そして現在に至る――。
「まぁいいわ、早くご飯作ってよね」
「う、うん……」
今ではいつものことのようになってしまったこのやり取りだが、やはりショックは大きく、アウラとの記念日を思い返して現実逃避してしまった。
後頭部を踏みつけられていた感覚がなくなり、ヨロヨロと立ち上がる。僕の頭を踏んでいたアウラは鼻歌混じりにベッドに寝転んで、『あの日』にあげた本を読んでいる。
今のアウラに素直だった頃の姿を重ね合わせ、その異常な変化に大きく溜息をつくと、また怒られない内にトボトボとキッチンへ足を運んだ。
「昔はもっと良い子だったんだけどなぁ……」
手早く買い置きしておいた食材で淡々と料理を作っていく。アウラがご飯を作ってくれなくなったおかげで、皮肉にも料理の腕前が上がってしまった。
作りながらも頭に浮かぶのは過去の健気なアウラの姿。口から零れるのは溜息。
言うことを聞かないなら命令すればいいじゃないかって?
確かにアウラは僕の奴隷だけど、今はもう奴隷じゃない。
どういうことかと説明すると、『あの日』、僕はアウラとの主従の儀を破棄した。
普通の奴隷の主人が聞いたら絶句必須だ。他の主人は奴隷には人権など必要ないとばかりにただの道具として扱っているわけだから、主従の儀を破棄した瞬間に恨みや憎しみで殺されてしまうかもしれないからだ。
でも僕はアウラとずっと過ごしてきて良い子だと知っていたし、彼女も自由になりたいと望んでいた。
だから彼女との主従の儀を破棄して、奴隷と主人ではなく、人と人の関係になった。そしてその日の夜、貞操を捨てたのだ。
いやぁ……あの日は最高だったなぁ、まるで絵物語の中みたいで……。
と、いけないいけない、今は感傷に浸っている場合じゃない。
たとえ主従の儀を破棄したといっても、主人と奴隷という関係は残り続ける。体に付けられた傷が否が応でも奴隷という過去を忘れさせないのだ。
今にして思えば、アウラの性格が変わったのは主従の儀を破棄してからだった。
次の日僕が家に帰ると、今までの行動が嘘だったかのように、いつものお出迎えがなくなり、食事も作ってくれなくなって、エッチどころかスキンシップすらしなくなって……。
「ご飯まだー? だからトロいんだって!」
最近ではこんな風に性格まで荒れてしまって、今では僕の方が彼女の奴隷のようになってしまっているのだ。
「今出来たよ、すぐ持っていくからもう少し待っててね」
キッチンからそう声を掛けると、出来た料理をお皿に盛りつけてリビングまで運んでいく。
そこには水色のワンピースに袖を通したアウラが、両手にナイフとフォークを持ち、待ちきれないといった様子で椅子に座っていた。
「ごめんね、待たせちゃって……」
「謝るのは後でいいから、それ、早く置いてよ?」
「あぁ、うん、ごめん……」
急かされるままテーブルの上に料理の盛り付けてあるお皿をコトリと置くと、アウラは食い散らかすようにすぐさま食事を始めた。
「ふぁに? 見られてると食べにくいんだけど?」
「あ、うん。美味しそうに食べるなって」
「んっ、邪魔だから向こう行ってて」
「ご、ごめん……」
正直泣きそうだった。
こうして謝るのが日常化してきたし、日々積み重なっていく惨めな気持ちに僕はだんだんと我慢が出来なくなってきていた。
今までは何かのきっかけで元に戻ってくれると信じていたが、一向にアウラの性格が直る気配はない。
そこで僕はアウラの様子がおかしくなってしまった理由を見つけるため、入念に考え、準備した作戦を実行することにしたのだ。
「どう? 美味しい?」
「まぁまぁー」
アウラの死角に入り込むと、いつものように話し掛けて彼女の気を逸らしながら部屋の隅々に、映った光景を離れた所で確認出来る道具、通称〈トルンデス〉を設置していく。
アウラをチラッと横目で確認するが、食事に夢中で僕の行動に気が付いていないようだった。そして数分掛けて月詠の間の全ての部屋に〈トルンデス〉を設置し終えると、一つ深呼吸をしてからアウラの元に戻った。
アウラの正面の椅子に腰を下ろしたせいか、彼女は食事の手を止めて不機嫌そうに睨んでくる。
それに怯まず、僕は事前に考えておいた話を切り出した。
「ねぇアウラ、僕、用事でしばらく宿を空ける事になりそうなんだけど、平気だったりするかな?」
「……ん、別に、宿のお金さえ払ってくれれば」
「あのさ、ちょっと凄いクエスト見つけちゃったんだ。一週間以内に一階層の鉱石をそこに届けるだけで三金貨も貰えるんだって!」
「金貨三枚!? って、二年以上は遊んで暮らせるじゃない!? で、でも……それってちょっとやば──」
──そんなクエスト、もちろん嘘だ。
金貨三枚なんて、ユグドラシルの中に存在するとても強力な魔物、ドラゴン討伐のクエスト報酬くらいの価値がある。
流石にアウラもちょっとおかしいと思ったのだろう。ポカンとしていたが、ふと我に返ったように口を開く。しかし僕はその言葉を遮るようにして返す。
「ありがとうアウラ。明日の昼に出発だから、よろしくね」
いつもユグドラシルに赴く際持っていく鞄は、中身もあまり見せないため、前もって準備していたと言っても違和感はないだろう。
出発を今日ではなく明日の昼にしたのは、先の会話の後の、アウラの反応を窺うためでもあった。
まぁ、こんな簡単な会話で状況が良くなるとは思っていないが、それなりに時間を置かなければ怪しまれる可能性も考えられたからだ。
「今日は探索もしたし、疲れたから最後の準備をしたらもう休むよ。食べ終わったら食器は水に浸けておいてね」
「う、うん……分かった」
珍しく歯切れの悪いアウラにそう告げると、壁に掛けてあった鞄を手に取り寝室に向かう。
最後の準備、と言ってもでまかせに過ぎないので特にやることもない。鞄をベッドの脇に置くと、昼間の疲れからかすぐに睡魔に襲われる。
クローゼットから取り出した地味な寝巻に着替えてベッドに潜り込むと、すぐに意識を手放してしまった。
「ふぁ……っ」
翌朝、自然と目が覚めると大きな欠伸が不意に出た。
まだぼんやりとする頭を動かしながら、布団を跳ね除けてベッドから這い出る。
「あれ、アウラ?」
