カバー

相手の記憶を書き変えて、己の情欲を発散せよ!!

芽森総太は登校途中で猫の死体を見つける。気まぐれに弔ったその後、夢の中で猫にそっくりな性愛の神・イシュタルが現れ、恩返しとして『記憶改竄術』を授けられた。これで情欲を発散せよと告げられ、総太は半信半疑で憧れの同級生に『ノート』を見せてと頼んでみる。すると突如、相手の思考が文字になって目の前に浮かび上がってきた。試しに『ノート』の文字を『下着』に書き変えると、彼女は服を脱ぎ始め――。

書籍化に伴い大幅改稿!
原作で人気のキャラの書き下ろしも収録!

  • 著者:マルチロック
  • イラスト:水平 線
  • 本体価格:1,200円+税
  • ISBN:978-4-8155-6507-7
  • 発売日:2018/8/30
口絵

タイトルをクリックで展開

 俺は今、ただの気まぐれで野良猫の墓を作っていた。

 朝の登校途中、近道しようと通った路地裏でその白猫は死んでいたのだ。

 別に芽森総太は普段からそんな殊勝なことをする好青年ではない。

 普段だったら野生動物の死体に触るなんて、衛生的にも精神的にも遠慮したいところだ。

 ただ「なんだか昔飼っていた猫に似ているな」とか「野良猫はこのまま野晒しで死ぬのが普通なのだろうか」なんてことを考えている内に、近くの公園まで猫の死体を運んでしまった。

 冷たくなった猫を抱えて間近で見ると、その白い毛並みはまだ艶を持っており美しい。一目で死体だと分かるほど痩せ細っているのに、体温を除けばまだ生きているかのような毛並みを持った不思議な猫だった。

 大通りで登校する学生の流れを横切り、路地裏から公園へとさっさと移動する。他人には猫の死体を運ぶ姿はあまり見られたくない。

 公園の隅に穴を掘り、猫を安置して土を被せ、申し訳程度に野花を供えた。

「完全に遅刻か……まぁ、いっか」

 どうせ走っても一時限目には間に合わないことが分かっていたので、マイペースな歩調で学校へ向かった。

 昼休みを知らせるチャイムが鳴り、教室や廊下に同級生達の賑わいが広まっていく。

 結局、学校に着いたのは一限の終了後で、二限の教師から遅刻の理由を聞かれたが適当に嘘を並べておいた。流石に、「野良猫の墓を作っていました」は冗談だと思われかねない。

 その後は何事もなく授業を終え、お楽しみの弁当タイムだ。いつものことながら、姉に感謝して頂こう。

 鞄から弁当箱を取り出していると、机の横に見知った顔がやってきた。

「猫ちゃん、ちゃんと弔ってあげた?」

 弁当に向けていた顔を上げると、そこにはクラスメイトの高原恵美が立っていた。

 丸っこい目をした童顔とセミロングの黒髪に、微笑みが似合う落ち着いた自然な笑顔。大人しそうで派手さはないが清楚さや誠実さを感じさせる人物だ。

 今日も染み一つ無いブレザーの下には、白いブラウスと白いサマーセーター。プリーツスカートは膝下三センチを律儀に守り、その下のソックスまで綺麗な白色である。校則を遵守する模範的な制服姿だ。

 去年図書委員を共に務めた縁で、なにかと勉強方面で頼らせてもらっている同級生である。いや、正直に言えば高原さん目当てで図書委員に立候補し、彼女と話したいがために勉強を建前にしていると言っていい。

「猫って……高原さん、見てたの?」

 こっちの問いかけに高原さんはこくんと頷いた。その動作だけでも愛らしい。

 話を聞くに、どうやら公園へ猫を運ぶ俺の姿を遠目に見ていたそうだ。

 そこまで見られていたら仕方ない。俺は正直に遅刻の経緯を説明することにした。彼女から良く思われたいという打算がなかったとは言えないが。

「……へえ、芽森くんって優しいんだね」

「ただの気まぐれだよ。あの猫がキリエに似てなかったらそんなことしないって」

 ちなみにキリエとは昔飼っていた猫の名である。メスで雑種。白と黒の綺麗な毛並みを持っていた。

「その猫ちゃん、きっと感謝してるよ。その内、夢枕に立って恩返しに来るかも」

「恩返しか。猫って薄情な生き物だっていうけどね」

「目が覚めたら、枕の周りに大量の鰹節やマタタビがあったりして」

「猫基準の恩返しをされても困る……」

 強烈な臭いを想像して眉をひそめる俺を見て、高原さんが鈴を転がすような声で笑った。

 そんな益体も無い会話を交わしていると高原さんが女友達のグループに呼ばれた。

「でも朝からそんな善行したんだもの。きっと芽森くんに良いことあるよ」

「……かもね」

 すでに幸運な気持ちになっていることは隠し、立ち去る高原さんの背を見送った。

 それから昼食を再開した。


 五限目。

 退屈な授業の最中に睡魔に襲われ、不覚にも……とはいえ満更でもない夢の世界に俺は落ちていた。

 夢の中は薄暗く、床以外はなにも無い空間にただ一人座っていた。

 すると空間の奥から白い猫が近づいてきた。不思議と今朝の猫だと直感する。

『うにゃ、我が名はイシュタル。何百年と転生を繰り返し、現世を渡る性愛の女神にゃ』

 白猫は自らを神と名乗ったが、その語尾と司っているモノは俗っぽい。

 そもそも猫が喋るという珍事が起きている訳だが、夢なので特に不思議ではない。

『今朝方、我が骸を埋葬したそちの温情痛み入るにゃ。故に我は神としてそちの恩に報いるため、一つ幸福を授けようと思うにゃ』

 どうやら高原さんが言っていた通り、本当に猫が恩返しに来たようだ。まさか神様とは思わなかったが。

 それで、なにが貰えるんだろう。やはり鰹節とマタタビか? 

『そちに授ける幸福は、そちの未来を救うためのものだにゃ。それは念じるだけで使える記憶改竄術。そちはこれをもって、己が情欲を満たすんだにゃ』

 ──はい? 

『我には分かる。そちは類い稀なる情欲の持ち主。しかし、そちは頑なな理性でそれを制しているにゃ。だが近い将来、その欲望が理性に勝り、そちを絶望の淵に迷わせるだろうにゃ。それを回避するため、我が授けたこの能力を使って女子を次から次へと××して、そちの望み通りに△△を○○して、その情欲を発散させるのが唯一の救いの──』

 ──誰が、性犯罪者予備軍だぁぁぁ!


 放課後。

 どうやら五時限目の居眠りは短いものだったようで、目が覚めるとまだ授業中であった。周囲から不審な目で見られていなかったから、あの叫びも寝言として現実に響いてはいなかったようだ。

 それから授業が終わり、ホームルームが終わっても尚、あの夢は鮮明なまま頭から離れない。

 俺が類い稀なる情欲の持ち主? 記憶改竄術でその欲望を満たせ? 

 馬鹿馬鹿しい。情欲が無いとは言わないが、あくまで一般的な男子高校生の範囲内に収まっている。

 それをあの猫は……いや、自分の夢だ。これ以上悪態をついても意味がない。

 帰路につこうと下駄箱に着いた時、高原さんに一限目のノートを借りることを思いついた。

 遅刻の理由は高原さんには知られているし、彼女は人当たりが良いので快く貸してくれるだろう。それに成績も良いので、きっと丁寧に纏められたノートは自分で板書するものより役立つだろう。

 確か、今日は高原さんが日直だったからまだ教室に残っているはずだ。

 俺はその場で回れ右をして、部活や自宅に向かう生徒の流れに逆らって、来た道を戻った。


 予想通り高原さんは教室に一人で残り、日直の後始末をこなしていた。

 他のクラスの日直はさっさと雑務を終わらせて帰ったらしく、すでに人の気配はなかった。

 運動部の掛け声や吹奏楽部の演奏が遠くに聞こえるだけの教室で、彼女は生真面目に窓の鍵の点検を行っていた。

「あ、芽森くん。どうしたの、忘れ物?」

「いや、高原さんにノート借りようと思ってさ。今日の一時限目の」

「あぁ、なるほど。いいよ、ようやく日直の仕事終わったから」

 そう言うと高原さんは腕を上に伸ばし、体を反って伸びをしてから自分の机に置いていた鞄へ向かった。

 ひと仕事終えた後だからだろうが、その時に強調された大きな胸にドキリとしてしまった。

『そちは類い稀なる情欲の──』

『念じるだけで使える記憶改竄術──』

『情欲を発散させ──』

 ……なんてタイミングで思い出すのだろうか。夢の中での、あの言葉がリフレインする。

 途端に高原さんと二人っきりで教室にいることや、ブレザーを押し上げる大きな膨らみを意識してしまう。

 正直に言えば、彼女に劣情を催したことが無い訳ではない。彼女に対して抱いているのは、甘酸っぱい恋愛感情というよりドロドロの情欲なのかもしれない。

 去年からずっと、いや今も夜のオカズにさせてもらっていることも多い。

 高原さんは大人しい性格で目立ちはしないものの、顔立ちは幼さと清楚さを兼ね備えた大和撫子だ。

 おまけに彼女は小柄ながらも、決してスタイルは悪くない。制服では膝下スカートにサマーセーターの完全防備なので分かりにくいが、魅惑的なバストラインを持っているのを体操着姿で知っている。

 ミニスカで胸元を緩くした派手な女子の方が注目されやすいが、彼女の魅力が周知の事実となれば鼻の下を伸ばして言い寄る男子もたくさんいるはずだ。

 そんな高原さんに対する情欲が雪崩のように押し寄せ、いつしか俺は期待をし始めていた。

 あんな馬鹿げた夢の、馬鹿げた言葉が真実であることを。

「えっと、見たいノートって世界史でよかったんだよね」

 机に置かれた鞄の中からノートを探す彼女の後ろ姿を見ながら、俺は半信半疑のまま、子供の悪戯のような気軽さで念じてみた。

 記憶改竄、と。

 突然世界がモノクロに染まり、身動きが取れなくなった。校舎の外から聞こえていた掛け声や楽器の音が聞こえなくなり、背中を見せている高原さんも微動だにしなくなった。

 なんなんだ、と慌てる暇もなく、俺の脳に無理矢理刻まれるかのような痛みと共に情報が流れ込む。

 それは記憶改竄術の使い方。

 一つ、この術は相手の記憶を文章化し、それを書き換えることで改竄を行う。

 二つ、同じ人間には一日一回しか術をかけることが出来ない。但し、効果は日を跨いでも継続する。

 三つ、書き換えられた本人は記憶を疑うことは基本的に無い。

 四つ、本人にとって書き換えられる前と後の物事は同価値である。但し、伴う感情は異なる。

 五つ──。

 それからいくつもの情報が激痛と共に頭に書き込まれていく。声をあげられない俺はただ耐えるしかない。

 情報がすべて脳に収まり終わると、痛みは嘘のように引き、ようやく事態を把握した。

 あれは夢の中のことだったが、虚構の出来事ではなかった。

 依然として世界は白黒で時間は止まっているが、これは記憶を書き換えるためのフィールドだということを自然と理解する。

 気づくと俺と高原さんの間に手のひらサイズの淡い光の文字で構成された文章が浮かんでいた。

[ 私は 芽森くんに ノートを 見せて欲しいと 頼まれた ]

 この文章をどうするか、俺はもう知っている。

 俺は念じて『ノートを』の文字を変化させる。

 限定神力・記憶改竄開始Now rewriting────。

 篝火のように揺らめく四文字が俺の念じた通りに形を変え、改竄が終了する。

 世界に色と時間の流れが戻り、遠くに聞こえる部活動の喧騒や春先の生暖かい空気にまた包まれる。

 目の前の高原さんは振り返ると、その姿はモノクロからカラーに戻っていた。

 しかし、その手には探していたはずのノートは無く、心なしかさっきより頬が赤いようにも見える。

 きっと夕日のせいではない。その紅潮した顔で高原さんは言った。

「えっと……見たい『下着』って、今着けているのでよかったんだよね?」

 高原さんは言い淀みながら、目を逸らしつつ尋ねてきた。

 驚き半分、予想通り半分といった気持ちで俺は改めて確信する。

 この能力は本物だ。

 今、改竄を受けた高原さんの中には『芽森総太に下着を見せて欲しいと頼まれ、それを承諾した』という偽りの記憶がある。

 彼女の中では、それは恥ずかしさを伴うとはいえ『ノートを見せること』と同価値の出来事なのだ。

 だから、断らない。

 彼女はそれを「いいよ」と返事したし、なにより見せることに疑問を持たないのだから断るはずがない。

 俺は心の中でガッツポーズと勝利の雄叫びをあげた。同時に高原さんの少し照れた表情とその言葉だけで頭の芯がにわかに熱くなり、苦しいほどの興奮が胸を締め付け始めた。

「ああ、頼めるかな」

「いいよ。『下着』ぐらい、いつでも見せてあげるから」

 どうやら高原さんの中では羞恥を感じながらも、自分の言動に違和感を覚えていないようだ。

 彼女が口走っている言葉がどれだけ刺激的なのかを実感出来るのは、ここにいる俺だけなのだ。

「それじゃあ上から……」

 高原さんはブレザーのジャケットとサマーセーターを脱ぎ、近くの机の上に綺麗に畳んで置いた。

 夏服の時でも脱がないサマーセーターを脱いだ高原さんのブラウス姿は、俺にとって貴重なものだった。薄い生地の奥にある膨らみに、期待が高まる。

 そしてついに、高原さんはブラウスの前ボタンに手をかけた。凝視する俺の視線を意に介せず、ボタンだけを見つめ、一つずつ外していく。一つ、また一つと彼女自身の手で外されていく内に、その下の柔肌が姿を現していく。

 鎖骨から胸元が見えると、俺は鼻息を荒くした。盛り上がった谷間が見え、その大きさを表していた。

 そして白いブラジャーに包まれた乳房から、目が離せなくなった。

「おおっ……」

 思わず驚愕の声が出てしまった。

 着痩せするタイプなのか、高原さんの胸は想像以上に豊かなものだった。

 そしてそのたわわに実った果実を支えているのが、童顔な彼女に似合った白いレースの付いたブラだった。

 真ん中の小さな赤リボン以外は白で統一され、ブラの端からはなんと胸の肉が余って少し溢れていたのだ。

 それからお腹が見え、ヘソが見える。太っているというほどでもなく、それでも柔らかそうな脂肪を薄く纏った肌が夕日を浴びて輝いていた。

 そして、ついにすべてのボタンが外された。

 高原さん的には見えやすいようにとの配慮なのだろう、ブラウスの両端を持って広げ、まるで露出狂のようなポーズになった。

 陶磁器のように白い腹も健康的なエロスを感じ、小さなヘソの穴まで愛おしく感じられる。

 流石に違和感はなくとも、恥ずかしさを覚えているのか、高原さんは自分でブラウスを開いておきながら羞恥で視線を逸らしていた。

「どう、芽森くん? 参考になるかな?」

「ああ……うん、なるよ……とても、なる」

 一体なんの参考になるのか自分でも謎だが、高原さんの質問に適当に相槌を打つ。

 俺は視姦するようにただ高原さんの胸と恥ずかしがる顔を見つめた。それを高原さんはうつむいて、ただひたすら自分の肉体を鼻息を荒くしている俺に見せつけていた。

 彼女はいくら羞恥で頬を染めようが、拒否しようとする素振りは一切しなかった。

 彼女の中ではこれは恥ずかしいことでも『ノートを見せてあげる』程度のこと。

 その矛盾を彼女に疑わせないのも、この改竄術の力なのだ。

 しばらく俺は美術館で彫刻像を鑑賞するかのように、決して触れることなく彼女の乳房を視姦した。

 今まで写真や映像のような平面的なものでしか見たことがなかったから、角度を変えることでこんなにも大きな胸は見え方が変わるものだとは知らなかった。特に下からの眺めは圧巻だ。

 このままずっと見続けていたいが、自分が校舎内にいることを思い出す。いつまでもこうしていられない。

「それじゃ、その、下もいいかな?」

「うん……ショーツもだね」

 俺は次なるステップに進むためそう催促し、それを聞いた高原さんは当然のように頷いた。

 ブラウスの端から手を放し、体を前に屈めて今度はスカートの裾を掴んだ。

 そして恥ずかしさからか、徐々に、ゆっくりとスカートの裾をまくっていく。

 しかし、それは逆に男の興奮を煽る行為であることを高原さんは知らないし、意識していないだろう。

 綺麗な膝、眩しい太ももが見えて徐々に彼女のデリケートな領域が暴かれていく。細すぎないが、運動部ほど鍛えられてもいない華奢な足が付け根まで晒され、ついにショーツが俺の視界に入ってきた。

 ブラウスの裾をスカートから抜いていたため、ばっちりとその全景が俺には見て取れた。

 上と同じくショーツもバージンホワイトで、赤いリボンの装飾で彩られていた。しかしレースは無く、その代わり彼女の秘部の形がくっきり見えている。

 気がつくと俺は膝を曲げて、目線をショーツの高さに合わせてじっくりと眺めていた。

「綺麗だ、すごく」

「別にそんな褒められるようなことじゃないよ。これぐらい、普通だよ……うん、普通」

 思わず出た感想に、彼女はそう謙遜した。下着を褒められても、今の高原さんには面映ゆいだけだろう。

 ショーツがはっきり見えるものの、日が傾いてきたのとスカートが長いせいで、少し暗くなってきた。

 電気を点ければそれで済む話なのだが、俺は別の方法をとることにした。

「高原さん、もっと見えやすいようにお願いしてもいいかな」

「え、見えやすいようにって……?」

「スカートを脱いでくれない?」

 俺の言葉に高原さんは一瞬、言葉を失っていた。誰よりも校則を守る形で制服を着こなし、日直の仕事にも手を抜かない優等生の高原さんに、服を脱げと頼んだのだ。

 初めての改竄に、俺自身も性的な興奮とは別に心臓がドキドキする。仮に俺の認識が間違っていて、高原さんが正気に戻ったらどうなるのか。そんな最悪な状況を一瞬思い浮かべるも、それは杞憂に終わった。

「うん、そうだよね。そっちの方が見えやすいよね」

 相変わらず言葉は冷静ながらも、高原さんは少し落ち着かない表情のまま答えた。

 高原さんはスカートの裾から手を放すと、腰の辺りにあるホックに手をかけ、チャックを下ろした。

 スカートが床につかないようそっと足を引き抜くと、ジャケット同様に机の上に畳んで置いた。

 ブラウスは全開で、スカートも脱いだ彼女はほぼ半裸の状態だ。

 その状態で高原さんはどんなポーズを取ればいいのか分からず、腹の辺りで弱々しく手を組んだ。

挿絵1

 まるでこれから犯されるかのような姿になった高原さんの周囲を、俺は回りながらその体を眺めた。

 背後に回ると、グラビアアイドルのように布面積の小さいものではなく、尻全体を下着に包まれた尻肉が観察出来た。しかし、それが同級生の普段身に着けているものだという生々しさを際立たせていた。

 俺は今、高原恵美の下着姿を見ている。その事実が俺の下半身を固くしていく。

 俺はある種の支配的な充足感と、背徳的な快感にゾクゾクと身を震わせていた。

 いつもの教室でクラスの隠れ美少女たる高原さんにストリップショーをさせている自分に酔っていたのだ。

 彼女のショーツをこんな間近で見られるのも、太ももの付け根やヒップの肉を舐め回すように見ることも、布一枚隔てた先にあるだろう陰唇の膨らみを観察することも、今の俺にしか出来ないことだ。

