目が覚めると、辺りは真っ暗だった。
今日も夢落ちでありませんようにと、祈りながら身の回りを確認。すうすうという規則正しい寝息が聞こえるので夢ではないようだ。時計を見るとまだ五時前。
こんなに早起きしたのは久し振りだ。
欠伸と共に伸びをしたらミリアが布団の中で動き始めた。どうやら今ので起こしてしまったらしい。
「う? あぁ、おはようございます」
「うん、おはようミリア」
ミリアの頭を撫でながら、今日は何をしようか考える。
ミリアにはひとまず、昨日の俺と同じように現在習得が可能なジョブを全て覚えてもらおう。その後、魔術士と答えるのは分かっているけれども、一応なりたい
職を直接聞いてみよう。恩恵の言い訳としては、昨日一緒に風呂に入ったから、とでもしておけば良いかな。
「ミリア、体調はどうだい?」
「え、あぁ、はい。ん? あれ、だ、だい……じょうぶ? だと思います」
ミリアはまだ寝惚けているのか、布団の中でモゾモゾした後、伸ばした掌を開いたり閉じたりしている。
「あれ? でも、何で部屋に居るんですか? え? しかも何気に一緒の布団で寝てるし?」
やはりまだ寝惚けているらしい。いつもならここで悲鳴を上げるのに。
「昨日風呂に入っていたら、ミリアがのぼせて気を失ったから、部屋まで連れてきて介抱してたんだよ」
「あぁ、なるほど。ご迷惑を……を? を、お! おぉ!? ななな、何で下着姿なんでえええ!?」
「のぼせちゃったから、服を脱がせてあげたんだよ。暑そうだったからね」
ミリアの温もりが名残惜しかったけれど、俺はベッドを出て蝋燭を交換し、火を灯す。
「うえぇ!? ぱぱ、ぱん、ぱ、つ、下着! 下着が変わってる!」
「うん、お風呂に入ったから。びしょびしょだったじゃん? 全裸で運ぶのもどうかと思ってね。仕立屋さんから貰った下着を穿かせておいたよ。そのパンツ可愛
いよね」
「み、見られた。見られた。見られた……」
思い出して恥ずかしいのか、布団を被ってしまった。
「もう動きたくないです。もうこれ以上恥ずかしい思いしたくないです」
「大丈夫。もうこれ以上恥ずかしい事なんて無いよ。洗い残しがないよう体の隅々まで確認したから」
「隅々!? あうあ、もうやだぁ。お嫁にいけない……」
「俺が貰うから大丈夫。安心して俺に任せておいて! さぁ、今日も一日お仕事頑張ろう!」
いつまでも布団から出ないので引きずり出そうとするも、布団にしがみ付いて離れない。
「いーやぁ! もうやだぁ! やーだー!」
寝起きで頭の処理が追い付いていないようだ。完全に子供だな。まぁ、子供だけど。
仕方が無いので先に顔を洗おうとベッドから下りると、音を立てずに少しだけドアが開く。そこにはミリアの声が聞こえたからなのか、ミーアが隙間からこっち
を覗いていた。
ちょうど目が合い、挨拶の為会釈する。ってか、怖いわ! 暗殺者か!
ミリアはまだ、やだやだ言ってる。ミーアに気が付いていないようだ。
「それじゃ、俺は狩りの準備に行ってくるから、ベッドの中で待ってなさい」
「っ!?」
「そんなに部屋から出たくないなら、もう魔術を使うことも無いよね。魔術士は一生封印だ」
「えぇ!?」
魔術士封印というのが効いたのだろうか、ベッドから飛び下りて走って俺の腕に抱き着いてくる。
「いく。私も行くます!」
「仕事に行くの嫌って言ってたじゃないか。だったら俺一人で行くよ。ミリア一人くらい養えるから」
「いやぁ! 行く! 私も一緒に行くもん!」
まだ寝惚けてんのか。何この可愛い生き物。ほら、見てみろよ……ミーアも、こんなミリアを見たことが無いのか目を見開いて驚いた顔になってるじゃん。
「俺の事好き?」
「すき! だから一緒に行くもん!」
「行くのは良いけど、そうなるとミーアさんから俺に奴隷の権利を移すことになるよ?」
「うつす! 移して一緒に行く!」
「エッチな事をするかもしれないよ?」
「なれたもん!」
自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。寝起きのミリアは可愛いな。まるで幼児だ。
「だそうですよ? ミーアさん」
「はぇ!?」
「仕方が無いねぇ。元々その子は奴隷として使役する為じゃなくて、私達の子供として購入した子だからね。譲渡はその子が結婚する時だと考えていたけれど、そ
こまで好き合ってるなら反対はできないよ」
そう言いながら部屋に入ってくるミーアを見て、ミリアは口をポカンと開けたまま固まっている。
「え……? おかっ!? どこから!?」
「ん? お前が布団の中で駄々をこねてるところから見てたよ」
「いやあああああ!」
折角天岩戸から出てきたのに、また自ら入って行ったじゃないですか。何してくれてんのよ。
「まぁそんなわけだ。タカシ、今日の夕方は時間作っといてくれ」
「え? あぁ、はい。分かりました」
それだけを言い残し、ミーアは部屋を出ていった。もしかして、ミリアを貰えるのか!?
喜んでいる俺とは反対に、ミリアがまた布団の中で独り言を言い出した。
「あぁ、もう、私何を言って……」
ひとまずミリアの装備一式を出し、ミリアが食いつきそうな事を言ってみる。
「ほら、ミリア。昨日は悔しかっただろうし、今日は魔力を上げてあげる。だから、早く着替えなさい」
「魔力!? 本当ですか!」
がばっと布団から出てきて、キラキラした目をこちらに向けてくる。食いつきが半端ない。
「魔力! 本当に私の魔力を上げる事なんてできるんですか!?」
「ああ、多分できるから。ほら、だから早く服を着なさい」
「本当!? 本当ですよね!? 約束ですからね! やったー!」
下着姿でピョンピョンする程度には俺との生活に慣れてきてくれたのかな。
飛び跳ねながらバンザイしていたので、ついでに上からガバっと服を着せる。
「さぁ、その前に食事だ。今日の日程も決めないといけないし、また食べながら話し合いをしよう」
「はい!」
泣いたり笑ったり、落ち込んだり喜んだり忙しい。ミリアの事が少しずつ分かってきた。
そんなミリアの頭を撫でながら食堂に移動し、朝食をとりつつ今日の行動を話し合う。
「まずは実験したい事があるから、依頼を受けて狩りをしよう」
「試したい事、ですか。それはどのくらい時間が掛かりそうですか?」
「うーん、俺は昨日三十分も掛からなかったな。でも今日はミリアにやってもらうから、ミリア次第だね。それでも一時間もあれば終わるんじゃないか?」
「頑張ります!」
下位ジョブを習得するだけだから、すぐに終わるだろう。
ただ、それからミーアとの約束の時間までかなり空くことになる。何か金になることはないだろうか。
「ねぇ、ミリア。お金を沢山稼ぐ為に、何か良い方法ないかな?」
「そうですねぇ。前に言ったと思いますが、コツコツ依頼を受けるのが確実です。素材も集まりますし」
「そうか。じゃあものすごく価値のある素材とかない?」
「この街の周辺は、他の街と比べて比較的モンスターが弱いです。でもモンスターの居る場所には大抵、昨日のブラックウルフのようなユニークモンスターが居ま
す。それを討伐すれば報酬は高いです」
そういえば昨日倒した狼の事を、ギルドのおじいさんがユニークとか言っていたな。そんなに危険な奴だったのか……。でも、アンノウンで基本値のブーストが
掛かっていたとはいえ一撃で倒せた。そんなに強いとは感じなかったが……。まぁ、もっと数が居たら危なかったけれども。
「ここら辺では、ブラックウルフ以外にどんなユニークモンスターが居るか、分かる?」
「はい、分かります。ここら辺にはあと六体程です。倒された情報は無いので多分今も居るかと……」
ブラックウルフで8金だった。本来ならば三パーティーで挑み、それぞれで分配することになるらしいが、俺らは二人だけで討伐するから総取りできる。
そいつらを討伐しているだけで大富豪になれるんじゃないか? でも現実はそんなに甘くないよな?