リビングから繋がるこの寝室は、僕とアウラに一つずつのベッドと、飾り気のない本棚やクローゼットがあり、薄暗い雰囲気が特徴的だった。その薄暗さは寝室に窓が一つしかないのが原因で、さらにその窓がびっしりと蔦に覆われてしまっているからだ。だが、この何とも言えない薄暗さをアウラは気に入っているようで、昼になるまでは大体ベッドで眠ったままだ。
「まだ七時……だよね? アウラが起きてるなんて、うーん……珍しいなぁ」
壁に掛けられた古臭い時計はまだ朝早い時刻を指しているものの、隣に並んだベッドにスヤスヤと眠るアウラの姿はなかった。
一瞬時計の故障を考えたものの、つい最近修理してもらったばかりだ。
不思議に思いながら服を取り出し、微かな木漏れ日に照らされながらそれに着替える。
次いで再びアウラのベッドに視線を戻すと、布団、そしてシーツまでもが、綺麗に整えられたままであることに気が付く。昔ならともかく、最近は僕がそういったベッドメイキングじみたことを行なっているので痕跡で分かる。アウラは昨日ベッドで眠っていないのだと。
何だか不思議なことばかり起こるなと疑問に思いつつも、持っていく荷物の確認を行なおうと鞄を探し始める。
けれど、昨日の記憶では確かにベッドの脇に置いたはずの鞄が、どこを探しても見つからない。
いつもと違う出来事が立て続けに起こり、嫌な予感がして寝室を飛び出した。
もしかしたら昨晩の内に強盗が入り、鞄を盗まれ、アウラが襲われてしまったのでは──。
「アウラっ!!」
冷や汗を背中に感じつつ、リビングに突入する。
「ひゃんっ!? な、なによリヒト! 朝からびっくりさせないでくれる!?」
こちらに背を向け、大きく体を揺らして驚くアウラ。
その女の子っぽい反応が可愛らしく見えて、先の考えが全て杞憂だったことに心から安堵する。
「そ、それで何よ? いつもの仕返しってわけ?」
「いや違うんだ、その、僕の勘違いで、ってアウラ、何持ってるの?」
「な、何も持ってないわよ! そんなことより早くご飯作ってよね」
依然、僕に背中を向けて一歩も動かないアウラに違和感を覚える。少し観察してみると、何かしらを抱えるように持っていることが分かった。
回り込むようにそれを確認しようとするも、アウラは僕に合わせて体の向きを変えるので、何を持っているのか分からない。
アウラが僕に隠すようなものを持っていた記憶はなく、かといってこのまま隠されるのも気分が悪い。そこで一つ、カマをかけてみる。
「うーん、でも端っこの方が見えちゃってるけど……」
「えぇ!? ちょ……あぁっ!?」
効果は絶大だった。アウラは慌てて動いた結果手を滑らせたようで、それを支えようとしてさらにバランスを崩し、その場で転んでしまった。
そして間を開けて床に落ちたのは、先ほどまで探していた僕の鞄だった。
「それって、僕の鞄だよね?」
「あいたたぁ……。はっ! ち、違うし! 似てるだけだし!」
「でもその使い古した感じは確かに僕のだよね?」
「……う、うぅ……うわぁーーっ!」
床に落ちた鞄を拾い上げたアウラは大事そうに抱きしめ、蹲った。
今までこの鞄にこれほどの執着を見せたことはなかった。アウラの不可解な行動の理由を考えるも、特に思い当たることがない。
埒が明かないと思いアウラへ一歩近寄ると、突然寝室の方へ逃げ出してしまった。
「あうらっ!?」
突拍子もない行動に一瞬呆けてしまったが、急いでアウラを追いかける。
幸い、玄関以外に鍵が掛かる扉はないので、大きな音を立てて閉められた寝室の扉は、特に障害もなく開いた。
「どうして、逃げたの……?」
寝室に戻ると、アウラはベッドに腰掛け、リビングの時と同じように僕に背中を向けていた。
何だかいつもより小さく見えるその背中に、優しく声を掛ける。もしかしたらアウラの性格が変わってしまったことに、何か関係する行動なのかもしれない。
慎重に考えながらアウラの返事を待つ。緊張から徐々に溜まってきていた唾液を飲み込むと、ゴクリと喉が鳴った。
「──べつに」
しばらく様子を窺っていると、アウラはベッドをギシリと鳴らして振り向いた。それからモゾモゾとベッドの縁に座り直すと、浮いた足をプラプラと動かし始めた。僕の鞄をギュッと抱きしめて、親に怒られている子どものような拗ねた表情を浮かべている。
「心配とか、してるわけじゃないんだけどさ。今日のクエスト、怪しいとか、思わないの? リヒトが他人を信じやすいっていうのは分かってるけど、今回のは、その……やっぱり……」
ぶっきらぼうにそう言いつつも、言葉の節々から思いやりが感じられる。そっぽを向いたままだが、アウラの頬は微かに赤くなっているように見えた。
どうやら今までの不可解な行動は僕のことを考えてのものだったようだ。
「私、今の暮らしが嫌ってわけじゃないよ? 確かに貧乏だし、リヒトは頼りないけど、大金なんかなくても二人きりでいられるだけで、私は──」
「アウラ、ありがとう。でも僕はアウラにもっと幸せになって欲しいんだ。ギルドを通しているクエストだから大丈夫だって! 絶対帰ってくるからさ、鞄を返してくれない?」
クエストのことは嘘だけど、アウラに幸せになって欲しいという気持ちは本心だ。だから安心させるようにそう言って、深く頭を下げる。返事があるまで頭を上げないつもりだったが、すぐに返ってきた。
「絶対、……絶対に、帰ってきなさいよね」
「うん、分かったよアウラ。……あっ」
と、そこまでは冒険物の小説でもありそうな感動のワンシーンだったわけだが。
頭を上げた僕の視界に入ってきたのは、鞄の代わりに膝を抱きしめ、潤んだ瞳の上目遣いで僕を見る、まるで一枚の名画のようなアウラの微笑み。
──だけではなく、清涼感のある水色のワンピースの奥。飾り気のない純白の下着が脚の間から見えてしまっていた。
思わず見えてしまったそれは何とも言い難い魅力を纏っており、無意識に目を奪われてしまった。
「じゃあこの鞄も返すわ……って、リヒト? どうしたの?」
アウラがベッドに置いていた鞄を差し出してくれたが、返事も忘れてその光景に夢中になっていた。僕の様子を不審に思ったアウラがゆっくりと僕の視線の先を目で辿っていき──。