 荒々しく吸い込む息に混じって、甘い香りがする。ボディソープか服の洗剤の香りか……いや、今日一日で高原さんが全く汗を掻いていないとは思えない。つまり、汗の匂いも混じっているにも関わらず、高原さんからは甘く魅惑的な香りがするわけで……。

「ちょ、ちょっと芽森くん」

 くらくらするほどの興奮を覚えていると、高原さんが焦ったように呼びかけてくる。

「ん、なにかな」

「その、あんまり近づいて見られると、息がかかってその……くすぐったいよ」

 確かに、自分の顔は彼女のショーツに包まれた陰唇のわずか数センチ手前まで迫っていた。それに今の俺は興奮で息を荒げて、それが彼女の下腹部にかかっていることに気づかなかった。

 匂いまで伝わってくる距離に、俺は平常心を失いかけていた。

「それと見るだけだからね。触ったらダメだよ……その、困るから」

「わ、分かってるよ」

 しかし、このままでは本当に理性が吹っ飛びそうだった。我慢出来ず高原さんを押し倒したくなる衝動を何度も抑えつける。さっき理解した改竄のルールにあった「一日に一回のみ」の縛りと、今まで神聖視していた高原さんを穢す度胸の無さが俺を踏み止まらせていた。ここで手を出したら、それまでなのだ。

 だけどこの体を好きなだけ触ることが出来たら、どれほどの快感を得られるだろうか。

 我慢の限界を覚え始めた瞬間、俺は視界の端に捉えた時計によって我に返った。

 そろそろ完全下校時間になり、教師が見回りに来てもおかしくない時間帯だ。誰かに見られるのはまずい。

「あ、そろそろ時間だね。もう芽森くんも大丈夫?」

 俺が壁に掛けられた時計へ視線をやっていたのに気づいたのか、高原さんも時刻を確認すると、この至福の時間の終わりを切り出した。

 まだまだ足りないと俺の中の情欲が猛っていたが、ここはぐっと我慢する。

「……ああ、そうだね。えっと、ありがとう。『下着』を見せてもらって」

「ふふ、どういたしまして」

 半裸姿から服を着始める高原さんと俺は、そんな奇妙な会話を交わす。

 まるで彼女が本当の痴女になったような気になるが、あくまで彼女は『ノートを見せる程度』のことをした認識なのだ。

 だからここでそれ以上の行為を頼んでも、拒否されるだろう。

「それじゃあ、私は職員室に日誌と鍵を持っていくから」

 着替え終えた彼女に俺は未練を残しながら別れを告げると、急いで男子トイレの個室へと駆け込んだ。

 もちろん、先ほどの光景で完全に勃った状態である竿を鎮めるためである。

 俺は、まだ彼女がいるであろうこの校舎内で、彼女の半裸を思い出しながら竿を擦り出した。

 あのマシュマロのような弾力を想像させる胸を、目と鼻の先の距離で見たショーツの膨らみを思い出して。

 固く反り立ったものはカウパーでベトベトであり、握っただけで快感の刺激が駆け抜ける。

 加減もなにもあったものじゃない乱暴なしごきに、俺は一分と保たずに射精した。

 熱く、とても濃い精液が流れ出る。

 トイレの個室の中はまるで薄暗いサウナだった。

 頭と体の中では激しく血液が走り回り、その流れる音までが聞こえてきそうなまでに感覚がクリアだった。

 ああ、確かに──。

 トイレットペーパーで自慰行為の後始末をしながら、心中で呟いた。

 俺はこういうのを望んでいたのかもしれない──。

 あの美しい体に触れられなかった無念、そしてこれからの日々への高揚感。

 胸中で渦巻く感情の中に、改竄術を女性に使うことへのためらいが無いことに今更ながら気づいた。

 その日の夜、まだ興奮冷めやらぬ俺は自室でもう一回抜いてようやく就寝した。

 心地良い眠りの中、俺は夢の世界で目を覚ました。見覚えのある薄暗く、なにも無い寂しい空間だ。

『どうやら、我が授けた幸福は気に入ってもらえたようだにゃ』

 空間の奥から現れたのはあの白猫……ではなかった。

 俺よりだいぶ年下の、パッと見は小学生かそれ未満の白い少女だった。

 白いロングヘアーに、大理石で出来た彫刻のような端整で美しい顔立ち。パッチリと大きく、端が吊り上がった猫目に小さな目鼻。顔のパーツ一つ一つが自ら光を放っているかのような造形美があり、俺の中にあった美しいという概念が上書きされた。今まで見たどんなものより、その少女は美しかった。

 身に着けているのは白いモコモコした毛皮のチューブトップブラとショーツだけで、ほとんど裸である。

 そして、一番目につくのは側頭部から生えている猫を思わせる耳と、腰の後ろから伸びている白い尻尾だ。

 俺はこんな幼女に欲情するような趣味はないが、その未熟な肢体に思わず見とれてしまった。

挿絵2

『にゃはは、人間はいつだって我を見ると言葉を失うのにゃ』

 そう言うと美少女は俺に近づき、座っていた俺の足の上でコロンと寝転がった。

 本当の猫がそうするように、体を丸めて、俺の膝の上でゴロゴロしだしたのだ。

 理解が追い付かない中で、膝の上の所有権を奪われながらも問いかける。

 もしかして女神イシュタル?

『然り。昨日はそちが一方的に話を打ち切った故、話せなかったがにゃ。そちの性的興奮による感情エネルギーのおかげで、我はこうして人の姿を成して、そちと会えたわけだにゃ』

 イシュタルは体の位置をころころ変え、最終的には俺を座椅子のように使って背中を預けるポジションに落ち着いたようだ。

 えっと、感情エネルギーとか俺のおかげとか、まだしっくりきてないんだが。

『我は性愛の神にゃ。神は人間の感情や願いによって生まれるエネルギーを集め、管理するための存在にゃ。例えば、学芸の神は人間が勉学や芸術を極めようとする情熱を、縁結びの神は想い人やまだ見ぬ伴侶を願う気持ちから発せられるエネルギーを集めているのにゃ。それには色んな力があるから、神はエネルギーが世界に害をなさないように調整……まぁ、洪水を防ぐダムの管理者みたいなものだと思えばいいにゃ』

 つまり、イシュタ……イシュタル様は人間が情欲で興奮する気持ちのエネルギーを管理していると? 

『うにゃ、その通り。そして、我々神は人間達のそのエネルギーを使い、この世界の様々なものに転生しながら人間とエネルギーを見守っているのにゃ。ご神体とも呼ばれるかにゃ。まぁ、我のように自由を欲して動物に、それもあんな短命の小動物に好んで宿る神なぞそうそう居にゃいがな』

 あと様付けはむず痒いので気に入らん、とイシュタルは舌足らずな声で言いながら、俺の手を掴んでひらひらと猫じゃらしのように振って遊んでいる。見上げるようにこちらを見るその顔は、神とは思えず年相応の普通の子供のように思える。

 じゃあ、俺のおかげというのは今日高原さん相手に興奮したエネルギーを使って……?

『その通りにゃ、そちのような人間は我にとっては信仰者同然の大切な存在なのにゃ。そちのような情欲に塗れた人間がこの世にごまんといるおかげで、我は他の神より頻度の高い転生を繰り返せるのにゃ』

 なんだか褒められているようで、結局は昨日と同じように「このスケベ野郎」と言われているだけなんだが、今はもう否定は出来ない。

 しかし、イシュタルは世界規模の人間から発せられる性欲のエネルギーで存在し続けられるなら、俺一人の感情エネルギーなんてたかが知れているだろう。

『そう、普段は生きて現世に留まっているうちに、あっという間に転生の準備を整えるんだがにゃ。今回は訳あって、それが叶わなかったのにゃ。そうなるとふわふわと意識だけで漂う我は、直接誰かから貰わなくてはいけなくてにゃ。今のそちと我は精神が直結している故、ダイレクトにエネルギーを貰っているのにゃ』

 精神が直結……いつの間にか、俺はイシュタルのバッテリーのようなものになっていたってことだろうか。

『にゃは、その通りにゃ。今はこんな姿だが、充電して完全な姿になれば転生して、また人間の世界に下り立てるのにゃ。まぁ、心配するにゃ。ただエネルギー配給のパイプを通しただけにゃ。そちは感情からのエネルギー変換率が良好だからにゃ。我が少しばかり拝借しても体にはなにも問題はにゃい』

 イシュタルは俺の手で遊ぶのをやめて、スッと立ち上がった。

 そしてその場で振り返り、シルクのように輝く長髪を手でなびかせる。

『我が昨日、言いそびれたことは以上にゃ。我の転生をちょこっと手伝ってもらう。そちに損はさせん、それだけの話にゃ。異論にゃいな、あっても今更どうにもならにゃいが』

 異論なんてなかった。

 そんなの改竄術の対価としては、安すぎるくらいだ。

 要は好き勝手に、この改竄術で情欲を晴らせばいいだけで、ノーリスクハイリターンな話だ。

 俺はとりあえず感謝の意を込めて、昔姉が俺にやってくれたようにイシュタルの頭を撫でる。猫みたいな振る舞いをしてくるので、多分猫のように扱えば喜んでくれるだろう。

 そう思ったのだが──。

『かっ! かかか勝手に神の頭を触るにゃ!! 無礼者!!』

 イシュタルは一瞬で顔を怒りで紅潮させると、渾身の右ストレートを俺の胸に叩き込んできた。

 幼女の突きとはいえ、あまりの衝撃に座ったまま後転すると……そこには地面が無かった。

 え? は? えええぇぇぇ!? と間抜けな声をあげて、俺は奈落の底へと落ちていった。


 今朝はベッドから勢いよく床に落ちて目が覚めた。

 フローリングと自重でサンドイッチになった首はまだ痛むが、下手に湿布など貼ると心配性の姉が俺を離さないだろうから、なにも付けずに登校する。

 しかし、どうやらイシュタルを怒らせてしまったようだ。

 確かに神の頭を軽率に撫でてしまったのは無礼な行為なのかもしれないが、向こうが先に無邪気にじゃれてきたというのに。まぁ、この程度の罰で済まされるなら幸運だろう。

 性愛の神だし、勃起不全とかにさせられなかっただけマシだったのかもしれない。


 学校に着くと、俺は頻繁にある行為を繰り返した。

 それは心理フィールド(記憶改竄時のモノクロ世界を俺はそう名付けた)を発動させて、生徒達の記憶を覗くことだ。

 フィールドを出すと、彼らが今考えていることが単語や文章となり、プカプカと宙を漂っているのだ。

 記憶とは言っても、そこまで深いプライベートなものではなく「今日の放課後どうしよっかー」とか「あの子かわいいなぁ」みたいなどうでもいいことばかりだ。

 しかし、俺が授かった改竄術ではその『どうでもいいこと』を書き換えるのが重要になってくるのだ。

 だから常に周囲の心の声を見て、どう利用出来るかを思案しているのだが──。

「ダメだ……」

 このフィールドを出し続けるだけで船酔いみたいに吐き気がするというのに、俺の首も動かなくなるから何回もフィールドを出さないと周囲すべてを見ることが出来ない。

 昨日は興奮でなんとも思わなかったが、何度も繰り返すと体調を崩しかねないレベルだった。

 一人で勝手にグロッキー状態になって、窓のふちに体を預けていると中庭の様子が目に入った。

 数人の女子が木陰のベンチに座り、楽しそうに談笑をしていた。

 体操服姿だからおそらく次は体育の授業で、それまで時間を潰しているのだろう。

 その数人の中の一人に見覚えがあった。

 短めの髪に少し日に焼けた肌で、陸上部の次期エースと呼ばれている同学年の篠宮鈴羽だ。

 体操服から伸びる足や腕は長く、体型もスレンダーな、言い換えれば凹凸の少ない体つきをしているのがここからでも分かる。

 だが、俺は彼女の活発な笑顔やプルッとした唇に何度か情欲をそそられていたのを思い出していた。

 そして、ちょっとした出来事で彼女と顔見知りであることも。

 彼女の魅力的な口元、そして今俺の頭の中で浮かんだ改竄術の利用法。

「……」

 ドクン、と心臓が高鳴った。また、あの異常で最上の体験が出来るのだ。


 昼休み、階段の踊り場で高原さんと出会う。

 昨日のこともあり朝教室で会った時はドギマギしたが、今はなんとか平常心で接することが出来た。

 高原さんは片手に教師から渡されたプリントの束を抱え、教室に届ける途中だそうだ。

 軽く挨拶をして別れようとした時、俺は少し思い留まって彼女を呼び止めた。

「高原さん」

「なにかな?」

 改竄は一日に一度だけだが、それは次の日以降も継続するはずだ。ならば──。

「今、下着見せてくれないかな。下をちょっとだけでいいからさ」

 階段を三段ほど上がって上半身だけを捻って振り向く高原さんを見上げて、こんなお願いをしてみた。

「えっ……うん、別にかまわないけど」

 そう言うと、彼女は空いているもう片方の手でスカートを後ろからまくり上げていく。

 太ももに指先を這わせ、スカートにスリットを作るように持ち上げた。その隙間からはミントグリーンに白いドット柄の下着が、彼女の小さめのヒップを覆っているのが見えた。

 しかし片手だからか半分しか見えず、俺が見えにくいような素振りを見せると、優しい高原さんはスカートの裾を大きく掴んでお尻全体が見えるようにしてくれた。

「ちょっと、写真撮らせてもらってもいいかな」

「写真? えーと、それは……」

 俺の頼みに高原さんは初めて言葉を濁した。まずい、改竄を超えるようなことを頼んでしまっただろうか。

「べ、別に『下着』を撮るくらいおかしくないじゃないか……おかしくない、よね?」

「……ちょっと恥ずかしい気もしたけど、うん、別に変なことじゃないよね」

 どうやら羞恥心で言い淀んだだけで、ノートと下着が同価値の改竄は健在なようだ。

 俺はポケットから携帯を取り出して、彼女の小さくも張りがあるヒップをズームインし、彼女のほんのり赤くなった顔も写る角度を探し、何枚か撮影してから礼を言って別れた。

 彼女も困惑しながらもスカートを直して、教室へ向かった。

『友人にノートを携帯で撮影してもいいかと聞かれたこと』を、気にする人間はいないだろう。けれど、俺自身の後押しが必要な場合もあるようだ。

 改竄術の活用方法をまた一つ確認しながら、俺は夢のような写真を手に入れたことを内心で喜んだ。


 放課後。

 俺は適当に時間を潰した後、ある場所に向かった。西校舎裏のベンチだ。

 西校舎は特殊教室が集まる別館で、部活で使われるような部室は渡り廊下の入り口付近に固まっているため、奥に進むほど静かになる。

 そのベンチは西校舎と学校の塀の間に置かれているため、この時期は静かで穏やかな空気が流れる場所なのだ。とはいえ生徒の教室がある校舎からは遠いので、恋人の逢引きにも使われない僻地である。

 そんな場所になぜベンチがあるのかは甚だ疑問だが、俺はそのベンチの数少ない利用者を知っている。

「あ、芽森くんじゃない。久しぶりじゃん、ここに来るの」

「やあ、今年に入ってからは初めてかな?」

 そう、篠宮さんだ。

 彼女は部活上がりだったのか少し汗ばんだ短髪と若干着崩した制服姿で、ベンチに腰かけていた。

 彼女とここで初めて会ったのは、去年の秋頃だ。

 俺は図書委員の会合の帰りに、どこか自販機がないかと探し回る内にこのベンチに座っていた篠宮さんと出会ったのだ。

 聞けば、彼女は一年の頃から自主練をしていて、その後のクールダウンとして風通しが良いここに来ているのだとか。ここの静謐な雰囲気を好んで来ているということもあるのだろう。

 俺もこのひっそりとした雰囲気が気に入り、去年は図書委員の仕事を終えたらよくここにやってきていた。

 そういう時に、いつもではないが何回か彼女と出くわすことがあったため、普通なら縁遠い陸上部の次期エースという存在と顔見知りになれたのだ。

 俺は彼女の隣に座る。

「今年は図書委員じゃなかったから、もうここに来ないと思ってた。あ、もしかしてあたしになにか相談? いいよ、いいよなんでも聞いて!」

「んーじゃあ、中間テストについて」

「あー、それはちょっと難題だね。うん、すごく難しい。ちょっと三か月くらい待ってくれない?」

「テスト終わってるよ」

 二人でそんな馬鹿な話をして笑った。

 彼女の天真爛漫な明るい性格のおかげで、いつ会ってもこうやって笑い合えるのだ。高原さんとはまた違った魅力に、俺は彼女に惹かれていた。

 さて、本題だ。

「あ、やっぱりそれ飲んでるんだね。篠宮さんのお母さん手作りのスポドリだっけ」

「そうなの! うちのママ……じゃなくてお母さんが作る特製ドリンクは世界一おいしいんだよ。運動したあと、これを飲まないと落ち着かないんだよねー」

 そう言って、彼女は脇に置いていた鞄の上にあるボトルを掲げる。篠宮さんは運動後にこれを愛飲していて、その習慣は出会った時から変わらない。

 そう、今更なにも疑うことのない彼女の常識なのだ。

 俺はその常識につけ込むため、改竄術を発動させた。世界は色褪せていき、時間は一時的に奪われた。

 そして篠宮さんの目の前に文章が浮かび上がる。

[ あたしは ママ特製のドリンクを 飲まないと 落ち着かない ]

 俺は『特製のドリンクを』に目標をつけて、その部分を書き換えてしまう。

 彼女にはもっと、別の物を飲んでもらうとしよう。

 限定神力・記憶改竄開始Now rewriting────。

「運動したあと、芽森くんの『おちんぽミルクを』飲むのが好きなんだー」

 ……想像以上の衝撃だった。

 明るく快活とはいえ、彼女は決して下ネタにもオープンなタイプではない。そんな彼女がストレートに、いつもと変わらぬ声音で、俺の精液を飲みたいと言ったのだ。

「だからさ、そろそろくれないかな。芽森くんの……」

 彼女の視線が俺の股間に集中する。

 気づけば、篠宮さんの瞳がどこかトロンと蕩けている。プックリ膨れた唇をペロリと舌なめずりで湿らせて、もう待ちきれないといった感じだ。

「その、『ドリンク』は飲まないの?」

「『おちんぽミルク』の方がいいの。ねぇ、早く。飲まないと落ち着かないんだって」

「分かったよ」

 興奮で顔がだらしなく緩むのをこらえつつベルトを外し、ズボンを下着もろとも下ろして竿を露出させた。

 そして、ベンチに座ったまま言う。

「それじゃ、セルフサービスでどうぞ」

「やた。それじゃあ、いただきます」

 彼女はベンチに座る俺の前に跪いて、大切そうに半起ちした肉棒を力強く握った。

 瞬間、苦しいぐらいに俺の動悸が激しくなった。

「んっ、もうちょい、優しく頼むよ」

「わわ、ごめんごめん」

 チューブのように押せば出るとでも思ったのだろうか。ぐっと握りしめられた竿から圧迫感が消えて、篠宮さんのきめ細かい肌の感触が伝わってきた。けれど、それから篠宮さんの手が止まってしまった。

「……えっと」

「どうしたの?」

「おちんぽミルクって、どうやって出すんだっけ?」

 彼女はまるで自分が小学生レベルの算数も解けなくなったことに驚愕するように、焦った顔でこちらを見上げてきた。

 そうか、篠宮さんにはミルクを愛飲する記憶はあっても、そのために必要な知識は備わってないのだ。

 まずは、フェラチオそのものから教えないといけないな。

「飲むんだから口をつけるんだよ。ほら、俺のおちんぽを優しく咥えて」

「そ、そっか。そうだよね。じゃ、改めて」

 納得した篠宮さんは握っていた竿のカリ首を、その柔らかな唇で挟み込んだ。

 篠宮さんの厚い唇の感触を、今一番敏感になっている箇所で感じているのだ。まさか女性からのキスを初めて受ける場所が竿とは思わなかったが、しかしその事実がまた俺を興奮させた。