「ユニークって倒してもまた出てくるの?」
「そうですね。ユニークと言っても群れの長的な存在なので、倒したら次の長が誕生します」
「それはどのくらいの頻度で?」
「弱い群れだと生存の為すぐですが、大体一年程度と言われています」
一年か……それだけじゃ生活費だけで無くなりそうだな。
「よし、今日はサクっと作業を終わらせて、全てのユニークモンスターを狩りに行こう」
「えぇ!? やっぱりやるんですか!?」
「もちろんだよ。魔力上げたくないの?」
「行きましょう!」
現金な奴だな……。
食後のまったりした雰囲気を切り替え、カウンターに居るミーアに鍵を返して宿を出る。
まず向かう先はギルドだ。
ギルドに到着すると、相変わらず無言の圧力を受ける。
しかし、昨日程酷くはない。俺達の事はもうどうでも良いと思う奴らも増えてきている気がする。
「実験では森に行くし、昨日俺が狩った兎とかも処理したいから、まずは森の依頼を見に行こうか」
「はい」
掲示板を見るとラインナップはそこまで変わっていなかった。
「ユニークは掲示板に掲載されないの?」
「いつ出てくるか分からないし、監視などは危険なので実際に人や街に被害が出ないと掲載されません。掲載されたら掲載されたで、緊急案件になるので直ぐに討
伐されちゃいます」
「なるほど。じゃあユニークを見に行くし、一緒に居るモンスターの依頼も一緒に受けておいた方が効率良いよね。どれ受けたら良い? 選んでくれ」
「ユニークの取り巻きは基本的にDランクです。これとこれ。あとこれらが良いと思います」
ミリアが教えてくれた依頼を全て受ける事にした。これでユニークが居なくてもそいつらを討伐すれば、一応金になる。結局受けたのは薬草採取と、ラビット、
ボア、ハーピー、バタフライ、センティピード、ビッグオックス、アサルトシープ、フォレストラットの討伐系が八つ。
兎、猪、鳥、牛、羊、鼠って何か干支みたいだな。辰とか居たら強そうだ。
それよりも百足はヤバイ。毒とか使いそう。僧侶に毒治療とかあれば良いけど……こういう時は困った時のミリア先生だ。
「毒とか麻痺みたいな、状態異常って治癒魔術で治せるの?」
「僧侶が一定以上の研鑽を積むと治療できるようになるそうです」
「そっか。比較的若い僧侶でも使えている感じ?」
「そうですね。治癒魔術の中でも簡単な方だと聞きます」? 治癒魔術の次に覚えそうだな。レベルいくつか分からないけれど、とりあえず10まで上げてみよう。
「それじゃあ、依頼も受けたし早速森まで行こうか」
「はい! 頑張ります!」
ミリアは、昨日と比べて返事も良いしヤル気に満ちているようだ。魔力を上げてもらえるかもしれないというのが楽しみなのだろう。
ギルドを出て門まで歩き、カッシュに挨拶をしてから森に移動する。
「さて、それじゃあ……この武器を使ってモンスターを倒してみてくれるかな。俺は薬草集めてるから」
「う? ……分かりました。これが実験なんですか?」
そりゃあ疑問だよね。何にも説明していないのにいきなり剣で戦えなんてさ。
「うん。魔力を上げるのに大事な作業なんだよ」
「はぁ、そういうものなんですか? 聞いたことありませんが……」
「えっと、モンスターのどの部位に魔術を当てたら効果があるのか分からないと、どの程度の魔力を込めたら良いのか分からないでしょ? 魔術は無限に放てる訳
ではないから、実際に対象に攻撃してどこが弱点なのか知る必要があるんだよ。すると、魔力のコントロールが上手くなり、結果的に魔力が上がるんだ」
「なるほど! さすがです! 考えてもみませんでした! 確かにそうですよね!」
適当な言い訳だったので早口になってしまったけれど、納得どころか感心されてしまった。でもまぁ、サブジョブを付けることになるんだし、間違いでもないか
ら良いよね。
「ついでにミリアに合う武器も選ぶし、色々な武器を使ってみるから、ある程度狩ったら指示するね」
「はい! 行ってきます!」
ミリアは走って兎狩りに向かった。元気だな。
さて、俺は薬草収集しながら僧侶のレベルでも上げよう。
兎や猪を狩りながら薬草を収集していると、ミリアが早速剣士を習得した。
「ミリア、次はこの武器で戦ってみて」
「え? もう良いんですか?」
「うん、問題無さそう。ちゃんと見てるから大丈夫だよ」
そうやって同じ作業を繰り返し、昨日俺が習得したジョブと同じものを全て習得してもらった。
ミリアの魔術士レベルが10になっていたのでついでに詳細を見てみると、スキル一覧の中に魔力障壁というスキルが追加されていることに気が付いた。
「障壁……?」
「はい? どうしたんですか? しょへき?」
「あぁ、いや何でもない。ちょっと考え事をしててね」
思わず口に出してしまった。
攻撃力上昇小に初級魔術障壁を覚えたのか。恐らく冒険者がレベル10になって攻撃力上昇小、魔術士がレベル10になって初級魔術障壁を覚えたのだろう。
それよりも、良く見ると基本ステータスにプラスとマイナスが表示されるようになっている。
▼STR:3± VIT:3± INT:8± DEX:3± CHA:3± (9)
スキル一覧を見ると、俺にもスキルが増えている。『神眼』というスキルが増えていた。このスキルが原因だろうか。これは恐らく、アンノウンのレベルが10
になったから覚えたスキルだろう。
今まで見えなかったプラスとマイナスが神眼によって見えるようになったのか? もしかしてこれでポイントを割り振れるようになったのか? でも、ポイント
を振って戻らなくなったら嫌だし、保留にしておこう。
「よし、こんなものかな」
「終わりですか? 私の魔力は上がったんでしょうか……?」
そうだった。これはミリアの魔力を上げる為にやらせていることだったか……忘れていた。
冷静に考えれば、この程度で魔力が上がるわけがない。もし上がるならこの世界の魔術士は最強だろう。それでも俺を信じてくれているミリアには何とか誤魔化
しておかないと。がっかりさせるのは可哀想だ。
「ミリア、今朝俺の事好きだって言ってくれたけど、本当?」
「え!? な、なな何ですかいきなり!?」
「俺の能力については説明したでしょ? これは大事なことなんだ」
「えっと、その……嫌いじゃないです。不本意ながら裸も見られていますし……うぅ、恥ずかしいです!」
両手で顔を覆って恥ずかしがっている。
しつこいようだが真顔で質問してみる。内心デュフフ……と思っているのは隠さねばならぬ。
「ミリアから俺にキスをできるくらいには好き?」
「そ、それは……ちょっと、まだ……恥ずかしいです」
「恥ずかしいけど、できるって解釈して良いのかな?」
「あぁ、もう! ……分かりました! できますよ! もう! ほっぺ! ほっぺに! ほら!」
軽く頬にキスをしてくれる。一瞬ではあったがそれでもミリアには大変だったようで、今にもショートしそうな程顔が真っ赤だ。ありがとうとお礼を言っておく
。
そのまま赤ミリアを抱きしめて、治癒魔術を施しながらサブジョブを僧侶に変える。治癒魔術を使う理由は、掌から淡い光を放つから、力を分け与えてますよー
という演出のつもりだ。
サブジョブを僧侶にしたことで、魔力自体は三割程上がったが、そんな事よりも紙装甲だ……狼に一発でも攻撃を貰っただけで死んでしまいそうな程に。
確かに魔力は増えたが、その他がダメだ。基本値にポイントを割り振りたいけれど、確認するまで安易に割り振れない。どうしようか……。
「ミリア。今から大事な話をする。ちょっと、こっちに来て。うん、そこに座って」
「え……何ですか。何かいけない事しちゃいましたか、私?」
そう言いながら二人揃って、森のど真ん中で座ってミリアの状況について話をすることにした。
「えっと、今現在のミリアの話です。冷静になって聞いて、正しい判断をしてね?」
「な、何でしょうか」
「また俺と仲良くなってくれたお陰で、多分ミリアの魔力は三割程度上昇しました」
「本当ですか!? あれだけで!?」
がばっと立ち上がり掌を開いたり閉じたりしているので、試しに魔術を使ってみたいのだろう。
「いいよ。試してごらん?」
ミリアはコクンと頷いて、早々にファイアーを唱えている。
──ゴオオオオオウ!
「す、すごい……」
「ね? 魔力が上がっているのが分かるでしょ? じゃあ話の続きをしようか」
「ごめんなさい……それで何を判断するんですか?」
「それでね、その代わりというか、そのせいというか、生命力がね、半分くらいになってます」
目を見開いて、そ、そんな……と口にして、この世の終わりのような顔をし、地面に膝を突く。
「多分ね、俺が素手で殴っても死んでしまうかもしれません。それが今のミリアの状態です」
「そんなに……」
「今なら生命力を戻すことはできます。でも魔力も元に戻ります。どうする?」
「足手まといになるくらいなら、戻すしか……」
ヤバい泣きそうだ。魔力が上がるのを今日の楽しみにしていたからなぁ。仕方が無いよな。
そうだった。あと新しい魔術の事も教えておかないと。
「あ、それとね。魔力が上がったから魔力障壁が使えるようになってるよ」
「えぇ!? 魔力障壁って、あの魔力障壁ですか!?」
「えっと、うん。多分その魔力障壁だと思う」
「私が……あの魔力障壁を!? そんな、ウソ!?」
魔力障壁ってそんなにすごいの? 驚きすぎじゃね? 魔術が使えるようになった時並に驚いてない?
「ただの壁だと思ってたんだけど、魔力障壁ってそんなにすごいの?」
「すごいです! 精神力の続く限り、体に魔力をまとって防御力が飛躍的に向上するすごい魔術です」
「うん、名前のまんまだよね。どのくらい上がるの?」
「上級の魔術士は、剣の攻撃ですら無効化するくらい防御力が得られます」
軽減じゃなくて無効化ときたか。そりゃあすごい。ただ、精神力が続く限りってことはMPが持続的に減っていくってことか?
「ちょっと使ってみてよ」
「分かりました!」
また立ち上がり、ファイアーのように腕を前にかざすのではなく腕を横に開いて何やら集中している。
「我が躰に、魔力の衣を纏いて、全てのものを拒絶したまえ、マジックバリア!」
何か聞いている方が恥ずかしい詠唱だな……と思っていたら、ミリアの全身を白い膜のような物が覆っていた。
「ほんとだ! すごいです!」
「ミリア、思ったんだけど、詠唱ってどこで習ったの?」
「本を読んで勉強しました!」
この恥ずかしい詠唱は本で得た知識なのか。やっぱり雰囲気は大事なんだろうな。
「このダガーで試してみてくれる?」
「はい!」
多分俺が刺したら貫通しちゃうだろうから、魔力障壁がどの程度か自分でやってもらおう。
──カッ!
ミリアが自分の掌に向かってダガーを刺すが、音がするだけで刺さらない。フンフン! と何度か力いっぱい刺しているけれど、全く刺さらない事を確認して障
壁を解除した。
「思ってたより、すごそうだね」
「すごいです! これだったら何とかなりそうです!」
「うーん。でも、何かあったら即死しちゃうレベルだしなぁ。やっぱり心配だよ」
「魔術士になるのが夢だったんです。少しくらいの苦難は乗り越えてみせます!」
心配だ。ミリアにもしもの事があったら……やはりVITの高いジョブにしておいた方が良い。
「お願いです……このままやらせてください!」
ジョブを変えようとミリアに手を伸ばすと、上目遣いで懇願されてしまった。断れるわけがない。
「……分かった。でも、危険だと感じたらすぐに戻すからね? あと、俺の指示には絶対に従ってね?」
「はい! 分かりました! ありがとうございます! 従います!」
ひとまずこの状態でやってみることにするか。MPにさえ気を付ければ何回か戦闘はできるだろうし。
「それじゃあ、早速ユニーク狩りに行きますかね。案内してくれる?」
「はい! 頑張ります!」
何か障壁が使えるようになってから舞い上がっているみたいで返答がおかしいけれど、大丈夫だよな?
そして、実験と称したジョブ習得からユニーク狩りへと移る。
折角森に居ることだし、まずは森の中のユニークを一掃する方が全てのユニークを狩るには効率が良い、というミリアの案内の下、森の奥へと進む。
「えっと、聞いた話ではもう少し行ったところにフォレストラットの巣があるはずです」
「分かった。いきなり戦闘になるかもしれないから、合図したら必ず障壁を張ってね?」
「はい!」
注意しつつ、森の中を進む。
大きな木々も多くなり太陽の光が少し届き難くなってきたところで、前方に小型犬サイズの太った鼠が群がっていた──どうやら群れで一匹の猪を食べている最
中のようだ。
「あれがフォレストラット?」
「はい。ウルフのように、すぐに仲間を呼んで大群で襲ってくるので注意してください」
「よし、ミリア。あいつらの周辺を燃やすか爆発させて、終わったら障壁を張って待機」
「分かりました」
ミリアが詠唱に入ったので、俺はメイスからソードに持ち替え、ミリアの魔術発動を待つ。
──シュゴオオオオオオ!