「こ、こ、ここっ、こんのッ!! 変態リヒトッ!!」
「ぐえぇっ!?」
眦が下がったしおらしい表情から一転、眉を吊り上げて真っ赤になったアウラが、手に持った僕の鞄をぶん投げてきた。それまで天国のような光景に見惚れていたため回避が遅れ、吸い込まれるように顔面に鞄が直撃した。
ベッドに倒れ込み手で顔を覆って痛みに耐える。こればかりは僕の失態であり、アウラを悪くは言えない。
未だに痛む顔をさすりつつ立ち上がり、再びアウラに頭を下げる。
「その、つい……」
「……まぁ、私もさ、それ、隠してたわけだし……今回は特別に許したげる」
「アウラ……ごめ──」
「あ、謝る前にさ。その、おっきくなってるの、何とかして欲しいんだけど……」
「……えっ?」
アウラは頬を赤く染めて目を逸らしながら、僕の下半身を指さしてくる。一体何のことかと今度は僕が視線を辿ると、ズボンの生地が薄いことが災いし、先の光景で興奮しきった股間がこれでもかというほど自己主張をしていた。
「あっ……」
「あっ、じゃないわよ。はぁ、もう……、しょうがないんだから」
アウラは呆れたように溜息をついて、しかしどこか嬉しそうな表情でベッドから跳ねるように下りた。
大きくしてしまったことによる追加の罰を覚悟していたが、「しょうがない」という言葉に疑問が浮かぶ。
軽やかに僕の目の前まで歩いてきたアウラは、何かを待つように見つめてくる。彼女が一体何を期待しているのかいまいち理解出来なかった僕は、とりあえずアウラの頭を撫でた。
すると気持ち良さそうに目を細めたので、これが正解だったのだろうとそのまま小動物的な可愛さを堪能していると、
「って、違うわよっ!!」
「えぇっ!?」
顔をさらに赤くしたアウラに手を払われてしまった。どうやら見当違いだったようで、腕を引かれてベッドを背に立たされる。それから念には念にとでも言うように、グリグリと胸の真ん中を軽く押される。
「クエスト先で主人が性犯罪者にでもなられたら、私が困るんだから!! ……な、何ボサッとしてんのよ、早くズボン脱ぎなさいよ!」
「ず、ズボンを?」
「あぁもう! 何でこんなに鈍いのよ!! わ、私が一回だけシてあげるって言ってんの!」
そこまで言われれば、いくら鈍い僕でも理解出来た。
そして理解すると同時に、これまでアウラに恥ずかしい思いをさせてしまったと情けなさを感じてしまう。しかしそういったことに反応出来なかったのも仕方がない。名誉のために言い訳をさせて欲しい。
初夜以降、アウラの性格が急変し、性行為以前に浮いた話すら話題に上がらなくなった。それ故に、アウラに誘われるなんて考えもしなかったのだ。
アウラは僕の胸に添えていた手にさらに力を込めて押してきた。先の会話で動揺していたこともあってか、転ぶようにベッドの縁に座り込んでしまう。
アラクネの宿のような安宿のベッドは硬い。若干の痛みがお尻に走り意識を向けていると、下半身がこそばゆい感覚に襲われた。
「んっ、しょっと。まったく、脱がせにくいったらないわ」
顔を下げると僕の両脚の間にスルリとアウラが入り込んでいた。床にペタンとお尻をつけて座り、文句を口にしながらズボンをグイグイと引っ張っている。
すかさず腰を浮かし、脱がせやすいようにしたのだが、
「きゅ、急になにっ!? まさか、口でしろって? ふんっ、あんまり調子に乗らないでよね。シてあげるとは言ったけど口でシてあげるわけないじゃないから。手で十分でしょ」
アウラの目の前に股間を持っていく形になってしまい、不機嫌にさせてしまったようだ。
しばらくエッチを出来てはいないが、ただでさえ美少女なアウラとヤリたくないわけがない。この機を逃せば次はないかもしれないと考え、素直に謝る。
「ご、ごめん。アウラが脱がせにくそうにしてたから」
「……別にこれくらい全然余裕だし」
僕の謝罪に上目遣いで一瞬だけ反応したアウラは、ズボンを脱がしきり床に放った。どうやらこのまま続けてくれるらしい。
「下着も……脱がすわよ……」
「えっと、嫌なら自分で──。いや、……お願いします」
僕に一声掛けて、アウラは膨らんだ下着を睨みつけながら手を掛け、一気に脱がした。
勢いよく脱がされたことでぶるんと勃起したモノが解放された。アウラに抜いてもらえる期待もあってか、いつもよりもさらに大きくなっている気がする。
驚いたように固まるアウラの吐息が先端にかかり、むず痒い気持ち良さにビクリとモノを揺らしてしまった。
「こ、これがリヒトの……初めて見た……」
アウラはいきなり動いたモノから反射的に顔を逸らしつつも、頬を朱に染めたまま横目で見つめ続ける。
男心としては、美少女が自身のモノに惹かれているというのは非常に気分の良い体験ではある。しかし、アウラがうわごとのように呟いた言葉が気掛かりだった。
初夜の際には口でしてもらったことを覚えている。だからこそ、初めて見た、という表現には疑問を覚えた。
「うっ……ぁ」
それについて質問しようとしたタイミングで、モノを優しく握られてしまう。考え事をしていたせいで、唐突に襲われた微弱だが確かな快感に思わず声が漏れる。見るとアウラが右手の、その細く柔らかい指をまるで蛇のように竿に纏わり付かせ、ゆっくりと上下に動かし始めた。
「た、確かこう、よね」
「っぁ、くっ」
「ん……でもちょっと、やりにくいっ、かも」
本格的に始まった愛撫の前に、先ほど浮かんだ疑問は簡単に霧散する。代わりに、快楽を求める欲望が疼き、ぎこちなく竿を扱くアウラに期待するような視線を送ってしまう。より強い刺激を欲して彼女の名前を呼びそうになるが、そこはどうにかプライドが勝り、視線を送るだけに留めた。
久々に味わう甘酸っぱい快楽に、我慢汁が漏れ出てしまっていた。しかしそれだけでは指が上手く滑らず扱きづらいのか、アウラの手が次第にゆっくりになり、最後には止まってしまった。
「結構、疲れる……。あっ、そうだ。んー……ぐちゅッ、れちゅ……えれぇー……」
手を休めるアウラは何か閃いたようで、膝立ちになり口をモグモグと動かす。しばらくして口内に溜まった唾液を小さい舌先に伝わせて、亀頭にたっぷりと垂らした。
