カバー

ちょいギャルの恋愛指導で親友ックス!!

土屋巧は空気でぼっちの無愛想な一生徒。そんな彼にも「ツッチー」と気さくに笑顔で話し掛けてくるちょいギャル美少女・鈴音真理。二人は些細なきっかけから親友同士になった。幼少時のほろ苦い記憶から他人に興味が持てずにいた土屋だが、ただ一人だけ心を動かされる人がいる。それは行きつけの書店で働く『三つ葉ちゃん』。本名も知らない彼女に何も出来ない状況を鈴音に相談すると、ハイスペックな彼氏持ちの恋愛強者な彼女から告白の練習を勧められる。しかし練習するも中々自信が付かない土屋。そこで鈴音は『恋人になった後』のイメージを持たせて奮起させようと、より親密な特訓を提案する――。

話題の著者・懺悔による『トモハメ』ワールド
新作完全書き下ろし!

  • 著者:懺悔
  • イラスト:ポチョムキン
  • 本体価格:1,200円+税
  • ISBN:978-4-8155-6511-4
  • 発売日:2019/2/28
口絵

タイトルをクリックで展開

 この世の生きとし生けるもの全てに、生命を全うする場所が割り振られている。

 淡水魚を海に放り込めばいずれ死に至るように、魚類という括りで生態を一纏めにする事は不可能だ。

 それは僕達人類も同様のはずだと思うのだけれど、同じ年に生まれたというだけで、一日の大半を同じ空間で過ごす事を強要される。まぁ確かに死にはしないが、それでもやはり少々乱暴なシステムなのではないかと思う。

学校という一つの社会の中で遊泳するのは、川魚や海魚だけではない。奇怪な深海魚や獰猛な鮫と対峙する事も珍しくはない。

 そんな一種の異文化コミュニケーションは価値観に多様性を与えてくれるだろうし、社会という大海原へと巣立った際に必要な対人能力を、効率的に習得出来る場である事は否めない。

 それでも正直な話、やはり息苦しい。

 同じ時代の同じ地域に生まれ育ったはずなのに、まるで異星人のように思えてしまう同級生は少なくない。向こうもきっと、僕のことをそう思っているだろう。

 午前の最後の授業が終わると同時に一人で図書室に向かおうとする僕のクラスでの立ち位置は、説明するまでもない。

 窓際の席から教室を横断していくと、廊下側の席に座る一人の女子の周囲には数人の男女が集まっていた。表情に乏しい僕とは逆に、飾り気の無い笑顔と言動は同性異性関係無く人を引き寄せていた。

「真理~? あんたさっきの授業、ちょっと眠そうだったじゃん? 昨晩は彼氏とお楽しみか~オイ?」

 彼女に声を掛けた女子からは、気安い口を利きながらも自分もこう在りたいという憧憬の念を感じる。彼女の異性を感じさせないサバサバした雰囲気は、男女共に距離感を近くさせる。しかし、男子達の眼差しの奥には明らかに彼女の外見に魅了された下心を感じる。

 そんな彼らの傍を通り過ぎても、僕の存在に気付く者は居ない。一人を除いて。

 彼女だけが、談笑しながらも僕を一瞥すると「友達に借りたDVDが面白くてさ~」と返答していた。

 僕はそのまま教室を出て図書室に向かった。

 人にはそれぞれ生きるに適した場所がある。物心が付いた時には、その哲学が僕に根付いていた。良く言えば他人を尊重している。悪く言えば度が過ぎた個人主義だ。

 けして人間が嫌いなわけではない。ただ周囲を見渡してみると、ストレスを感じてまで他人と交わらなくても良いだろうと思わざるを得ないケースが往々にしてある。

 人脈は広いに越した事はないだろうが、それを維持する面倒事を考えれば、損益は五分五分なのではないかと考えてしまう。

 ここまでが僕自身のぼっちを正当化する理論武装だ。

 元々孤独を嫌がらない性質というのは事実である。幼児の頃からそうだったと親が証言してくれる。

 ただし昔から友達が全く居なかったわけではないし、こんなひねくれた人間になったのも理由がある。

 それをトラウマと表現するには大袈裟なのかもしれない。もはや記憶もおぼろげだ。僕が屁理屈を用いてまで友達という関係を遠ざけ、学校では無味無臭の存在を心がけるようになった原因。

 読書を休止して、天井を仰ぐ。

「何だったかな……」

 幼稚園の砂場がぼんやりと浮かぶ。すると目の前が真っ暗になった。瞼が温かく、何やらすべすべしている。

「だーれだ」

 誰かが背後から両手で僕の目を塞いだらしい。

 学校では浮いているどころか、もはや空気と化している僕にこんな真似をする人間は一人しか居ない。

 しかし友達慣れしていない僕はこんな時にどういうリアクションを取るのが最適解なのか見当もつかない。なのでただ名前を返す、というおそらくは最もつまらない反応を示そうとすると、「あと五秒以内に返答が無ければ眉毛がむしり取られていきます」と楽しげな声が頭上から聞こえる。

「鈴音。それは勘弁してほしい」

「ちょっとツッチー。親友の名前くらい即答してよ。あたしも寂しいじゃん?」

 視界が開けると、僕の肩に何とも気さくに肘が置かれた。僕の顔のすぐ隣に彼女の顔が並ぶ。長い髪が僕の頬を撫でた。

「髪の毛当たってるんだけど」

 僕は視線を机に置いた本に向けたまま彼女にそう言う。すると彼女は毛先を摘まんで僕の口元に差し出した。

「おやつに一本どう? シャンプー変えたんだけどちょっとリンゴ味っぽくない?」

 勿論彼女のいつもの冗談だと理解している。

「タンパク質なら朝食に納豆を食べたから十分だよ」

 でも僕は自身の行動原理を曲げない。つまり、ウィットやユーモアを介さずに、ただ事実だけを簡潔に口にした。

 大多数の人は僕の口振りが冗談ではなく、ただの性質だとわかると離れていった。気取っていると思われるか、奇怪に思われるかのどちらかだった。

 しかし彼女はそれが面白いらしく、今も肩に置いた肘で僕の頬をぐりぐりしながら、「リンゴ味ならビタミンも入ってんじゃないの。ちょっと試してみてよ」と愉快げに口角を持ち上げていた。

「どうやったらその実験の成功を立証出来るのさ」

「明日にでもツッチーの肌がつるつるになる」

 そう笑う僕の唯一の友達を紹介しよう。

 鈴音真理。

 彼女は「にしし」と笑いながら肘で僕の頬を潰しながら、「何読んでんの? エロ本? エロ本か? ツッチーも男の子だねぇ。朴念仁だと思ってたのにそういうのに興味を持つ年頃だなんて、あたしも感慨深いなぁ」とニヤニヤしていた。

 このまま適当にあしらっておくと弄りが加速していく。僕はこの二年間で彼女との接し方がすっかり身に染みていた。

 肘を軽く払って彼女に向き直る。

「まずこれがいかがわしい本に見えるなら鈴音の頭は思春期を通り越して発情期だよ」

 そう言ってまずは僕が読んでる本の表紙を見せつけてから、更に言葉を続ける。

「あと僕は昔から性的な事には興味がある。むしろそっち方面の発育は早く、そして深い方だ」

 僕は真顔でそう言う。性に関心を持つのは当然の事なので恥ずかしがる必要は無い。彼女は前々から僕のそういう反応を好ましく思っているらしい。

「ツッチー巨乳派だもんね。マジうける」

 二年間というのは浅い歴史ではあるが、彼女とはまるで幼少の頃から親交があったかのように気心が知れている。

 鈴音が僕の差し出した本を手に取ると、ぱらぱらとページをめくってみせた。

「『脚本家への道』、ねぇ。この前は小道具について調べてたよね。良いなぁツッチーは。好きな事もやりたい事もはっきりしてて」

「まだ模索中だけどね。鈴音は?」

 僕が問い掛けると鈴音がそっと僕の前に本を置き直す。細かい所作の一つ一つに彼女の品の良さを感じる。ここが図書室だからきちんと声を抑えているところもそうだ。彼女はその言動から直感と本能に寄りかかった人間に見えるが、実際は非常に理知的で合理的だ。

「とりあえず進学かなってくらい」

「折角勉強は出来るんだから上の方狙ったら?」

 鈴音は学校の勉強に限らずだが、何でもそつなくこなす要領の良さがある。逆に、何か一つにのめりこんだ事が無いらしい。

「はっきりした目的も無いのに勉強頑張れるほど勤勉な人間じゃないよ」

 彼女は僕の隣席に腰を下ろすと、軟体動物のように脱力して机にへばりついた。その状態で顔だけこちらに向ける。

「ツッチー今日暇? 新しいレジャー施設みたいなの出来てたじゃん。急遽あそこの招待券みたいなの貰っちゃってさ。二人分なんだけど」

「いつもの友達は?」

「皆合コン」

「鈴音もそっち行けばいいのに」

「あたし彼氏居る時は絶対行かないようにしてるから」

「じゃあその堂島さんと遊びに行けばいい」

 堂島さんとは鈴音の恋人である。僕らの三つ年上で、男の僕から見ても洗練された人だ。

 細身で上背のあるスタイルはシックな色のカーディガンやジャケットがいつも似合っている。名前は知らないけれど小洒落たフォルムの車にも乗っている。

 鈴音には親友として紹介され、何度か話した事もある。とても爽やか且つ謙虚な物腰で教養もある。

 外見中身と共に、鈴音と彼が並んで歩いていると、まさに映画のワンシーンのように画になる。王子様とお姫様。最高級の花瓶に生けられた高嶺の花のようだ。

「今日は都合が悪いんだってさ」

「鈴音と堂島さんももう一年以上になるね」

「だね。マジで光陰君は矢の如しだね。見直したよ光陰君。オリンピック出れば良いのに」

「最初の頃は結構緊張してたよね。堂島さんとデートする時とか」

 付き合い始めの頃は冗談半分で「ツッチー、一緒にデートついてきてよ」と提案された事もあった。鈴音はその外見や内面から、恋愛経験はそれなりにあったと思うのだが、堂島さんは僕から見てもスタイリッシュな大人の男性なので、彼女がそうなるのもわからないでもなかった。しかし、今ではもうすっかり慣れ親しんで、普通に仲睦まじい恋人関係を築けているようだ。

「そんな可愛げのある時もありましたねぇ。今では緊張感皆無だけど」

 そして鈴音は机に突っ伏したまま僕の袖をちょこんと摘まむと、微笑みを浮かべながら僕を視線だけで見上げた。

「……あん時はあんがとね。ツッチーの応援、マジで心強かったよ」

 一年前。僕は初めて友達の恋愛相談というイベントを経験した。と言っても僕はひたすら彼女の背中を押しただけだった。

 鈴音はどこに出しても魅力的な女性である事は間違いなかったし、勝算の高い戦いだとわかっていたので気が楽だった。彼女に言い寄られて拒絶出来る人間は、僕以外にはそうそう居ないだろう。

 彼女はくすくすと思い出し笑いをしながら、僕の袖を軽く引っ張った。

「あの時のツッチーの応援の仕方、未だに笑っちゃうんだけど」

「心外だな。特におかしな事言った覚えはないんだけど」

「『鈴音は客観的に見たら顔の造形は校内でも指折りに整ってるし、性格も一緒に居て心地良いからまず大丈夫だと思うよ』って言いました」

「何も問題無いじゃないか。我ながら満点の声援だと思うんだけど」

 鈴音は上体を起こして、ニヤニヤしながら僕の頬を両手で優しくつねった。

「その直後に、『まぁ僕は全くタイプじゃないけど』って真顔で言ってくれちゃったよね?」

「事実だから仕方無いだろう」

 彼女は満面の笑みを咲かせると、僕の額に撫でるようなチョップを振り落とした。

「そこは嘘でも『僕も可愛いと思ってた』って言うとこでしょ」

「もし次があれば善処するよ」

「で、今日暇?」

「残念だけど予定ある」

「ちぇー。しょうがない。ママと行こうかな」

 鈴音は立ち上がると僕の真後ろに立ち、肩を揉みながらぼやく。

「あーあー勿体無いなー。あたしの水着姿見れたのになー」

「『僕も鈴音の水着姿は可愛いと思っていたから残念だなぁ』」

「それ善処したの?」

「早速適用してみた」

 鈴音は「あはは」と楽しげに笑いながら、背後から僕の肩をぽんぽん叩き、「ま、夏になったらマジで一緒に行こうよ。最後の夏休みだしさ」と言い残して図書室を去っていった。

 彼女が居なくなると、途端に室内が味気無い空気で充満した。

 それに加え、僕への冷たい視線をいくつか感じる。それのどれもが男子からの嫉妬の視線だ。

 鈴音がいくら誰とでも分け隔てなく接すると言っても、それはあくまで世間話程度の事である。

 奔放に見える彼女も育ちの良さのおかげか、もしくは彼女本来の性質なのか、異性に対する身持ちは平均以上に固い。

 それが僕に対してのみ、まるで姉弟のように気軽に身体に触れてくる。

 校外からも待ち伏せで告白されるほどの鈴音が、校内でも連絡網への記載を忘れられるほどの僕に、である。

 そこに恋愛が絡んでいないのは傍から見ても明らかなので、他の男子のやっかみはどうにか殺意の手前で留まってくれている。

 恋人である堂島さん相手でもここまで気軽にボディタッチをしないようなので、僕と彼女の距離感はある意味恋人以上に近いと言える。勿論それは僕が彼女にとって特別な男だからではない。むしろ逆だ。

 僕は彼女にとって最も『特別』から遠い存在なのだ。

 それを説明するには彼女との馴れ初めから語る必要がある。

 彼女とは、この学校に入学して同じクラスとなり、夏休み明けの席替えで隣になった事がきっかけで話をするようになった。机を隣に運んで席に着いた時に、彼女は開口一番に僕の事を「ツッチー。よろしくね」とあだ名で呼んできたのだ。

 僕が提唱する『人には生息地に隔たりがある』という持論が更に確度を増した瞬間だった。

「ツッチーって何?」

 僕の問いに、彼女は不思議そうに小首を傾げた。

「何って。土屋君なんだからそりゃツッチーでしょ」

 何を隠そう僕と彼女が初めて会話をしたのがこの時だった。なのにさも当然のようにそう言う彼女はやはり僕とは住む世界が違う。

 しかしその馴れ馴れしさが不快に感じないのは、きっと彼女が僕とは違い、他人を見る目に生息地の違いなどというフィルターを通していないからだと今にして思う。

 彼女が属する主な交友関係は所謂ギャルと呼ばれる人種で構成されており、その中でも彼女達はより洗練された風貌や格を有していて、校内のヒエラルキーでは間違いなく最上に位置していた。更に鈴音真理はそのグループの中でも一目置かれる存在のように見えた。

 有り体に言うと、彼女はとても可憐だったのだ。目尻が微かに垂れる大きな瞳はどこか大人びて妖艶にも見える。そんな若干青さも残す色香は目鼻立ちだけに留まらない。

 指はすらりと細く長く、手を振るだけで様になる。彼女の髪が振り撒く香りは明らかに他の女子と一線を画し、フェロモンと呼ばれる何かを振り撒いているとしか思えない。

 中肉中背だがとてもスタイルが良いらしい、と男子トイレで同級生が鼻息を荒くしているのを聞いた事もある。

 しかし彼女の本質的な魅力は容貌ではない。

 彼女はとにかく誰に対しても自然体なのだ。自身を全く飾らない。

 基本的に人間が好きなのだろう。もっと言うとコミュニケーションが好きなのだ。

 色んな人の色んな思想や嗜好に触れ合い、自身が変化や成長を遂げるのを無自覚に楽しんでいるのではないか、というような事を彼女に言うと、「いや、ただお喋りしたいだけだけど」とカラカラ笑っていた。

 彼女の誰に対しても気さくすぎる言動は一見して浅慮に見られそうなものだが、実際彼女をそう思っている人間は目が節穴か知人以下の関係のどちらかだろう。

 箸が転んでも笑う、そんな年相応の姦しい女学生ではあるが、彼女の品性と周囲への配慮の細かさは目を見張るものがある。

 制服の着こなしや普段着の装いに関しても、あくまで洗練はされているが派手や下品ではない。それは彼女が時々見せる、どこか遠いところに視線を向ける憂いのある表情がどんな優等生よりも清高に見えるのが何よりの証左だろう。

 最初の頃はいくら話し掛けても素っ気ない僕にめげる様子など微塵も無く、それでいて特に気張る事も無く彼女は僕にコミュニケーションを投げ続けた。話題は少しずつ天気から趣味など深いものに変化していった。

 彼女とはそれから二年と少しの友達付き合いになったが、どんな相手でも分け隔てなく接する人間である印象は何一つ変わる事が無かった。

 しかし鈴音は態度や言葉にこそ出さなかったが、一時期本気で悩んでいた事があった。

 彼女は誰にでも裏表の無い笑顔と軽口を向けた。そして彼女はどこからどう見ても教室内で際立ってチャーミングだった。彼女が友達だと思っていた男は軒並み彼女を異性として意識した。例え元々他に好きな女の子が居ても、だ。異性としてタイプじゃなくても思わず彼女を好きになる。

 爽快感すら撒き散らす彼女に付随する親しみやすさは、そんな風に男を魅了する。

 それが彼女の交友関係にトラブルを引き起こした事もあったかもしれない。

 彼女はただ、沢山の友達が欲しかっただけだ。楽しい事は多い方が良い。とても合理的な考えだと思う。

 彼女は僕と違い、人と人の間に隔たりが存在するなど考えた事も無いのだろう。

 だが思春期の男が彼女のような女性に気さくな接し方をされ、あらぬ勘違いを引き起こしてしまうのは当然の摂理とも言えた。

 そんな中、僕だけが彼女を全く異性として認識しないまま、単なる友人で在り続けた。

 彼女はそれが嬉しかったらしい。

 それを改めて告白されたのはついこの前の事だ。

 春休みも終わりかけのある夜、突然夜中に海を見に行きたいと彼女に誘われた。

「そういうのは彼氏に言えば良い。車も持ってるでしょ」

「別に彼氏とロマンチックな事がしたいわけじゃないから。友達と青春チックな事がしたい気分なの」

 そう言って彼女は珍しく強引に誘ってきた。

 桜が咲き始めた時期の夜は肌寒かったが、海岸に到着するまでに三十分ほど自転車を漕ぐと、すっかり身体は温まった。彼女は額に浮かんだ汗を拭いながら楽しそうに口を開いた。

「こんな時間に自転車で遠出するなんて初めてかも。こういうのってロードムービーっぽくて青春ポイント高いよね」

「死体を見つけなければ良いけど」

 浜辺に降りると水平線の向こうに浮かぶ満月が、海面に光の橋を僕らに向けて伸ばしていた。

「このまま向こうに渡れそうじゃん」

 そう言って彼女は靴を脱ぐと波打ち際に足を踏み入れ、「うへっ。ちべたっ」とそれ以上は進まずに笑っていた。

「何かあったの?」

 冷たい海水を相手にはしゃぐ彼女の背中に声を掛ける。別段何か悩みがあるようにも見えなかったが、いつも通りではないのは確かだった。

「ん~。別に何も無いよ」

 その言葉に誤魔化しは感じない。何も無いといえば何も無いのだろう。

「ただあと一年で卒業だなって思うとさ、色々先に言っておきたいなって。お葬式とかでも思わない? 感謝でも恨み言でも、生きてる内に言わないと意味無いなって」

「別に卒業したからって会えなくなるわけじゃないよ」

「そうなんだけどさ。ただやっぱり言える時にちゃんとツッチーに言っときたいなって、ふと思ったの」

「何を?」

 彼女は僕に向き直ると、月明かりを背に、両手を後ろで組んで「にしし」と笑った。

「友達になってくれてありがとう、って」

 彼女の言葉は羽毛のように軽かったが、その羽が今まで度々濡れたりした事を僕は知っている。

「頼まれてなったわけじゃないし、感謝される謂れもないよ」

「そうだね。でもあたしにとってはやっぱりツッチーの存在は『ありがとう』なんだよね」

 みなまで言わずとも、僕は彼女の気持ちを理解出来ていた。彼女は男友達は多いが、その友情は彼女の片思いなのだ。彼女をただの友達と思っている男など、僕以外に存在しないだろう。

 鈴音は露骨におどけるように髪を掻き上げた。

「ほら、あたしってモテるじゃん? 友達になってもすぐ相手がメロメロになっちゃうからさ」

 僕は何も言わなかった。何を言っても、周囲が持つ彼女へのイメージと、彼女の自己嫌悪の矛盾を解決する事が出来ないとわかっているからだ。

 彼女の小さな素足が砂浜を小さく蹴った。

「……色んな人と友達になりたいんだけどね。男とか女とか、面倒臭いね」

 その時彼女が一瞬見せた寂しげな微笑みは、彼女がこれまで味わった落胆や失望、とりわけ自分を好きにさせてしまった男子への申し訳なさ、そしてそんな事を考えている自意識過剰な自分への嫌悪が入り混じっていた。

 しかし鈴音はそんな靄を振り払うように、朗らかにニカッと笑顔を作った。

「でもツッチーはただの友達でいてくれた。だから、ありがとうって感じ」

 ただの友達。巷に溢れる存在。それこそが彼女が望んだモノだった。勿論それは女友達でも良い。

 だが性の差を超えて、変わらぬ友情を持つ事が出来た僕の存在は、特に彼女にとっては希望の光に等しかったのかもしれない。

「大袈裟だよ」

「あはは。そうかもね」

 彼女は嬉しそうに笑い、そして両手を僕に差し出した。意味がわからず棒立ちする僕に、彼女はわざとらしく演じた熱血教師的な清々しい笑顔と声色を僕に向けた。

「よっしゃ来い。友情のハグしようぜ」

「久しぶりに会った親戚のおじさんじゃないんだから」

 肩を竦めながらも、僕は鈴音がそれを通じて何を求めているか理解したので、彼女に近づき、抱擁した。

 鈴音の両腕が僕の脇の下を通り背中を抱きしめ、僕は彼女の肩の上からそっと抱き寄せた。

 僕には何の感慨も無い。ただ親友が友情の確認を求めてきたから応じただけだ。その純粋な友達としての想いが鼓動として鈴音に伝わる。

 すると鈴音はそれに安堵と歓喜を覚えたようで、プロレスごっこをするように強く僕を抱きしめてきた。

「にしし。どうよあたしの鯖折りは」

 まさに目と鼻の先で、彼女が僕を見上げて得意げに笑う。こうして密着すると鈴音の華奢さに驚く。

「別に痛くも痒くもないよ。それより胸が当たってるんだけど」

 互いに厚手の上着を着込んではいたものの、胸に当たる豊かな弾力は噂に聞くそれだった。

 その正直な申告は僕から彼女に対して、純度百パーセントの友情を抱いているという意思表示だった。

 彼女はそれを殊更嬉しがり、僕をからかうようににやりと笑うと、胸をぐいぐいと更に強く押し付けてきた。その仕草や表情に、異性を相手にしているという意識は全く見られない。

「ツッチー、女の子と付き合った事無いもんね? どうよ初めてのおっぱいは?」

「どうって……鈴音のだし」

 異性としての照れではない、僕の微妙な反応に鈴音はくつくつと笑った。

「巨乳好きなんだから素直に喜べよな」

「そりゃあおっぱいはおっぱいだし感動はするけど所詮は友達のだしね。別腹だよ。正道ではないね」

「オイ。人の胸を邪道扱いするな」

 謎の理論に鈴音が心底楽しそうに笑った。

 いくら友達とはいえ身体的に性差はある。それは仕方が無い。

 どこまでいっても僕は男で鈴音は女なのだ。

 そこも含めて友情だと言い切れるほどの仲に、僕達はその月夜の下でなれたのだ。

 その後は浜辺に肩を並べて座って、進路の事なんかを話して帰った。

 それから鈴音は僕に対してのボディタッチに躊躇が無くなり、その度に周囲の男子の視線が僕に突き刺さるようになったのだった。

 そんな一夜の前から、彼女とはいつの間にか何度か互いの家を行き来している仲になっていた。何度かというのは過少な印象を与えるかもしれない。二人の両手両足の指では数えきれない回数だ。

 彼女は目ざとく僕のそういうグッズを見つけては笑いの種にしていた。彼女が何より面白がるというか好ましく思っているのは、同級生の女子にそういうモノを見られても無反応な僕の姿のようだった。

「こういうの、あたし以外の女子に見られてもそんな落ち着いていられる?」

「いや、絶対無理だろうね。鈴音だから何とも思わないだけだよ」

 偽りの無い僕のその言葉に、彼女は心底嬉しがっていた。

 彼女と遊ぶ時はいつも二人だ。彼女の友達は夜空に浮かぶ星くらいは居るし、逆に僕の友達を探そうと思ったら砂漠に落とした貝殻の捜索くらい難しい。集団行動が苦手な僕を慮って、彼女は無理矢理自分の仲の良いグループに引き込もうとはしなかった。されたところで僕も相手も困るだろうし、彼女はそういう気遣いが出来る人だ。

 そして遊ぶといってもどこかに出かけたりはあまりしない。僕の部屋でDVDを視聴する事が多い。

 僕は映像作品が好きで、所謂オタクやマニアと呼ばれる領域に片足を突っ込んでいる。鈴音に言わせればもう全身でダイブしているとの事だった。

 映像作品なら何でも好きなので、深夜アニメもジャンルに限らず幅広く嗜むが、鈴音はそういう作品に対しても何の偏見も先入観も無く楽しんでくれている。

 僕が、声優がどうこうとか作画がどうこうとか隣から注釈を入れると、「ツッチーうるさい。今観てんだからさ」と笑いながら僕の膝を軽く叩いたりする。

 そんな折に一度だけ、「好きな事だとよく喋るね」と指摘された。感情に乏しい僕もこの時だけは少しばかり気恥ずかしくなり黙ってしまった。

 夏の暑い日だった。学校帰りに僕の家に寄り、夏服のまま彼女は胡坐をかいていて、黙りこくった僕をからかうように小首を傾げて「にしし」と笑った。その時の彼女の言葉は今でも僕の胸の中で鮮明に残っていた。

