が密着し、肉竿が根本まで百合の中に埋没した。ただでさえ長く、太く、血管を浮き上がらせて反り返った凶悪な俺の逸物を咥え込んだ初物の膣壺は、それこそ食いちぎられそうなほどに窮屈だった。

 初の結合を済ませた俺達は、喧嘩で勝利した時と同じ笑顔を向け合った。

「お疲れサン」

 百合の方からそう言ってくる。俺は思わず噴き出してしまう。

「どんだけ負けず嫌いだよ。こんな時くらい痛がれよ」

 俺達はけらけらと声を出して笑い合った。

「いや確かにめっちゃズキズキすんだけどさ、それ以上に京助と繋がれたのがなんかめっちゃ嬉しい。だって京助めっちゃ奥まで来てんだもん。マジで連結って感じ」

 百合はそう言って頬を緩ませた。その気持ちはわかる。

 俺も性的な快感をほっぽり出して百合と一つになれて、清々しい幸福感が胸を満たしていた。

「いつもは背中で通じ合ってさ、その体温とかで、『後ろに京助が居るんだ』って思うと、『アタシら無敵じゃん』ってなるんだけど、それが今はちんぽでそうなってる感じする。めっちゃ無敵感ある」

 百合はまだ痛みはあるのだろうが同じ充足感の中に身を置いているようで、すっきりした口調で続けた。

「その俺と勝負してんだけどな」

 俺のツッコミに、百合は「あはは」と笑いながら補足する。

「そうなんだけど、でもやっぱ、めっちゃ心強えって。京助のちんぽ……。普段は京助の背中に居れば大丈夫だなって安心感と同じ感覚が腹の奥で疼いてる」

 そう言って、百合はこくりと生唾を飲み込むと、ニヤリと笑った。

「京助のちんこが刺さってる今、最強だなって感じする」

 彼女の額に浮かんでいた脂汗は、いつの間にか熱気で浮かんださらりとした汗に変わっていた。

「まぁ実際最強だからな」

「な」

 俺達は不敵な笑みを浮かべ合うと、両手をぎゅっと握り直す。そして俺が顔を落とすと百合も目を瞑って冗談っぽく唇を差し出した。

 ちゅっ、ちゅっ、と数度唇を啄み、また顔を上げる。

 百合の中で俺の剛直は更にビキビキと雄叫びを上げる。

 そんな折、俺はどうしても百合に言いたかった事を口にする。

 こういう時でもないと、気恥ずかしくて言えない事だ。

「今更だけどよ、あん時助けてくれてありがとな」

 百合と初めて出会ったリンチ直前の場面の事だ。百合もすぐにピンと来たらしく即答する。

「えらい懐かしい話するじゃん。てかお礼とかやめろよ」

 少し不服そうに言う。そりゃそうだ。俺達は一蓮托生のコンビなのだから、手助けや貸し借りなんて概念をそもそも持たない。

「あん時はまだ手を組んでなかっただろ。それがずっと引っかかっててな」

 思い出話に花を咲かせると、百合の顔にも笑みが浮かぶ。

「京助って案外細けーよな。つーかあん時の京助の言葉にはビビっと来た」

「一目惚れか?」

 露骨な冗談に百合もくつくつと笑いながら返す。

「惚れた惚れた。こいつに背中預けて暴れ回りてぇってな」

 俺達は再び顔を寄せて、ちゅ、ちゅ、と唇を啄み合った。

「今はアタシん中でビクビク暴れ回ってるけどな」

 そう言って愉快そうに笑った。

「バーカ。暴れ回るのはこれからだっつうの」

 両手は繋いだまま、両肘を百合の顔の左右についた。

「誰もが恐れる『修羅百合姫』のアへ顔、見させてもらうぜ」

 百合がニィッ、と片方の口端を持ち上げた。

「いくら相棒だからってそう簡単によがると思ってんじゃねーぞ。心して掛かってこいや」

「動くぞ?」

「……おうよ」

 まずは膣内を摩擦するのではなく、百合の華奢な身体ごと揺らすようにゆっくり腰を押し付ける。

「んっ」

 百合は眉間に皺を寄せたが、それほど強い苦痛は無さそうだった。

 思い出話やら何やらで時間を稼ぎ、身体に異物を馴染ませて心身の緊張を解すという目論見は成功したようだったが、以心伝心の百合はそれに気付いていた。

「……余計な気ぃ遣うなっつったのによ」

 その声は表面だけが不服の皮を被るも、隙間からは感謝が漏れている。

 ぎぃっ、ぎぃっ、とベッドを軋ませながら問う。

「実際どんな感じだ?」

「んっ……ふぅ……んっ…………まだちょっとズキズキするけど、もうあんま気にならねー……それよりなんか、腹の奥がジンジンする」

「痺れる感じか?」

「……痺れるっつうか……おちんちんが来る度に、んっんっ……変な感じする……」

 その言葉を確認すると俺は一度腰を引いて、肉棒を浅く抜き差ししてみる。

「はぅっ、あっ」

 再び百合の眉間に寄った皺には、苦悶ではなく本人もまだ無自覚であろう快楽の色が混じり始めていた。

 ベッドがギシギシと揺れる。

「あぁっ、あっ……はっ、ん…………きょ、京助……」

 普段はパッチリした愛らしい瞳を半分だけ開けて、どこか不安そうに俺の名を呼ぶ。初めて聞くような声だった。

「何だ」

「……腹の奥だけじゃなくて、頭の芯までジンジンしてきた」

「いいぞ。そのまま気持ち良くなっちまえ」

 百合は唇をきゅっと閉じると、俺に切なそうな眼差しを向けた。

 ずん、ずん、ずん、と少しずつストロークを大きくし、ピストンの速度も上げていく。

「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ」

 百合は何かを耐えるように口元を引き締めていたが、俺が顔を寄せると、ちゅう、と吸い合うような甘いキスをする。舌を差し込むと、百合の方からも巻き付かせてくる。

 上の口はちゅくちゅくと、下の口はにゅるにゅると、それぞれ交接特有の水音を奏でた。

 顔を離すと唇同士に唾液の糸が架かっていたが、百合の方からそれを舌で舐め取る余裕は無さそうだった。

「……やっばい……マジで頭ぼうっとしてきた」

 その言葉通り、表情のみならず、全身がくったりとしてきていた。それを見計らうと、俺は亀頭辺りまで膣から抜き、そこからにゅるんと一気に突き刺す。

「あんっ♡」

 甘く愛らしい顔から、甘く愛らしい声が漏れた。

 百合はその直後、一瞬の事だが、その声がどこから聞こえてきたのか本気で不思議がっていた。そしてすぐに事態を把握すると、自嘲気味に笑った。

「……マジかよ」

「可愛い声出すじゃねーか」

 俺がニヤつきながらそう言うと、百合もつられてニヤニヤしながら問う。

「さっきの声、マジでアタシ?」

「オマエ」

「……信じらんねー」

 照れ隠しか、おどけた風にそう言う。それを証明する為に、再び同じ抽送をしてみせる。

「あぁっ、んっ♡」

 目を瞑り、口を開け、肩を震わせながら喘ぐその姿はどこからどう見てもただただ可憐だった。

 百合は俺の両手を握り直すと自虐的な笑みを浮かべた。

「……やっべぇ。マジで馬鹿みたいにアンアン喘ぐかも」

「俺も馬鹿みたいに腰振るからお互い様だ」

 一度だけ、ちゅっ、と唇を重ねた。

「いくぞ?」

 百合は若干不安そうに生唾を飲み込むが、ここで引いたら名が廃ると言わんばかりに負けん気の強い笑みを浮かべた。

「かかってこいよ」

 そういえば百合とは喧嘩は勿論、力比べの類をした事が無い。興味が無いと言えば嘘になる。むしろずっと胸の奥で燻っていたのかもしれない。それを決する為にベッドを一定の間隔で軋ませる。

「んっ、んっ、んっ、んっ」

 最初こそ百合は顎を引いて、必死に口元を閉じていた。

「はぁっ……はぁっ……んんっ、あっ………はぁっ、はっ」

 構わず抽送を続けていると、顔を上げて切なそうに俺を見つめ、犬のような浅い息遣いを見せた。

 百合は明らかに嬌声を上げる姿を恥じていた。セックスとはそういうものだと理解し、納得した上で、相棒の俺にだけはそんな情けない姿を見せたくないと強く感じているのだろう。必死に我慢という城壁を積み上げていた。

 百合の中は処女だからというわけではなく、その気の強さに見合った膣の密度をしていた。

 しかもゴム越しにも伝わる粒々は細かくびっしりと膣壁全体に存在し、みっちりとした肉壺の中で男根が動く度に、ザラザラとした摩擦を与えてくる。

 気を抜けば一瞬で持っていかれる。

 だけど自然と腰付きが激しくなる。

 それが百合の築いた城壁を一撃で粉砕する。

「あっ、あぁんっ♡」

 あとはもう総崩れである。

 百合は目を閉じ、口を半開きにしたまま、あられもない声を上げ続ける。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」

 ガツガツと腰を振る。

「あっあっ♡ 京助っ、京助っ♡ すっごっ♡」

 ベッドもギシギシと悲鳴を上げる。

「恥ずいから、あんま見んなって……あぁっ、いっ♡」

 百合の膣はすっかり熱々のヌルヌルで、抽送の度にニュルニュル、ぬぷぬぷと淫らな摩擦音を鳴らしていた。

「やっあっ、おまんこ、痺れるっ♡ おちんちん来る度に、ジンジンって……あんっ、あんっ、あんっ♡」

 蕩けていく百合を前に、俺の男根が勝利の凱歌と征服欲で燃え滾る。

 どんなに屈強で凄味のある男を相手にしても、平然と叩き潰していく修羅のような百合が、ベッドの上ではただの可憐な女の子として喘いでいる。

 それは雄を、得も言われぬ優越感で満たし、もっと犯せと本能が命じてくる。

 しかしそれはあくまで俺の下半身の話だ。

 俺の頭が、ハートが、百合はあくまで相棒で、戦友で、親友だと判別している。そのカテゴリは絶対不変だ。

 百合が弛緩しつつある身体で、俺の両手をぎゅっと握った。

「……京助、やばい……落ちそう……ってか浮きそう」

「どっちだよ」

「……わかんねーんだって……あっい♡ あっあっあっ、いいっ♡ いいっ♡ 京助、やばいっ、なんか来るっ……♡」

 俺は百合の両手を握り返し、殊更シーツに縛り付けるように押さえ付けた。

「心配すんな。俺が居るだろ」

 百合は蕩け始めた顔で睨む。

「……その手、絶対離すんじゃねーぞ?」

「何があっても絶対離さねーよ」

 釘バットで頭を殴られようが、単車で轢かれようが、百合の背中はずっと守ってきた。

 そんな俺に対する信頼感が、百合の身体と意識を弛緩させた。

 ガツガツと腰を振る。征服感やら優越感ではなく、親友を気持ち良くしてやりたい一心で腰を振る。

「あっあっあっあっあっ♡」

 トロトロの顔で百合が呟く。

「……アタシら、ずっと親友だかんな?」

「当たり前だろが」

 俺の返事で百合が完全に、芯からトロンと溶けたのがわかった。

「あぁっ、いっ♡ いっいっ♡ いいっ♡ あっいっ♡ イクっ、イクっ♡ 処女まんこイクっ♡ 京助の強いちんぽでイっちゃうっ♡ ううっ、京助ぇ、ちょっと怖い……♡」

「しっかり手ぇ握っててやる。何も心配すんなっ!」

 ぎゅう、っと手を握り合う。

「あぁっ♡ 京助っ♡ 京助っ♡ 手、おっき♡ あっイクっ♡ あっイクっ♡ イクイクイクっ♡ イックゥ♡♡♡」

 百合の背中が爆ぜるように浮き上がった。

「あああぁっ♡♡♡」

 喉を反らせ、大きく口を開き、全身をビクビクとヒクつかせる。

「はーっ♡ はーっ♡ はーっ♡」

 どれだけ暴れても涼しい顔をしていた百合が、酸素欠乏状態で甘い吐息を深く続ける。

「……やっぱ落ちてんのか、浮いてんのかわかんねぇ……」

 絶頂の余韻を全身で余す事なく甘受しながら、百合は苦々しく笑みを浮かべた。その間、百合の蜜壺は、雑巾を搾るように俺の男根をぎゅう、ぎゅう、と断続的に締め付けていた。

「……京助……手ぇ離すなよな……」

「離さねーよ」

 初めての性交での絶頂で不安を感じているのだろう。力強い口調でそう言い返しながら百合の手をぎゅっと握り直す。百合も安心した様子で指を絡めてくる。

 お互い額に玉粒のような汗を浮かべて、荒れた呼吸を整える。そんな中、百合が息を切らしながらも笑う。

「……背中も汗びっしょりなんだけど」

「俺もだよ。てか俺はともかくオマエって喧嘩でもそんな汗掻かねーのにな」

 百合は肩で息をしながらも、どこか誇らしげに笑みを浮かべた。

「そりゃあ京助の勃起ちんぽ、すげえ気合入ってるからな。こんな熱いの突っ込まれたら汗も出るだろ」

 今まで対峙してきたどの強敵の拳よりも強いと言ってくれた。俺達の関係でこれ以上の賛辞は無い。息苦しさを感じるほど狭い膣内の中で、鬼の角が更に雄叫びを上げる。

「んっ♡ やんっ♡ すっげ……まだビキビキいってんじゃん」

「そりゃあ俺はまだまだこれからだからな。オマエがもうこれ以上は無理ってんなら、ここでやめてオナニーで我慢するけどどうするよ?」

 わざとらしく挑発しながら、上半身を起こして上着を脱ぎ始める。

 百合もニット生地のパーカーのボタンに指を掛けながら不敵に笑う。

「馬鹿言ってんなよ。ちゃんと最後までまんこで楽しませてやっから安心しな」

 一足先に俺が全裸になると、百合の携帯が鳴った。

「出なくていいんか?」

 百合はまだまだ整い切らない息遣いで、上着を脱ぎながら即答する。

「いい。どうせ許嫁関連の話だろうし」

「流石にそれすっぽかすのは不味くねぇか」

「別にすっぽかしはしねえって。ちゃんと京助とのタイマン終わったら帰る」

「タイマンね」

 俺が笑うと百合も笑った。

「まだアタシのおまんこ全然負けてねーし」

「こんなトロトロになってんのにか?」

「やっ、あっ♡」

「すげえ物欲しそうに絡みついてくるぞ」

「だっ、て……京助のちんぽ、あっあっ♡ アタシん中に入ってくる感じ、すげーんだって……」

 そんな事を話しているうちに百合が纏っているのは黒いレースのブラだけになっていた。背中を浮かしてそれも外すと、左腕で左右両方の乳首を隠すように胸元を押さえた。

 仰向けでもたっぷりとした膨らみを保つ乳房が、むにゅりと柔らかそうに形を変える。

「オマエめっちゃ乳でかかったんだな」

 敢えてデリカシーを排除した言い方をした。百合は粗暴にブラをベッド脇に投げ捨て、その方向にそっぽを向いた。

「京助って巨乳派?」

 細腕一本じゃ到底隠せない豊満な乳肉と、ちらりと覗き見える色素の薄い桃色の乳輪が、俺の肉槍を余計に昂らせた。

「聞くまでもなかったな」

 百合は顔を横に向けたまま、今度は右腕で胸元を隠した。

 胸の上に腕を軽く置いただけのつもりだろうが、それでもむにゅりと弾むように形を変えて中央に寄せられたそれは、余計に乳肉の質感とボリュームを強調していた。

 百合は顔を横に向けたまま流し目で俺を睨んで唇を尖らせた。

「あんま見んなって」

挿絵1

 とにかく俺達はお互い完全に全裸になった。

 百合の膝に両手を置いて、ゆっくりピストンを再開する。

「オマエでも恥じらいはあるんだな」

「おっぱい見られるのはなんか恥ずかしいんだよ」

 目鼻立ちの可憐さは言うまでもないし、一見細身なのに美巨乳。その巨乳の美しさに全く引けを取らない、限界まで短くしたミニスカートから伸びるトレードマークの美脚。そのしっかりした腰を支える太股はムチムチと肉付きが良く、正常位で下腹部を密着させるともちもちスベスベと非常に触り心地が良い。

「あっ……あっ……んっ、や……はぁっ、あっ……」

 それなりに男に慣れてきた陰唇が、にゅるにゅると愛液を泡立てながら肉槍を咥えている。愛液で薄まって破瓜の血はもう見えもしない。

 掴んでいた百合の膝を、少しだけ前方に押し出す。必然的に百合の腰がやや上向きになると、そこに己の下腹部を押し込むように密着させる。

「あっあっ♡ それっ、奥、やばいっ♡」

 完全に痛みが無くなったわけではないだろうが、それでも既に快楽の方が上回っているようなので、様子を見ながらもガツガツと腰を振ってみた。

「あっ、あっ、あっ♡ すごっ♡ ちんぽっ、ズンズン刺さるっ♡」

 胸を隠していた両腕に力が籠る。むぎゅりと更に巨乳が潰れた。ただでさえ張りツヤに溢れた質感が、膨張し切った風船のようにパンパンになる。

 普段が普段なので、その声といい表情といい、そして全体の肉感といい、ギャップでとにかく劣情を煽りまくってくる。膣への挿入感も垂涎モノだ。

 ガチガチに勃起した男根に射精欲が溜まると同時に、百合は俺のピストンで更に蕩けていった。

「あぁっ、いいっ♡ あっあっ、いっあっ♡ はぁっ、あっ、あっん♡」

「遊馬もイイ女を引いたよ」

 腰を振りながらそう言う俺を、百合はジトっとした目で睨む。

「……本当にそんな事思ってんのか?」

「思ってるよ。百合は頭の天辺から爪先まで気合入ったイイ女だ」

 百合はくすぐったそうに口元をもにゅもにゅとさせると、やがて耐え切れないように口端を綻ばせた。

「……京助にそう言われんのは、悪い気しねーな」

 ちなみに遊馬は先程から話題に上がる百合の許嫁だ。

 ベッドが悲鳴を上げる。

「やっ、あっ♡ 激しっ♡」

「俺もイキそうなんだよ」

 百合がからかうような笑みを浮かべて問う。

「……イイ女抱いてっからか?」

「そうだよ。面も可愛くて、エロい身体してて、根性のあるイイ女だからいつもより早くイキそうだ」

 百合は照れ臭そうにくつくつと笑いながらも、徐々にその笑みを蕩けさせていった。

「あっ、あっ、あっ、激しいのっ、きもちっ♡ アタシもまたきちゃうっ♡」

 百合はもう堪らないといった様子で両手を俺の首に回した。乳房を見られる恥じらいを感じている余裕も無くしていた。

 腕の拘束から解かれた美巨乳は綺麗なお椀型を保ち、俺の腰の動きと同期してプリンのようにぷるんぷるんと綺麗に揺れていた。

「百合の乳首、めっちゃピンクでやんの」

「だからあんまおっぱい見んなって。マジで恥ずいんだっつうの」

 気さくな笑みで軽口を叩き合いながらも、俺達はもう限界だった。互いに汗を全身に浮かべている。

「あっあっあっあっあっ♡」

 百合が切羽詰まった様子で喘ぐと、やはりまだ慣れない快楽に不安そうに目を細めて俺を見る。

「……京助……おちんちんでイクの、やっぱまだ怖い……落ちてんのか飛んでんのかわかんねーんだもん」

「今度は俺も一緒にイクから。それなら何も怖くねーだろ?」

「絶対だからな? 絶対一緒だからな?」

 百合はいじらしい表情で頷き、念を押してきた。

「あぁ、もうイクって」

「あ、待って、アタシっ、もうすぐ……あいっ♡ いっいっ♡ イクっ、あっ、イクっ♡ 京助、アタシ、イクからな? ああくそ……このフワフワした感じ慣れねーな……あっ、いっ♡ いっ、いいっ♡」