 彼女が拙いながらも懸命に咥えたり、チューチューとストローのように肉棒を吸ってくれた。初めて経験したフェラは、腰から力が抜けていくようだった。ねっとりとした熱い口内が亀頭を覆うのは今まで経験したことの無い快感である。手でしごくような激しいものではなく、温泉に浸かったかのような心地良さだった。

「うわ、わ、大きくなってきた……きた、けど……芽森くんー出ないよー?」

 ちゅぱちゅぱと亀頭を中心に篠宮さんのリップ責めを受けたおかげで、肉棒は完全に勃起した状態に成長していた。けれど、射精に至るほどの刺激を得られそうにはない。

 勃起の状態がしばらく続くと経験の無い彼女は不安そうに再び俺に聞いてきた。仕方ない、彼女の中では何度もしたことだろうが、実際には今日初めてする行為なのだ。

「じゃあ、これから俺が言う通りにしてくれるかな。気持ち良いことをすれば、すぐ出ると思うよ」

「分かった、おちんぽミルクの出し方教えてくれるかな?」

「……う、うん」

 なんだか彼女の屈託のない笑顔から連呼される卑語に、逆にこちらが恥ずかしくて参ってしまいそうだ。

「まず竿……棒状のやつを握って。そう、指で輪っかを作るように。それから、上下に動かして、輪っかをそのでっぱりに……んっ、そう。その調子」

「えと、えと……あ、びくって動いた。ふふん、コツを掴んできたかも」

 流石、陸上部の次期エース様は呑み込みが早いのか、彼女の愛撫によって竿が快感に震えた。

「あ、なんか透明なの出てきたけど、これが……?」

「いや、これは気持ち良くなってきた証拠で……んっ!」

 溢れてきた我慢汁を、なんと篠宮さんは言われるまでもなく舌先で舐めとってしまった。彼女の舌が敏感な尿道を舐め上げ、思わず声が漏れてしまった。

「あ、気持ち良かった? ふふ、芽森くんの弱点発見だね」

 どうやら俺のネットや本で知っただけの知識より、彼女の実体験による成長の方が早いようだ。

 俺はもうなにも言わず、ただ篠宮さんの舌先やしごく手にその身を委ねた。

 そして再び、篠宮さんがその魅力的なリップで肉棒をぱくりと温かくてぬるっとした口内に仕舞った。

「くっ…………!」

 やはり、彼女の唇は絶品であった。

 その柔らかな唇が肉棒に優しくも強く圧をかけて、前後にちゅくちゅくと移動を繰り返す。

 篠宮さんの唇がカリ首の段差に擦れ、次第にそこに湿った音が加わっていく。

「ふふ、ほうめいなのいっはいへてひた(ふふ、透明なのいっぱい出てきた)」

 たまらず、俺はその快楽に耐えるかのように目を瞑って天を仰いだ。瞼を閉じたことで、耳には篠宮さんの唾液と俺の我慢汁が混ざった淫らな水音がよりはっきり聞こえ、燃えるような興奮を煽った。

 単純に快感だからか、それとも同い年の少女が懸命に奉仕してくれている状況からか。咥えながらモゴモゴ話す声も、我慢汁を一生懸命舐めとろうとする舌先も、いつの間にか睾丸を揉むなんてテクニックを覚えた細い指も、そのすべてがたまらなく愛しく思える。

 咥えたまま前後に動かす度に、カリに引っ掛かっては快感をもたらす唇は尊いとさえ思えた。

 目を開けて視線を下げれば、陸上部らしいさっぱりと綺麗に揃えられた短髪が目に入り、思わず優しく撫でてしまった。汗で濡れた髪は、いつもより艶やかでしっとりした手触りだ。

 情欲以外に感じるこの感情には覚えがある。従順な彼女に対するこの気持ちは、昔飼っていた猫のキリエが甘えるように俺の頬を舐めてくれた時の喜びに似ている。

「うっ……篠宮さん、もうそろそろ……」

「出ちゃうの? いいよ、ちょうだい。あたしももう我慢出来ないの。おちんぽミルクを飲ませて!」

 彼女の右手は今までにないほどの速さで竿をしごき上げ、プルプルの唇は一滴たりとも精液を零すまいと亀頭を包み込む。

 そんな責め立てるような言葉としごきを味わわされたら、俺も理性が利かなくなる。

 情欲に駆られ、彼女の触り心地の良い短髪を両手で掴んで、ひたすら篠宮さんの激しい手コキに耐える。いや、耐えきれなくなる瞬間を待ち望んだ。

「くっ、ううっっ!!」

 そして俺の情欲の結晶たる白濁液は篠宮鈴羽の口腔へと放たれた。

 すぐには収まらない長い射精の間も、篠宮さんは休まず手を動かし続け、それが堪らなく気持ち良く、頭が一瞬真っ白になる。それはまさに「搾り取られた」と言えるほどの解放感だった。

 ようやく彼女はペニスから離れ、手で自分の口を覆った。

 少し咳き込むような動作を見て、快感に脱力していた俺は彼女が精液を喉に詰まらせたことに気づく。

 声をかけようとした直前に、それは無用な心配だと知る。

 精液を飲みきった彼女の唇は端が吊り上がり、満足感と幸福感に溢れた笑顔をしていたからだ。

 実際には今日初めて飲んだ精液はお気に召したようだった。

「あー、おいしかったぁ。久々だからかな、すごく新鮮。苦くて濃くて熱いけど、自主練で疲れた体にはそれがよく染み込むっていうかさ」

「そう、それはよかった。陸上部次期エース様のお役に立てて光栄だよ」

挿絵3

 彼女は飲み慣れたと思い込んでいる、初めての精液の味を俺にリポートしてくれる。

 俺はというと快感と脱力感ですぐには立ち上がることが出来ず、ベンチにだらしなく腰かけていた。

「うん、また飲ませてね。あ、そろそろ下校しないとマ……お母さんに怒られちゃう」

「先に帰ってくれていいよ。俺はその……もうちょっと風に当たってから帰るよ」

 あまりの気持ちよさで立ち上がれるか分からないなんて言えない。初めてのフェラでこんなにも腰砕けにされかけるとは思わなかった。

「分かった」と篠宮さんは鞄を持ち、立ち去ろうとした、のだが──。

「あ、残したらもったいないね」

 と、目ざとく俺の性器にまだ精液が付いているのを見つけ、立った姿勢のまま腰を曲げて咥えてきた。まるで去り際のキスでもするかのような所作だったが、次の瞬間俺は今日最大の衝撃を受けた。

 肉棒に吸い付いた彼女の吸引力はすさまじいものだった。陸上選手だからか肺活量も違うのか。射精管の奥の奥にまで残っていたものを、すべて吸い上げられた気分だった。射精後の敏感な肉棒だったからとはいえ、俺は情けない声をあげて今度は完全に腰を砕かれてしまった。

「んっ……これでよし。それじゃ、バイバーイ芽森くん」

 篠宮さんはご満悦の表情で別れを告げると、未だ股間を情けなく露出した俺を残して去っていった。精子どころか生命力まで吸い取られたようで、このままベンチに全体重を預ける他なかった。

 校舎と塀の隙間のような空間で一人になって、この数分の間に起きたことを振り返る。去年まで気さくな友人として話していた女子が、俺の竿を咥え、最後の一滴まで精液を吸い尽くしていったのだ。

 その事実に頭がようやく追いついた時、神様お墨付きの逞しい情欲が肉棒を再び臨戦態勢にさせた。

「はぁ……体は立ち上がれないのに、こっちはまだまだ勃ち上がれるなんて……」

 俺は体を休める間の時間を潰すため、ポケットから携帯を取り出す。

 そして、昼休みに撮った高原さんの美尻を眺めて自慰行為をすることにした。

 それから一か月間、高原さんの下着や篠宮さんの唇に何回も世話になるも、それ以上の行為は控えていた。

 改竄術を練習するための期間ということもあるが、彼女達の時のような好条件はなかなか揃わないのだ。

 それにいくら記憶を書き換えられるとは言え、改竄術は決して万能じゃない。

「○○を見た」を「○○を見てない」と全否定するような文に書き換えても、完全に違和感を消し去ることは出来ず、記憶の空白を作ってしまうため怪しまれることになるのだ。

 俺が女性に性的な行為をしているのを第三者に見られても、改竄で一発解決とはなりにくい訳だ。

 こういったルール以外の、実際の使用感を確かめるための期間だったとも言える。

 だから俺は中間テストの勉強もほどほどに、学校内外を問わずいろんな場所でこの術を使用した。

 例えばショッピングモール。

 モールとはいえさほど大きくない田舎の商業施設は、平日は人もまばらで、上りエスカレーターに乗る人の背後につき後方には誰も居ないという、俺の望む状況が出来るのはそう珍しいことではない。

 その状況で、短めのスカートを履いている若い大学生風の女性の二段下でエスカレーターに乗った。

 その時俺はわざと早足で乗ったり、携帯を取り出したりして女性の注意を引く。

 当然彼女は無意識にでもこう思うだろう。

[ スカートの 中を 見られないように しなくちゃ ]と。

 そして、実際に彼女は手の甲で短めのスカートを押さえつけた。それを俺はこう書き換えた。

[ スカートの 中を 『見せる』ように しなくちゃ ]

 途端に彼女の態度が変わり、スカートを押さえていた手を裏返してその指先でスカートをたくし上げた。

 片手でスカートを持ち上げ、その隙間から見えるヒップを俺が見上げるという構図は、以前高原さんにしてもらったものと似ている。

 大学生風の女性が、ホワイトのフレアスカートを持ち上げたその中から白と緑のチェック柄の綿ショーツが姿を現していた。

 少しくたびれたショーツと対照的に、むっちりとした太ももの対比が印象的だ。

 彼女はまるでエスカレーターの片側を開けて乗るような自然さで、それが常識的なマナーだとでも言うように、俺に自らの下着を見せつけているのだ。

 日常という風景画に描き足されたパステルカラーのインクのように、平日のショッピングモールで下着を自ら晒す彼女は異様でありながらも心惹かれる存在だった。

「成人女性でも高校生と同じような下着を穿いているのか」とか「太ももや尻の形は高原さんと大差ないな」とか、高校生と大学生の差があまりないことを実感する。

 とはいえ、高原さんの時のように長時間眺められる訳ではなく、エスカレーターに乗っている間の十秒かそこらでこの痴態は終わってしまう。

 女性がもう何階か上に行くなら別だが、それは危険な賭けになるだろう。大抵は次の階で降りてしまうため、俺はもう一度心理フィールドを発動させて書き換える以外の力を使う。

 それは書き換えた部分を取り消す能力だ。

 このまま女性を放っておいたら間違いなく痴女として扱われるだろう。俺は先ほど書き換えた文章を、まるでメッキを剥がすかのように溶かして下から元の文章が出てきたことを確かめた。

 このように改竄術の存在を隠すには必須の能力だが、取り消してもまた書き換えられる訳ではなく、一日待たなくてはいけない。これも改竄術が万能とは言えない要因の一つだ。

 俺は何回かこの方法で他の女性の下着も見たが、やはり状況が限定的で実際に見られる時間も割に合わないと思い、ショッピングモール内のある店舗へと向かった。


 向かった先は衣料品販売店だ。

 俺は試着室でシャツを着て、タイミングを見計らって側に来た店員さんを呼んだ。

 髪をブラウンに少し染めてオシャレなTシャツを着た二十代後半ぐらいの女性だ。俺はその店員さんに肌が弱いと嘘をつき、もっと柔らかい素材のものはないかと聞く。すると、律儀に店員さんは売り場から商品を持ってきてくれた。

「こちらの方が、柔らかい素材で出来ていると思いますが」

「それ、実際に触ってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 狙った通りのやりとりが出来ると、すぐに心理フィールドを展開する。

[ お客様が シャツの 柔らかさを 実際に触って 確かめたいと 言ってきた ]

 限定神力・記憶改竄開始Now rewriting────。

[ お客様が 『胸の』 柔らかさを 実際に触って 確かめたいと 言ってきた ]

 改竄を終えると、店員さんは俺が居る試着室の中に入ってカーテンを閉めた。

 そしておもむろに着ていたTシャツの裾をたくし上げて、綺麗な胸の谷間をこちらに見せてきたのだ。時間をかけられないので、俺はさっそくその花の刺繍が施されたピンクのブラを上にずらし、おっぱいを完全に晒け出した。

 それは高原さんのそれより小さく思えたが、しかしその若干小ぶりな大きさが逆に生々しいものに思えた。

 乳輪は小さく、乳首の色は少し黒っぽい。少しお互いが離れた形の乳房を両手で掴み、にわか知識でとりあえず円を描くように撫でていく。

 ムニムニと力を加えられた乳房は変幻自在に形を変え、元に戻ろうとする力はマシュマロのように弱い。

 初めて触れる乳房の柔らかさと温かさに夢中になった。これで相手が高原さんだったら、理性が利かずに力強く揉みしだいていたかもしれない。店員さんには悪いが、耐性を得るための練習台になってもらおう。

 店員さんはぐっと目を閉じ、恥ずかしいが仕事のためという雰囲気を醸し出していた。その姿にまた興奮する。いかがわしい店でもないのに、この人は仕事のために高校生におっぱいを揉まれているのだ。

 しかし、これも長くは続ける訳にもいかず、断腸の思いで手を止めてもう結構だと伝えて試着室を出た。

 店員さんへの改竄はちゃんと元に戻しておいたが、あの人は俺が何分もTシャツを触っていた変な奴だと記憶することになるのだろうか……?

 とりあえず、そのTシャツをお礼代わりに買って店を出たのだった。

 俺はこの行為を他の店でも行い、性的興奮を得ると共に少しは冷静に胸を触れるようになった気がした。

 しかし、高原さんほどの豊かなバストの持ち主には巡り会えなかったのが残念だ。

『結局そちは未だ童貞を捨てておらんのか』

 ここ数日の俺の行動を聞いて、イシュタルはそんな感想を返した。

 自分が他人の下着やおっぱいに興奮した感想などあまり言いたくないが、神様が相手なら断れない。

 そしてイシュタルの言う通り、俺は未だにセックスはしていなかった。

『なぜ、こんな軽いものばかりなのにゃ? もっと目にした女と片っ端からまぐわうものかと思ってたにゃ』

 まぐわうって……いや、否定したいところだが、程度の差はあれど目にした女性を片っ端からというのは間違っていないので言いづらい。

 セックスに関してだが、俺がまだ高校生だからだろうか、あまりそこに固執はしていない。まず俺はこう、少年漫画や深夜にやってる映画にあるようなサービスシーンの延長上にあるようなことをやってみたかった。せっかく超常の力を授けられたのだ。普通では出来ないシチュエーションを楽しみたいんだ。

『うにゃあ、若くして拗らせてるにゃあ。我が性欲旺盛な人間を観察してきた経験上、それはノーマルな行為に飽きてきた人間の言うことにゃあ』

 ううむ、そうだろうか。当然俺も最後までしたいし、いずれ実行しようとは思っているが。女の子がスカートをめくって下着を見せてくれるシチュエーションは、男ならそそられると思うんだけどなぁ。 

 そう呟いた俺の姿勢は仰向けにさせられた。イシュタルに押し倒されて腹を枕代わりにされる。

 このしばらくの間で、こいつの体は少し成長した。

 背丈が十歳を過ぎたぐらいの少女になり、寸胴な体にはメリハリが少しばかりついてきて、肩や腰に丸みを帯び始めていた。人間の数倍早く成長するその姿を見ていると、なんだかアサガオの成長観察をしているようで面白い。

 それともう一つ面白い発見があった。

『うにゃ、花に喩えられるのはやぶさかではないが、我の真の美しさの前では花鳥風月なぞ話にならんにゃ。今はこんなちんちくりんだが、転生可能になった我の完全体は人間の男どもを一人残らず虜に出来るにゃあ。無論相手を魅了する力や催眠術は無しの話にゃぞ? ま、それでもそちを含めて人間などに、我が至宝の如き体は触れさせぬがにゃ。にゃはははは』

 イシュタルは最初に出会った時の物々しい喋り方やオーラは猫を被っていたようで、この少し驕っているが人懐っこく明るい性格が素のようだ。

 おかげで今は、まるで十年来の親友のように一緒にいるだけで落ち着ける仲になっていた。

 ただ、気をつけなければいけないこともあった。

『む、また撫でようとしたかにゃ? たった今言ったであろう、人間に我の体は触れさせぬとにゃ。神の聖域を侵すのが人間の性とは言え、今生の色事に未練があるなら、その悪癖を改めるのを勧めるにゃ?』

 危なく伸ばした手を、俺は引っ込めた。

 理由は分からないがどうも俺は無意識に、イシュタルの頭を撫でようとしてしまうらしい。

 自分には姉はいるが妹はおらず、世話を見るような後輩もいないため、彼女のような仲が良い小さい女の子という存在が嬉しいのかもしれない。体は小さくとも年齢は俺の数千倍なんだろうが。

『それにしてもにゃ。そちは案外改竄術を使わなくとも、あの娘らとまぐわうことが出来ると思うがにゃあ』

 どういうことだろう。

 たとえ大人しく流されやすい高原さん相手といえど、無理に押し倒したら後々問題になると思うのだが。

『そういう力技ではなく、純粋にそちのオスとしての魅力で抱くことも出来ると我は思うにゃ。いくら改竄によって価値が下がったとはいえ、あの優等生娘は異性に下着を見せるなんてことを何回もしているのにゃぞ? そこになにかあると思わにゃいか?』

 そう言われれば、高原さんが下着を見せる時に赤くする顔もどこか最初の頃と変わってきたような気もする。それがなにかと言われればまだピンとこないが、それが俺と彼女のセックスの可能性に繋がっていると。

『あの運動娘もそうにゃ。口淫というのはなかなかに重労働なのにゃぞ? それも運動で疲れた体で何回もねだってくるのにゃ。あやつが淫乱という可能性もあるが、これもそちを悪くは思ってないからかもしれにゃいぞ』

 確かにあの行為が俺にとって気持ち良いことは伝えている。そして、篠宮さんは俺の竿を扱う技術をここ最近上げてきている。そういう考えも無くはないのかもしれない。

 とはいえ、簡単には信じられない話だ。

 そもそもあの状況自体が改竄術のおかげなのだ。この力を抜きに、俺はそんなことが出来る人間じゃない。

『うにゃあ、そんなことはにゃいぞ? そう、あんまり自分を卑下するにゃ。そちは精力的な人間にゃ!』

 それは褒めているのだろうか。その根拠が類い稀なる情欲だと思うと素直には喜べない。

『情欲だけではない、そちの魅力は他にあるにゃ。た、例えばだにゃ──』

 ──ピピピピピピピピ!!