生暖かいその感触に背筋を震わせ興奮していると、アウラが手の動きを再開させた。
「ふふん、思った通りね。これなら、んっ、やりやすいしっ」
ちゅこちゅこッ、ぎゅちぐちゅッ、と卑猥な水音が早朝の寝室に響く。先ほどまでは打って変わり、スムーズに行なわれる愛撫に思わず出しそうになってしまい、慌てて我慢して射精欲を抑えた。
滑りが良くなったおかげか、どこか楽しそうに扱き続けるアウラ。それに加え、我慢汁と唾液が合わさり泡立っていくのを見ると、視覚的にも射精欲を刺激してくる。
「しこっ、しこっ、と……どう? なぁんて、聞くまでもないか……♡」
快楽に歪んでいるであろう僕の顔を満足げに見上げ、アウラは蠱惑的な笑みを浮かべる。
不慣れからくる、もどかしさを感じる力加減と、稀に柔らかい親指の腹で裏筋を撫で上げられる刺激に、腰をガクガクと震わせてしまう。
アウラは慣れない動きで疲れやすいのか、またも扱き続けていた右手の速度を少し緩めた。だが今度はそれを補うように、空いた左手で玉袋を揉み始めた。
意識は完全に肉棒のみに集中しており、その虚を衝く新たな刺激に、ウットリとした息を漏らさざるを得なかった。
「へぇー、ここってこんな感じなんだぁ……♡ ほらっ、こりこりーって♡」
男の大事な部分を、小悪魔のような色香を纏うアウラに弄ばれる背徳感。玩具で遊ぶみたいにコロコロと手の平で転がされたり、時には皮をそっと摘ままれたりして徐々に絶頂へと導かれていく。一気に高められるよりも、ゆっくりと快楽を蓄積させていくような刺激に加え、最近の性処理事情が射精欲を加速させる。
ここ一ヵ月はずっと忙しく、一人でする時間さえなかったのだ。そのせいかもう抗えないほどの迸りが肉棒に集まり始めていた。
「あっく……あう、らっ、もう……出そうっ!」
ようやく出せた喘ぎ声のような掠れ声に、アウラは不敵な笑みを浮かべ両方の手の勢いを強める。それを射精の許可だと信じ、荒い息を吐きながら絶頂へと身を任せる。
「あぁ……っ!! うぁッ! い、イ──」
「はい、すとーっぷ♡」
「ほぇっ!? あ、あぅ……」
しかし絶頂への階段を上がりきる直前にアウラはピタリと手を止め、肉棒から離してしまった。射精の解放感を期待していた故に、受ける喪失感も大きい。
我慢しても情けない声が漏れ、ギリギリ届かなかった魅惑の快楽を求め、無意識に腰が未練がましく動いてしまう。
「ふふっ、ふふふっ♡」
アウラがそんな僕を見て、とても楽しそうに笑っている。普段の彼女からは想像も出来ない妖艶な表情だ。満たされない快楽への渇望は止まることを知らず、僕の中でゾクゾクと情欲が渦巻く。
「アウ、ラ……? な、なんで止めるの……?」
「もしかしてイきそうだった? ふふっ、ごめーんっ♡ だって手が疲れちゃったんだもん」
離した手を何度か振り、わざとらしい口調で答える。アウラは疲れたと言っているが、僕は先ほどの彼女の笑みを思い出した。まるで僕が感じている様を喜ぶような、それでいてどこか楽しむようなそれ。
もしかしたら今の疲れたというのは嘘で、初めから僕を虐めるために寸止めを考えていたのでは、と思えてしまう。
甘い刺激を期待してか鈴口から我慢汁がトロトロと流れ出ている。早く続きを、と逸る気持ちを落ち着かせ、再び唾液を溜めているアウラに声を掛ける。
「ね、ねえアウラ? まだ疲れてる……?」
「んー、んんッ……。ひーお、はっはえるっ」
また焦らされると思っていたが、意外にもアウラは快諾してくれた。唾液のせいで舌っ足らずに答えた彼女が再び肉棒に向き直った。
前回よりも多めに唾液を垂らし、両の細い指を使って先端から根本へと満遍なく馴染ませる。敏感になったままの肉棒は、唾液のほんのりとした温もりによってビクンと大きく跳ねた。
「じゃ、続けるね♡」
──ちゅこッ! きちゅッぎちゅッ! じゅちッ!!
再開の言葉と同時に、今までで一番の猛烈な責めが肉棒に襲い掛かってきた。
「この段差んとこ、好きでしょ♡」
カリ首に触れた際、いつもビクリと感じていたことがバレてしまったようだ。人差し指と親指だけで作った輪っかで集中的にカリの段差のみを攻撃してくる。
コリッカリッと、段差を越える度に瞬間的な快楽が蓄積される。もちろん空いている左手は依然玉袋を揉みしだいていて、そちらからの気持ち良さにも喘き声が漏れてしまう。
「リヒトってば分かりやすすぎっ、ほら、こんなのは?」
口元にいじわるそうな笑みを浮かべて立ち上がったアウラは、僕の太ももの上に左手を置き、逆手で肉棒の根本を強く握った。その時点で先ほどまでとは全く違う箇所を刺激され、尿道から我慢汁を絞り出すようにヌルヌルと扱かれ始める。
根本は強く握り、先端に行くに連れて手の力を緩めるその動きに、早く出してとせがまれているような錯覚に陥る。実際にアウラに聞いたら鼻で笑われそうな妄想だが、それが新たな呼び水となり射精欲が加速度的に高まっていく。
「また、イキそうっ!! でるっ……でちゃう……っ!!」
逆手で扱くアウラの体勢は、必然的に前のめりになる。
線の細い体躯のアウラは見た目相応に力も弱い。そんな彼女が一生懸命に竿を扱いているのだから汗も掻くだろう。
密着するように体を近づけたアウラからはほのかに甘い汗の香りが漂い、耳元に近づけられた彼女の口からは普段の生活では絶対に聞くことの出来ない色香を含んだ吐息が聞こえてくる。
嗅覚と聴覚から雄の本能が刺激され、再度の寸止めという可能性を捨てて最高の射精へ至る準備を行なってしまう。後ろ手にベッドに手をついて体を支え、自然と足がピンと伸び、無意識に腰が持ち上がる。全ての快楽を生み出してくれる雌に捧げる準備は整った。
「ふふっ、はぁむ、へれれッ、じゅるッ、れぇろッ♡」
射精の態勢に入った僕の様子を察したのか、アウラは手コキを速め、トドメとばかりに舌先で僕の耳穴をほじくるように舐める。
「くぁっ……ッッ!! い、っく──」
「はい、すとーっぷ、ふふふっ♡」
もう少し、あと一歩で、ようやく頭の蕩けるような快感を手に入れられたのにっ!