「俺もイクから」

「……京助と一緒なら何も怖くねーから、一緒にちんぽイって♡」

 百合は懇願するようにそう言うと、すうっと深く息を吸った。

「あぁ、イク♡ あぁ、イク♡ イクイクイクっ♡ おまんこ来るっ♡ あああっ♡♡♡」

 瞼をぎゅっと閉じ、首に回された両手は強張っている。百合の初々しい絶頂を感じながら、俺はぎゅうぎゅうの処女まんこに根本までぐいっと押し込み、その中でびゅるびゅると吐精した。

「うぅ」

「……京助、ちゃんと一緒にきてんの?」

 百合はうめき声を上げる俺を絶頂しながら薄目で確認し、不安そうに尋ねる。

 親友の膣で射精するという特異な快楽の中、「……俺もイってる」となんとか答える。

「……チュウしろよ」

 百合は俺の言葉に多少なりとも安堵したようで俺の首を抱き寄せて、か細い声で言う。

 唇を重ねると同時に舌を求め合い、腰をぴったりと密着させたままドクドクとゴムの中に精液を放出していく。その脈動は百合にも伝わっているようで、彼女は両足首も俺の背中できゅっと結ぶと、舌を触れ合わせながら吐息混じりに言う。

「……これって今射精してんの?」

「おうよ」

「めっちゃちんこビクビクするのな」

 百合は普段通りの声色を装おうとしていたが、まだまだ慣れない絶頂の不安を誤魔化そうとしているのが明白だった。

 落下とも浮遊ともつかない悦楽の中を漂う彼女の潤んだ瞳を、射精しながらも強く見つめる。

「一緒にイクっつったろ」

 一緒に居るし、一緒にイってる。だから心配すんな、という俺の呼び掛けに、百合は両手足できゅうっと俺の首や背中を抱擁して応えた。

「……うん」

 か弱く、愛らしい女の声だった。心底心を安らげているのがわかる。

「……京助の鬼みてーなちんぽ、奥までずっぽりぶっこまれてるの、すっげえ心強い」

 うっとりするような眼差しでそんな事を言う。俺はその気持ちに応えたくて、まだまだ射精の収まらない荒々しさを保ったままの男根をぐっと押し込んだ。

「あぁっ、はっ、んっ♡」

 彼女の俺への抱擁が、縋りつくような必死さを呈す。

「……京っ、助ぇ……♡」

 百合は甘ったるい声音で俺の名を呼び、下唇を少し痛みを覚えるほどに噛んだ。

 どんなに好きになった女とのセックスでも味わった事の無い、一体感を味わう。

 首に巻き付く百合の細い腕はどこか妖艶で、巻き付く舌や絡みつく膣壁は間違いなく性的だった。

 しかしそんな中俺達が交わす、「ずっと一緒だかんな?」「ったりめーだろ」という言葉と、共有している絶頂は、甘酸っぱさとは無縁な熱い血潮だけで満たされていた。

 暮れ始めた街の中を二人で歩く。行き先は百合の家だ。何故か俺もお呼ばれしたので同行している。

 空気は夜の訪れを知らせるように涼しくなり始めていたが、喧嘩とセックスで火照った身体にはむしろありがたかった。百合も両手を組んで背伸びをすると心地良さそうに口を開く。

「ん???。なんかめっちゃ気持ちいい???。悪党しばき倒した後に戦友とセックスって最高じゃね? すんげえスッキリした」

「飯食った後のタバコみたいなもんなんかな。吸った事無いから知らんけど」

「あはは。多分そんな感じっしょ。でも今襲われたらやばいかも。足腰ガクガクだわ」

「疲れ知らずの『修羅百合姫』が珍しいじゃねーか」

 百合はくつくつと笑いながら、とても楽しげに俺を肘で突く。

「あんないかついちんこでガンガン突かれちまったら流石のアタシも捌き切れないって。流石は京助だわマジで。今日のところはアタシの負けって事にしといてやってもいいぜ?」

 棒付きキャンディをポケットから取り出して咥えると、俺を誇りに思っているような口振りで、忌憚の無い最大級の賛辞を贈ってきた。

 そして満面の笑みで、「まだなんか挟まってるみてー」と嬉しそうに笑った。女子として処女を喪失した悦びなんて一欠片も感じない。友達と青春の一ページを刻めた事に対する喜びだけだ。

「言っとくけど、あれでも一応手加減はしたんだからな」

「はぁ? アタシ相手に手ぇ抜くとか良い度胸してんじゃん」

「ビギナー相手に全力出せるかよ」

 百合は「へへっ」と笑うと、キャンディを咥えたまま俺の前にすっと出て向かい合った。両手を後ろで組んでニカっと爽快な笑顔を浮かべる。

「じゃあ次ヤル時は真剣勝負だぜ?」

 そう笑いながら俺の額に軽くデコピンする。

「ばーか。百年はえーよ。冗談抜きで足腰立たなくなるぞ?」

 今度は挑戦的に、にぃっと口端を歪めた。

「上等だよ。こっちこそ京助のちんこひぃひぃ言わせてやっから」

 再び俺と肩を並べて歩き出した。ちょこまかと動くその様子は、初めてのセックスを経てテンションが高い事が明らかに見て取れた。

 この後控える許嫁との対面という、億劫なイベントを吹き払うように言う。

「あーあ。京助と恋愛出来てたらそれでもう全部解決なんだけどなー」

「叶わぬ夢だな。それは諦めろ」

「だよなー」

 惚れた相手を殴り合いのパートナーにしようだなんて思えない。それに何より恋愛は恋愛でいずれ距離感がゼロになる為、嫌なところも見る事になってしまう。

 そういう意味では俺と百合も距離感はゼロなのだが、背中合わせが基本の戦友だ。真正面から抱き合う恋人とはまさに真逆の関係性と言える。

「あぁ、そうだ。京助と付き合ってるから無理って断るのはどうだ?」

「誰がそんな与太話信じるんだよ。俺とオマエが腕組んで笑顔で街を練り歩いてるとこ想像してみろ」

 両腕を組んで目を瞑った百合の表情が渋くなると、納得するように頷いた。

「うん。デートっつうかカチコミ前って感じだな」

「だろ? まぁそう食わず嫌いすんなよ。何度も言うけどオマエの許嫁は筋の通った男だからよ」

 百合は特に興味も無さそうに相槌を打つ。百合は遊馬に対してずっと同じスタンスを取り続けている。

 明確な不満は無いが乗り気でもない。彼女自身が言う通り、自分が恋愛結婚なんてするとは到底思えないから、せめて親孝行として流れに身を任せているだけだ。

 百合が住む城のような豪邸に到着すると、早速親父さんが待つ応接室に招かれた。鹿の頭の剥製が飾られ、何から何まで高級ブランドの家具で揃えられたその部屋を、百合は「趣味がワリー」と言ってあまり入りたがらないでいた。今も何故か俺が率先して応接室の扉をノックする。

「オマエの家なんだからオマエが先行けよ」

 百合は欠伸を噛み殺しながら、「めんどい」とだけ吐き捨てた。

 応接室に入室すると、相変わらず極道の組長のような風貌の親父さんが出迎えてくれた。親父さんは挨拶もそこそこに俺と百合をソファに座るように促した。

「今日も娘が迷惑を掛けたようだな。すまん」

 どちらかといえば俺がチンピラを引き寄せているのだが、その誤解は解かないでいた。実際百合も自ら首を突っ込んでいく部分もあり、話がややこしくなりそうだからだ。

「まぁ俺と百合は、持ちつ持たれつなんで」

 俺と親父さんが会話をしている横で、百合は用意されていたシュークリームを手で掴んで平らげていた。

「京助君には感謝してもし切れない。君という友達が出来てからは、毎日が充実しているように見える。青春を謳歌している娘の姿が見られるというのは、親としてはこれ以上無い幸せだ」

 そう言ってコーヒーを啜ると諦観の苦笑いを浮かべた。

「……とはいえ出来れば普通の、危険が無い楽しみを見つけてほしかったというのが本音だが」

「だから京助と一緒だと危険もへったくれも無いってのに」

 百合はうんざりしたように小声で不満を呟く。だがその心配も当然の親心だろう。だから娘の意思を尊重した上で、彼女に危険が及ばないよう苦心しているのだ。他人の親ながら出来た人だと心から尊敬する。百合は百合で、俺が見る限り、反抗的な態度は取りつつもなるべく親の意を汲んでやりたいという娘心を節々に感じている。

「遊馬はまだ来てないんすね」

「ああ、もう来ると思うんだがね」

「来ねーならアタシもう行っていい? てか来なくてもいいけど」

 そんな会話を交えていると、こんこん、と折り目正しくドアがノックされた。

「伊東です」

 かしこまった声と共に顔を出したのは、如何にも誠実で真面目そうな好青年だった。いつ見ても惚れ惚れするくらい背筋が真っ直ぐ伸びている。

 俺と百合の佇まいも中々凛々しいと思うのだが、根本的に雰囲気からして違う。その理由はわかっている。俺と百合の姿勢の良さは、戦闘に適した体勢を取っているからに他ならない。

「よお遊馬」

 俺がソファに座ったまま片手を振る。彼の爽やかな目鼻立ちが、更に清涼感溢れる笑顔を作った。

「やぁ京助君。同席の頼みを聞き入れてくれてありがとう。京助君が居た方が百合さんも話しやすいかと思って」

「なるほど、俺が呼ばれたのはそういう事か。構わねえよ。百合も一人だと照れ臭くて話しづらいみたいだしな」

 遊馬と挨拶を交わすと、百合が隣で不貞腐れた表情で俺を肘で突いた。

「んなわけねーだろ」

 そして頬杖をついてそっぽを向くと、ぼそりと呟く。

「……百合さんって言い方やめろっての。こそばゆいんだよ」

 遊馬は俺と百合の対面に座る親父さんの隣に腰を下ろした。ニコニコと人畜無害そうな笑顔を浮かべている。百合は変わらず憮然とした表情で頬杖をついて、遊馬と視線を合わせようともしない。

 放っておいたら会話が始まりそうもないので、仕方無く俺から口を開く。

「こう見えても百合は縁談自体は前向きに考えてんだ」

「しょうがなくだよ。しょうがなく」

 百合が遊馬に対して素っ気ない態度を取るのは前からなので、遊馬も動揺する事無く自然に対応する。

「僕としては百合さんを絶対に幸せにするつもりです。何も今すぐ交際を始めたいとか思っているわけではないので、少しずつ信頼関係を築けていけたらいいなと思ってます」

 その言葉に百合はふふんと鼻を鳴らすと、俺の肩に腕を乗せた。

「おいおい。アタシら不死身のコンビを前に信頼関係築くとか大口叩くじゃん?」

「誰も喧嘩仲間としての話なんかしてねーんだよ。遊馬は人生の伴侶としての話をしてんだっつの」

 百合も馬鹿ではない。そんな事は百も承知だが、どうも遊馬の真面目すぎるアプローチにうんざりして、こうやって茶化してしまう節があるのだ。遊馬もそれをわかった上で力無く笑う。

「いや、参ったな。確かに京助君と百合さんの間には割って入れそうもないです。それでも僕は僕なりの道で、百合さんと共に歩んでいきたいです。友人ではなく、一人の男として」

 俺は遊馬の理知的で紳士な態度を取りつつも、愚直なアプローチを続ける芯の強さに感心している。百合の親友としてこの男になら彼女を任せられるという安堵感も抱く。

「とりあえず一回くらいさ、二人でデートでもしてきたら良いんじゃねーの? いつもこうやって面談みたいに話をしててもお互いの事わかんねーだろ」

 俺の提案に親父さんがうんうんと頷き、遊馬も少し浮き立つかのように照れ笑いを浮かべた。

 百合だけが苦虫を噛み潰した表情を浮かべていた。

「何だ? 修羅百合姫ともあろうお人が男と二人でデートも出来ねーのか?」

 露骨すぎる俺の挑発に、百合は乗っかる意欲も湧かないようで、深く深くため息をついた。そのあまりに長いため息は、いつまでも現実から目を逸らしてはいられないという気持ちも見え隠れしていた。

「はぁぁぁぁぁぁ………………わぁった。わかったよ。将来の旦那様とデートして親睦深めますよ」

 百合は投げやりにそう言うと立ち上がる。

「そんじゃ今日はもう良いだろ? アタシはもっかい京助の家行って遊ぶから。京助。もっかい勝負な?」

 最後は俺に言葉を向けながら部屋を出ていこうとする。その背中に遊馬が立ち上がって声を掛けた。

「あの、誤解があるようだけど、僕は許嫁という立場に甘んじて無条件で百合さんを娶ろうなんて思っていませんから。ちゃんと男として百合さんに認められた上で、隣に立つつもりです」

 遊馬のその言葉に百合はドアノブに手を掛けたまま振り返らず、片手を上げて軽く振った。

「ナマ言ってんじゃねーよ。まぁ精々頑張んな」

 百合が部屋を出ていくと、俺は遊馬に激励と共に敬意の念を向ける。

「やるじゃねーか。素っ気なく出てったけど、最後のあれは結構百合の好感度上げたと思うぞ」

「だったら良いんだけど」

「心配すんなよ。ああ見えてアイツも色々と真剣に考えてんだ。どう転ぶかまではわからんけど、遊馬がマジならその気持ち自体を蔑ろにはしないさ」

 俺も腰を上げながらそう言うと、遊馬に拳を突き出す。遊馬は照れ臭そうに拳をこつんと突き合わせた。今まで俺が殴り合ってきたどの男よりも華奢な拳だが、どの男よりも骨太に感じた。

「京助君には昔から助けてもらってばかりだね」

「あの最初のカツアゲの事か? あん時は遊馬も気合見せただろ。あの調子で百合にもぶつかっていけよ。というか遊馬もとんだじゃじゃ馬に惚れちまったんだな。まぁ見てくれは良いからしょうがないか」

「見た目じゃないよ。実は百合さんの事は自分の許嫁だって知る前から気になってたんだ」

 家とは関係無いところで百合と遊馬に接点が有ったのだろうか。不思議に思っていると応接室の扉が勢い良く開いて百合が顔を出した。

「京助。何チンタラしてんだよ。早くさっきのリベンジさせろって」

「わかったっつーの」

 俺と遊馬が目配せする。

「じゃあな。何かあったら何でも相談してくれ。応援してるぞ」

「うん。ありがとう」

 百合に続いて応接室から出ていく俺に、親父さんが声を掛ける。

「……京助君? 百合と勝負とかリベンジって……まさか喧嘩を売ってくる相手が居なくなってきたからって百合と殴り合っているのかい?」

 まぁ殴り合っているようなものだ。少なくとも性行為という認識よりかはそちらの方が余程近い。

「あくまで遊びで、ですよ」

 そう言って外に出る。外はすっかり夜になっていた。

 息苦しさから解放されたかのように百合は満面の笑みを浮かべて、俺にジャブを放ってくる。 

「ほら、さっさと戻ってさっきの続きしようぜ。次はぜってー負けねーから」

 じゃれ合うように肩や胸板を軽く殴ってくる百合の愉快そうな笑顔を見て、一体誰がセックスの誘いだと気付けるだろうか。

 やはり俺と百合にとっては、互いの力量をぶつけ合う喧嘩の代わりでしかないようだ。

 再び俺の部屋に戻ると、俺達は向かい合って立ったまま、お互いの服を脱がし合った。

 百合は俺のシャツのボタンを脱がしながら、強敵を前にした高揚を抑えきれない笑みを浮かべて俺を見上げている。

「ちょっとはコツ掴んだからな。さっきみてーに好き勝手やられると思ってんじゃねーぞ?」

「つうかさっきの今で痛みとかねーのか?」

「まだちょっとヒリヒリしてる」

 俺の手によって下着姿になっていく百合は、どこか嬉しそうにそう口にした。

「京助の一撃、今までで断トツに重かった。頭まで響いたぜ」

 疑似的な喧嘩行為で俺の拳を味わったかのように武勇伝めいて語る。男性器の挿入を、今まで対峙してきた男の拳と比較しているのだ。その思考回路に俺も全く違和感が湧かない。

 衣服を脱がす手つきも俺の方が慣れているので、一足先に百合を全裸にしていた。やや遅れて百合の両手が俺のボクサーパンツを下ろそうとするが、既に勃起した男根が引っ掛かって脱がし切れなかった。

 百合はくつくつと笑いながらボクサーパンツのゴムを引っ張りながら脱がそうとする。

「いいね~。ヤル気満々じゃん。そうこなくっちゃ」

 普段は隠されているが故にギャップがありすぎる煽情的な肢体は、勿論性的興奮も誘うが、この屹立の主な要因はやはり別にある。単純に一人の喧嘩屋として、百合に勝ちたいという闘争本能だ。

 百合の手によって姿を表したそれは、女を抱きたい男性器ではなく、誰よりも強いと認める盟友を打ち負かしたいという拳。硬く熱く握られた凶器だ。

「またぶっ潰してやるよ」

 俺の宣戦布告と共に顔を出した凶悪な鬼の角に、百合も武者震いで背中をビリビリと震わせている。

「上等だコラ。こっちも散々釘バットや角材相手にしてきてんだ。今更鬼の角なんかにビビっかよ」

 互いの口端に浮かぶ笑みはどこまでも攻撃的だ。互いを愛でようなんて気は更々無い。こんな愛の睦言の導入があってたまるか。やはりこれはセックスではなく喧嘩の代わりである。

 互いを最強だと認め合い、そして背中を預け合ってきた戦友同士の腕試し。

 俺がやや前傾し、百合がつま先立ちになるのはほぼ同時だった。

 ちゅ、ちゅ、と唇を押し付け合う。この愛らしい音はゴング代わりである。

 百合は両腕を俺の首に巻き付け、俺の両腕は彼女の背中に回す。

 相変わらずの体躯の細さに驚く。力一杯抱きしめれば折れてしまいそうな背中。そんな背中は俺にとって唯一無二の矛であり盾だった。

 すぐにくちゅくちゅと舌を絡みつかせる。

 俺はその華奢な背中を抱き寄せた。Fカップ以上は確実の美巨乳が、俺の胸板や腹部辺りでむにゅりと潰れる。瑞々しい弾力、という言葉はこの為にあるのだと思った。

 既に己のヘソに付くくらい勃起した陰茎は、百合の綺麗に縦長に割れたヘソに挟み込まれている。

「んんっ……くぅ、ふっ……ん」

 経験済みとはいえ、やはり百合の舌遣いはまだまだぎこちない。俺に舌を吸われ、口腔を舐められ、好き勝手に蹂躙されると全身があっという間に熱を帯びて、腰もくねくねと揺れた。

 俺の手が背中から臀部に落ちていく。

 むっちりした太股の付け根から想像させるたっぷりとした尻肉は、むぎゅりと強く鷲掴みにしても全く底が知れない。勿論片手では掴み切れず、指の間から柔肉がむにゅりと零れ落ちる。乳肉と同じくらいふんわりと柔らかく、それでいてたぷんたぷんと指の中で弾んだ。

 それを両手でこねるように愉しむ。一度左右に広げて離すと、ぷるんとプリンのように何度か左右に揺れながら元に戻った。

 口元を少し離し、舌先同士に唾液が繋がったまま百合が睨む。

「人のケツで遊んでんじゃねーよ」

「前から思ってたけど、オマエって尻でかいよな」

 百合は眉間に皺を寄せると、俺の上唇を歯で軽く噛んだ。

「……これでも一応気にしてんだよ」

「褒めてんだっつの。わかんだろ」

 密着しながら抱き合っているので、百合の腹部に突き当たる俺の男根がビキビキと軋みを上げたのを感じたのだろう。百合の厚い乳肉から、鼓動が跳ね上がったのが伝わる。この荒々しい肉槍が自分の身体で更に雄々しさを増した事による自尊心、そして今からそれに犯される雌としての期待が読み取れた。