ミリアが障壁を張ったのを確認してからラットの群れに飛び込んだのだが、既に鼠は全滅していた。
「えっと、ちゃんと威力のコントロールはした?」
「はい。全部燃やせる程度には」
ミリアの魔術で焦げてしまったラットの群れをインベントリに回収しながら、ミリアのMPの確認をすると、一割程MPを消費していた。確かに使用しているM
Pは少ない。魔術ヤバいな、強すぎだろ。
この分だと、もしかすると俺も魔術士の方が効率が良いかもしれない。だが、暫くは任せてみるか。
「それじゃあ次の群れを探そう。それまで障壁は切っておいてね。俺が必ず守るから」
「はい」
また森の奥へと進んでいくと、ちょっとした洞窟のような岩穴に到着する。
中からはキィキィと先程の鼠と同じ鳴き声が聞こえる。奥に鼠が居るようだ。
「ミリア。この入り口に土魔術で壁を作ることってできる?」
「土魔術ですか……使った事は無いですけど、やってみます!」
「大丈夫。地面の土が盛り上がって壁になるようにイメージして魔力を込めれば多分できるから」
「はい!」
ミリアは腕を前にかざして、ブツブツ詠唱してる。
「慈愛満ちる母なる大地よ、我の身を守り、彼の者を惑わせ給え、サンドウォール!」
──ゴゴゴゴゴ!
よし、準備完了。ミリアも魔術の使い方に慣れてきたようだな。詠唱は聞いていて恥ずかしいが。
そんな事を思いながらも、壁の隙間から中に誰か人間は居ないか確認する。
「誰かいませんかー?」
よく考えたら、ラットがいっぱいいる洞窟に人がいるわけないか。
「よし、大丈夫だな。ミリア、壁の隙間から火魔術で、この中を火で満たす感じの魔術を使ってみて」
「分かりました!」
「万物の根源たる偉大なる炎よ、彼の者を燃やし給え! ファイアー!」
──ゴオオオオオオオ!
こんな所に巣を作るとはバカな奴らだ。お陰で一網打尽だな。
鳴き声や物音がしなくなったのを確認し、障壁を張ったミリアをその場に待機させ中に入っていくと、ゴロゴロと鼠の死骸が転がっていた。面倒だが焦げ臭い鼠
を一匹ずつインベントリに回収していく。
外見は焼け焦げていたが、インベントリに入れるとちゃんとしたアイテムになっていた。回収できる状態なのであれば特に問題は無いようだ。本当に不思議なシ
ステムだな……。
「中の鼠、全滅してたよ。中に一匹だけレッドラットとかいうのも居たし、そいつがユニークだろうね」
「えぇ!? すごい! 私がユニークを!? すごいです!」
「こんなに風通しが悪い状態で火が持続的に燃焼したら、中にある酸素が無くなるからね。さすがに呼吸ができなかったら、ユニークだろうが生物って時点で死ぬ
でしょ」
「さんそ……? よく分からないですが、こんな戦い方もあるんですね! 驚きました!」
酸素が分からない? 化学的な事は、魔術のあるこの世界ではあまり知られていないのかもしれない。
「ミリア一人で三パーティー分の働きをしたってことになるね! さすが、魔法少女ミリアちゃん!」
「うぅ……た、タカシさんのお陰ですから!」
ミリアが照れているので頭をナデナデしつつ、次の目標を聞いてみる。
「次は何のユニークかな?」
「次はセンティピードです。もう少し奥にある、沼辺りに居ると思います」
百足は怖い……というか気持ち悪いな。でも虫だし火に弱いだろう。それに鼠を大量に倒したこともありレベルが上がって治療スキルも覚えた。状態異常は何と
かなるだろう。
怖くない怖くないと、自分に暗示を掛けながら森の奥にある沼地を目指す。
「居ました! あれです!」
「うーわー、キモいね」
「た、確かに。ちょっと近づきたくないですよね」
二メートルくらいはあるだろうか。あれは夢に出てきそうだ。ミリアも顔が引き攣っている。
「じゃあ俺が行ってくる。ミリアはちゃんと警戒して、いつでも障壁を張れるようにしておくんだよ?」
「わ、分かりました。気を付けてくださいね!」
ミリアを少し開けた場所の中心に一人待機させ、俺だけで百足に近づく。
向こうもこちらに気が付いたようで、ガサガサと音を立てて突っ込んでくる。何気に速い!
気持ち悪く、逃げたい気持ちを抑えながら盾を前に出し、いつでもメイスで殴れるよう構える。
「ああもう! くたばれ!」
盾に衝撃を感じたので、そのまま百足の頭を殴ると汁を撒き散らしながらビチビチと暴れている。キモイキモイキモイ!
「タカシさん!」
「うん? どうした?」
「忘れてました、早く離れましょう! センティピードは体液が特殊で、匂いで仲間を集めるんです!」
「ちょっと! そういうのは早く言ってよ!」
時、既に遅し。辺り一面からガサガサガサガサと地鳴りのように百足の足音が響いてくる。
あんなのと接近戦なんて、無理! 魔術で焼き尽くしてやる!
咄嗟にジョブを僧侶から魔術士に変更し、火魔術をぶっ放す。
「ミリア! 周囲に土壁を作って箱のようにして自身を囲って! それで、前方だけ開けておいて!」
「へ!? は、はひ! わかりまひっ!」
──ズゴゴゴッ!
突然指示が来て焦ったのか二回も噛んでる。可愛い。
でも指示の意図を理解してくれたのか、簡易防空壕みたいな箱型の小屋を作って待機している。
──シャアアアアアアア!
ミリア小屋が完成したと同時に、俺の方にものすごい数のモンスターが襲ってくる。主に百足だが、中には猪や鼠も居る。見渡すだけで二十匹程だ。これはマズ
いな……。
攻撃を食らわないように、近づいてきたモンスターから順に火魔術で撃破。集まっているところは爆発させてまとめて殲滅する。百足はキモイので優先的に撃破
。
「キリがない!」
あまり長時間の戦闘になるとミリアのMPが足りなくなる。早めに片付けたいが数が多い。
時間が惜しいので、火炎放射器のように掌から炎を出し、走りながら敵を燃やしていく。二十から三十匹程を燃やしたところで、モンスター達も火を恐れ、じり
じりと後退していく。
諦めてくれたのか、襲ってくる気配が無いので周りを警戒しながらミリアの方へ後ろ歩きで戻る。
「タカシさん! 大丈夫ですか?」
「うん、二、三発貰ったけど、狼の時に比べたら全然大丈夫」
二人で安否の確認をしていると、前方から百足の群れが現れた。
こいつらが来たからモンスターは下がったのか。多分あの中の大きいのがユニークなんだろう。
「ミリア、あいつがユニーク?」
「はい、紫色の大きな体なので間違い無いかと」
「よし、じゃあ一気に殲滅するね。ミリアは帰りの事もあるからまだそこで待機してて」
「分かりました」
小さな火の玉を投げて牽制しつつ、移動しながら先程倒したモンスターをインベントリに入れていく。
やはり火に弱いのか、警戒しているのか襲ってはこない。
何とかモンスターの回収が終わり、百足との距離も近づいたところで一撃で倒せる程度の魔力を込める。しかしそれに気が付いたのか、百足の群れが一斉に襲い
掛かってきた。
先程とは違い前方からのみの攻撃だったので、襲い掛かってきたモンスターを一気に燃やし尽くし、その流れでユニークと取り巻きをまとめて爆殺する。
「ふぅ、ユニークと言っても大したことないね」
「えぇ!? ま、まぁ、私ですら一撃で倒しちゃったし、何か聞いていたのと少し違う気がします」
俺はアンノウンの力でねじ伏せただけだし、ミリアは魔術というより単に窒息死させただけだが。自信に繋がってくれることを祈ってそこは黙っておこう。
「さて、回収したら一度街に戻ろうか。昨日と違ってかなり動いたからお腹が減っちゃった」
「はい!」
やっと二匹。森は足元が不安定だから移動に手間取るし時間が掛かるのは仕方が無い。
それでもまだ昼前だし午後はサクサクいこう。今は飯だ、飯! 昼食の為、街へ戻ることにした。
街に辿り着いたら、ひとまずギルドに向かった。
だって、1金も持ってないんだもの。心許ないじゃん。
到着して早々、昨日のおじいさんが居たので精算してもらうことにする。
「おや、ミリアちゃん。それに彼氏さんも、また換金かい?」
「彼氏じゃないです」
「えっと、アイテムを売りたいんですが」
ミリアがまた否定しているが、俺もおじいさんも微笑んでスルーしながら話を進める。
「はいはい。それじゃあここに出してくれるかい?」
おじいさんがトレイを出してきたので、ひとまず兎や猪と薬草などを乗せる。
「ええっと、兎が21匹、猪が13匹、薬草が86枚だね?」
「はい、ひとまずこれをお願いします」
おじいさんはトレイを数回に分けて奥に持っていき、精算後、お金を持って戻ってくる。
「お待たせ。はい、55銀と60銅ね」
「ありがとうございます」
トレイに乗せて持ってきてくれたお金をインベントリに移したところで、おじいさんが絡んできた。
「良い稼ぎだね。ミリアちゃんも旦那が高給取りってなると鼻が高いんじゃないかい?」
「彼氏じゃないです」
「ミリアを幸せにする為、まだまだ頑張りますよ!」
「彼氏さん、ミリアちゃんにベタ惚れみたいだよ? 良かったじゃないか」
「彼氏じゃないです」
「もうベタ惚れですよ。ミリアの為なら何だってできますよ、ははは」
「若いっていいねぇ。ミリアちゃんも彼氏さんも仲良くするんだよ?」
「彼氏じゃないです」
「当然ですよ! ミリアと喧嘩するなんて考えられません!」
「ウチは尻に敷かれっぱなしでねぇ。君達みたいにお互い意識し合ってたら……おっとごめんね」
「彼氏じゃないです」
「いえいえ、それじゃ俺らはこれから昼食なのでこれで失礼しますね!」
ミリアが壊れた玩具のようになっていたので、話を切り上げギルドを出てから機嫌を取ることにする。
「ミリア」
「彼氏じゃないです」
ダメだ。何か変なモードに入っているので名前を呼びながらお尻を揉んでみる。
「ミーリーアーッ!」
「彼氏じゃあああああああっ!?」
「ミリアの彼氏のタカシだよ?」
「違います! まだ彼氏じゃないです!」
頑なに否定するんだな。でも、まだってことは……ってお尻の事より彼氏否定が先かよ……。
「分かった分かった。それより、食事にしよう」
「もう……」
いつものようにミリアの頭を撫でながら、美味しい食事を出してくれるお店を聞いてみる。
「そういえば、この街の名物料理って何なの?」
「この街はオックス料理が有名です。値段が高いのでこの街に住んでる人はあまり食べないですが」
「そうなんだ? じゃあ、そこに食べに行こう」
「えっ!? お昼からそんな贅沢をするんですか!? そんな高い食事いただけないです!」
ミリアは宿屋の娘として育てられ、奴隷でもある。高い食事なんて考えられないのだろう。
「これからは冒険者として自分でお金を稼ぐんだ。だから別に遠慮する必要はないんだよ?」
「うぅ……いいんでしょうか。何か悪い気がします」
「大丈夫。その為にお金を稼いでいるようなものなんだから!」
そう宥めながら、この街でオックス料理を出してくれる有名な店に案内してもらう。
辿り着いた店、構えはどう見ても酒場だが、ミリアが言うには夜は酒場だけど昼は料理を出すらしい。
「このお店ですが、本当に良いんでしょうか?」
「いいんだって。ほら、行くよ!」
遠慮して立ち止まっているミリアの手を引いて店に入る。
「はーい、いらっしゃーい。あらミリアちゃん? 手なんて繋いじゃってまぁ。噂は本当だったのねー」
「彼氏じゃないです」
何かもうミリアは行く先々で彼氏じゃないです、としか言っていないな。
少しのんびりしてそうなお姉さんの案内を受けて、隅のテーブルに座る。
「が、外食なんてしたこと無いので、緊張します」
「まぁ、家が宿屋で料理も出してるなら、わざわざ外に食べに行くことなんてないか」
「はい。それにお母さんの料理、美味しいので!」
確かにミーアさんの料理は美味しい。でもこれからは違う街に行くことになる。外食自体慣れておいてもらう事にしよう。それに美味しい料理を探すのも旅の醍
醐味だ。
「ミリアちゃんが食べに来てくれるなんて、初めてねー」
「は、はい。先日冒険者になったので」
「あらあら、ミーアさんがよく許したわね……それで? そちらの男性が噂の彼氏さんなのよね?」
「彼氏じゃない──」
「はい、彼氏です」
今度は言葉を被せることに成功。というかこの街の情報の流れ、どんだけ速いんだよ。
「そうなのねー。じゃあ記念にいつもより腕によりをかけて作らなきゃねー」
「もう! だから……彼氏じゃ……」
「じゃあ、折角なのでこの店で一番お勧めのオックス料理をお願いします。予算は気にしなくて良いです」
「あらあら、さすがミリアちゃんが選んだ彼氏さんねー。将来、大物になるわよー?」
お褒めの言葉をいただいた。ミリアの為にも大物になってやろうじゃないですか!