 目覚ましのアラームがこの寂しい空間に鳴り響き、俺の精神は半ば強引に現実へと引き戻される。

 どうやらもう現実世界は朝のようだ。

 急激に夢の中での五感が失われ、残念ながらイシュタルの話の続きは聞こえなかった。

 薄らいでいく視界の中で、イシュタルが「ちょっと待つにゃ」とでも言いたげな顔をしていた。

 よく分からなかったが、神様に励ましてもらうという貴重な体験をしたようだった。


 目を覚ますと寝間着から夏服の制服に着替え、通学鞄を片手に一階へと降りていく。

 一階に下りて、ダイニングへと向かう。現在同居している唯一の家族が朝食を作ってくれているはずだ。

「おはよう柚姉」

「あ、総くんおはよう。今日の体調はどう? 風邪っぽくない? どこか寝違えて体痛めてない?」

「いたって健康で、日々の運動不足が嘘のように快調だよ」

「そう。それはよかった」

 毎朝恒例の挨拶と健康チェックをいつもの調子で答えて、テーブルの席に着いた。

 先に居たのは俺の姉、芽森柚香だ。幼い頃から両親が家を空けることが多い我が家で、柚姉が小さな母として俺の面倒を見てくれた。

 だからなのか、柚姉はとても気が利く性格で、他人の世話と心配をするのが趣味だと言わんばかりだ。

 そんな大学生の柚姉は塾講師のバイトをしながら教師を目指している。それは柚姉の性格にぴったりな進路だと思っている。

 今も俺がのっそりと歩いて席に着く間に、牛乳が注がれたコップとマーガリンが塗られたトーストが、柚姉の手で俺の前に置かれていた。

「目玉焼きの焼き加減はー?」

「んー、半熟で」

 柚姉は「はーい」と返事をし、用意していたフライパンを熱し油をひき、その中に片手で割った卵を落としていた。すでに十年以上繰り返しているベテランの手つきで、柚姉は一連の作業をこなす。

 俺はトーストを齧りながら、ぼんやりとその光景を眺めていた。

 この季節、暑がりの柚姉は寝間着としてノースリーブのTシャツとコットンのショートパンツを着ている。

 今は調理中なので上から黄色いエプロンをさらに身に着けているのだが、寝間着がエプロンの裏に隠れて、なんというか……正面から見るといわゆる『裸エプロン』に見える訳だ。

 最近になって寝間着に油や汚れが付かないためにと柚姉はエプロンを着始めたのだが、正直言うともっと早く身に着けておいて欲しかった。

 誤解を避けるために言っておくと、もっと早い段階でこの姿を見たかったという意味ではない。

 高校生の弟が大学生の姉の裸エプロンなんて見せられたら、そりゃ意識しない訳がない。シスコンと思われるかもしれないが、柚姉は平均以上の美貌を持った女性だと弟ながら思っている。

 だからせめて小学生の頃から身に着けてくれていたら日常風景として馴染み、こんなにドギマギすることなかったのかもしれないのに。

「はーい、半熟目玉焼きお待たせー。熱いから気をつけてね」

「ん、ありがと」

 テーブルに置かれた皿の上に出来立ての目玉焼きが乗せられた。さっそくソースをかけて食べ始める。

 柚姉も俺の対面の席……つまり裸エプロンに見える位置に座り、自分の朝食を再開した。

「もうお母さん達は出かけたよ。お姉ちゃんも一限目から出るから、総くんは家の戸締まり忘れないでね」

「りょーかい。帰りは?」

「お母さん達は分からないけど、お姉ちゃんは大学終わったらそのままバイト行くから、もしかしたら総くん一人になっちゃうかも……大丈夫だよね?」

「それは流石に心配し過ぎだよ」

 目玉焼きを食べ終えた俺は、残ったトーストをむしゃむしゃと口に運ぶ。

「あはは、だよねー」と、朝のテレビ番組へと視線を変えた柚姉を俺はどこか複雑な気分でまた眺める。

 柚姉は姉としてだけでなく、一人の女性としても魅力的な人間であると俺は思う。

 柚姉の無防備さにドキッとしてしまうこともあったし、柚姉が友人と飲みに行ってくると言った日はなんとなく落ち着かなくなる。その友人が女性であることは知っているのに。

 でも、この姉に俺が改竄術を使うことは無いだろう。

 姉である前に一人の女性なのだと思っても、それでもやはり柚姉は俺の姉なのだ。

 決して手を出すべきではない。欲情するのも罪深い聖域なのだと自身を戒めて、この考えをさっさと自分の中で終わらせた。

 そして柚姉が出かけたあと、いつも通りを心掛けて俺は学校へ登校した。


 昼休み。

 学校は夏服に衣替えした生徒が行き交い、夏の気配が近づいてきた。

 学校では毎日欠かさず、心理フィールドを出して記憶改竄の利用法を考えていた。

 何人かの生徒の驚きの秘密を知ってしまったり、建前の裏にある恐ろしい本音を知ってしまって、フィールドの副作用とは別の意味で精神が参ることもあったりする。

 おまけに安定して使える新たな改竄術の利用法もなかなか思いつかず、最近の学校での成果は芳しくない。

 場所を変えようと、廊下の角を曲がる。

「あっ」

「あ……」

 そんな中で定期的に俺を興奮させてくれる貴重な存在、高原さんと出会った。

 夏服の高原さんは真っ白なサマーセーターを着ていて、その純白さが眩しかった。

 そんな高原さんには毎日のように『下着』を見せてくれるよう頼んでいて、今では暗黙の了解で彼女は俺に下着を見せてくれる。これが本当にノートなら、勉強熱心だろうと思ってくれるのだろうけど。

「高原さん、今大丈夫?」

「うん。それじゃあ、あっちの廊下の曲がり角で……」

 そこはたまにしか使われない空き教室が並ぶ廊下で、普段使う廊下とは直角に位置している。おまけに階段の位置的にも人の通りが無い場所だ。

 二人でそこに向かい、俺は膝をついて携帯での撮影準備をして、高原さんは誰も来ないのを入念に確認していつものようにスカートをまくった。

 高原さんの今日の下着は、薄いブルーの生地に白い水玉模様が付いたものであった。俺はそれを正面からだけでなく後ろからの写真も携帯の隠しフォルダに収める。

 これまで写真を撮り続けた結果、どうやら高原さんの下着サイクルは無地、ドット、キャラ物、レース、ストライプであることが判明した。

 生真面目な彼女らしく一回も順番が変わることが無い完璧なサイクルだが、身に着ける下着は今のところ毎日別の物であった。高原さんは下着を数十枚と持っているようだ。制服に遊びが無い分、下着でオシャレの自由を謳歌しているのだろうか。

 こうなると男子特有の収集癖が出てきて、全種類見たくなるものである。

 今日はこの階の人が少ないようなので、危険度は低いと判断して上も見せてもらうことにした。

 流石に初めての時のように脱ぐ訳にはいかず、サマーセーターごと裾を上に引っ張ってもらった。

 日の光を浴びた高原さんのバストは下と同じブルーの水玉模様のブラに支えられ、相変わらずの綺麗な形と大きさ、そして美しさを保っていた。

 ……だが、やはり大きさで言えば柚姉に軍配が上がるだろうか。柚姉の胸はまだ下着姿でも見たこと無いがブラのサイズからして……いや、実際に見てみないことには……って、待て。俺はなにを考えているのだ。

 自分の姉に改竄術は使わぬと、今朝決意したばかりだろうに。

「その、今日はもういいかな?」

 考え込み少し固まっていた俺は高原さんの声で我に返った。

「ああ、ありがとう高原さん。それにしても、下着いっぱい持ってるんだね」

「うん、趣味って訳じゃないんだけど……かわいいのを見るとつい、ね」

 俺達は勉強のことについて話すかのように、下着の話を始める。

 まさか高原さんとこんな話が出来るとは、少し前の俺は妄想すらしてなかっただろう。

『いくら改竄によって価値が下がったとはいえ、あの優等生娘は異性に下着を見せるなんてことを何回もしているのにゃぞ? そこになにかあるか思わにゃいか?』

 イシュタルのあの考えは当たっているのだろうか。

 こうして話している今も、高原さんはいつもと変わらないように見える。

「あの、高原さん。俺に下着を見せている時って、その……どんな気持ちなのかな?」

「えっ……」

 堪らず直接的に聞いてしまった。

 俺は「特になにも」とか「別になんとも」みたいなさらっとした無心の答えを予想していた。

「そうだね……嫌い、ではないかな」

 ………え? これは、どっちだ? 好きの反対は無関心というが、それじゃあ嫌いの反対は──。

「それは、つまり……」

「あ、そろそろ次の授業始まる時間だね。芽森くんも五分前着席を心掛けなくちゃダメだよ」

 俺の問いが聞こえなかったのか、高原さんは早足で教室へと戻っていった。

 なんだか釈然としない気持ちのまま、俺も高原さんのあとを追って教室に戻ることにした。

 放課後。

 西校舎裏でまた人知れず淫らな水音を響かせていた。

「うっ……本当に上達したね。篠宮さん」

「えへへ、上手くなればそれだけ早くミルクが飲めるからね。総太くんも気持ち良い方がいいでしょ?」

 最近彼女は俺を下の名前で呼び始めた。別に特別な意味はない……はずだ。

 今日はいつもより早い時間から、俺は彼女に自分の肉棒を預けて快楽に心を震わせていた。

 なんでも、大事なタイム測定があるらしく部活前に飲みたいと、休み時間に声をかけられたのだ。

 そのため篠宮さんはいつもの制服ではなく、腕や足が大きく露出した陸上部のユニフォームを着用していた。

「ようやく中間テストが終わったからね。もう目いっぱい速く走りたくて」

「んっ、でも……おちんぽミルクって運動前に飲んでも効果あるの……?」

「どうだろ。でも、飲んだらすごく気持ち良く走れると思うの」

 だから早く出してと言わんばかりに、篠宮さんはリズミカルに竿を握った手を上下させる。

 腰砕けにならないように、今日は西校舎の壁に背中を預けて直立した状態で手コキの快感を味わっていた。

 彼女は片膝立ちの体勢で肉棒を上下に擦り上げ、たまにアクセントを加えるように親指で尿道口やカリ首を刺激してくる。

 今日はその手技だけでなく、片膝立ちした体勢だから見える彼女の日焼けした健康的な太ももが良い視覚効果をもたらして興奮を高めてくれた。だが、俺も最初の頃のようにはいかぬと、どうにか耐えながら、彼女が与えてくれる甘くも激しい快楽を受け続けた。

 柚姉のように白い太ももも良かったが、こういうスポーティーなのもなかなか情欲をそそられる。

 いや、柚姉は今関係無い。

 比較しなくても彼女の引き締まった太ももは健康的なエロスを感じさせるものだ。

「総太くん、足でしてみよっか?」

「足?」

 気を抜くと出てしまいそうで考え事をしていると、そんな提案をされた。どういうことかと思っていると、篠宮さんは立ち上がり俺に少し屈むよう言って、反り立った竿を太ももで挟んできた。

 少し硬い、けれどはっきりと女の子の肌のなめらかさが伝わる太ももの感触が、左右から肉棒を刺激する。ゆっくりと自分のペースを探すように、篠宮さんは俺の胸に手をついて腰を前後させた。

「手とか口とか以外に試せる場所無いかなって思ったんだけど、これなかなか難しいね。ずっとやってると、腰痛めて測定には逆効果かも」

「そう、かもね……」

 俺の視線に気づいたからなのか、それともただの偶然なのか。さっきまで目を奪われていた太ももが、俺のおちんぽミルクを絞るために竿をしごき始めた。この圧迫感は手や口では味わえない快感だった。

 そしてなによりも、俺に身を寄せる形で篠宮さんが密着しているのだ。ほんの鼻先に篠宮さんの短髪があって、汗とシャンプーの入り混じった香りがする。胸に添えられた手のひらや、時折接触する篠宮さんの慎ましやかな胸の感触が、今までになく彼女が『女』であることを意識させる。

 抱きしめたくなる衝動に駆られていると、責め立てられた肉棒が限界を迎えるのを感じた。

「んー、これ失敗だったかな。我慢汁の感触は太ももで分かるけど、ミルク出せるかな──」

「あっ、ごめん篠宮さん……俺、もう……!!」

「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 篠宮さんが慌ててしゃがみこんだ直後、敏感になった竿が熱い精液を吐き出した。篠宮さんは急いで亀頭を咥えようとしたが一歩遅く、精液は彼女の口に少し入りはしたものの、多くは彼女の顔面にぶちまけられてしまった。

 快感の奔流で腰を震えさせると、ようやく俺は脱力感と共に白く穢された篠宮さんの現状に気がついた。

「……だ、大丈夫? ティッシュあるからこれで」

「ううん。待って」

 こちらが差し出したポケットティッシュは受け取らず、篠宮さんは顔にかかった精液を指で拭い始めた。

「もったいないからね」

 それから、赤ん坊が手に付いた食べ残しを舐めるように、彼女は掬い取った精液を指ごと口に入れ始めた。チュパチュパといやらしい音を立てながら精液を綺麗に咀嚼していく。

 思わずその光景に見入ってしまった。

 その理由はすぐ思いつく。いつもは彼女が咥えた状態で射精するので、精液を飲んでもらっている感覚が薄かったのだ。だが今は精液も、それを口にする篠宮さんもバッチリ見えている。ようやく、陸上部次期エースの彼女に俺の精液を飲ませているのだと実感出来たのだ。

「……ふう。もう、我慢が出来ない悪いおちんぽは……こうだ!!」

 完全に不意を突く形で、篠宮さんは得意のバキュームフェラで射精後の敏感な肉棒を吸い上げた。

 身をよじりたくなるような快感を受けて、苦しいぐらいに腰が反応する。最近の彼女はそれに加えて、半分萎えたペニスの竿と皮の間に舌を入れながら吸うなんて技術を会得したことによって、精液どころか垢の一片まで舐めとられているかのような感覚だ。抵抗もままならずに脱力し、その場で尻もちをついた。

「はぁっ……これは、無理。堪えられない……」

「ふふ、総太くん撃沈ー」

 彼女はそんな俺を笑いながら、ティッシュで手や口元の後始末をする。

「じゃ、あたし部活行ってくるね。これなら良いタイムが出せそうだよ!!」

 篠宮さんは着替えなどが入った部活用の大きな鞄を持って、校庭へと駆け出していった。

 俺は前のようにしばらく回復を待とうかと思ったが、今日は放課後直後という時間だということを思い出す。ここに誰かが来る可能性も完全に無い訳ではない。

 やっとの思いでズボンを直して、鞄に振り回されるように校門へと歩き出した。

 よろよろと鈍亀のように歩いていると、校庭のすぐ近くを通りかかる。見れば陸上部はすでに部活動を開始し、複数の種目で測定らしきことをしていた。

 ちょうど目に入ったのが走り高跳びの選手が華麗な背面跳びで、本人の胸元よりも高い位置のバーを跳び越えていた。どこかクールな印象のかっこいい選手だった。

 せっかくだから篠宮さんの勇姿も見るか、と適当な段差に座り込んで陸上部の活動を見学することにした。

 しばらく篠宮さんを探していると、ハードルの置かれたレーンのスタート位置で顧問や先輩のアドバイスを聞いている姿を発見する。さっきまでとは違う真剣な眼差しで、彼女はハキハキと返事をしていた。

 そう、さっきまで俺のモノを咥えていたあの口でだ。

 準備が整うとスタート地点に立ち、レーン上に等間隔に置かれたハードルを見つめていた。

 そしてスタートの合図と共に、彼女は駆け出した。素人の俺から見ても篠宮さんのフォームには無駄がなく、跳躍の前後にもほぼ失速しない見事な走りだ。

 そしてゴール。タイムが告げられる。

 ここからだと分からないが、篠宮さんの両手を上げた喜びようを見るに良い結果だったようだ。

 一瞬、篠宮さんと目が合ったような気がしたが、すぐ練習に戻って行ったので気のせいかもしれない。

 俺は性感とは全く別の爽やかな喜びを覚え、今日の澄み渡る青空のような清々しい気分のまま立ち上がり、校門へ向かった。

 だが俺は、その青空に浮かぶ一つの暗雲のような不安も同時に抱いていた。

 高原さんの胸と篠宮さんの太もも。

 あれらを見た時、なぜ柚姉と比較するような……意識するような想像をしたのだろう。

「もしや俺は柚姉のことを……いや、まさかな」

 それ以上考えるのをやめてひたすらに歩き続ける。

 家に帰れば、柚姉と夕飯を作り、食べる。そんないつも通りの日常が待っているのだと自分に言い聞かせながら。

 日が沈み始め、俺が住む住宅街の家々も赤く染まりつつあった。

 まだ六月に入ったばかりだというのに、早くも熱中症を意識させるほどの太陽光線が服の上から問答無用で肌を焼いていく。上昇する体温が、今日の篠宮さんとの行為を思い出させてなんだか心が落ち着かない。

 率直に言えば俺の情欲は未だ胸の中で渦巻いていて、そんな状態で家に帰るのが少々不安だった。

 今日は柚姉が塾講師のバイトの日でよかった。帰りは夜遅くになるだろうから、俺がさっさと寝れば今日はもう柚姉とは会わないだろう。

 もし、今の状態で柚姉の顔を見たら……俺はなにかしでかしてしまいそうだった。


 玄関のドアを開き、誰も居ないのが分かっていても癖で「ただいまー」と言いながらリビングに行くと、ほかほかの熱気を纏った柚姉が「お帰りー」と返してくれた。

「えっ、あれ、なんで?」

「あはは、驚いたね総くん。実はね」

 なんでも今日は暑くて汗をよく掻いたから、大学からそのままバイト先に行かず一旦シャワーを浴びに帰宅したそうだ。そのため服装はノースリーブのTシャツにショーパン姿だ。手入れが行き届いた栗色の長髪はうなじ辺りで一纏めに軽く縛ってあった。

 体が火照って血色が良い肌をしていること以外は朝と同じ格好だ。

 見慣れているはずなのにいつの間にか篠宮さんのユニフォーム姿と重ね、比較するように柚姉の体つきを見てしまっていた。

 スポーツマンな篠宮さんと比べるとぽっちゃりというほどではないにしろ、二の腕や太ももには余分な肉が付いているようだ。しかし柚姉が体を動かす度に形を変えて主張する瑞々しい肉感は、それを見ただけでどれほどの柔らかさか想像に難くない。

「あれ、どうかしたの? ずっと立ち尽くして。あ! もしかしてどこか体の具合が──」

「い、いやいや、なんでもないよ。本当に」

「そう? お姉ちゃんあともう少ししたらバイトに行くから、夜は一人で食べてくれるかな?」

「ああ……分かった」

 柚姉はまだ時間に余裕があるようで、エアコンのスイッチを入れるとソファに座ってミルク味の棒アイスを食べ始めた。その際、体を投げ出すようにボスッと座ったため、その反動でかすかにあれが揺れた。もちろんTシャツを下から大きく押し上げている、豊満な乳房である。

 柚姉があの格好の時は下着を身に着けていないことを俺は知っているので、服の上から分かる大きさが柚姉の実際の胸の大きさなのだ。

 それは今まで生で見たどの乳房よりも大きいと、服の上からでも断言出来る。

 高原さん以上はあるその胸は、きっと今までのどのものよりも気持ち良い揉み心地なのだろう。

 ……あれ、どうしたのだろう。

 なんだか頭がジィンっと熱くなる。

 外の熱気に当てられただけではない。甘い毒が全身を蝕むように、異変は頭と胸から全身へと広がっていく。鼓動はやけに速く脈打ち、まるで体に流れる血潮の音さえ聞こえそうでうるさくて仕方がない。

 なぜ、俺は柚姉から目が離せないのだろう。

 なぜ、柚姉の豊満な胸の柔らかさを想像してるのだろう。

 なぜ…………改竄術を柚姉にどう使おうかなんて考えているのだろうか。

 おかしい。今朝、ちゃんと決めたはずだ。

 柚姉に手は出さないし、改竄術も使わない。

 だって姉弟なのだ、俺にとっては母親よりも母親らしい、聖域のような存在なのだ。

 いや、だけど──。

 ぼんやりとした頭が、柚姉の何気ない言葉に反応した。

「うーん、なんだか最近肩の調子が良くないみたい。総くーん、昔みたいに肩揉んでくれない?」

 その一言で、俺の中のなにかが、俺を乗っ取った。それは神にも認められた、聖域さえも犯す情欲だった。

[ 総くんに 昔みたいに 肩を 揉むの 頼んじゃおう ]