 ギチギチに勃起し切った亀頭からは我慢汁が漏れていた。それを百合の腹に塗りたくるように押し付ける。

「……ちんこからダラダラ漏らしてんじゃねーよ。そんなにアタシとヤリてーか? ん?」

 俺をからかうように笑みを浮かべる百合の、ボリューミーな尻肉の谷間から膣に指を伸ばす。

 クチュ。

 指が陰唇に到達すると、粘り気のある水音が鳴った。

「んっ」

 百合が腰を引こうとするが、尻肉を掴んで引き寄せる。勃起し切った肉の角を腹部に押し当てながら、尻肉の間から陰唇をなぞり、更には唇を奪って少し乱暴に舌を巻き付かせる。

 百合の上と下の口がクチュクチュと淫らな音を鳴らす。彼女の瞼はすぐにトロンと半分ほど閉じた。

 上下の口から同時にダラダラと濡れていく。唇からは涎が垂れ、膣からは内腿に愛液が伝って落ちていく。

 俺の首に巻き付く百合の両腕に力が籠る。

「……やっ、ん……はぁっ、あ……んっ、んっ……京っ……助……」

「デカイ尻は大好物だからよ。ガンガンに可愛がってやっから楽しみにしてろ」

 雄として威嚇が極まるその宣言に、百合は腰をもどかしそうにモジモジと揺らした。こめかみから汗を流し、はぁはぁと息遣いを浅くさせている。雌として発情しているのは明らかだった。

 それでも百合はふてぶてしい笑みを浮かべ、負けん気の強い口調で言う。

「しっかり味わえよ。これっぽっちも食い残すんじゃねえぞ」

 どちらからともなく顔を寄せて、視線を合わせたまま、ちゅ、ちゅ、と軽快に唇を押し付け合うと、更にちゅう、と深く長く唇を吸い合った。

 互いにもうすっかり全身が汗ばんでいた。部屋の中は熱気が籠っている。特に百合の胸の谷間には粒のような汗が滴り、小さな水溜まりを作っていた。

 ベッドに百合を仰向けで寝かせると同時に、頬から首筋に向けて唇を這わせていく。

「んっ……あぁ……」

 百合はか細い吐息を漏らしながらも、少し気恥ずかしそうに口角を上げる。

「……こういう愛撫? つうの? されるとこれから京助とエッチするんだって感じするな」

 しかし俺が無言で胸を揉み上げながら乳首を指の腹で優しく潰すと、百合の顔から笑みが消える。

「やっ、ん」

 全身を軽く震わせながら、特に太股をモジモジとクネらせている。

 左手で乳首を摘まむと同時に、もう片方の乳首を口に含む。百合の背中がぴくりと微かに浮いた。

「はぅっ……」

 どちらの乳頭も薄桃色で形も愛らしい。それがコリコリと勃起している。

 それを摘まみ舌で転がす度に百合は背中を微かに浮かせ、「んっ、んっ」と鼻に掛かった吐息を漏らした。口で含んだ方の乳首を優しく甘噛みしながら、左手はくびれた脇腹から安産型の腰までさすっていく。それだけで百合は全身をゾクゾクとさせていた。

「あんっ」

 最後に乳首を強く吸って喘がせると、上体を起こして百合を見下ろす。左手はそのまま陰部に向き、何度か陰唇を撫でてから中指を膣内に挿入した。

 百合と視線が合う。唇をきゅっと閉じた半目の表情は既に蕩け出している。

 指の腹で入口付近を擦るように手首を動かすと、普段はぱっちりした瞳が更に大きくなった。

「んっ……んっ……んっ」

 百合の膣は俺に貫かれる事に対する警戒心を薄れさせているようだった。

「もう異物感みてーなのは大分無くなったか?」

 百合はトロトロになりそうな表情の一歩手前で踏ん張り、ニヤリと笑みを浮かべてみせる。

「そりゃあ京助とは一心同体だからな」

「背中合わせだから手が何本も生えてる阿修羅像みてーだって言ってた奴も居たな」

「居た居た。あれ何の時だっけ。ああそうだ。結構大きな窃盗グループの本拠地だったクラブに乗り込んだ時だ。相手のリーダーがアタシに土下座しながらそう言ってたわ」

「オマエその時、後頭部思いっ切り踏んでたよな。容赦無さすぎだろ」

「謝りながらアタシのパンツ盗み見てたからな。当然の仕打ちだわ」

「下にジャージか何か履いとけよ」

「やだよそんなの。ダセーじゃん」

 普段通りに駄弁りながら、粒々の膣内をゆっくり指の腹で擦り続けている。

 くちゅくちゅという音が鳴る度に、百合の膝が勝手に折れ曲がっていき、股も開いていく。

「んっ、あぁ……はっ、ん…………あ、あとさ……仕事帰りのOLさんがストーキングされてんのを相談されたりもしたよな」

「あったあった。最後とち狂って出刃包丁出してきた奴な。放っておいたら部屋に侵入して強姦とかに発展してたかもしんねーな」

 思い出話に浸りながらも俺は手マンを止めない。百合の陰唇はぱっくりと開き、グチョグチョに濡れ、膣壁はトロトロに蕩けて熱くなっていた。百合の喘ぎ声も余裕を無くしていく。

「あっ、あっ、あっ、あっ……………あ、あん時の京助さ、刃物相手でも普通に手の平で握って受け止めててさ、マジで痺れた……」

「百合なら身体に触れさせずに処理出来たろ」

「あっ、あぁっ、はっ、あんっ! で、でも……んっ、や…………カッケーなこいつってマジで思った」

「まぁ今から俺も百合を無理矢理犯すんだけどな」

 百合はその言葉に全身をゾクゾクさせた。眉を八の字に下げ、口元を右手の手首で隠して切なそうに俺を見つめた。だが、口元はニマニマと緩んでいる。

「……やっべー。京助にならレイプされたい」

 どこか弱々しくそう口にする百合に対して、俺は膣の中で指をくいっと軽く曲げて、ゴシゴシと今までにない速度で一定の箇所だけを執拗に擦る。

「あっ、あっ、あぁっ♡」

 百合はぎゅっと目を閉じると、腰を浮かせた。同時にぷしゅっ、ぷしゅっ、ぷしゅっ、と潮を吹いた。

「え? え? なにこれ……」

 潮吹きの知識自体はあっただろうが、自分とは関係の無い世界の出来事だと思っていたのだろう。百合は、腰を浮かせたまま困惑の表情と声を露わにした。

 俺は構わずそのまま手マンを続ける。

「あーーーっ♡ あーーーっ♡ あーーーっ♡」

 更に腰を浮かすと、勢いを強くして、びゅっ、びゅっ、びゅっ、と失禁めいた潮を吹いた。

 びしょびしょになった左手を陰部から離しても、百合の腰は暫くヒクつきながら浮いたままだった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ♡」

 百合は既に息絶え絶えで甘々の吐息を漏らしつつ、しかし負けん気の強い瞳で俺を非難するように睨む。

「……もう嫁にいけねー」

 どうやら本気で恥ずかしがっているようだった。

「許嫁にあんな態度取る奴の言うセリフかよ」

 そう言うと、再び同じように指を膣に侵入させて、ぐちゅぐちゅと音を立てて指の腹で膣壁を擦る。

「あいっ、いいっ、ひっ、いっ♡ あっ、あっーーー♡」

 再び腰を浮かし、陰部からびゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、と勢い良く潮を撒き散らかした。ベッドのシーツのみならず、床のフローリングまで水滴が飛散している。

 百合の腰が下りたのを見計らい、左手の手の甲で陰部をゆっくり撫でる。時折勃起したクリトリスに当たって、「んっ♡」と百合は目を細めて全身を硬直させていた。

 それ以上の事をする様子が無い俺に業を煮やしたのか、百合は両手で俺の左手首を掴むと睨みつけた。

 泣く子も黙るはずの『修羅百合姫』の睨みは、切なさともどかしさで、可憐という表現以外が不可能な表情を作り出していた。

「……可愛がってくれんじゃなかったのかよ」

「だから可愛がってんだろが」

 俺がニヤつきながらそう返すと、性行為に於いては経験の差で到底俺に叶わないと理解したらしい。

 百合は弄ばれている事に敗北感を覚え歯軋りをしながらも、これも親友同士のじゃれ合いだと若干の愉快さを隠し味に顔に浮かばせ、枕を手に取った。それで顔を隠して「……さっさとおちんちん挿入れろ。馬鹿」といじらしく言った。

 もう一声いけるかなと思い、クリトリスを指でコリコリと摘まみながら突き放すように言う。

「頼み方ってもんがあるんじゃねーのか?」

「あぃっ、いっ♡」

 再び百合の腰が浮いて、ぴゅっ、ぴゅっ、と微かにだが潮を吹いた。

 そして手を離す。腰がばたんと落ち、はぁはぁと息を乱した。

 やがて百合は枕を少しずらして目元だけを覗かせ、もう堪らないといった様子で俺を見つめる。

「……京助……」

「何だよ」

「……………犯してください」

 俺が可愛らしい乳首を指で弾くと、百合は俺を見つめたまま「んっ」と痙攣した。

「四つん這いになって腰こっち向けろ」

 百合は上半身をのっそり起こすと、ゴムを装着している俺を不服そうに睨んだ。そのまま向こうからちゅっちゅとキスをして、四つん這いになると逆襲を誓っていた。

「……いつか憶えてろよ。ぜってー京助にも同じ屈辱味わわせてやっからな」

「はいはい。楽しみにしてるよ」

 百合の新品同様の陰唇はぱっくりと開き、鮮やかな桃色の粘膜を惜しげもなく晒してヒクつかせていた。照準を合わせるのは容易だった。穂先を宛てがい、あとは腰を押し進めるだけだ。

「あぁっ、んっ♡」

 俺は親に感謝してもし切れない。規格外の腕力とタフネスを有する鋼の肉体に加え、まさに肉槍と評するに一切の不足が無い雄々しくも荒々しい筋肉の角とも呼べる巨根まで授けてくれたのだから。

 今まで相手にしてきた女の中には、豊富な経験を自負しているような年上も居たが、これを見たら例外無く目を丸くしていた。

 そんな逸品に引けを取らないのがやはり我が自慢の相棒である。白桃のようなむっちりしたデカ尻は巨根をしっかり根本まで呑み込み、パンパンと小気味良くピストンを受け止める。

「京助……これ、さっきのと、全然違う……あっ、あっ、はぁっ……んっ♡」

 後背位だとそのボリュームは更に輝く。桃尻と呼ぶに相応しい、しっかりした骨盤を土台にし、張りツヤに溢れた瑞々しい柔肉を纏った丸い曲線。豊かな双丘の谷へずぷずぷと突き刺す光景は、どうしようもないほどに野生の衝動を歓喜させる。

「奥まで、来てるっ♡ やぁっ、あっ……あっ、はぁっ……ちんぽ、奥まで刺さってくる♡」

 挿入した時からストロークの長さを重視した、ゆったりしたピストンを続けていた。

 百合は両肘をベッドにつき、両手はしがみつくようにシーツを手繰り寄せていた。

 華奢な背中は満遍なくじっとりと汗を浮かべ、肩甲骨はピストンの度に徐々にではあるが、ぎゅっと浮かんでは寄っていく。

 ゆっくり腰を引くと、陰唇と陰茎の間に愛液の糸が引く。それがコンドームの元の色を覆うように白く泡立ち始めてもいた。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……♡」

 腰を押し込むと窮屈な挿入感を有する肉壺に、滑るように根本までにゅるんと埋没する。

挿絵2

「あぁっ、んっ♡」

 突き刺しているというよりかは、まるで桃尻の唇に咥え込まれているようにも見える。

「ほんっと、でけーケツだな」

 百合は浅い息遣いの中、快楽とはまた別の感情で、ぎゅっとシーツを握りしめた。

「だ、か、ら……気にしてんだから言うなっつうのに」

「こんなにバックのし甲斐がある女のケツは初めてだぞ。素直に喜んどけ」

 俺の言葉が純粋な賛辞である事を百合は理解しながらも、やはり女としては色々思うところがあるのだろう。皮肉めいた声色を返す。

「……はっ。そいつぁどうも。アタシのデカイ尻で相棒に悦んでもらえて嬉しいよ」

 両手で尻肉を鷲掴みにすると、スベスベモチモチした肌触りに指がむにゅりと沈み込む。

「こんだけ安産型だと、丈夫なガキをぽんぽん産めそうだな」

 感心しながら、ぱしんっ、ぱしんっ、と軽快に音を鳴らすように腰を叩き付けた。

「あんっ、あんっ、あっ、いいっ♡」

 百合は甲高い声で喘ぐと、「……京助の赤ちゃん産んでやろうか?」とおどけるように言った。

 俺は百合の片手を掴むと、引っ張りながら腰を振る。ぱんっ、ぱんっ、と肉厚の臀部で乾いた音を鳴らす。

「馬鹿言ってんじゃねーよ」

「アタシは別にいいぜ? 京助のちんぽでガキ仕込まれんならさ、相棒冥利に尽きるってもんだろ」

「そういう事は遊馬に言ってやれ」

 あまりに気軽に放たれた百合の言葉に深い意味は無い。それだけに性質が悪い。

「あっ、いいっ♡」

「爽やかなイケメンだし、確か通ってるのも有名な進学校だろ?」

「いっ、いっ♡」

「それにああ見えて根性もあるからな。カツアゲの件は何回も話したろ?」

 百合の手を離し、両手でがっつりと桃尻を掴む。竿の根本まで埋没させるように、下腹部をぎゅっと押し込んでピストンを休止する。

「うぅっ、あっ……すっげ……♡」

 百合のトロトロの声と共に、彼女の蜜壺の温もりと圧迫感を肉槍全体で甘受する。

 汗を浮かべた彼女の細い背中は悩ましげにくねくねと揺れ、豊満な尻肉を自ら俺の下腹に押し付けている。

俺と百合が隙間無く密着する。

「……あのさ、ぶっちゃけた話していい?」

「何だよ急に」

「色々な事情を何も考えずにさ、ただアタシの野性的な願望だけを言うとさ……」

 百合が浅い息遣いを整えながら、両手でシーツを強く握りしめた。

「……マジで京助に孕まされたい」

 俺の腰が勝手に動き出す。

「……冗談抜きで……あっ、あっ♡ はぁ、はぁ……京助の、強いちんぽで、妊娠したい」

 雄の本能が無意識に、下腹部を百合にパンッ、パンッ、パンッ、と叩き付ける。

「あっ、あっ、あっ♡ きょ、京助の、鬼みてーな勃起ちんぽが、ズンズンってまんこに刺さる度に、頭の中にすげー響く……京助の種が欲しいって……京助の赤ちゃん産みたいって…………あっ、いぃっ♡」

 頭の奥で何かが切れそうになる。俺は必死に理性を保とうとするが、いつの間にか男根は破裂寸前なほどに膨張していた。そしてそれを根本まで包み込む百合の尻肉は、俺の猛りを歓迎するかのように丸く豊かだった。男を煽る機能美を極めたその曲線に、己の肉槍を挿し込めるのは誉にすら感じる。

「……普段からメチャクチャ強くて、全部預けられるくらいに信頼してる戦友にさ……こんなでかくて、硬くて、熱いちんぽを一番深いところまで突っ込まれたらさ…………そりゃこいつに孕まされてぇなってなるだろ…………つっても女としてじゃなくて、やっぱり相棒としてだけど」

 シーツが百合の両手によって激しく乱れる。そしてそれがふっと緩むと、彼女はどこか力無く言った。

「……あ~、わりい。変な事言った。忘れてくれ」

 俺は何度か深呼吸をして、百合の肉壺を慰めるようなゆったりとしたストロークを再開する。

「んっ……んっ……あっ♡ これっ……きもちっ♡」

「その内遊馬相手にも、そういう風に思える時が来るさ。勿論女としてな」

 百合がバックから突かれながら鼻で笑う。

「だったら良いんだけどな……あっ、あっ、あっ……おっ、きいっ♡」

 そして百合は百合で照れ臭さから話題を変えようとする。

「てか京助ってやたら向こう側に協力的だよな。今日のデートの提案とかさ」

 俺はゆっくりと肉槍で百合をまさぐりながら答える。彼女の中は熱く柔らかかった。

「俺はさ、オマエと一緒に馬鹿やったりは出来る。俺も百合と居るのが一番楽しいしな」

 とん、とん、とん、と軽く腰を振りながら真面目な口調で言う。百合の桃尻を膨張し切った男根が貫く度に、にゅる、にゅる、にゅる、と愛液が泡立つ音を奏でた。

「あっ、あっ、あっ♡」

 百合は甘い声で鳴きながらもくつくつと笑った。

「……あと、一番気持ち良いしな」

「とにかくだ。俺がオマエと歩める人生ってのはそこまでなわけだ」

 友達とワイワイやっていれば良いだけの時間は限られている。別に誰しもに不可欠ってわけじゃないが、いずれは人生の伴侶が必要になってくるだろう。

 俺は結婚なんて興味無い。だが百合は違う。彼女に普遍的な幸せを望む人がいて、彼女を幸せにしたいと願う男が居る。そして百合自身も、少なくともその男に悪い感情は抱いていない。

「恥ずかしいから一遍しか言わねーぞ? 俺にとって一番大切な友人だから、一番幸せになれるであろう選択肢を選んでほしいってだけだ」

 気軽に楽しく、気軽に気持ち良い。あくまで友達である俺が百合の人生に干渉出来るのはそこまでだ。百合もそれを理解しているし、俺のそういう気持ちを嬉しく思っている。

 その証拠に、今まさに百合は俺に串刺しにされながら背中をブルブルと震わせている。ただでさえ窮屈な膣壁がグネグネと締め付けてきた。友情でも絶頂するのだ。

 百合の背中がくねくねと揺れる。その動きは官能的だったが、漏れる声はいつもの百合だった。

「……あ~くそ。やっぱりアタシが京助に惚れてたら全部解決なんだけどな」

「オマエそれ言うけど、俺に惚れる要素少しでもあんのか」

「……わりぃ。真剣に考えてみたけど一ミリもねぇわ。京助かゴリラかってくらいねえわ」

「なんか俺が振られたみたいになったじゃねーか」

 百合がケラケラと笑う中、射精欲が蓄積しつつある肉槍を勢い良く刺しては抜き、抜いては刺す。

「あんっ、あんっ、あんっ♡」

 その度にまだまだ初心な膣口が剛直でむにゅりと限界まで押し広げられ、結合部がにちゃにちゃと淫靡な摩擦音を奏でる。

「でもほら、喧嘩っぷりには惚れてっから。あと勃起ちんぽにも惚れかけだからそう凹むなって」

「本気で振られたみたいに慰めんなや」

 俺達の笑い声と、そしてパンパンと肉がぶつかり合う音が重なる。

「あっあっ、すっげ♡ 京助……アタシ深いところ弱いかも……あっあっあっ、そこっ、そこっ♡」

 正直喘ぎ声は普段の声色からは想像も出来ないほどに妖艶だし、汗に塗れた裸体も男の劣情を誘う事に特化したフォルムと質感を有している。

 しかし何より俺を煽り立てるのは、間近で見続けていた百合の戦いぶりだ。顔色一つ変えずに屈強な男を薙ぎ倒していく女が肉棒一本挿入されただけで尻肉に波を立ててよがっている姿は、下腹部の奥から燃え滾らせるものがある。

 俺の腰付きがまた一段階激しくなる。百合がそれを茶化すように笑った。

「……やっべ。こいつピストン強めてきやがった。まんこメチャクチャにされそう」

「心配すんな。その内自分から『メチャクチャにして』っておねだりするようにしてやっから」

 そう宣言すると、バシバシバシと下腹部を桃尻に叩き付ける。

「あっ、あっ、あっ、あっ♡」

 甲高い嬌声を上げると、百合は興が乗ってきたようにくつくつと笑う。

「アタシの事舐めすぎだろ。その辺の女と一緒にしてんじゃねーよ」

「ベッドの上じゃただの雌だって事、自覚させてやるよ」

 俺の言葉にやはり愉快そうに笑いながら、背中や腰を微かに揺らし、桃尻を俺に向かって押し付けるように突き上げた。掛かってこい、という事らしい。

 俺は安産型の腰をぐっと掴むと結合が抜けるギリギリまで腰を引き、そして一気にズプリと挿し込んだ。

「あぁっ♡」

 パシィンッ、という一際派手で乾いた打突音と共に、百合の喉からも押し出されたような喘ぎ声が漏れた。

 もう一回。

「あぁっん♡」

 更に続ける。

「はうっ、あぁっ♡」

 最初は三秒に一回程度の間隔だったが、それを徐々に詰めていく。

 百合もそれを察したのか、半分笑っているかのような口調で尋ねてくる。

「……まさかとは思わねーけどさ。このズボズボってちんぽ挿入れる感じ、徐々に速くしてったりしねーよな?」

「当然そのまさかだ。最終的にはベッドの脚が壊れんじゃねーかって心配するくらい、ガッツンガッツン犯すからそのつもりでいろ」

「……マジか~……」

 百合の口調は危機感と、そのスリルを楽しんでいるようだった。

「あんっ♡ あぁんっ♡」と喘ぎつつ、「……やっぱ今の内に降参とかあり?」と茶目っ気を含ませて聞いて来る。

「おいおい。あの修羅百合姫ともあろうモノが、ちんこ如きに白旗上げんのか?」

 露骨に小馬鹿にした挑発に、百合は心底楽しそうに笑い、そして啖呵を切った。

「んなわけねーだろ! こっちは鬼飼いの京助の背中預かってんだぞ! デカチン如きに尻尾巻いて逃げられっか!」

 こっちも楽しくなる。

 恋愛の先のセックスは多幸感に満ちている。肉欲で繋がっているセフレとのセックスも手軽に気持ち良くなれる。しかしこうも楽しくなれるセックスは、友達とだけだろう。

 パシンッ、パシンッ、パシンっ!