上客が来たからか、お姉さんは若干スキップするような足取りで厨房の方へと下がっていった。お姉さんの向かった先の厨房からは、よっしゃあ! と気合いを
入れるような声が聞こえる。
「ところでミリア。外食したことがないって言ってたけど本当なの?」
「はい。外食は贅沢です! 私は奴隷ですし食事を出していただけるだけで満足です」
「これからは外食が基本になるから慣れておこうね」
「そんな! 勿体無いです! 自分達で作りましょうよ!」
自炊をしながら冒険をするつもりなのだろうか? 確かに野宿となるとそうなるかもしれないけれど、街で自炊なんて無理だろう。そもそも調理する場所が無い
し。
「ミリア、料理できるの?」
「わ、私だって料理くらいできます! ……少しですけど」
「じゃあ、他の街で自炊するとして、どこで調理するの?」
「えっと、宿屋で借りたり?」
「宿屋で、食事にお金が掛かるなら自分で作るので調理場を貸してください。とか喧嘩売るの?」
「ごめんなさい」
宿屋の娘なだけあって、あまりの常識外れの行動に一瞬で気が付いたのだろう。すぐに謝ってきた。
「それに、冒険者が冒険で得たお金で宿に泊まったり、外で食事をするからこそ宿屋も飯屋も続けていけるんだよ? 誰も泊まらない、誰も食べないじゃお店が潰
れちゃうでしょ?」
「そうです……ね。確かに住人はあまり利用しないです。そういうことだけは勉強になります」
「そういうことだけ……っておい……聞いてくれたら何でも教えてあげるよ?」
「本当ですか? えっと、それじゃあ……」
そういう話をしていると、お姉さんが料理を運んできた。
「お待たせー。当店自慢のステーキセットよー。今日は特別に一番良いお肉を使っちゃったわー」
「おお、これは美味そうだ!」
「うわわわ! お肉! すごい! こんなに大きいの初めて見ました!」
「でしょー? このお肉はねぇ、一匹につき一枚分しか取れない貴重な部位で、とても美味しいのよー」
脂の乗った肉が、鉄製のプレートの上でジュウジュウと音を立て、目と耳から食欲を刺激してくる。
肉は表面が焼けているだけで、自分の好みに合わせてプレートで焼くことができる仕様のようだ。こんな高級そうなステーキ、元の世界でも食べたことが無いわ
。
「さぁ、ミリア。冷める前に食べよう!」
「は、はい! ……でもこれ、どうやって食べるんですか!?」
「まずこうやってねー。自分の好みに合わせてお肉を鉄板で焼いて、好きな大きさに切って食べるのよー」
お姉さんは、「あとは彼氏さんよろしくねー」と言いながら奥に下がってしまった。俺の作法をチラ見していたので大丈夫と判断したのだろう。
「ミリア。別にバカにしているわけじゃないけど、食事の時のフォークとナイフの使い方分かる?」
「ナイフは……使わせてもらえなくて……パンを切るくらいしか使ったこと無いです」
「じゃあ見ててね? こうやるんだよ」
肉が丁度良い具合に焼けてきたので、早速フォークとナイフで一口サイズに切り、それをパクリ。
「おお、とろける! こんな美味い肉初めて食べたわ。ミリアも食べてごらん?」
「はい……こうやって、こう。こう、よし! あむ」
「どう? 美味しいよね」
「んぅーっ! んんんんー!?」
ミリアもお気に召したようだ。口一杯に肉を頬張ってんーんー言っている。可愛い。
ライスが食べたくなったがパンしかない。ここ数日で気が付いたことだが、どうやらこの街ではお米を食べる習慣が無いようで非常に残念だ。
「ミリア、こっちのスープも美味しいよ。あと、このサラダのドレッシングも変わった味で美味しい」
「はい! 食べたこと無い味です! 美味しい! すごいです!」
すごいすごいと言いながら食べている。それにしても、美味しそうに食べる人との食事は一緒のテーブルに着いているというだけで幸せな気持ちになるな。
そんなミリアも、次第に食べる速度が遅くなってきた。やはり小さな体には量が多すぎたのだろう。
「無理して食べなくて良いよ。あとは俺が食べるから」
「いえ、折角出していただいた食事です! 全部食べないと……」
笑顔が徐々に崩れてきた。限界が近いのだろう。無理して食べさせられる食事なんてただの拷問だ。
そう思い、ひょいっとミリアの前にある肉を奪い取り、食べる。
「あぁっ! ダメですよ、私が食べないと!」
「美味しいご飯っていうのはね、思い出した時に苦しい思い出になってちゃダメなんだよ」
「っ、はい……ごめんなさい……」
「そこは謝ることじゃないでしょ。ごちそうさまでした! で良いんだよ」
ミリアの肉も食べ終わり、食後に紅茶のような飲み物が出てきたので、それを飲みながら少し話をする。
時刻は十二時過ぎたあたりだ。ユニークを狩るにはまだまだ時間がある。
「えへへ……美味しかったです!」
「俺もだよ。じゃあ落ち着くまで少し勉強でもしようか。主に俺のだけど」
「そうですね! 何でも聞いてください」
出た。ミリア先生だ。
「そういえば、こないだジョブの話をしたけどさ、上位ジョブになる為の条件とかって知ってる?」
「えっと、魔術士の上位はいくつか知ってますよ」
「さすがだな。それってどんな条件なの?」
「皆が必ずしもそうだとは言えないんですが、沢山の実戦を経験して、一人で数十匹のモンスターを狩れる程度の実力があれば上位に就くことができると言われて
います」
一人で数十匹か。ミリアの火力は既にその域に達しているはずだ。それなのにまだ就けないということは、やはり一定以上のレベルが必要なのだろう。沢山のモ
ンスターが狩れるということはそれだけ火力やMPがあるということなのだから、当然レベルが関係してくるだろうし。
「今まで上位になった人のレベルってどのくらいだったか、記録とか残ってないの?」
「私が魔術の特訓時に聞いた話では、魔術士は36レベルで魔導士になった人が最短だそうです」
「36か……」
「すごいですよね! それも、魔族らしいです! 私もなれたらなぁ……」
36ということは30か35が条件か? まだまだ先だが、その頃にもう一度確認してみよう。
「剣士とか戦士はどうなの?」
「今剣聖と呼ばれている人が、当時二十四歳という若さで騎士になれたそうです。確か33レベルだったかな?」
「へぇ。最年少騎士か。俺も目指してみようかな」
「あはは、剣聖ですよ? 魔術を使うタカシさんがなれるわけないじゃないですか」
何これ、ナメられてるの? それとも魔術士は剣の道には進めないの? だったらジョブという概念が崩れるぞ? まぁ、いいか……どうせ俺は既に二十八歳だ
し、最年少にはなれないからな。でもこれでレベル35説が無くなったわけだ。次の候補はレベル30か。案外早く上位になれそうだ。
「ミリアは、最速で魔導士になれるように頑張ろう!」
「わ、私は、その、素質が無かったので……」
「大丈夫。俺が付いてるから!」
「憧れているので頑張りはしますけど、才能が無いので自信が……」
新人魔術士だから自分を卑下するのも分かる。でも必ず上位になれるだろう。俺がそうするし。
「俺に任せなさい!」
「えぇー……不安です」
「俺が今までミリアにウソ吐いたことある?」
「ありますよ! 彼氏だとか!」
あぁ、あったな。ごめん。折角ドヤったのに。
「じゃあウソじゃなくなるように、付き合えば良いんだよ! そうだ! そうしよう!」
「ま、まま、まだ! 早いです!」
「そうかな? もうお互い裸も見てる仲なんだし、別に早くもない気がするけど?」
「あれは! タカシさんが勝手に見ただけじゃないですか! 私は許可してないです!」
そうだった。確かにミリアに意識は無かったな。それを思い出すと……うん……良い思い出だ!