未練がましく視線を上げると、アウラの顔にはくっきりと加虐的な表情が浮かんでいた。それは一回目の寸止めがわざとだったのだと確信させるには十分な笑みだった。
「くふふっ♡ ごめんね、リヒト♡ ……リヒト?」
一度目はしっかりと我慢が出来た。それはアウラを気遣ってのことだったし、無理やり襲うなんてダメだと理性が働いたからだ。
でも、二度目はなかった。
たった二回の焦らしでも、理性は本能によって擦り切れかけていた。
衝動的に立ち上がりアウラの腕を掴んで、ベッドに押し倒した。
「ちょ、ちょっとリヒト? ね、ねぇってば!」
いきなり押し倒されたことに驚いたアウラが焦った声を上げる。微かな怯えを含んだ声音に我に返り、彼女を押さえつけていた手をパッと離した。
「っ! ご、ごめん……アウラ……」
一時の欲望のために、無理やりにと一瞬でも考えてしまった自分を叱する。
もしも、アウラの性格が変わってしまったことに精神的な何かが影響していたなら、さらに症状が悪化してしまうかもしれないのだ。
こんなことしちゃいけない。それは分かっている。
だけど未だ胸の内に燻る絶頂への欲求が消える事はなかった。
アウラを押し倒したまま、荒い息を繰り返す。
「アウラ……お願い……入れたいんだ……」
「で、でも、手だけって言ったし……」
「お願いだっ! でないと君を、無理やり襲ってしまいそうで!」
ほんの僅かに取り戻した理性で僕はアウラに懇願する。異常なほど高まってしまった性欲が、彼女を襲えと囁いてくる。
無理やりにでもアウラの中に押し込みたい気持ちを押さえつけるも、そんな我慢ならない気持ちを表すように、ガチガチに勃起した肉棒がワンピース越しに彼女の下腹部を小突いてしまっていた。
「……ほんと、ほんとのほんとに、しょうがなく、なんだからね」
頬を赤く染め、僕と視線を合わせないように顔を逸らしたアウラは、つんと口を尖らせながらそう言った。それから自身でワンピースの裾を徐々に捲り、真っ白な下着を露わにする。
男心を擽るいじらしい仕草に、飛びつきたくなるのを必死に堪える。
「でも! 私は動かないから。わ、私のここ……勝手に使えばいいじゃない……っ」
緊張しつつ下着を脱がそうとすると、慌てて付け足すように言って自分で下着を脱ぎ捨てた。
下着が空を舞い、床に落ちる。ついそちらに視線を移している間に、アウラはうつ伏せになり、枕に顔を埋めていた。恥ずかしかったのか、ワンピースの裾は元の位置まで戻っていた。
「ごめんね……アウラ……」
「う、うっさい! 謝ってないで早く済ませなさいよっ……」
くぐもったアウラの叱責を受け、今度は僕がアウラの腰辺りまで裾を捲り上げる。
そこに見える光景に、思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。
現れた両脚は、ほっそりしているようで、女性特有のふくよかさも持ち合わせているようにも感じる。やんわりと丸みを帯びた柔らかそうなお尻は汗で微かに濡れており、揉みしだきたいという気持ちを昂らせる。
しかし、精巧に作られた人形を思わせるそれらには、幾重にも残る裂傷痕が存在し、元奴隷という事実を嫌でも実感させられる。消えないアウラの過去に胸がチクリと痛み、つい腫れ物に触るようにそっと傷痕を指で撫でてしまった。
「ひゃん!? いきなり何すんのよっ!?」
耳まで真っ赤に染めたアウラが振り返りつつ睨みつけてきた。
「ご、ごめん! そ、その、入れるからっ!」
気を取り直して僕はアウラの太ももの裏に跨り、体勢を整える。所謂、寝バックの体位だ。もちろん完全に伸し掛かっているわけではなく、膝立ちになっているから重さはあまり感じないはずだ。
察したアウラがそっと脚を広げてくれた。
本当に、今すぐにでも入れたかったが、彼女の傷痕を見て少しだけ冷静になっていた。
一度愛撫などで濡らさなくて大丈夫だろうか。そんな考えが浮かび、おまんこに手を持っていくと、指先にぬめりを帯びた感触が伝わってきた。
「え? もう濡れてる……?」
「う、うっさい! ただの汗よ! そ、それより……まだ、なの……?」
アウラは正面を向いたまま慌てたように声を荒らげる。そして不安そうに語尾を弱めると、微かに潤んだ銀の瞳を僕に向けた。
最早全部考えてやっているんじゃないかというくらい、アウラの仕草は絶妙に男心を擽ってくる。それによって理性を焼かれ、本能のままアウラのおまんこに肉棒を押し付けた。
「……あっ……入って……く……んんっ」
アウラの膣口は侵入してきた肉棒を押し返そうと拒んでくるが、徐々に力を込めて押し入れていく。
一度入れきってしまえば挿入時の抵抗感は極上の締め付けとなり、怒張した肉棒に余すところなく快楽を与えてくれる。中は既にぐっしょりと濡れきっており、動かすのに支障は全くないだろう。
入れていく時にはきつく閉じた肉壁を掻き分ける感触を亀頭で楽しむ。
彼女のお尻と僕の腰が隙間なく密着するほど奥まで押し込むと、手で握られたような心地良い圧が竿全体にかかり、アウラの膣内がピッタリと僕のモノの形に変化するのが肉棒越しに分かってしまうほどだった。
引き抜く際には、まるで一瞬でも離れたくないとでもいうように強く吸い付いてくる。それによってツブツブとした肉ヒダの刺激が直接カリに響き、その快楽に思わず涎が垂れそうだった。
一往復ごとに脳内で快楽物質が弾け、さらに味わおうと腰を打ち付け続ける。その度にパコッ、パコッと肉のぶつかり合う音が部屋中に響き、一拍遅れてアウラの押し殺した嬌声が聞こえてくる。
「ぅ、うぅ……♡ ふぐぅ……♡ んっひ……っ♡」
僕自身あまり性行為の経験は多くなく、上手くアウラを気持ち良くさせることが出来ているか不安だった。けれど枕を抱えて顔に押し付け、必死に声を抑えようとしている様を見ると、言い知れぬ優越感が胸の内に湧き上がってくる。
「はぁっ、はぁっ……!! あうらっ、キモチいいっ……っ!!」
「ふぅぅっ♡ そ、そう……♡ よかった、じゃないっ、ひっ♡ あ、あんたのっ、へっぽこな腰使いじゃ、んぁっ♡ わたっ、し……はぁ♡ かんじるわけっ、ない、しっ♡」
彼女のプライドがそうさせるのか、一向に受け取る快楽を素直に言葉にしない。
アウラに無理をさせていないか確かめながら、ゆっくりと抽送をしていたが、この様子なら大丈夫そうだ。一度頭を振って気分を切り替えて、今度はアウラにも快感を味わって欲しいと思い直した。しかし、徐々に上ってきていた射精欲を抑えるために少しだけ腰の動きを緩める。
「そ、それでっ……焦らしてるつもり? ぜ、んんっ、ぜんぜん意味ないからっ」
それを先ほどまでの仕返しと勘違いしたアウラが煽るようにそう言った。平静を装ったような声音に、今度は完全に動きを止めてみる。すると、アウラのお尻がフリフリと動き始めた。
艶のある銀髪に、吸い込まれそうな銀の瞳を持つが故に一種の神々しさを放つ美少女が、自らの肉棒で情欲を貪ろうとする瞬間を目撃し、入れたままの肉棒が熱く脈動する。