「恥ずかしがらなくて良いじゃん。友達が夢中になれる事を知られてあたしも嬉しいし。ほら、もっと喋れ喋れ」

 そう言って僕の背中をバシバシと叩いた。

 その言葉で僕は何か救われた気がした。今の僕ではなく、遠い昔の僕が。

 とにかく僕らはお互いの家を行き来するのが当然の仲だった。鈴音には男友達が沢山居るが、家を訪問するどころか二人で遊ぶような男友達は僕だけで、周囲はそんな僕らの友達付き合いをさぞ摩訶不思議に感じていただろう。

 勿論そこに男女の関係が有ると考える者は皆無だった。彼らの目に映るのはあくまで『冴えない同級生に構う変な鈴音』であり、そこに僕は登場人物としてすら存在していない。

 さて、僕と鈴音の関係性については大体理解してもらえただろうか。今度は僕個人の話に移りたいと思う。

 僕が鈴音に対して、友情以外の感情を持てない理由についても関わりがある話だ。

 単に彼女が僕の性的な好みから外れているという事実は些事に過ぎない。そんな事は僕と鈴音が純粋な友人関係を築けている事から、そもそも関係が無いとさえ言っても良い。

 午後の授業も消化し、学校を出るとそのまま帰宅せずに寄り道をする。

 うちの生徒が使う駅の正面はアーケードの商店街となっている。結構栄えており人通りも多い。特に夕方になると夕飯の買い物客でごった返す。

 しかし駅の裏手は寂しいもので、古い木造家屋の一軒家が立ち並ぶその風景は、昭和時代の映画のロケ地として最適に違い無かった。

 そんなセピア色が似合いそうな住宅街の中に、その書店はこっそりと佇んでいた。何となく歩いているだけではそこがお店だと気付けないだろう。

 元は『花丸書店』と書かれていたであろう看板はもうすっかりペンキが剥げて、『花』の草冠の部分だけが残っている。商売の気概など全く感じられず、おそらくはオーナーの趣味でやっているだけなのだろう。

 勿論自動ドアなどというハイカラなものは無い。手押しドアの前で僕は姿勢を伸ばして、ガラスに映る自分の姿をチェックして手櫛で前髪を整えた。脈拍が普段より速い。緊張している事を自覚する。

 オナニーをする時は間違いなく巨乳モノを選択する僕の、豊かな胸部を隠し持つ鈴音と抱き合った時ですら平然としていた心臓が胸骨を叩くように踊り狂う。

 もう幾度となく潜った暖簾だが慣れる事は無い。扉がやけに重く感じるのは錆びているからだけではないだろう。手と足が同時に店内へと侵入する。

 レジの方は見ない。おいそれと視線を向ける事は出来ない。

 客の来店を出迎える挨拶は無いが、レジに彼女が座っている事だけはわかる。視線を肌で感じるのだ。思春期特有の第六感である。その能力名は自意識過剰と呼ばれる。

 鈴音に話し掛けられただけで浮き足立つ同級生達の気持ちに今だけは共感出来る。

 まるでゼンマイ仕掛けの人形のような動きで、映画の月刊誌を手に取ってレジに向かう。

 黒髪ショートボブの小柄な彼女は、いつも通り無言でバーコードを読み取ると、吹けば消え入りそうな声で値段を僕に伝えた。彼女の声が鼓膜に届くだけで僕は天にも昇るように気持ちになれた。

 鈴音が断崖の上に咲くアマリリスや月下美人の花に例えるなら、彼女は何の変哲もないタンポポだ。その素朴で慎ましい花弁は、僕の胸の中で何よりも色鮮やかに揺らめいている。

 僕は名前も知らない彼女に、もう五年以上恋をしていたのだった。

 名札は無いし、声を掛ける勇気も無いので、僕は彼女の事を三つ葉ちゃんと呼んでいた。制服なのかいつも着用しているエプロンの刺繍が三つ葉なのである。その三つ葉ちゃんが包装してくれたというだけで、ただの雑誌が花のように華やいで見える。

 彼女の小さな手で包装された映画雑誌を胸に抱えて帰宅する。勉強机の椅子に座るとまずは包装されたままの雑誌を両手で掲げる。思わず頬が緩んだ。

 恋は病とはよく言ったものだ。こんなものは完全にただの錯覚だし幻覚だ。

 そう自覚しながらも、瞼を閉じれば三つ葉ちゃんの顔が脳裏に浮かび、心と身体が高揚する。

 思春期真っただ中の僕の神経回路は、甘酸っぱい気持ちが性欲方面に漏れ出てしまう。

 好きな女の子の事を考えてムラムラしてしまうのは当然の事なのだろう。しかし童貞の僕はそれがとても不埒な事に思えた。三つ葉ちゃんの事をそんな気持ちのまま考えたくなかった。

 なのでお気に入りのコレクションを引き出しから取り出す。インターネット全盛のご時世に、僕は所謂エロ本を所持していた。気に入った書籍や映像媒体は出来る限り実物で保管しておきたいのだ。

 鈴音に見つかった時は散々冷やかされたが、今ではもう慣れっこである。彼女が部屋に遊びに来ると、「新作仕入れた?」と引き出しを開けてチェックしてくるのを、僕はもう全くの無感情で受け入れる事が出来ていた。

 とにかく僕はオナニーの態勢に入った。誰も踏み入る事の出来ない神聖な時間である。例え家族ですら許されない。お気に入りの本の、更にお気に入りのページを開く。お淑やかな目鼻立ちなのに、とにかく胸の大きさと形が素晴らしいのだ。全裸ではなく下着を着用している故の補正もあるのだろうが、接写された乳肉の丘はつい紙面を突きたくなるほどに、はちきれそうな質感を有していた。

 椅子に座ったまま下腹部を露出させると、三つ葉ちゃんへの想いに纏わり付く邪念を追い払うように自慰を始めた。すると携帯が着信音を鳴らす。僕は例え親が相手でもこの場はやり過ごすつもりだった。

 しかし着信の相手が唯一の親友ともなれば話は別である。僕は男根を扱く手を一旦止めて電話に出る。

「何?」

「おいっす~」

 臨戦態勢の僕とは違い、鈴音の声は至極高揚していた。余程楽しかったのだろう。テンション高く早口でまくし立てる。

「ここの温水プール結構本格的だよ。さっきまで流れるプールでめっちゃ流されてたんだけどさ、あれ絶対速度の調整ミスってるよ。速すぎてあたしは素麺か! ってなった。あはははは」

「楽しそうで何よりだよ。かなり賑わってるみたいだね」

 彼女の声の背後からは喧噪が聞こえる。

「まだオープンしたばっかだからね。ツッチーも今度一緒に来ようよ。色んなスライダーとかもあってマジで面白いから」

 彼女の声色からは社交辞令ではなく本気で、面白いものを見つけたから友達と共有したい、という暑苦しいくらいの気持ちが伝わってくる。

「僕が泳げないの知ってるだろ」

「だーじょーぶ。あたしに任せなさいって。手取り足取り教えちゃる。にしし」

「考えとくよ。それで結局お母さんと行ったの?」

「ううん。彼氏が都合ついたから一緒に来た」

「良かったじゃないか」

 僕もいつか三つ葉ちゃんと二人でプールに行けたりするのだろうか。なんて夢想をする気にすらならない。彼女は僕にとって高嶺のタンポポなのだ。

「でも今トイレでちょっと席外しちゃっててさぁ、そのトイレもめっちゃ混んでるみたいで中々帰ってこれないっぽいんだよね」

 水着姿の鈴音が人込みの中で一人で居る。それだけで男に声を掛けられる頻度は想像に容易い。それに一々対応しなきゃならない億劫さは想像を絶する。とはいえナンパ避けに利用したいから僕に電話を掛けたわけじゃないのは明らかだ。彼女の声色からは純粋に楽しさを友達に伝えたいという気持ちが伝わる。

「てかツッチーは何してたん? なんかちょっと声上擦ってたけど。もしかして男の子タイムだったりして。なーんて。にしし」

 鈴音はそう言って笑った。彼女は下ネタを自発的に言わない。仲の良い友達に言われたらノリで返す程度だ。ただ一つ例外なのは僕だった。

 それは彼女が今まで本当の男友達を作れずにいた反動なのかもしれない。下ネタもボディタッチも、僕達の間に性の壁など無いと証明したいが故の、彼女なりの主張のように思えた。

 それだけ彼女は、僕という『普通の男友達』という存在を嬉しがっていたのだ。

 とにかく僕は、その冗談に一瞬躊躇してしまった。

 僕と鈴音の意思疎通力は、互いの声色は勿論、会話の『間』ですら、ある程度察する事が出来るほどになっていた。対面していればアイコンタクトすら余裕だ。それが仇になった。

「……え、もしかしてズバリ正解だった?」

 鈴音の苦笑いの表情が明確に脳裏に浮かぶ。だがその表情は引いてはいない。これが他の男友達ならきっとドン引きしていただろう。

「ぎゃああっ、マジでごめん! どうぞごゆるりと!」

 通話が切れる。しかしすぐにメッセージを受信した。

『この前の新作? 黒ギャルが表紙の』

『違う。一番気に入ってるやつ』

『あぁ、四つん這いになってるのね。あれの綴じ込みのとこだっけ』

『そう。それ』

 普通は同性の友達でも気に入っているオカズの表紙とページまで把握しないと思う。しかし前述した通り、鈴音は僕との間に性的な隔たりが存在してほしくないようで、意識的にこういうやり取りをしている節がある。

 これが男女問わずただの友達ならデリカシーを疑うだろうが、鈴音がただ不躾な人間というわけではなく、そして今まで何に悩んでいたかを十二分に知っているのだから、僕もそれを不快には思っていない。

 それから一分くらいが過ぎてもメッセージは途切れたままだったので、堂島さんがトイレから帰ってきたのだろうと判断し、彼女の言うところの『男の子タイム』を再開させる。

 勃起が収まっていない男根を握り直したタイミングで、再び鈴音からメッセージが届く。

『ごめんごめん。お礼に使ってよ。粗品ですがどうぞ』

 投げキッスの絵文字が末尾に添えられた一文に添付されていたのは、今まさに自撮りしたであろう鈴音の水着姿だった。プールサイドのテーブルに備え付けられた椅子に座っているであろう彼女の、バストアップの写真。

 露出は抑え目のフレアレースの付いた黒いビキニだったが、やや斜め上から撮られたその構図は深い深い谷間を写し出していた。ただでさえはちきれそうな瑞々しい質感に、細かい水滴が表面に残っており、暴力的なまでに健康美を主張する。

 右手でピースをしてウィンクしている。如何にも友達向けといった感じの表情だ。元々の愛らしさが土台にあるだけで、色気は一切演出されていない。それが逆に見ているだけで弾みそうな乳房の魔性を際立たせる。

『どうよ? 我ながらツッチーのコレクションに加えても良いくらいの一品じゃない?』

 続けて届いた飄々としたメッセージは鈴音らしいが、その内情としては、彼女としてもかなり不慣れな事をしているに違い無い。

 おそらく恋人にもこういう事をした事が無いのだろう。その証拠に映っている顔の耳たぶが少し赤い。

 テーブルには色鮮やかな果物がふんだんに盛り込まれた大きなグラスに、ストローが二本刺さっていた。きっと鈴音はこの非日常な飲み物をノリで注文したのだろうが、いざ目の前に来ると恥ずかしくて照れ笑いを浮かべている顔が脳裏に浮かぶ。

『Gはあるね』

『正解。流石我が親友』

 遠く距離が離れた彼女が「にしし」と笑った声が聞こえる。続けざまにメッセージが届く。

『使っていいよ♡』

 少々悪ノリが過ぎる気がするが、彼女としては絶対に恋愛には発展しない『ただの男友達』と、こういう悪ふざけが出来るのが楽しいのだろう。僕としても素晴らしいおっぱいを前にして、友達も敵も無いのだ。

 お言葉に甘えて扱こうとするが、どうしても気になる事があったのでメッセージを返す。

『悪いんだけどさ、友達の顔が映ってるとなんか集中出来ないから、鈴音の顔写さないでもう一枚くれない?』

 向こうで彼女が両手を叩いて大笑いしているのを確信した。

『これは失礼。こんな感じでどうよ?』

 添付されていた新作は注文通りに胸のアップだった。それも右腕で抱え込まれるように寄せられている。小玉スイカほどはありそうなボリュームの乳肉が、何とも柔らかそうにむにゅりと持ち上げられている。

 親友の顔が構図から消えた事で、僕は気兼ね無くその写真で勃起した男性器を扱いた。

 一分もしない内に鈴音からメッセージが届く。

『ちょっとちょっと。急に黙られるとなんか不安になるんですけど?』

 僕は手早く返信する。

『悪いんだけど、数分は対応出来ないから』

 きっと彼女は腹を抱えて笑っている事だろう。

『絶賛シコシコ中な感じ?(笑)』

 僕がオナニーに専念していると、彼女から立て続けにメッセージが届く。

『もうちょっと我慢出来ればボーナスチャンスあるよ』

『今さ、人気が無いとこ探し中』

『大丈夫? まだ出してない? もうちょっとの辛抱ね(笑)』

 男根は親友の巨乳画像で堪らんとばかりに我慢汁を漏らし続けており、手中の竿はもう精を放ちたくてヒクついていた。

『女子トイレは空いてた~。個室にダッシュ』

 精液が尿道を昇り詰める気配を感じた時にそのメッセージと画像が到着した。

『はい。フィニッシュどうぞ(笑)』

 それは鈴音の口元とやはり胸元のアップだった。

 僕をからかうように舌をべぇっと出していたが、やはりそれは妖艶などではなく、少年の悪戯のような雰囲気を醸し出していた。それでもやはり多少は恥ずかしいのか頬はうっすら紅潮している。そして左手は左のビキニを少し外側にずらしていた。非常に綺麗な薄ピンクの乳輪と、ちょこんと可愛らしい乳頭が顔を覗かせていた。

挿絵1

 僕は初めて同い年の、実際に見知り合っている、それも親友と呼べる間柄の女性の乳房を目にした。その衝撃も然る事ながら、こんな美しい乳房と可憐な乳首を見たのは初めてだった。

「うぅっ!」

 びゅるるっ!

 快楽と感動、そしてちょっとした罪悪感を伴った絶頂は非常に濃い精液を放ち、それは鈴音の画像を表示したままの液晶を真っ白に染め上げた。息を切らしながら、ティッシュに手を伸ばしてまずは液晶を拭く。

 自慰など日常的に繰り返している儀式なのに、何故だかどっと疲れるほどに恍惚に身を浸した。

『間に合った?(笑)』

『なんとか』

『めっちゃ小走りだったよ。途中で滑って転びそうだった。てか何やってんだろあたし(笑)』

 彼女は自身の行動にも呆れているようだったが、やはりどこか楽しそうでもあった。勿論こんな事をするのは僕にだけだろう。彼氏にもしないはずだ。それが僕に優越感を抱かせないと言えば嘘になる。

『とりあえずありがとう、だね』

『改めてお礼言われると恥ずかしいんだけど(笑)』

『凄く綺麗だった。僕のコレクションの中でも随一ってくらい。いや、いやらしい意味じゃなくて』

『いやいや、それいやらしい意味でしょ(笑)』

『まぁ広義の意味ではいやらしいかもしれない。良かったら今後も継続して使用させてほしい』

『一々許可取らなくて良いから(笑)」

 彼女は身体を晒し、そしてそれで僕は自慰をした。なのに僕達の間に流れるのはちょっとした照れ臭さで、気まずさは無い。

『てか今度さ、ツッチーが男の子タイムしてるところ見せてよ(笑)』

『そんなの彼氏の見せてもらえば良いだろ』

『別にそういう事自体に興味があるわけじゃないし! 友達なんだから色々曝け出し合いたいみたいなのあるじゃん?』

 鈴音が言う通り、僕の一人エッチ姿に関心など無いだろう。

 女友達同士なら(下ネタではない)性的な話も言い合えるのに、相手が男だとそうはいかない。そんな今までの状況が、彼女にとっては息苦しかったに違いない。

 彼女は初めて出来た『ただの男友達』に、そんな壁は作りたくないのだ。

『あ、そういえば戻ってきた彼氏とすれ違ってたんだ。あたし戻るね。それと、言うまでもないんだけどさ』

『わかってる。鈴音の信頼の証なんだから』

 彼女は今日の画像の扱いについて、一言釘を刺すべきかどうかを迷ったのだ。でもそれを口にするのは野暮ではないかと逡巡し、文章を一旦区切っていた。だから彼女に言わせる前に、僕がきちんと意思を表明する。

『あーい。お疲れー』

 鈴音も殊更に念押しなどせず返答は軽い。

 互いの絶対的な信頼を以心伝心させる。何事も無かったかのように明日の再会を約束した。

 僕が初めて友達でオナニーをした翌日は雲一つ無い晴天だった。まるで神様が「よくある事だから気にするなよ」と白い歯を見せつけてくるような青空だったが、元々何も気にしていないので余計なお世話だった。

 自転車を漕いでいると少しばかり汗ばむほどの陽気で、周りの登校中の生徒の多くは上着を脱いでいた。衣替えの時期もそう遠くない。

 教室に到着し窓際の自席に着くまで、僕が朝の挨拶を交わしたのは親と校門で服装チェックをしていた教師だけだった。僕の方から「話し掛けられると困る」「出来れば一人にしておいてほしい」オーラを出しているのだから仕方無い。どうして我ながらこうも面倒臭い人間になってしまったのか。

 やはり幼少の頃に何かあったような気がするが、記憶があまりに断片的で散らばったパズルのようになってしまっている。そのピースの一つに砂場があるのは確かだった。

 談笑で包まれる教室の中、朝礼の時間までする事も無いのでぼうっと窓の外を見ていると、すぐ隣で「佐藤君。ちょっと席借りてもオッケー?」という声が聞こえた。佐藤君というのは僕の隣の席の男子で、背が高い天然パーマのお調子者だ。顔立ちも整っているので女子にも人気があるらしい。机に腰掛けて、複数の友達と話していたようだった。

 そんな彼が、「お、おう。全然良いぜ」と声を上擦らせている。彼女に話し掛けられて顔に喜色を浮かべたのが露骨に見て取れた。

「サンキュッ」

 そんな思春期の男子の揺らぎなど気にも留めない気さくな返事は、どこか愛らしい。彼女としては余分な装飾を付け加えた気は一切無いのだろうが、その飾り気の無さがまた一人の男子を魅了するのだろう。

 椅子を引く音がすると同時に、僕の肩がぽんぽんと叩かれる。振り向くと鈴音の人差し指が僕の頬に軽く突き刺さっていた。

 そういうフェチは僕には無いが、彼女の指は本当に綺麗だと思う。その細さはどこか儚く、すらりと伸びたフォルムは艶めかしさすら感じる。爪もきちんと切り揃えられていて、派手なマニキュアも塗られていない。

「おーはよ。ツッチ」

 目を瞑り、口端を大きく持ち上げた大胆な笑顔は今朝の太陽のように心地良い。

「おはよ」

 指が突き刺さったまま、親と教師以外に初めて朝の挨拶を口にする。

「どしたのツッチー。なんか顔歪んでるよ」

「そりゃあ鈴音の指が頬を持ち上げて片目が細くなってるからね」

「なるほど。一理ある」

 そう言いながらも指はそのままだ。

「鈴音がネイルしない人で助かったよ。危うく貫通するところだった」

 僕も変顔のまま応える。

「たまに付き合いで簡単なのはするけどね。でもほら、ずっと維持するのが大変じゃん? あたしずぼらだしさ」

「いや鈴音は結構マメな方だと思うよ。薬局で買い物する時は絶対ポイントカード使うし。この前も清算中に中々見つからないからガサガサ探し続けてたよね」

「あ、れ、は、結局ツッチーが持ってたんじゃん!」

 ぐっ、ぐっ、と僕を責めるように指を押し込むとようやく彼女の身体が僕から離れる。

 僕らのこういうやり取りや触れ合いは日常茶飯事である。鈴音の肩越しに、佐藤君とその一味、いや、クラス中の男子からの嫉妬と羨望の視線を感じる。しかしそれはあくまで、鈴音が遊んであげている犬猫に対する感情と同じである。僕という一人の男子は認識されていない。

 今だけあの犬猫になりたい、と思う事はあっても、土屋巧が羨ましい、とはならない。それくらい僕らは自他共に男女のコンビとして認識されていない。言わば魔法少女とそれをサポートするマスコットキャラに近いのかもしれない。

 男子から見てそうなのだから、女子からすれば、「鈴音がまたぬいぐるみで遊んでいる」くらいだろう。当初は「何で鈴音があんなに冴えない男とあそこまで親しげなのか」と訝しんでいた。僕に話し掛ける彼女の友人も居たが、僕は一貫して「孤独が好きです」オーラを放ち続けたので、今となってはもう関心すら失っているだろう。

 鈴音は他の生徒と同様に、上着を脱いでブラウスの袖を捲っていた。両脚を開いた座り方をしていたが、脱いだカーディガンを膝に敷いて広げていたのでガードはばっちりだ。相手が僕だけならともかく、公共の場ではそういうところはしっかりしている。ともかく椅子ごと更に僕へと近づいた。椅子同士が触れ合う。

 二年という年月を掛けて、徐々に縮まったその距離感は僕達の間では自然と言えた。

 彼女の僕に対するパーソナルスペースの狭さは家族の域に達しているし、僕も不思議とそれを受け入れている。いくら徐々に縮まったとはいえ、こうも近づかれても何も思わない人間は、鈴音以外に果たして存在するのかと思う事はある。

「昨日のロードショー観た? ほら、ツッチーの部屋で観せてもらったアニメの続編」

「いや観てない。もう何回もDVDで観ててセリフも憶えてるくらいだからね。CM入るのも好きじゃないし。でも名作だよ」

「戦闘機が飛んできたけど嘘でしたってシーンの緊張感凄いよね。あとね、あたしが好きなシーンはね……」

「あれでしょ? 緊急出動が掛かって奥さんに止められても『仕事より大事なものを失う』って行っちゃうシーンでしょ?」

「そう! そこっ!」

 当ててもらったのが嬉しいようで、鈴音は顔を大きく綻ばせて僕を指差した。

「使命感と葛藤するシーン好きだよね。鈴音は」

 彼女は両腕を組んで目を瞑った。

「あそこはね~……奥さんの気持ち考えちゃうんだけどね~……しかもお腹に二人目居るってさ~」

「あれが堂島さんならどうしてた?」

 鈴音はきょとんとした表情を僕に向けると、照れ臭そうにはにかんだ。堂島さんが話題に上がると彼女はほんの少し雰囲気が変わる。

「え~……やっぱ行かないでって引き止めちゃうかな。えへへ」

 はにかみながら頬を掻く彼女は可憐だと素直に思った。親友のこういう一面を見るのは何だか胸が温かく感じられる。鈴音も三つ葉ちゃんの話を振る事が多いのだが、きっとこんな気持ちになっているのかもしれない。

 何より堂島さんは僕から見ても本当に素敵な男性なので、鈴音を幸せにしてくれるかと疑う余地はない。見た目だけでなく物腰などもオシャレな人なのだ。それでいて控え目で、まさに大人の男性といった佇まいに僕も憧れの感情を抱いている。他人に興味が湧く事すら少ない僕が、である。

 とにかく僕達は昨日のテレビを見たか、などという朝の教室らしい会話を楽しんだ。昨日の出来事などお互い全く頭に無かった。それを意識させたのは、鈴音の胸元に落ちていた一本の抜け毛だった。

「ここ、髪の毛付いてるよ」

 僕が自分の胸を指で差して伝えると、「おっと。あんがと」と鈴音がそれを払った。そこで僕達はようやく昨日の事を思い出す。

 鈴音はにやりと口端に茶目っ気をたっぷり含ませると、「おっぱい大きいとさ、ここに載っちゃうんだよね」と僕をからかうように見つめた。

「そう。大変だね」

「巨乳博士のツッチーには釈迦に説法だろうけど」

 鈴音はちゃんとデリカシーがあるので、流石にこんな会話は声を潜める。そもそも周囲に人が居る時はあまりしない。それでも彼女は『それ』がとても喜ばしい事だったみたいで口にせずにはいられないようだった。

 昨日友人をオカズにオナニーしたというのにドギマギするどころか、事もあろうに忘却すらしていたのだ。そんな僕達の関係を、彼女は改めて身に染みて幸せを感じているように見えた。

 彼女はぐっと顔を寄せて、「にしし」と小さく笑った。

「……どでした?」

「何が?」

「照れんなよ。このっ、このっ」

 肘で僕を軽く突く彼女も、若干ではあるが恥じらいが見えた。僕も流石に少々気恥ずかしいが、視線を逸らしたりどもったりするほどではない。

「大変ご馳走様でした」

 彼女は殊更にやりと頬を緩ませた。

「ツッチー的に合格ラインだった?」

 親友にも認定された巨乳博士の名が、厳正な判断を下さないわけにはいかなかった。

「馬鹿言うなよ。あんなの絶品レベルだよ」

 鈴音はくつくつと声を押し殺して笑うと、「もしかして一回じゃ満足出来なかったり?」と囁く。

「三回した」

 むしろ僕は誇るように簡潔に返すと、彼女は両手を叩いて笑い、にやつきながらジト目で僕を睨んで「このっ! ケダモノ! 野獣!」と僕の脇腹を指で突き続けたのだった。

「まぁ元気で何より。そういえばさっきの映画なんだけどさ、更に続編あるんだよね? DVD持ってる?」

「勿論。でも三作目はちょっと万人にお薦めしづらいんだよね。観念的というか哲学的というか。主人公達の出番も殆ど無いし」

「マジか~。でも一応観たいかも。今日学校半日で終わりだし、放課後行ってもオッケ?」

 僕は頷く。あんな会話をしておきながら、僕達は何事も無かったかのように日常会話へと戻っていた。そこに無理をした様子はお互い全く無い。

 異性である事は間違いない。しかし段差や壁は見当たらず、性差を全部含めて僕達の友情は成立している事を、今回の件は立証してしまった。

 異性でもただの友達でいられる関係性。それは鈴音が心から望んでいたものだった。だからこそ彼女はそれをより強固にしたい、そうであってほしいと心のどこかで願っているようにも見える。