 限定神力・記憶改竄開始Now rewriting────。

[ 総くんに 昔みたいに 『おっぱいを』 揉むの 頼んじゃおう ]

「分かった、揉んであげるよ」

「わーい。じゃあ、久しぶりに総くんにほぐしてもらおうかな。お姉ちゃんの『おっぱい』を」

 柚姉はそう言って食べかけのアイスを包装していたビニールに入れてテーブルに置き、シャツの端を両手で持って脱ぎ出した。

 その際シャツの裾に胸が引っ掛かり、一瞬だけ持ち上がってすぐにブルンとこぼれ出る。その重量感ある揺れは一瞬で俺の網膜に焼き付いた。

 ゴクリと生唾を飲む。

 両手を使っても隠し切れないだろう大ボリュームの柚姉の媚肉が、目の前でその無防備な姿を晒していた。 

 決して情欲処理の対象にしないと決めていたが、目の前に現れると目が離せなくなっていた。

 まさか柚姉の乳首が陥没乳首だったなんて、改竄術が無ければ一生知らなかったことかもしれない。

 幼き日に見た小学生の柚姉のモノとは、当然別物である。俺はこの胸が平らな時から、本人を除けば誰よりも近くで見てきた。まだ成長するのかは分からないが、ほとんど完成系であり全盛期の張りと艶を持つ姉の、性の象徴を俺は見ることが出来たのだ。

「ちょっと恥ずかしいな……あはは、昔もよくやってもらってたはずなのにね」

「そうだね。柚姉が中学生の時は週一でやってたかな」

 胸が一番成長し出したのがその頃で、その重みが負荷になったのか柚姉はよく肩こりに悩まされていた。 当時小学生の俺が肩を叩いていたあの頃も、背後から見下ろした胸の谷間に心奪われていたっけ。

 見ているだけでも勃起しそうなそれを正面から堪能し終えると、俺は柚姉が座るソファの背後へと回った。

 近寄ると長い髪からはシャンプーの良い匂いがほのかに香り、柚姉が女なのだと強く意識させる。

 そして、シミ一つ無い綺麗な肩の上を俺の手が通過し……指が柚姉のバストを包み込んだ。

「ひゃ……」

 柚姉の口から小さく漏れるように、驚きの声が出る。

 弟に胸を触られるという体験は、記憶は誤魔化せてもやはり体が反応してしまうのだろうか。

 だが今の俺はそんなことを悠長に考えられるほどの余裕は無くなっていた。

 指全体を押し返す柔らかさに、艶々としたなめらかさ。今までに感じたことがない充実感のある重み。 たっぷり汗を掻いた後の風呂上がりというのもこの感触に一役買っているのだろうか、まさにそれは瑞々しい果実を思わせた。

 俺はここ半月ほど街中で様々な相手に試した撫で方や揉み方を思いつく限りに実践した。

 乳搾りのように先端へと揉み上げたり、下から掬い上げるように胸を持ち上げては放したり、さらに深い谷間を作るように中央に寄せたり、小刻みに手を震わせて胸の媚肉を波打たせたり…………。

 その度に柚姉の乳は、歪み、溢れ、跳ね、揺れ、そして最後には必ず完璧に元の綺麗な形へと戻る。

「ふふ、総くんはいろんな揉み方を試すんだね」

「柚姉にどれが一番効果があるか調べてみないとね」

「どう? お姉ちゃんのおっぱい凝ってる?」

「どうかな、まだ揉み足りないから分かんないな」

 マッサージと呼ぶには少々荒っぽいその手つきを、柚姉はいつも通りの様子で受けていた。

 ──いや、違った。

「……ん……ふぅ……」

 熱がこもった吐息が、すぐ近くから聞こえることに気づいた。

 ソファの背もたれが大きいので俺は少し前のめりになるような姿勢で手を伸ばしていた。なので俺の顔のすぐ隣には柚姉の顔があり、その口元から漏れる吐息を聞き間違えるはずはなかった。

 これって、もしかして──?

「大丈夫、柚姉? もしかしてどこか体の具合悪い?」

「いや、違うの……なんでも、なんでもないから。気にしないで……」

 その言葉を素直に聞き入れ、俺は休むことなくマッサージを続けた。

 俺は不思議な全能感を覚え始めた。

 俺の愛撫で、俺の手さばきで柚姉が快感を覚えてくれている。

 今まで感じたことの無い、まるで柚姉の体の支配権を手に入れたような興奮が胸を揉む手を激しくさせた。

 手の中でふわふわのおっぱいが揺れて、俺まで息が荒くなってくる。 

 その状態から一体どれぐらい経っただろうか。

 十分? 二十分? 

 時計を見るのも煩わしく、俺は手に収まりきらない温もりを、耳元で聞こえる甘い吐息を、そして一生飽きが来ないであろう柔らかさを感じるのに必死であった。柚姉の声がだんだん大きくなるのは我慢が利かなくなってきたのか、それとも自分が大きな声を出している自覚が無いのか。

「んん……なんか、総くん上手くなった? 昔、揉んでもらった時はこんな……んっ」

「あぁー、高校生になって手とか大きくなったからじゃない? それか、柚姉の胸が大きくなって昔より凝っているとか」

「そ、そうだね……お姉ちゃん、今年も計ったら去年より少し大きくなってたし」

「え、うそ? まだ大きくなってるの?」

「うう、うん」

 いつもだったら柚姉相手に胸の話なんて、絶対に言い出せない。だが、今はおっぱいが肩と同価値になっているので、こんな会話をしていても不自然には感じられないだろう。

 どうやら俺は本当に情欲に体を支配されたらしく、思考も言葉も欲望もすべて情欲が起点となり、体全体を刺激して、ただただ淫行のために体を動かしていた。

 まるで泥の泉のように溢れ出るドロドロしたものが胸から込み上げ、情欲処理以外の思考を封じてくる。

 今の言葉も、このマッサージも、その裏にはどす黒い欲望がべったりとこびりついているのだ。

 だから、俺は気づかない。

 柚姉の反応が普通ではないことを。

「今日は本当、暑いね……エアコン利いてないのかな……んあぁ」

 風呂上がりなのと性的興奮が合わさったからか柚姉の頬は上気して赤くなり、じわりと玉のような汗を掻いていた。

「ちょ、ちょっとストップ総くん! 先、アイス食べちゃうから」

 暑くて仕方がないのか、柚姉は食べようと置いていたアイスを手に取って口に運んだ。

「んん、ひゃ……あ、冷たっ」

 だが、放置していたアイスは溶け始めていて、柚姉の口から零れて胸にかかってしまった。

「……ごく」

「えっ? 総くん、ちょ、ちょっと……」

 柚姉の豊満な胸に流れる白濁のミルクアイス。

 俺はそんな扇情的な光景に我慢が出来なくなり、零れたアイスごと胸を揉みしだいていく。

「あ、そんな待って、アイスが冷たくて、んっ……!」

 そんな制止の言葉はもう俺には届かない。

 ローションのように、とまでいかないが、汗とアイスで濡れた乳房は光を反射させ、白く綺麗な肌の美しさをより一層引き立てた。本当だったら舐め取りたいところだ。

 夢中で揉みしだいている内に、指先がなにか固いものに触れた。

「ひゃんっ!!」

 そこで柚姉はひときわ大きな嬌声をあげた。

 どうやら興奮によって顔を出した乳首に触れてしまったらしい。

 だが、流石に反応が過剰な気がした。もう一度、今度は親指と人差し指の腹で両方の乳首をつまんだ。

「ひゃあんっ!!」

 それは一瞬、俺が戸惑ってしまうほどに大きな声であった。手が止まったことで俺の困惑に気づいたのか、柚姉は振り向いて荒い息を整えながらある事実を告白した。

「驚かせて、ごめんね。実はお姉ちゃん、その……昔から乳首が敏感なの。ブラが擦れたり、うつ伏せになるだけでピクってなっちゃって。あはは、変だよねこんなの、今日は特に敏感みたいで……だから総くん、マッサージはもうじゅうぶ……きゃ!」

挿絵4

「…………」

 俺は柚姉の言葉を遮って、再び乳房をマッサージし始めた。

 なんだそれは、なんだそれは、なんだそれは!

 俺が感じたのは、自分の愛撫の力だけで姉を感じさせられて無かったことへの落胆か。今までその体質に気づけなかった鈍感な自分への失望か。いやそのどちらも、それ以外の感情もすべて、俺の中の情欲が塗り潰していく。

 柚姉の、感じやすい乳首の存在が、俺を堪らなく興奮させていた。

「ダメだって総くん……あぁ、これ以上は……んんっ、お姉ちゃんがおかしくなっちゃうから……」

「いいんだよ、おかしくなっても」

 むしろ、おかしくなった柚姉が見たいのだ。

 柚姉の制止する声にさえ興奮を煽られ、乳首を人差し指と親指でつまみ、ねじり、刺激を与えていく。

 乳房を揉みながら乳首を刺激する動きを徐々に激しくさせていく。

 それは俺が自慰をする時の、篠宮さんが俺の性器を口でしごき上げる時の終盤で見せる動きと同じだ。

 つまりはイクため、イカせるための動きだ。

 柚姉も言葉にならない声を漏らし、息を切らせていた。

 俺の限りない情欲は、ただ一点の望みへと集約する。

 柚姉にイッて欲しい。

 相手に快楽を与え、そして絶頂へと誘うことがなにものにも勝る悦びだと今は信じてやまなかった。

「も、もう……我慢が、出来ない……」

 絶頂への最後の階段に足をかけた柚姉に痛いぐらいの刺激を与えると、甘美な嬌声と体を快楽に震わせ、そして────柚姉は果てた。

「んっ、んんんっ!!」

 体を大きく震わせた柚姉は、くた、と頭を完全にソファの背もたれに預け、息を荒げて天井を見上げている。俺は柚姉の胸から手を離し、顔を上げるとようやく柚姉の顔をちゃんと見ることが出来た。

 柚姉は十六年間一緒に過ごした中で一度も見たことがない、女の顔をしていた。

 柚姉は普段ののんびりした言動とは違い、どちらかと言えば美人系の女性だ。

 普段の立ち振る舞いのせいで子供っぽく思われるが、今は大人しか出せない淫靡な魅力を振り撒いている。

 口の端から垂れるアイスは今すぐ舐めたくなるし、汗とアイスが塗り込まれた乳房は極上のデザートに思え、そしてアソコからメスの匂いがするように思えてならない。

「……やった」

 俺は乳房のその先、腹やへそを越えて柚姉が履いていたショーパンを見た。

 太ももの表面を伝うように、透明な愛液が流れていたのが小さくだが確認出来たのだ。

 柚姉は絶頂した。

 感じやすい体質が手伝ったとはいえ、俺の手で柚姉を絶頂へと押し上げたのだ。

 その証たる愛液に俺は無意識に手を伸ばす。

「……っ!」

 それを避けるように柚姉は勢いよくソファから立ち上がった。柚姉はシャツを直して廊下へと向かい、その途中で立ち止まった。

 そこで馬鹿な俺はようやく、事の重大さに思い至った。

「ご、ごめんね。お姉ちゃんがその……えと……本当にごめんね。お姉ちゃんもう一回シャワー浴びたらすぐバイト行くから!」

 なにを言っていいのか分からない様子で柚姉は早口で言い、一回も振り向くことなくバスルームへと小走りで去って行った。

 息が詰まるような嫌悪感が胸を締め付け、いつのまにか掻いていた汗が冷えて嫌なモノになっていた。

 俺は、俺はなにをしているんだ。

 たとえ記憶を改竄したとしても、それは部位が変わっただけの『ただのマッサージ』であることに変わりはない。しかし、俺は実の姉になんてことを──。

 こんな気分なのに俺の性器は痛いぐらいに勃起し、本当は罪悪感など覚えていないだろうと自分自身に主張しているようで、自己嫌悪が増していく。

 ふらふらと俺は自室に向かいベッドに倒れ込む。なにもかもを忘れようと必死に目を閉じた。

 どうか、これが夢でありますように、と。


 日付が変わってすぐの時刻に、俺は目を覚ました。

 なにか悪夢にうなされて起きた気がするが、現実がそれ以上に最悪な状況であることを思い出す。

 まだ頭の中でいろんな感情がごちゃまぜになっていて、酔ったように気分が悪い。

 柚姉はまだ帰ってないのか?

 自室のカーテンは閉められておらず、月明かりが部屋を照らしていることに気づく。

 いつもはカーテンを閉めずにうたた寝をしてしまうと、柚姉が様子を見に来て閉めてくれるのだが。

 いや、なに考えているんだ俺は。もう、『いつも』の関係じゃないかもしれないのだ。

 明日、正確には今日の朝にはどんな顔をして柚姉に会えばいいのだろうか。

 俺はそんなことを考えながら、水でも飲もうと階段を降りて行った。

 一階に降り、キッチンに続く廊下の途中でなにかを踏みつける。

 なんだ、と俺は携帯を明かり代わりにして持ち上げてみるとそれは衣類だった。

 見覚えがあるストッキング、見覚えがある黒のタイトスカート。

 それらはまるでお伽話に出てくる道しるべのように、持ち主がリビングに向かっていることを示していた。

 不思議に思いながらその跡を追っていくと、リビングのドアの前に黒い大人っぽいショーツが脱ぎ捨ててあるのを見つける。

 これは柚姉の──?

 恐る恐る手にすると、それにはまだ温もりが残っていて、クロッチがなにか透明な液体で濡れていた。いったいなにがあったのか、という頭に浮かんだ疑問符はドアの向こうから人の気配を感じたことによって吹き飛ばされた。

 俺は音を立てぬようにドアまで忍び寄り、下着を握りしめたままそっと隙間から中の様子を窺う。

「……っ……ぁ……」

 そこには予想通り柚姉がいて、暗い部屋の中でその姿が月光に照らされていた。だが、柚姉の格好と様子を目に捉えると、俺の体に雷に打たれたような衝撃が走った。

「あぁ……ダメ……こんな、こと……こんなことダメなのに……あぁ!」

 柚姉はソファに足を乗せて大きく開脚するような格好で座っていた。

 なにより衝撃的なのは、一糸纏わぬ姿だったからだ。辺りにはブラウスやジャケットが放り投げ出されている。よく見ると柚姉がいつも塾講師のバイトへ行く時のスーツだと分かった。

 柚姉の手はみっともなく開かれた股間にあてがわれ、もう片方の手で自身の胸を揉み上げていた。

 俺は石化したようにそこから動けなくなった。その様子を……姉が自慰をするのを見守るしかなかった。

 柚姉の手が、短く整えられた陰毛を撫で、その下にある外陰唇をなぞるように刺激していく。

 割れ目の端にある豆を弄る度に、柚姉は快感の声をあげる。

「はぁ……でも、もう我慢出来ない……くぅ……バイト中、ずっと濡れていたんだもん……総くんのマッサージを思い出して、ずっと……んん!!」

 柚姉は、今なんと言った? 

 濡れていた? なぜ。

 俺のマッサージを思い出して? まさか。

「んあ……分からないよ、だって……ただ、おっぱいを揉まれていただけなのに……んっ……それなのに、体が熱くて、もどかしくて、わたし……ひぐ、もうやだ……まるで、発情期の猫みたいに……ああん!!」

 片手はすでに十分に濡れたヴァギナに指を入れて、もう片方の手も乳首をこねるように執拗に責め立てていた。

 こんなに大きな声を柚姉が発するのを聞くのは久しい。その様子を見て、酒が入ってることにすぐに気づいた。

 俺は訳が分からないながらも、ただドアの向こうで繰り広げられている姉のオナニーを見て、無意識に自身の性器を握っていた。

「あぁ……イク、イッちゃう……総くんのことを考えて、イッちゃうなんて……んん! ……ごめんね、こんなお姉ちゃんで……あ、あああああああああん!!」

 そして、柚姉はマッサージの時と同じか、それ以上の嬌声と激しさで絶頂を迎えた。

 ビクッビクッ、と柚姉の体が痙攣するのを見届けると、俺は急いでその場を去った。

 気づかれぬよう足音を立てない最大限のスピードで自室へと戻り、ドアを背に座り込んだ。

「はぁ……はぁ……」

 イッた柚姉と感覚がシンクロしているみたいに、俺も息を荒げて興奮状態に陥っていた。

 そして部屋に入って、ようやく俺は柚姉の黒い下着を握りしめたままであることに気づいた。

「……」

 俺は迷わずそれに顔を埋めた。

 柔らかい生地が頬を受け止め、甘い香りが鼻腔をくすぐる。それは錯覚だったかもしれないが、俺は夢中になって息を吸い込む。そして、クロッチに付いた液体を舐める。

 甘く禁忌的な味がするこの愛液が、柚姉の性器から分泌されたかと思うとそれだけで胸が喜びに踊った。

 そしてヴァギナが接していただろう部分を亀頭に巻いて、そのままショーツごと肉棒をしごき上げた。

 男性の下着より何倍も気持ち良い肌触りが俺に未知の快感を与え、そして柚姉の名前を呼んであっという間に射精する。

 ドクドクと、ゼラチンのような塊の精液が柚姉の下着を汚していった。

 イシュタルとの会話を思い出す。

 俺が改竄でやった行為で、彼女達が俺を求めるようになるという話。

 柚姉もそうなのか、ただの一回のあの行いで。

 じゃあ、高原さんも篠宮さんも俺のことを?

 それを利用すれば彼女達を抱くことが出来るのか?

 いや、俺は抱きたいのだ。高原さんも、篠宮さんも、そして……柚姉も。 

 俺は初めて改竄術を使ったあとのトイレで感じた高揚を再び覚え始めていた。

 そして、これが本当の情欲だと気づかされる。

 今まで以上に、俺は彼女達と最後までの行為を求めるようになっていた。

 俺は本当の自分を見つけたのだった。

 芽森総太が姉に禁忌的な感情を抱いた日のこと。


【午後八時二十七分 篠宮宅】

「すずはー、ちゃんとユニフォーム洗濯に出しときなさいよー」

「うにゃ~い」

 台所から聞こえる母親の催促に、鈴羽は気の抜けた返事をしながら棒アイス片手に縁側へと向かった。

 篠宮家は学校や街の中心街から少々離れているものの、農業で成功した鈴羽の曾祖父が建てた立派な純和風な住宅である。

 ご近所からは「篠宮の屋敷」とまで言われ、鈴羽本人も友達からお金持ち扱いされることもあるが、本人にはあまり実感は無い。家が大きいだけで、多額の小遣いや高価な物を与えられているわけではないのだ。

 風呂上がりのタンクトップと短パン姿で、鈴羽は縁側に座って涼を取ることにした。

 夜風に当たり、空に浮かぶ月や庭の池で泳ぐ祖父の鯉を眺めながら、今日あったことや明日以降について考えるのだ。

 幸い今日は綺麗な月が半分ぐらい満ちた形で夜空に輝いていた。

 思い出すのは当然、今日の部活のこと。インハイの選抜にも影響するタイム測定があったからだ。

(今日の走りは最高だったなぁ。自分でもウソみたいに思えるほどハードリングのタイミングはばっちしだし、タイムも自己記録更新だし──)

「うふ、うふふふ、ふへへへへ」

「おんやぁ、すぅずぅはぁ。なぁんか、ええことでもあったかぁ?」

「あ、うん。部活で良い結果出せたんだよ、お爺ちゃん」

「そぉーかぁ。そりゃぁ、良かったなぁ」

 縁側に面した部屋で新聞を読んでいた祖父が、いつもののんびりとした口調で鈴羽に話しかけた。

 出すつもりのなかった笑い声が漏れていたことに鈴羽は気づいて、少し気恥ずかしそうに返事をした。

 再び月へと視線を戻し、手にした棒アイスを咥えた。

(記録更新はやっぱり、総太くんのおかげかな。今日は無理言って授業終わってすぐの放課後に呼び出しちゃったし、明日改めてお礼言わないと)

 校舎裏でのことを思い出していたせいか、鈴羽は自分がだんだん妙な気持ちになっていることに気づいた。

 彼女が棒アイスを舐める様が、『あの時』の舐め方や咥え方の再現になっているからだ。

 当然アイスは冷たく細いから、総太のおちんぽとは似ても似つかない。でも少しずつ溶けて、ベトベトしたものが口の周りを汚していく感覚は似ていたのかもしれなかった。

「ちゅむ……んっ……」

 鈴羽は手を上下にゆっくり動かし、自分でも密かに気に入っている少し肉厚な唇にアイスの表面を滑らせていく。

(ああ、お爺ちゃんがすぐ後ろにいるのに、なにやってるんだろう)

 本当はタイム測定の後、彼女はおちんぽミルクを祝杯として飲みたかったのだ。

 タイム測定後、校庭の端で総太を見つけた時、駆け寄って一緒に喜びを分かち合いたかった。そして、彼に負担をかけることになるけど、いつものように部活後も西校舎裏で会いたかったのだ。

 それが出来なかったのはなぜなのだろう。

 総太がただの友人であり、恋人ではないから?