汗で背中に張り付いていた銀髪を指で掬い、しっとりとした手触りを楽しむ。
さらにそのまま脇腹を越えて、背後から服越しの胸を包み込むように右手で揉みしだく。ベッドに押し潰されても柔らかさを保った胸は、服の上からだというのにいつまでも揉んでいられそうだ。
「んんっ! にゅぐぅ……♡ あっ、むねっ、はっ……、はんそっ、くぅっ!」
「もうちょっと、激しくするね」
「ひゃふっ! ……っぁぁ♡ クッ!! ひゃにゅっ♡♡」
さらに快楽を求めた僕は、煮えたぎる射精欲を何とか我慢しつつピストン運動を加速させる。すると勢いをつけたせいか今までは感じなかった、亀頭の先にコツンと当たる感覚を得ることが出来た。
直感的に子宮口だと悟る。グリグリと亀頭を擦りつけるように刺激すると、突然ビクリとアウラの体が仰け反り、膣内が肉棒を握り潰すかのように収縮を強めた。背を反らしたせいで顔を枕に押さえつけられず、アウラの可愛らしい嬌声が寝室に響き、僕の鼓膜を震わせた。
「ふっ……♡ ふぅっ……♡ はふっ……♡」
アウラはしばらくの絶頂に全身を震わせたのち、再び枕に顔を埋めて荒い呼吸を繰り返した。
──アウラをイかせることが出来た。
その喜びは、より腰の動きを活発にさせる。
先ほどは気付かなかった、ザラついた部分に亀頭を擦り付けると心地良い。合わせて何度も子宮口を膨らんだ亀頭でノックしていく。
一度絶頂に達したおかげか、アウラのおまんこはさらにうねるように蠢き、愛液の分泌量も増えたようだ。
「んんんっ!! あぁっ♡ しょこっ♡ きも……っ♡ ちっ、あぁんっ!!」
アウラもついに箍が外れたのか、枕を投げ捨て肉棒を刺激させる嬌声を上げる。どうやら彼女はこのザラついた箇所がお気に入りのようで、何度も擦り上げるとお返しのように子宮口がクパクパと亀頭にキスしてくれた。
「りひっ、ひょ♡」
しばらくそこを責め続けていると二度目の絶頂に達したのか、またもビクリと反応してキュッと肉棒を抱きしめてくる。
短い間に二度の絶頂をしたので少し休ませた方が良いと考え、一度挿入していたモノを抜く。するとアウラは体をゆっくりと起こし、仰向けに寝転がった。
ようやく見る事の出来たその表情はトロトロに蕩けており、汗ばんで紅潮した頬や涎を垂らすぷっくりとした唇、いつもより微かに垂れ下がったツリ目が涙に潤んでいた。最初からこの表情をされていたら、問答無用で襲いかかっていただろう。
「こにょ、ままぁっ♡」
すっかり発情しきった魅惑の顔で、しかし少女のような無垢さを交えた笑顔を見せる。脚を自分で持ち上げておねだりしてくる姿に興奮してしまい、覆い被さりアウラの中を掻き乱す。
「あうらっ! はぁっ、アウラァッ!」
「あっんんっ♡ んくぅっ♡ んんぁっ! ひゃうっっ♡♡」
アウラと見つめ合いながら、必死に腰を突き動かす。この甘えるような態度が酷く懐かしく、このまま繋がっていたいという思いが浮かぶ。
しかしずっと我慢してきた絶頂への高ぶりはついに限界を迎え、精液をアウラの最奥で放たんと抽送の勢いを増した。
「ふにゃっ♡ んちゅっれちゅっ♡ ぷはっ♡ んっきゅっ! まらイっひゃうっ!! あぅっ♡」
「はぁっ!! 僕も、イキそうっっ!! アウラも、イッて!!」
激しい動きにベッドがギシギシと悲鳴を上げている。しかしそんなことは気にも留めず、アウラの首に手を回し、抱き寄せるようにキスを貪る。
互いの口内を舐め合うと唾液の橋を作りながら離れる。空いていたアウラの手を愛おしむように握り、指を絡めた。
「ひゃあぁっっ!? ──イ、っきゅッッ!!」
様々な箇所で繋がり合いながら、アウラがビクリと体を揺らしたのを感じた。
それを合図に僕はアウラの子宮口にぴったりと亀頭を擦りつけ、我慢し続けた快楽を爆発させた。
「あぁっ! でるっ!! イクッッッ!!」
──びゅるるるゥッ!! どくどくどくッ!!
腰が砕けてしまうのではないかと感じるほど、これまでに味わったことのないような凄まじい快楽が全身を襲った。それに伴い精液が大量に発射され、アウラの中に溶け込んでいく。
長い射精が続き、数回腰をビクリと震わせ最後の一滴まで中に注ぎ込んだ。
やがて快楽の波が引いていき、大きな息を一つ吐いて肉棒を引き抜く。
アウラの膣口から栓が抜け、ゴポリと精液が零れ落ちた。
零れた量だけでも普段の一回の射精量はあり、子宮内に残っている物も考えると相当な量を出したのだと自分でも驚くほどだ。
一方アウラは口を半開きにして気を失っているのか、時折ピクピクと体を揺らし、快感の渦に飲み込まれているようだった。
アウラを満足させられたことに、男としての自信が湧いてくる。
しかし未だに零れ落ちる精液を見ていると、流石に中出しはまずかったかと冷や汗を掻いた。
チラと見た時計は既に十一時を回っていた。ずいぶんと長い時間、アウラに夢中になっていたようだ。久しぶりの行為だったし、アウラには無理をさせてしまったかもしれない。
眠ったままのアウラの頭を一度だけ撫でた後、起こさないように軽く体を拭いてから、お風呂場に駆け込んだ。
体を洗い終えて着替えを済ませ寝室を覗くと、アウラが目を覚ましていた。ベッドの縁にちょこんと座ってこちらを見ている。
「もう、行くんでしょ?」
「……うん」
「約束よ? 絶対帰ってくるって」
アウラは顔を逸らしつつも目線だけを合わせると、呟くようにそう言った。
「分かってる。絶対に守るよ」
僕はもう一度アウラの頭を優しく撫でて答えると、床に置きっぱなしだった鞄を拾い肩に掛けた。
「い、行ってらっしゃい……リヒト」
久々に聞いたアウラの挨拶に、意気揚々と寝室を出ようと思ったが、ベッドのシーツが汚れや皺だらけなのを思い出してしまった。
「あ、その前にシーツだけ片付けないとね」
「って、折角の雰囲気壊さないでよっ!!」
良い雰囲気のまま出て行こうとした僕のそんな言葉に、アウラはガクリと肩を落としてツッコミを入れる。
アウラの小言を聞きながら、シーツの取り換えを終えて玄関に急ぐ。
「じゃあ改めて。行ってくるね、アウラ」
「ふん、一回ヤらせてあげただけで、あんまり調子に乗んないでよね……その、行ってらっしゃい」
アウラの言葉を背中に受けた僕は、自信過剰になっていたところを突かれてギクリとしてしまった。
その後、玄関まで見送りに来ていたアウラにポンと背中を叩かれ、はじき出されるように部屋を出る。
振り返ると、アウラが少し儚げに微笑んでいた。
それに答えるように一度コクリと頷いて、扉を閉めた。
アウラとの別れを済ませると、左手にある一階へ降りるための階段ではなく、右手方向に歩き始める。そして月詠の間を一部屋挟んだところにある、陽炎の間の扉を開けた。
廊下を進んでリビングに入ると机の上に、両手でギリギリ抱えられる大きさの、箱型の物体が載せられていた。