 放課後、僕の部屋で件の映画を観終わると、鈴音は難しい顔をしたまま、「うーん。確かにちょっと難解かも」と自分なりに内容を咀嚼しているようだった。

「エンターテイメントではないかな」

「うん。でもあたしこういう雰囲気も結構好きかも。閉塞感とか退廃的みたいな? なんか他にお薦めある?」

 そう言って彼女は床に座ったまま伸びをした。僕は彼女に貸すDVDを手に取る為に立ち上がる。

「はいこれ。とりあえず同じ監督の作品。一つはアニメで一つは実写。僕はそれぞれ本当の命とは何か、みたいな死生観がテーマになってると解釈しているよ」

「あんがと。早速今夜観てみる」

 今日の日差しは終日陽気で、彼女はブラウスの袖を捲ったままだ。少し暑かったのか、映画の途中で胸元のボタンを一つだけ外していたようだった。DVDを手渡す時に、その胸元に初めて気が付いた。

「あぁごめん。暑かった? 言ってくれれば空調掛けたのに」

「いやそこまでじゃないよ。それにあたしクーラーあんま好きじゃないし」

 普通の男女の友達ならそれくらいの露出への視線でも多少は動揺するのかもしれないが、僕達は平然と言葉を交わす。そしてやはり流れるように、全くもって自然に、そういう話に移る。

「いきなり暖かくなったよね。今日のブラちょっと色ついてるからカーディガン脱ぎたくなかったんだけどな。大丈夫? 透けてない?」

 友達の胸部を凝視するが他意は無い。

「大丈夫だと思うよ」

「本当? 良かった。まぁ透けてたとしても、もう見られるのツッチーだけだし良いんだけど」

 淡々とした様子で彼女は言葉を続ける。

「今日のブラさ、結構高いやつでオシャレなんだよね。薄いピンクなんだけど刺繍とか細かくて」

 そこまで言うと、「にしし」と悪戯心を含めた笑みを浮かべ、「良かったら見る?」と問い掛けてきた。

 断る理由も無いので、僕は珍しくおどけるように「是非生で拝見出来れば光栄です」と、正座して頭を下げた。

「うむ。よいよい。頭を上げい」

 鈴音もそのノリで声色を作ると、口元は照れ臭そうにきゅっと閉じて、視線はやや上目遣いで僕の反応を探るようにして、ブラウスのボタンを上からゆっくり外し始めた。

 それが鳩尾辺りで止まる。そこを起点にVの字にブラウスがはだけると、彼女の言う通り、細かい刺繍が施された薄桃色のブラジャーが露わになった。

 質の高そうな下着が覆っているのは、更に格の高さを見せつける乳房だった。

 無理矢理寄せて上げているわけでもないのに、その谷間はぴっちりと閉まって奥が深い。手刀を差し入れたら殆ど飲み込まれてしまいそうに思える。

 そして何より僕の脳髄を激しく揺らしたのは、生で見る乳房の迫力である。それも普通の胸じゃない。極上中の極上。視覚情報だけでずっしりと重そうなのがわかる。

 パンパンに中身が詰まっているようなはち切れそうな質感に、無意識に生唾を飲み込んでいた。肌の表面を目にするだけで、ツルツルすべすべといった擬音が鼓膜をくすぐる気がする。

 鈴音は唇を尖らせ、少しばかり不安そうに、「で、どうよ? 博士的に」と言った。

 僕は改めて生唾を飲み込み、忌憚の無い意見を口にする。

「友達贔屓抜きで、僕が今まで画像や映像で見てきたどれよりも素晴らしいと思う」

 手を伸ばせば届きそうな臨場感を抜きにしても、鈴音のそれは紛れもない魔性の美爆乳だった。

「にしし。やったぜ」

 彼女は少し演じるように両手でガッツポーズをする。小さな動きだったが、それだけでもGカップはぷるんと揺れ、むにゅりと寄せられた。

 僕は股間に息苦しさを覚え、腰を揺らすように座り方を調整した。その動きの意味を理解した鈴音が、「……もしかして元気になっちゃった感じ?」と聞くので、僕は「……そんな感じ」と答える。

 彼女は視線を横に向け、再度唇を尖らせると、両手の指を膝の上でもじもじとさせた。

「……あたしだけ見せてんの、なんか不公平じゃない?」

 その小声には、やはり僕への性的関心など皆無だった。僕の身体が見たいわけじゃなく、友達同士で曝け出し合いたい。男友達ともそんな関係でありたいという彼女の気持ちが伝わる。

 僕はそれに応える。その気持ちに共鳴する。僕も別に彼女に身体を見せつけたいなどという願望は無い。

 唯一の親友ともっと距離を縮めたい。それは見終わった映画の意見を交換する行為と全く同じ事だと思った。ただ性的な高揚が伴うかどうかの有無だけで、それは僕達の間でさほど問題ではないのだ。

 胡坐をかいたままベルトを外し、一瞬だけ腰を浮かせるとズボンと一緒に下着を下ろして、勃起した男性器を露わにする。鈴音の筆舌しがたい胸の形状や質感が、天を衝くような怒張を完成させていた。

 鈴音の表情が強張った。しかしそれも瞬きする間の事で、にへらと頬を緩ませると、僕の膝をぱんぱんと叩く。

「やるじゃん」

「何がだよ」

 意味不明の称賛に思わず僕は吹き出してしまう。

「なんかめっちゃ男の子っぽい。いかつい」

 そして僕らは目を合わすと、何だかニヤニヤと笑い合ってしまう。流石に性器を見せるのは恥ずかしい。

 お互いに頬が紅潮しているが、この恥じらいの雰囲気は修学旅行で好きな子を言い合った時の連帯感と達成感に近いのだろう。例えば僕に恋人が出来たとして、同じ事をしてもこんな淡い気持ちにはならないだろう。

 鈴音も同じ事を思ったようだ。

「やばいねあたし達。マジでチョー親友だね」

 そして再びぱんぱんと僕の膝を叩く。

「そんじゃさ、ね。見せてよ。ツッチーの男の子タイム」

 それは相手との関係性がどうこうではなく普通に恥ずかしい。しかし男友達同士で肩を並べてアダルトビデオを見ながらオナニーをするとしたら、それは確かに親友っぽいエピソードに思える。

 相手が女だから出来ない、というのは僕と鈴音が望む友情ではない。

「この状況だと必然的に鈴音がオカズになるんだけど」

 竿を握りながら確認するように言う。鈴音は微かに俯いて男根をちらちら盗み見しながら、僕の膝を指で円を描くようにイジイジした。

 それから意を決したように顔を上げると、わざとらしく二の腕でぎゅっと胸を寄せると、やはりわざとらしい口調で、「どうぞ召し上がれ」と可愛く言った。そしてすぐに「……なんつって」と照れ臭そうにはにかんだ。

 むぎゅりと押し潰されるように寄せられた乳房は、もはや視覚の暴力だった。大人びたブラジャーも相まって、本能を直接拳で殴ってくる色香が僕の手を上下に動かした。

 初めて目の前で見る男の自慰に鈴音は真顔で見入るようにしていたが、少しずつニヤニヤと頬を緩ませると、口を開いた。

「……お~っと。ツッチー選手。早速男の子タイムを開始しました。友達のおっぱいをガン見しながらおちんちんをゴシゴシしております」

 その表情と口調に、照れ隠しが混じっているのは明白だった。

「実況されるとか罰ゲーム以外の何ものでもないよ」

 僕は笑いながらも手を止めない。鈴音も「ごめんごめん」と控え目に笑った。そしてオナニーを続ける僕の膝を指でつんつんと突きながら、気恥ずかしそうに、それでも興味深そうに小声で聞く。

「いつもこんな感じでしてるの? 速さとか体勢とかさ」

「大体そうだよ」

「……少し声が上擦ってるのウケるんだけど」

「しょうがないだろ」

 彼女は「にっしっし」と愉快げに笑うと、「……気持ちいい?」と聞いてきた。

「凄く気持ちいい」

 鈴音がこくりと唾を飲み込むのがわかった。そしてやや上目遣いで、「……あたしの事オカズにして、おちんちんシコシコするの気持ちいい?」と改めて確認するように尋ねた。

「鈴音でオナニーするの、今までで一番ってくらい気持ちいいよ。こんなに勃起するの初めてだ」

 僕は男根を扱きながら、しっかりと彼女の視線を真正面で迎えてはっきりと言う。彼女の気持ちを誠実に受け止めたかった。

「マジか」

 鈴音はくすぐったそうに俯いて、そしてまた僕の膝を指でぐりぐりと押し当てた。

「……あのね、あたしね、前にこっそり風の噂で聞いちゃった事があってね」

 その声が少し寂しげというか真面目だったので、僕は思わず手を止めようとしたが、「あ、シコシコは続けてていいよ」と彼女が言ったのでお言葉に甘えてさせてもらった。

「クラスの男子がね、あたしでオナニーしてるんだって」

 それはそうだろうなと思った。おそらく彼女の男友達、もしくは同級生の殆どがそういう妄想をしてるだろう。鈴音が『男の子タイム』という言葉を使わなかったのは、きっとそこには不快感と嫌悪感しか無いからだ。

「正直気持ち悪いと思った。それで態度変えるのも嫌だけど……やっぱり男女の友情って成立しないのかなって凹んじゃってさ」

 そこで彼女は一旦言葉を区切って、そしてすぐに続けた。

「それでね、昨日写メとか送ったじゃん? あれ本当は結構びびってた。ツッチーなら大丈夫だって信じてはいたんだけど、もしツッチーが相手でも気持ち悪いって思っちゃったらどうしよって」

 顔を上げた彼女の笑みは安堵で満たされていた。

「でもね、何とも思わなかったんだ。今日の朝もびっくりするくらいその事意識しなかった。あたしマジでそれが嬉しかったんだ。お互い異性って認識した上で、ちゃんと友達になれるんだって。あ、別にツッチーが男として魅力無いとかそういう事じゃないからね? 普通だったらオナニーに使われるとかマジ無理だから」

 そして彼女は憑き物が落ちたように晴れやかに笑うと、演技掛かった仕草で胸を張って得意げに鼻を鳴らした。

「なので光栄に思いなさい。ツッチーはただ一人、あたし公認であたしをオカズに男の子タイムを楽しむ事を許可するから。毎日でも励むが良いぞ」

 僕は彼女の感動を十分理解して、その意義を汲んだからこそ淡々と応えた。

「いや毎日は流石に飽きるから色々ローテーションするけどね」

 その言葉に鈴音は「ちょっ」と言ったきり、身体を前に倒して僕にもたれかかり、激しく引き笑いをしながら僕の肩を何度か叩いた。呼吸困難なほどに爆笑している彼女へ、更に追い打ちを掛ける。

「公認したんならおっぱい見せてほしいんだけど」

 鈴音は僕の肩に額を押し付けたまま声を上げて大笑いした。彼女が望んでいるのはこういう関係なのだ。身体を見せ、オナニーして、それでも冗談を言い合って本気で笑い合える関係。

 彼女は体勢を元に戻すと、僕の頭頂部を手の平でパシンとはたいて目元の涙を拭った。

「あ~~~…………マジでツッチー最高だわ」

 そして胸を張って、「はい、ご所望のおっぱいですよっと。どうぞ気兼ね無く抜いて頂戴よ」と不敵な笑みを浮かべる。そんな彼女を見て僕も友達って良いなと心の底から気分が高揚した。オナニーがこんな風に楽しいものだと初めて思った。

 僕達は見つめ合いながら、穏やかに笑い合い、「あたし達ってさ、絶対これからもずっと親友だよね」とお互いの変わらぬ関係性の継続を確信した。

 それを僕の身体が悦んだのか、鈴口からとろりと我慢汁が漏れた。それを確認した鈴音が「にしし」と笑う。

「ツッチーったらエッチなお汁漏らしちゃってんの。やーらし」

「ただの生理反応をそんな風に言う方がいやらしいと思います」

「シコりながらも小学生みたいな減らず口を叩くツッチーであった」

 普段と何ら変わらない空気で言葉を交わす。

「そういえば、やっぱり三つ葉ちゃんでもそうやって男の子タイムしたりするの?」

「いや、それは一切無い。逆に絶対無理」

「純愛すなぁ」

「そもそも基本的に知ってる人って気まずくて無理なタイプだね。僕は」

「……あたしは?」

「鈴音はそういう意味でも特別かも。なんというか、凄く気安い関係だから」

 僕の言葉が嬉しかったのか、彼女は「にしし。そっか」と無垢にも見える笑みを浮かべた。

 鈴音は他の男子からはまず性欲や異性愛ありきでオカズにされていて、彼女はそれに不快感を覚えていた。僕の場合は前提が友情で、そして実際致した後もその気持ちが変わらなかった。その事実こそが彼女にとって僕と他の男子に確たる一線を引いたのだろう。

 興が乗った彼女は女の子座りしたままミニスカートを摘まみ、「ちらっ、ちらっ」と一瞬めくっては戻し、一瞬めくっては戻した。その度に、ブラジャーと同じく薄桃色のショーツと白く輝く太股の付け根が見えた。

 鈴音は明らかに脚が長かった。すらりとした細いふくらはぎがそう見せる一因なのは確かだ。なのに覗き見える太股はそんな細さのふくらはぎから想像も出来ないくらいむっちりと肉付きが良く、思わず野生の本能を誘われるほどに官能的な肉感だった。

 そしてそんなムチムチした太股の付け根に食い込み気味だったショーツを纏う下腹部も、中背ではあるが華奢に見える鈴音の印象からは遠いしっかりした腰付きで、座った状態でも桃尻である事がわかる。

 だらだらと流れる我慢汁が潤滑油となり、くちゅくちゅと卑猥な自慰の音を立てると、鈴音がにまにまと口元を緩ませるがどこか余裕が無い。

「……ツッチーのおちんちんさ、エッチな音立てすぎでしょ」

 僕がもう軽口を返せる状態ではなく、射精がそう遠くない事を知ると、彼女から笑顔が消える。微かに顎を引いて、甲斐甲斐しい雰囲気で僕に問う。

「……してほしい事とかある?」

 それはやはり友愛だけで構成された言葉だった。恋人相手だとまた違う口調になるに違いない。

「……もっかいスカートの中見てみたい」

 鈴音は下唇をきゅっと噛んだ。その表情は普遍的な女子というか人間としての恥じらいを感じる。相手がどうこう以前に、単純にスカートを捲り上げて下着を見せるという行為は恥ずかしいに違いない。チラチラとしか見せなかったのは、僕をからかう以外にそういう機微があったのだろう。

 しかしそんな恥じらいと同じくらい、親友の力になりたいという彼女の友情は強かった。

 今度は無言のまま、射精が近い僕の目を見ながら、ゆっくりとスカートを捲し上げた。下腹部を露出したまま、スカートを下ろさない。

「やばい……こっちのが恥ずかしいかも」

 彼女は一瞬だけ照れ笑いを浮かべると、「……興奮する?」と尋ねた。その視覚から得られる幸福と、湧き上がりつつある射精感に僕は必死に頷く。

「……鈴音の太股と腰付きもエロすぎ」

「それ彼氏にも言われる。まぁ、じっくり見ちゃってくださいよ、お客さん」

 多少は緊張が解けたようで、無邪気な笑みで茶化すように言った。

 手淫が鳴らすくちゅくちゅという水音の間隔は、もう後が無い事を鈴音に知らしめる。

「……おちんちん、もうすぐな感じ?」

「……うん」

 鈴音はスカートを摘まみ上げたまま甲斐甲斐しく言う。

「……何でも言って良いからね?」

 親友のオナニーを応援したいという純粋な気持ちが、あくまで友達として僕に気持ち良く射精を終えてほしいと願っている事が伝わる。僕もそれに甘える形で、縋るような口調で言う。

「……最後は、おっぱい見ながらイキたい。ちょっと前屈みになって、谷間強調してみて」

「こう?」

 彼女は僕を見つめたまま、僕の願望通りにやや肩を落とし、胸の下で腕を組んだ。ただでさえ豊満な乳肉が、重力と下から持ち上げられる力に挟まれる。結果、むぎゅっと深い谷間を作ると同時に大きく盛り上がった。

 そのむにゅりとした形状変化は、柔らかさの象徴とも言えるほどに艶めかしかった。

「……あと、乳首見たい」

 その体勢を維持したまま咄嗟に左右同時には無理だったようで、胸の下でクロスした右手の親指を、左胸のブラジャーに差し入れて外側にずらした。

 生で見る鈴音の乳首はやはり綺麗だった。現実味が薄くすら感じるほどに可憐だ。

「……鈴音の乳首さ、冗談かと思うくらい可愛くてエロいよ」

 彼女は照れ臭そうに笑みを浮かべる。

「……良いオカズになる?」

「最高……というかもう限界。どうしよう。鈴音の制服に掛かっちゃうかも」

「……でもシコシコ止められないよね? ツッチーのおちんちん、もうパンパンに詰まった精子出したくて仕方無い感じじゃん」

 僕が否定出来ないでいると、彼女は僕に罪悪感を抱かせない為に、「にしし」と軽快に笑った。

「いいよ。服は洗えばいいし、そもそもツッチーの精液なら汚いものじゃないんだし。そんなガチガチに勃起してるのに我慢させらんないよ。そのまま精子出しちゃお?」

 激しい射精感が尿道を掛け上げる。

「……でも」

 なるべく迷惑を掛けたくないという気持ちを、彼女自身が溶かしてくれる。

「ほら、ツッチー、あたしの乳首見てシコって? 勃起ちんぽ楽にしてあげる事だけ考えよ? おちんちんに溜まった精液、いっぱいビュービューって吐き出して気持ち良くなっちゃお?」

 その言葉に甘えるように、鈴口を白い衝動がこじ開ける。

「あぁっ、鈴音っ」

 びゅるるるるっ!

 限界まで膨張した男根が跳ねるように震えて、ほぼ真上にゼリー状の精液を射出した。

「やっ、すっご…………ツッチーの射精、マジで噴火みたいじゃん」

 友達に見守られながら果たす絶頂はちょっとくすぐったいけど、一緒に馬鹿をしてるみたいで楽しくもあった。

「おちんちん頑張ってんじゃん。もっと出せるんじゃない? ほら、ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ」

「……射精してるちんこ応援されるの恥ずかしいからやめてほしい」

 絶賛射精中にそう嘆願する僕の言葉に鈴音はけらけら笑うと、両手を小気味よく叩いて「ほらもっと! もっと! もっと!」と飲みのコールのように声援を飛ばした。

「本当やめてって」

 僕は笑いながらも彼女のコールに合わせて、びゅっびゅ、と精液を飛ばした。それは危惧していた通りに鈴音のブラウスやスカートに飛び散り、特にスカートにはヨーグルトを零したような液溜まりが出来ていた。

 それでも鈴音は気にするなと言わんばかりに満面の笑みを浮かべて、「いっぱい出せたね」とまるでゲームで高得点を出した友達を称賛するように労ってくれた。

 射精がようやく収まると、鈴音が身体を伸ばしてティッシュ箱を取って「ほい」と気軽な様子で渡してくれた。オナニーの後片付けを女友達に手伝ってもらうのは何とも不思議な感じがしたが、割りと心地は良かった。

「へ~。ツッチーってそんな風におちんちん拭くんだ~。へ~。あ、ちょっと絞るんだね~。なるほどね~」

 鈴音はからかうように後始末を覗き込み、僕は照れから顔を背けた。そんな僕を彼女がとても楽しそうに肘で突きながら「二人でやる男の子タイム、楽しかったね」と屈託の無い笑みを浮かべた。まぁ確かにそうかもしれない、と思いながら男根に付着した精液をティッシュで拭き取っていくのであった。

 そんな僕を見ながら、鈴音の瞳が猫のような好奇心の光を灯す。

「……ね。あたしも触ってみていい?」

 言うが早いか右手で半勃起状態の陰茎を握る。

「わ、まだちょっと硬い」と、若干頬を紅潮させながらも楽しげな鈴音とは裏腹に、初めて他人の手に性器を触れられた僕は、その甘い痺れに思わず肩を強張らせた。他人の温もりや柔らかさが、こんな刺激を生むなんて想像だにしていなかった。男根が再び、ぐぐぐ、と硬度を増していく。

 友達の手の中で勃起させていくのは、何だかとても気恥ずかしかった。僕はくすぐったさと恍惚が混じった顔で鈴音を見つめると、彼女はにやにやとした視線を返す。

「にしし。今更照れない照れない。今度は、あたしがシコシコしてあげる」

 鈴音の手がゆっくり上下し、その細い指の内側がカリを優しく撫でると、あっという間に男根が完全に勃起し直す。それを視覚と触感で確認した鈴音が、「若いっすね」とニヤついた。

 扱く手つきをやや粗雑にすると、「友達の手でシコられるの気持ち良い? んん~?」とあからさまに僕をからかう。返事をする間も無く我慢汁が垂れると、鈴音の指に絡みついてにちゅにちゃと音を立てた。

 友達の手による滑らかな摩擦は自慰とは比較にならない快楽で、僕は思わず両手で床に爪を立てて背中を仰け反った。そんな僕に対して鈴音は益々口角を持ち上げるが、その小悪魔的な微笑みに性的な意味合いは感じない。あくまで友人同士で悪ふざけをしている楽しさに見える。

「ツッチーのおちんちんってさ、濡れるの早くない?」

 潤滑油を得た鈴音の手の平が上下する度に、頭の中でパチパチと火花が散る。

「……知らないよ」

「え~。絶対早いって。あとこの形。反り返りすぎだし、カリもエラ張りすぎだし、それにこれ」

 鈴音は左手も使い、根本から両手で包み込むように握った。その際に、左手の薬指に嵌めている指輪がひんやりとした。

「ほら、両手で握っても亀頭が丸ごと出るもん。これがエロチンポでなくて何だというのかね?」

 両手で握ったまま、くちゅくちゅと上下に擦る。少しでも気を抜いたら空に舞い上がってしまいそうな快感。

「……外見だけで内面を判断するのは良くないと思います」

「でも実際ツッチー巨乳大好きじゃん。PCにも動画が順調に増えていってるし」

 お宝フォルダは流石にデスクトップには置いてないが、そこまで厳重に隠しているわけではないので、たまに鈴音が僕のPCを使う時には筒抜けになっている。といっても鈴音相手なら隠すつもりもない。

「……それは、男なら大体好きだろ」

 鈴音は両手で扱きながら、言葉を選ぶように間を置いてから聞いてくる。

「でもツッチーってさ、あたしの胸ちらちら見ないよね。見ていいよって言ったらガン見してくるのに」

 彼女のスタイルでは、普段から男友達からの好色な視線も絶えないだろう。だが僕は彼女の手の中で男根を射精感でパンパンに膨張させながらも即答する。

「そりゃあ友達なんだから、目を見て喋るだろ」

 僕としては当然の想いであるその言葉が心底嬉しかったのだろう。彼女は口元をもにゅもにゅさせるような微笑みを見せると、一転やはり悪ふざけを仕掛けるような悪友めいた笑みと声を向ける。

「……にしし。もっかい親友が射精するとこ見~せて」

 恥じらいと友人の願いに応えたいという気持ちがせめぎ合う中、彼女の両手の中で男根が破裂しそうになると、鈴音の携帯が鳴った。着信元の表示を見ると、彼女の雰囲気が淡い桃色で包まれるのを感じた。

「あ、彼氏だ」

 鈴音は僕に向けて、「しーっ」と右手の人差し指を唇に当てると、その手で携帯を取った。左手は男根を握ったままだ。

「もしもし? なになに?」

 友達とはしゃいでいる時とは明らかに色の違う高揚を感じ取る。そのテンションは手コキにも影響を及ぼし、如何にも友達の性処理といった大雑把な上下運動から、指を絡みつかせるような艶めかしい動きへと変わった。

「今? ツッチーと遊んでる」

 彼女のその言葉と感情には何の裏表も無い。僕らは今、確かに遊んでいるだけなのだ。

「今度の日曜? うん。全然大丈夫」

 鈴音の鼓動が恋の調べを鳴らすのがわかった。

 左手の手つきがより妖艶になり、人差し指の腹で亀頭を撫で回される。トロトロと流れる我慢汁が彼女の指輪にも垂れていたが、彼氏との電話に夢中な鈴音はそんな事に気付けないし、僕も口を開くと喘ぎ声を上げてしまいそうだった。

「マジで? やばい。めっちゃ楽しみ」

 おそらくデートの誘いなのだろう。鈴音の声は小さく抑えられ、いじらしい愛らしさを見せる。それと同時に人差し指の腹がくにくにと鈴口を優しく押し込み、その刺激で精液が尿道を駆け上がるのを感じた。

 僕は視線で鈴音に訴えかける。

「あ、ちょっとごめんね」

 彼女は堂島さんに断りを入れると、携帯を持った右手を膝元に下ろし、すっと顔を僕の耳元に寄せて囁いた。

「声、我慢出来る?」

 僕は唇を真一文字に結んだまま頷くと、鈴音は「じゃあこのままぴゅっぴゅしちゃって良いよ」と軽快に囁き、顔の位置を戻した。携帯を耳元に戻しながら僕を見つめ、『いっぱい射精してね』と無言で唇を動かした。