「んんっ…………くぅ…………♡」

 徐々に間隔が短くなっていくピストンに耐える為、百合はベッドのシーツを噛みしめたようだった。

 ピストンを更に激しくしていく。

「ふぅっ、ぐ……んにゅうっ……♡」

 ストロークこそ竿の半分くらいで折り返しになるものの、その往復速度は一秒に二回は下らなくなる。

 豊満な尻にパンパンパンパンと下腹部を打ち付け、その度に肉竿がジュポジュポと卑猥な音を奏でた。

 百合はもう歯を食いしばる事も出来なくなっていた。

「はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡」

 犬のような息遣いで甘い喘ぎを口から吐き出している。

「……ちんぽが……頭の奥まで刺さってくる……♡」

 肩甲骨が限界まで狭まる。

「……こんなの、何も考えられなくなるに決まってんだろが………アホか……」

 結合部からはぐじゅぐじゅと泡立った愛液がシーツに垂れ落ちていく。

「……………やばい……………雌になる…………♡」

 背中がぐっと反り返り、代わりに腰が持ち上がった。

「……京助のちんぽで、ただの雌になっちまう♡」

 その言葉を最後に、「……ううう♡♡♡」と呻き、ビクビクと全身を痙攣させた。

 それを契機に、百合は完全に溶けて激しく喘いだ。

 パンパンパンパンと激しくピストンしたが、そのタイミングとは関係無しに、「あーーーっ♡ あーーーっ♡」とはしたない声を上げた。そして暫く息を呑むように無言になったと思ったら、再び「あーーーっ♡ あーーーっ♡」とあられもない声を漏らした。

 そのタイミングで敢えて腰を止める。百合は乱れに乱れた呼吸を整えるのに精一杯だった。

 そんな状態で問う。

「どうしてほしい?」

 はぁはぁと荒ぶる息遣いは改善が見られない。もう百合の全身は弛緩していた。

「……して」

 吹けば消え入りそうな声で呟く。

「聞こえねーぞ」

 パシンッ、と深いストロークを鋭く打ち込む。

「あいっ♡」

 その快楽が、百合の頭の芯まで痺れさせたのが俺にもわかる。背中がビクビクと震え、甘い法悦に蕩け切っている。

「……おまんこ、メチャクチャにして…………」

 俺は今度は、何もせずに言葉も投げ掛けずに放置する。

 すると百合は切なそうに腰を左右にもじもじさせると、ごくりと喉を鳴らしてから、悔しそうに言った。

「……京助の強いおちんぽで、アタシの雌犬まんこ、メチャクチャにしてください」

 正直なところ、著しく興奮した。

 無敵と不屈の象徴のような女をバックで突いて雌であるのを自覚させる事に、男の本懐が燃え盛るのを感じた。

 だが俺にとってあくまで百合は男女である前に友人なので、欲情のまま征服するのではなく、友情を以て満たしてあげたいという気持ちが前提にある。

 辱める為ではなく、頂きに導いてやる為に腰を振る。

「ああっ♡ あっあっ♡ いっあっ♡ 京助っ、それっ、きもちっ♡」

 パンッ、パンッ、パンッ、とほど良い力強さで腰を叩き付ける。

「奥っ、届くっ……一番深いとこに、ちんぽ来るの、気持ち良いっ♡ いっいっ♡ あぁっいぃっ♡」

 桃尻は肉同士がぶつかる度に波打ち、陰唇は肉幹が往来する度に、ぬぷぬぷと悦びで鳴いた。

「来るっ、来るっ♡ おまんこ、来ちゃうっ♡ 京助っ、アタシっ、イっちゃうっ♡」

 俺としては前述した通り、百合へ必要以上に恥辱を与えるつもりは無かった。

 しかしそこで一つ閃いてしまったのだ。

 百合という唯一無二の親友を幸せにする為の第一歩。

「この穴で気持ち良くなんのか? 何の為の穴なんだよこれは」

「ち、ちんぽの穴♡ 勃起ちんぽズボズボして、気持ち良くなるちんぽ穴♡」

 俺と百合のセックスには情念の欠片も無い。あくまで喧嘩の代わりだ。

 そのつもりだったが一つ目的が出来た。

 それは百合を女にする事。

 俺が百合と遊馬の仲を取り持つのはただのお節介ではない。純粋に恋愛的に相性が良いと思っているのだ。

 百合だって本当は遊馬の事を多少は意識しているのかもしれない。しかし恋愛自体に関心が薄い百合が、それに気付いていないだけの可能性がある。

 なら俺が、それを自覚するか目を逸らす事が出来ないまでに、百合を女にする。雌にする。

「その辺の女と一緒で、ちんこ挿入れられたらそうやってよがるんだろ?」

 そうだ。百合は喧嘩が強いだけで、普通の女なのだ。

 まずはそれを自認させて、それから遊馬と恋愛をすれば良い。

 しかしやはり、百合は普通の女ではなかった。身体と意識がトロトロに溶けても、芯だけは残っていた。

「……ちげーし……アタシがよがるのは、京助のちんぽだけだし……」

 その芯には皮肉にも、俺との数年間が作り上げた友情で詰まっていた。

 血生臭いほどに密度の濃いパートナーシップ。それを溶かし切れるのは、また同様に俺しか居ないのだ。

 俺のそんな決意を知ってか知らずか、百合が絶頂寸前の切羽詰まった声で宣言する。

「アタシのまんこがよがるのは京助のちんぽだけなんだからっ♡ だからっ、だからっ……ずっと京助専用のちんぽ穴なんだからっ♡♡♡」

 そう言って全身をビクビクッと激しく痙攣させた。

 皺一つ無い綺麗な肛門をヒクつかせながら、満足そうに息を切らして絶頂の余韻に浸っていた。

「……やっべぇわ…………マジでめっちゃ気持ち良い……♡」

 身体は雌として蕩けながらも、百合は愉快そうにいつもと同じ調子で言う。

「くっそ~。二連敗かよ~。しかもどっちも完敗だし」

 悔しさと、俺に対する誇らしさが同居するその物言いは、何の気兼ねも不要な俺との時間を満喫し切ってていた。

 そんな百合の艶めかしい色香に包まれた背中を見下ろしながら思う。

 手強い。

 我が相棒ながら、やはり一筋縄ではいかない。

 それでも俺が責任を持って、百合を普通の女にしてみせる。

「ぜってー次は京助を先にイカせっからな」

「セックスはそういう勝負じゃねーから」

 俺がツッコミを入れながら、肉槍もパンパンと突っ込んでいく。

「あぁっ、あっあっ♡ 京助っ♡ やばいって♡ まだおまんこっ、ジンジンしてるっ♡」

 俺は挑発するでもなく、小馬鹿にするでもなく言う。

「イってるまんこ犯されるくらいで音ぇ上げるようなヤワな女じゃねーだろ」

 それにしても改めて、百合の背中は綺麗だと思った。すぅっと背筋が一本通っている。まるで陶器のように白く、染み一つ見当たらない。

「……っくぅ……ったりめーだろが……いくらでもズボズボ来いや」

 脇腹の横からは、細い背中では隠し切れない豊かな乳房がぷるんぷるんと揺れているのが覗き見える。

「……ちょっとまんこトロトロにしたくらいで、んっ♡ はぁっあ……………調子コイてんじゃねーぞ」

 力一杯抱きしめてしまえば、ガラス細工のように壊れてしまいそうなほどか弱く繊細な背中と腹回り。

「んっ、んっ♡ あっ、あぁっ♡」

 それでいて臀部は男の繁殖欲を煽りに煽り、そして受け止める事に特化した丸みを帯びている。抱いた女の数は多い方だと思うが、ここまで白桃めいた曲線と質感を俺は知らない。

 パンパンパンと気持ちの良い音が鳴る。

「待って♡ 待って♡ やっぱタンマ♡ これってズリィだろ♡ アヘってるおまんこ、こんな凶悪なちんぽでズコズコ続けんのは、どう考えてもおかしくなるってっ♡」

「馬鹿言うな。俺達の世界じゃ不意打ち闇討ちなんて当たり前だろうが」

「……そう、だけどよ……そうっ、なんだけどっ…………やっあっ♡ あっあっいっ♡ それっ、それっ♡ やばっ♡ あっ、すごっ♡ 全身まんこになってくっ♡ 京助のちんぽで、全部まんこになるっ♡」

 百合の背中がくくっと下がり、シーツを掴む両手に色欲が混じる。それでも百合は楽しそうに笑った。

「くっそぉ。セックスで京助に勝てる気がしねぇ」

 色々と細かい事を抜きにして、この声を他人に聞かせたら、友達と遊んでいるようにしか聞こえないだろう。

「……でもその内ぜってー勝つ。覚悟しとけよ」

「おお。いつでも受けて立つぜ」

 俺もつい笑い声を上げてしまう。百合と二人だと喧嘩だろうがセックスだろうが、痛いだとか気持ち良いだとかより、楽しいが先に来て、全てを塗り尽くす。

「今日のところは潔く負けを認めてやっからよ……」

 百合は四つん這いで俺に屈服され、蕩けに蕩けた状態でも、わざとらしく上から目線の口調だ。

 俺からは百合の顔は見えないが、痛快そうに口端を持ち上げている笑顔が容易に思い浮かぶ。

「一緒にイこうぜ。京助」

「素直にちんこでイかされるのがまだ怖いって言えよ」

「うっせバーカ! 海に沈んでく感じなのか、フワフワ浮き上がらせるのか、どっちかにしろってんだ!」

 俺の射精も近い為、ピストンを強める。

「あっあっ、はぁっ、あんっ♡」

 百合の両手がシーツに爪を立て、肩甲骨辺りがぐぐっと落ち込んだ。

「……両方同時に、味わわされるこっちの身になれっつうんだよ……」

 もうそんな恨み言にも反応せず、ひたすら剛直を桃尻に突き立てる。

「あぁっ、いいっ♡ あぁっ、いっ♡ いっ、いっ♡ 奥っ、奥っ♡ 奥に、硬いの、届く♡ 京助のちんぽ、太くて硬くて、マジですげぇっ♡」

「百合。俺も出すからな。合わせろよ」

「……ま、任せろって……言われるまでもなく、いつも通り呼吸ぴったしで合わせてやるっつうの」

 百合の強がりが可愛らしくて笑ってしまう。

「つうかずっとイキっぱなしになってるだけだろ」

 俺のその言葉で、百合に掴まれたシーツはより皺を乱し、桃尻は捧げられるようにぐっと押し付けられた。

「……だって、もうアタシのおまんこ、京助専用のちんぽ穴なんだから、しゃーねーじゃんか……京助のちんぽ気持ち良くするための穴にされちまってんだから……♡」

 親友にそんな事を言われてしまえば、俺としても全力で応えるしかない。

 バコバコと激しく腰を打ち付ける。

「あひっ♡ ひぃっ♡ いっひぃ♡ いっ、いっ♡ ひぃっ、いっん♡ 京助っ、京助ぇっ♡ まんこ、メチャクチャになってるっ♡ もうわけわかんねっ♡ 来てっ、来てっ♡ 京助、やばいって♡ 気持ち良すぎて怖いっ♡ 真っ白になるっ♡ 一緒に来てっ♡ お願いっ♡」

「心配すんな。一人にはさせねー」

「京助っ♡ 早くっ、アタシっ、あぁっ♡ イクっ、イクっ♡ あっ、あっ、あっ♡ イクイクイクっ、イックゥ♡♡♡」

 桃尻を掻き分けて、鬼の角を根本まで押し込む。先端から根本まで、百合の肉壁の温もりに抱きしめられた。

 パンパンに膨張した肉角は、トロトロに蕩けた蜜壺の中で爆ぜるように精を吐き出した。

「……京助のザーメン、頭の中までドピュドピュ掛かってる感じする♡」

 ゴムをしているが射出した精液が百合の頭の中まで飛び散っていくのを感じたし、百合もそのイメージを共有していた。

 彼女は全身をぎゅうっと硬直させ、まるで飛び掛かる直前の豹のような体勢となる。安産型のデカ尻で俺の絶頂をむっちりと包み込み、そして受け止めながら、切羽詰まった様子で口早に続けた。

「京助のガチガチの勃起ちんぽが、ビクビク震えて、あたしの頭の中、ザー汁で真っ白に染めてんだけど♡」

 小刻みに痙攣し続ける背中と尻肉は、彼女が深い絶頂の中に落ち、または高い悦楽で舞い上がっている事を示していた。

「……やばい……京助とずっとこのまま奥まで、ずっぽり繋がってたい……やっぱ京助のいかついちんぽが刺さってるの、すっげぇ心強いわ……………最強だよなアタシ達って……」

 喧嘩だろうがセックスだろうが、これからも俺達は一緒だ。

 その内飽きて喧嘩もセックスもしなくなるかもしれない。でも、だからといって疎遠になったりしない。

 どちらかに好きな人が出来て、恋人や伴侶が出来たからといって、そんな事で離れ離れになるような絆じゃない。

 そう胸の中で百合に語り掛けながら、むにゅむにゅと蠢くように締め付けてくる肉壺の中でビュルビュルと射精を続けた。

 生まれて初めての後背位を終えた百合は、全裸のまま胡坐をかいた。そしてベッドの上で同様に胡坐をかいて座る俺と向かい合い、屈託無く笑った。

「セックスってめっちゃ汗だくになんのな」

 その言葉通り、俺と百合は全身に玉のような汗を浮かべていた。

 俺がベッド脇に置いてあったペットボトルを手渡すと、「サンキュ」と受け取り、ゴクゴクと勇ましい音を喉で鳴らす。

「っくぅ~! 水がくっそ美味い! 染み渡るわ~」

 真夏のビアガーデンのサラリーマンより美味しそうに水を飲むと、更に口をつけた。

「おい。俺の分残しとけよ」

 百合の気前の良い飲みっぷりに感心して言葉が出遅れた。見ると既にペットボトルは空になっていた。

 百合は水を口に含んだ状態でバツが悪そうに俺を見ると、すっと顔を近づけて唇を連結させた。百合から口移しで水を受け取る。慣れない行為で水が零れ、互いの顎を伝って滴り落ちた。

 そのまま、ちゅ、ちゅ、と唇を啄んでくると、百合は何事も無かったかのように不服そうに唇を尖らせた。

「つうかさ、さっきのバック? っつうの? あれ不公平じゃね? あんなん男の方が絶対有利じゃん。好き勝手出来るんだからよ」

「そういう体位なんだから仕方無いだろ。っていうかセックスに有利とか不利とかねーから。オマエも好き勝手ヤラれて気持ち良くなれたんだからウィンウィンだろ」

 百合は気恥ずかしそうに顔を背け、流し目で俺をじとっと睨んだ。

「つうか京助が女慣れしすぎてて若干引いた」

 俺はそんな百合の顎を持ち、強引にこっちを向かせるとキスの体勢にさせる。

 唇が触れ合う直前に俺が小声で囁く。

「またバックでヤル時は、雌犬にしてやんよ」

「……わんわん」

 百合は冗談っぽくそう呟くと、俺の下唇をがぶりと噛んで軽く引っ張った。

「……くっそ。あんなみっともねぇ姿、京助にだけは見せたくなかったぜ」

 その所作や声色は、乙女の恥じらいという可愛げのあるものではない。割りと本気で悔しがっている。

「案外可愛かったぞ」

「馬鹿言ってんじゃねーよ」

 くすくす笑いながら、威勢良く唇をぶつけ合う。色気とは無縁のキスだが、少なくとも百合の唇は柔らかいし、ちゅっちゅとそれらしい音は鳴っていた。

 ベッドに置いていたお互いの両手は、指先だけが触れ合っていた。やがて唇だけでなく舌先同士も触れ合うと、指先も同様につんつんとじゃれ合わせた。

 そんな折、百合が得意そうに笑みを浮かべる。

「結構慣れてきたろ? キス」

 俺に返事の間すら与えずにぐっと顔を寄せると、なぞるように俺の舌の腹を舐めてくる。頭がじんわりと浮遊感を覚えると、百合の方から手を重ね、指を絡めて握ってきた。

 そのまま十分ほど、俺達の唇は離れなかった。特に百合は積極的で、俺がやったように歯茎の裏を舐めてきたりした。その時々で薄目を開けて俺の様子を窺っては、瞼を閉じてきゅっと指を絡み直したりした。

 再び顔を離すと、やや息を浅くさせながらも、やや自信ありげに「どうよ?」と聞いてくる。

「少なくともまた勃起するくらいには良かった」

 百合の視線が俺の股間に向く。三度ビンビンに勃起した陰茎を確認すると、百合は勝ち誇るような笑みを浮かべて、俺の肩をばんばんと叩いた。

「まぁ京助の指導が良かったからな。アタシのキスでおちんちん元気になっちゃうのもしゃーねーわな」

 すっかりと気を良くした百合は両手を俺の肩に乗せると、軽やかに唇を押し付けてくる。技巧も色香も無い、ただ親しみだけを込めた勢いだけのスキンシップを唇同士で繰り返す。

「普通はさ、何回くらいするもんなん?」

「一回か二回じゃね。俺の最高は一晩で六回だけど」

「マジかよ。どんだけ溜まってたんだよ」

「つうか滾ってたんだよ。ほら、人数は大したこと無かったけど、全員が精鋭の武闘派集団あったろ」

 気安い唇の接触が途絶えないまま、昔話に花を咲かせる。

「あぁはいはい。あいつらは手強かったなぁ。確かに燃えたわ」

「あの時は勝利の余韻やら達成感やらで一晩中盛ってた」

「そういえばあん時カラオケ誘ったのにそそくさと帰りやがったもんな。アタシは徹カラしても火照り鎮まんなかったのに」

 百合はニヤニヤと笑みを浮かべると、俺の唇を甘噛みしながらからかうように言った。

「てか一晩で京助の相手六回とか、相手の女死んだんじゃね?」

「ギブされたから途中で相手変えたよ。どっちもセフレだったし」

 百合がケラケラと笑うと、殊更冗談っぽく唇を尖らせて押し付けてくる。百合の瑞々しい唇は、弾むような音と感触をもたらすが、交差する俺達の視線には糖分の欠片も感じられない。