「キスもしたし?」
「あ、あれも! タカシさんが勝手に……もういいです。恥ずかしい……」
ミリアからもしてくれたのは間違い無いんだがな。それを思い出したのだろうか恥ずかしがっている。からかうのはここらへんにしておくか……。
「分かった。じゃあ、彼氏(仮)ってことで」
「はぁ……もう、何でも良いです」
よし、仮でも十分だ。あとはゆっくり仲良くなっていこう。ひとまずジョブの話はこれで終わりだ。
「ミリア」
「な、何ですか。いきなり真面目になって……」
「また大事な話をする。驚かないでね?」
「わ、分かりました」
「秘密の話だから、こっちに来て。くれぐれも静かにね?」
テーブルの向かい側から、小声で話せば店内に聞こえない程度の位置──真横にミリアを呼ぶ。
「さっきも言ったように、ミリアはもう特別な存在なんだよ。裸の付き合いもしたし、キスもしたし」
「ぜんぶ……私の意思とは関係無く勝手にされたことですけど……」
「それでもだよ。そんな事になっているのに、ミリアはまだ俺の傍に居てくれているでしょ?」
「それは……その」
普通なら意識を失っている間に何かされたり何度もキスされたりしたら、嫌われるだろう。俺は欲を満たす為に、それ覚悟でやっていたのはあるけど。
「ミリアを多分、魔導士にしてあげることができそうなんだ」
「ええええっ!?」
はい、きた。いただきます。
「んぅ! んんんぅっ!」
約束を破った罰です。ミリアからはさっき食べた食事のソースの味がしました。ごちそうさまです。
「ちょっとー? ミリアちゃーん。他にお客さんが居ないからって店内でそういうことはしないでねー?」
「ご、ごめんなさい。うぅ……もうやだ……」
「静かにって言ったでしょ?」
人前でキスはされるし、お姉さんにも怒られるし、ミリアが赤ミリアならぬ、黒ミリアになりそうだ。
「それで、恩恵を与えられそうだから、どんな風に成長していきたいか一度聞いておこうと思ってね」
「もう! そういうのは人前でしないでください!」
「人前じゃなければ良いんだ?」
「いえ……そういうわけでは……」
「まぁ、それは夜考えるとして、やっぱり魔力特化で色々な魔術を使いたい?」
「夜!? え、あぁ、はい。そうですね。沢山の魔術を使ってみたいです」
「そっか。それじゃあミリアに力を分ける時にそうなるように、俺も祈っておくよ」
「は、はい。そんな簡単なものじゃないと思いますが、ありがとうございます」
ミリアは魔力か。俺はどうするかなぁ。今まで色々なジョブを付けたり外したりして計算した結果、MPを上げるにはINTとDEXを上げる必要があるみたい
なんだよな。
あと、全てのステータスにCHAが関係しているのは分かった。しかも加算じゃなくて乗算のようだ。それで計算すると、何の能力を上げるにしてもCHAにポ
イントを全部振るのが正解になる。
ただ、そんなに簡単な話なのか? それだと他ステータスの存在価値が無くなってしまう。でも、現状でCHAにポイントを使うだけで、全てのステータスが上
昇するのは確実なんだよな……。
折角『神眼』を覚えたんだし試しにやってみようか。
「ミリア。今から力を分けてみるから、ちょっと目を瞑って」
「え!? 今ですか!? 夜にしましょうよ? 見られてますし」
ちっ! ミリアと見つめ合って小声で喋っているのを、お姉さんが興味津々に見ている。邪魔だな……。
「分かったよ。夜なら良いってことだね。ミリアから誘ってくれたんだ、楽しみにしているよ」
「何をですか!?」
「そりゃあ……小声で夜にしましょう、なんて言うくらいだから、あんな事やこんな事でしょ?」
「だ、ダメ! 無し! 今の無しです! そういう意味じゃないです!」
わたわたしているミリアを置いて、お姉さんにお会計をお願いする。
「あら? もう愛の囁きは良いの? えっと、30銀お願いね」
「はい。ミリアが色気のある声で、続きは夜にしましょう? って誘ってくれたので」
「あらあら、ミリアちゃんもそういうお年頃になったのねー。まだ早い気がしないこともないけどー」
「ちょ、ちが! しないです! そういうことしないです! そういう意味で言ったんじゃ!」
「言ったことに間違いはないのねー。ミリアちゃんは大人なのね……」
お姉さんもミリア弄りがイケるクチか。扱い方が分かっている。ただ単にミリアが分かり易いだけっていうのもあるが。ミリアもそろそろ限界のようだし、ショ
ートする前に回収しておこう。
「もう! もうっ! しないですからっ!」
「ごちそうさまでした! とても美味しかったです。またミリアと来ますね」
「いえいえ、こちらこそ。ラブラブ成分ごちそうさまでした。また来てねー」
店を出る時、後ろから皆に知らせておかなきゃ……という不吉な言葉が聞こえてきたが、テンパっているミリアには聞こえていなかったようなのでそっとしてお
いてあげよう。
「ラブラブ、夜、男、女、ベッド、あぅあぁ、ベッド、あぅあ」
ミリアは完全に一人の世界に入っている。ショート寸前だな。
「おーい。そろそろ狩りを再開するよ? ミーリーアー!」
「ベッドで再開!? 何をですか!」
「ミリアの頭の中で、セックスが始まっているのは分かったから、次のモンスターはどこに居るの?」
「せっせせえ、せっせせっせっ!」
だめだこれは。完全にショートしかかってる。
「ほら、おいで!」
「だめですだめです!」
おんぶしようとしたけれど、拒否られた。仕方が無い。お姫様抱っこだな。
「はわわ、ベベベ、ベッドだめです!」
抱っこされたまま、ベッドベッドと言っている。そのまま森に行こうと門まで歩くと、カッシュに出会った。
「何をしているんだ? お前達は……」
「えっと、ちょっとこの子考え事してて、一人の世界に入ってしまっているので、運んでいるんです」
「ふむ。往来であまり不埒な真似はするんじゃないぞ?」
「それはもちろんですよ」
ミリアが突然目を見開いて「不埒!?」と反応して、カッシュが一瞬ビクッとしていたが放置しておこう。
ミリアの瞼をそっと閉じてあげる。
「えっと、ごめんなさい。この子は放置してください。それで、ハーピーってどこら辺に居るんですか?」
「あ、あぁ。ハーピーか。ここを真っ直ぐ行って、川の反対側の森辺りに居るが、そろそろ巣も大きくなる頃だ。危険だから駆け出しのお前は手を出そうなんて思
うなよ?」
「はい。ちょっと見るだけなので大丈夫です」
「その子にも、あまり無理をさせるんじゃないぞ?」
相変わらず心配ばかりしてくれる良い人だな。
心配してくれた事と、道を教えてくれた事にお礼を言い、そのままハーピーの居るらしき森へと向かう。
森へ到着する前にミリアを落ち着かせる為、河原で少し休憩することにした。
「ミリア、そろそろ落ち着いたかい?」
「多分、大丈夫です。タカシさんが変な事言わなければ!」
「それにしても、ミリアって意外にムッツリなんだね。あんな言葉で色々妄想できるなんてさ」
「な、なな、なっ! ち、違います! 妄想なんてしてません!」
否定しているが目は泳いでいる。分かり易い。今度言葉責めしてみよう。また一つ楽しみが増えたな。
「ムッツリなのは分かった。それで、ハーピーから狩ろうと思うんだけど何か注意する事とかある?」
「もう! 何なんですか! 違います! もう教えません!」
「分かったから。ね? それより、ミリアが教えてくれないと俺死んじゃうかもしれないよ?」
「もう……またそうやって誤魔化す……」
いい加減、俺が誤魔化している時の喋り方などがバレてきたようだ。俺の事を分かってくれてきているようで嬉しいが、今後は色々と変化球で責めることにしよ
う。
「ハーピーはセンティピードとは違って、匂いじゃなくて鳴き声で仲間を呼び寄せます。あと、モンスターなのに他の種類のモンスターと行動を一緒にするので、
ハーピー単体のみを狩る事は難しいです」
「そう言いつつも、ちゃんと教えてくれるミリア、大好きだよ」
照れてる照れてる。それにしてもミリアの言うように他のモンスターと一緒に行動しているとなると、各個撃破は難しいだろう。いっその事わざと仲間を呼ばせ
てまとめて狩るか?
「ハーピーって強いの? 今まで戦ってきたモンスターと比べて、どう?」
「ハーピーは今までのモンスターと比べたら力はずっと弱いです。でも稀に風魔術を使ってくるので、今まで狩ってきたモンスターの中では一番面倒かもです」
モンスターなのに魔術を使うってのは確かに面倒だな。でも、これからはそういうモンスターとの戦いも増えるだろう。わざと魔術を使わせて慣れておくのも手
かもしれない。
「魔術を使わせなければ弱いってことだね。じゃあ早速行ってみようか」
「遊びに行くようなノリですか……」
「大丈夫大丈夫。俺が前衛で引き寄せるから、ミリアが魔術でドーンといこう」
「そんな簡単な作戦で上手くいくと良いですけど……」
軽いノリで森の中に入っていくと、すぐに蝶のようなモンスター数匹に襲われた。ミリアが言うにはそいつがバタフライだったらしいが、メイスで払っただけで
倒せた。弱い……。
「バタフライは弱いですが、鱗粉を吸うと体が麻痺することがあるので気を付けてくださいね」
「なるほど。特殊な攻撃があるから本体は弱いのか」
「よく分からないですが、そういうものなんですか?」
「あぁ、うん。そうなんじゃないかな?」
ミリアが首を傾げている。ゲーム感覚だとそうなんだよ。さすがにゲームの説明はできないので誤魔化しながら奥へと進む。
「……あれ? 何か聞こえないか?」
「ですね。何か、声? みたいなのが……」
少し先の方で、人ではない動物の鳴き声のようなものが聞こえる。近づいてみると、すごい数の羽の音で埋め尽くされた広場があった。その広場では会話してい
るのか歌っているのか、ハーピー達が声を出している。更にその周りには、バタフライが隙間無く集まっている。
ピー♪ パー♪ ピピー♪
「ヤバい。何、あの数。今日はモンスター達のお祭りなの?」
「こんな光景見たことも聞いたことも……何なんでしょう?」
「何だろうね。あれを全部倒すとなると時間掛かりそうだな……」
「うーん……ハーピー、バタフライ、集まる、歌? 祭り?」
ミリアは、この状況が何なのか考えているのだろう。探偵物の主人公のように顎に手を当て、キーワードを声に出しながら推理している。
これはあれだろうか。ピコーン! と閃いてしまうのだろうか。頭脳も体も子供のミリアが。
「あっ! 分かりましたっ!」
「ちょっ! バカっ!」
やっちまった。推理できたのだろう。もやもやがすっきりして、更にそれが嬉しくて手をぽんっと合わせるのは分かる。だがな、状況を考えてくれ……。
ほら、あいつら歌を止めて一斉にこっち見てるじゃん? どうなるか分かる、ミリアさん?