「ごめんごめん。ツッチーが箪笥の角に足ぶつけちゃったみたいで」

 そして堂島さんとの会話に戻りながら、左手で上下に扱く。

「それじゃ、うん、細かい行き先とかはまた二人で決めよっか……え~。あたし? あたしはいつも通りだよ。二人でならどこでも良い派。あはは。『俺も一緒』はダーメ。うん、うん……じゃあね。またね……え~、今日はそっちから切ってよ。この前あたしから切ったじゃん」

 ニコニコと通話しながらイチャつく鈴音の左手で、僕は再び盛大に射精した。顎を天井に向けるように上半身を反り返らせて腰を浮かすと、びゅるるるるっ、と精液が鈴音の頬に飛んだ。それでも特に気にした様子も無く、射精中の男根を労わるような扱き方に変える。

「あたしはぶっちゃけこのまま彼氏の声聞いてたいんですけど?」

 鈴音はおどけるように唇を尖らせる。うっすら頬を紅潮させているその顔つきは、どこからどう見ても恋する乙女だ。射精の余韻を軟着陸させるような優しい扱き方も、親友に対する気遣いが見て取れる。指輪は垂れてきた精液で既にドロドロだ。

「ん? ツッチー? どうだろ。まだ身悶えてるっぽいけど……喋れる? 彼氏が変わってほしいって」

 僕は何とか頷き携帯を受け取る。鈴音は両手で男根を握ると、交互に搾り取るような動きを見せた。

「はい。土屋です」

『堂島だけど、少しお久しぶりかな?』

 たった一言で伝わる爽やかでスタイリッシュな声に、僕はうっとりとさえする。鈴音の親しみやすさもそうだが、こればかりは先天的な資質だろう。

 そこらの男ではキザったらしく滑稽に映る発言や仕草を、堂島さんはごくごく自然にこなす事が出来る。長身痩躯で軽くパーマが掛かった黒髪、掘りの深い顔立ちの彼はヨーロッパの街並みが似合いそうな大人の男性だ。

「そう、ですかね」

『いつも真理と仲良くしてくれてありがとう』

「いえ、そんな、こちらこそ」

『真理は男友達も多いんだけど、その中でも土屋君だけはずっと特別視している節があるんだ。良い意味で異性を意識せずに接する事が出来る男友達が出来たと、凄く嬉しそうに話してくれた事もあってね』

 深い知性を感じる声色の奥に、恋人の喜びを心から祝福している彼氏としての気持ちを感じる。

「……僕も、鈴音とは男とか女とか関係無く、仲良くやれていると思います」

 僕は尿道に残った精液を鈴音の手で搾り取られ、びゅっ、びゅっ、スカートや太股に飛ばしながらそう伝えた。

『そういう友情はとても希少だから羨ましくもあるよ。とにかく真理は土屋君との関係性をとても喜ばしく思っているみたいだから、俺からも改めてお礼が言いたかったんだ。ありがとう』

 年下の、それも学校では空気のような僕に、全くの憐憫も見下しも無く、ただただ一人の男として対等且つ素直に礼を言う。年齢もたかが三つか四つほどしか違わないのに、こんな完成度の高い人物がいるのだなと感服するしかない。

 そんな僕の敬愛を知ってか知らずか、鈴音が根本を殊更ぎゅっと強く握り、そこからじっくりと先端まで絞られて思わず呻きそうになる。やがて鈴口からどろりと濃い精液が垂れるまで僕が恍惚で口を開けずにいると、『それじゃあ土屋君もまたいつか一緒に食事でも』と堂島さんが社交辞令による締めの挨拶を口にした。少しでも礼を失したくないと、なんとか言葉を振り絞る。

「……はい。いつかまた」

 通話が切れると、鈴音が「何て?」と聞くので、「これからも鈴音と仲良くしてやってあげてね的な話」と言葉を交わした。

 鈴音が精液でドロドロになった左手の薬指を見せつけると、「このむっつりエロエロちんぽ」と僕を冗談めかして責めるように笑った。

 僕は自分の頬を指差し、鈴音の頬に精液が付着している事を教える。それを手の甲で拭った鈴音は愉快げに口角を持ち上げ、マイクを持っているようなジェスチャーで僕に手を差し出した。

「どうですか土屋選手。彼氏と電話している女友達に顔射した気持ちは?」

「感無量です。これに満足せず、シーズン通して結果を残していきたいですね」

 無表情でそう返す僕に、鈴は手を叩いて爆笑した。僕も咄嗟のボケにしては、中々上手くこなせたと満足感に浸った。やはり僕らの間には、性的な行為は普段のじゃれあいの延長にしかならない事を証明する空気で満たされていた。

 汚してしまった鈴音の服を入れた洗濯機を回して部屋に戻る。親が帰るまでには乾燥も余裕で間に合うだろう。

 女の子の私物を家で洗うのは中々に非日常的行動だ。しかし昔も似たような事があった気がしないでもない。いやあれは僕が洗ってもらったのだったか。僕のトラウマに関わる部分なのだろうか上手く思い出せない。そんな引っ掛かりを抱えながらも、部屋の扉の前に到着するとノックした。自分の部屋なのに変な気分だ。

「入って良い?」

「ほーい。オッケーだよ」

 扉を開けると僕の学校のジャージに着替えを済ませた鈴音が出迎える。僕はけして体格の良い方ではないが、それでもやはり袖を余らせていた。

「やっぱツッチーも男の子だね。ブカブカだよ」

 彼女はそう言いながら袖を折るとベッドの縁に腰掛けた。

「親が帰ってくるまでには乾燥も終わると思うから」

「ん。ありがと」

 鈴音はジャージという事もあり、ベッドの縁で無防備に胡坐をかくと、僕を見上げてニッ、と少年のような笑顔を浮かべた。

「いや~。ツッチーの隠れた一面見ちゃったね~。ワイルドな本性っていうの?」

「人聞き悪いな。僕は言われるままだっただろ」

「あんなに激しく迸るとはね~」

「言い方」

「いや合ってるじゃん」

 確かに誤解でも何でもない。文字通り激しく迸ったのだ。しかし性的な話をしている雰囲気ではない。鈴音はとても楽しそうだが、勿論下ネタが楽しいわけじゃない。また一つ僕達の友情が男女という壁を乗り越えた事が嬉しいのだろう。そして彼女はその強度はまだまだ上がると思っているらしい。

「めっちゃツッチーの匂いする」

 襟に対して鼻をすんすんと鳴らす。

「洗濯済みだけど」

「え~。でもするって」

「もしかして僕って臭い?」

 今まで友達が居なかったので、他人から見られる自分に疎い部分があるかもしれないと不安になる。

「すっっっっっっっ…………」

 彼女は数秒息を止めると、「………っっっごく安心する匂い」と言って笑った。

「これパジャマにしたら安眠出来そう。という事で頂戴?」

「やだよ。学校で必要なんだし」

「男の子なんだし裸で走り回りなさい」

「無茶言うな」

「あぁでもさ、卒業する時にジャージの交換とかしよっか? サッカー選手みたいに」

「僕が鈴音のを貰っても着れないから雑巾にするしかないんだけど」

 彼女は「ひっど」と笑うと「いやぁそれにしてもさ、マジでツッチーとはこう……なんていうの? より友達になったって感じするよね?」と先程の共同男の子タイムについて言及した。

「まぁ激しく迸るところを見られちゃったからな」

「あたしも太股見られちゃったし。太いの気にしてんのに」

「いや鈴音の太股凄くエロかったよ。本当。自信持って良いと思う」

 僕の忌憚の無い意見だが、女の子的にはやはり脚は細ければ細い方が良いらしく、「そりゃどうも」とどこか納得していない様子で苦笑いを浮かべた。

「とにかくさ、話を戻すんだけど、あたし達ってもっともっと友達になれると思うんですよ」

 僕が要領を得ないでいると、鈴音は胡坐のまま座っている場所をベッドの縁から中央に移動して、自分の目の前に座れと言わんばかりにベッドをポンポンと叩いた。その指示通りに僕も彼女と対面して胡坐をかいた。

「つまりさ……」

 彼女は笑みを浮かべたまま一度だけ視線を横に逸らすと、再度僕を見つめた。その表情には一摘まみの照れと、あとはもう自信に溢れていた。

「……キス、しちゃおうぜ」

 きっとそれでも、あたし達は友達で居られるから。彼女の宝石のような瞳がそう語っていた。

 彼女の考えている理屈や、望んでいる事はもうわかりきっているので、野暮な突っ込みはしない。ただ事実だけを返す。

「僕、した事無いんだけど」

「あ~……やっぱ初めては好きな人とが良い?」

 三つ葉ちゃんの顔が浮かぶが、彼女とキスをする自分など想像も出来ない。そんな事は端から夢物語なのだ。

逆に鈴音とそうする事に対する抵抗感は驚くほどに薄い。手を繋ぐくらいのスキンシップの延長線上にしか思えず、どうしても鈴音と唇を重ねる事に、何ら特殊性を見出す事が出来ない。

「いやそういうのは全然気にしてない」

「……じゃあ良い?」

「別に良いけど」

 彼女が小さく咳払いすると、僕もそれに倣い、そしてどちらからともなく顔を寄せると程なくして唇が触れ合った。僕のファーストキスが余りに気軽に滞りなく完了した。まるで落ちた消しゴムを渡すくらいに軽々しかった。それでも鈴音の薄い唇はとてもぷるぷるで、それと唇同士で触れ合うのは単純に心地良かった。

「……どうすか? ファーストキスの味は」

「うーん。グレープフルーツ?」

「それさっき食べてたガムだね」

「じゃあそれだ」

 友達同士でキスをしたのに、その感想は羽毛のように軽い。鈴音も予想通りだったという顔をしている。

「でも鈴音の唇、凄く気持ち良かった」

「じゃあもっとする?」

「じゃあ折角だし」

「何それ」

 鈴音がくすくす笑いながら顔を寄せてきて、今度は立て続けにちゅっちゅと唇を啄み合う。一々鈴音の唇が気持ち良い。唇同士で触れ合うという行為も、その度に気心が知れていくようで心地良かった。

 僕と鈴音はいつの間にか両手を正面から指を絡めて握り合っていた。カーテンを引いてなかったので、まだまだ夕暮れには遠い燦々とした日差しが僕らを照らしている。

 まるで出会った頃からキスをしていたかのように自然に唇の接触を繰り返す。

「なんかどんどん友達になってく気がするね」

 鈴音のその言葉に同意するよう、彼女の薄くぷるぷるな唇を迎える。僕達が唇を押し付け合う事に特別な意味など無いかのように、ちゅっちゅとキスをしながら会話も交える。

「あとさツッチー。前から思ってたんだけど、あたしだけツッチーをあだ名で呼ぶのなんか距離感じるんだけど」

「じゃあ『鈴』で」

「安直」

「『ツッチー』の名付け親に言われたくない」

「一理ある」

 僕達は唇を密着させたまま笑い合った。吐息が直接鼻腔をくすぐる。鈴の甘いフェロモンは僕にとって友情の芳香でしかない。

挿絵2

「そういえばさ、最近三つ葉ちゃんとはどうなん?」

「別にどうもないよ。店には通ってるけど」

「いい加減本格的にアタックしようよ。あたし応援するからさ」

「……正直自信無いんだ」

 鈴の顔が少しだけ離れると、彼女は僕を真面目な顔でじっと見る。

「あたしはさ、例えダメだったとしても気持ちは伝えるべきだと思う」

 そう言って母性すら感じるくらい穏やかに僕の唇を啄むと、殆ど唇が触れ合っている距離で優しく囁いた。

「……綺麗事でも他人事でもないよ。ツッチーの事だから、真剣に考えてそう思った」

「わかってる。ありがとう。善処するよ」

「なら良いけど……どうする? キス続ける?」

「出来れば。鈴とこうしてると落ち着く」

「あたしも。ツッチーとキスしてるとほっとする」

 鈴は嬉しそうに、でも普段通りの気さくな声色で微笑んだ。

「じゃあ将来、ツッチーが三つ葉ちゃんと付き合った時に、メロメロに出来るようなキスを教えてしんぜよう」

 そう言うと彼女は僕の下唇を自身の唇でそっと挟み、そのまま甘噛みしながら左右に唇を滑らせたり引っ張ったりを繰り返した。確かに背筋がぞくぞくするほど気持ち良かった。

「……ほい、ツッチーもやってみて」

 自分がやられたキスを模倣して親友に返す。すると鈴の握る手がきゅっと強くなり、「んっ」と吐息が漏れた。

「……上手いじゃん。エロいエロい」

「先生が良いんだよ」

 鈴が「わかってんじゃーん」と微笑むと、ちゅ、ちゅ、とじゃれ合うように唇を押し付けた。彼女の唇が、今度は僕の上唇を挟む。

 そんな官能的なキスをしながらも、僕らは事前に厳重なる約束を交わしていたかのように、舌は差し込まなかった。それは友達のキスではないという共通の認識があったからだ。

 いくら高揚しようがただの性欲に流される事は無い。僕らが行っているスキンシップは、『普通のキス』とは全く別の回路に存在していたので、漏電する危険性も感じられない。

 ただしそれはあくまで意識や心の問題で、身体は性的な刺激に反応はする。鈴は視線を一瞬僕の股間に向け、そしてくつくつと笑った。

「……おちんちん、また元気になっちゃってるよ?」

 僕は上唇を甘噛みされたまま、彼女の下唇を挟んだ。まるで唇での交尾のようだった。その状態で彼女が囁きを続けるので唇の微振動がくすぐったい。

「……触っていい?」

 唇で繋がったまま頷くと、「僕も鈴を触りたい」と返し、やはり彼女も唇を離さないまま頷いた。

 鈴の細く長い指が股間に張られたテントをそっと包むと、僕はジャージの上から鈴の爆乳を下から持ち上げるように触った。

 鈴の乳房はずっしりと重かった。そしてジャージとブラジャー越しでも、そのぷるるんと揺れる瑞々しい弾力に僕は戦慄した。

「……さっきあんな射精したのに、メチャクチャ硬いね」

「……鈴、凄く柔らかいよ」

 同時に真逆の感想を口にする。何だか僕と鈴の心のどこかが、また一つ重なった気がした。僕らは微笑み合いながら唇を突き出して、友愛を確かめる儀式のように唇を押し付け合った。

 言葉も無しに僕らは意思疎通すると、やはり同時に互いの両手が同じ意味の作業を行った。

 鈴の手が僕のベルトを外してスラックスと下着を下げたので、僕も腰を軽く上げてそれを補助する。再び勃起した男根が晒されるが、先程と違うのはスラックスと下着が完全に脱ぎ取られた事。中途半端に脱がされて、僕が窮屈そうな仕草をした為だ。

 僕の手は鈴が着ているジャージのファスナーを上からゆっくり下ろしきると、それを脱がして上半身をブラジャーだけにした。その際にやはり鈴も肩を揺らして、脱がしやすいように協力してくれた。次いでウエスト部分に手を掛けると、僕と同様に鈴は腰を浮かして脱ぎ取らせてくれた。

 ベッドの上で向かい合って座る僕らは、鈴は下着のみ、僕は上半身のシャツのみになった。

 鈴の半裸はもう眩しいの一言だった。均整の取れた肢体に、そして乳房と腰回り、そして太股は魅惑的な肉が付いている。男を発奮させる究極の曲線。

 鈴が両手で僕の勃起した男根を包み、ゆっくりと上下に擦る。思考が激しい性的な高揚に陥ると同時に、性器へ直接伝わる彼女の体温に安らぎも感じた。その優しくも煽情的な動きが、肉槍の筋肉を軋ませて増大させる。

 キスの応酬ですっかりと我慢汁塗れになっていた肉竿は、いつの間にか彼女の華奢な手の平でにゅるにゅると粘り気のある摩擦音を奏でていた。

「さっきも思ったけどさ、ツッチーって意外と熱い男だよね」

「……それはどういう意味で?」

 彼女はニヤついたまま僕の唇を軽く吸うとそのままの状態でくすくす笑い、両手で肉竿を擦り上げた。

「おちんちん的な意味で。触ってるだけで汗掻いちゃうくらい熱い」

 その言葉通り、鈴の乳房はうっすらと汗で湿っているように見えた。

 確かめるように乳房を揉むと思ったよりブラジャーはしっかりしていたが、それでもジャージの上から触るのとはまた段違いなぽよんぽよんとした弾力が手の平に伝わる。

 直接触ってしまったらどうなってしまうんだと考えると同時に、僕の手は彼女の背中に回っていた。

 鈴が殊更表情をニヤつかせ、僕を挑発するように見る。

「外し方わかんの?」

「……見守っててくれ」

 僕の精一杯の強がりに、鈴は楽しげに「オッケ」と返すと左手で竿を掴み、右手の人差し指の腹で我慢汁が止め処なく溢れる亀頭へ円を描くように弄り出した。視線はじっと僕を見守る。

 経験不足と多少の緊張も加わりブラジャーのホックを相手に悪戦苦闘していると、「ゆっくりでいいからね。がんばれ~」と軽やかに、そして優しく鈴が微笑んだ。僕の緊張を煽らないようにとの彼女の配慮を感じる。

 言い訳ではないが、彼女のホックは想像していたよりも背中から浮かなかった。胸が大きいとそれだけパツンパツンになってしまうのだろうか。とにかく中々上手くホックが外せない僕に対して、鈴はにまにまと口端を歪めた。それはやはり敢えてからかう事で、僕が劣等感などを持たないようにしてくれているようだった。

「にしし。焦ってる焦ってる」

 亀頭を指でぐにぐに突きながら、僕の焦燥を解そうと普段よく見せる気さくな笑顔を向ける。

「一人でブラ脱がせられたら、ご褒美にえっちぃ事してあげる」

 僕もなんとか軽口を返す。

「何それ。どれくらいエロいの?」

「ん~?」

 再び鈴の両手が竿を包み、搾り取るような扱き方をする。

「……このおちんちんが、もう辛抱堪らんってガッチガチになるくらい」

「もうガチガチなんですけど」

「もっと。思わずおちんちんからあたしへの白い友情がぴゅっぴゅって漏れちゃうくらい」

「白い恋〇みたいに言うな」

 互いに多少は声が上擦っているが、基本的には教室で交わす時と同じ調子で会話をしていた。そのおかげでリラックス出来た僕の指がようやくブラジャーのホックを外すと、さらりと大きなカップのそれがはだけた。

 乳首がつんと上を向いた釣鐘形の美爆乳が、やや外側に向いて解放された。メロンやスイカに匹敵するGカップの質量である。なのに鈴のそれは下着の力を失っても殆ど垂れる事が無かった。

 あまりに理想的な爆乳に視線が釘付けになっている僕を、鈴は口元をにやつかせながらジト目で睨んだ。

「ガン見しすぎ。あとおちんちんバッキバキにしすぎ」

 鈴の指摘をスルーして僕の両手が生乳に伸びる。真正面から鷲掴みにすると、まず掴み切れない事に驚愕する。片方の乳房を完全に包み込むには両手が必要だろう。

 指先を沈めるように指を曲げると、ぷるんと弾き返す弾力と、むにゅりと柔軟に指を受け入れる柔らかさを両立している。

 僕は確かにその瞬間、宇宙空間に意識が飛んでいた。神が作り上げた奇跡の感触。そして極めつけは肌の触り心地だ。見た目の質感通りにツルツルすべすべした肌触りに加え、もちもちと指に吸い付いてきたのだ。

 鈴はくすぐったそうに微かに身体を揺らすと、おどけるように言った。

「土屋選手。初めての生おっぱいはどうですか?」

 力を込めると指の間から乳肉がぐにゅぐにゅと漏れるのを愉しみながら応える。

「両親が帰ってきたら、彼らに『僕を産んでくれてありがとう』と感謝を伝えたいと思いました。それくらい感動してます」

「親孝行でよろしい」と鈴音がくつくつ笑うと、「……じゃあ、ご褒美の件なんですけど……」と顔を寄せて、僕の上唇を唇でくにくにと甘噛みしながら囁く。それは僕に表情を見られたくない照れ隠しでもあるようだった。

「……口でしてあげよっか」

「え?」

 一瞬意味がわからずに聞き返すと、彼女は顔を離して「にしし」と笑った。やはり気恥ずかしさをノリで誤魔化しているように見える。屹立した男根を両手で撫でながら、彼女は親しみやすさを強調して演じた。

「だから、フェラチオで、このパンパンのおちんちんからザーメン抜いてあげよっかって言ってんの」

 口による性器への奉仕。そんな行為は僕にとっては外国の風習のように非現実的だった。しかも鈴のような校内でも指折りの美少女ならば尚更だ。

 動揺で返事が出来ない僕に業を煮やしたのか、鈴は両手で男根をぎゅっと握りしめると、恥ずかしそうに上目遣いで僕を睨んだ。

「……どうすんの? フェラしてほしいの? してほしくないの?」

「……してほしいです」

 僕の返事に鈴は安堵するように口端を緩ませた。性的な障壁を友情で打ち破りつつも、どこかで引かれるんじゃないか、という不安は彼女にもまだあるようだった。そんな懸念を払う為か、彼女は殊更茶化すように言った。

「ツッチーからお願いのチューしてくれたら咥えてあげる」

 そして目を瞑り、顎をやや上げ、「ん」と僕の唇を待ち構える。

 果たして今の彼女に恋心を抱かない男がどれほど居るのだろう。その愛らしさに感心しながら、僕はフェラチオへの期待から、血色の良い友達の唇に軽くキスをする。

 彼女は目を開けてニヤリと笑うと肘で僕の肩を突きながら「ツッチーのエッチ! ドスケベ!」と囃し立てる。

 にまにまと頬を緩ませながら、彼女は僕のシャツのボタンを上から外していった。

「言っとくけど、あたし結構自信あるから」

「堂島さん仕込み?」と僕が尋ねると、少し照れ臭そうに「あ~、まぁそれもあるかも」と微笑んだ。

「楽しみにしとく」

「マジで口の中でおちんちん溶かしてあげるから。覚悟しといた方が良いよ?」

 僕だけが全裸になるのも違和感があったので、シャツを脱がされながら僕は彼女のショーツの腰紐に指を掛けた。彼女はそれには言及せずに僕と言葉を交わしながら腰を浮かして、僕と同時に全裸になった。

 僕はそのままの体勢で、彼女は僕の股間に顔を埋める形でうつ伏せに寝た。見下ろす彼女の背中は頼りないほど細かったが、臀部の肉付きに僕は驚いた。寝た状態でもぷりんと盛り上がり、丸みを帯びてまさに白桃のようだった。男と同じ部位のはずなのにこうも差異が出るものなのかと、感銘を覚える。

 僕と鈴は示し合わせたように両手の指を絡めて軽く握り合った。鈴の顔が僕の男根のすぐ隣にある。彼女の吐息が竿に掛かってくすぐったい。

「なんかリクエストある? ここが弱いとか、ここ嫌いとか」

 僕を見上げて口にするその声色や表情は、まるでランチの店を相談するかのような雰囲気だ。

「初めてなんだからわかんないよ。お任せで」

「にしし。オッケ」

 まず根本に、ちゅっ、と音を立ててキスをされた。勃起した男性器に受ける女性の唇の感触というのはそれだけでもう全身を痺れさせる。肉竿が激しく揺れた。

「こーら。暴れないの」

 鈴が男根に話し掛けながら、ちゅ、ちゅ、とキスしながら亀頭へと向かっていく。その途中で彼女は僕を見上げて挑発するような笑みを浮かべたが、それは少し無理をしているように見えた。

「なんかさ、これってさ……普通なら最後までしちゃう流れになっちゃってるよね」

 何と返していいかわからずにいると、鈴も無言で舌の腹で裏筋を舐め上げたり、鈴口に尖らせた唇を何度も押し付けたりしていた。その度に僕は未知の甘い刺激に、身体を痙攣させるしかなかった。

 鈴の唇が、手での固定が不要なほどに直立する僕の男根の、その先端を包もうとするのを感じる。これから咥えられるのだという予感。そんな時、鈴の方から握る手がきゅっと強まった。

「……あたしはさ、ツッチーとなら別に良いからね。友達だし」

 そう言うと、彼女の唇が亀頭を滑るように呑み込んでいく。

「あぁっ」

 性欲と筋肉の塊が、友情に包まれる。唇は根本近くまで這っていったが、舌は動いていない。

 彼女的にはまだ何もしていないに等しいのだろう。それでも他人の口の中の温もりは、それだけで身も心も蕩けさせていく。

「……やばい鈴……本当に溶ける」

 無意識に彼女の手を握る力を強めると、何とも情けない声を漏らしてしまう。

 鈴がゆっくりと首を戻して、口を離すと、優しげな視線で僕を見上げ、掠れた声で囁く。

「良いよ。あたしのお口で、おちんちんトロトロに溶かしちゃお」

 そう言って、再び咥えて唇を滑らせていく。舌や吸引を一切使わない、温もりだけを与えるそのフェラチオは、初めての僕に過度な刺激を与えない彼女の配慮が感じられる。

 しかしそれは十分、天にも昇りそうな快感を僕に与えていた。

 鈴は先程よりも長く、僕の男性器をただただ頬張り、じっくりと温めてくれた。

 十秒くらいだったのかもしれないが、その時間はまさに至福だった。ただ性技に優れる女性相手でもこんな幸福感を得る事が出来ないだろう。僕と鈴だからこその穏やかな繋がり方。