「流石、京助の金棒だわ」

 そう言ってニッと口端を持ち上げ、「ま、アタシならそれ全部一人で引き受けられたんだろうけどな」とふんぞりかえった。

 百合の右手が俺の男根を握ると、不慣れな様子ながらも上下にさする。

「処女捨てたくらいで調子乗ってんなぁオイ」

 俺の売り言葉に百合は如何にも負けん気の強そうな笑みを浮かべる。

「そっちこそ舐めてんじゃねーっつうの。何年アタシが京助の背中守ってきたと思ってんだ。それに比べたらおちんちんスッキリさせるなんて朝飯前だろ」

「んな事言っててさっきは雌犬になってたじゃねーか」

 百合は鼻で笑い、再びあからさまに冗談で、「わんわーん」と口にした。そして俺の目をじっと見つめながら舌を巻き付かせてくる。視線を交えながら舌がにゅるにゅると絡み合う。

 混ざり合った唾液が互いの喉を下っていく。生温かい。

 百合の意識にスイッチが入った事が如実に伝わる。熱を帯びだした瞳や舌遣い以外にも、肉棒を扱く手つきは明らかに男に逞しさと力強さを求めていた。

 暫くそうしていたと思ったら不意に顔を離して、「へへっ」と友人然とした無邪気な笑みを浮かべる。しかしその頬は上気していたし、透き通るような薄桃色の乳首は見るからにピンと勃っていた。

「あのさ、京助」

「なんだよ」

「京助のおちんちん、しゃぶってみてーんだけど」

 俺は少し驚いて、すぐに言葉を返せなかった。

「……オマエって、ああいうの嫌いだと思ってたわ」

「うん。嫌い。なんで女が男に一方的に奉仕しなきゃなんねーんだよってすげえムカつく」

 百合は真顔でそう言うと、勃起した男根をどれくらいの強さで握ればいいのか判りかねた様子で握る。

「でもほら、アタシと京助って、女と男以前に親友だし、戦友だし、相棒じゃん?」

「つまり?」

「そんな奴のおちんちん舐めるのなんて、喧嘩の後のハイタッチみたいなもんじゃね?」

「その例えは無理あるだろ」

 百合は我ながら強引だったかと、俺を見上げながらくつくつと笑いつつも、顔を俺の股間に埋めていく。

「ま、それに? 一瞬とはいえ雌犬にされちゃったし? ご主人様の棍棒くらいはお口で手入れしてあげないと? みたいな?」

 そんな殊勝な考えなど全く頭に無い事は明らかな口振りで、視線を俺の肉棒に向けた。

 本来嫌悪していた行為に好奇心を持てたのは、相手が俺だというハードルの低さと、何だかんだでやられっぱなしが気に食わないからだろう。

 百合は腹ばいに寝転がると、両腕を胡坐をかいた俺の太股に置き、鼻先を竿の根本に触れそうな位置まで近づけた。

「目の前で見ると余計に威圧感すげーな。京助はこんなところまで鬼だよな~」

 ニヤつきながらそう言う。自分の相棒の雄々しさが誇らしくて仕方無いらしい。

「あの白雪百合に威圧を感じさせられるなんて恐悦至極だな」

 左手で百合の右耳を軽く触ると、少しくすぐったそうに笑い、ニヤニヤしながら俺を見上げてきた。

「本当それ。京助のおちんちんに比べたら、普段相手してる男のパンチや蹴りなんて欠伸出るわ」

 百合はおどけるようにそう言って、「とりあえず好きに舐めてみて良い?」と何とも気さくに尋ねた。

「おう。好きにやってみろ」

 百合は俺を見上げたまま、まずは根本をちろりと舐めた。

 百合は小首を傾げながら、「ゴムの味? あと栗の花っぽいのが精子の味か?」と独り言のように呟く。唇を尖らせ、ちゅう、と根本に深く押し付けて口元を男根に密着させたまま言う。

「やっぱかてーな。あと激熱。超気合入ってるって感じ」

 感心するようにそう口にする。男根の間近で呟くので吐息が掛かってくすぐったかった。

「どうやんのが気持ち良いの?」

「そんな感じにキスされたり舐められたら大抵気持ち良いぞ」

 俺の言葉を受けて、百合は俺を見つめたまま、ちゅ、ちゅ、ちゅ、と根本から上に向けて、左右で角度も変えながら肉竿にキスをしていく。更に時々舌を出して、チロチロと舐め上げる合わせ技も繰り出す。

「こんなんでも気持ち良いの?」

「十分気持ち良い」

「マジで?」

 百合は嬉しそうにニヤリと頬を緩ませると、耳に掛かった髪を掻き上げながら、唇の押し付けと舐め上げの強さを増した。

 ちゅう、ちゅう。

 レロ、レロ。

 根本から中腹まで丁寧に口づけして、唾液で表面をてらてらにしていく。

「……血管が浮き上がってくるのとかマジでいかちーよな。完全に鬼のちんぽって感じ」

 そう言いながらちゅっちゅレロレロと舌での男根への愛撫を続ける百合は、両脚をパタパタとさせて完全にリラックスしている。

 フェラチオという行為に対する嫌悪感を無くしたわけではないのだろう。今やっている事は本当に、俺とのハイタッチ程度の認識なのだろう。

 それでも気持ちが良いものは気持ちが良い。

 両脚をパタパタさせる度に、ぷりん、ぷりん、と柔らかそうに揺れる盛り上がった桃尻の視覚効果も大きい。

 やがて我慢汁が滲むと、裏筋を垂れたそれに百合が気付く。透明な粘液を、じぃっと睨むように観察すると、俺を見上げて気軽に尋ねる。

「なぁおい。これが我慢汁ってやつ?」

「そういうやつ」

 つぅ、と垂れていくそれを、百合は躊躇無く舌で掬い取った。そして味わうように咀嚼すると、こくりと可愛らしく喉を鳴らした。

「あんま味しねーな。ちょっとしょっぱいかも」

 にっ、と無邪気な笑みを俺に向ける。その間にも我慢汁は垂れていき、百合は慌てて「おっとっと」と舌で堰き止めるように受け止める。舌の腹から零れそうになると舐め上げて、素早くごくりと嚥下した。

 それでも我慢汁は止め処なく溢れ、百合は再び舌で舐め取ろうとする。

「別に一々舐めなくてもいいぞ」

「ああ、そういうもんなの?」

 百合はくすくす笑いながらも、それでも俺を見上げながら、舌の腹をたっぷり使って、我慢汁が垂れていく裏筋を一気に亀頭まで舐め上げる。

 そして再び口を閉じて味わうようにこくりと喉を鳴らすと、やはり無邪気な笑顔で冗談を口にする。

「なんかこれ飲んだら京助の強さお裾分けしてもらえそーじゃん?」

「それ以上強くなってどうすんだ」

「やっぱ京助の腕力とタフさは傍で見てて痺れるし憧れる」

 百合は我慢汁の出処を発見すると、そこをちゅう、と吸うようにキスをして俺を見上げて口を開く。吸った我慢汁が薄くも艶やかな唇に糸を引いていた。

「なぁ。アタシと京助、どっちが強いとか考えた事ある?」

「何度かシミュレーションした事はあるな」

「どうだった?」

「今んとこ勝敗は五分五分だ」

 百合はニィッ、と肉食獣めいた笑みを浮かべると、「アタシと一緒じゃん」と応え、舌先で鈴口をぐりぐりと突きながら俺を見上げる。

「いつか決着つける?」

 百合の舌先でぐりぐりと尿道を責められながら天井を仰ぐ。

「……そうだな。近い内にマジでやってみっか」

 俺の言葉に百合はゾクゾクと痺れるように笑みを浮かべた。

「マジで? やっべー。超テンション上がってきた」

 その言葉通り、百合は高揚を隠せない様子で亀頭に唇を力強く押し付けては吸ってきた。その所作は色香とは無縁だったが、それでも百合のキスは男根をヒクつかせる。

「んー……っちゅ。んー……っちゅ」

「まぁセックスなら俺のが余裕で格上だからな。喧嘩でも白黒つけてこれからは舐めた口きかせねーよ?」

 俺のあからさまな冗談に、百合が心底楽しそうにケラケラと笑う。

「バーカ。もうちょい経験積ませろよ。その内アタシが京助のちんぽ、虜にしてやっからよ」

「返り討ちにしてまた雌犬にしてやんよ」

 百合はこみ上げる笑いを噛み殺しながら、軽く上半身を浮かせた。ぐっと首を伸ばすと、「わんわんわーん」とわざとらしく自虐的に吠えるが、それも愛らしい。

 俺も首を前傾させてその顔を迎え、ちゅっ、と軽くキスをする。

 見つめ合い、ちょっと間を置いて、ちゅっ、ちゅっ、と続けて二度軽快なキス。

 最後に、ニヤニヤしながら、ちゅう、と深く長く唇を吸い合った。

 百合が体勢を戻す。

「……まぁぶっちゃけ、京助の雌犬にされんのは嫌じゃねーけどな」

 耳に掛かった髪を掻き上げながら口を開き、ドクドクと我慢汁を垂らす亀頭を咥え込んだ。

 そこからどうすれば良いのかイマイチわかっていなさそうな百合に声を掛ける。

「とりあえず歯を当てないようにだけ気を付けて、咥えられるところまで咥えてみろ」

 百合の唇が亀頭に沿って絡みつき、カリへ、そして竿の中腹まで滑っていく。

 体温が高い百合の口の中はやはり他の女よりも生温かく、普段の負けん気の強い彼女の口の中で性的な快楽を味わうというのは、何物にも代えがたい優越感や征服欲による愉悦が昂った。

「とりあえずそれで良い。あとは顎が疲れない程度に繰り返せ」

 俺の指示通りに、百合は歯を当てないようにだけ気を付けて、唇を滑らせていく。ゆっくりとした動作でも、くちゅ、くちゅ、と口淫特有の水音が控え目ではあるが漏れ聞こえた。

 性技と呼べるものは無い単調なフェラチオだが丁寧で真面目な奉仕は、俺に対する揺るがないパートナーシップを感じさせた。それが俺を雄としてではなく、相棒として心地良くさせる。

 百合の口の中でぐぐっと雄々しくなると、百合は少し驚いた様子で口を離す。弱みを見つけたと思ったのか、俺をからかうような視線で見上げた。

「いきなりちんぽバッキバキにさせんじゃねーよ」

 そしてやはり茶化すようにニヤついた笑みを向けてくる。

「気持ち良かったんか? んん?」

「そりゃ普通に気持ち良いだろ」

 その言葉に百合は頬をにんまりと緩ませ、そして己の奉仕でより強大になり、そして唾液で照りつく陰茎を感慨深そうに眺める。

「改めて見るとよくこんなの根本まで入ったよな。しかもあんなガンガン腰振られてさ」

 そしてちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と先程よりも熱が籠った様子で肉竿にキスをしていく。

「気持ち良さそうに喘いでたじゃねえか」

 百合は丁度カリの裏筋辺りを、ちゅっちゅっと唇で啄むと、ニカッと快活な笑みを俺に浮かべた。そしてなんの衒いも無く言う。

「うっせー馬鹿。京助のデカチン、実際気持ち良いんだよ」

 今更ながらだが、全く男女の機微を感じさせない雰囲気である。

 レロレロと舌で亀頭全体を舐め回す。それはカリの内側にまで回った。

「この段差がやべーんだよな。正常位とバックじゃ全然当たり方違うしさぁ」

 不服を演じながらも唇でカリをそっと挟み込み、そのままハーモニカを吹くように横に滑らせたりする。

 そんな百合の右耳を左手で摘まむと、やはり「んっ」とくすぐったそうに身体を揺する。

 俺が百合の耳たぶをくにくにと弄っていると、百合が深いカリを見つめたまま、ごくりと喉を鳴らした。

「……やっぱナマだと、エグイ擦られ方すんのかな」

「失神した女居たな」

 百合は痛快そうに声を上げて笑った。

「マジかよ」

 そして「……あ~、でもわかるかも」と独りごち、再び亀頭を咥えると、くちゅくちゅとフェラチオを始めた。

「……アタシも一回くらい、ナマでハメられてーかも」

 数度の往復で口を離すと、視線は伏せたまま鈴口にキスをして若干控え目な声量で言う。

 俺の返事を待たずに咥え、くちゅくちゅとフェラチオを再開した。少し慣れたのもあるし、照れ隠しもあるのか、水音はくっちゅ、くっちゅ、と淫靡さを増していた。

 そんな百合の耳たぶを触りながら若干優し気に声を掛ける。

「どうせならその日は朝からヤリまくるか」

 百合の首が一旦停止すると、すぐに返事代わりと言わんばかりに肉幹を呑み込んだ。先程よりも更に速度と唇の圧迫が増していた。

 くっちゅ、くっちゅ、くっちゅ、くっちゅ。

 そんな百合に追い打ちをかけるように言う。

「朝からこのちんこ生でハメて、手加減無しでズボズボまんこ犯して、自分が無敵の喧嘩屋である事忘れさせてやるよ」

 百合の桃尻の奥が、キュンキュンと疼いたのが外からでも伝わった。むっちりした太股が切なそうにもじもじと揺れる。

 間違いなく、百合は今、ぐしょぐしょに濡れた。シーツに垂れるほどに愛液を分泌しているだろう。

 口を離した百合は、顔を隠すように竿の根本に顔を埋め、睾丸や根本に誓いの口づけをするように唇を柔らかく這わせた。見下ろす頬はニマニマと緩く、そして若干紅潮していた。

「……その日はさ、もう一日中京助の雌犬になる事覚悟しとくわ」

「珍しく弱気じゃねーか」

 百合はようやく視線を上げると、少し照れ臭そうに、そして何より楽しそうに口を開く。

「正直今の段階じゃ勝てる気しねーわ。でもいつかぜってーアタシがひぃひぃ言わすからな。今だけ良い気になってろ」

 再び咥えて首を振る。

 くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ、くちゅ。

 大分慣れてきたようなので上から目線で助言する。

「余裕あるなら唾液を塗る意識を強くして、舌を巻き付かせたりしてみろ。あとは緩急作ったり吸ったりしても良いぞ」

 なんだかんだで反発があるかと思ったが、一瞬口を離した百合からは、「オッケー」と軽々しい声だけが返ってきた。

 ちゅぱっ、ちゅぱっ、ちゅぱっ、ちゅぱっ。

 百合のフェラチオは更に淫らな音を奏でるようになったが、快楽と共に俺に伝わるのは、友達を気持ち良くさせたいという純粋な友情と、やられっぱなしは性に合わないという負けん気の強さだけだ。

「なぁ、ところで今までの女ってさ、どこまで咥えられた?」

 不意に百合がそう尋ねてくる。

「こんなデカイの根本まではぜってー無理じゃん?」

 俺は百合の唾液が塗りたくられた最前線の、その少し先くらいを指差して何気なく答えた。

「一番深くてここくらいかな」

 昔付き合っていた女を思い出す。かなり経験豊富な女で、キャバクラにも勤めてかなりの人気を誇っていた。

「オッケー、見てろよ」

 そう言うと百合は不敵な笑みを浮かべて、はむっと亀頭を咥え込んだ。ただの世間話かと思っていたら、そのままずぷずぷと男根を呑み込んでいく。どうやら対抗意識を燃やしたようだ。

 記録更新を目前にして、亀頭が喉の最奥に当たる気配を感じた。そこで百合は流石に躊躇したが、それでももうひと踏ん張りとぐっと呑み込む。

 亀頭がぐにゅっと百合の喉に刺さるのを感じた。

 今まで女の口の中の温かさを知らなかった部分に百合の口内粘膜が届くと、温もりに包まれた。

 その後百合は当然激しく咳き込んだ。生理的反射で涙も流した。

「京助のちんぽ一番深く咥えこんだの、彼女でもなく親友のアタシだぜ。ざまぁねぇな」

 むせながらも痛快そうにくつくつ笑った。

 どうやら百合は、それが俺にとって屈辱的な事実になると思ったようだ。まぁ確かに理屈としてはわからんでもない。男根のデカさに多少なりとも自信を持っているからだ。

 しかし俺にとって百合は、唯一無二の存在ではあるが、結局のところは友達だ。恋人とは明確に一線を画している。

 そして、黙って突っ立っていたらという前提付きだが、百合は普通に可愛くて魅力的な女だ。そんな彼女に、いくら恋愛感情皆無だろうがフェラの深度を更新されるというのは、優越感は湧けども辱めでも何でもなかった。

 とはいえ当の百合は、これまでの流れで散々俺に性経験の差を見せつけられ続けていたわけだ。一矢報いてやったと、してやったりの態度と表情をしている。

 それを無下にするほど、俺はデリカシーの無い男ではない。

「……中々やるじゃねえか」

 少しだけ悔しそうに、それでいて感服するように言った。

 百合は手の甲で涙を拭き取りながら、得意満面の笑みを浮かべる。

「こっちこそギリギリの勝負だったけどな。まさか喉までちんぽ穴にされちまうとはな。流石は京助ってところだわ」

 やはりそこには女としての本能や矜持などこれっぽっちも無く、友達同士でのふざけ合いによる勝負事といった様子だった。

 再びフェラチオに戻る。勝利の充実感がそうさせるのか、首を振る速度や舌使いのテンションは高い。

 じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ。

 フェラチオしながら上目遣いで俺を見上げる。どうだ。今まで一番深く咥えこんだ口のフェラチオは、と言わんばかりの目だ。

 なんだこいつ可愛い生き物だな、と素直に思った。

 先程も百合が言っていたが、俺と百合のせめてどちらかでも恋心を持てば、そのまま恋人になって、自然と全てが上手くいったかもしれない。

 しかしやはり、悲しいほどに俺と百合の関係は確立されている。肌を重ねれば多少なりとも男女の情が湧くというものだが、俺と百合はいくら奥で交わろうとも、深まるのは熱い血潮で結ばれた盟約だけである。

 ちゅぽんと音を立てて亀頭から口を離すと、裏筋にねっとりと舌の腹を撫でつけて、そのまま根本まで舐めていく。

 その途中で少し呆れるように笑った。

「素直に京助がアタシに惚れてたらな」

 百合も全く同じ事を考えていたらしい。

 百合のぷりぷりした舌の感触を裏筋で味わい、その快楽で軽く背中を反らせながらも俺は偽りようがない本音を口にする。

「百回生まれ変わってもねーだろうな」

「だよなー」

 百合も心の底から同意するように即答する。

 そもそも実際のところどうなんだろうか。万が一俺か百合のどちらかが相手を好きになって、想いを告げたとしたらどう対処するのが正解なのか。

 竿の根本をちゅうちゅうと吸う百合の頭を撫でながらそんな事を考えていると、百合は俺が導き出した考えと同じ事を口にする。

「でもまぁ、もしそうなってもさ、やっぱ今のままでいようぜってなるわな」

「だろうな」

「あーあ。京助がもうちょいアタシ好みの男だったらなー。まぁイケてるっちゃイケてるけど精悍すぎんだよな~」

「こっちの台詞だっつうの。その口のきき方直したら少しは女扱いしてやるぜ」

「んーだとコラ?」

 百合が軽口の叩き合いの中で俺を睨むと、無造作に亀頭を咥えてそのまま首を振る。

 じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ。

 俺のは人並み以上に太い。なのに百合は最初に指示した通りに、歯を当てないよう最大限に気を配っていた。その上時々舌の腹を竿に押し付けようとしてくる。

 まだまだ妖艶な口技というわけにはいかないが、やはり百合のフェラチオからは、男とか女とか全く関係の無い確固たる信頼が伝わる。

「ひもひひいは?」

 カリの谷に、上唇をパズルみたいに嵌め込んだまま具合を聞いてくる。

「ああ。流石に飲み込み早いな。でも顎疲れんだろ? 無理しなくていいぜ」

 俺の言葉に、百合は無言でフェラチオを加速させる。

 じゅぽっじゅぽっじゅぽっじゅぽっ。

 百合の唇と、舌と、頬肉と、唾液、それら全ての温もりで俺の陰茎がビキビキと音を立てていく。下腹部にじわじわと射精感が蓄積されていくのを感じた。

 じゅぽっじゅぽっじゅぽっじゅぽっ。

 百合の唾液がたっぷりと睾丸や内ももに垂れてシーツを濡らし始める。

 百合は唇を亀頭にねっとり這わせながら、最終的に鈴口との濃厚なキスを惜しむかのように口を離した。

 そして得意げにニッ、と笑う。

「京助のすっげー太いからさ、口限界まで開かないと入んねーわ」

 先程の、顎が疲れるだろという俺の気遣いに対する返答らしい。そしてそのまま気さくに、「金玉も舐めて良い?」と聞いてきた。

「好きにしろ」

 百合は裏筋を素早く、それでいて丁寧にちゅっちゅとキスしながら、睾丸まで辿り着く。

「ここって超イテーんだろ?」

「効果はオマエもよく知る通りだ」

 百合がくつくつ笑う。精々平均程度の腕力しか有しない百合は、ごり押しの俺とは違って効率的に様々な急所を的確に狙う。そこには勿論、金的も含まれている。

「まさに一撃必殺だもんな。そんな悶絶するほどか? ってアタシとしては不思議なくらいだけど」

「あれは男にしかわからん地獄の苦しみだな。勿論オマエに手加減しろなんて言わねーけど、やられた奴を見るとちょっと同情はする」

 百合はケラケラ笑いながら「しゃーねーじゃん。アタシには京助みてーな腕力無いんだしさ」と言うと、頬をニマニマさせつつ俺を見上げる。

「てかさ、そんな急所を晒すのってやっぱちょっとはビビる?」

「ぶっちゃけ他の女だと少し怖い。例え付き合い長い彼女でもな。悪意が無くても下手だったり慣れてなかったら普通に痛むくらい敏感なんだよ」

「アタシは? よく平気で蹴ったりしてるけど」

「オマエ相手に不安? あるわけねーだろ。背中預けるって事は命預けるって事だ。その結果がどうなろうが後悔はねーよ。金玉も同じだ」

 俺の返事に躊躇いは無い。百合は感極まったように、ニンマリとだらしなく頬を緩ませた。同時に両脚をパタパタと忙しなくクロールのように動かす。その度に桃尻がぷるぷると揺れた。