「ミリア、あとで、お仕置き、確定、ね?」
「ああっ! バカ! 私バカァァアァアァァっ!」
折角ミリアを見返す為に剣士ジョブのレベル上げをしようと思っていたのに!
数が多い。バタフライは一撃で倒せることが分かっている。あとはハーピーの魔術さえ何とかすれば……。ここは魔術で……いや、確実にダメージを食らうだろ
うし、何より麻痺が怖い。僧侶になっておこう。
「ミリア! 障壁! 小屋作って火魔術で援護! 俺が前衛!」
「やいっ!」
ミリアに指示を出して俺は広場に向かって全力で走る。ミリアが何か変な返事をしていたけれど、またテンパってないだろうな……?
障壁は張っているみたいだがこちらに走ってきている。小屋を作れというのが分からなかったのか?
心配してミリアを見ていると、広場の全体が見える位置まで来たところで小屋を作り始めた。なるほど、ちゃんと状況判断はできている。偉い偉い。
俺は俺でメイスを振り回し、バタフライを片っ端からミンチにしていく。メイスを振れば振るだけ敵が倒れていくので気持ち良いが、結果はグロいのでできるだ
け見ない事にしておこう。
「ミリア、逃げようとしているやつから優先!」
「はい!」
俺はそのまま広場を突っ切り、外周からモンスターをなぎ倒していく。
グチャグチャと殴り倒していると、次第に右半身に違和感を覚え始めた。動きが鈍い。これが麻痺なのだろうか? 思ったように腕を振れなくなってきたところ
で自分の胸に掌を当て、治療を念じてみる。
体が一瞬白く光ったように見えた後、動けるようになった。
やはりあれが麻痺だったらしい。遅効性か……。これならある程度は耐えられる。
そしてモンスターを倒している間、殴られてもいないのに、たまに鎧に『ガンッ』という衝撃があった。あれがハーピーの使う風魔術なのだろう。見えないから
いつ来るのか分からないが、威力自体は大したことがなさそうだ。無視しよう。
そうこうしている間に、ミリア小屋からの固定砲台により、モンスターは残り十匹程度になった。
「ミリア、ストップ。あとは俺がやるよ」
「分かりました」
ミリアにはMPを温存させ、近い位置に居るモンスターからメイスで順に叩き落とし、狩り終わった。
「思っていたより、大したこと無かったね」
「タカシさん、すごいですね。ビュンビュン走り回って倒してました」
「ミリアが逃げようとしているモンスターを倒してくれていたお陰で、集中して戦えたよ」
「私はまだまだです」
ミリアとお互いを褒め合いながら、モンスターの死骸を回収していく。すごい数だ。六十匹はあるんじゃないだろうか。これなら朝の分と合わせてかなりの稼ぎ
になる。それにしても、この集会は何だったのだろうか。
「それで? お仕置きを控えているミリアさん? 何か弁明はありますか?」
「ひぅっ! あの、そ、その、ごめんなさい。何なのか分かったら嬉しくて……」
「何が分かったの?」
「こ、この集まりは多分、バタフライの産卵の為の集まりだったんじゃないかと」
産卵の為だけにこんなに集まるか? 産卵っていうのは普通、こっそり隠れてやるものじゃないのか?
「グリーンバタフライはメスのみがなれるんです。そして、産んだ卵にはオスが皆で一斉にせ、せぃ……を掛けて受精させるんです」
「え? 何だって?」
「オスが! 皆で! 卵を受精させるんです!」
「どうやって?」
「もう!」
何だこのやりとり。自分でやっておきながら思ったが、ただのセクハラおやじじゃねーか。それにしてもオスが全員でぶっかけか……結構すごい状況だったんだ
な。
「でも、何でハーピーが居たの? 関係無くない?」
「ハーピーは基本的に別のモンスターと行動を共にするので、バタフライに付いてきて、その……行為を、見守っていたんじゃないか、と……」
「公開セックスを見学に来ていたのか。じゃあ俺らも見せてあげれば良かったね」
「……」
一発ショートか。ミリアの妄想力の燃料には濃すぎたようだ。
意識が遠いところへいってしまったミリアをおんぶして森を出る。やっぱりミリアのお尻は最高だ。
十分堪能した後、先程休憩した河原まで移動する。膝枕にミリアを寝かせた後、ついでにレベルを確認しておく。
▼タカシ・ワタナベ 僧侶16(アンノウン19) ランクD
▼ミリア・ウェール 魔術士19(僧侶16) ランクE
先程大量に討伐したからだろう。一気にレベルが上がっている。あと少しで20レベルだな。また新しいスキルを覚えるのだろうか。楽しみだ。
レベルの確認が終わったので今度はミリアの確認を行う。ずっとトイレに行っていないし、そろそろタンクの容量も限界が近い頃だろう。
もし出てしまっても、お互いが汚れない角度に体の向きを変え、且つ手が届く範囲に位置を調整し下着をずらす。あぁ……このスジ。ツルツルすべすべ。何度見
ても飽きないな。
気を失ってから少し時間が経過しているので、起きる前に全力でスジ上部の小さな突起部をイジる。
「んぅ……ぅぅ……」
次に異物の挿入に慣れさせる為、唾液で濡らした人差し指と中指をアナルに入れて、穴を拡張する。
「んくっ……!」
──ショォォォォォォ
暫くすると、体がビクンと大きく仰け反った後、案の定放尿を開始した。俺も慣れたもんだな。
今日は長時間溜めていただけあり量が多い。汚れないように位置を調整したが、念の為指で広げて出る方向を変え、終わるまで待つ。次第に勢いが弱まり、体が
ブルっとして終了。
汚れてしまった手を舐めると、先程食べた料理のスパイスの味というか、匂いを強く感じた。
左手で陰部の感触とミリア汁の匂いや味を堪能しつつ、自慰をするとすぐに果ててしまった。ふぅ……。匂いなどが生々しくて興奮してしまったようだ。
汚れてしまったミリアの陰部を洗い、タオルでゆっくりと拭きあげた後、下着を穿かせる。
濡れた地面や匂いなどは、ジョブを魔術士に変え、魔術を行使して証拠隠滅。
そうだ、ジョブを魔術士に変えたことだし、ミリアが起きるまで魔術の練習でもしよう。俺のオリジナル魔術なんか見せたらミリアは驚くだろうな……。
一通りの魔術を使ってみたところ、魔力が低くても、その分MPを多く使用すれば同じ威力になることが分かった。
例えば俺が魔力100、MP10を使って魔術を使うとする。魔力が25しかない魔術士が俺と同じ魔術を使うとなると、使用した魔力差が四倍なので、MPを
40使えばその差を補える、といった感じだ。
但し、魔力が低いということは比例して基本となるステータスやMPも少なく、発動自体ができない可能性もあるのだが。
そんな計算を行いつつオリジナル魔術を開発した結果、土魔術で土の各成分を別々に抽出して玉にし、その玉を火魔術で燃焼させ続け、虹色に燃えている玉を風
魔術で飛ばす、という魔術を考案した。
これを『セブンスバレット』と名付けよう。中二感丸出しで良いネーミングだ。きっとミリアも驚く!
命名も終わったところで、セブンスバレットを生成してから、目標に着弾するまでの練習を何度も行う。
練習中、MPの残りが心配になり確認すると、魔術士のレベルが上がっていた。
どうやら魔術の練習をしているだけで魔術士のレベルは上がるらしい。街には戦った事が無さそうな商人でもレベルの高い人達が居たし、そのジョブに合った行
為をするとレベルが上がるようだ。当たり前といえば当たり前かもしれないが、これは良い情報を得たな。
ついでにジョブの確認を行うと、初級錬金魔術、初級空間魔術、初級合成魔術というスキルが増えている。
さっきの練習で、成分を抽出し、燃やし、浮かべ、飛ばした。成分を抽出したのが錬金魔術。玉を浮かばせたのが空間魔術。そしてそれぞれ土・火・風を使用し
た魔術を発動したので、合成魔術ということなのだろうか。良く分からない。ミリアに検証させてみるのも良いかもしれないな。
魔術士だけでこのバリエーション。他ジョブも色々試す必要がありそうだな。特に僧侶なんかは魔術士と同系統のジョブだから色々と隠し魔術などがありそうだ
。あとでミリアにも教えてあげよう。
目で追えない程度の速度になるまでバレットの練習をしたところで、ミリアが目を覚ました。
目を覚ましたミリアはまだ寝惚けているのか、酷い言葉を口走っている。
「うぅん……こうかいせっ……」
「お、ミリアおはよう。いやらしい夢を見ていたみたいだね」
「あぁ、おはようございま……じゃないです! タカシさんのせいでこんなになったんですからね!」
完全に目を覚ましたようだ。起き上がり、腕を振りながら私怒っていますアピールをしている。
「それじゃあ残りのユニークを狩りに行こうか」
「もう! まだ話は終わってません! 何でいつもそうなんですか!」
「ミリアがムッツリなのは分かったから、早く次に行こう? 俺、夕方から用事があるんだよ」
「もおおおおおおおおおお!」
俺が立ち上がり歩き出すと、ミリアが今から倒す牛のモノマネだろうか。モーモー言っている。
「次はどこに行けばいい?」
「勝手にしてください! もう知らないです!」
「あーあ、早く終わらせて、ミリアに新しい魔術でも教えてあげようと思ってたのにな。残念だなぁ」
「……あたらしい……まじゅつ……?」
腕を組んで背を向けていたミリアだったが、新魔術が気になるのかチラチラとこちらを見ている。
「いや、もういいよ。俺一人でやってくるから。ミリアは先に宿に戻っておいて。それじゃ」
そう言って再度歩き出す。
「新しいの……教えてくれるんですか……?」
いつの間にか追いついてきたミリアに袖を掴まれた。チョロい。
「俺はミリアに魔術士を習得させたし、魔力コントロールも教えた。ある意味師匠だ。これからも色々と教えていこうと思っていたんだけど、ミリアは俺と一緒に
居たくないようだし、もう解消。無し無し」
「タカシさんは私の師匠です! でも、だって、変な事、ばかり言うから……うぅ」
あ、泣きそうだ。調子にのってイジり過ぎたか。
「それはミリアが可愛いからイジっているだけ。好きの裏返しだよ。ごめんな?」
「イジメないでくださいよぉ……」
「この話は魔術の件も含め、時間が掛かる。今夜にしよう」
「……くすん……分かりました」
納得してくれてはいないようだが、ミリアが落ち着くまで少しだけ待ち、再度場所を聞くことにする。
「それで、どこに行けばいい? さっきも言ったようにもうちょっとしたら用事があるからさ」
「……用事って? あ、いや、何でもないです。えっと、あっちの平野にシープとオックスが居ます」