 それだけでも男根の根本がヒクついた。射精の前兆だ。鈴は刺激しないようにゆっくり口から引き抜く。

「射精ちゃいそうになってたね」

 そう言って微笑み、更に視線で『もう少し長く楽しみたいでしょ?』と僕に語り掛けてきた。

 僕も肯定の意を視線で返すと、鈴は先程とは逆の順番で、ちゅ、ちゅ、と根本に向かって優しくキスをしていく。その間、握り合った手はいちゃつくように指を弄り合っていた。

 そんな緩やかで甘い安らぎの中、想像すらしていなかった方面から刺激を受ける。

「うっ」

 鈴が僕の睾丸に唇を這わしたと思ったら、そのまま口に含んだのだ。そして優しく舌で転がされる。友達の唇と舌で睾丸を愛撫されるのは酷く背徳的で背中が痺れた。

「堂島さんにもそういう事するの?」

 僕の質問に鈴は少し楽しそうに応える。

「彼氏はちょっと嫌がるんだよね。なんか怖いんだって。ちょっとした刺激でも痛いとこなんでしょ?」

 その辺の男の人の事情は理解してるから大丈夫だよ、と言わんばかりに優しく睾丸にキスをした。

「あたし的には男の人のここ、可愛くて結構好きなんだけどな~。ツッチーは大丈夫?」

「確かにちょっと怖いかも。でも唯一の親友だしね。信じるよ」

「にしし。まっかせなさい」

 ちゅっちゅと睾丸にキスをすると、男根がビクビクと切なそうに揺れる。鈴口からはどくどくと精液のように我慢汁が漏れ続けている。それが竿を伝って根本まで垂れると、鈴はそれを舌で受け止めるように舐め取った。

「精子増産中だね」

 しかしながら今更だが、こんな事をしながら僕達は堂島さんや三つ葉ちゃんの話題を普通に出す。互いにこれが性行為だという認識は極めて希薄な所為だろう。性的快感を与え合う事で友情を深めているとしか考えていなので、お互いの恋愛事情は全くの別腹となっている。

 鈴が睾丸をはむはむと頬張りながら、恋人のように繋いだ手で、僕の手の甲を人差し指でかりかりと擦った。

「……で、どうする? ツッチー的にはこのまま口で射精しちゃいたい?」

 鈴は先程から時折言葉に漏れていた自身の気持ちを、再度僕に投げかける。

「……あたしは、このままツッチーとしちゃいたい」

 視線を伏せたまま呟かれたその声には、微かな不安が混じっていたが、それを乗り越えようとする彼女の意志が感じられた。

「ツッチーとなら、きっとセックスしても、『ただの友達』のままでいられると思うから」

 不思議な感覚だった。これがただの可愛い女友達なら、ヤリたい、と性欲に流されたかもしれない。あり得ない想定だが、三つ葉ちゃんならただただ愛したいと情念を燃やしただろう。

 しかし今、鈴に向いている僕の感情は、明らかにそのどちらとも違った。友達として彼女の気持ちに応えたい。彼女と一つになって、楽しい事や辛い事だって共有したい。

 少し不安そうな彼女の手を強く握り返す。

「鈴……」

 僕の呼び掛けに彼女が顔を上げる。視線を交わしたまま、僕は改めて自分の気持ちを彼女に伝えた。

「……僕と友達になってください」

 鈴も身体を起こすと、「こちらこそこれからもよろしくお願いします」と頭を下げた。その後見つめ合うと、「今更かよ」と二人でへらへら笑い合って、ちゅ、っと気さくにキスをした。

 それがセックスの合図となった。それは却って僕ららしいと思った。

「あたしコンドーム持ってるから。どうせツッチー持ってないっしょ? 使う予定無いもんね」とからかわれたので、「いざって時に練習する為に買ってある」と僕が返すと鈴は爆笑した。

「男なら全員そうだし」と言い張るけれど、鈴はけらけら笑いながら「はいはい。男の子男の子」とあしらった。

 僕がコンドームを着用しようとするところを、彼女が応援とからかいの比率半々の視線でじっと見つめる。

「本当にちゃんと着けれんの? あたしがやってあげよっか? ん?」

「大丈夫だから」

「ちょっと手ぇ震えてるし。ウケる」

「童貞なんだから仕方無いだろ」

 確かにセックスを前にした緊張感は無くはない。しかしそれとは別でどこか吹っ切れた僕達は、あまりに肩の力が抜けた様子で言葉を交わす。他人が耳にしたら、これからセックスする二人とは思えないだろう。

「あたしが上になった方が良い?」

「いや、正常位でさせて欲しい」

「三つ葉ちゃんといざって時に上手く出来なかったら格好悪いもんね」

「何度も言うけど、あの子とそんな関係になれるなんて夢にも思えないってば」

 鈴が僕のベッドに勝手知ったる様子で横になると「ビビってちゃゼロパーセントだよ?」と、にやにやしながらも僕の恋を本気で案じてくれた。

 しかし彼女の美乳は本当に一々僕を感動させる。仰向けに寝そべっても少々左右に開くだけで、たぷんと柔肉による丘を形成したままだ。脇腹から腰にかけてしっかりくびれているのも、その豊かさを余計に強調する。

 その美乳に全く引けを取らない美脚を左右に広げると、彼女の股の間に腰を下ろす。陰毛はとても薄かった。

 女性器に対してはグロテスクな先入観を抱いていたが、鈴の性器を目にするとそんな印象は吹き飛んだ。男性器を迎えるようにやや開いた大陰唇はつるんとしていたし、膣口は乳首と同様に控え目な桃色だった。柔らかそうな肉壁がぬるぬると湿っているように見える。

「これって濡れてるんだよね?」

 僕としては濡れてない状態で挿入して、彼女の身体に負担を掛けたくないという心づもりだったのだが、彼女は恥ずかしそうに視線を横に逸らした。

「……だってツッチーのおちんちん、エロい形してんだもん」

 そして一転攻勢に出ようと彼女は僕を小馬鹿にするように、「それより挿入れるとこわかるの?」と口端を歪めた。僕は正直に答える。

「最初はリードしてもらえると有り難い。場所はわかってるつもりだけど自信が無い」

「素直でよろしい」

 彼女の手が黒いゴムを纏った僕の男根の根本をそっと固定し、そして肉槍の穂先を自らの恥部に押し当てた。

「……ここ?」

「……ん。そのまま腰ぐっと突き出して、入ってきたら良いから」

 流石に僕達の声に照れが混じる。挿入直前の独特の緊張感。

 そんな淫らな空気を追い払うように、鈴が作り笑いを浮かべると、やはりカラっと乾いた口調で言った。

「男とか、女とか、性行為とか、そんなのあたしらの友情の前には関係無いって証明してやろうぜ」

 僕は頷くと、「じゃあ、いくよ」と声を掛けた。意識してそうしたわけじゃないけど、こんな男らしく言葉を発せられるのだなと自分に驚く。鈴も「うん、おいで……本当の友達になろ?」といじらしく返した。

 滑るように、ごくごく自然に、僕らは一つとなった。まるで繋がっているのが当然のように。

 その瞬間鈴は目を瞑り、「んっ」と聞いた事も無い音色で声を漏らした。

 僕の剛直が嘘のように、鈴の狭い膣口を押し広げながら、にゅるりとその中に侵入した。肉竿が根本まで鈴の胎内に姿を隠す。こちらから差し込んだはずなのに、呑み込まれた、という風に感じた。

 鈴の中はとにかく温かかった。フェラチオは蒸気で蒸されるような温もりだったが、こちらは勃起した男根のみをお湯に浸からせたような心地良さがある。

 鈴の中は狭く、触れ合っていない箇所が無いほどぎゅうぎゅうに密着しているので、ゴム越しとはいえ男根で満遍なく彼女の体温を受け取る事が出来た。

 鈴がゆっくり目を開けて僕を見つめる。

「……どうすか?」

 彼女が知りたいのは、僕の脱童貞の感想などではない。

「友情ってあったかいなって、再認識したよ」

 それが僕の気持ちの全てで、そして鈴の聞きたかった答え。彼女の満面の笑みは安堵に満たされていた。

「だしょ?」

 セックスに及んでも微塵も揺らがなかった気持ちは何だかとても崇高に思えて、互いを誇りに思う気持ちが僕らの口元を緩ませた。そして鈴が普段通りの飾らない笑みと口調で言う。

「もう動いて良いんだよ? おちんちんガッチガチじゃん。気持ち良くさせてあげなよ」

「どう動いたら良いのかわかんないんだけど」

「うーん。そればっかりはあたしもわかんないなぁ。とりあえずツッチーがやりやすい感じで振れば良いんじゃね? その内慣れてくるよ」

「いや、というか鈴がどう動いて欲しいとかあるのかなって」

 鈴がくつくつと笑う。

「お、童貞なのに一丁前な事言うじゃーん」

「いや男としてどうこうじゃなくて、友達としての気遣いというか」

 僕の言葉に鈴は「んー」と視線を斜め上に向けて逡巡すると、にへらと照れ臭さを隠すような笑みで僕を見た。

「ぶっちゃけツッチーの大きいし反り返ってるから、普通に動いてくれたらそれでめっちゃ気持ち良さそうだな、と思いました。マル」

「大きいのは嫌って声もネットとかで見るけど」

 僕は彼女の開いた両膝に両手を置きながら、聞きかじった意見をぶつけてみる。

「あ~。確かに友達でそんな事言ってる子もいたね。まぁ結局は相性とかだと思うよ」

 男性器が根本まで女性器に埋まった状態で、世間話のような調子で言葉を交わす。

「あれだけ僕の巨乳好きをからかっておいて、鈴も大きいのが好きなんじゃん」

 僕が珍しく意地悪を言うと、鈴は不貞腐れるように唇を尖らせた。

「だって大きい方が『入ってる……』って感じがするんだもん。好きな人と繋がってる感っていうかさ。友達相手でも一緒だよ」

 その言葉を受けて僕はようやく腰を前後し始めた。彼女ともっと交わりたい。

「んっ……んっ」

 鈴が再び目を閉じて、断続的に吐息を漏らす。

「はぅ……あっ……はぁっ……」

 男根が陰唇を掻き分けたり吐き出されたりを繰り返す。他人の中を自身が往来するその光景は眩みを覚えるほどに背徳的だった。

「……ツッチー……気持ち良い?」

「……正直、いつ暴発してもおかしくないくらい気持ち良い」

 鈴のぬるぬるでぎゅうぎゅうな挿入感は、僕のぎこちない摩擦でも容赦無い恍惚を与えてきた。

 彼女は眉根を下げながらも、僕をフォローするような優しく笑顔を作る。

「んっ……んっ……んっ……ツッチー初めてなんだからさ、色んな事考えないで、ただ気持ち良くなっちゃえば良いんだからね?」

「ありがとう」

 友達セックス特有であるその気遣いの気持ちに、僕は肩に力が入っていた事に気付かされた。脱童貞で無意識に緊張していた部分もあったのかもしれない。

「んっ、んっ、んっ、んっ」

 ピストンがリズミカルになるとベッドが軋みの音を上げた。鈴のきゅっと閉じた口元から漏れる吐息も間隔が狭まる。更には彼女の閉じた瞼に強張りが増していく。

「やっ、あぁ……ツッチー……腰の振り方、上手になってきたじゃん」

 そんな中でも、鈴は気さくな笑みを僕に向けようと努める。それでもどこかぎこちない。

「凄く緊張してるけどさ、でもやっぱり鈴が相手だからまだリラックス出来てる方なのかも」

 友情に感謝しながらも、視線はどうしても揺れる爆乳に目がいく。僕の不慣れなピストンでも、それはぷるんぷるんと皿の上のプリンのように揺れた。

挿絵3

「……おっぱい見すぎ」

 彼女はそう笑うと、「えいっ」と折り畳んだ両腕で乳房をぎゅっと中央に寄せて僕に見せつけた。むりゅりと左右から押し潰されながら、仰向けとは思えないほどのボリュームを見せる。

 その光景は僕の鼻息と腰使いを機関車にさせた。

「あっ、あっ、あっ、あっ、やだっ、ツッチー、はげしっ」

「ごめん。痛かった?」

 鈴はむぎゅりと胸を寄せたまま切なそうに僕を見上げ、首を左右に振って、「……めっちゃ気持ち良かった」と恥ずかしそうに言った。

 僕の心の機関車が蒸気を噴き上げた。

「あっあっあっあっあ! やっ、ツッチー、マジですごっ、いっ…………はぁっ、あっ、あんっ、あんっ!」

 鈴は喉と背中を少しだけ反り返らせた。暫くは胸を寄せたままだったがそんな余裕が無くなったのか、両腕が左右にぱたりと落ちてシーツをきゅっと掴んだ。拘束から解かれた美しいGカップが縦横無尽に揺れる。

 流石に初心者の僕に激しいピストンの継続は難しく、一旦休止すると二人で息を荒らげた。鈴の額に玉粒のような汗が浮かんでいるのを確認すると、僕も背中にじっとりと汗が広がっているのを感じた。

 僕達の陰毛は互いの愛液でびっしょり濡れていた。そんな中、鈴は呼吸を整えながら、にやりと笑った。

「……ツッチーもやっぱさ、男の子だね。元気で結構結構。にしし」

 身体で繋がっていると心も繋がりたいという願望が生まれる。それが、するすると吐くように僕の気持ちを口

にさせた。

「僕はさ、人にはそれぞれ合う水があると思ってる。鈴みたいに誰とでも仲良くなれるとも、なりたいとも思わない。そんな鈴の哲学は尊重するし、誇りにも思ってる。それでも僕はこれからもきっと、こんな風に生きていくと思う」

「うん。ツッチーはそれでいいと思うよ」

 鈴は両手をそっと僕の手に重ねて、認めてくれた。そんな彼女に向ける言葉に迷いは無い。

「ありがとう。鈴は僕にとって、最高の友達だよ」

 その言葉に鈴の身体と心がきゅんきゅんと疼いたのが伝わった。膣が男根をぎゅっと抱擁した。

 勿論それは恋心などではない。そもそもどちらが上という話でもない。僕と堂島さん。鈴と三つ葉ちゃん。どちらも比べられない。全く別のカテゴリの存在だ。ただ僕らの関係のそれは、繁殖欲などが混じる恋愛と比べて不純物は皆無に感じた。

 鈴は僕に両手を開いて伸ばすと、「……ツッチー。チューしようぜ。友達のチュー」とにっこり笑った。

 僕が身体を倒していくと、彼女の両腕が僕の首に巻き付き、そして、ちゅう、と甘い音を鳴らして唇を押し付け、吸い合った。恋人同士ならもっと甘い音が鳴るのだろうか。

 ちゅっちゅとキスをしながら、鈴が「……続き、しないの?」と掠れた声で囁いた。僕は単純にそれが聞き取れなくて、「え?」と聞き返す。彼女の腕が更に僕を引き寄せ、耳元に口を寄せた。

「……エッチの続き、しよ?」

 耳たぶをはむっと甘噛みされる。

「……ツッチーのおちんちん、もっと欲しいんですけど?」

 くすぐったさで身悶えしていると続けて少しおどけた口調で、でも愛らしく囁かれた。

 上半身まで密着させた体勢なので、先程とは勝手が違ったが、それでも僕は腰を振った。

「んっ、んっ……ふぅっ、く……あっ、はぁ……」

 鈴の吐息が直接耳に掛かると、それだけで脳が溶けそうになる。何より全身で密着しているので、互いの体温が僕らを汗ばませた。僕の胸板で潰れる乳房の感触は、しっかり口を閉じてないと涎が垂れそうなほどに甘美だ。

「ツ、ツッチー……あたしのエッチ中の声ってさ、変じゃない?」

 右手で僕の後頭部を、左手で背中を抱き寄せながら、鈴が切ない声を漏らす。

「正直それだけで暴発しそうなくらいめちゃくちゃ可愛いよ」

「んっ、あっ、はぁっあん…………ホントに? こんなの彼氏に聞けないからさ」

 鈴はこういうところが結構乙女だ。もしくは普遍的な女子の恥じらいなのだろうか。恋人を作った事が無い僕にはわからない。三つ葉ちゃんが相手だったら、確かに射精する瞬間など恥ずかしくて見せられないかもしれない。そんな事を考えていると、彼女が見透かしたように言う。

「友達とするエッチも気心が知れてて乙だけどさ、恋人とするのはまた違った良さがあるよ?」

 鈴は昔から僕の三つ葉ちゃんへの想いとアプローチに思うところがあったみたいだが、僕の気持ちを尊重して強くは言ってこなかった。

 友達を通じて『他人と繋がる』事に対して価値観に変化が訪れ始めた僕に、あくまで押し付けがましくない程度ではあるが鈴が手を引いてくれる。やはり、友達には恋愛でも幸せになってほしいという純粋な想いがあったのだろう。

「……三つ葉ちゃんとどうこうなるなんて考えた事も無かったけど、ちょっと頑張ってみようかな」

 まさに目と鼻の先で、鈴が一瞬きょとんとすると、まるで引きこもりの息子が部屋から出てきた母親のような顔を浮かべる。そして両手両足で僕に抱き着いた。

「マジで超応援するから」

 冷やかしではない。本気で僕の幸せを考えてくれているのを肌と汗と吐息と性器の温もりを通じて感じる。

 僕は両手をシーツにつくと、上半身を浮かせ鈴を見下ろした。

「どうせなら、当たって砕けろ、だよね」

「大丈夫。砕けてもあたしが接着剤で直してあげるから」

 その言葉が心から頼りになる。正直上手くいくとは思えないし、失恋は覚悟している。

 でもそんな僕と一緒に本気で悲しんでくれて、慰めてくれる親友が居るというだけで、一歩進んでみようかという気持ちになれた。

「その時はお願いするよ」

 ゆっくり腰を振り始める。

「んっ、んっ、んっ…………任せてよ、にしし……」

 男らしい宣言をしたのだから、男らしい行動を伴おうと力強いピストンを見せる。

「あっ、あっ、あっ、やばっ、あたし……本気で喘いじゃいそう」

 鈴の手が僕の肘辺りを掴む。

「あっあっあっ、それっ、やぁっあっあっ、ツッチーっ、あぁ、いいっ、あっい♡ きもちっ♡」

 鈴の声が明らかに際立って溶けた。いつもの鈴からは想像も出来ない媚びたような声。目を閉じて顎を引いた口も半開きになっている、

「いっいっ♡ やぁっ、はっ……あぁんっ……あっあっ♡ ツッチーっ、おっき♡」

 鈴は一瞬だけ目を細めて開けた。そして顔を横に向けて、あくまで独り言として呟いた。

「……やば……マジでどー君より大きい」

 どー君とは、鈴の堂島さんに対する呼称である。明らかに僕に聞かせるつもりの無い言葉だったのだろうが、喘ぎ中という事もあり、声量の調整を失敗してしまったのかもしれない。僕は聞こえなかった振りをしつつも、雄としての優越感を煽られてピストンが加速した。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」

 ベッドが激しく軋み、摩擦する結合部はぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。

「……こんなやらしい音がするんだね」

 経験が無い僕としては、セックス自体がこういうものなのかという意味の言葉だったのだが、鈴はどうも自身が責められたという捉え方をしたみたいだった。

「やっ、違っ、あっあんっ♡ ツッチーの勃起ちんぽが、エロい形してるのが悪いんだからねっ?」

 その言い方からすると、彼女が普段よりも濡れていて、その事について恥じらっている事が窺い知れた。友達としてそこは触れずに、とにかくピストンを続ける。僕ももうとっくに限界なのだ。

「あっあっ♡ さっき射精してたのに、こんな硬いしっ…………あっあっ、いっあぁっ♡ はぁ、はぁ、ん……はぁ……来ちゃう……」

 鈴は切羽詰まった様子でそう言うと、どこか不満というか納得がいかないといった表情で僕を睨み上げた。

「……イっちゃいそうなんですけど!?」

「はい?」

 彼女は額や胸にも汗を浮かべ、はぁはぁと呼吸を荒らげながらも、無理矢理苦笑いを浮かべると、両手で僕の頬をつねって左右に広げた。

「ツッチーのおちんちんが気持ち良いから、中イキしちゃいそうって言ってんの!」

 そして顔を横に向けると僕を責めるように「童貞ちんぽの癖に」と唇を突き出した。

「なんか怒ってる?」

「……怒ってない。ただあたしの思い描いていたプランと違う」

「一応それ聞いとくよ」

「こう、オロオロするツッチーをですね? あたしが妖艶なお姉さん的な感じでリードすると言いますか」

「妖艶て」

 僕は声を出して笑ってしまった。確かに鈴の身体は本や映像で見る誰よりも煽情的で洗練されていたが、僕が彼女に抱く内面を含んだ印象からは余りに遠い。というか真逆だ。

 僕の頬をつねる鈴の両手の力が強まる。

「何笑ってんの。こっちはクラスの男子にオカズにされてんですけど? 立派な妖艶キャラでしょうが」

 鈴も一緒になって笑う。あれほど本気で不快そうに言っていたクラスの男子にオカズにされていた話も、僕との色々な行為を通じて笑い話の種に出来るくらいにはなったらしい。

 そして鈴は両手を離すと、「はぁ」とわざとらしくため息をついた。

「ま、良いけどさ。でも一人でイクのは恥ずかしいから、ツッチーも一緒じゃなきゃヤダかんね?」

「それは大丈夫。僕ももう限界だった」

「なら良し」

 とん、とん、と腰を振る。

「あっ、んっ♡」

 直前まで軽口で笑い合っていたのが嘘のように、蕩けた声と摩擦音が部屋を甘くする。

「あっ、あっ、あっ……ツッチーのおちんちん、マジできもちっ……♡」

 鈴が切なそうに「……ツッチー、手」と言う。僕は要望通りに両手をシーツに押さえ付けるように握ると、彼女は縋るように僕の手を握り返して見つめてきた。

「……ツッチーだけだからね?」

 下腹部が射精感で満たされ始めた僕は無言で腰を振る。

「……あたしでオナっても良い男友達は、ツッチーだけだから」

 笑い話には出来たが、やはりそこは彼女なりに思うところがあるみたいだった。

「……このエッチも思い出してオカズにしちゃったりする?」

「……絶対すると思う」

 鈴は眉を八の字に下げて、唇をきゅっと閉じた。そして普段通りの笑顔を浮かべようとしたが、僕のピストンでそれは無理だったようで、切なそうな顔のまま口を開く。

「いいよ……いっぱいシコって……あたしとヤった事思い出して、勃起したおちんちん、シコシコしていいよ」

 彼女の手に籠もる力が強くなると、膣も同様に狭まるのを感じた。そこで彼女はようやく数秒だけだが、普段通りの気さくな笑みを浮かべる事に成功した。

「……そんでいっぱい射精さないとダメだかんね? 勃起ちんぽ、沢山気持ち良くして、どぴゅどぴゅって精子いっぱい射精してくんないとダメだから」

「……わかった。鈴でオナニーする時は、絶対沢山射精すようにするから」

「……にしし。よろしく」

 その会話が僕達に残された余力だった。腰に詰まった絶頂の前兆はもう破裂寸前の水風船のようだった。

 僕が遮二無二腰を振ると、鈴ももう茶化そうとはしない。頑張って気さくさを出そうとするが、切なさと笑みを混ぜたような表情を浮かべていた。

「……一緒にイこうね?」

 マラソン大会みたいだなと思ったが、もう僕にもそんな冗談を口にする余裕は無い。

 鈴の膣内は本当に温泉のように温かく、結合部では男根の存在が不確かなほどにトロトロに溶け合っていた。

 ベッドの強度が頼りないと思うくらい軋ませて腰を振る。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡ ツッチーのちんぽっ、射精したくてガッチガチ♡ あんっ、あんっ♡ 強すぎっ♡ 射精ちんぽ、強すぎだってば♡ あぁっ、あっ♡ はっあっ♡ イクっ、イクっ♡ イクイクイク♡ ツッチー、大丈夫? 一緒にイケる? じゃあさ、一緒にイこっ♡ あっあっあっ♡ あああぁっ♡」

 彼女が一際大きな声を上げるのとタイミングを合わせて大きなストロークを敢行する。

「イックッ♡♡♡」

 僕らの両手が握り合う強さが最高潮を迎えると、鈴の中で溶けていた男性器が膨張し、そして爆ぜた。それは僕の知る射精の感覚とは少し違い、夢精で精通した時のような未知なる刺激を想起させた。

 同時に頭の中でも白い何かが拡散した。コーヒーに垂らしたミルクがその苦みを甘さで浸食していくように、じんわりと僕から理性を奪う。

 気が付いたら、少しでも男性器を鈴に結合させるように腰を押し付け、彼女の名を連呼しながら射精していた。

 彼女はそんな僕を愛でるようにじっと見つめていた。愛でるといっても、その愛の種類は言うまでもない。

 鈴の細い指が、僕と握り合っていた手を優しく握り直してくれる。その所作は、初めての性交による絶頂で白い波に攫われている僕を助けてくれているようで、妙に安心させた。

「……そのまま全部、あたしの中で射精し切っちゃって良いからね?」

 その言葉に甘えるように、腰をぐっ、ぐっ、を押し込むと、正常位でM字に開脚していた鈴の脚が、それに合わせて揺れ、同時にびゅっ、びゅっ、と狭い膣に搾り取られるように精液が射出された。鈴は「んっ、んっ♡」と射精に合わせていじらしく喘ぐと、「……にしし、おちんちんから気持ち良いの、いっぱいビュッビュした?」と見覚えのある親しみやすい笑顔を浮かべた。