これは映像を出力する道具〈ウツスンデス〉だ。対応する〈トルンデス〉という道具で撮った映像を映し出すことが出来る。数日前に購入し、アウラが眠っている間にこの部屋に設置しておいたのだ。
高価な品物だったが、アウラのためだと考えればそう大きな買い物でもなかった。
「ちゃんと動くんだろうか? ちょっと見てみるかな」
説明書片手に〈ウツスンデス〉の操作を数分掛けて行なうと、ジジ、という耳鳴りにも似た音が聞こえた。すると次の瞬間、〈ウツスンデス〉の正面の壁に、いくつもの画面が小分けされて映し出された。上手く〈トルンデス〉からの映像が送られているのだろう。
どうやら部屋の設備は全て正常に稼働しているようだ。気になると言えば昨日設置した〈トルンデス〉の角度が少しだけ傾いていたことぐらいだ。
「よし、アウラは……と」
いくつもの画面に視線を這わせながらアウラの姿を探す。とはいえ部屋から出たばかりなので目に見える変化はないだろうが、とりあえず機能の点検も含めて確認してみよう。
初めての操作にもかかわらず、存外早く見つけることが出来た。再び〈ウツスンデス〉を操作して、アウラが映った画面を拡大させる。
『ふぁぁ……』
アウラは今、寝室のベッドで寛いでいるらしい。
不意に漏れた欠伸だろうが、どことなく美しさすら感じる彼女の所作に数秒見惚れてしまう。だが首をブンブン振って意識を集中させ、頭の中で監視の目的を再確認する。
一つ、アウラに何か辛いことがあり、そのストレスの捌け口として僕に不満をぶつけているのではないか。
アウラの性格が一変した理由が主従の儀の破棄ではないとしたら、という仮定だ。日々の小さな不満が積み重なって、だんだんと心を蝕んでいるのかもしれない。もしそれが僕の前では話せないようなものだったら解決するために何でもしよう。アウラのためなら苦労も厭わない覚悟はある。
二つ、考えたくはないけれど、実は僕のことを嫌っているんじゃないかというパターンだ。
昔から僕のことが嫌いで、奴隷から解放されるために嫌々好きになったフリをしていた……的な……。
奴隷だった時のアウラの行動や言動は全部偽りで、奴隷から解放された今の彼女が本当の彼女の姿なのだろうか。考えただけで泣きたくなってきた……。
ちなみに購入した奴隷は、主従の儀を破棄しても奴隷売買の規定によって再び売る事が出来ない。つまり僕は、責任を持ってアウラを養わなければいけないのだ。
アウラが僕の元奴隷だとしても、盗撮するなんてプライバシーの侵害だ。でもそれが、たとえ常識的に考えて異常な行為だと言われようとも、アウラの本心が知りたかった。
こんな馬鹿なことをするほど、僕は追い詰められていたのだ。
この監視からアウラの本心を探るために、僕は目の前の画面に集中する。
画面には問題なく映像が映っており一安心した僕は、先ほどの疲れからか酷い眠気に襲われた。まだ本格的に監視する必要もないだろうと、一度仮眠を取ることにした。
目が覚めたのは夜だった。仮眠のつもりだったが、既に外は真っ暗になっていた。
〈ウツスンデス〉が発生させる光が室内を照らす中、携帯食料を食べて一息ついているとアウラに動きがあった。
『リヒトー、布団取ってー』
現在の時刻は夜九時。いつもであれば八時に眠っているアウラとしては少し妙だ。今まで読んでいたのだろう本をベッドに置いて、どこかボーっとした表情で僕を呼んだ。しかし一向に戻ってこない返事に、アウラは僕が出掛けていることを思い出したようだった。
今日の夕食は作り置きをしておいた。僕が寝ている内にもう食べただろう。後はお風呂に入って寝るだけのはずなのだが、アウラはベッドに仰向けに寝転んだまま動こうとしない。
『…………大丈夫かな』
天井を見つめたままアウラが呟き、それからゆっくりとベッドから降りて寝室を出て行った。どうやらお風呂場へ向かうようだった。
入浴する姿を覗くことに少しの罪悪感を覚えるが、〈ウツスンデス〉の映像を切り替える。
映ったのは脱衣所だ。まぁ脱衣所と言っても脱いだ服を入れる籠と、洗濯を自動で行なうことの出来る道具、他には小さな洗面台しかない。だけどこれはこれで僕は結構満足している。
画面を切り替えている時に気付いたのだが、アウラはなぜか脱衣所までの全ての部屋の灯りを点けていて、キョロキョロと周りを確認するようにして籠の前まで歩いてきた。
その謎の行動について考察している間に、アウラはそそくさと着ている服を脱いでいく。
衣擦れの音を響かせながら最後に下着を脱ぎ終わり、生まれたままの姿になったアウラ。その姿は可愛らしく、それでいてとても美しい。少女から乙女に移り変わる時期の絶妙なバランスを保った顔立ちは、いつまでも眺めていられそうだ。
四肢は今にも折れてしまいそうなほど細く、それが彼女の儚さを演出していた。くびれた腰周りは、意識していないとすぐに掴みたくなる衝動に駆られてしまう。
年齢は僕と同じで、身長は百六十程度。まだ嫌われていなかった頃にお姫様抱っこをした時は羽毛でも持ってるんじゃないかと思うほど軽かった。
この一年で胸は結構成長したようでそれなりの大きさがある。先の行為の際、久々に触れた胸の感触が今でも思い出せる。一瞬だけ映った秘部や太ももには拭いきれなかった僕の精液が付着しており、脱衣所の照明を反射して特有のテカリを作っていた。
──はっ!? ダメだダメだ……僕は劣情に駆られて盗み見ているわけじゃないんだ。
アウラの作られたような体に目を奪われてしまったが、今すべきことはアウラがお風呂場で何か見られてまずい事をしていないかを確かめることだ。
服を脱ぎ終わったアウラはまたも周りをキョロキョロと見回して、警戒しながら浴室に入った。
心なしかビクビクしながら木製の桶を使ってお湯を被り、椅子に座って固形の石鹸を手に馴染ませると、慣れた手付きで髪を洗い始めた。
「まずは髪から洗い始める……と」
女の子が髪を洗っている仕草に一瞬ドキリとしてしまうが、ブンブンと頭を振って集中する。
再び眺めているとどうやら長い髪を洗い終えたのか、お湯の汲んである桶を手に取って『壁に背を付けると』、やはり周りを確かめてから、ギュッと目を瞑ってお湯を頭に掛けた。
「…………もしかして」
アウラってお化けとかが怖いんじゃ? と思えてきた。すると何だか今までの彼女の行動が全て可愛いらしく見えてくる。
そういえば僕はいつも暗くなる前には帰っているし、当たり前だけどアウラが一人でお風呂に入っているところを見たことがない。部屋の灯りを点けていたのも、暗がりを怖がったからなのだろう。
実は怖がりというアウラの隠れた性格を知った僕は、何だか無性に悪戯がしたくなってきた。機能確認も兼ねて〈トルンデス〉の隠し機能を使ってみよう。
『ウゥゥゥウッ』
『はひゃあっ!!?』
浴室に設置された〈トルンデス〉から動物の低い唸り声のような音が響く。髪を洗い終えて胸に手を当てて安心しきっていたアウラが大きく跳ね上がった。この隠し機能は撮影中に邪魔な動物などを追い払う時に使うそうだ。