 確かに、あの場で駆け寄ったら陸上部員どころか、他の運動部にも二人の関係を誤解されるだろう。

 それを避けようとして、思い留まったのかもしれない。

 だが、それは篠宮鈴羽が芽森総太とそういう関係になるのを拒んでいることになるのだろうか。

 彼のことが好きなのは鈴羽本人も自覚している。少なくとも友達として。

 でもそれ以上の感情はあるのだろうか?

 ただ校舎裏で話し、おちんぽミルクを飲んでいる時に近くにいるだけの関係である総太に対しての、鈴羽が抱く気持ちはなんなのだろうか。

(別に『そう』なることを強く望んでいる訳じゃない。総太くんはたまたまあんな変わった所で出会った仲間? みたいなものだから、ちょっと親しみ易くて話していても楽しい『友達』なだけで。でも、だからといって『そう』なることが嫌な訳でも……あれ、でも嫌いじゃないってことは、えと、えと、えと……)

「ん……うひゃぁっ!?」

 素っ頓狂な声をあげ、鈴羽は思わず大きく体を震わせた。体の反応に数秒遅れて、なにが起きたのか次第に理解が追いついた。激しい動きに溶けかかったアイスが耐え切れずに崩れ、太ももに大きな塊として落ちたのだ。持っていたアイスの棒も体を震わせた際に落してしまい、その棒が足に弾かれて飛んでいった。

 その行方は──。

「こぉりゃああ、すずはぁ!! 鯉の池に、アイスなんて入れるんじゃなかぁあ!! すぐとってきー!!」

「ご、ごめん! お爺ちゃん!」

 先ほどまでののんびりとしたいつもの祖父から打って変わって、恐ろしい剣幕で怒鳴られ、鈴羽はすぐサンダルを履いてバケツを持ち、池から棒とアイスが落ちた辺りの水を掬い上げた。

 どたばたと作業を終え、鈴羽は軽く息を漏らす。家族同様にかわいがっている鯉のことになると、鈴羽の祖父は激昂するのだ。昔、池に手を入れて遊んでいた小学生の鈴羽の頭を殴ったほどだ。

(……あれ、なに考えていたっけ。なにか悩みごとがあったような……まぁ、いっか)

 祖父の逆鱗に触れた騒ぎで、すっかり鈴羽の頭からは先ほどまでの苦悩を忘れてしまった。もともと、切り替えが早い性格のせいもあるだろう。

 そして思い出すこともすぐに止め、鈴羽は自室の布団に入って、いつも通りの一日を終えた。


 ■


【午後十時十四分 高原宅】

「はぁ、一体わたしなにやってるんだろ……」

 一時間を超える思考の末、高原恵美はそんな残念な気持ちになっていた。

 彼女は今、自室で上はパジャマ、下はバスタオルを巻いた珍妙な姿をしていた。

 ピンクと白の壁紙やインテリアで飾った自室のベッドの上に、いくつもの下着が並べられている光景も普段ならば見られない特殊な状況だった。

 ブラとショーツで柄が揃ってないものを合わせ十八枚、その内ペアで揃っているのは九枚。これは氷山の一角で、全部で何枚あるかは恵美自身も数えたことがない。だが、この三倍は堅いと確信していた。

 恵美は友達と下着の話などしたことがないから、女子高生の平均的な下着の所持枚数なんて分からない。けれど、自分はその平均を大きく超えている事は自覚していた。小さめとはいえタンスの引き出しが一段まるまる下着で埋まっているのだから無理もない。

 昔は別段おかしいとは思っていなかったけど、流石に高校生になって下着がタンスを占領し始めた時に気づいた。自分の一番所持数の多い衣類が、スカートでもトップスでもなくショーツだなんて、変じゃないかと。

 しかし、重要なのはそこじゃない。問題なのは『明日なにを穿いていくか』だ。

『高原さん、今いいかな?』

 最近、クラスメイトの芽森総太はそう言って頻繁に下着を見せて欲しいと頼んでくる。

 お人好しな彼女はそれを了承し、快く見せてきた。下着ぐらい別に見せてもなんともないものだと、彼女は『記憶』しているからだ。

 だから見せることに不満がある訳でもないし、写真を撮られるのが嫌なわけじゃない

 ただ、別の問題が彼女の頭を悩ませていた。迂闊に下着選びで手を抜くことが出来なくなったのである。

 綺麗なものじゃないとダメとか意味がない、なんてことはないと思っていながらも、人様に見せるならなるべく綺麗な下着を身に着けたいと考えるのはやはり彼女の根が真面目な性格のせいだろうか。

 なので、こうして翌朝に悩まないように念入りな選考が必要なのだ。

「これは、どうかな……」

 迷った手が一つの下着を掴み、すでに穿いている下着の上に皺や食い込みが無いよう注意して穿き、バスタオルを外して姿見の前に立った。

 穿いているのは灰色の生地に、耳と目とヒゲが記号化された猫の黒いシルエットが小さく散りばめられたデザインのショーツだ。明日はキャラモノの日なので、ベッドの上に陳列された下着達もキャラクターが描かれたモノばかりだ。

 正直この日が一番困るのだ。

 キャラモノはかわいらしいけど、子供っぽくも見えてしまう。

 男子がどう思うのかは分からないが、少なくとも穿く本人にとっては一番自信が無い日なのだ。

 それでも、もう三年以上続けたこのサイクルを崩す訳にもいかず、悩みに悩んでいる内にいつの間にか一時間以上も恵美は下着とにらめっこしていたのだ。

「こんなことしてるの、家族にも見せられないよ……」

 一人でランジェリーファッションショーをする姿を鏡越しに見て、彼女はまた溜息をついた。

 けれど、それを別に面倒とも思ってもいなかった。

 今まで下着を集めるなんて一度も他人に明かしたことのない趣味を一人で楽しんでいたが、総太と下着について話せるようになって、この趣味の新たな楽しみ方を彼女は覚えていた。

 なにかを収集する趣味を持つ人間が欲するのは、より貴重なモノと、それを自慢出来る相手だというのは漫画で見た台詞だ。今の彼女はまさに、その後者の欲求を初めて満たした状況なのだ。

 内心で心を躍らせていることは恥ずかしいから気づかないふりをして、鏡とにらめっこを続ける。

「でも、せっかくなら……」

 彼女は思い立ち、タンスの奥から大切に小さな箱に入れて保管していた下着を取り出した。

 これは恵美が持っている中では最も高級なものだ。

 イタリアにある会社の輸入品だが、セールで安くなっていて普段は手の届かぬこの高級ランジェリーにたまたま手が届いてしまったため、勢いで買ってしまったのだ。

 その日の晩、全財産の八割以上も下着に使ってしまった後悔で溜息と共に先ほどと同じ「わたし、なにしてるんだろ」という言葉を口にしたのを覚えている。

 けれど、輝くような白色の高級素材を使った気品に溢れるこの逸品は、まるでシルクのような手触りで、今では一番のお気に入りになっていた。

 使い古してしまうことを恐れて普段から気軽に穿くようなことは出来ず、今までこの上等な下着を穿いて一日を過ごした日はなかった。

 これを穿いた自分を、彼はなんて言ってくれるのか、と夢想する。

 それは純粋に収集家として一番自信のある品に対する他人の評価が気になるという気持ちだ。

 試しに穿いてみて、姿見の前に立ってみる。

 やはり違う。

 この自然な光沢はラメ素材みたいな安っぽいものではないし、シンプルながら計算された形はヒップラインを綺麗に見せてくれそうだ。

 手触りを確かめるため、恵美は指先で下着の前部分をなぞる。すべすべで人肌では作り出せぬ心地良さだ。

 これを穿いた自分を総太が食い入るように見てくれる場面を想像する。

 日直終わりに声をかけられたあの日のことを考えると、下着を擦る手の動きが速くなっていく。

 少しずつ、今までとは違う感情の波が立ってくる。寄せては返すその波に合わせて、心拍数や呼吸が次第に乱れていく。

 手触りの良い布越しにぐにぐにと陰唇のひだやクリトリスを刺激すると、もっと体を責め立てたいという欲望に頭が支配されていく。

「はぁ……ふっ……ぅん……」

 もう片方の手は背後に回し、お尻を撫でるように、また揉むようにして下着の肌触りを確かめていく。

 前を刺激する指が二本に増え、太もも同士を擦り合わせて性の快感という波に身を任せていく。

 ここ最近、恵美の自慰をする回数はとても増えていた。それは決まって今のような下着を選ぶ時で、一度は朝の着替え中に「時間に余裕があるから」と行為に及びそうになったが、流石に思い留まった。

 しかし、今みたいな夜の時間帯だといつの間にか手が伸びてしまい、どうにも止められないのだ。

(本当……なにやってるんだろ……)

 鏡に映る、立ったまま自慰をする自身を見て、恵美はそんなことを思う。

 なにかいやらしいものを見たわけでもないのに、恵美はどうしようもなく性欲に駆られてしまっていた。

 いや、夢中になっている時いつも思うことは一つだ。

 それは……。

(芽森くんと私が──)

 突然ノック音が部屋に響き、快感に委ねていた体が一瞬固まる。

「ひぁっ……!?」

 恵美は慌てて手を止めてドアに向き直る。ドアの向こうから、妹の怜美が話しかけてきた。

「お姉ちゃーん、お風呂って入ったー?」

「う、うん! 入ったよー。だから怜美が入ったら、お湯抜いていいからー」

「分かったー」

 ドアの向こうから妹の気配が消えると、ふうと安堵の息を漏らす。

 さっきとはまた別の意味で、彼女の心臓は大きくドクンドクンと鼓動していた。

 なんだか興が削がれ、もう続けることは出来ないほど焦りの精神的疲労は大きかった。

「しまったなぁ……これ、汚しちゃった」

 一番のお気に入りを下に穿いていた下着ごと脱ぐと、透明で粘着質な液体が直に穿いていた下着を湿らせていた。その上に穿いていたお気に入りの逸品までも少しだが汚してしまっていたのだった。とてもじゃないがこのままタンスに戻せる状態ではない。

 お気に入りの逸品は洗濯に回し、明日はさっき穿いた猫のものにせざるを得なかった。あれだけ悩んでいたのに、決める時は投げ遣りに決めたことにまた溜息をつきたくなったが、これ以上続ける気にはなれなかった。

 さっさとベッドの上の下着も片付け、就寝のための下着とパジャマに着替えてベッドに入る。

 消灯した部屋の天井を見つめ、さっきの続きを考える。

 自分が行為中に考えること。彼女はその正体が薄々分かっていたが、はっきりと言葉にはしなかった。

 ここ最近彼女の自慰回数が増えたのも、その妄想が原因だった。今までの何倍も多くなり、生活に支障をきたす日もいつかくるのではないかと彼女は危惧していた。

 今までふわふわと考えてきたことだが、ちゃんと考えた方がいいのかもしれないと思う。

 ちゃんと言葉にして、自分がなにに欲情しているのか自覚するべきなのか。

 しかし、恵美はそれをなんとなくためらった。

 それを認識してしまうと『いつも通りの明日』が来ないような、そんなあやふやな不安に襲われたからだ。

(今はまだいいかな……いいことに、しよ)

 疑問の解答は先に伸ばし、高原恵美は眠りに入り、いつもより少し興奮した一日を終えた。


 ■


【午前〇時九分 芽森宅前】

 視界が歪み、ちゃんとまっすぐ歩けているかも自信が無い状態で芽森柚香は自宅を目指していた。

 柚香は今、誰が見ても酩酊していることが分かる酔っ払いであった。

 塾講師のバイト中もずっと切なくナニカを求め続ける感情を抑えながら、以前から予定されていた女子会に出席したのだが、完全に逆効果だった。

 一緒に飲んだ友達には風邪だと思われ心配されが、本当は違うことを柚香本人がよく分かっていた。

(もう、なんでわたしこんなんになっちゃったんだろ)

 落ち着けと自分に言い聞かせる。相手は自分の弟なのだ、と。

 だが、体の疼きが治まらず、柚香の頭の中はマッサージの時のことでいっぱいだ。

 そしてなにより困っていたのは、この火照った体を自ら慰めたくて仕方ないことだった。

 公衆トイレや野外でするという最後の一線は踏み止まったが、この劣情と酔いでふらふらな千鳥足で家に辿り着くまでは遠い道のりだった。友達が家まで送ろうかと申し出たのを断ったことを、今更ながら後悔する。

 ほとんど倒れ込むように玄関をくぐり、靴を脱ぎ捨てたところで柚香の理性は限界を迎えた。

 ストッキングを脱ぎ散らかし、スカートのチャックを下ろして廊下に脱ぎ捨て、下着も途中で脱ぎ捨てた。

 弟がもう寝ているかどうかも確認せぬまま、次々と衣服を脱ぎ捨てながらリビングに向かい、そして電気も付けずソファに下半身裸で座った。

 座った場所は夕方と同じ。

 普段の柚香ならありえない行儀の悪さだったが、自分を慰めるにはこの場所しかないのである。

 ジャケットも脱いで息苦しいブラウスのボタンも外し、ブラも取り払った。

 そして、すでにピンッと乳首が突き出した胸を自分の手で揉み始めた。触りもしてないのに乳首が顔を出しているのは、柚香にとって初めてのことだった。

「こ、こんなに興奮して、わたしは……もう、んんんっ……はぁ……あぁ……」

 両手を使い少々乱暴な手つきで、必死に弟のマッサージを再現しようとする。

 しぼり、つまみ、寄せ、加えていつも自分が自慰をしているように乳首を指先でちょんちょんと弄る。

 いつもブラに擦れるだけで反応する敏感な胸が嫌になるのだが、自慰の時ばかりはと、その体質を思う存分利用して快楽を得ようとする自分が情けない。

 視線を下ろすと、自分の秘部がテカテカと月明かりを反射しているのが見える。触らなくても分かるほど、アソコが愛液で濡れているようだ。

 だがもっと良く見てみたくて、足を徐々に大きく開いていく。

(わたし……総くんを思って、どんだけ濡らしちゃったんだろう……)

 みっともないほどに股を開き、下ろしていた足をソファに乗せて、M字開脚の体勢になっていく。

「うわっ……」

 自分でも驚くほど、柚香の秘部はいやらしく乱れていた。

 愛液は今までに見たことがないほど溢れ、一瞬知らない間に漏らしていたのかと思ってしまったほどだ。

 それを優しく、愛でるように、割れ目を指先でなぞっていく。

「あっ、ダメ……こんな、こと……こんなことダメなのに……あぁ!」

 ただ陰唇をなぞるだけ、クリトリスに触れるだけで今まで感じたことのないような快感を覚える。

 ここまで発情した性器に入れるのが自分の指だということに、柚香はなぜか少し申し訳なさを感じながらも、人差し指を少しずつ陰唇の間に押し込んでいく。

 まだ一度も男のモノを通したことがないアソコは普段なら指一本でさえも窮屈だが、この湯のように熱くなった大量の愛液のおかげで、今日はすんなりと指を入れることが出来た。

「はぁ……でも、もう我慢出来ない……くぅ……バイト中、ずっと濡れていたんだもん……総くんのマッサージを思い出して、ずっと……んん!!」

 敏感になった膣壁の、お気に入りの場所に指先が擦れる度に体が震えるほどの快楽が脳を刺激する。もっと激しく、もっと気持ちよくと指先を小刻みに動かすとびちゃびちゃと性器が音を立てる。

「んあ……分からないよ、だって……ただ、おっぱいを揉まれていただけなのに……んっ……それなのに、体が熱くて、もどかしくて、わたし……ひぐ、もうやだ……まるで、発情期の猫みたいに……ああん!!」

 もしもだ。

 この指が、弟のものだったら、これ以上の快楽が押し寄せるのだろうかと柚香は夢想する。

 そう考えた途端、熱く濡れた膣が今まで以上にキュッと引き締まった。

 まるで欲しがるように反応する体に、柚香は顔から火が出そうなほど羞恥を感じていた。

 しかしそれでも指の動きは止められなくて、知り尽くした自分の弱い所を責めていく。

(こんな風に……こんな風に……あぁ、ダメ……わたし、考えちゃってる……マッサージのことだけじゃなくて、総くんとエッチなことしてるのを想像しちゃってる……)

 体が反り返りそうな快感に堪えながらも、今、この指は弟の物だから容赦なんかしない、と思い込むように指を動かし続ける。

 もう片方の胸を揉んでいる手も同様に、激しく乳首を弄り続ける。

(もっと激しく、もっといやらしく……もっとわたしを愛でて欲しい。たった一人のわたしの弟……かわいい、かわいい総くん……そう……イカせて……お姉ちゃんをイカせて、総くん……!)

 指で捻る乳首責めに加え、膣に挿入した指も滅茶苦茶に肉襞を引っ掻き回す。

 そして、絶頂の予感がきた。

「あぁ……イク、イッちゃう……総くんのことを考えて、イッちゃうなんて……んん! ……ごめんね、こんなお姉ちゃんで……あ、ああああああん!!」

 今まで感じたことがない解放感を味わいながら、柚香は果てた。

「はぁ……はぁ……」

 普段なら一度イッてしまえばすぐ冷静になる彼女だったが、今回ばかりは酔いが残ってるのもあってなかなか興奮が醒めなかった。

 だが、今の自分がとんでもない格好をしていることはふらふらの柚香の頭でも理解出来た。

 全裸でソファに座り、股を大きく開いて、その中心からはとめどなく愛液を垂らしているのだ。

 おそらく顔も、発情した痴女のように淫らなモノになってるだろう。

(こんな姿、総くんに見られたら死んじゃいそう……)

 ふらつきながらもなんとか立ち上がり、周囲の衣類を拾い上げていく。暗いのと頭がボーッとしてたのもあり、拾ったものの確認もしなかった。脱衣所にある洗濯かごにシャツや靴下などを放り込み、汚してしまったソファの後始末もさっさと終える。

(はぁ……明日から、どんな顔で総くんに接すればいいんだろ……相手は血を分けた弟なのに……)

 自室のベッドに潜り込み、午前一時前に芽森柚香は、いつもとは決定的に変わってしまった一日を終えた。

 暗い暗い闇の中。

 なにも無い暗闇の中で俺は漂うように、浮かぶように、そして沈むように存在していた。

 俺の心境の変化でも表してるのか、まるでこの真っ暗な空間は俺の情欲そのもののようだった。

『うにゃ、ようやくそちの中に眠る情欲のすべてを自覚したかにゃ』

 その闇の中に、白い少女の姿がロウソクの灯りのように浮かび上がった。

 背丈は昨晩見たものよりさらに少し伸び、今は小学生高学年、十二、三歳ほどだろうか。

 イシュタルは俺を熟した果実を見るような、期待の念がこもった瞳で見つめてくる。

 ああ、ようやく分かったよ。今まで無意識に蓋をしていた情欲が、間欠泉のように噴き上がったみたいな感じだ。イシュタルが言った『情欲による絶望』ってのが今なら想像出来る。顔見知りだろうと家族だろうと、俺は手を出す奴なんだ。

『うにゃうにゃ、それでこそ我が認めた男にゃ。それじゃ、明日からの淫行に我も力を貸してやろうにゃ』

 力を貸す?