 僕らはセックスが終わると全裸のままベッドで並んで寝転がって、暫くその余韻に浸っていた。

 僕らを照らす日差しはまだまだ昼下がりのそれだった。

「今更だけどカーテン開けっぱだし」

「やっぱり閉めるものなの? 覗かれるような場所じゃ無いけど」

「ちっ、ちっ、ちっ。そういう問題じゃないんだなぁ。女の子にはマジマジと見られたくないものがあるんだよ。ぶっちゃけあたしもツッチーだからその辺油断してた」

「今からでも閉めとくよ」

「ちょっと暑いくらいだもんね」

 カーテンを閉めて薄暗くなった部屋は、何だかセックスの余韻の香りが残っている気がした。

 鈴も僕に追従するようにベッドの上で上体を起こすと、にやりと口端を上げた。

「……ヤっちゃったね?」

「ね」

 僕達は一緒に悪戯を犯した少年のようにくすくす笑った。

「これからもよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします」

 どちらからともなく頭を下げて、冗談っぽく今後の友情を誓い合う。

「あ~、しかしホンット晴れ晴れしい気分だわ~」

 ようやく得られた本当の男友達の前で、全裸で気持ち良さそうに伸びをする鈴からは、その言葉通りに清々しさを感じる。

「セックスしても『それも友情の内』なんて言える男友達はツッチーだけだろうけどね」

「どうだろうね。鈴ならこれからも沢山の友達を作るだろうから、僕みたいな人もいるんじゃないかな」

「うーんどうだろ……いないと思うけど。ツッチーは?」

「僕は間違いなくこんな友達、人生で鈴だけだよ」

「ほら~、そう思うっしょ? 絶対あたしもだって。ツッチー以上の親友なんて作れっこないもん」

 お互いが唯一無二の親友だと主張し合う。素で言い合っていたのが時間差で照れ臭くなってきた。

 鈴も同じ気持ちらしく、くすぐったそうに言った。

「……ちょっと今のあたしら青春ポイント高すぎた?」

「何だかエッチするよりも恥ずかしい」

「よし。チューして誤魔化そう、ほらほら」

「意味わからないけど」

 鈴が小さく突き出した唇を指でトントンと叩くので、僕は顔を寄せてちゅっとキスをした。

 やっぱり意味がわからなかったけど、きっと意味なんて無いのだろう。こんなじゃれ合いは暇つぶしの範疇だ。

 僕らはそのまま唇を押し付け合っていると、ふいに鈴が呟いた。

「そういやさ、これからどうする? 時間まだまだあるしさ、三つ葉ちゃんのとこ行ってみない?」

「……行ってどうすんの」

「そりゃまずは電話番号聞くでしょ」

「それはいきなりハードルが高すぎるって。碌に話した事ないんだよ?」

「じゃあどうすんの。悠長に天気の話でもすんの?」

 恋愛相談をしながら唇を押し付けるキスが、唇を甘噛みし合う動きに変わる。

「それすらする自信無いよ。顔合わすだけで店の外の天気忘れちゃいそう」

「めちゃくちゃ好きじゃん。初恋か」

 僕の返答に鈴は悪意の無いにやにや顔を浮かべた。女子同士の恋愛話で見せるような表情だった。

「鈴だって堂島さんの時は花も恥じらう乙女な感じだっただろ」

「流石に天気の話くらい出来たし」

 そんなコイバナをしながらでも、キスをしているといつの間にか僕は勃起をしていた。それを鈴が特に言及する事もなく手で触ってくるから、僕も彼女の胸を触る。

「とにかく、電話番号くらい聞けないと何も進まないじゃん」

「でもそんなの聞いたら僕が彼女に気があるってバレバレなんじゃ……」

「いやむしろそこからアピールしないとダメでしょ。それこそ突然『好きでした』なんて引かれる事のが多いよ? んっ、ちょっとこら、乳首はビクってなるじゃん」

「ごめん。偶々当たっちゃったんだって。でも確かに、いきなり見ず知らずの人に告白されても怖いか。ところで乳首舐めても良い?」

「良いよ、まぁツッチーの場合お客さんとしての面識はあるだろうけど」

 僕はどうしたものか思案に耽りながらも、鈴の薄桃色の非常に綺麗な乳首を口に含んだ。

「んっ、ふぅ…………それくらい三つ葉ちゃんにも気軽に話し掛けられれば良いんだけどね」

「捕まるよ」

「態度の話に決まってんでしょ。誰がいきなり『乳首吸って良い?』なんて話し掛けろってアドバイスするか」

 鈴が楽しそうに笑いながら、僕の男根をぎゅうっと掴んだ。

「名前もわかんないんだもんね。お店の子なのかなぁ」

「それは多分そうだと思う」

 鈴の乳首はほんのり甘い気がした。こりこりとした乳頭を舌で転がす度に、彼女は小さく肩を震わせる。

「……ツッチー。こっち来なさい」

 鈴はそう言って僕の手を引いて床に腰を下ろした。僕は手を引かれるままベッドの縁に腰掛けさせられた。

 何をするのかと思っていると、鈴は僕の股間に割って入り、勃起した陰茎にキスをしながら見上げてきた。

「例えばなんだけどさ、先にあたしが三つ葉ちゃんと仲良くなるってパターンもありじゃない?」

 なるほど。僕一人じゃ考えもしなかった妙案だ。感心していると、鈴が男根を咥えてフェラチオを開始していた。しかも先程のようにただ咥えるだけじゃなく、舌を巻きつかせながら首を振り、ちゅくちゅくと音を鳴らしている。当然受ける刺激は前回の比ではない。

 鈴は一旦口を離すと、「あ、今度は本気でしゃぶるから」と何気なく言った。

「そういう事は事前にちゃんと申告しといてほしいんだけど……」

 僕の苦言も知った事かと鈴は僕を見上げたまま首を振る。くっちゅ、くっちゅ、くっちゅ、という音と共に裏筋を這う鈴の舌の腹の感覚と、カリを扱くぷるぷるの唇に、僕は背中を反り返すほどの快感を受ける。

「……あのさ、僕さっきまで童貞だったんだよ? 手心ってもんをさ……」

 鈴は一旦口を離すと鼻で笑った。再び姿を見せた陰茎は鈴の唾液で淫靡に濡れている。

「あたしも初エッチで狼狽えるような可愛げのあるおちんちんなら情けをかけたけどさ。ツッチーってば、あたしの事めちゃくちゃよがらせたよね? 更にイかせたし? それでよく手加減しろなんて言えるね?」

「いや言うよ。それは当然の権利でしょ」

「はい。ギア上げまーす」

 僕の声など聞こえないかのように、鈴は耳に掛かった髪を掻き上げ、大きく舌を出しながら咥え直す。

 じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽ。

「ううっ!」

 ギアを上げるの言葉通り、舌の巻き付き方、首の振りが激しくなる。とてもじゃないが心身共に抵抗出来ない。

フェラチオとは男性上位のように思えるが、少なくとも今この瞬間、僕は完全に捕食される側だった。

 鈴はすぐには射精させないように、口を離して悪戯っぽく「にしし」と笑い、先端から根本、カリの裏まで丁寧にキスを這わせていく。

「何でこんなにおちんちんパンパンにしてんの?」

 わかりきった事を聞いてくる鈴は、まるで獲物を弄ぶ猫のようだった。こんな時でも僕らは寸劇を始める。

「もう勘弁してください」

 僕が大袈裟なくらい情けない声を出すと、鈴も限界まで低く抑えた声で応える。

「ダメだ。この童貞ちんぽの罪は重い。ギルティだ」

 あまりに馬鹿らしくて僕らは吹き出してしまう。普段の軽い調子に戻った鈴が微笑む。

「じゃ、全力でフェラっちゃうから、ツッチーの好きなタイミングでぴゅっぴゅしちゃっていいかんね?」

「ちょっと待って、さっきの段階で気持ち良すぎてやばかったのは本当だから、ちょっと手加減して欲しいんだけど」

 鈴は小首を傾げて「ん~?」と僕を見上げた後、声に出すか出さないかの声量と、唇の動きで僕に『だ、め』と伝えた。そして「覚悟決めちゃえ」と囁きながら亀頭に軽くキスをした。

挿絵4

「いただきます」

 彼女は品良く言うと、亀頭を咥えた。ゆっくりしたストロークで根本辺りまで頬張り、そして戻る。その際に舌がにゅるりと竿に巻き付けられる。

 この時点で僕はもう背骨が抜かれていた。しかし友人の口淫はここから更に加速していく。

 くっちゅ、くっちゅ、じゅっぽ、じゅっぽ。

「ぐっ」

 正直こんなの一分も保たない。僕は縋りつくように鈴の両手を握った。

 僕の苦痛にも似た表情を上目遣いで確認した鈴が、介錯をしてやろうと指を絡めた手で伝えてきた。

 彼女はより首振りを速め、更には頬を凹ませて吸引という新たな刺激を追加したのだ。

 僕は友情に感謝するものの、せめて現状維持のまま抜いてほしかった。

 ジュプッ、ジュプッ、ジュプッ、ジュプッ。

「そんなのダメだって」

 僕は女の子のような声を上げた。それが皮肉にも鈴のテンションを上げたようだ。

 ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ。

 先程のセックスよりも如実に、男性器が蕩ける感覚を味わっていた。彼女の唇で、舌で、唾液で、ギチギチに凝り固まった筋肉の塊が、彼女の口の中で確かにどろりと溶けた。

「あぁっ、出る!」

 セックスはまだ能動的に射精出来たが、フェラチオは完全に主導権を奪われながらの絶頂だった。犯された、とすら感じた。

 このまま口に出すのはしのびないと腰を引こうとしたが、鈴は握り合った手を引いて逃してくれなかった。

 友達の口の中で射精する僕を、鈴はからかうように見上げ、目線を合わせた。

 彼女がきつつきのようなフェラチオをやめて、口で射精を受け止めてくれている。だが僕は、自分の男根が彼女の口の中でどうなっているのかすらわからないほど惚けていた。

 それでも自分が絶頂している、という事実だけは理解していたし、それが終焉に近い事もなんとなくわかった。射精が終わり、彼女のフェラチオから解放されるという近い未来はある種の安堵を覚えるほどに、鈴のフェラチオは快楽が過ぎた。究極の快楽は苦痛にも近く、このままずっと彼女に咥えられていたいという願望と、もう勘弁してほしいという嘆願が混在していた。

 どちらにせよ解放の時は近いと考えていると、彼女が頬を凹ませ、じゅるるるるるる、と勢い良く啜った。

下腹部から根こそぎ何かが吸われた感覚を覚える。

「あぁっ、鈴っ、お願い、あっ、あっ、もう射精ないからぁっ!」

 感情に乏しいと自覚している僕が、恥も外聞も無く甲高く喘ぎながら命乞いをしてしまう。

 鈴が吸引を止めると、ほんの少しだけ男性器の感覚が戻ってくる。

 鈴はゆっくりと搾り取るようなストロークを見せ、すぼめた唇で扱かれた男根の先端から、どろりと精液を漏れ出たのがわかった。

 鈴は口の中の精液を漏らさないように、唇を丁寧に亀頭に這わせながら口を離す。ようやく解放された肉槍は外気に触れてとても寒々しく感じた。

 苦しさすら感じたはずだった鈴の口がもう既に恋しい。麻薬のような口淫だった。

 鈴は精液を口に含んだまま僕を見上げた。僕は急いでティッシュを探したが、それよりこっちを見ろと言わんばかりに僕の太股をぺしぺしと叩く。見下ろすと、彼女は僕に向けて見せつけるように大きく口を開けた。

 三発目とは思えないほど濃厚で多量の精液が、彼女の口の中に溜まっていた。

 その淫靡を極めた光景に、思わず見惚れてしまう。呆けた僕を見て、鈴は目元に笑みを浮かべて唇を閉ざす。

 そして目を瞑って少しだけ俯くと、ごくりと喉を鳴らして嚥下した。それから、にぃ、と口端を持ち上げる。

 鈴は再び僕と目線を合わせ、空になった口腔を僕に見せつけた。

「ツッチーのザーメン。めっ……………………ちゃ苦かったんですけど?」

「飲めなんて言ってないし!」

「あと凄くドロドロ。まだ喉がイガイガする」

「自業自得だし!」

 思わず声も大きくなるし、耳たぶが赤くなっているのを自覚した。友達に精液の味を知られるのは、自分の恥じらいの琴線に触れたらしい。鈴は笑みを浮かべながら、僕の太股を今度はぽんぽんと気さくに叩く。

「にっしっし。まぁまぁ。そう照れなくても良いじゃん」

「……なんか精液飲まれるのって思ったより恥ずかしいんだよ。凄くパーソナルな情報というか」

「あ~。まぁ確かに遺伝子そのものだもんね」

 少しだけ仰角を下げた鈴口から、精液がとろりと滲む。鈴はにやりと挑発的な笑みで僕を見上げた。

「……いや、もう良いから」

 僕が危険を察知して後ずさりをしようとすると、彼女もずいっと身を乗り出す。Gカップのおっぱいが太股の付け根辺りにぷにゅりと乗って、何とも心地良い。

 そんな状態で彼女はわざとらしく寂しそうに甘える表情と声色を僕に向ける。

「……ツッチーの精子、おかわりしちゃダメ?」

 鈴の演じるぶりっ子は冗談として演じていると相手に伝わるが、それでも大抵の男は恋に落ちるだろう。それは鈴も自覚している。だからこそ彼女は、男友達に対してこの程度の冗談も許されなかったのだ。

 そしてその鬱憤は僕に向けられる。しかし僕は可愛いとは思うが、それ以上の感情は持ち得ない。

「苦くてイガイガするんでしょ?」

 どれだけ可愛く振る舞おうが、素っ気なく返す僕に、彼女はむしろ嬉しそうに身を寄せる。

「ええい。けちけちするな。ティッシュが勿体無いし、あたしが飲んであげるっつってんの」

「ティッシュくらい駅前で貰えるから」

「森林伐採反対」

 僕らは互いに手四つの状態になりながら、取り留めの無い会話を楽しむ。

 結局僕が根負けして、再び男性器が鈴の口内に収まった。外気で冷えた男根が温もりに包まれる。

「……鈴、せめて吸うのは本当手加減して。あれ意識飛びそうなほど気持ち良いから」

 その懇願に鈴は咥えたまま左手でOKサインを作った。そして約束通り、ちゅう、と優しく吸う。

「うぅっ」

 それでも腰が浮きそうなほどに心地良い。鈴はアイコンタクトで『これくらいなら大丈夫?』と尋ねてきたので、ふわふわした気持ちでなんとか頷く。それを確認すると鈴は続けてちゅうちゅうと吸った。

「あぁ……鈴」

 また女の子のように喘いでしまう。鈴は口を離さないままこくこくと喉を鳴らして、新たに湧き出る我慢汁を嚥下していた。そして精液がもう残ってないかを確認するように舌先でぐりぐりと鈴口を押し込んでくる。

「……もう出ないって」

 鈴の首が、男根を労るようにとてもゆっくりと上下した。

 くちゅ、くちゅ。

 ヒクつく肉竿を慰める、ねっとりとした唇と舌が這う。彼女の友達想いな一面が色濃く出た、情け深いフェラチオ。身も心も溶けそうな穏やかな快楽と幸福に身を委ねる。

 先程と同じように、亀頭から口を離す直前まで唇で包み込みながらゆっくり顔を離す。唾液と精液が混じった粘液が糸を引いた。

 彼女はそれを指でそっと切ると、その指を小悪魔的な微笑みで舐めながら僕を見上げた。

「……ふーん。ツッチーはこの精子で女の子を着床させるわけだ?」

 彼女は僕の恥じらいをピンポイントで突いてきた。自分の排泄物について語られるのは普通に恥ずかしい。軽口を返す余裕も無く顔を背けた。耳たぶが熱い。

 生まれて初めてというくらいの恥辱の中、どういうわけか僕の男根は唸りを上げるようにギチギチと勃起していた。

 僕らは少し気まずそうに笑い合うと、交わした視線で意志を疎通した。僕がコンドームの箱から新しいのを一枚取って封を切る間、鈴は軽やかにベッドの上に移動する。

「さっきの話だけどさ、どうする? あたしから三つ葉ちゃんにアプローチしよっか?」

「うーん。どうしようかな」

 コンドームを装着しながら、ベッドの中央に座していた鈴へ振り返る。女の子座りで両手を前に置いた鈴は無意識だったのだろうが、美爆乳がむにゅりと寄せられていた。

 彼女は親しみやすい笑顔で「どうやってする?」と体位を聞いてきた。恋愛相談とセックスが僕らの中では何の違和感もなく同時進行する。

「じゃあ後ろからで」

 鈴が小首を傾げながら不思議そうに僕を見上げる。ゴムを装着して勃起した男根をまるで野良猫を撫でるような気安さでつんつんと突くと、今度は意識的に両腕で胸をぎゅっと寄せて視覚の暴力で僕を攻撃した。

 効果は抜群で、それだけで心臓がドクンと跳ねて、肉槍も辛抱堪らんとビクビク揺れた。

 寄せて上げられて、まるで小さな顔くらいには盛り上がった胸の谷間を見せつけながら鈴は言う。

「バックだとツッチーの大好きなこれ見れないよ?」

「だからだよ。鈴のおっぱいは視覚的刺激が強すぎる。あと表情も普段とギャップあってエッチだし」

「なるほど。つまりすぐイっちゃいそうになると?」

「平たく言うとそうなる」

「自己管理の鬼ですなぁ」

 僕を茶化すと、ちゅっと彼女から唇を押し付け、その場で反転して四つん這いになった。そんな鈴の背中を、カーテンから漏れる陽光が照らす。染み一つ無い綺麗な背中に思わず見惚れてしまった。

「てかヤってる時のあたしの顔エロい?」

 突き上げられた彼女のお尻に照準を合わせる。陰唇はぱっくりと開き、ヌルヌルと濡れるピンク色のひだひだした肉壁が丸見えだった。見るからに挿入したら気持ちが良さそうで、男根が期待に震える。

「凄く切なそうな顔するよね鈴って。挿入れるのってここで合ってる?」

 鈴が頷く。彼女の愛液は既に太股まで垂れていた。何ならフェラチオをしていた時に彼女が腰を下ろしていた床も濡れていた。

 相変わらず指を挿入するのですら躊躇する狭い穴なのに、にゅるりと男根は呑み込まれた。

「あっ」

 柔肉できゅうっと締め上げられながら滑るように根本まで差し込むと、二人同時に心地良さで吐息を漏らした。二度目の結合だが、何だか故郷に帰ったような安らぎを感じた。

「んっ、やぁ」

 鈴は挿入されると微かに背中をくねらせて、ねだるように更に腰を突き上げたように見えた。

 真上から見る鈴の臀部はまさに桃尻といった様相で、激しく打ち付けたくなる肉感と柔らかく受け止めてくれるだろうという安心感を兼ね備えていた。

 両手で尻肉を掴むと想像よりも遥かに柔らかく、たっぷりした肉は指を沈み込ませたが、乳房よりも強い弾力で押し返してきた。

 目線を上げると、そこから更にきゅっとくびれたウエストが見え、全体的に華奢な背中が僕の視覚を性的に大きく揺さぶった。何より細い背中の左右から、横乳も覗き見えていたのだ。

「顔だけじゃなくて声もエッチだよ」

 僕としては素直に称賛したつもりだが、鈴は不貞腐れるように返した。

「……エロいのはツッチーのおちんちんだっての」

 少し弱々しくなった声で、鈴は指を折って何かを数えた。

「……もう三回も射精してるのに、カッチカチじゃんかさ」

 僕は手探りのように腰を振る。それだけで白桃はパンパンと小気味良い音を鳴らす。

「あっ、あっ!」

「あのさ、普通は何回くらいするものなの?」

 鈴は既にはぁはぁと呼吸が浅くなり、声にも砂糖が降り掛かり始めていた。

「ど、どー君は……多くても二回だけど…………あっあっあっ! やばっ、ツッチー、それっ、あんっ、あっ、はぁっあっ!」

「どれ?」

「……それだって」

「どれかわかんないよ」

 そんな応答の最中も鈴の桃尻に腰を打ち付けると得られる、むっちりとした感触にやみつきになっていた。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡ それ、ダメっつってんの♡」

「やっぱわかんないって。どっちにしろ腰止まらないよ。鈴のお尻エッチすぎる」

「やっあっあっ♡ そこっ、奥っ、奥っ♡ ちんぽでズンズンしちゃ、変になっちゃうじゃん!」

 後背位からの挿入は、自身が鈴の桃尻に埋没していく様子がより鮮明に映った。親友と深く一つになっているのを、視覚でも確認出来る事が多幸感を煽る。

 すぐに射精の前兆を感じたが、僕はもっと彼女と繋がっていたいと、何とか腰を振りたい欲望を抑制する。

 とはいえ鈴のうねうねした膣壁は、雄にただ結合だけを許すほど寛容ではない。鈴の膣内は本能的に射精を促してくるのだ。

 僕は許しを乞う気持ちを込めて、亀の歩みのようなスローペースで腰を前後させた。

 気が付けば額から汗を流していた。

 鈴の背中もじっとり汗ばんでいるし、彼女の呼吸は深く荒くなっていた。

「……ツッチー。一番奥、ズンズンしてくるの、もう禁止ね」

「痛かった? ごめん」

「……そういうわけじゃないけど、とにかく禁止!」

 彼女は有無を言わさぬ物言いでそう言った。だが別に怒っているわけではなさそうだったので、緩慢なピストンを続けながら先程の話題を振る。

「あのさ、さっきの話なんだけど。やっぱり僕が直接声を掛けられないとダメだと思うんだ。そりゃあ確かに鈴だったらすぐに三つ葉ちゃんと友達になれるだろうけどさ」

 一往復に二秒ほど掛けたストロークでも、ガチガチに勃起した男性器とトロトロに蕩けた女性器は、くちゅくちゅとセックス特有の水音を鳴らしていた。そうした中でも鈴は浅い息遣いのまま、僕の恋の行く末を真摯に考えてくれる。

「うん、あたしもそれが一番良いと思う。てかツッチー、男らしいじゃん。良いよ良いよそういうの」

「なんか鈴とセックスしながらだと、少し気が大きくなるというか安心感があるというか」

 少しずつだがピストンのストロークを大きくさせていく。

「今もおちんちん、めっちゃ男らしいままだもんね。にしし」

「まぁ曲がりなりにもセックスしているんだから、男性ホルモンが分泌されてるのかも。一人の時に弱気にならなきゃいいけど」

 もうすっかりセックスと呼べるほどのピストンに戻っていた。僕がパシンと下腹部を打ち付けると、鈴の桃尻から心地良い反動が返ってくる。まるで餅つきのような共同作業だと思った。

「大丈夫! ちゃんと途中までついてってあげるし、あっ、なんなら店の外で見守ってるし!」

 小さな喘ぎ声が混ざる鈴の声が嬉しそうに弾む。僕が前向きになっている事を心から応援している気持ちが、声と桃尻の反動と膣の温かさから伝わる。

「ありがとう。それは本当に心強いよ」

 僕もその感謝をピストンに乗せる。

 打ち付ける音が、パチュ、パチュ、パチュ、という水音に変わり、にゅる、にゅる、にゅる、と友情というテーブルの上に愛らしい声が混ぜられる。

「あっ、あっ、あっ♡」

 鈴に言われた通り、奥を強く突かない程度に根本までぎゅっと挿入する。

「これくらいだったら大丈夫?」

「う、うんっ、あっいっ♡ それくらいなら、丁度良い感じっ♡ あっあっ、ツッチー、ありがとねっ、あっあっ、それっ、きもちっ♡」

 互いを思いやりながら交わるのは何と幸せなのだろうか。多少はエゴとエゴのぶつかり合いの側面を持つ恋愛では、こうはいかないのだろう。

 鈴は更に背中を反らせ、そして両手でシーツをぎゅっと握った。その仕草は妙に艶めかしく映ったが、彼女の口から出る言葉は、やはり『女』としてのものではなかった。

「……ツッチー。さっきはごめんね……強引に精子飲んじゃって」

「いいよもう別に」

「ツッチーがマジで恥ずかしがってるってわかってたんだけど、あたし、ちょっと浮かれちゃってたね。調子に乗ってた。ごめん」

「確かに最初は恥ずかしかったけど、ただ鈴に少しでも僕の事を知ってもらえたのは嬉しくもあったんだ。だからさ……その、やっぱり恥ずかしいな、こういう事言うの」

「……言ってほしい。あたしもツッチーの事もっと知りたいし……それにさ、三つ葉ちゃんに電話番号聞くのはもっと緊張すると思うよ?」

 確かにその通りだろう。僕は彼女の安産型のお尻に甘えるように腰を叩き付けながら言う。

「……鈴さえ良かったら、また僕の精子を飲んでほしい」

「あんっ、あんっ、あんっ♡」

 鈴はひとしきり喘ぐと、「……にしし」と小さく笑った。もはや僕らにとって性的快楽の上昇は、下らない会話で笑うのと同じ回路に組み込まれていた。

「……え~どうしよっかな~。ツッチーのザーメン、マジでめっちゃ苦かったしな~」

「鈴が言わせたんじゃないか。じゃあ別に良いけど」

 それが鈴の冗談だとはわかっていたが、僕も照れ臭いので素っ気なく返す。それに対して鈴はやはり楽しそうに「にしし」と笑ったが、丁度気持ち良いところが擦れたのだろう。

「あっあっあっ♡」

 甲高い喘ぎ声が室内に響き、照れ臭そうにはにかんだ後、首だけで振り向いて「良いよっ」と軽快に言った。

「あたしと二人でいる時にさ、男の子タイムしたくなっちゃったらさ……あたしが口で抜いて、そんで、飲んであげる……勃起ちんぽから気持ちいいエロ汁出したくなったら、あたしのフェラチオで処理して、そのままごっくんしてあげる」