ミリアが示している方角を見ると、確かに平野で何かが動いている。恐らくあれの事だろう。
「じゃあ、さっさと行って、サクっと終わらせよう」
「作戦はどうしますか?」
「さっきの戦闘で思ったけど、あの程度だったらミリアさえ気を付けていれば適当で良いと思う。だからミリアは身を守りながら近いモンスターを倒していってく
れ。あとは俺がやるから」
「分かりました」
平野の方では牛が大量に川辺で群れていた。どうやらちょうど水を飲みにきていたらしい。その中に一匹だけデカい牛が居るのでそれが群れのボス、所謂ユニー
ク個体なのだろう。
更に奥の方には、草を食べているクリーム色のような少し濁った毛並の羊が居る。その中に一匹だけオレンジがかった毛並みの羊が居た。それもユニーク個体だ
ろう。
「それにしても、こうやって見ると、単に放牧しているようにしか見えないね」
「あの子達のお肉を食べているので、確かに放牧と言えないこともないですね。でもモンスターに変わりありません。増えると餌が無くなって村などを襲い始める
ので、討伐は必要です」
「でも皆殺しにしたら、街でオックス料理が食べられなくなるよね?」
「オックスとシープは臆病なので攻撃したら逃げます。だからユニークと数匹だけ狩れば良いかと」
なるほど。それなら依頼分もユニークも狩れる。皆殺しせずに済むということか。
「じゃあ、この位置だとシープに逃げられるからマズいな。あっちに行こう」
「はい」
「今度は大声出さないでね? あの時のお仕置きもまだしてないし」
「もう! あの時は、その、ごめんなさい。あと、お仕置きは……許してください」
お仕置きを許す? とんでもない。楽しみにしているのに無しにするとかあり得ない。
そんな会話をしながら牛と羊、両方を狙える位置に移動する。
「それじゃあいくよ? 準備は良い?」
「いつでも大丈夫です!」
「よし、ゴー!」
どちらも仕留められるよう、牛と羊の間に向かって二人一緒に走り出す。向こうもこちらの敵意に気付いたようで一目散に逃げだした。
それを見て、指先に土魔術で尖った石を生成し、風魔術で射出。ユニーク牛とユニーク羊の頭部を狙いそれぞれを一撃で仕留める。次にその近くに居た牛と羊を
順に、ユニーク同様石を射出して仕留める。
ミリアは俺のやっていることを真似したいのか、こちらを見つつも土魔術で石を生成している。しかし作った傍から石が地面に落ちているので、ミリアにはまだ
空間魔術や合成魔術は使えないらしい。
何度か試した後、真似は諦めたのか、いつも通り炎で燃やして倒している。
それにしても大丈夫かあれ。肉が上手に焼けました状態だけれど、ちゃんと回収できるんだろうか。
全体の四分の三程度倒したところで、射程内には牛も羊も居なくなっていた。
「ふう。これだけ倒せば大丈夫かな?」
「問題無いと思います。それよりさっきの魔術、どうやってるんですか? 私にはできませんでした!」
「内緒。ミリアが良い子にしてたら、教えてあげるよ」
「えぇー……」
まだだ。まだ教えるのは早い。何か俺を満たしてくれるまでそう簡単には教えないさ。ふふふ。
倒したモンスターを回収し、話を切り替える。
「それじゃあ、さっきのところまで戻って少し休んだ後、街に戻ろうか」
「……はい……」
ミリアは俺が魔術を教えなかったことで少し拗ねている。だがまぁ、それは仕方の無いことだ。
慰め程度に頭を撫でて、ひとまず川辺まで着いたので少し休憩することにした。ここから街までは戻るだけなので、モンスターが出る心配もないだろう。だから
普段着に着替えて……いや、もう街から出ないだろうし、このまま風呂に入ろう。
そう考え、川辺に土魔術で小屋を作る。そして外から中が見えないように加工した後、その中に釜などを出して風呂の準備をする。
「えっと、まさかとは思うんですが、また……お風呂ですか?」
「そうだよ? もうユニークも狩り終わったし、あとは街に帰って用事を済ませたら寝るだけだからね」
「確かにそうですけど、お風呂はちょっと……」
恥ずかしいです……とミリアが言っているが、無視だ無視。
そういえばお仕置きがまだだったな。一緒に風呂に入るのがお仕置きだと、これから先お仕置きの時しか一緒に入ってくれなくなるだろうし、どうしたもんか…
…。
「ミリアのお仕置きがまだだったね。まずは装備が汚れたから、その整備と洗濯をしてもらおうかな」
「お仕置き……でも整備や洗濯は慣れているので、元からやるつもりでしたし大丈夫です」
おおう、元から洗濯するつもりだったのか。偉い偉い。
「次に、今日は風呂を一人で沸かしてもらう」
「それも魔術の練習ができるので、やります」
それもそうか。確かに魔術の練習になるし。魔術を使ってもレベルが上がるというのも分かったし、当然の結果だろう。そうなるとお仕置きになりそうな事が無
いな……。
「あと、今日一日、俺が言うことには必ずハイと答えること」
「何ですかそれ? お仕置きなんですか?」
「そうだよ。それより、返事は?」
「はい」
準備はこんなもので良いだろう。
ミリアはお風呂を沸かす為、既に釜に水魔術で水を溜め始めているし、そろそろ言っておくか。
「沸いたら当然一緒に入るよね?」
「ふえっ!?」
「これから先ずっと、お風呂は必ず一緒に入るよね?」
「えぇっ!?」
「あれ? 返事は?」
「えぇぇ!? あぁ……はい……。これが狙いだったんですね……」
そうやっている内に風呂が沸いたのでミリアと一緒に入る。
ものすごく恥ずかしがっており何度かショートしそうだった。別にショートしてくれても良かったのにな。
抱き寄せて体を洗ってあげている間、失神を我慢してプルプル震えていたが、股の間を洗ってあげようと手を伸ばしたら「ふあぁ……」と声を出してショートし
てしまった。
そうなるように仕向けたとはいえ、ショートしてしまったのであれば仕方が無い。いつもの悪戯タイムだ。
まずミリアを横向きで膝の上に乗せ、瑞々しい唇に俺の唇を重ね合わせる。そして、舌を使って歯を開かせて口内に侵入。そのまま可愛らしい小さな舌を吸いな
がら、ミリアと体液を交換する。
その間にも先程股の間に挿し入れた手でミリアのお豆さんにクニクニと優しく刺激を与えるのも忘れない。
もちろん空いている手は、ミリアのまな板だ。小さな小さなボタンを指の腹で優しく愛撫する。
「……っ、……っ」
そうやってミリアのアナル以外の開発を行っていると、ミリアは口が塞がっているのもあり、声に出せず少し苦しそうにモジモジとし始めた。
「んふーっ!」
暫くミリアの全身を弄っていると、唸って腰を浮かせた後、ブルブルと震え始めた。慌ててキスを止め、ミリアの様子を見る。
「はぁはぁはぁはぁ……」
顔が真っ赤になっている。口が使えなかったので苦しかったのだろう。
……それでも続けるけどね。
ミリアの呼吸が落ち着くまで、インベントリから木の板などを取り出し、釜の縁を背もたれにできるような高さで即席の椅子を作る。
そこにミリアを座らせピッタリと閉じたスジを左右に広げると、ミリアの愛液が日の光に当たり輝く。
汁が溢れてくるのが分かる。準備万端のようだ。しかし、ペニスの挿入はできない。悔しいがここは我慢。
更に、異物の挿入自体がマズい可能性もあるので、舌を入れるのもやめておこう。
そうなると俺には愛液を舐め取る、またはクリトリスを刺激することしかできない。
だが、今はそれで十分。そんな事を考えながら、一心不乱にミリアの股間に顔を埋めて舌を動かす。
「あっ……んっ……ふっ……」
心なしか硬くなっている小さな乳首を指で転がしつつ、ミリアの股の間から顔を上げる。
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
ミリアの呼吸が荒くなってきたので、クリトリスを剥いて軽く歯で刺激を与える。
「あぅっ!」
左手で乳首を優しく摘まんでみたりパターンを変え、移りゆくミリアの表情を楽しむ。右手は俺の自慰用だ。
「ん、んん、んぅーっ!」
ミリアが絶頂を迎えたと同時にプシッと潮を吹いたので、口を付けていたのもあって飲んでしまった。
これがミリア潮の味……なんて思いながらミリアの股に顔を埋めたままペロペロとしていると、絶頂で硬直していたミリアの体がぐったりとなり、今度はチョロ
チョロと尿が漏れてきた。
当然、ペロペロしていたのでそれも飲むことになる。ついでに俺も出すものを出しておく。
「はぁはぁはぁ……んぅっ……はぁはぁはぁ……」
ミリアは、俺が舐める度に体がビクッと動くので面白くて何度も舐めてしまう。
ふむ……味が違う……。などと賢者タイムということもあり、ミリア汁を分析していると、ミリアの体が少し違う動きをした気がしたので、股の間から顔を離す
。
「……はぁはぁ……うぅ……あ、あれ……?」
「あ、気が付いた? もう体洗い終わるよ」
バレたかとも思ったが、幸いにもミリアは寝惚け状態だったので、慌ててミリアから少し離れて優しくお湯を掛けながら、俺の唾液やミリア汁を洗い流しておく
。
「よし、そろそろ上がろうか」
「え……あぁ、はい……ふぅ、ふぅ……」
釜から出てミリアに「おいで」と声を掛け、呼び寄せてから体を丁寧に拭いてあげる。まだ意識が覚醒していないのか、なすがままだ。体を拭いている間、俺の
下半身をチラ見していたが、そこは言及しないでおこう。このムッツリさんめ。
「あ、あの、タカシさん……お風呂の間、私に何かして……まし、た?」
「うん? 体を洗ってたよ?」
「そう、ですか……」
もしかすると、悪戯中のどこかで一度目が覚めてしまっていたのかもしれない……マズいな。
ミリアは首を傾げながら俺の下半身から目を逸らさずに小さな声で「夢……?」などと言っている。
「さっきからこれが気になっているみたいだけど、エッチな夢でも見た?」
ミリアの体を拭いている間に再び勃起したペニスを上下にブンブンと動かしつつ、ミリアに問い掛ける。
「うぇっ!? ち、ちがっ、ちがましゅ!」
突然動き出したペニスに驚いたのだろうか、目を大きく見開き、噛みながら否定している。
その後、俺は何もしていない、アレは夢だった、と話を誘導し、ミリアを落ち着かせた。
体を拭き、着替えも終わったので釜などを片付けてから小屋を元の土に戻す。
気温はそんなに低くない。むしろ風が気持ち良い。これなら湯冷めもしないだろう。
「手を繋いで帰ろう」
「……はい」
さっぱりしたので、風に当たりながら火照りを冷ましつつ、手を繋いで仲良く街へと帰る。