 イシュタルは無重力の中をふわふわとこちらに近づき、俺の胸をクッション代わりにして停止する。

 上半身を預けるように、イシュタルは俺の胸に寄りかかった。揺れる長髪が猫の姿だった時の毛並みを思わせ、彼女の神々しさを遺憾なく発揮させていた。

『割合で言えば、現在の我の力は三割程度の充電率にゃ。これほど溜まれば、さらなる力をそちに授けることも出来るにゃ』

 どうやらイシュタルへの感情エネルギーの供給は順調のようだ。

『我に限らず、神というのは人間の思考を操ることに長けておる。人間世界を管理するための上位存在故の特権かにゃ。ちなみに言うと、そちに与えた改竄術もそういう神の特権を変質させて授けたものにゃ』

 なるほど。今まで考えてこなかったが、確かに性愛の神と記憶操作だなんて一見関わり無いよな。けどそれは人間を超えた超常の存在共通の特権的な能力だったのか。

『そして、その特権を使えば面白いことが出来るにゃ。小娘達の弱い部分を見破る……とかにゃ』

 なんとなくイシュタルが人間には見えないものが視えるというのが理解出来たが、それを自分に伝えた結果がどうなるのかはいまいち分からない。

『にゃはは、まぁいずれ分かるだろうにゃ。うにゃ、それでだにゃ……』

 と、ここで急にイシュタルの言葉が歯切れ悪くなる。いつも饒舌に語る口がまごつく様子を初めて見た。

『そのためのにゃ……儀式がいるのにゃ。にゃに、とても簡易で簡素で簡単なものにゃが……』

 イシュタルが言い淀むなんてどんな儀式なのだろうか。そこまで無理はしなくていい、と言いたくなる。

『うにゃ!? じゃ、じゃあ改竄術を授けた時みたいに脳みそガリガリの方がいいのかにゃ! また、あの痛みを味わいたいかにゃ!?』

 初めて改竄術を使った時のことを思い出す。頭が割れるような激痛は二度と体験したくない。

『嫌だろう!? 嫌だろうにゃ! だからこの方法が一番なのにゃ! と、とりあえず目を瞑れ!』

 そもそも改竄術だけで俺は十分なのだが……仕方なく、言われるがままに俺は瞼を閉じる。

『絶対に目を開けてはならんにゃ。儀式が中断されてしまうからにゃ……こ、これは儀式だからにゃ』

 目を閉じた俺の首筋になにか温かいものが触れた。

 これはイシュタルの腕?

 どうやらイシュタルは腕を俺の首に手をやり、俺の頭を固定して……と、そんなことを考えてる最中に、俺の唇になにか柔らかいものが触れる。

 一体、これは……。

『うにゃあ! 目を開けるなと言っただろうがにゃ!』

 俺が正体を見ようと開けたまぶたの隙間から見えたもの、それは俺の鼻筋目掛けて迫ってくるイシュタルの額だった。


 今日もベッドからの自由落下の、痛覚による強制目覚ましを食らった。今回は顔面から床に落ちたために、鼻に言葉に出来ないような痛みを感じる。

 大ダメージを受けた鼻を押さえながら俺はいつも通りに登校していた。

 今朝、意を決してダイニングに行ったのだが、そこに柚姉の姿はなかった。

 テーブルの上に一枚のメモが置いてあり、そこにはすでに家を出たことを伝える柚姉からのメッセージが綴ってあった。なんだか避けられているような気がして、軽く憂鬱な気分になるが昨日のことを思えば仕方ないのかもしれない。あれはマッサージの度合いを超えていた。

「……まぁ、今は柚姉のことばかり悩んでも仕方ないか」

 校舎に入り教室へと向かう途中、俺は廊下で立ち止まった。

 いや、具体的にはそうさせられたのだ。

 なぜなら、俺の行く手を阻むようにとある女子生徒が仁王立ちしていたからだ。

「あの、なにか用でも……」

「芽森総太ね?」

 キリッとした瞳が、鋭い眼光と共に俺を真正面から射抜く。

 凛とした雰囲気を纏い、やや長めのショートヘアに、前髪の赤い髪留めが印象的だ。

 おそらく同学年で、しかも最近見た記憶がある。確か彼女は──。

「私は三組の如月明衣、陸上部よ」

 そうだ、昨日篠宮さんの部活を見学していた時に見た記憶がある。陸上部とわざわざ言う辺り、用件もそれに関係してくるのだろうか。けれど陸上部と言われても、篠宮さんと(ただの)友人関係であるぐらいしか繋がりが無いのだが。

「えーと、陸上部の如月さんはどんな用件で──」

「放課後ちょっと付き合ってもらえるかしら。場所は西校舎三階の第二視聴覚室。そこで聞かせて欲しいの、篠宮とあなたとの関係について」

「え……?」

 その言葉に、時間が一瞬止まる。彼女は今、なんて言った?

 フィールドも出していないのに体が全く動かず、俺は如月明衣がそのまま立ち去るのを黙って見送るしかなかった。

 昼休み。

「はぁ……」

「どうしたの? 溜息ついて、なんだか元気がないけど」

「あ、いや、なんでもないよ。なんでも」

 俺は校舎一階の隅にある女子トイレの個室に高原さんと二人で入っていた。

 ここもいわゆる『あまり人が来ない場所』であり、昨日の廊下よりも安全な場所なのでこれからはここを定位置にしようかと思っている。

 なんの定位置かと聞かれれば、それはもちろん高原さんの下着を見せてもらうための、である。

 今日は場所が安全を保証してくれるため、いつもとは違う方法をとっていた。 

「やっぱり、これはその……恥ずかしいよ……」

「うーん、でもいつも持ってもらうのも悪いしさ」

 そう、俺は洋式の便座に座りドアを背に立つ高原さんのスカートを、自分の手で大きくめくっているのだ。

 片手で大きく裾を持ち上げると、かわいい猫柄の下着を纏った股が丸見えだ。その光景を、もう片方の手で持った携帯で写真を撮る。

 『自分の手でスカートをめくる』という男子にとって夢のようなシチュエーションだ。性的なことをしているという感覚が増し、俺は正直この行為だけで性器が膨らみそうな気がした。

「今日は猫の柄か。いいね、これもかわいらしいよ」

「うん、子供っぽくないか心配だったんだけど」

「いやいや、高原さんが選んだんだもの。間違いない、いいセンスだよ」

「ほ、本当? よかったぁ……」

 個室という狭さのおかげで、いつも以上に高原さんのショーツを間近で見ていた。

 灰色の生地に記号化された猫が散りばめられたデザイン。

 仮に白地に猫のプリントがデカデカと書かれていればそりゃ子供っぽい。ほとんどギャグみたいなものだろう。しかしこれはデザインが良いおかげであまり幼稚さは感じない。

 かわいらしい猫と、彼女の太ももやショーツに包まれた陰唇の柔らかそうな膨らみがとても柔和で癒される。

 舐めるようにショーツを眺めていると、軽い眩暈を覚える。

 ……なんだこれ?

 一秒と続かなかった眩暈が治まると、目の前の景色が微妙に違って見えてきた。具体的になにが、という訳ではないのだが、視覚そのものが脳に『ある行動』を訴えかけてくるようだ。

『彼女のショーツに息を吹きかけろ』と。

 俺はその意味は分からなかったが、なぜか従うべきだということは理解する。

 ただやはり戸惑いの念もあったので、さっきみたいに溜息を漏らすようにしてその行動を決行した。

「はぁ……」

「ひゃあっ!?」

 想像通り、というか当たり前だが高原さんは大きく驚きの声をあげた。

「ごめん高原さん。驚かせちゃった?」

「い……いや大丈夫だよ!」

 顔を上げて高原さんの顔を見ると、彼女の頬はいつも以上に紅潮していた。最近は割と下着を見せる行為に慣れてきたのか、初めての時ほど顔を赤らめなかった彼女が、今まで見たことないほどに真っ赤に染めていた。

「ん?」

「め、芽森くん?」

 俺はなにか嗅ぎ覚えがある匂いを察知して、ショーツに顔をさらに近づける。

 これは確か柚姉をイカせた時に嗅いだ……。と思い当たったその時、昼休みの終了を告げるチャイムが響き渡った。

 それと同時に高原さんは背にしたドアを大きく開け、外に跳び退くように個室を出た。

「つ、次の授業が始まるから私急ぐね……!!」

 そう言い残して、高原さんはほぼ走るような勢いで女子トイレを出て行った。

 俺はその急な反応に圧倒され、なにも言えずに便器に座っているしかなかった。

 彼女の、羞恥で真っ赤に染まった表情に俺の息子はすっかり元気になってしまったのだが。

 さて、授業まであと五分。どうしようか。

 俺は悩んだ末、遅れるのを覚悟で竿を握った。


 放課後。

 俺と目を合わせないようにそそくさと教室を出る高原さんを尻目に俺も教室を出る。

 どうやら嫌われた訳ではなさそうだが、今日はもう会話は出来ないだろう。

 俺はあの逃走行為の意図をなんとなく察して、そう判断した。

 柚姉に続いて高原さんも? なんて期待を持ちながら廊下を歩いていると、その幸福な気持ちを打ち崩す出来事があったことを思い出す。

 如月明衣。

 彼女の呼び出しと、「篠宮さんとの関係について聞かせて」という発言。

 どう考えても俺と篠宮さんが定期的に行っているアレについての言及だろう。

 このまま無視して帰っても解決にはならない。その情報を教師や他生徒に言われても困るわけだし……いや、すでに言われている可能性もある。

 そうなっていた場合はなんとかその相手を聞き出して、記憶改竄術で強引にでも揉み消すしかない。

 つまりはどっちにしろ彼女と会わなければいけない、という結論に至り憂鬱な気持ちを隠せない。

 如月明衣とは話す内容以前に苦手なタイプだ、特にあの鋭い眼光とか。

 仕方なく俺は向かう先を下駄箱から西校舎に変えると、その途中で篠宮さんに遭遇する。

「あ、偶然。総太くんじゃない」

「やあ、篠宮さん。ああ、そうか陸上部は今日休みなのか」

「うん、なんか顧問の先生が出張ってことと、たまには休部日があってもいいだろって部長がねー。あたしも今日は自主練お休みにしよっかなってことで、今帰るとこ」

 同じ陸上部の如月明衣が放課後に呼び出したのは、そういうことだったのか。

「総太くんも今帰りなの? なら、その……一緒に帰らない? ほら、最近駅前に出来た鉄板焼き屋あるじゃん、あれ行きたいんだけどなかなか女子友で行くって言ってくれる人が居なくてねー。総太くんって、そこそこ食べられるタイプでしょ?」

「ごめん篠宮さん。実はもう用事が入っててさ、また次の機会にってことでいいかな」

「あー……そっか。先約が入ってるなら仕方ないなぁ。じゃ、また今度誘わせてもらうよ。流石に女子一人で鉄板焼き……ってのもね」

「恥ずかしさより食欲を優先すると思ってたよ」

「なっ! そんなことないし! あたしも少しはセケンテーを気にするし!」

 いつものように軽く笑い合って、俺達はその場を後にする。

 えーと、西校舎にはこの角を曲がって──。

「……あーぁ……待っ……たのに」

 背後でなにか篠宮さんが独りごちていたが、残念ながらその呟きは俺の耳にまで届かなかった。


 西校舎の第二視聴覚室前に到着した。

 先ほど篠宮さんには如月明衣のことは、あえて黙っていた。たとえ如月明衣に篠宮さんの淫乱な姿を見られていたとしても、その記憶を俺は消すことが出来る。

 だから篠宮さんに余計な心労を背負わせることは無駄なことだし、知らせる必要がないと思ったのだ。

 だが、記憶を消すと言っても簡単なことではない。

 他に誰かに教えてないかを聞き出し、俺と篠宮さんの関係について怪しまれないように上手く記憶を変える必要がある。

 戦の前のような気持ちで、俺は心の中で自分の頭にハチマキを巻くイメージをして、気合を入れる。

 すでに開錠されていたドアを開け、教室内へと足を踏み入れた。

「遅いじゃない。呼び出した人間が先に来るのが礼儀とはいえ、女性を待たせるのは感心しないわよ」

 普段使う教室よりも大きく、少し上等な机が並ぶ教室の中央に、如月明衣は立っていた。

 その出で立ちはまさに『待ち構えていた』という印象を受けた。俺の中での彼女のイメージは「待ちかねたぞ」とでも言う魔王に固まりつつあった。

「それで、まずここに呼び出した理由を聞きたいんだけど」

「理由? それは朝にも言ったじゃない。あなたに篠宮鈴羽のことを聞きたいって」

 やはり、俺の予想は外れてくれないか。

 このままフィールドをこまめに出しつつ、彼女から上手く情報を──。

「で、あなたは篠宮のどこに惚れたの? なんで付き合おうと思ったの?」

「…………は?」

「ん? まさか誤魔化す気? 無駄よ。私は知っているんだもの。あなた、篠宮と付き合ってるんでしょ?」

「いや、全然。ただの友達で──」

「誤魔化さないで」

 彼女はピシャリと言い切る。

 なんだかややこしいことになっている気がして、俺は不安を抱きつつあった。

「私は昨日、篠宮があなたにどこかで落ち合おうと相談してるのを聞いたし、部活中も篠宮が校庭端にいるあなたに視線を送ってるのを見たのよ?」

「いや、見たのよ? て言われても……そもそも、仮に付き合ってるとしてなんで如月さんがそんなことを聞く必要が?」

「なぜって、それは…………実は私は部の公序良俗を守る役目を任されてて」

「ぜっったい嘘だ。今考えただろ、それ」

 なんだか腹を括って来た俺が馬鹿みたいだ。これなら篠宮さんと鉄板焼き屋に行けばよかったな……。

「ともかく、私は篠宮に彼氏が出来たなんて信じられないのよ。だってあの篠宮よ? 中学から陸上一筋で、身なりとかにも無頓着で、恋愛関係の話より今日の帰りはどこで買い食いしようかなんて話題の方を好む篠宮よ? そんな篠宮に、彼氏が出来るなんてそんなこと……」

 彼女が挙げた情報は俺も知らないこともあったが、なんとなく想像出来た。特に最後のは。

 ここで俺は以前、友人から聞いたある話を思い出す。

 篠宮さんは一年の頃は高跳びの選手であり、ハードル走に転向したのは数ヵ月経ってからなのだそうだ。

 彼女はもっと走る競技がしたかったそうだが、その才能は主に『跳躍』の方が大きかったそうだ。なので、最初は才能を買われて高跳びの選手だったわけだが、結局は間を取ってハードル走を選んだそうだ。

 そして、彼女が一年の頃に築き上げた成績は今でも現役の高跳び選手達に引けを取らない輝かしいものばかりで、それが選手達からはあまり好ましく思われていないと。

 確かに、途中で自分のやりたいことを優先して転向した相手の記録に、必死でやってる自分達が追い付けないというのは面白くないだろう。

 そして昨日の練習風景を見る限り、如月明衣は走り高跳びの選手なのだろう。

 他の種目でも大成した選手が残した置き土産のような記録を越せず、そんな相手が男相手にうつつを抜かしていると思い、我慢出来ずに彼氏相手にその不満をぶつけに来た。

 あくまで予想だが、大筋はそんなところだろう。

 なんともはた迷惑な話だし、そもそもそれは誤解だ。

「ちょっと、聞いてる?」

「あぁ、聞いてるよ。でも、別に陸上部が恋愛禁止というわけじゃないだろう? そこまで必死になることか?」

「そうよ。同じ部の部員が不純異性交遊をしているのを見たら、なにか言いたくなるものでしょう」

「不純って……相談したり、目線を送ってただけだろ」

「あとはそうね……校舎裏で淫行に及んでいたことぐらいだけれど」

「えっ」

 ……おい、待て。今、なんと言った。

「い、いんこう……?」

「……? 西校舎の裏であなた篠宮にフェラさせていたじゃない。まぁ、漫画でもよくあるし、高校生で恋人を作ったら、みんなしたくなるんでしょうけど」

 ここに来て、俺はこの如月明衣がヤバい人間なのではと思い始めた。

 俺と篠宮さんの情事を見られたことも危険だが、彼女自身の感性も危ういもののように思えた。

「……いや、どんな漫画だよ」

「あら、ごめんなさい。あなたは少女漫画なんて読む柄ではなかったわね。じゃあ、あれは篠宮が言い出したことなのかしら」

 俺も昔は柚姉の持っていた少女漫画を読んだことはあったが、そんな過激な描写は無かったような……いや、今はそんなことどうでもいい。

「つけていたのか……あの場所まで」

「顧問からの伝言があって、篠宮を探していたのよ。それで、あなたのモノを篠宮が……」

「あぁ、分かった。もういい。言わないでくれ……」

「分かった? 分かったということは認めるのね。やっぱり、そうなんじゃない」

 なんという注意不足。あそこは校舎側からは窓がないし、塀と校舎に挟まれて出入り出来る場所も限られている。心理フィールドでこまめに確認していれば、防げたことなのに。

「どうせ、お互いの自宅でも隙を見て交わっているのでしょう? まったく、どうして篠宮が……」

 ぶつぶつと呟き始める如月明衣をよそに、俺は必死で頭を働かせる。どうすればいい、どうすればこの状況を打開出来る?

 とりあえず会話を続けなければと、俺は思ったことを適当に述べる。

「もしかして羨ましいのか?」

「……なにを言っているのかしら。私は部活前に淫行をする部員の恋人がどんな男か……いや、不純異性交遊をするのはどうなのかと思っただけよ」

 ……ほう。

 適当に言ったのだが、もしや本当に羨ましくて突っかかってきたのかもしれない。そもそも、最初に聞いてきたのが「どこに惚れた?」と「なんで付き合おうと思ったの?」なのだ。単に色恋沙汰に興味があるだけなのかもしれない。

 ここで俺は心理フィールドを展開する。

 眉をひそめて不機嫌顔の如月が、ぴたりとその動きを止めた。

[ 篠宮の 彼氏と 一緒に 第二視聴覚室に 居る ]

 浮かび上がる文字を見つめていると、良い改竄内容を思いついた。どうにも彼女は恋人関係に憧れている節がある。

 なら、実際の気分を味わわせてあげようではないか。

 限定神力・記憶改竄開始Now rewriting────。

[ 『私の』 彼氏と 一緒に 第二視聴覚室に 居る ]

 色褪せた世界から帰還し、俺は反応を見るために再び問いかけた。

「で、改めて聞くけど、今日呼び出した用事ってなにかな?」

「用事? そんなの決まってるでしょう……?」

 如月が俺の近くへとゆっくりと、歩み寄ってくる。そして、俺の目の前まで近づくと……。

「それは総太と会いたかったからー、えへへー」

 と言って、抱き付いてきた。

 え? ……あれ? 