「あの吸うのだけは徐々に慣らしてく方向でお願いしたいんだけど」

「あはは。はいはい。あれ、そんな良かった?」

「魂まで吸われそうになった」

「ツッチー、女の子みたいに喘いでたもんね」

 僕らは後背位で腰の動きを合わせながらもクスクス笑い合う。そしてその直後に鈴が「あっ、あっ、あっ♡」と喘ぐ。そこに雰囲気の境界線は無い。

 絶頂の気配が強まると一旦ピストンを休止して、尻肉を掴んでやり過ごす。

 僕の静止に、鈴は射精に向けた激しいピストンを予感したのか少しだけ声のトーンを抑えた。

「……あとさ、実はですね……精液を飲んだのは、ツッチーのが初めてだったりします」

 僕は思わず笑ってしまうと鈴もつられて笑った。

「何でそんなの急に飲もうとしたの」

「何でだろうね。彼氏のとは違って好奇心だけを向けられる気軽な物体というか」

 言いたい事は何となくわかる。恋人の精液はどうしても今後の人生にも深く関わる重い存在なのだろう。

「じゃあ、まぁ、これからもたまに頼むよ」

「たまに? 毎日じゃなくて良いんだ?」

「あんなの毎日されたら僕が死んじゃうって」

「にしし」

 軽口の応酬からそのままピストンを再開する。それは絶頂に向かう為の交接。

 肉と肉がぶつかりあう音。愛液を纏った性器同士の摩擦音。甘さを含んだ嬌声。

 そんな性的な響きと、直前まで交わしていた冗談は、僕らにとって違いは無い。

 どちらも親交を深める為のツールであり、コミュニケーションの一つでしかないのだ。

「あっあっあっ♡ ツッチー、はげしっ♡ ちんぽっ、おっきぃ♡」

「あとさ、そういえばさ……もしかして鈴ってフェラチオしながら濡れてた?」

 図星だったのか、はたまた肉体の昂ぶりがそうさせたのか、鈴の肩甲骨がきゅっと狭まる。

「……秘密」

「教えてよ。僕も鈴の事をもっと知りたい」

 少し意地悪をするつもりで、ぐっ、ぐっ、と奥を突いた。

「あぁっ、あっ♡」

 一際甲高い声を上げると、もうそれ以上は勘弁してほしいといった様子でコクコクと頷いた。

「いつもフェラチオするだけであんな濡れるの? 凄く垂れてたよ?」

 言外に『鈴って凄くエッチなんだね』という含みを持たせる。鈴は恥ずかしそうに答えた。

「そんな事無いもん……てかもしかしてツッチーってドS?」

「別に責め立ててるつもりはないけど」

 にちゃ、にちゃ、にちゃ、と肉槍を突き刺しながらも否定する。

「あっ、あっ、あっ♡」

 鈴はそこで微かに自嘲するように笑った。

「……でも確かに、しゃぶってる時、やばいなぁってくらい濡れてた」

 そして僕を非難するように言葉を続ける。

「……ツッチーのおちんちんがエロいのが悪いんだからね?」

「もうそれでいいよ」

「あぁっ、あっあっ♡ ほらっ、こんなに、エッチなんだからっ♡ やっあっ、おまんこっ、擦れる♡」

 鈴の声の方が余程エッチだと言いたかったが、じりじりと腰に蓄積する甘い痺れが、もうそんな無駄な会話を許さない。

「鈴……僕、そろそろ」

「あたしもヤバいっ♡ てか、もうそこまで来てるっ、かも」

「先にイってもいいよ」

「やだ、一緒が良いっ、ツッチーとイク……ツッチーがびゅるびゅるって気持ち良くなるのと一緒にイクから♡」

「わかった……鈴、強くするよ」

 激しいピストンを覚悟するように、鈴の掴むシーツがより激しく皺で乱れた。

 バンッ、バンッ、バンッ、と鈴の尻肉が僕の腰を受け止める。

「あっあっあっあっあっ♡ すごっ♡ ツッチー、ツッチー♡ まだ? あたし、もう、こんなの、おまんこ壊れちゃうって♡」

「あぁ、る、射精る……鈴、射精すよ」

「来てっ、来てっ♡ おまんこでシコって、ガチガチちんぽからザーメン抜いてっ♡ あぁイクっ♡ イクっ♡ あっ、ちんぽ膨らんでっ♡ あっあっ、きもちっ♡ ツッチーとイクっ♡ イっちゃうっ♡」

「ああっ!」

「……イックゥ♡♡♡」

 まん丸なお尻にぎゅっと下腹部を押し込み、鈴の温もりに根本まで包ませて、どくどくと精を放つ。柔らかく瑞々しい、そしてなにより親しい身体に劣情を受け取ってもらう。

 ただの射精では到達出来ない幸せを、僕の全身に覆ってくれた。

「……鈴」

 もっともっと彼女と交わりたい。縋るように腰をすり当てると、彼女の方からもぐいっと尻を押し付けてきた。頭の奥で脳内麻薬がじわっと拡散すると、連動するように鈴口から精液が漏れた。

 僕は泣きそうになりながらも彼女の中で男根をヒクつかせて余韻に浸りながら宣言する。

「僕、三つ葉ちゃんとの事、頑張るから」

 鈴は言葉を発する余裕が無いようで、ひぃひぃと掠れた息をさせていた。

「……あたしも超頑張るよ」

 感慨深くそう呟くと、崩れ落ちるように上半身をベッドに倒した。

 彼女の応援を無駄には出来ない。その気持ちに応えるようにびゅるびゅると鈴の中で吐精した。

 妙に朝早くに目が覚めた。普段であれば二度寝か、もしくは漫画でも読んだだろう。少なくとも爽やかな朝日を求めて、少し早くに出かけるなどという選択肢は無かったはずだ。

 しかし脱童貞という思春期の男子にとっては夢物語に近いイベントをこなした僕は、無自覚に浮き足立っていたのかもしれない。いつもより三十分も早く家を出ると親も驚いていた。

 普段より道が空いていて気分が良い。仲の良い友人同士の朝の挨拶による喧噪も無い。別に普段それに包まれながら登校する事に居心地の悪さを感じているわけではないが、やはり僕は静かな方が好きらしい。

 そんな僕の足は直接学校には向かずに花丸書店へと向かった。当然こんな時間から営業しているはずもないし、三つ葉ちゃんに出会えるわけもない。童貞を捨てた事で大きくなった気が、自然とそうさせてしまったのだ。

 鈴とのセックスは僕の人生観に多少なりとも変化を加えたようだった。付き合うどころか声を掛けるのも最初から諦めていた三つ葉ちゃんへ、もしかして手が届くのではないかと夢を抱いてしまった。友達で童貞を捨てただけでそこまで思い上がれる自分の浅ましさを恥じる。

 その上で、一歩進んでみたいと思えた。それはやはり友人のおかげだろう。

 とはいえお店のシャッターは当然閉まっていた。開いていたからどうという考えもなかった。ここに足を運んだのは、ただの意思の表明のようなものだった。

 なので不意に声を掛けられた時、僕の心臓は誇張抜きで止まりそうになった。

「まだ開店時間じゃありませんよ」

 長い間油を差し忘れていたブリキ人形のような首の動きで声の主に振り返る。僕の背後には、ゴミ袋を両手に持った寝間着姿にカーディガンを羽織った三つ葉ちゃんが立っていた。

「本、余程好きなんですね」

 彼女は無表情でそう言った。

「いや、本というか、その……」

「映画とかアニメがお好きなんですよね」

 買った本の内容を憶えられている事に喉を詰まらせる。

「あぁ、ごめんなさい。いつも来てくれる方だからついつい憶えちゃって」

 僕の反応を見て、彼女は客としての不快感と誤解したのか、小さく頭を下げた。

「いえ、そんな、僕の方こそいつもお世話になって」

 三つ葉ちゃんには、鈴のように誰をも振り向かせる華と愛らしさは無い。ただ僕の心臓は彼女の前でだけ張り裂けそうなほどに震え、全身に送られる血流に甘酸っぱさを混入させる。

 鈴と話し、触れ合い、そして交わる時とは全く別ベクトルの高揚。鈴と居る時には悩んだ事もない、『何を話せば良い!?』という問いが頭の中を駆け巡った。

「そんでそんで?」

 鈴がぐいっと身を寄せて食い入るように瞳を輝かせた。

「そこで終わりだよ。もう登校時間だったし、『それじゃ』って言って『あ、はい』って感じ」

 鈴はおきあがりこぼしのように反動で大きく仰け反った。椅子がぎったんばったんと揺れる。鈴は紙パックのジュースをストローで啜りながら勿体無さそうに肩を落とした。

「なんだよ~。そのまま電話番号も聞いちゃえよ~」

「そんな流れじゃなかったって。それに、対応するのに精一杯で端からそんなの頭に無かったよ。でも大きな前進じゃない?」

 鈴は、にっ、と笑うと「確かにね。グッジョブだよ!」と親指を立てた。その笑顔は僕らの真上に広がる、雲一つない青空と同じくらい爽快だった。

 予報通りに気温は高くなり、僕達を含む殆どの生徒は袖を捲っている。それとは別で、今朝の事を思い出すだけで全身から冷や汗が湧く。

 僕らを撫でる風は優しい。鼻腔をくすぐる風の匂いに初夏の空気が混じっていた。

 僕と鈴は学校の屋上で昼食を摂り終えたところだった。本来ならば立ち入り禁止なので当然僕ら以外に誰も居ない。近くに背の高い建物が無い上に塔屋の陰に腰掛けているので、僕らの姿を外から確認するには飛行機か衛星からしか不可能だろう。少なくとも晴天には鳥の飛ぶ姿すら見当たらない。

 そもそも何故僕らが屋上でのんびりお昼ご飯を食べられるかと言うと、時間は入学当時に遡る。

 教室ではひたすら空気で人畜無害そうな僕は、厄介事を頼むには格好の生徒だったのだろう。とある教師に使っていない机や椅子を塔屋まで運ぶのを手伝ってほしいとお願いされた。どうせ屋上に出る事も無いので、出入り口である塔屋を机と椅子の一時保管庫として詰まらせても問題無いとの事だった。

 そしてどうしても塔屋に収めきれない場合は一旦屋上にもはみ出して置く、と説明された。その教師は自分が会議などで席を外す事もあるので作業が円滑に進むようにと、スペアキーを僕に渡したのだ。

 結局その時は屋上にまで出る事は無かったのだが、僕はその日、帰ってからスペアキーの存在を思い出した。教師も僕に鍵を渡したのを忘れたまますぐに転勤となり、そもそも使われていない屋上なので鍵の有無が問題になる事もなく、何となく返すタイミングが無いまま今に至る。

「卒業までには返さないとなぁ……」

「その時はあたしも一緒に頭下げに行くってば。共犯だしね」

 どことなく気が重い僕の背中を鈴がぽんぽん叩きながら、カラカラ笑った。彼女が笑ってくれると、それだけで一人で苦悩しているのが馬鹿らしくなる。

 鈴とは時折ここを利用している。天気が良い日には、塔屋の中に積まれた椅子を外に出して、ピクニック気分でご飯を食べると気分が良い。

 その際に鈴は友人に、「家に帰って食べてくる」とか「外で彼氏と食べてくる」と適当な理由をつけて、一人でグループを抜け出してきているらしい。というのも、この場所の存在を多勢に知られたらきっと人が押し寄せて、今度こそ厳重に立ち入り禁止になるのが目に見えているからだ。

「ま、ツッチーとの二人の聖域って事で」

 僕がどこで何をしていようが気にする人間は、学校には鈴以外に居ない。鈴だけは僕の事をよく見てくれている。今日の朝だって平静を装いつつも動揺したまま登校した僕の変調に気付き、授業中にも関わらず携帯で『なんか顔色おかしいけど大丈夫なの? 保健室行く?』とメッセージを送ってくれたくらいだ。

「ご馳走様でした」

 鈴は空になったお弁当箱にお行儀良く手を合わせると、手際良く包んで鞄に入れた。

「いつも思うんだけど、よくそれだけで足りるね」

 僕も大食漢というわけではないが、彼女のお弁当箱はとても小さく見える。

「いやこんなもんでしょ」

 確かに女子にしては平均的な食事量かもしれない。しかし彼女の裸体を見た身としては、あのグラマラスな肢体を維持するには多大な栄養が必要にも思えた。僕のその疑問は表情に出てしまっていたのか、鈴はちょっと慌てた様子で自分の身体を見下ろした。

「え、なに? もしかして太ったとかそういう事?」

「いや全然。それは無いよ」

「じゃあ何でさっきあんな言い方したん?」

 鈴が訝しむ目つきで問い詰めるようにぐっと顔を寄せる。彼女は僕の機微に敏い。ほんのちょっとの様子の変化で体調の心配をしてくれるくらいだ。先程の僕の言葉が何か言外に意図を含んでいた事を確信している。

「いくら気の置けない親友が相手だとはいえ、言って良い事と悪い事くらいは判別してるよ」

「……気になるから言って」

 彼女は僕をジト目で見つめると、素早く顔を寄せてちゅっとキスをした。瞬間的に僕も顔の角度を整えてそれを迎えた。その行為に僕らは何も意識した感情が無かった。『早く言えよ』と軽く肩を押すのと全く同じ意味合いの所作。僕らにとって唇と唇を重ねるのは、それくらい意味も意義も無いただのスキンシップと化していた。

「そんな食事量でよくあれだけ胸とお尻が育ったなって」

 鈴の手刀が勢い良く脳天に落ちる。頭が縦に揺れて、「んがっ」という声が僕から漏れた。

 頭を押さえながら恨みがましく口を開く。

「……こうなると思ったから言わなかったんだよ」 

 鈴は拗ねるように視線を逸らして唇を尖らせていた。

「ツッチーだってあんな興奮してたくせに」

「いやするよそりゃ。だから褒めたんじゃん」

 茶番である。どちらにも呆れや怒りといった類の感情は皆無で、じゃれ合っているだけだ。鈴が殊更大袈裟に眉間に皺を寄せて僕を見つめた。

「触って良いよって言ったら触る癖に」

「そりゃ触るよそんなもん」

 鈴の怒りを演じる表情が消え、にやりと僕をからかう笑みに変化した。

「お、今ちょっと期待した? 触って良いよって言う流れだって期待した?」

「してない」

「本当は?」

「……ちょっとした。ちょっとだけね」

 僕の白状に鈴が「にっしっし」と笑い、すっと唇を押し付ける。ぷるるんとした感触の後に、鼻頭を触れ合わせながら鈴が先輩風を吹かせるような口調で囁く。

「触ってイイゾ」

「本当にちょっとだけだから。思ったの」

 手を鈴の胸に伸ばしながら往生際悪くそう言う。鈴はそれが面白かったのかニヤニヤしながら、「男らしくねーな」と僕の乳首辺りを両手の人差し指で突いてきた。

 気持ちの良い快晴の下、彼女のずっしり重くむにゅりと柔らかい爆乳をブラウスの上から鷲掴みにする。鈴は鈴で「おら、おら、ここか? ん?」と粗雑な乳首責めを続け、僕は身をよじらせながらも反攻に出る。

 乳房を鷲掴みしながら乳首の位置に目星をつけると、親指の腹で円を描くように擦った。

 すると鈴は一瞬顔色を変えて、顎を引きながら「んっ」と愛らしい声を出した。そして『その喧嘩買った』というような笑みを浮かべると、僕と同じように親指で乳首を擦ってきた。

 僕らはきゃっきゃとくすぐりあうような声を上げていたが、やがて鈴がモジモジとし始めて甘い声を漏らし始める。

「……や……ん……ごめん、濡れてきちゃいそうだからこれは無しで」

 鈴は恥ずかしげに僕を見上げると申し訳なさそうにそう言った。彼女の胸部は男の手を魅了しては離さない魔性の弾力だったが、彼女に対する僕の立場は前提として『男』ではなく『友達』なので、彼女が本当に嫌がっていそうな事はすんなりと止められる。

 と言っても鈴の魅惑の身体を触っていたいという欲求は残っていたので、両手はそのまま胸から腰に、そして太股に伸びた。今日の彼女は黒のオーバーニーソックスを着用しており、ミニスカートとの間で輝く白い肌は、余計にむっちりとした肉感を醸し出していた。露出した部分の太股をさすると、すべすべムチムチした感触が手の平を歓喜させる。

 鈴は同性の友達にファッションを褒められたかのような、性とは全く無縁な笑みを浮かべる。

「絶対領域って言うんだっけ? 彼氏もこれめっちゃ好きでさ」

 そんなリラックスと共に彼女は股をやや広げるものだから、太股をさする手が時々スカートに当たって、白いショーツの下半分がチラチラと覗き見える。

「もしかして今日デート? だから履いてきたとか?」

「正解。『最近真理の黒のオーバーニー見てないなぁ』なんて遠回しに言ってくるからさ、しゃーないから履いてきてやったの。ああ見えてどー君も結構男の子なんだよね」

 堂島さんの話をする時の鈴の笑顔は、普段よりも三割増しで可憐になる。他の男子ならそれでトキめくのだろうが、僕はただ単純に嬉しい。きっと鈴も、僕が三つ葉ちゃんでそういう笑顔を浮かべるのを見たいのだろう。

「まぁ男だしね。でも凄く落ち着いた感じの人じゃん」

「……前から思ってたんだけどさ、あたしがどー君の話する時、ツッチーって絶対彼の事フォローするよね?」

「あ~…………まぁ正直、あの人って僕の理想像というか、そういう憧れみたいなのはある」

 僕如きが、ほぼ完璧と言って良い堂島さんをそう思う事すら烏滸がましいという気持ちがある。しかし鈴は、それを小馬鹿にしたり、勿論、『ツッチーにはツッチーの良さがあるよ』というフォローもしなかった。

 それは彼女が僕と堂島さんを男として比較していない証左であり、僕はとても嬉しかった。同様に僕も鈴と三つ葉ちゃんを比べたりはしない。そんな気持ちすらおきない。

 鈴は友達に彼氏を褒められたのを純粋に喜びながらも、普段通りに軽口を叩く。

「むっつり度はツッチーのが上だと思うよ」

 そう笑いながら、彼女は両手を僕の肩に乗せて顔を寄せてきた。ちゅ、ちゅ、とキスをする。昼休みに友達同士が交わす親交には丁度良いと感じた。

 そのまま太股を撫でながらキスを続け、何て事は無い様子で言葉を交わす。

「でもそうか、という事は今日は鈴の都合が悪いんだ」

「あ、もしかして三つ葉ちゃんのとこ行くつもりだった?」

「それも考えてたんだけど、でもやっぱり朝から続けてってのはがっつきすぎかな」

「あ~どうだろね」

「それにやっぱりさ、何でも鈴頼みじゃ駄目だなとも思った。一緒に行ってくれるなら確かに百人力だけど、電話番号くらい一人で聞けないとダメだよね」

 僕のその言葉に鈴は感極まった表情を見せ、ぶっちゅう、とスタンプを捺すようなキスをして、僕の唇を引っ張るように吸ってきた。

「……偉い! その心意気だツッチー!」

 そして心底嬉しそうに、ちゅっちゅと唇を啄んでくる。

「でも少しでも心細かったり不安だったら遠慮無く言ってよね? 友達なんだからさ」

 その言葉に未来永劫不変の友情を感じる。ふ、と鈴は僕のテントを張っていた股間を両手で包み、『ここは男らしくしなくてもよろしい』という彼女の笑みも同様の気持ちで構成されていた。

 向かい合って椅子に座り、互いの太股と股間をさすり合いながら、ちゅっちゅと唇を啄む僕らの姿は、誰がどう見てもただの友達にしか映らないはずだ。鈴は晴れやかに笑いながら、僕の下唇を甘噛みする。

「にしし。男の子としてレベルアップしたツッチーにボーナスチャンスです。クイズに正解したらご褒美あげます。今日のあたしの下着の色は何でしょうか?」

「白」

 僕は即答した。きょとんと目を見開いて驚く鈴に僕は名探偵然として様子で言った。

「昨日鈴は、薄着になるなら色の付いていない下着を着用するべきだったと後悔していた。そして今日は暖かくなると天気予報で言っていた」

「へー。やるじゃん」

「あと、実はさっきからチラチラ見えてた」

 僕のその言葉に鈴は慌ててスカートを押さえて顔を赤らめた。それは無自覚で見られていたのもそうだし、いくら僕が相手とはいえ、あまりにガサツになっていた自分を恥じてもいたようだった。

「……どすけべ……ま、ツッチーと二人の時なら良いけどさ。教室とかならちゃんと注意してよ?」

 恨みがましい上目遣いで僕を見てから、頬を膨らませてそう呟いた。

「鈴って普段はそういうガードはしっかりしてる方だから、僕の注意なんて必要無いと思うけどね」

「だったら良いけどさ~。言うまでもなく下着見せても別にいっか、なんて思う男友達はツッチーだけだし」

 そんな会話を交わしつつ、僕は両手で彼女の腰を左右からさすり上げるようにスカートを捲っていく。鈴も一切抵抗しない。むっちりした太股の付け根が見えていく。

「あ、ズルしたのにご褒美ゲットしようとしてる」

「正解は正解じゃないか」

 スカートを完全に捲り上げると、彼女の安産型の下腹部が露出した。黒いニーハイから健康的な肉付きの太股、そして白い大人びた刺繍の入ったショーツの三重奏は、煽情のミルフィーユとも言えた。

「このショーツ結構オシャレじゃない? 綺麗な刺繍入ってるのに派手ではないっていうか」

「うん。なんか凄く高そう」

「実際高いよ。ブランド物だし。自分じゃちょっと手が出ないかなって感じ」

「あ、もしかして」

 鈴は照れ臭そうに視線を逸らす。それはまさしく恋する乙女のにやけ顔だった。

「……うん。どー君に買ってもらった。『絶対真理に似合うから』って」

 僕は改めて堂島さんのセンスに脱帽した。鈴の、大人に孵化する直前の、可憐さと艶やかさのアンバランスさを調和させる見事な下着選びである。

「堂島さんを心の師と仰ぎたい」

 鈴としても彼氏のセンスを褒められて悪い気はしないのだろう。くすぐったそうに笑う。

 鈴のクロッチは最初からうっすら縦にシミの線が浮かんでいた。濡れそうと自己申告していた時には既に濡れていたのだろう。

 気遣いとして指摘しないでおいたが、鈴も自覚しているのか照れ隠しなのか、話題を逸らした。

「……ツッチーはどんな色のが好きなの?」

「僕は黒とかピンクとか」

「やっぱりドスケベだ」

 彼女は楽しそうに笑いながら、僕の股間を犬猫の頭を撫でるような、要は色気を含まない手つきでさする。それでも僕の男根はスラックスの中で既にガチ勃起していた。

「黒のも結構持ってるよあたし。今度ツッチーの家に遊びに行く時穿いてってあげようか?」

「いや、鈴のローテーションとかもあるだろうし無理はしないでいいよ」

 明らかに冗談ではない僕の物言いに、鈴はけらけらと笑いながら股間を擦る手を強める。その強め方はやはり愛玩動物を愛でる時のそれだ。そんな気安い空気なので、僕が何となくスカートを脱がしたいなと思い、スカートを引っ張ろうとすると、鈴は笑いながら腰を浮かして脱衣に協力してくれた。

 学校の屋上で見るスカートだけを脱いだ鈴の姿は、僕と彼女の関係性も相まって、日常なのか非日常なのかも曖昧になる。

 とはいえ半裸になった当事者としてはやはり恥ずかしいらしく、スカートを丁寧に椅子の背もたれに掛けていると、鈴は頬を掻きながら照れ笑いを浮かべた。

「なんか、屋上でこんな格好するとかドキドキするね」

 鈴のその口調や表情には、然るべき場所以外での脱衣による恥じらいは勿論だが、それ以上に友達と一緒に夜中の学校に忍び込んでいるような冒険心が色濃く表れていた。

 男友達と馬鹿な事をしている。それも性に関わる事を、恋愛を意識せずに。彼女にとってそれはやはり『性行為』ではなく『悪友との冒険』なのだろう。僕にとってもそうだ。

 僕が鈴の太股を左右に開くように力を込めると、「……ちゃんと鍵してるよね?」と僕に確認しながら脚を開いてくれた。それでも鈴は握った拳で口元を隠して視線を横に向けている。いくら塔屋の陰になっていて外部からの視線も無いとはいえ、どう考えても野外なのだ。

 鈴のクロッチのシミが、縦線からじわりと楕円状に滲んだ。すると彼女は眉を八の字にして、消え入りそうなか細い声で「……下着、脱がしてもらった方が良いかも」と呟いた。僕には女性の機微はわからないが、愛液で濡れたままの下着を着用しているのは嫌なのだろう。男だって良い気分ではないのは確かだ。

 スカートと同様に僕がショーツを左右から摘まむと、彼女が軽く腰を浮かす。脱がしながらよくこんな小さな下着を穿いていられるなという感嘆と同時に、鈴の陰部とクロッチの内側に、愛液の糸がねばりと架かったのが見えた。

 当然鈴もそれを目にしていたし、僕が見ていた事も察したようだった。鈴は一瞬で耳まで真っ赤にして顎を引いた。敢えて『鈴って濡れやすいんだね』なんて軽口を叩こうともしたが、到底そんな言葉を掛けられる雰囲気ではなかった。鈴にとって触れられたくないほどの恥部らしい。

 僕が黙ったままショーツを取ると、鈴も黙ったまま右手を凄い勢いで差し出した。『ショーツを確認するな』『すぐさま渡せ』という無言の圧力を感じたので従う。

 鈴はやはり大袈裟なくらい機敏な動きでショーツを手に取った。

「……ツッチーも脱いでよ」

 それを背中に隠しつつ顔を真っ赤にして俯いたまま、不公平を訴えるように言った。

 友人だけに恥ずかしい思いをさせていてはいかんと、椅子に座ったままテキパキと僕も下半身だけを裸にさせる。青空の下、それも昼休み中の学校で、勃起した性器を露出するのはとんでもない犯罪行為に思えた。

 しかしその時間を友人と共有しているのは強い連帯感を生みだす。僕と鈴の友情が、より強まった気がした。

 それは鈴も同じだったようだ。先程まで彼女が陥っていた、僕と視線を交わす事すら困難なほどの恥辱も多少なりとも中和されたようで、僕の勃起してヒクつく男根を見やると少し嬉しそうに口端を持ち上げた。

「……ツッチーだって我慢汁垂らしてやんの」

「『だって』って。僕は何も言わなかっただろ」

「ちゃんと空気読んだよね」

 鈴が笑いながら時間を確認すると、まだまだ昼休みは残っていたようで「……じゃあもうちょっと遊ぼっか?」と気恥ずかしそうに言った。これは僕達にとって『昼休み中の遊び』なのだ。真夜中の学校への侵入と同じように、友達同士でルール違反を共有する儀式。