 友情で高揚した百合の口調はやや上擦っていた。

「安心しろよ。京助の金玉だけは超大切に舐めっから。ぜってー気持ち良い思いしかさせねー。約束する」

 喧嘩中に他の男の股間を容赦無く蹴り上げる百合を見てきた。でも俺はその言葉を無条件で鵜呑みにする。

「ああ。任せたぜ」

 拳を突き出すと、百合もそれに合わせて拳をこつんと軽く突き合わせる。信頼の確認作業の一つに過ぎないが、百合は歓喜で破顔した。

 そしてすぐに真顔に戻り、睾丸に目を向ける。あの傍若無人で台風のような百合が、慎重に慎重を重ねた面持ちで舌を這わせていく。その様子だけで俺の陰茎は激しく怒張した。

「マジで甲斐甲斐しいじゃねーか」

「ったりめーだろ。こん中で相棒の赤ちゃんの素を作ってんだぞ。乱暴になんか扱えっかよ」

 若干茶化すように言ったのだが、百合は舌の腹で舐め回しながら真面目に返事をした。

 細心の注意を払って舌で睾丸を持ち上げる。そしてその上で優しく転がす。

「……京助の金玉、ずっしり重い」

 友達の舌で生殖機能の大本を愛撫されるというのは、何とも気恥ずかしく、それでいて得も言われぬ悦楽で背中をゾクゾクと痺れさせた。

「京助って精子もクッソ強そう」

 そう愉快げに俺を見上げる百合の顔の前で、亀頭がビクビクと我慢汁を垂らし続けていた。

 百合は視線を伏せると、睾丸の皮を甘噛みしながら気恥ずかしそうに呟く。

「……今度ナマでするって言ったじゃん? そん時ってどうすんの?」

 照れ臭くて直接言及はしなかったようだが、どこで射精するのかを聞いているのは明白だった。

「一応外で出すつもりだったけど」

「へぇ。紳士的じゃん」

 その返事に全くの異論や不満は無さそうだった。しかしゆっくりパタパタとさせた両脚といい、どこか切なそうにも見える。

「まぁその時の百合の雌犬度によるな。エロ可愛くおねだりされたら野生の本能に逆らえないかもしんね」

 百合はその言葉に小さく鼻で笑うと、「……わんわん」と小声で囁き、睾丸にちゅ、ちゅ、とキスをした。そして悪戯を仕掛けるような笑みと声色で言葉を投げかけてくる。

「今からおねだりのセリフ考えとくわ」

 百合が両手で上半身を起こして、俺に顔を近づける。

 ちゅう、ちゅう、と糖分多めな唇の押し付け合いをして、その後舌先をちろちろと舐め合った。

「……もうちょい京助のおちんちん、可愛がってて良い?」

 俺の返事を待たずに、百合は再び顔を俺の股間に埋めていく。

「そろそろイクかもしれん」

「やったぜ。口で抜いたらアタシの一勝な?」

 好きにしろと言わんばかりに、百合の頭をぽんぽんと軽く撫でた。

 舌の腹全体を使って竿を舐め上げる。ぬるりとした舌の感触の後に、百合の唾液の生温かさが続く。

 片方の睾丸を頬張られ、ころころとゆっくり舌で転がされていると、俺の携帯が鳴った。

 遊馬だった。

 電話を取るべきか躊躇していると、百合が竿の根本から、ちゅう、ちゅう、と音を立ててキスするように唇で吸われた。それから亀頭を揺らすようにちゅ、ちゅ、と唇で啄むと俺を見上げて小首を傾げた。

「誰?」

 何だかややこしい事になりそうだったので、俺は誤魔化す事にした。

「気にせずしゃぶってろ」

「へいへい」

挿絵3

 百合は特に電話の相手を気にする事も無く、目の前の男根に舌を這わせ続けた。

「おう。どうしたんだよ」

『さっきはバタバタしててお礼が言えなかったからさ』

「お礼?」

『同席してもらって、その上デートの約束までこぎつけてもらったからさ』

 その言葉を聞くと同時に、亀頭が柔らかいものに包まれた。視線を下ろすとカリ首まで咥えた百合と目が合う。にゅるりとした百合の舌の感触が竿に巻き付く。ぞくぞくと快楽が背筋を上った。

 百合は電話中の俺が感じている事に勘づくと、悪戯っぽい笑みを浮かべて首を上下に振った。

「……そんなん気にすんなよ」

 くちゅ、くちゅ、くちゅ。

 俺はもう一度百合を見る。音を立てるなと無言の抗議をしたが、百合は声を出さずに、『や、だ』と唇を動かして再び咥え込む。

 くっちゅ、くっちゅ、くっちゅ。

『実は僕もどう進展させていいものかわからなくてさ。本当に助かったよ』

 遊馬の声を聞きながら受け取る百合の口腔は、妙に温かく感じる。

 当の百合は俺の通話相手が誰か、関心は無いようだ。ただ俺の通話をフェラチオで邪魔したいというだけの悪戯心のようだった。

 俺が再び視線で一旦止めろと訴えるが、百合はニヤニヤと頬を緩ませながら根本を愛でるように唇を押し付けてきた。そして俺にだけ聞こえるくらいの小声で呟いた。

「……だって京助のちんぽ好きだもーん」

 百合が舌をべぇっと出して、そのまま舌の腹全体を使って裏筋をねっとり舐め上げていく。屹立した肉棒がビクビクと震え、俺は遊馬へ気の利いた返事も出来ずにいた。

 すると場を繋ぐ為か、遊馬が言葉を続けた。

『そういえば、百合さんの事は前から知ってたってちょっと言ったよね?』

 百合の唇が亀頭まで到達すると、やはり俺が誰と通話しているかなんてどうでも良さそうに、ただただ俺の反応を楽しみたくて、俺をニヤニヤ見つめながら鈴口を細い舌先でぐりぐりとほじった。

 無理矢理にでも止めさせようか迷ったが、下手に中断させると不服そうにはしたない売り言葉を口にしそうだったので、もう放置する事に決めた。

『ただの偶然だったんだけどさ、昔、街中で百合さんを見かけた事があったんだ』

 遊馬が百合に恋したエピソードを話し出すと同時に、百合の唇が性器のようにぬるりと俺の男根を咥えた。

『何かの行列が出来ていて、ガラの悪そうな人達が割り込んだんだ』

 ちゅぱっ、ちゅぱっ、ちゅぱっ。ちゅぱっ。

 頬張るように滑る唇。巻き付く舌。じりじりと射精感が蓄積していく。

『皆が見て見ぬ振りをするなか、同年代の女の子が注意したんだ。僕は一目で彼女に惹かれたよ』

 俺の陰茎はもう百合の口の中で破裂寸前だった。百合もそれを感じ取ったのか口淫が激しさを増す。

 じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ。

 あまりに淫らな音。これはもうフェラチオ以外の何ものでもないだろう。

 幸い遊馬は百合との邂逅に想いを馳せていた。

『そんな彼女が許嫁って知った時は素直に嬉しかった。でもやっぱり立場だけで彼女を手に入れたくは無かったんだ。形こそ違えど、京助君のようにちゃんと百合さんに認められる男になりたいと思ってる』

 彼の言葉は上辺だけではない。今までの付き合いから芯の通った覚悟や決意がある事は十分承知している。

 ただ、今はその告白に真摯に向き合える状況では無かった。俺の男根は射精感で破裂しそうだったのだ。

「悪い。ちょっと待ってくれ」

 俺は慌てた様子でそう言うと、電話を耳から話し、通話口を指で押さえた。

「……やばい。イク」

 俺が苦悶の表情を見せると、百合は対照的に優越感と愉悦を口元に浮かべ、そして勝ち誇ったように言う。

「アタシの口ん中で、ザー汁びゅーびゅー撒き散らかしちゃっていいぜ」

 そう言うやいなや咥え込み、今までにない高速ピストンを見せる。

 じゅぽじゅぽじゅぽじゅぽっ!

「……ぐぅっ!」

 俺は百合の口内の温もりと、ヌルヌルとした摩擦の中であっという間に爆ぜた。

 異性と認識していない親友の口の中で果たす射精に、脳内が背徳の蜜に塗れる。

 手に握られた携帯の向こうには百合の婚約者。その百合は俺の雄角をじゅるじゅると吸い続けて射精が終わるのを待っている。この劣情が、俺の頭をジンジンと痺れさせる。百合の口でビクビクと震えながら、ドクドクと精を吐き出し続ける男根を煽り続けた。

 更に百合は射精中の男性器から口を一切離さずに、喉をこくり、こくりと鳴らして精液を嚥下していた。時々苦しそうに、しかし献身的に俺を見上げる。

 その光景が余計に射精を長引かせた。ずっと百合の中で果てていたいとすら思った。

 俺の頭は一斉にバットで殴られたかのようにKO寸前だったが、それでも何とか再び電話に出る。

「……おう。悪かったな」

『いや。こっちこそ急に自分語り始めちゃってごめん。何だか気恥ずかしいね』

 射精は一通り終わったが、百合は咥えたまま、ちゅう、ちゅう、ちゅう、と吸い続けている。その度に背筋が攣りそうなほどの快楽に見舞われる。

『それでデートの件なんだけど、百合さんと直接話したいと思うんだけど今都合良さそうかな?』

「あぁ、それなら今……便所に……」

 百合はようやく射精が落ち着いた男根から、最後まで搾り取った精液を零さないように、唇を肉竿に隙間無く密着させたままゆっくりと引いていった。その結果、カリを通る際に上唇ににゅるんと扱かれ、その刺激でまたも肩を震わせてしまう。

 百合は俺を見上げ、あーんと大口を開けた。口の中には、尿道から最後の一滴まで吸い取って出来た精液溜まりがあった。

 口を閉じて、やはり俺を見つめたままゴクリと喉を鳴らすと、もう一度口を大きく開いて精液を胃に流し込んだ事を示した。

 悪戯を完遂させた少年のように、ニヤニヤと頬を緩ませ小声で囁く。

「……アタシの口、京助の精液便所にされちった」

 そして半勃起状態の陰茎を再び咥える。射精直後のそれを徒に刺激するでもない、じっくりと口の温もりと柔らかさで包み込むような奉仕は慈しみすら感じる。

 全身がくったりと弛緩する心地良さとは裏腹に、男根は徐々に硬さを取り戻していった。

『あぁ、お手洗いだったのか。余計に失礼だったな。はは……どうも僕はいつもタイミングが悪いな』

 中々言葉が続かない俺に対して遊馬が痺れを切らしたように言った。

 何も知らない百合はすくっと上半身を起こすと、携帯を当てている方とは逆の耳に口元を寄せて囁く。

「ゴム。どこにあんの?」

 掠れた声で鼓膜がくすぐったい。

 俺が机の引き出しを指差す。百合が離れた隙に口早に返事をする。

「またアイツから連絡するよう言っとくわ」

『本当に? 何から何までありがとう』

「気にすんなよ。それじゃあな」

『うん。また今度』

 俺と遊馬が別れの挨拶をしていると、百合は俺の前に腰を下ろして、「んっしょ。んっしょ」とゴムを装着していた。

 俺が通話を切った事を察すると百合が不満を垂れる。

「デカイからゴム着けんの難しいんだけど?」

 先程の咥えたまま飲精するという殊勝な態度など、微塵も感じさせない言い草である。

 百合の肩を掴むと、そのままやや乱暴に押し倒した。

 百合の背後には大きなビーズクッションがある。それにやや埋もれた彼女の上半身は丁度四十五度くらいの角度だ。M字に開いた両脚の奥に見える陰唇は物欲しそうにぱっくりと開いて、ぐしょぐしょに濡れそぼっていた。

 百合の手によってゴムを装着された亀頭を、ヌメヌメになった膣口に照準を合わせる。百合はその様子を期待と切なさを同居させたトロンとした眼差しで見つめていた。

「あの白雪百合が、ちんこしゃぶってまんこグチョグチョにしてるなんて言っても、誰も信じねーだろうな」

 そう言いながら腰を進めると、侵入する男根を押し返すようなプリプリとした感触の後、一息でにゅるりと奥まで挿入出来た。

「あっ、ん♡」

 百合は瞼を閉じて、蕩けた嬌声を上げる。しかしうっすらを目を開けると、「……うっせー馬鹿」とシンプルな悪態をついた。

 百合はもうすっかり挿入される事に慣れた様子だったので、ずんっ、ずんっ、ずんっ、と力強く突き上げると、「あっ、あっ、あっ♡」と愛らしい声で鳴く。それに合わせて果実のように瑞々しい巨乳が、ぶるんぶるんと円を描くように揺れた。

「……あんな男らしいちんぽ舐めたら、ぜってー誰だって濡れるし」

 百合は「んっ、んっ♡」と喘ぎ声を我慢しながら不服そうに俺を睨む。

 それを無視してガンガン突くと、百合はその睨んだ目を細めながら、きゅっと唇を結い、鼻に掛かった桃色の吐息を漏らす。そして両手で俺の二の腕を掴んだ。

 腰の前後運動でベッドをギシギシと揺らすと、結合部がにゅるにゅると独特の摩擦音を奏で、やがて百合の口がだらしなく開く。

「あっ、あっ、あっ♡」

 百合の両手は俺の二の腕から胸板へ移り、そこから腹筋を経て腰を掴んだ。

「……京助の身体、どこもカチカチだから、抱かれてるとすげー心強い」

 うっとりした様子でそう言うと、「あっあっ♡ 硬っ、いっ♡ あっあっいっいっ♡ すっげ♡」と今一番硬くなっているであろう筋肉の角に蕩けた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ♡」

 小休止中の呼吸はすっかり甘々で、俺を見つめる眼差しもどこか切なそうだ。

「……なぁ、今日泊まってって良いだろ?」

「ダメだ。帰れ」

 百合はトロトロに溶けながらも、彼女の土台である気の強さは表情や声色に節々に出る。

「んーでだよ」

「何でもへったくれもあるかよ。親父さん心配するだろ」

「ちゃんっ、とっ、あっあっ♡ 電話、するからっ、あっい♡ それっ、やばっ♡ あっあっ、それっ、やばいっ♡」

 俺が無視して腰を振り続けると、百合がにへらと笑う。

「朝までずっと京助とヤリあってたいんだけど」

 まるで徹夜でカラオケでも誘うかのような口調。

「俺のを朝まで挿入れっぱなしにしてたらガバガバになっちまうぞ」

 俺の売り言葉に、百合は買い言葉で粗雑に応える。

「返り討ちにしてへし折ってやんよ。おらっ」

 百合が虚勢を張るように笑うと、彼女は膣内をぎゅっと締めた。元々肉密度の高い蜜壺が、まさに男根を叩き伏せるかのように締め上げる。並の勃起では確かにその圧迫感に太刀打ち出来ずに押し返されるだろう。

 しかし俺の男根は鬼の角を自負している。青筋を立てた雄の象徴は鋼鉄の如くだ。

 ぐぅっと亀頭で子宮口を押し込むような挿入をする。

「あぁっん♡」

「誰が、何を、へし折るって?」

 そのままグリグリと小刻みなピストンを繰り返す。

「はぅっ、あっ♡ くっそ……この相棒……マジで最強すぎんだろ……」

 悔しそうな言葉を漏らしながらも、百合の下腹部は雄に屈服されてキュンキュンと甘く喘いでいた。

 心とは裏腹に負けを認めた身体は、きついだけの締め付けを解いて膣壁全体で俺を悦ばそうとぐにゅぐにゅ纏わり付いてくる。

「あっやっ♡ それダメっ♡ ダメッ♡ 変になるっ♡ あっいっ、いっいっ♡ 京助っ♡ それやばいって♡ あっあっ、いっいっ♡ ちんぽっ♡ 奥っ♡ ぐりぐりすんの、きもちっ♡」

「いつイってもいいぞ」

「あっ、あんっ♡ きょ、京助っ♡ やっぱ、今日、ずっと、抱いてほしいんだけどっ♡ 京助の強いちんぽで、ずっと、ハメられてたいっ♡」

「ダメだっつってんだろ。これ終わったら引っ張ってってでも帰すからな」

「ううぅ♡」

 百合が蕩け切った顔で睨むが、可愛らしいという感想しか抱けない。

「……憶えるから」

「あ?」

 険しい目つきを若干残すトロ顔と、雌として完全に蕩けるのを繰り返す。

「……ちゃんと、京助のおちんちんの形……おまんこで憶えるからぁっ♡」

 更に無視してズコズコと腰を振る。まさにお椀のような形の美巨乳がぷるんぷるんと揺れた。そんな俺に対して、百合が最後の力を振り絞って気勢を吐く。

「京助専用の、ちんぽ穴になるっつってんじゃんっ! 馬鹿っ! アホっ! おいコラテメーっ! 人の話聞いてんのかっ! 聞けコラっ!」

 俺は小指で耳をほじりながら、露骨に百合をシカトする。

 百合がきつく歯を食いしばると呪詛を吐くように凄んだ。

「あ、と、で、お、ぼ、え、と、け、よ」

 今まで百合にはっ倒されてきた男なら肝を震え上がらせただろうが、戦友である俺の腰付きはただただ激化するばかりである。

 ガツガツとしたピストンに、百合は熱湯に放り込んだマシュマロのようにとろんと溶けた。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」

 俺の腰に添えていた両手は掴む力も抜け落ち、どこか色っぽく指を這わすだけだ。

「京助っ♡ 京助っ♡」

 縋るような視線と声は切なそうだった。

「百合、ちゃんと俺が雌にしてやるからな」

 今まで喧嘩ばかりで恋愛を知らない相棒を、俺が責任持って一人前の恋愛脳な女にしてやる。その意気込みの第一歩として、まずは腹の底から自分が女である事を自覚してもらう。