唸り声に涙を滲ませ縮こまってしまったアウラは、ビクビクと周囲を見渡していた。
『……空耳?』
どうやらアウラはそういう形で自身を納得させたらしい。しかしまだ怯えてはいるようで、そこに僕は畳みかけるように次の作戦を実行した。
《アウラ、まだ起きてる?》
《コホンッ……お、起きてるけど……?》
念話と呼ばれる、長距離での会話を可能にするユグドラシル産の魔法だ。頭の中で相手に呼び掛けるだけで、実際に喋らなくても意思疎通が出来るとても便利なものだ。
僕の呼び掛けには流石に悲鳴を上げなかったが、映っているアウラの様子はソワソワと落ち着かない。
《料理は作れなかったらお店に頼んでもいいからね。これだけ伝えておこうと思って》
《別に、それくらい作れるから》
念話を続けながらアウラは湯船に腰を下ろした。自惚れかもしれないけど、僕が念話をしたことで少しはリラックスが出来たのかもしれない。両脚を伸ばしてお風呂に浸かっていた。
《じゃあ僕はこれで》
《え? あ、ちょっとリヒト》
《ん、どうしたの? アウラ?》
《……な、何でもない》
念話を切ろうとする僕を引き留めようとしたが、しかし言い捨てるようにそう言って、アウラの方から念話を切断してしまった。
映像を眺めていると、アウラは伸ばしていた両脚を抱えてプルプルと震え出した。不謹慎かもしれないけれど、その様子になぜだか凄く癒された。
それから先ほどの悪戯の効果もあったのか、体を素早く洗って浴室から出たアウラは、僕が予め用意しておいた着替えを手に取る。
『はぁ、今日はもう寝よっと……』
アウラはそう小さく呟きながらブラを着けずに下着のみを穿くと、就寝時にいつも着ているピンク色のキャミソールを羽織って寝室へ歩いて行った。
ちなみに主従の儀を破棄して以来、寝室で隣合っていた二つのベッドは、部屋の両端に離されている。一度部屋を分けようと提案したが、そこまでしなくても良いと言われたので、この処置に落ち着いている状態だ。
『……』
早く寝ようと呟いていたのに、アウラはベッドを見つめたままなぜか直立不動になっていた。これには少し心配になってしまって、映されるアウラの姿を食い入るように見つめる。
そして何か決断したように無言で頷いたアウラが、キッチンへと歩いて行く。
あまり見ることのない真剣な表情だったので、まさか本当に訳ありなのではと、すかさず画面をキッチンへと切り替える。
アウラの後を追うと、キッチンで鍋に何かを入れて料理をしているようだった。
夜食でも作るのだろうか? でもアウラは小食だし、夕食もしっかり食べているはず……。
アウラの行動に興味が湧き、不審な動きをしないか画面に張り付いて観察していると、ものの数分で完成させたようだ。
何かを煮込んでいたのか、湯気の立っている鍋を持ち上げる。中身を零さないよう慎重にアウラのベッドの前まで移動すると、あろうことかそのベッドに鍋の中身をぶちまけたのだ。
『ふぅ、よしっ……』
突然のアウラの奇行に目が釘付けになってしまった。正直、言葉に出来ないくらいショックだ。
毎日アウラが心地良く寝られるように洗濯して、純白の綺麗なシーツにしているというのに、鍋の中身、おそらくトマトをドロドロに溶かしたものだろう液体をベッドにぶちまけたのだ。
ベッドは殺人事件後のような酷い有様になってしまい、どう足掻いてもそこでは眠れそうにない。
「そりゃないよ……」
嫌がらせのつもりであれば、反対の僕のベッドに掛けてくれた方が良かったし、なぜアウラはそんな事をしたのだろうか。
もしかして薬物による禁断症状だったり!? でも今までこんな酷いことはしなかったし……。
グルグルと嫌な想像をしていると、アウラが鍋をキッチンに置いて寝室に戻ってきた。するとアウラは、敷きっぱなしにしていた僕の布団に仰向けで寝転がった。
「え……?」
僕の口から間の抜けた声が出た直後に、アウラから念話が届いた。
《ねぇ、聞こえる? リヒト》
《んっ……あれ、アウラ? まだ起きてたの?》
《なに? 起きてたら悪い?》
《別にそんなことはないけど……》
動揺を悟られないように今起きました感を装いつつ、アウラからの念話に答える。その声を聞いて僕が起きていたことに安心したのか、確かめるような声音から、会話を続けようとするものに変わった。言葉自体に棘があることは否めないけれど。
《それで、いきなりどうしたの? やっぱり料理したくなくなったとか?》
《だからそんなのは私一人で出来るって!》
《ほんと? じゃあどうしたの?》
今のアウラの奇行を見ていても、その行動の意図が読めない。
《ちょっとさ、ベッドに料理零しちゃった》
《え、零した?》
ぶちまけたんじゃなくて? とつい言いそうになるが、なんとか言葉を飲み込んだ。
《そ、そっか。それでアウラに怪我はない? 火傷とかしてないよね?》
《心配しなくても平気だし》
口に出してから気が付いたが、アウラは一言も熱い物を零したとは言っていない。
今のアウラは少し冷静ではないようでバレずに済んだが、今後発言についてはよく考えてから行なうようにしよう。念話で話してしまわないように注意しつつ反省をしていると、アウラが《でも》と探るように呟いた。
《今日ベッドで寝れないから、リヒトが今から洗濯しに来て》
《え、いや、それは……うーん》
続けてどこか棒読み臭い感じで放たれた言葉に、二つ隣の部屋にいるだけという事実からつい洗濯しに行きたくなってしまうが、ここはぐっと堪える。
《ごめんねアウラ、もうアレクサンドルの市場まで来ててさ、今日中にはそっちに帰れそうにないんだ》
アレクサンドルとはユグドラシルの街から北にかなり離れた街だ。もちろん嘘だけど。
《なんでよ、お願いしたらいっつもしてくれるじゃない?》
《流石に遠いから……ごめん》
《……分かった。しばらくリヒトのベッドで寝る、臭いけど》
僕の謝罪の後の、アウラが放った言葉は、僕の精神に凄まじく深い傷を付けた。
《アウラが構わないならいいけど……無理してない?》
《べっつにー。じゃあ私もう寝るから。早く仕事終わらせて私のベッド、洗濯しに来てよ?》
《うん、頑張るよ。アウラ、帰ったら一緒に美味しいもの食べようね》
《期待はしとかない》
何だか最後はやけに機嫌が良かった気がする。
念話を終了させたアウラを画面で確認すると、先ほどの臭いという言葉とは裏腹に、僕の布団に包まったり頭を擦り付けたりしていた。
何だか今日のアウラの行動は意味が分からなすぎて、僕の頭では理解が出来なかった。
案の定、部屋中の灯りは点けたままにして、アウラは寝入ってしまったようだ。
別に寝ている様子までは監視しなくても大丈夫だろう。
それまで眠っていたにも関わらず、次々に起こる非日常に心が疲れているのか、勝手に下りてくる瞼に抵抗せずに目を瞑る。
そして倒れるように床に敷いていた布団に寝転がると、ゆっくりと意識を手放すのだった。