 あまりにも想像してなかった反応に困惑する。

 これがさっきまでピリピリしていた如月明衣だというのだろうか。一瞬、誰の声なのか分からなかった。

「あのー、如月さん? なんか性格が変わって──」

「もう、さん付けなんてよそよそしいわよ。私達付き合ってるんだから、明衣って呼んで。そうだ、私もそろそろニックネームで呼ぼうかしら……総たん、というのはどうかしら」

 そう言って、彼女は俺の胸板に頬ずりをするように自分の顔を押し付けてきた。

 確かに、俺は彼女の記憶を改竄して自分の彼氏と一緒にいるように思わせた。

 しかしこの反応は予想外で、予想以上だ。

 恋人の前では別人のように振る舞う人間がいること自体は珍しい訳ではないが、ここまで極端な人間はそうそういない気もする。

 目下で揺れる黒髪がふとこちらを見上げてきた。アーモンド型の瞳が、さっきまでと違い純粋な光を宿している。

「ねえ、総たん。下向いてくれるかしら」

「こ、こうか?」

 デレッデレな如月に俺はまだ馴染めず、言われるがまま顔を俺より小柄な彼女に向ける。

 あれ、こういう体勢は最近したような──。

「えい」

 そんな軽い声と共に、如月は背伸びして自分と俺の唇を重ねた。

挿絵5

 彼女の突然の行動に、脳が一瞬フリーズする。

 そして、驚きで思わず後ずさろうとするのを、如月は俺の首に腕を絡めることで制し、おまけに舌を俺の口の中へと強引に入れてきた。

 俺の舌に絡まるヌメリとした感覚を、最初は苦しく感じた。しかし、だんだんとそれは快感へと変わっていく。普段なら絶対に他人と触れ合わない口内で、他人の舌が蠢くのは新鮮な感覚だった。

「ん……ぷは……ふっ……あは……」

 慣れない……いや、それどころか初めての口づけなので、上手く息継ぎが出来ずに口を放した。

「いっぱいしましょう。ねぇ?」

 だが、如月は我慢が出来ないようですぐに舌による求愛を要求する。俺の口内で舌と唾液をいやらしく絡ませている間、俺は彼女と一体化しているような感覚を覚える。

 もはやどちらのものか判別出来ないぐらいに唾液は混ざり合い、獣のように荒い息は問答無用でお互いの肺を満たしていく。

 もう何分経っただろう。

 濡れたキスが交わされる音と、時折漏れる甘い吐息は不意に止んだ。

「はぁ……はぁ……やっと、解放された……」

「ふふ、どうする? 今日は最後まで……する?」

 俺を見上げる如月の頬は赤く染まり、首に回されていた手はいつの間にかブラウスのボタンを数個外して、胸の谷間をアピールさせて俺を誘ってくる。

 正直、俺はここまでの行為を彼女とする気はなかった。

 きっと如月は過激な少女漫画の読み過ぎかなにかだろう。恋人と校舎内で『最後』まで行うなんてことをするような人間には、とても見えなかったからだ。

 誰かに見つかるかもしれないという危険性を考えてここでやめるべきだろう。

 昨日までの俺であればそう判断したかもしれない。

「ああ、最後までしよう」

 俺は再び、彼女の柔らかな唇に自分の唇を重ね、そのまま視聴覚室の机の上へと如月を押し倒した。

 我慢や理性なんてものは、昨晩すべて吹き飛んでしまったのだ。

 こんな機会をみすみす捨てられるほど、今の俺の情欲の猛りは大人しいものではなかった。

 彼女を抱きたい。彼女を犯したい。彼女のすべてを感じたい。

 今朝初めて会話した相手にそんなことを考えてしまうほど、俺の情欲はどうしようもない状態だった。

 うん? ……なんだ、また眩暈が……。

 唐突に、昼休みの時と同じ眩暈に襲われた。

 それもまたすぐに治まり、またしても目の前の風景がどこか違ったように見えてくる。

 俺の視界は淡く光るラインを捉えていた。改竄術の時に浮かび上がる、記憶の文章のような白い光だ。

 そのラインは彼女の口から下へと伸びていた。

 これをどう活用するべきかは、すぐに理解した。触れ合っていた唇を離し、光るラインに沿うように舌を這わせる。その細い首筋に口づけをして、時折舌先で舐める。

「んん……もう、そんな弱い所ばかり……あっ……」

 これがイシュタルの言っていた新しく授けた力なのだろうか。今の俺は次にどうすればいいのか、どうやれば効果的に性的快感を与えられるのかが、直感的に把握出来ていた。

 首筋を通り過ぎると、皮膚の下から浮き出た鎖骨をなぞるように舌を動かしていく。

 彼女も篠宮さんと同様に日焼けした肌をしているのだが、舐め心地に悪い箇所は無かった。若い女性というのはどれだけ日に焼かれようとも肌の柔らかさを保てるのかと、俺は感動に似た高揚感に包まれる。

 そして露出している肌を一通り舐め終えると舌による愛撫を止め、如月のブラウスのボタンに手をかけた。

「じ、自分でするわよ……」

「いや、待てない」

 乱暴とまでいかないが、急かすように残りのボタンをすべて外すと、そのままブラウスを果実の皮のように剥いた。

 服の下にはスポーティーな無地の白いブラが、小ぶりな膨らみを包み隠すように覆っていた。昨日柚姉のものを体験してしまったせいか、余計にそれは寂しいものに感じた。

 だからといって、俺はそれを無価値と思うタイプではない。慣れぬ手つきで如月の背後に手を回して、ホックに手を掛ける。体勢としては如月を抱きしめるような形になっていた。

「私は逃げないわよ……ふふ」

 耳元で如月が笑みをこぼした。それは必死になっている俺の姿を見た反応なのか、それとも激しく自分を求められているという事実に対してだろうか。

 未だにこいつの価値観が分からないが、確かに俺は如月明衣を求めていた……正確には、その体をだ。

 ようやくホックを外すと、ブラを上にずらす。そしてその慎ましい胸が現れる。……如月が机の上で仰向けの体勢をしていたので小さいと思ってしまったが、十分な膨らみがあった。両手でしっかりと掴めるほどの大きさのおっぱいは、指先の力でふにふにと形を変えた。

 乳首と乳輪は綺麗なピンク色をしていて、そこにも淡い光のラインが指示を出すように引かれていた。

 俺はそれに従い、乳輪のふちをなぞって焦らす。乳首に触れるか触れないかの感覚で指を這わせ、不意に爪先で固くなった突起を弾いた。

「いゃんっ……!」

 今まで聞いた中で一番かわいらしい声が出た。顔全体を紅潮させ、じんわり汗を掻いて快楽を味わっている如月の顔はとても惚けていて、淫靡だった。

 如月の体が感じやすいものなのかどうかは分からないが、きっと昨日の柚姉相手よりかは上手く出来ているはずだ。このラインは相手を感じさせる場所を示し、従うことで、間接的に俺の情欲を高める役割も持っているようだ。昨日の柚姉へのマッサージと同様に、自分の手で女性を感じさせるという興奮を再び実感していた。

 我慢出来ず、俺は彼女の小ぶりな胸に食らいつくように口づけをする。

 本当に食べてしまいたいほどのサイズの柔らかい胸が俺の舌や唇を優しく押し返す。極上の果実を舐めるように、時には吸うようにして的確に如月に快感を与え続ける。

「やんっ……胸、弱……いからぁ……やっ、やぁ……!」

 この教室は防音設備が整っているからか、彼女はなにも憚ることなく甲高い声を漏らしていた。

 小さめの乳首を軽く歯で挟み、コリコリとその感触を確かめる。

「あっ……ほんと、感じやすい所ばかり……んん、ずるいわよ……!」

 本当に自分でもどうかしてしまったのかというぐらいに手際よく、そして確実な愛撫を繰り返した。

 胸への愛撫を手に任せ、舌先は彼女の脇腹やヘソなどの敏感なポイントを舐めながら、スカートをめくる。

 日に焼けた足は細くも、しっかりとした筋肉が付いている。そして日焼けが薄くなる足の付け根の先に、ブラ同様にシンプルな柄のショーツが彼女の一番大事な場所を包んでいた。

「……脱がせるから、腰浮かしてくれ」

 如月が控えめに腰を浮かす姿に生唾をごくりと飲み込んでから、俺は彼女のショーツに手をかける。そして禁断のベールを剥ぎ取るようにショーツを腰から下ろして、足から引き抜いた。

「……すごい」

 遮る布が無くなったそこには確かめなくてもまだ誰にも侵入を許していないことを確信出来る、綺麗で色の薄い割れ目があった。

 形自体はネットなどで見たことがあったが、実物を見るのは初めてだった。やはり実物は画像で見るよりも受ける印象が異なっていた。

 俺は薄く生え揃った陰毛を掻き分け、その奥にある外陰唇を両手の親指で広げて中を観察する。

「そ、そんなにじっくりと……そ、総たんがそうしたいならいいんだけど……」

「綺麗だよ、とても」

 広げた割れ目の間は肉のヒダの密集地帯だった。赤いヒダはピクピクと痙攣していて、すでに愛液でテカテカと光り輝いている。 

 すでに痛いぐらい膨張した肉棒を取り出すため、制服のズボンを下着も一緒にすべて一息に脱ぎ捨てた。

 誂えてあるかのように机は俺の腰より少し低めの高さだったので、そのまま正常位で挿入しようとする。

「あぁ……来て……来て、総たん。私に愛を注いで」

 まるで官能小説のような台詞も、きっとどこからか拝借したものなのだろう。そんなあざとさを感じさせる言葉にも、俺の情欲は反応した。

 名前を呼ばれること自体がある種の快感をもたらしたのか、彼女の猫が甘えるような声に魅了されていた。

「今日は……無しでいいから、そのまま生で……ね?」

「メイ……!」

 それに対して俺は、上っ面だけの心のこもっていない名前呼びで返事をする。

 如月はまだ誰にも許していないだろう挿入を、簡単に、それも生で許していた。

 俺は初めての性交に対する感慨深さを感じるよりも、早く入れた後の快楽を感じたかった。初めての行為だが手間取ることもなく膣口に照準を合わせ、ためらうこともなく肉棒を彼女の体内へと突き進めていく。

 俺は膣壁が絡みつく感触に、如月は純粋な苦しさからか、二人とも息を漏らす。

 ちょっとずつちょっとずつ前進を続けた俺の竿は、ついに完全に鞘へと収納された。

 性器を全方位から圧迫され、温められるこの感触は自慰やフェラでは到底味わえない快感だった。

「全部、全部入った……温かいのと硬いのと大きいのが、全部伝わってくる……」

 如月は本当に愛おしいように、肉棒の先端辺りが収まっているであろう下腹部をそっと撫でた。

「動くぞ、メイ」

「え、ええ……いいわ」

 なんとか挿入の感触に耐えると、今度は腰を動かすことで擦れる快感が俺の竿を震え上がらせた。快感の波に、腰がぞわぞわとする。カリ首が狭い膣内で肉ヒダを引っ掛けながら後退し、また奥へと進んでいく。

 その度に搾り取られるような感覚が、大きくなった肉棒を襲う。

「あぁ、すごい……私の中身が、すべて持っていかれそうになる……こ、こんなの経験したこと……ないっ」

「はぁ、はぁ……痛むか?」

 俺は割れ目からピストン運動で見え隠れする竿に、血が混じっていることに気づいた。如月自身は気づいていないようだが痛みは感じているだろう。

「そう……ねっ……んんっ、総たんとは、初めてじゃないのに……スキンを付けてないから、かしら……でも、いいのよ、気にしなくて。優しい総たん……あなたの好きなようにして」

 その言葉に、血を見て怯んだ俺の心は再び情欲で滾った。

 腰を引き、そしてまた押し込む。その度にペニスから全身へと快感の電流が駆け巡る。

 如月があげる声が痛みからなのか快感からなのかも分からないが、そこに艶やかさを感じた。

 俺は自分のペースでだんだんとピストン運動の速さを増していく。

 掻き混ぜられた愛液がじゅぱじゅぱと、キス音の数倍も大きく卑猥な水音を出していた。激しい運動に揺さぶられ、スチール製の机がギシギシと音を立てる。

 まだ十分にほぐれたとは言えない陸上部員の引き締まった処女マンコを、俺は引っ掻き回すように出し入れする。鍛えた体が今は俺の肉棒から精子を搾り取ることだけに使われていると思うと、限界だ。

「あっ、あっ……もう、そんな……ああぁ、ダメ、イク……」

 キュッと如月の膣が引き締まるのと、俺が射精感を我慢出来なくなったのはほぼ同時だった。

「やぁ、あっ、ああぁぁああん!!」

 教室内に響く嬌声と共に、如月の膣は俺の肉棒から精液を搾り上げた。大量の熱い奔流が、竿の中から外へ一斉に吐き出されていく。精液以外に精気まで抜かれていくような感覚だった。

 ドロドロしたもので膣の中が満たされていく感覚を、きっと如月は感じているのだろう。

 机の上で仰向けになっている如月が、顔だけで俺を見上げた。

「はぁ……はぁ……もう、いきなり激しいじゃない……」

「悪い……でも、次はそっちにも合わせるよ」

「え、次って……」

 竿を膣内から抜く時、ヒダに擦れる感触だけでまた勃起してしまう。とても一回じゃ満足出来ない。

「この教室、何時までとってある?」

「……最終下校時間までだけれど」

 俺はチラッと壁に掛けてあった時計を見やり、「あと三回はいけるよ」と言って再び口づけを交わした。 

「えっ……ふ……んっ、んあ……」

 今度はこちらが如月の口内に舌を差し入れる番だ。

 すでに疲れ切っていた如月は抵抗出来ず、言葉にならない声をあげて、ただこちらの舌を受け入れるだけだった。上から覆いかぶさるように如月に口づけしながら、指先で小さな乳首をこりこりと弄る。

 キスしたままではラインは見えないが、そろそろコツも分かってきた。傷つけないように気をつけながらも、時折きゅうっと指の腹で乳首の先を潰してやる。

「やぁっ、あっ、らめ、それ弱いから……」

 その反応に俺は満足して、如月を机から降ろした。ふらふらの如月は膝から崩れそうになり、慌てて腕を支え、ゆっくりとタイルカーペットの床に膝をつかせた。

「ご、ごめんなさい」

「気にするな……そのまま、尻をこっちに向けてくれ」

 如月の腰を掴むと俺の意図が通じたのか、少し恥らいながらも床に手をついて、膝立ちの下半身を突き出す、いわゆる『女豹のポーズ』になる。床がカーペット地だから痛くはないだろう。

 短く「脱がすぞ」とだけ言って、俺は如月の突き上げた尻からスカートをはぎ取った。再び、濡れに濡れた如月のヴァギナが俺の前に差し出された。

 顔を伏せている如月がどんな表情をしているか分からないが、文句一つ言わないところを見るに、『恋人』が望むならこれぐらいは平気なのだろう。

 差し出された如月の腰に、膝立ちの格好で竿を握って自分の腰を突き出した。ぐちゅじゅ、と乾く間もなく濡れたままの亀頭が、再び熱い挿入感を覚えた。

「あっ! これ、ふか……深い……んんぅ!」

 確かにさっきまでと違い、如月の奥の奥まで肉棒が呑み込まれていくのを感じる。入れるどころか、如月を貫いてしまっているかのような感覚の中で、ぎこちないが、腰を前後に動かし始める。

 さっきよりも深く、奥までピストン出来るのが分かる。深くなればなるほど、如月の膣内は俺の肉棒を離すまいと、きゅうきゅうと締め上げてきた。

 二度目の限界は、すぐだった。

「だ、出すぞ……!」

「また、くる……のね……ん、んんんっ!!」

 射精中の敏感なカリはヒダヒダのしごきに堪えきれず、先ほど注いだ精液へさらに新しい情欲の塊を混ぜ合わせた。今度はもっと、膣内の奥の奥、子宮により近い所で。

「はぁ……はぁ……」

 流石に連続で搾られた俺は、竿を抜くとそのまま腰を下ろした。頭がぐらぐらして思考がおぼつかない。ただ気持ち良いという感覚だけが体の中で血流のように駆け回る。

「まだよ」

 息も絶え絶えに汗でじわりと肌を濡らしていた如月が四つん這いで俺に近寄ってくる。手を後ろについて足を投げ出したままの俺は、ただそれを見守っていた。そして俺の伸ばした足に跨るように移動した如月は、愛液と精液でどろどろの竿を躊躇なく握ると、ぐちゃぐちゃと音を立ててしごき始めた

「あと二回、するんでしょう」

 ぬるぬるになった如月の指先が絞り上げる圧迫感に我慢出来ず、竿はすぐに完全な形になる。

 如月はその固くなったモノを手で確認すると、ゆっくりとヴァギナを亀頭へと導き挿入を果たした。

 足をM字に開いた如月は手を俺の腹について、恥も外聞もない格好で腰を前後させ始めた。

「こん、どは……んんっ、私が動いて……あげるわ」

 その言葉通り、如月は性器を俺の竿に擦り合せてきた。お互いの陰毛がベタベタに濡れ、絡み合っている。

 自分でペースを調整出来ないせいで、さっきよりも何倍も大きい快感の波が俺の腰を襲う。

 しかし如月も消耗しているのか、たまに動きを止めて発情期の猫のように荒い息を吐き出していた。

 先を促すように俺が如月の乳首を弄ると、膣がきゅっと締まった。快感で顔を歪ませた顔で、如月はまた腰を前後に振り始める。しばらくすると俺の玉袋が引き締まり、射精の準備をしているのが分かった。

 三度目の射精と、『四回戦目』が始まるのはそう遠くないことだった。


 視聴覚室に響く女の艶めかしい声と、腰を打ちつける音。

 すでに三回も射精していたが、漲る情欲は衰えを未だ見せず、「あと三回はいける」なんて冗談半分な言葉は現実のものとなりそうであった。

 机の上にぐったりと上半身を預けている如月を俺は後ろから、動物の交尾のように腰を打ちつけていた。

「ん、総たん、すごいっ……ぅ、じゃない……総たんのモノが、奥の……くぅ……奥まで、深く……んん!」

 如月明衣はマラソンの最中のように息を乱し、こちらに振り返りもせずなんとか言葉を紡いでいた。

 俺は四回戦目になっても初めてのセックスの快感に溺れ、抑えきれず自分勝手に激しく動いていた。

 いつの間にか全裸となっていた彼女の白い背中を見ながら、肉棒を奥の方まで味わわせている。始めは壁に手をついた状態だった如月だが、一時間以上も続くこの性行為で疲労がピークに達したのか、机に寄り掛かるとそのまま動けなくなり、ただ俺のピストンで喘ぎながら腰を揺らすだけとなっていた。

 陸上部で鍛えられた体といえど、使い慣れない部位を酷使するのは相当体力を使うようだ。

 その弱々しくなった彼女の体に、俺は無遠慮に「射精をさせろ」と言わんばかりに肉棒を突き続ける。

「ダメっ……総たん、イクっ! ……また、イっちゃう……」

「ああ……これで、四回目……だ、くぅっ!」

 彼女の細い腰を掴んで、膣の中を掻き回す。三回分の精液が溢れ返り、彼女の足を伝っていた。

 どろどろの熱い肉壺の中で今まで以上に深く、そして奥の奥へと彼女の膣壁を肉棒で押し広げていく。

 性器を襲う絞り上げるような圧迫感に、俺は生命力を根こそぎ奪われそうな感覚に陥る。

 自分がペースを握っているはずなのに、逆に相手から「早く出して」と責め立てられているかのように、射精感が限界まで高まり、そして。

「んんんっ! ああぁぁっ!」

 もはやどちらの声かも分からぬ快楽の咆哮をあげ、俺はようやく抱えていた情欲すべてを吐き出した。

続きは書籍でお楽しみください!