「馬鹿かテメー! もうなってんだよこっちはっ! 京助のおっきいちんぽでよがる、雌犬になっちまってんだっつーのっ!」

「何偉そうに人間様の言葉で喋ってんだ?」

 冗談ではない口調でそう投げかける。

 普段の百合なら、いくら相手が俺でも真面目にこんな事を言われたら、研ぎ澄まされたナイフのような表情で、『あ? 上等だよ。どっちが上かハッキリさせっか?』と間違いなく喧嘩になっていただろう。

 しかし俺は鬼の角めいた凶悪な巨根で掘削機のようにガンガンガツガツと間断無く、百合を突き上げる。

「あんっあんっあんっ♡ はぁっあっ、あーっあっあっ♡ やっ、あぁんっ♡」

 俺の下腹部を受け止める度に、M字に開いたムチムチの太股がパンパンと小気味良い音を鳴らす。美巨乳はその瑞々しい弾力を如何なく発揮するようにタプタプと揺れていた。

 百合はそんな中、負けん気が強そうな目鼻立ちの顔を、いじらしさの方向へとメーターが振り切った表情を浮かべて、俺を潤んだ瞳で見つめた。

「……わんわん♡ わんわん♡」

 今までのような冗談半分のような言い方ではなく、男に媚びるような甘ったるい声音で口にする。

 後頭部に鈍い衝撃を受けて眩みを覚えた。釘バットなんか目じゃない破壊力。俺でなければ致命傷だ。

 戦友という確たる関係性を持つ俺でなければ、恋に落ちる事は到底免れないだろう。

「……いつでもイっていいぞ」

 ピストンを緩めながらも、何とかそれだけ言い切る。

 百合はやはり慎ましい表情と所作で、「……うん」と頷いた。

 俺は右手で百合の左の乳房を鷲掴みにした。俺の大きな手でも手中に収まり切らない豊かな柔肉は、中身が詰まった弾力で指を押し返して愉しませてくれる。

「んっ♡」

 むにゅりと指先を沈み込ませるほどに乳房を掴むと、百合はぐっと食いしばるように瞳と唇を閉じた。

 再び激しく腰を突き上げると、息も止めたまま俺のピストンを受け続けた。

 徐々に喉が反り返っていく。

「ああぁっ♡♡♡」

 我慢していたのであろうが、さほど時間は掛からずに一際甲高い声を上げながら達した。

 百合の肉体が痙攣と弛緩を以て、男の硬さと大きさによる悦びを表す。

「……あっ……あっ……はぁ……あっ……♡」

 百合は顔を横に向けて、半開きの口から呻き声のような甘い吐息を漏らしながら、全身をヒクつかせている。

 俺はピストンを中断しつつも、熱した鉄のような肉槍で百合の腹の底を持ち上げるように貫き続ける。

 百合は完全に心の防壁を失い、ただの女となっている。そこに腹を割った、もとい、腹を突かれた話を持ち掛ける。

「百合、遊馬とのデートの件だけど、今週末でいいな?」

 はぁはぁと息を荒らげる百合。俺に向ける流し目からは、絶頂の余韻にただ浸っていたいという願望が伝わる。

「……なんでもいーよ……もう」

「じゃあ遊馬にもそう伝えとくから」

「……勝手にしてくれ……あぁ、もう……頭真っ白」

 何となくだが、百合は自覚してはいないが遊馬の事を割りと気に入っているのではないかと思った。仕方無く許嫁という存在を受け入れているというスタンスに見えるが、遊馬は百合が好むような芯の強い男だ。

 しかし百合にとって恋愛という概念は、あまりに縁が無いものだった。というか自ら意図的に遠ざけているのではないかとすら思える。

 というのも、誰かを好きになったら、俺という存在が自分の中で二番目に降格するとでも勘違いしてるんじゃないか、と思えるような節があるからだ。そんなものは言うまでも無く、どっちが上かなんて単純な話ではない。

 現に俺は、誰かと付き合っている時、彼女は一番大切だったが、百合も一番大切だった。そこに矛盾は無い。

 しかし百合は経験が無いからそれがわからない。

 だから背中を預けられるほどの相棒より大切な存在を作るという事は、俺を蔑ろにしてしまう事になるんじゃないかと恐れているのではないか。というのが俺の推測だ。

 とはいえ確たる根拠も無い。元々そういう事に関心が薄い性格なのも承知している。

 まぁどちらにせよ焦りは禁物だ。百合の心情はおそらく彼女自身も無自覚な部分が多い。

 だから百合にとって性的なハードルが無いに等しい俺が、こうして少しずつ女の悦びを教えていく。これで少なからず、遊馬との向き合い方に影響するだろう。

 腰は引かずに、根本まで挿入したまま、ぐっ、ぐっ、と優しく亀頭を擦りつける。

「やっ、あっ♡」

 殆ど摩擦は発生しないピストンだが、それでも心地良い余韻に浸っていたであろう百合は、脳天まで痺れたかのような甘い喘ぎ声を上げた。そんな性交渉ともただのじゃれ合いとも取れるような結合を続けた。

 俺は少し腰を引いて摩擦を発生させる。

「あっ、あっ♡ やばっ、おっき♡」

 百合が再び蕩け出すその隙を見計らって、更に俺は提案する。

「オマエと遊馬のデート、どこが良いかな」

 百合が蕩け切った中で、気だるそうに言う。

「……牛丼屋」

「お嬢様と御曹司のデートなんだからもっと良いもん食ってこい」

 ずんっ、ずんっ、と肉棒を挿し込むように腰を前後する。

「あんっ、あんっ♡」

 百合はそれに対して蕩けるも、その合間にもふてぶてしい態度を見せる。

「ただでさえ堅苦しい奴と堅苦しい店に行けっかよ……息詰まって仕方ねーわ」

「まぁオマエが行きたいとこに行くのが一番か」

 俺が鷲掴みにしている百合の左胸の触り心地に変化を感じる。ただでさえ弾力に溢れた美巨乳は、俺の手の平に微かなではあるが甘酸っぱい鼓動を伝えた。その変化が遊馬の話題に影響されている事は間違いない。俺の中の『実は百合は遊馬の事を無意識下では好ましく思っている説』がより信ぴょう性を増す。それを暴き出す為に、ひたすら性的な高揚を与え続けたのは、あながち馬鹿げた試みでもなかったかもしれない。

「そんじゃ、今から俺もイクからよ」

 百合は頬を上気させ切ったまま、ジトっとした目を俺に向ける。

「……おうよ」

「今から泣こうが喚こうが、俺がイクまで百合のキツキツまんこ犯し続けるから」

 その言葉に百合が下唇を噛み、肩をいからせ、全身をゾクゾクと身震いさせた。その様子は軽く絶頂したようにも見える。

「心の準備はオーケー?」

 腰を引いて鬼の角を半分ほど引き抜き、百合に見せつける。これが休み無く突き続ける事を百合に伝える。

 百合の全身がキュンキュンと喘ぐ。恋する女としてではなく、雄に屈服する雌として。

「……ごちゃごちゃ御託並べてねーで、さっさとアタシのちんぽ穴でビュービュー射精しちまえ」

 百合はいつもと変わらぬ勝気な態度を示そうとしたみたいだが、八の字になった眉や、掠れた声はか弱さしか伝えない。

 そこから俺は有言実行だった。ひたすらに腰を振って百合をかき混ぜた。ベッドは底が抜けそうなほどにギシギシと揺れ、結合部は愛液がクリーム状になるほど泡立った。

「あっあっあっ♡ いっあっ、だめっ♡ おまんこ……壊れちゃうっ……京助のちんぽっ強すぎてっ、おまんこメチャクチャになる……あっ、いっいっ、きもちっ……おまんこっ、気持ち良すぎる……♡」

 百合はすぐに絶頂して命乞いめいた喘ぎ声を上げたが、ピストンは中断しないし手心も加えない。

 ぐっと膝裏を抱え、ひたすらズコズコと百合に肉槍を突き刺す。

「京助っ♡ 京助っ♡ あっあっ、すごっ♡ ちんぽ、おっきっ♡ あっい♡ いっ、いっ、いっ♡ ずっとイってるっ♡ 京助のちんぽ穴っ、ずっとイってるってばぁっ♡」

 俺の射精が近い事を伝えると、百合はアへ顔をぎゅっと引き締め、「……射精するとこ、見てーんだけど」と自分の好奇心を満たす為と、俺をからかう為の笑みを浮かべてそう言った。

 粒立った膣壁にみっちり包み込まれる極上の挿入感の中で達さない。中で射精するのを我慢するというのは中々の気力を有したが、相棒の願いとあっては無下には出来ない。

 俺は絶頂の直前で何とか男根を引き抜くと、ゴムを外し、手で扱いて射精した。

挿絵4

 途中で百合の家に行くなどの間は置いたが、それでも短時間での通算四度目となる射精とは思えない、どろどろに濃い粘液がビュルビュルと飛び散るように百合を白く染めていく。

 まずはその艶やかな黒髪と、どんな強面の男にも屈しない顔へ特段に濃い精液の塊がビチャビチャと付着していく。

 美しくも豊かな乳房の谷間にも、多量の精液が飛び散り、それらが滴り落ちていくと、すぐに綺麗な形のヘソに溜まって溢れ返った。

 百合ははぁはぁと息を荒らげながらも、俺が扱いて射精する様子をじっと見つめていた。

 射精が一段落して俺達の間に広がるのは、精一杯の力でぶつかりあった者同士が共有する、胸がすくような熱気だった。そこに男だとか女だとか、雄とか雌とかは関係無い。

 俺達の全身に浮かんだ汗は、スポーツマンシップも驚くほどに爽やかだ。

 対等で全てを預けられる友同士のセックスでしか味わえない清々しさに、俺達は思わず頬を綻ばせた。

「京助がシコってるとこ見ちゃった」

 百合は俺を小馬鹿にするように鼻で笑った。それから少し照れ臭そうに、それでいて距離感ゼロの気安い笑顔を咲かせる。

「……今度からはさ、アタシで処理していいぜ?」

 そんな事を言われるとは思っていなかった俺は声を上げて笑ってしまった。

「オマエをオナネタになんかしたら、それこそ悲しくて泣いちまうわ」

「ちげーよ馬鹿」

 百合は俺の胸を軽く小突くと、照れ隠しで口早に捲し立てた。

「アタシのちんぽ穴にハメてシコって良いっつってんだよ」

「喧嘩の後でオマエがヘバってなかったらな」

「こっちの台詞だっつうの」

 くすくす笑い合うと俺達は素早く顔を寄せて、ちゅっ、と軽くキスをした。

「太股ブルブル震えてんぞ?」

「は? こんなん余裕だし」

 百合が意地を張るように弛緩し切った身体をビーズクッションから起こす。自分が背中を預けていた場所をぽんぽんと叩いて『ここに座れ』と俺に合図をしてきた。

 俺ももうヘトヘトだったので、素直にそこへどさりと身体を預ける。ビーズのクッションは百合の背中の汗でびっしょり濡れていたが、普段から背中合わせで汗や温もりを感じているので何も思わなかった。

 てっきりトイレか水を取りに行くのかと思っていたが、百合はガクガクの腰と太股で四つん這いになりながら這っていき、先程まで俺が居た位置で反転して向き合った。

 そして別に楽しそうでも辛そうでもない、ごくフラットな表情で無言のまま、両脚を投げ出して腰掛けていた俺の股間に顔を埋めて射精を終えた陰茎に舌を這わせだした。

 陰茎に付着していた精液を舐め取りながら俺を見上げる。

「お掃除フェラっつうんだろ? こういうの」

「気が利くじゃねーか」

「だろ? 惚れるなら今の内だぜ? こう見えて許嫁いるからよ」

「おお。そりゃ残念だわ」

 わかりやすい冗談の応酬。百合が痛快そうにケラケラ笑いながらも、丁寧に舌を竿に這わせる。

 七割くらいの勃起具合である陰茎を咥えると、そのまま穏やかに唇で慰めるよう、クチュクチュと音を立てて首を上下させた。

 一戦終えた直後に包まれる、戦友の唇と口腔の温もりは全身から力が抜け落ちていく。

「あ~、めっちゃ気持ち良い」

 一切の装飾無く漏れた俺の心地良さそうな声に百合は気を良くしたのか、お掃除フェラの甲斐甲斐しさを増す。首の振りなどは至極ゆっくりで、それでいて口の中では舌がにゅるにゅると巻き付く。

「百合、ちょっとそのまま吸って。ザーメン残ってっかも」

 百合は首の動きを止めると、頬を凹ませて、じゅるじゅるじゅると音を立てて吸った。尿道に残っていた精液が吸い上げられていくのがわかる。

「あぁ……」

 背筋がゾクゾクと震え、思わず喜悦の声が漏れた。

 つい癖で、丁寧なフェラチオをしてくれる女性に対する敬意として、頬を優しく撫でる行為を百合にもしてしまう。百合はそれに対して特に反応は無く、吸引を終えても陰茎を咥えたまま、こくりと喉を鳴らして当然のように俺の精液を嚥下した。そして咥えたまま、「まられほう?」と尋ねた。

 まだ出そう、と聞いたらしい。

「もう全部吸いつくされたよ……ありがとな」

 俺がそう言うと、百合は再び陰茎を慰労するかのように、ゆっくり唇を上下に這わせながら、くちゅくちゅと水音を鳴らした。ふやけそうなほどそれを続けると、百合は男根から口を離した。

 唾液が俺の睾丸からアナルの方までべっとりと垂れており、百合はそれを舌で拭うように顔を下げていく。睾丸を濡らす唾液を舌で舐め取ると、はむっと口に咥え、ころころと優しく舌で転がす。

 俺は膝を曲げて、先程までの百合の体勢と同じく両脚をM字に開くと、ビーズクッションに少し浅めに腰掛けて、背中を深く預けた。

 俺が何を言わずとも、百合は躊躇も抵抗も一切見せず、唾液が垂れていた俺のアナルを舐め始めた。

 あの白雪百合が男のケツの穴を舐めていると言って信じる奴は、この街には一人として居ないだろうなと、彼女の舌と唇をアナルで感じながら思った。

 実際フェラチオですら男尊女卑的だと嫌悪していたのだ。男である前に友である俺以外には、将来伴侶になった男でも拒否するだろう。

「それ続けて」

 俺がぶっきらぼうに言うと、「……ん」という吐息のような返事と共に、四つん這いから腹ばいに体勢を変え、より低い位置から舐めやすいようにやや傾いて俺の臀部に顔を密着させた。

 ちゅう、と音を立ててアナルに深く口づけすると、レロレロとしっかりした舌遣いで舐め上げる。

 時々鈴口にやるように、舌先でグリグリ突いたりと、百合なりに試行錯誤をしながらアナル舐めを続ける。たまに百合の鼻や吐息が睾丸に当たりくすぐったい。

 最初は唾液を舐め取る為のアナル舐めだったが、今では唾液を塗りたくるのが目的のように舌の腹全体を押し付け、ちゅう、ちゅう、と吸うようにキスを続ける。

 百合の唇や舌、そして唾液でアナルがじんわり熱くなり、頭がふわふわと浮遊感を覚え始めた頃に携帯が鳴る。

 遊馬からのメッセージだった。

『さっきは急な電話でごめん。改めてお礼を述べておきたかった。これからも百合さんの事で相談させてもらうかも』

 百合の唇が軽快に、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と俺のアナルを啄む中、返信の文字を打つ。

『任せとけよ。百合にデートの話をしたらちゃんと考えてたぞ』

 まさか牛丼屋で良いと言っていたとは言えない。 

 百合の舌先がグリグリとアナルを押し広げようとする勢いで突いてくる中、返信はすぐに来た。

『本当に? だったら凄く嬉しいよ』

 百合の薄くもプルプルな唇がむぎゅっと強くアナルに押し付けられ、一際強くちゅうちゅうと吸われる。

 百合は腰をモジモジとさせていたし、俺も再びギンギンに勃起して我慢汁を垂らしていた。

 百合が唇をアナルに触れ合わせたまま問い掛けてくる。吐息が直接アナルをくすぐった。

「……なぁ京助。マジで泊まってったらダメ?」

「ダメだっつってんだろ」

「ケチくせーな」

 俺を非難するように、ぐりゅ、ぐりゅ、と舌の腹全体を強く押し付ける攻撃的な舐め方をする。その責めは俺の背筋を痺れさせた。

「さっきまで処女だった癖に欲求不満かよ」

 俺は遊馬に返事を打ちながら、親しみを込めて小馬鹿にした。百合は心外とばかりに即答した。

「ちげーよ馬鹿。アタシなら三回以上連続で京助の相手しても余裕だっつってんの」

 つまりフェラチオの深度に続いてまたしても、自分が記録を更新してみせる、という事なのだろう。当然俺の昔の女への対抗意識などではない。その瞳に灯る炎はパンチングマシーンを前にした時のそれである。

「オマエはセックスを腕相撲か何かと勘違いしてる節があるな」

 百合が鼻で笑う。その吐息もアナルをくすぐった。

「実際アタシと京助のエッチってそういうもんじゃん?」

「じゃあ無理矢理にでも家には帰すけど、俺が良いって言うまでそのままケツの穴舐め続けたら、あと一回だけちんこハメてやるって言ったらどうする?」

 俺は遊馬への返事を悩みながら言葉を返す。

 百合は返事代わりと言わんばかりに、その艶やかな唇を冗談っぽく突き出すと、普段通りの威勢で、勢い強くむちゅう、とアナルを唇で押し潰すようなキスをした。

「相棒相手に二言はねーよな?」

「おう。でも俺が良いって言うまで舐め続けてろよ」

 やはり百合は返事代わりと言わんばかりに、より顔を密着させて、舌先で円を描くようにアナルを舐め始める。その舌遣いには一層熱が籠っていた。

 遊馬への返事は散々迷った挙句、『段取り決まったらまたこっちから連絡する』とだけに留めた。携帯を脇に放り投げると、くちゅくちゅレロレロとアナルを舐めている百合に声を掛ける。

「体位くらいは選ばせてやるよ。普通に正常位か、それとも騎乗位でそっちに主導権与えて攻めさせてやってもいいぜ?」

「余裕ぶっこきやがって。ちょっと考えさせろ」

 騎乗位で主導権云々は、百合にとってもそそる条件だったみたいで、暫くアナルにちゅっちゅとキスしながら、ぶつぶつと考え込んでいた。

「ハメられたら一方的にヤラれるのはいい加減ムカついてきたからな。やっぱりここは一発アタシが攻勢に……いやでも騎乗位なんてやり方知らねーしなぁ……」

 結局百合が出した結論は、「……バックで」だった。

「また雌犬にされてーの?」

「うるせぇ。黙ってケツの穴舐められてろ」

 俺がくつくつ笑いながら問うと、百合は売り言葉に買い言葉といった様子で吐き捨てながらも、舌の腹全体をしっかり押し付けるように、ねっとりとアナルを舐め上げてくるのであった。

 そして不敵な笑みを浮かべると、やはりゲームで勝負をするかのような気安い眼差しと声色で言う。

「京助に後ろからガンガン突かれても真顔でいられないと、京助のちんぽに勝てたって言えねーからな」

 それからは、それこそアナルがふやけるほどに長い間舐めさせた後、ご褒美としてバックでキャンキャン鳴かせてやった。

 と、一言で済ませるのも味気無いので、その時の顛末をなるべく事細かに記しておく。

 百合は俺が携帯で動画を見ていても、文句一つ漏らさず丹念にアナルを舐め続けていた。

 そろそろ良いかと百合の後頭部を撫で、「ヤルか?」と尋ねると、百合は一瞬の間を置いて、ちゅう、と愛らしい音を立ててアナルに吸い付いてから顔を上げた。

 口元を拭いながら浮かべるその獰猛な笑みには、リベンジに燃える喧嘩屋の気迫が満ち満ちていた。

「四つん這いになれよ」

 俺の指示に従い、腰を向けるように四つん這いになりながらも、「次こそはぜってー勝つ」と静かに決意を口にしていた。

「何と戦ってんだオマエは」

「そりゃ京助のちんぽだろ」

 俺がゴムを装着しながら鼻で笑うと百合も釣られて同じように笑う。やがてあまりにも馬鹿馬鹿しくて二人で声を上げて笑い合った。

 今からセックスをするというのに、本当に腕相撲やらパンチングマシーンに興じるかのような雰囲気だ。

 惜しげもなく突き上げられた桃尻は相変わらずその豊かな肉感と曲線美で、否応なく、それこそ色気のいの字も無い空気の中でも雄の衝動を暴走させるように煽る。ゴムを纏った肉槍が武者震いするようにビクビクと上下に震えた。