 触りっこしやすいように僕の方が立ち上がり、中腰で彼女のやや斜め前に立つ。そしてどちらからともなく顔を寄せ合ってキスをすると、互いの性器を触り合った。

 鈴の手が肉竿を優しく掴むと、穏やかに撫でるように扱いた。射精に導く為の摩擦ではない。前戯ではなくあくまで遊戯としての、友愛を感じる手つき。

 僕も鈴の陰唇をそっと撫でる。ただどうやって触れば良いのかわからず、「指、挿入れても良い?」と聞いた。鈴は「……爪切ってある?」と聞いて、僕が指を見せると、「……ゆっくりね?」と言った。

 どうしていいかもわからなかったが、やはり改めて見ても鈴の膣口は指が何本も入るようには思えず、男根が挿入されたのも何かの間違いだと思えた。

 とにかく僕は中指だけを立てて、おそるおそる膣口から差し入れてみた。

「んっ」

 鈴の吐息と同時に、指はにゅるりと根本近くまで入ったが、やはり一本が限界なんじゃないかと思うほど彼女の中は狭かった。既にぎゅうぎゅうで、彼女の膣壁の感触も指先にダイレクトに伝わる。うねうねと曲がりくねっていて、更には細かいヒダヒダやツブツブを感じる。こんなところに男根を挿入してしまえば、あっという間に絶頂させられるだろうと、改めてその肉壺の蠱惑さを認識して生唾を飲み込んだ。

 鈴の扱きは相変わらず穏やか、というよりかは僕の指が膣に侵入してからは弱々しくなっており、片手は僕の肘を掴んでいた。

「このまま動かして良い?」

 鈴は口元に笑みを浮かばせようとしたらしいが、失敗した表情で小さく頷いた。友人の身体を僅かでも傷つけてはいけないという心持ちで、ゆっくりと気遣うように指を前後させた。

「ふぅっ、っく」

 指が蜜壺をにゅるにゅると摩擦すると、ぎゅうぎゅうに締め付けられる。うねうねした肉壁が絡みついてきて、指に射精感が湧き上がる錯覚すら覚えた。

 指先だけ少し曲げると、「あぁっ、んっ」と鈴の声が上擦った。いつの間にか鈴の手は、僕の男根を握るだけになっていた。瞼はきつく閉じ、息も浅い。このまま彼女を心地良くさせたいと強く願う。

「鈴、脚曲げた方がしやすいんだけど」

 僕がそう言うと恥ずかしそうに少し逡巡してから、椅子に腰を下ろしたままM字開脚した。左右の踵がそれぞれ椅子の端にぎりぎり乗っかっているだけなので、鈴は両腕で自らの脚を抱え込んだ。

 そうすると膣口が少し上を向いたので、指を入れやすくなった。相変わらず指一本できつきつの鈴の膣口からは、うどんほどの太さの愛液が糸を引くように椅子まで垂れていた。

 僕達は『遊び』を続ける。

「あぁっ、あっ……はっ、ん」

 鈴は声を抑えて掠れた喘ぎ声を上げた。運動場からは、体育の授業を控えた生徒達の声がぽつぽつと聞こえる。

「……ツッチー、あたしらも次、体育だね」

「そうだね。今日は男女合同だけど何するんだろ」

 くちゅくちゅと鈴の膣で淫らな水音を鳴らしながら、次の授業について世間話をする。

「わ、っかんない……けど……んっ、んっ…………マラソンだったら最悪じゃない?」

「僕は案外嫌いじゃなかったりする」

「だよね。ツッチー、前も一緒に走ろって言ったのに、一人だけぴゅーって先に行っちゃうんだもん…………やっん、やば、今度はあたしが一人でイっちゃいそう……なんつって」

 鈴はそう言って無理矢理笑ったが、すぐに表情を蕩けさせた。

「あっ、あっ……マジでやばいかも」

「さっきの下ネタ、若干おじさん臭かったね」

 僕の冷徹な批評に、鈴も一瞬だけ鼻で笑って僕の腕を叩いた。

「このままの感じで続ければ良い?」

 鈴が切なそうにこくりと頷く。そんな彼女の陰部はもうドロドロに愛液を分泌し続けており、M字に開いた脚の間には椅子から床に垂れていきそうな量の愛液が溜まっていた。おかげできゅうきゅうな密度の中でも、にゅるにゅると指が滑って、ぐちゅぐちゅと音を上げる。

「はっ、はっ……はぁっ、あっ」

 彼女は犬の息遣いのような浅い呼吸をしながら、僕を切なそうに見上げた。

「……ごめん。イって良い?」

 何で謝ったのかは明確な理由はわからないが、僕も鈴のフェラでイキそうになった時は同じ気分になったので、きっと他人の手で自分だけがイク時は罪悪感を抱いてしまうのかもしれない。

「良いよ」

「ごめんね……」

 彼女は再び謝ると、明らかに僕の勃起した男性器を凝視した。

 その瞬間、彼女が激しく鼓動を鳴らしたのが僕にはわかった。

 何故ならその瞬間、彼女の柔らかい膣壁が万力のように僕の指を締め付けたのだ。そしてきゅんきゅんと確かに疼いた。彼女が男性器を欲しがっていると確信した。

 だから僕は尋ねる。アダルト動画のような下品な問答ではなく、純粋に友人として彼女に心地良くなってほしかったから。

「……男性器が欲しいの?」

 くちゅくちゅと指で膣壁を摩擦しながらそう問う僕を、鈴は半目で見つめた。

 泣きそうな顔だったが、そのまま頷き、切なさのゲージをマックスまで振り切った声で言った。

「……ツッチーのおちんちん、欲しい」

「今ゴム持ってないけど」

「……あたし、持ってる」

「どうする? すぐ挿入れる?」

 手首でのピストンを弱めようとすると鈴は首を横に振る。

「……今止められたら頭おかしくなっちゃう」

「じゃあこのまま続けるね?」

 命乞いをするような返事を最後に、鈴はもう言葉を発する余裕すら無さそうだった。全身がヒクつく様子は、傍目に見ても絶頂寸前だった。

 そんな中、彼女は振り絞るように声を漏らす。

「ツッチー……イキそ……」

 続けて、どこか不安そうに「……お願い、ちゅーして」と消え入りそうな声で懇願してきた。

 その願いを叶えない理由が無い。唇を重ねると彼女の方から強く唇を吸ってきた。

「……っくぅ」

 そして間も無く、鈴は唇を密着させたまま甘い息を吐き、全身をビクンと痙攣させた。

 絶頂で収縮した膣は骨に圧迫を感じるほどぎゅうぎゅうに締め上げ、やはり鈴の膣は指一本以上のものを挿入する場所ではないなと僕に再認識させた。

 唇を吸い合いながら、彼女がビクビクと痙攣している間、指を抜いた方が良いか迷った。しかし彼女の膣は独自の意志を持つ生き物のように僕の指に吸い付き、引き抜く事も容易ではなさそうな締め付けを見せたので無理をせずそのままにしておいた。

 ようやく彼女の痙攣が収まると、次ははぁはぁと苦しそうな呼吸が収まるまでに一分ほどの時間を要した。

「……体育がマジでマラソンだったらあたし即リタイアするから」

 鈴が無理矢理笑いながら、財布からコンドームを取り出す。ほぼ透明と言って良いほどで、よく見ると緑色という程度の色のものだった。

 封を切って、僕に装着しようとする鈴の手つきはほんの少しばかり性急に見えた。まだ予鈴も鳴っていないが体操着への着替えもあるので、なるべく早く授業の準備に取り掛かった方が良いのは確かだった。

 鈴の声を抑えつつもビクビクと震える絶頂の仕方や、指で感じていた『ここに男性器を挿入したらさぞかし至福だろうな』という確信が、ギチギチと筋肉が唸りを上げるように勃起させていた。

 鈴はコンドームを装着させながら、「あたしだけごめんね」と苦笑いを浮かべた。「あたしだけ」の後に『イっちゃって』とか『気持ち良くなっちゃって』という言葉は恥ずかしくて省略したのが明白だった。

 コンドームを装着させる手つきはおそらく手慣れていたのだろうが、彼女の所持していた物では少し小さいらしく少し苦戦していた。

「うっ……どー君のだとパツンパツンだった。これ大丈夫? 痛かったりしない?」

 ようやく装着を完了するも見るからに無理矢理で、実際僕は少々の息苦しさを感じていた。

「それは全然。ちょっときついかなってだけだよ」

 鈴は苦笑いを浮かべたまま亀頭にちゅっと唇を押し当てると、「ごめんね。今はそれで我慢してね」とあやすように言った。そして僕を見上げると、僕らはキスをした。

 そのまま視線だけで『どうやってする?』と意見を交わし、言葉を発する事無くセックスに移行する。

 以心伝心、僕達はそれだけでプランが確立する。

 無類のおっぱい好きな僕でも流石にこれ以上脱がすのは気が引ける。ならばと美爆乳に負けず劣らずのセックスアピールをする桃尻に槍を突き刺したいと思った。立ち上がって彼女の手を引くと、そこからはエスコートをするまでもなく、彼女は塔屋と屋上を繋ぐ扉に自ら両肘をつき、手首をクロスすると腰を突き出した。

 鈴の上半身は地面に対して丁度四十五度くらいで、お尻だけをくいっと突き上げてくれている。相変わらずしっかりした骨盤と、それに伴うムッチリした肉付きが描く曲線は、目にするだけで雄の角が雄叫びを上げた。ただでさえ小さめのゴムが、よりミチミチと膨張して更に透明に近くなる。

 何より上着のブラウスはそのままに、下は黒のニーハイソックスと上履きだけという出で立ちは、男の劣情を誘う為の組み合わせだった。

 まだ経験豊富とは言えない僕だが、どこに狙いを定めればいいのかは一目瞭然だった。

 先程まで指を挿入していた事もあるが、何より彼女の開いた陰唇が物欲しそうにヒクついていたからだ。本能的にここで凹凸の帳尻を合わせるのだなと理解出来る。

 男根の根本を指で固定して亀頭を合わせる。そこまでいけば両手はフリーとなり、彼女のまん丸な尻肉をむぎゅりと掴んだ。

 あとは腰を進めるだけだったが、僕の竿はどう見ても指二本分の太さはあった。カリで一番太くなっているところは三本分はあるかもしれない。指一本であれほど窮屈だった場所に挿入するには躊躇いがあったが、昨日は確かに挿入出来ていたし、何より時間もさほど残っていない事が僕の背中を押した。

 僕も鈴も、品行方正な優等生と胸を張れるほどではないが、それでも授業をサボるという考えがすんなり脳裏によぎらない程度には、普遍的な小市民なのだ。

 ぐっと腰を押し出すと、直前までの心配が拍子抜けするほどに穂先がむにゅりと陰唇を押し広げ、ニュルンと桃尻に肉槍が呑み込まれた。しかしやはり鈴の肉壺はぎゅうぎゅうに詰まった肉密度を誇り、男根全体がむにゅむにゅと蠢く柔肉に抱きつかれ、二度と離すまいと言わんばかりの拘束を感じた。

 サイズが合っておらず極限まで伸びて薄くなったコンドームは、彼女の胎内の温もりとヒダヒダをより鮮明に僕に伝える。その挿入の心地良さは筆舌に尽くし難く、調子に乗って腰を振るといとも容易く射精に導かれる事を予感させた。

 野外での開放感による不慣れな緊張や、学校で致す背徳感も、性的高揚を増幅させる。

 しかしそれは今の僕達にとっては好都合ですらあった。ずっと結合していたいと思わせる快楽ではあるが、出来れば予鈴が鳴るまでには互いの絶頂を終わらせ、体育の準備に入りたいというのが共通見解だからだ。

「鈴、動くね?」

 その簡単な問い掛けに、鈴はやけに逡巡していた。動かないと始まらないので、これは出発の合図でしかない。なのに鈴はそれに対してただ頷くだけの行為に、十秒近くも時間を掛けたのだ。

 僕は訝しみながらも腰を振り出した。

 ぱしんっ、ぱしんっ、ぱしんっ。

 肉棒が何度か出入りすると、早くも鈴の愛液が泡立ち始める。窮屈な肉壺。潤沢な愛液。そして官能を極めた曲線と叩き心地の良い桃尻。この世の幸せが僕の下腹部に凝縮したんじゃないかと思えるほどに気持ちが良い。

 いつの間にか口が半開きになっていたので、気をしっかり持ち直して腰を振り続ける。

 ぱしんっ、ぱしんっ、ぱしんっ。

「こんなのすぐイっちゃいそうだけど……まぁそっちのが都合良いよね?」

「……そうだね」

「学校でするなんて凄くドキドキするから」

「……こういう些細なきっかけが少年少女を麻薬売買に走らせるから」

「飛躍しすぎだよ」

 腰を振りつつ向け合う声の調子は軽い。しかし鈴の返事はどこか素っ気ないというか、余裕が無かった。

「どうせなら昨日みたいに一緒にイキたかったけど、僕の所為で無理っぽいかも。ごめん」

 友達なら当然一緒にイクべきだろう。それが僕の早撃ちの所為で叶わないのはとても申し訳ない気持ちになった。そんな謝罪を受けてか、鈴が何とか努力してという様子で口を開いた。

「……土屋選手、土屋選手。ここで悲報があります」

「どうしたの?」

 よく見るとブラウスを着た鈴の背中はふるふると震えていたし、やや折れた膝も笑っていた。言葉の節々に、息も絶え絶えという余裕の無さが窺える。

「……あのですね、言いづらいんですけど……あたし、さっきからずっと軽くイキっぱなんで、その辺よろしく」

「え、嘘でしょ。まだ挿入れただけだよ」

 僕のその言葉に鈴はカチンときたみたいで、彼女は立ちバックの体勢で全身に甘い痺れを走らせたまま不平不満を口にする。

「だ、れ、の、せ、い、で……こうなったと思ってんの!」

 彼女の言い分はまだわからないが、鈴の腰付きと、それに男根が埋まっている光景は遺伝子レベルでピストンを要求してくる。

 とはいえ友達が何か言いたそうな中、派手に腰を振るのも気が引けた。なので尻肉をちょっと強めに握り、これくらいなら動いた内にも入らないだろうという非常に慎ましい前後運動で欲情を慰める。

「はぁっ、あぁん♡」

 たったそれだけで、彼女が全身を蕩けるように震わせたのが男根に伝わった。

 彼女はなんとか息を整わせると、扉に突いた手をぎゅっと掴むように指を折った。

「……ツッチーは自覚無かったかもだけどさ、あたしめっちゃ焦らされてたんですけど?」

 小刻みにヒクつく尻肉を鷲掴み、小刻みにヒクつく膣壁を男根で堪能しながら友人の不満の続きを促す。

「……あんなエッチに勃起したおちんちん見せびらかしながらさ、ずっと指だけとか……どんだけドSなのとか思ったけど、ツッチーだから天然なんだろうなって」

 この間も鈴の膣壺は、むにゅむにゅと男根に纏わり付くように抱擁していた。

「……指でイかされる時おかしくなりそうだった。目の前にツッチーのビキビキってめっちゃ強そうなおちんちんあるのに、何でこれで気持ち良くしてくれないんだろうって。何でエッチしてくれないんだろうって思いながらイってた」

 運動場から聞こえる声が多くなってきた。予鈴が近いのかもしれない。

「……ツッチーがようやくおちんちんくれた時に力強く腰をぐって持ち上げられて、今の彼氏との事を応援とかしてくれた時の頼り甲斐とか感謝とか思い出して、やっぱツッチー大好きっ! ってなってツッチーに奥まで突っ込まれた瞬間イっちゃいました! 以上! 一緒にイケなくてどうもすみませんでした!」

 最後ら辺は不貞腐れるように吐き捨てたのを聞いて、思わず笑ってしまった。

「気付けなくてごめんね。でもそこまでだったなら言ってくれれば良かったのに」

「いや謝んなくていいよ。付き合ってるならともかく友達なんだから、ツッチーの言う通りあたしが正直に言えば良かったんだし。でもほら、流石に友達同士でも恥ずかしい事ってあるじゃん?」

 そこまで口早に言い切ると、「……まぁ、次からはちゃんと素直におねだりします」と冗談めいた口調で付け加えた。

「そんで、今も絶頂が続いてるような感じなの?」

 軽く下腹部へ腰を押し込むと、尻肉がぽよんと弾むように一瞬潰れた。それだけで鈴の声は甘く媚びるような声に溶けた。

「う、うん……頭の芯まで、ツッチーのちんぽ、悦んでるっていうか……あぁ、あんっ♡」

「これくらいでもダメ?」

 とん、とん、と鈴の腰ごと揺らす。

「あっ、いぃっ♡ はっあっ、あっあっ♡ だめっ、変になりそ♡」

 いくら鈴の膣内が極上の至福を与えてくれるといっても、こんな摩擦だとイクには多少時間が掛かる。

 そんな事を言っていたら予鈴が鳴った。今から最速で準備しても、ぎりぎりで授業開始に間に合うかどうかだろう。

「もういっその事ガンガン腰振って短期決戦は? 時間無いしさ」

「それは一番無理。死んじゃう自信ある。ツッチーは自分の勃起ちんぽのエロさ自覚してください。いやマジで」

「じゃあもう抜いて、自分で処理するよ。鈴はもうイってるわけだし」

 正直それは嫌だった。このまま鈴の親しみの中で精を吐き出したかった。だが何より嫌だったのは、僕の所為で鈴の学校生活に支障が出る事だった。

 僕は別に良い。どうせ空気なのだ。しかし鈴は、彼女にそこに居て欲しいと願う友達が沢山居る。

「……あのさ、すっごい最低なワガママだってわかってるんだけどさ、一応聞いてくれる? 気に障ったらマジでごめん……」

 そんな中、鈴が本気で申し訳なさそうに言った。

「……今日これからの一限だけさ、あたしと不良にならない?」

 鈴は、僕と一緒に居たいと言ってくれた。選択肢に無かった授業をサボるという提案をしてまで、僕を優先してくれた。

「良いよ。鈴となら授業くらいサボるよ」

「……マジで? 無理しなくて良いよ? 完全にあたしのワガママだし」

 気が付けば僕の口元には穏やかな微笑みが浮かんでいた。鈴と出会う前ではこんな事とんと記憶に無い。

「友達と授業サボって屋上で遊ぶ。そういう青春っぽいイベントも一度くらいこなしておくよ」

 立ちバックで繋がりながら、そう返す。僕らが求めたのは、友との初めての悪事の共有だった。

「……ツッチー、授業サボったことあるの?」

「無い。鈴も初めてでしょ? 結構真面目だもんね」

「でもこういう些細な事がきっかけとなって、少年少女は象牙の密売に手を出し始めるから」

「スケール大きくなったなぁ」

 クスクス笑い合いながら僕らは覚悟を決めると、互いの胸に広がるのは、人生初のサボタージュへの罪悪感ではなく、それを共に背負ってくれる存在への有り難みだった。

 僕はそんな友達の過不足無い快楽を望み、彼女が良いと言うまで結合したままでいようと思った。すると彼女が「……動いて良いよ?」といじらしく言う。

「大丈夫なの?」

「うん。おちんちん、気持ち良くさせてあげて。あ、でも最初はゆっくりだと助かるかも」

 僕は鈴の中でギッチギチのガッチガチに勃起していたし、鈴はピンと伸ばした爪先まで愛液を垂らしていた。返事に躊躇いがあったのは、彼女にも自信が無かったのだろう。それでも僕が彼女を慮ったように、彼女も僕を優先して考えてくれる。

 出来る限りゆっくり優しく腰を振る。桃尻もぽよんぽよんと穏やかに揺れた。

「あっ、あっ、あっ♡」

 それでも鈴はもう堪らないといった様子で喘いだ。

 運動場には僕達以外のクラスメイトが集合しているのだろう。彼女の友人や、彼女に思いを寄せる男子達の喧噪がうっすら聞こえてくる。まさか僕達がこんなところでこんな事をしているとは夢にも思わないだろう。

「あのね、ツッチー……さっきツッチーが、もう自分で処理するからって言ってくれたの、あたしの為ってわかってたよ。でもあたし、離れたくないって思っちゃった……折角ツッチーがおちんちんくれたんだから、このまま一つになっていたいって……」

「僕も一緒の事考えてた。本当は鈴の中で果てたいって。鈴から離れたくないって」

「……ツッチー、マジ愛してる」

「僕も愛してるよ」

 軽口を交えながら、少しずつピストンを加速していく。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」

 鈴の四十五度くらいだった上半身が水平に落ちていく。膝はやや外を開き、爪先は益々ピンと伸びて、腰は突き上がっていた。その腰にパンパンと僕の下腹部を打ち付けると、結合部からはポタポタと愛液が床に垂れていくのがわかった。

挿絵5

「本当に、大好きだよ、ツッチー♡」

「うん、僕も好きだよ。鈴」

 友達として、という当たり前の前提は一々言葉に乗せない。お互いにわかり切っている事だ。三つ葉ちゃんへの、堂島さんへの気持ちとは、全く別ものの『好き』だ。

 気軽かつ気さくに口に出来る『好き』。でも何よりも温かく優しい。

「あっあっ♡ ツッチーっ、好きっ、好きっ♡ それっ、奥、いいっ♡」

「あんまり奥はダメなんじゃなかったっけ?」

 もうすっかり鈴の桃尻は、パンパンと乾いた音で小気味良くリズムを奏でていた。

「……そこさ、あっやっ♡ 彼氏も届かない場所だから、どうかなって思ってたんだけど、んっんっ♡ やっぱり、ツッチーだったら、良いかなって、あっいいっ、あぁっ、いっ♡」

 彼女の臀部はしっとりと汗ばんでいた。ただでさえ触り心地の良い肌に潤いが加わる。

「……そこ、赤ちゃん作る部屋だけど、ツッチーなら、おちんちんでキスして良いよ♡」

 そんな事を言われると、どうしても雄としてのスイッチが入る。鼻息荒く前傾姿勢となり、がつがつと奥を意識して腰を振る。

「あぁっ、あっ、すごっ♡ ちんぽ、刺さるっ♡ ツッチー、ツッチー♡」

「刺して良いんでしょ?」

「良いっ、けど、刺さりすぎだって……あぁっ♡ そんな奥っ、嘘っ、すごいっ♡」

 確かに、亀頭の先端に行き止まりのようなものを感じる。理性の遥か奥に潜む何かが僕を突き動かし、必死にそれを目掛けて腰を振った。

「鈴……!」

「やっあっあっ♡ だめっ、勃起ちんぽで、ちゅっちゅしすぎっ♡ そこ、ツッチーしかキス出来ないんだからっ♡ どー君じゃ、届かないんだから、あんまりツッチーのちんぽの味、教えちゃダメなんだからね♡」

 人生でこんなに必死になった事は無いというくらいに腰を振る。

「でも僕、もっと鈴に知ってもらいたい……鈴を知りたい」

 僕の声に鈴の心が打ち震えた。セックスしながら、友情のボルテージを振り切ったのだ。

「……なんかわかんないけど、ツッチーの事が好きすぎて、あたしの事めちゃくちゃにしてほしいって思った」

 僕が息を大きく切らせながらピストンを休止すると、射精の前触れだと思ったのか、鈴が切なそうにお尻を揺らしながらおねだりした。

「……ツッチーの気持ち良いエロちんぽで、あたしのおまんこ、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてください」

 その言葉で、僕は遮二無二腰を振った。ひたすら彼女のむっちりした尻へ肉槍を出し入れする事に没頭した。

 鈴は何度かガクガクと膝が砕けそうになっていたが、僕は無理矢理腰を掴んで結合状態を維持させた。

 僕が動物のように腰を振っている間、彼女の口元から涎が糸を引いて垂れ続けていたのが見えた。鈴は声を上げる事すら出来ないでいた。

 本鈴が鳴り始めたが、僕達の頭にあるのは互いの絶頂の事だけだった。

「射精すよ!?」

 その声に彼女は切羽詰まった様子で何度も頷いたのを見て、僕は腰を押し付けてビュルビュルと射精した。

 膣壁をぎゅうぎゅう狭めながらも、ひだひだをウネウネと蠢かし、鈴は「……ツッチー、好き♡」とか弱い声で囁いていた。

「僕も鈴が好きだよ」と言いながら腰を更に突き出すと、彼女は背中を反らせながら痙攣した。彼女の中へ、本鈴が鳴り終わっても止まらない精に己を知ってもらいたいという願望を込めて、びゅっびゅと放った。

 それに応えるように、鈴も膝をカクカク揺らしながら、ぴゅっぴゅと潮を吹いて床を湿らせていた。

 下からは体育教師や体育委員による準備体操の号令が聞こえる。僕らはそれが聞こえなくなるまで呼吸を荒らげて立ちバックを続けた。

 授業をサボって『遊び』を続けるという体験を共有し切った僕らは連帯意識からか、互いの存在をより身近にさせた。力尽きるようにその場に腰を下ろすと、僕らは力無く笑い合う。

 鈴が浅いままの息遣いに加え、こめかみから汗を流しながらも、にぃっと頬を緩ませる。

「あたしらもかなり激しい運動したね?」

「授業でここまで体力使った事無いよ」

「確かに、体育以上だわ」

 そんな時、下から生徒が不満を漏らす声が一斉に聞こえる。どうやら本当にマラソンだったようだ。僕と鈴は「やったね」と幸運を祝うようににやつくと、ちゅっと気さくなキスをした。

「つかあたしらのエッチのが消費カロリー高くない?」

「少なくとも足腰にはきてる」

 春の名残を乗せた一陣の風が僕らの間に吹きすさぶ。

 友情で身体と心が火照り切った僕らにとっては心地良かった。

続きは書籍でお楽しみください!