道中、ずっとミリアの顔が赤かったのは湯にのぼせてしまったからだろう。
街に着いたら、まずはカッシュの相手だ。
「ただいまです。戻りました」
「おう、大丈夫だったか? 怪我とかは無かったか?」
「はい、大丈夫です。心配ありがとうございます。それでは!」
「おう」
ずっと守衛をしているだけだからヒマなのだろう。たまには話相手にならないとな。まぁ、近々この街から出るけれど。そんな事を考えながらギルドへ入ると、
受付にはいつものおじいさんが居た。
「戻りました」
「はい、おかえりなさい。精算かい?」
「そうです。すごい量ですけど大丈夫ですか?」
「ははは、問題無いよ。ただ、多いならカウンターじゃ狭いだろうからあっちに行こうか」
案内されたスペースに移動して、おじいさんが「はいはいちょっと空けてねー」と言って、雑談していた冒険者達を退去させる。去り際に俺を睨んで舌打ちをし
ていたが気にしないでおこう。
「じゃあ、ここに並べてくれるかい?」
「はい、じゃあ順番にいきますね」
そう言って、フォレストラットの尻尾41本、センティピードの足19本、バタフライの羽64枚、ハーピーの爪28個、ビッグオックスの牙12本、アサルト
シープの爪18本を出す。
続けて、レッドラットの牙、パープルセンティピードの眼、グリーンバタフライの触角、ピンクハーピーの羽、ブラウンオックスの角、オレンジシープの皮を取
り出す。
レアそうなアイテムは出さない。ひとまず討伐が分かるようなアイテムだけを先に出すことにした。
「えっ……これ……君達二人で? えっと、今日一日で……?」
「はい、早朝から狩りに行ってきました。さすがに疲れました」
「君達、まだ冒険者になったばかりだよね!? 何をしたら二人でこんな数相手にできるんだい!?」
「んー、不意打ちで少しずつ? まぁ、あの、狩り方については他の冒険者も居るので内緒です」
驚いているおじいさんに興味を示した冒険者達が集まってきたので、はぐらかしておく。
「あぁ、ごめんよ。そうだね。パーティーにはそれぞれの戦い方っていうものがあるからね。でもこれだけの数、かなり無茶したんじゃないかい? 怪我は無いか
い?」
「そんな事ないですよ。ほら怪我もしてないし」
今の俺は冒険者なので、自分で治したからとは言わないでおく。
「そうかい。なら良かった。でも予想以上でびっくりだよ」
「驚いてくれたなら頑張った甲斐がありました。それじゃあ換金、お願いしますね」
はいはい、と言いつつアイテムを数えて何往復かに分けて、奥に持っていく。
俺とおじいさんが素材を数えたり、会話をしている間、ミリアが冒険者達にチヤホヤされていた。
「ミリアちゃんすごいね! 才能あるよ! 俺らと一緒に来ない!?」
「えっと、ごめんなさい……」
「すげーよ! あんな数どうやって倒したんだ!?」
「えっと、その、ほとんどタカシさんが一人で……」
「ミリアちゃん俺と付き合ってー!」
「ごご、ごっ、ごめんなさいっ」
こいつらミリアちゃんミリアちゃんってうるさいな。でもまぁ、それだけ慕われているってことか。
いい子だし、当然と言えば当然だ。などと一人得意気にしているとおじいさんが戻ってきた。
「お待たせしたね。んーと、それぞれ164、95、256、140、48、72銀だね。それとユニークの分は6、6、8、8、9、5金だから、合計49金と
75銀になるよ」
「おお、ありがとうございます。一気にお金持ちになったな」
「あんまり無駄に使うんじゃないよ? まぁ冒険者に言っても無駄なのは分かっているけれど」
「もちろん、ミリアの為にも無駄使いはしませんよ」
「ミリアちゃんはほんと良い人を捕まえたなぁ」
おじいさんはそんな事を言いつつ、冒険者に囲まれているミリアの方を見ていた。
「ありがとうございました。それじゃあ俺らはこれから用事があるのでそろそろ行きますね」
「はいはい。無理はしないようにね」
「もちろんですよ。ミリアー! そろそろ行くよー!」
囲まれているミリアを呼び戻し、ギルドを出ることにする。相変わらず皆は俺に冷たいけれど誰も俺に襲い掛かってこないので、早々にギルドを出て、ミーアの
宿へと向かう。
「戻りましたー。まだ早かったですか?」
「いや、本当なら何時でも良いんだ。ただあんた達の邪魔をしたくなかったから夕方にしただけさね」
「なるほど。それで用事って何なんでしょうか?」
ミーアはミリアの方を向いて少し動きが止まっていたが、カウンターから出て来て俺の正面に立つ。
「そうだね、順に行こうか。今日はどうする? まだ泊まるかい? だったら先に会計しておこうか」
「あぁ、はい。じゃあ、これで」
ミーアは手を前に出し金をよこせというジェスチャーをしてきたので、代金を先に渡しておく。
「毎度どうも。部屋は昨日と同じだよ。それでこれは鍵。はい……さて、じゃあ先に夕飯でも食べな」
「え? まだ早いと思いますけど?」
「今日は用事があるからって事で少し早めに用意しておいたんだよ」
それならば、サクっと食べてしまおう。
「じゃあミリア、先に食べちゃおうか」
「はい」
ミーアをその場に残し、食堂に移動して夕飯を食べることにする。
今日もとても美味しい料理だったがミーアを待たせるのも悪いので早めに食べ、飲み物で一息つきながらミリアが食べ終わるのを待つ。
「ミリア。そんなに急いで食べなくて良いよ。ちゃんと自分のペースで食べなさい」
「はい。えへへ……。タカシさん、たまにお父さんみたいな事を言いますよね」
「俺は恋人にはなってもミリアの父親になる気はないよ」
「分かってます! いや分かってない! 彼氏じゃないです!」
どっちだよ、と良く分からない突っ込みをしながら夕食を楽しみ、お茶で一息つく。
お腹が落ち着いたところでミーアの下に戻ると、待っていたかのように喋り出す。
「まずはね、ミリアに話があるんだよ」
「え? タカシさんじゃなくて、私に、ですか……?」
「あぁ、もちろんタカシにも話はあるよ。でも、まずはミリアなんだよ」
ミリアは警戒しているが、ミーアは無視して話を先に進める。
「短い間だけど、ずっと憧れていた冒険者をやってみて、どうだった?」
「毎日楽しいです。タカシさんはエッチですけど……それ以外は楽しいです! それに聞いてください! タカシさんのお陰で魔術を使えるようになったんですよ
! タカシさんはすごいんです!」
「そうかい。魔術……それはすごいね、良かったじゃないか! うん、良かったねぇ」
「えへへ……」
ミーアは微笑みながらミリアの頭を撫でている。どこからどう見ても親子だ。絵になる。
「それで、どうする? まだ冒険者を続けてみるかい? それとももう魔術を覚えたし満足したかい? またギルドの手伝いに戻るかい? アタシはね、それを聞
いて今後の事を考えなきゃならない」
「あ……そうですよね。お店の事もあるし、ギルドも急に仕事を抜けちゃったので……」
いきなり現実に戻されミリアは恐縮してしまっているが、それでもミーアは話を続ける。
「本当はね、あの人が逝ってしまってからすぐ、お前の事をもっと幸せにしてくれる所にでも売ろうとしたんだよ。……奴隷は持ち主が死なない限り解放はできな
いからね」
一度奴隷になった者は基本的に解放されないらしい。但し持ち主が死んだ場合に限り、持ち主の遺言状を基にして解放するか再度売却するか、その後の人生が決
まるらしい。
ミリアはショックだったのか「そんな……」と一言だけ発し、既に涙目になっていた。
「でも、あの人が何故所有権をアタシにしたのかを考えたら、それはダメな気がして……それに、ギルドや店の手伝いを頑張ってくれているお前を売る事なんてで
きなかったよ」
「……嫌ですよ? 私はこの家が良いです! 違うところの奴隷になるなんて考えられません!」
「大丈夫だよ。今は……売るなんて考えていないから安心しな」
「お母さん!」
抱き合う親娘の図。微笑ましいな。しかしミーアが両手をミリアの肩に乗せて引き離す。
「それで、話は戻るんだよ。お前はどうしたい? 冒険者に満足したのならウチに戻っておいで。冒険者を続けたいのなら、それでも構わない。お前の本音を聞き
たいんだよ」
「私は……もちろんお母さんと一緒に……でも冒険者も……」
「どちらも続けるってわがままを言うのなら今までの話は全て無しだ。アタシは、いや、人生はそんなに甘くないよ。しっかり自分の考えで答えを出しな」
「はい……私は……目標だった魔術も使えるようになりました。でもまだまだです……この魔術でどこまでやれるのか……まだ! 冒険者をやってみたいです!」
何か二人の空間が出来上がっていて、俺が入る余地なんて無いんだけど。これって俺必要なの?
「本当に冒険者をやってみたいんだね? それがお前の答えなんだね? もう変えられないよ?」
「あの……それは冒険が終わって戻ってきても、この家に私の居場所は無いってことです……か……?」
「何言ってんだい。お前の家はここだろう?」
「はい! じゃあ冒険者を続けたいです!」
一気に明るくなったな。浮き沈みの激しい親娘だ。一緒にいる俺の身にもなってくれ。
「良い返事だ。それじゃお前との話はこれで終わり。次はタカシだよ」
「え? 今ので話は終わりじゃないんですか? 聞いている限りでは俺の必要性は無かったですけど?」
「いや、ここからが話の本題だよ」
もう話は終わったと思っていたらまさか俺に話が来るとは……。何の話だろうか。考えられるのは俺にミリアの所有権を譲ってくれることくらいだが。
「お前さんを信用してミリアを預ける。だからこれから奴隷商のところへ行くよ」
「えぇ!? 私売られちゃうんですか!?」
さっき売らないと聞いたばかりなのに、奴隷商の所に連れて行かれるとなると驚くのも分かる。でも話の流れ的に違うだろうよ。気付け、ミリア。
「理由を聞かせてもらっても?」
「奴隷は一定期間持ち主から離れることはできないんだよ」
「なるほど。ちなみに離れるとどうなるんですか?」
「死ぬ」
逃亡を防ぐ為なんだろうが、そりゃあ一大事じゃねぇか。だから街を離れる前にこの話をしたのか。納得。
「そういうことだ。ミリアも分かったね? それじゃ、ほら行くよ!」
「私が……タカシさんに……ううぅん……」
ミリアは渋々といった感じでミーアに付いて行っている。ミリアが俺の奴隷かぁ。所有者から離れたら死んでしまうなら仕方が無いよね!
色々とムフフな事を考えながら、俺も後を追う。