 百合のまだまだ純真無垢な陰唇はくぱぁと左右に開き、桃色の膣口はてらてらと期待で濡れそぼっている。内腿には愛液が垂れた痕跡もあった。

 百合のアナルは色素の沈着や皺の一つも無くあまりに綺麗だったので、お返しというわけではないがそれに口づけしながら笑う。

「ケツの穴舐めながら濡れてたんか? そんなオマエにしばかれてきた男達が不憫だな」

 百合の顔がかぁっと熱くなったのがわかった。おそらく耳まで真っ赤に染めただろう。両手でシーツをギュウっと握りしめもした。しかしそれは恥辱の所為だけではない。

 俺が続けて、百合のアナルを舐め上げると、「……んっ」と吐息を漏らしながら、背中をビクンと震わせた。そのまま百合のアナルに口づけを数度繰り返す。すると消え入りそうなか細い声で喘いだ。

「……やっ……ん」

 更にシーツを強く握りしめると、「……そんな奴に負ける、弱っちい男がわりーんだよ」と辛辣な口調で吐き捨てた。しかし俺がアナルに舌の腹を押し付けると、「はぅっ♡」と切なそうな声を上げ、腰をもじもじと揺らした。

「このまま一回イかせてやろうか?」

 くちゅくちゅとやや粗暴に百合のアナルを舌で愛撫しながら聞くと、百合に掴まれたシーツが更に乱れた。

「……んっ……くぅ……はぁっ……あぁ……♡」

 百合の呼吸が浅くなる。膣口はもどかしそうにひくつき、俺の唾液とは明らかに別の透明の液体が、とろりと太股に垂れていった。

「……きょ、京助っ……♡」

「ん?」

 舌先でぐりぐりと責めながらとぼけるように相槌を打つ。

「……ほ、ほしい……♡」

 聞こえなかったかのように、続けてアナルをぐりぐりと突くと、百合は肩を落としながらグっと背中を反らせて腰を突き上げた。太股は切なそうに内側にきゅっと閉じていく。

「……京助のおちんちんで、おまんこの方可愛がってほしいっつってんだよ馬鹿っ!」

 百合は若干キレ気味に、それでも可愛らしい声色で一気に捲し立てた。

 俺がくつくつ笑いながら身体を起こし、挿入の体勢に入ると、百合は呆れともどかしい快楽が混ざったような口調で言う。

「……ベッドの上の京助が、こんなやらしい野郎だとは思わなかった」

「いつかこっちもちんぽ穴にしてやろうか?」

 俺が親指の腹でアナルを撫で回しながら尋ねると、「挿入るか馬鹿! テメーの茄子みてーなちんぽ見てモノ言えっ!」と笑いながら啖呵を切った。

 確かに俺のは長さもさることながら太さにも自信がある。なので誰でもというわけではないが、アナルセックスは経験があった。しかしそれを言うとまた百合が変な対抗意識というか、強い自分をアピールしたがってきそうなので、面倒だから黙っておいた。

 アナルセックスが成功した女の中には、結構高慢で上から目線の年上女が居た。そいつは翌日から普段の『京助』呼びから、しおらしい感じで『京助君』に変わったのだ。万が一百合にそんな変化が起こっても気色が悪いので、やっぱりこれ以上は触れないようにしておこう。いやしかし、百合の雌度を上げる為の手段としては無くはないのか。

 などと上の空で考えていると、いつの間にか俺はバックで挿入して腰を振っていて、百合は既にアへっていた。

「ひぃっ♡ ひっ♡ いっ、いんっ♡ あっ、ひぃっ♡」

「おいおいどうしたー? ちんぽに勝つんじゃねーのか?」

 俺の雑な挑発に、百合は気丈にも無理矢理鼻で笑った。

「……し、心配すんなって……まだまだ、余裕だからよ……」

 パンパンと腰を振る。

「あっいっ♡ イクっ、イクっ♡」

 百合の背中が反り返り、腰と太股がガクガクと激しい痙攣を見せた。

 本来ならば俺が両手でがっしり掴んで持ち上げないと、その腰を上げ続ける事すら叶わないほどに弛緩していた。どうやら俺が考え事をしながら腰を振っている間に、何度も立て続けに絶頂していたようだ。

 しかし俺の両手は軽く腰を掴む程度なのに、それでも百合の腰はへたり込む事は無かった。

 勃起した俺の男根は、まさに角のように反り返る。強度も申し分ない。根本まで挿入したそれはフック代わりとなり、百合の腰を貫き支え、腰を落とす事を許さなかった。

 普通なら射精の度に多少は弱体化していく男根だが、皮肉にも百合の顔立ちや肢体、そして普段とのギャップが荒々しさを一切衰えさせない。

「おら、腰下がってるぞ」

 そのフックで百合の桃尻を持ち上げる。

「あぁっ、ひっ♡」

 百合の膝はもうガクガクと笑いっぱなしだ。

「はぁっ、はぁっ♡ やぁっ、あっ♡ ひぃっ、いっ♡」 

「そのざまでちゃんと自分の足で帰れるのか? それとも俺におぶられる情けない姿を衆目に晒すか? 修羅百合姫さんよ」

「……よ、余計な心配してんじゃねーっつうの……反復横跳びしながら帰ってやるよ……」

 百合はひぃひぃと酸欠めいたよがり方をしていたが、大きく息を吸い、口調だけは威勢良く応えた。

 とはいえ、これ以上責めると本当に百合の足腰が立たなくなりそうだった。

 嫁入り前の娘を、一応は男である俺の家に泊まらせるのは親父さんや遊馬に悪い。今までも山奥の廃棄場で夜空が白むまで乱闘していた事はあったが、それとこれとは事情が違う。

 ちなみにその時の百合の修羅っぷりは、改めてこいつが味方で良かったと思うほどの最強無敵ぶりだった。凶器を振りかざすチンピラ達は勿論、途中で乱入してきた野犬の群れまでも難なくその拳足で撃退したのだ。

 そんな百合も今は、四つん這いで俺の肉槍をずっぽり奥まで挿入され、雌犬としてあひあひ喘いでいるのだから、人生どうなるかわからないものである。

 とにかく俺もなるべく早く射精を迎えられるように考える。

 抜いて自分で扱くか?

 論外だ。百合は俺とのセックスを、勝負めいた行為だと考えている節がある。互いを最強だと認め合いながらも実際は拳を交える事が無い俺達の、疑似的な決闘。なのに二重の意味で露骨に手抜きをされてしまっては、百合も立つ瀬が無いだろう。

 ゴム越しでも伝わる、百合の粒々した膣壁。これだ、と思った。

「なぁ百合。もうオマエのおまんこ気持ち良すぎて我慢出来ねーからさ、ちょっとだけ生で挿入れていいか? 多分すぐイクから、速攻で抜いて外で出すからよ」

 俺はもう我慢がならないといった様子を多少大袈裟に演じながら口にする。実際気兼ねが要らない百合とのセックスは他に類を見ないほど気持ちが良い。身体の相性など言うまでも無く抜群だ。

 本当に一瞬だけ生挿入して、気持ち良すぎて射精しそうだと申告して引き抜き、そして手で思いっきり扱けば良い。百合も多少は勝ち誇れるだろう。

 問題は百合が安全日の確証も無いのに生挿入を許すかどうかである。その辺の貞操観念、というよりかは、筋や責任はしっかりとしてる奴だ。

 雌犬としてトロトロに蕩け切った意識と身体の中で、百合はそんな浮ついた快楽や雰囲気に流されまいと決意するように、強く生唾を飲み込んだ。

 百合は確たる口調で忠告するように宣言する。

「ちゃんと外で射精せよ」

 とは言わなかった。彼女は確固たる覚悟を伴った口調でこう言った。

「孕んだらきっちり産んで、きっちり育てるからな」

 あくまで客観的な意見だが、俺は百合をイイ女だなと改めて思った。勿論見た目の話じゃない。

 男任せにせず、受け入れるのであれば、自ら責任を負う。

 そんな百合が俺だったらと生挿入を許す事に、揺るぎようがない絶大な信頼を感じて俺の雄が雄叫びを上げる。浅知恵の結果ではなく、心の底からこいつを生の性器で貫きたいという衝動に駆られる。

 引き抜いた男根からゴムを外しながら言う。

「心配すんな。親友のオマエを、惚れた男以外の種で孕ませたりしねーよ」

「まぁある意味、京助の拳には惚れ込んでっからな。暴発しちまっても許してやんよ」

 繁殖欲を煽りに煽る安産型のむっちりした桃尻と、ぱっくり開いた膣口の奥に見える粒々でヌメヌメとした肉壁を前にして、冗談でも暴発を許可されると肉角は痛みを覚えるほどにギチギチと昂った。

「んな事言ってっと本当に暴発するぞ」

 百合はくつくつ笑い、冗談っぽく言葉を続ける。

「しちまえしちまえ。そん時はガキの名前も考えとけよ。ちゃんと男の子と女の子それぞれのな」

 生の亀頭を膣口に押し当てる。あれだけ気性の荒い百合でも陰唇はふんわり柔らかく、亀頭にディープキスをするように包み込む。軽く腰に力を込めるだけで、いとも容易くむにゅりと俺を呑み込んでくれそうだった。そして実際、その予想よりも遥かに柔らかく形を変えて呑み込んでくれた。

 俺と百合は、まるでそうなっているのが自然だと言わんばかりに、何の隔たりも無く一つになった。

 百合の体温が直接伝わる。頭の中がハチミツでじんわりと満たされていくような感覚に囚われる。

 今まで生セックスなど数え切れないほどしてきた。その中には焦がれるように恋をした女も居た。

 しかしこんな幸福感で満たされたのは初めてだった。

 恋愛とは時に信頼の真裏に位置する。相手の気持ちに不安になったり、疑ってしまったり。

 しかし俺と百合は文字通り、信じて頼り合った。それはきっと俺達が互いに何の見返りも求めていなかったからだろう。百合が倒れないなら、俺も倒れるわけにはいかないという対抗心すら抱いていた。

 百合も同じ感覚に包まれているのが、生で繋がった体温と共に伝わる。

「……京助がめっちゃ熱い。それを直で感じ取れるのがなんか嬉しい」

 膣壁をびっしりと覆う粒々が、ウネウネと遠慮無く俺を愛撫する。百合がほんの微かに背中や腰を揺らす動きでさえも、ざらざらとした摩擦感が俺に歯を食いしばらせるほどの快感を与えてくる。

 ただでさえ連続した絶頂を味わっていた百合は、生挿入を果たした時点で緩やかに達していたようだった。膣壺が蠕動するように絡みついてくる。まるでこの壺そのものが、射精を求める生き物のようだった。

 俺の男根も負けてはおらず、ガチガチと雄々しさを増していき、より強く、逞しく百合を貫こうとする。

 百合の中は熱めの風呂のような心地良さだったが、俺の角はまさに熱した鉄のようだった。

 百合がふわふわした浮遊感を漂う中、とろんとした声色で言う。

「……すげぇ……生のおちんちん、マジで熱い…………冗談抜きでまんこ火傷しそう」

 根本まで突き刺した百合の下腹部を中心に、百合の全身がカァっと熱を帯びていく。

「……抜いた方が良いか?」

 返事代わりに百合は自ら腰を押し付けてくる。その所作は妙にいじらしかった。

「……生ハメやばすぎ……このままずっと京助の生ちんぽに貫かれてたい……」

「残念ながらそれは無理だな。百合の生まんこ、気持ち良すぎてマジで暴発しそうだわ」

 百合の両手がぎゅうっとシーツを握り、同時に膣がぎゅうっと俺を締め付けた。

 もう頭の中はハチミツでいっぱいで、耳から垂れているような気さえした。男根はもはや射精欲だけで構築され、いつ破裂してもおかしくない。

 百合に関してはもうずっと恍惚の最高潮で、フワフワと宙を舞っているのがわかる。そんな中、にんまりと口元を緩ませているのが丸わかりな、嬉しそうな声色で言った。

「……やっとガツンと一発喰らわせられたって感じ?」

「ああ。顎に良いの貰っちまった。クラクラしてるわ」

「……さっきは冗談っぽく言ったけどさ、やっぱりアタシ、京助の精子で孕むなら普通に嬉しいからな?」

 セックスで一矢報いた事に満足したのか、色んな糸が切れたように弛緩した百合が放った言葉が、俺にトドメを刺した。ただでさえ雄の本懐を強烈に誘発する桃尻を、ぎゅうっと押し付けながらそんな事を言う。

 声音は掠れているものの、口調そのものは普段の百合そのままだった。

 女でも雌でもなく、俺の相棒として宣言する。

「……だからさ、京助が望むなら、このままガキ仕込んでいいぜ? つうか仕込んでほしい、みたいな?」

 俺の頭上のどこかで、ぷつんと何かが切れたのが聞こえた。

 俺は間一髪で腰を引くと、桃尻から解放された肉角が上下に暴れながら精液を撒き散らかした。

 百合の泡立った愛液を纏い、百合の体温で直に温められ、百合の粒々で愛でられた陰茎は、今日一番濃いゼリー状の塊をビュッビュッ、ビュッビュッと百合の背中を染めていった。

 ある程度出しきり、鈴口からだらだらと糸を引くように、百合の臀部に精液を垂らしながら、俺は言う。

「……それはちゃんと惚れた男に仕込んでもらえ。拳だとか気概に対してじゃなくて、ちゃんとオマエのハートが惚れこんだ男にな」

「ふふ……なんかカッケー事言うじゃん……てかやっぱり溶岩みてーに熱いな……京助のザーメン」

 それから俺達は無言且つ体勢はそのまま、大乱闘を戦い切ったかのような息遣いと発汗の熱気の中で余韻に浸っていた。

 暫くすると百合が振り向き、四つん這いのままヒクつく俺の生ちんぽに舌を這わせだした。

 その場の雰囲気や、快楽に流されて俺にあんな事を言ったわけじゃないのはわかっている。あれも一つの本音なのだと思うし、恋慕ではなく尊敬や信頼による子作りの形があってもいいと思う。

 それでも俺は、唯一無二の戦友にだけは、熱い友情ではなく甘い恋愛の先で新しい家族を作ってほしい。

 そう願いつつ、咥えた男根に舌を這わせながら、ちゅうちゅうと吸引する百合の頭を撫でるのであった。

 約束通り、再び百合の家に戻る。その帰り道。

 街灯も無く、人の気配が全く無い夜道だが、心細さなど感じるはずもない。

 夜風が俺達を撫でるように吹いた。

 俺の少し前を歩いていた百合が手を組んで背筋を伸ばす。

「冷たい風が超気持ち~」

 百合の言う通り、全力で殴り合うかのように肌を重ねた俺達にとって、その風が運ぶ清涼感は恵みの冷気だった。

 百合はくるりと振り返ると、花火大会から帰る少年を連想させる無邪気な笑顔を浮かべた。

「こんな熱くなったの初めてじゃね?」

 心底楽しそうに俺に同意を求める。

「ああ。なんつっても相手が相手だからな。文句無しに最強だったわ」

 その言葉に百合は、「……へへ」と余計嬉しそうに頬を緩ませて、拳を突き出してきた。それにこつんと拳を突き合わせる。

「アタシも今晩の相手が断トツで最強だった。悔しいけど歯が立たなかったしな」

 悔しいという気持ちは本音だろうし、俺が力強かった事が嬉しくて堪らないといった様子だ。

「ちょっと足震えてねーか?」

「ちょいガクガクになってる。今チンピラ達に襲われたらちょいピンチかもな」

 そんな事を話していると、俺達の隣をバンが横切る。

 一瞬身構えたが、何も起こらずそのまま通り過ぎていった。

 昔なら夜道を歩いていたら突然目の前に車が止まり、凶器を持ったチンピラがワラワラと出てきて一斉に襲い掛かってくるなんて日常茶飯事だった。しかし最近はそんな事もめっきりとなくなった。俺達の常軌を逸した強さは相手をうんざりさせ、立ち向かう気さえ萎えさせていた。

 平穏を望んでいたはずの俺も、風通しの良くなりすぎた胸の奥に少し物寂しさを感じる。何だかんだで、あの血沸き肉躍る熱狂の渦を楽しんでいたのだろうか。

 今となって思えば、百合と重ね続け、守り合っていた背中は、常に更なる強敵を望んでいた気がする。百合と一緒に乗り越える壁を欲していた。

 しかし今日はお互いを、自らの衝動をぶつけ合う好敵手として思う存分に力を振るい合った。

 そして百合も言うように、今までで最も燃え滾った。世界で一番と認める強者と、紛う事無き真剣勝負を交わした。その熱気は今も俺と百合を酔わせている。

 百合は一瞬立ち止まり背伸びをすると、ちゅっ、と素早くキスをしてきた。

 そしてやはり少年のような笑みを浮かべる。そこには男だの女だのを感じさせる他意は一切見られず、ただただ純粋な友情で溢れんばかりだった。

「次はぜってー勝つから」

「足腰フラついてんぞ」

 百合の足取りは実際どこか頼りなかった。それでも気張って俺の少し前を歩こうとする。相棒の前で情けない姿は見せたくないという強がりだろう。

「でも三回以上京助に抱かれて、まともに歩いて帰れた奴は今までいねーんだろ?」

 百合はそう言って得意気に笑みを浮かべる。

「まぁな。でも別に驚きはしねーし褒めもしねーよ。百合がそれくらいで屈するヤワな野郎じゃねーってのは、この世界で誰よりも俺が知ってんだからな」

 褒めはしないと言ったし実際そのつもりもなかったが、百合にとってはそれが最上級の賛辞だったようだ。

 肩をぶるぶると震わせ、口元を波打つようにニマニマさせた。再び「へへっ」という笑い声と共に、素早く爪先を伸ばして唇で唇を啄んでくる。

 それから少し離れて両手を後ろで組み、やや前傾姿勢となり、屈託の無い満面の笑みで俺を見上げてくる。

「アタシ以上の相棒なんて見つかんねーぞ? なんつってもケツの穴舐め合った仲だからな」

「わぁってるよ」

 今度は俺から肩を落としてやると、百合は顎を上げて、ゆっくり瞼を閉じていった。

 ちゅう、と深めに唇を吸い合うと、唇を密着させたままお互い口を半開きにさせる。先程やった拳の突き合いのように、舌先をつんつんと突き合った。そして少しだけ、くちゅくちゅと舌を巻き付かせる。

 すっと顔を離すと、あっけらかんとした様子で「そんじゃ、ここまででいいから」と百合が言う。

挿絵5

「じゃな」

「おう」

 味気も素っ気もなく普段通りに、さっぱりとした空気で別れる。

 百合が曲がり角を曲がるまで見届けようとしたが、百合はそこで一旦足を止めて、トテテテと小走りで俺に近づくと、もう一回背伸びをしてちゅっちゅと二回キスをしてきた。

 再び曲がり角まで小走りで戻っていくと、小さく手を振りながら、「また遊ぼうぜ」と、友達との別れを名残惜しむように笑って姿を消した。

 彼女が曲がり角の先にある自宅の玄関を開けて、帰宅する足音を確認してから踵を返す。

 喧嘩もセックスも、俺達にとっては結局のところは遊びなのだ。だから楽しいし、気持ちも良い。

 しかしいつまでも遊んではいられない。俺達はいつか大人になる。でもそのいつかはわからない。

そんな直前に迫ってはいないし、遠い未来のようにも思える。それでも、そのいつかは必ず訪れる。

 街灯の無い道は真っ暗で一寸先も見えないが、心細くはない。もう俺の背中には一生消える事が無い、戦友との熱い日々の記憶が刻まれているのだから。

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